説明

自動水洗式トイレにおける便器清掃方法および便器清掃作業用器具

【課題】自動水洗式トイレにおける便器の清掃中に洗浄水が不用意に流れてしまうことを防止する。
【解決手段】吸盤5の中心部に突設された摘み部52に対して薄板状のセンサカバー6を変位可能に連結した器具4を用い、センサ部Sを備える自動水洗式トイレの便器1を清掃する方法である。便器1を清掃する前に、センサ部Sの近傍に器具4の吸盤5を吸着させてセンサカバー6でセンサ部Sを覆う。そして、その状態で便器1をバフ、ブラシ、若しくはその他の清掃用具を用いて磨いた後、センサカバーSをセンサ部Sによる検出位置から退かして便器1内に洗浄水を供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動水洗式トイレにおける便器の清掃技術に係わり、特に便器の清掃中に洗浄水が不用意に流れてしまうことを防止することのできる便器清掃方法および便器清掃作業用器具に関する。
【背景技術】
【0002】
陶磁器などからなる大便器や小便器の表面には、長期の使用によって黒ずみの原因である水垢、あるいは悪臭の原因となる尿石が付着する。
【0003】
水垢は水道水などに含まれるシリカ質であり、付着直後では比較的容易に除去できるものの、放置された場合には、便器表面のガラス質と同化して容易に除去することができなくなる。
【0004】
一方、尿石は尿に含まれるタンパク質が細菌により分解されることで発生する難溶性化合物であり、便器やその周辺の床あるいは壁に付着すると石化して容易に除去することができず、配水管を詰まらせる原因ともなり、更には多孔質であるから細菌の繁殖を促して汚れが蓄積しやすい悪環境を招くという問題がある。
【0005】
そこで、従来から電動式回転ブラシなどを用いて便器を定期的に清掃することが行われている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実開昭61−21394号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、用便後に便器内への洗浄水の供給が自動的に行われる自動水洗式トイレでは、便器の清掃作業中、自動水洗装置を構成するセンサ部により清掃作業者が検出されたり検出されなくなったりすることが不規則に繰り返されることに起因し、清掃中の便器内に洗浄水が不用意に供給されてしまうという不都合があった。
【0008】
ここに、清掃中の便器内に洗浄水が不用意に供給されると、洗浄水の無駄使いとなって節水効果が低下してしまうのみならず、清掃用洗剤や研磨剤が清掃途中に洗い流されてしまい、結果的に便器に付着した汚れを良好に除去できなくなる。
【0009】
本発明は以上のような事情に鑑みて成されたものであり、その目的は自動水洗式トイレにおける便器の清掃中に洗浄水が不用意に流れてしまうことを防止することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は上記目的を達成するため、
便器又はその近傍に配置された非接触型のセンサ部で検出された物体が前記センサ部による検出位置から退くことにより、前記便器内に洗浄水の供給が行われる自動水洗式トイレにおいて、
吸盤の中心部に突設された摘み部に対して薄板状のセンサカバーを変位可能に連結した器具を用い、
前記便器を清掃する前に、前記センサ部の近傍に前記器具の吸盤を吸着させて前記センサカバーで前記センサ部を覆い、その状態で前記便器をバフ、ブラシ、若しくはその他の清掃用具を用いて磨いた後、
前記センサカバーを前記センサ部による検出位置から退かして前記便器内に洗浄水を供給することを特徴とする自動水洗式トイレにおける便器清掃方法を提供する。
【0011】
又、便器又はその近傍に配置された非接触型のセンサ部で検出された物体が前記センサ部による検出位置から退くことにより、前記便器内に洗浄水の供給が行われる自動水洗式トイレにおける便器清掃作業に用いる器具であり、
中心部に摘み部が突設された吸盤と、前記センサ部を覆うための薄板状のセンサカバーとを有し、
前記センサカバーは、前記吸盤の摘み部に連結され、前記センサ部の近傍に吸着された前記吸盤を中心として、前記センサ部を覆う検出位置から前記センサ部により検出されない非検出位置に移動可能とされていることを特徴とする自動水洗式トイレにおける便器清掃作業用器具を提供する。
【0012】
又、上記の自動水洗式トイレにおける便器清掃作業用器具において、前記センサカバーは、所定の長さを有するフレキシブル接続部材を介して前記吸盤の摘み部に連結されていることを特徴とする。
【0013】
加えて、前記フレキシブル接続部材は、線径0.5〜2mmの金属線、革バンド、金属チェーン、又は樹脂紐を有してなることを特徴とする。
【0014】
更に、前記センサカバーが不透明な板材からなること、ならびに前記センサカバーは、10〜100グラムの重量を有していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の方法によれば、便器の清掃中に洗浄水が不用意に供給されてしまうことを防止することが可能となる。このため、節水効果が上がるだけでなく、洗剤や研磨剤が清掃途中に流されないので便器清掃を効率良く良好に行うことができる。
【0016】
又、本発明の方法に用いられる器具は、センサ部近傍の平坦面に対して吸盤を吸着させるだけで容易に設置でき、使用中に脱落してしまうこともなく、使用後には容易に取り外すことができる。
【0017】
加えて、吸盤の摘み部に対してセンサカバーが変位可能に連結されていることから、吸盤をセンサ部近傍に吸着させた状態のまま、センサカバーをセンサ部による検出位置から非検出位置に退かして便器内への洗浄水の供給を清掃作業者の意のままにできる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】自動水洗式トイレの構成を示す説明図
【図2】本発明に係る便器清掃作業用器具の実施形態を示す斜視図
【図3】図2に示した器具の使用態様を示す説明図
【図4】図2に示した器具の装着例を示す部分拡大図
【図5】図2に示した器具の他の装着例を示す部分拡大図
【図6】本発明に係る便器清掃作業用器具の変更例を示す使用説明図
【図7】図2に示した器具の使用説明図
【図8】センサ部が組み込まれた便器を示す正面概略図
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面に基づいて本発明を詳しく説明する。先ず、図1に自動水洗式トイレの構成例を示す。図1において、1は清掃対象となる便器(小便器)であり、この便器1は背面をトイレの壁面Wに押し当てて設置されている。
【0020】
便器1の底部には排水口11が形成され、その排水口11に排水管2の一端が接続されている。一方、便器1の上部には吐水口12が形成され、その吐水口12に給水管3の一端が接続されている。給水管3には給水弁Vが介在されており、その開放により便器1内に洗浄水が供給され、その洗浄水が便器1の内表面に沿って流下するようになっている。
【0021】
Cは給水弁Vを開閉する制御部、Eは制御部5に電力供給を行う電源部、Sは制御部Cに導電接続する非接触型のセンサ部であり、このセンサ部Sは図示例において便器1の上方における壁面W内に固設されている。そして、そのセンサ部Sによる物体検出に基づき、給水弁Vが所定のタイミングで一定時間開放する構成とされている。
【0022】
例えば、センサ部Sは便器1の前に立つ便器使用者(用便者)を検出可能な回帰反射形の光電センサからなり、これにより用便者が検出された後、用便者が立ち去ってセンサ部Sによる用便者の検出が行われなくなると、センサ部Sから制御部Cへの信号入力が変化(低下)することにより、制御部Cが用便完了と判断して給水弁Vを一定時間開放することとなる。
【0023】
したがって、以上のような自動水洗式トイレによれば、回転ブラシなどの清掃用具を用いて便器1の清掃を行うときでも、センサ部Sにより清掃作業者が検出されたり検出されなくなったりすることが不規則に繰り返されることにより、給水弁Vが繰り返し開閉して便器1内に洗浄水が不用意に供給されることになる。
【0024】
そこで、本発明は便器1の清掃中、その内部に洗浄水が不用意に供給されることを防止するため、図2に示すような器具4を用い、これによりセンサ部Sを図3のように遮蔽する。
【0025】
図2から明らかなように、係る器具4は、吸盤5と薄板状のセンサカバー6とを備えてなる。吸盤5は、円弧状の断面を有する吸盤本体51と、その凸面側中心部に突設された摘み部52とを有し、摘み部52とは反対の吸盤本体51の凹面側が任意の平坦面に対して吸着可能な吸着面とされているものである。尚、吸盤本体51の周縁部には図示せぬ突片があり、その突片を引っ張ることにより吸盤5を吸着面から容易に離間させ得るようになっている。
【0026】
又、図示例において、摘み部52は、吸盤本体51と一体成形された凸部52aと、この凸部52aに装着したリング52bからなる。凸部52aには、これを貫通する貫通孔52cが穿設されており、その貫通孔52cにリング52bが装着されている。
【0027】
リング52bは金属製であり、これにフレキシブル接続部材7を介してセンサカバー6が変位可能に連結されている。フレキシブル接続部材7は、可撓性を有していればよく、図2ではこれに革バンドを用いた例を示しているが、そのほか係るフレキシブル接続部材7として、線径0.5〜2mmの金属線(針金)、金属チェーン、又は樹脂紐を好適に用いることができる。
【0028】
一方、センサカバー6は、吸盤5を中心として上下左右に90度以上遊動(移動)することが可能とされている。係るセンサカバー6は、センサ部Sを覆って当該センサ部Sで検出される大きさを有していればよく、本例ではこれに縦90mm、幅70mm、厚さ1mmの不透明な合成樹脂板が用いられている。特に、センサカバー6は透明でないことが好ましい。これは、自動水洗式トイレを構成するセンサ部Sとして、一般に透明体を検出することのできないものが用いられることによる。又、係るセンサ部Sは、基本的に非磁性体である人体すなわち便器1を使用する用便者を検出することに用いられるものであるから、これにより検出されるセンサカバー6は磁性体でも非磁性体でもよい。但し、便器1の清掃中に回転ブラシなどの使用により発生する風の影響でセンサカバー6がセンサ部Sにより検出されない非検出位置に不用意に移動してしまうことがないよう、センサカバー6は樹脂フィルムのような軽量な柔軟物でなく、10〜100グラムの重量を有した硬質物であることが好ましい。
【0029】
加えて、図2のように、センサカバー6には、例えば「止水中」なる注意事項を記すことが好ましい。尚、その他、注意事項として、「清掃中」、あるいは「使用禁止」等を記しても良い。これによれば、例えば、清掃作業者が便器1の表面に洗剤を付けて現場を離れている間に当該便器1が使用され、洗剤等が尿によって流されてしまうことを防止することができる。
【0030】
次に、以上のような器具4を用いた便器清掃の方法について説明すると、図3および図4に示すように、便器1を清掃する前に、先ずセンサ部Sの上方において、センサ部Sの近傍に位置する平坦面(壁面W)に吸盤5を吸着させ、その吸盤5に連結するセンサカバー6によってセンサ部Sを覆う。
【0031】
尚、図5のように、センサ部Sの真上が水平面Lとされている場合には、その水平面Lに吸盤5を吸着させる。ここに、センサ部Sの真上に吸盤5を吸着させ得る平坦面がない場合でも、フレキシブル接続部材7が線径0.5〜2mmの金属線であれば、図6のようにセンサ部Sの横に位置する平坦面(壁面W)に吸盤5を吸着させながら、センサカバー6をセンサ部Sによる検出位置(センサ部Sをその前方から覆う位置)に保持することができる。
【0032】
しかして、センサ部Sをセンサカバー6で覆った状態を維持したまま、回転駆動軸にバフやブラシが装着された図示せぬ電動清掃用具、あるいは柄付ブラシなどの手動清掃用具を用いて(好ましくは専用の洗剤や研磨剤を併用して)便器1を磨く。この際、センサ部Sはこれを覆うセンサカバー6を検出しているので、屈んだり立ち上がったりする清掃作業者がセンサ部Sで検出されたり検出されなくなったりすることがなく、このため便器1内への洗浄水の供給は行われない。これにより、洗浄水を無駄使いせず、しかも洗浄水で洗剤が洗い流されることを防止しながら清掃作業を円滑かつ良好に行うことができる。
【0033】
そして、便器1を磨き終えた後、センサカバー6を指先で押し上げ、あるいは押し下げて、そのセンサカバー6をセンサ部Sによる検出位置(図4〜図7における実線の位置)からセンサ部Sで検出されない非検出位置(図4〜図7における一点鎖線の位置)に退かすのであり、これにより図1に示した制御部Cにより給水弁Vが一定時間開放されて便器1内へ定量の洗浄水が供給されることになる。
【0034】
尚、便器1内に洗浄水が供給された後、当該便器1の表面において磨き残しを発見したら、センサカバー6をセンサ部Sによる検出位置に戻し、磨き残した部分を磨き、磨き残しがなくなるまで以上のような作業を繰り返し(通常、2回繰り返すだけで十分)、便器の汚れが完全になくなった段階で器具4を取り外して一連の便器清掃作業を完了する。
【0035】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明において、対象とする便器は小便器に限らず、大便器にも適用でき、しかも洋式であるか和式であるかは関係なく、要はセンサ部Sによる物体検出に基づいて洗浄水が自動的に供給される自動水洗式であればよい。又、図8のようにセンサ部Sが一体に組み込まれた便器10にも適用することができる。
【符号の説明】
【0036】
1,10 便器
S センサ部
4 便器清掃作業用器具
5 吸盤
51 吸盤本体
52 摘み部
6 センサカバー
7 フレキシブル接続部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
便器又はその近傍に配置された非接触型のセンサ部で検出された物体が前記センサ部による検出位置から退くことにより、前記便器内に洗浄水の供給が行われる自動水洗式トイレにおいて、
吸盤の中心部に突設された摘み部に対して薄板状のセンサカバーを変位可能に連結した器具を用い、
前記便器を清掃する前に、前記センサ部の近傍に前記器具の吸盤を吸着させて前記センサカバーで前記センサ部を覆い、その状態で前記便器をバフ、ブラシ、若しくはその他の清掃用具を用いて磨いた後、
前記センサカバーを前記センサ部による検出位置から退かして前記便器内に洗浄水を供給することを特徴とする自動水洗式トイレにおける便器清掃方法。
【請求項2】
便器又はその近傍に配置された非接触型のセンサ部で検出された物体が前記センサ部による検出位置から退くことにより、前記便器内に洗浄水の供給が行われる自動水洗式トイレにおける便器清掃作業に用いる器具であり、
中心部に摘み部が突設された吸盤と、前記センサ部を覆うための薄板状のセンサカバーとを有し、
前記センサカバーは、前記吸盤の摘み部に連結され、前記センサ部の近傍に吸着された前記吸盤を中心として、前記センサ部を覆う検出位置から前記センサ部により検出されない非検出位置に移動可能とされていることを特徴とする自動水洗式トイレにおける便器清掃作業用器具。
【請求項3】
前記センサカバーは、所定の長さを有するフレキシブル接続部材を介して前記吸盤の摘み部に連結されていることを特徴とする請求項2記載の自動水洗式トイレにおける便器清掃用器具。
【請求項4】
前記フレキシブル接続部材は、線径0.5〜2mmの金属線、革バンド、金属チェーン、又は樹脂紐を有してなることを特徴とする請求項3記載の自動水洗式トイレにおける便器清掃作業用器具。
【請求項5】
前記センサカバーが不透明な板材からなることを特徴とする請求項2〜4のいずれか1項に記載の自動水洗式トイレにおける便器清掃用器具。
【請求項6】
前記センサカバーは、10〜100グラムの重量を有していることを特徴とする請求項2〜5のいずれか1項に記載の自動水洗式トイレにおける便器清掃用器具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−130625(P2012−130625A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−287529(P2010−287529)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(304040278)
【Fターム(参考)】