説明

自動滴定装置

【課題】 被検液に最適なセンサを用いて当量点を求めることができるとともに、同一の被検液に対して、異なる物理量又は化学量に基づく滴定データの対応関係を容易に把握することができる自動滴定装置を提供する。
【解決手段】 本発明の自動滴定装置は、それぞれ異なる物理量又は化学量を検出することにより被検液Sの滴定状態を検出する複数の検出手段24、各検出手段24から出力された出力値の変化率を演算する演算手段54、当該各変化率あるいはユーザの指定に基づいて複数の検出手段24から1の検出手段を選択する選択手段55、選択された検出手段の出力値の変化率に基づいて、滴定試薬の次の滴定量を決定する滴定量決定手段56、及び当該滴定量に基づいて滴定試薬を被検液に滴下する滴定制御手段51を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動滴定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、種々の試料を分析するために、滴定セルに配置された試料に滴定試薬を滴下して当量点を求める滴定装置が使用されている。このような滴定装置では、被検液の滴定状態を検出するため、被検液の中にセンサが挿入され、当該センサから出力される電気信号により滴定状態が把握される。
【0003】
この種の滴定装置では、中和滴定(酸化還元滴定)、分極滴定、光度滴定、導電度滴定等、様々な種類の滴定を行うために、上記センサとして、複合ガラス電極、光度センサ、あるいは、導電率センサ等の幾つかのセンサが用意され、滴定の目的、あるいは、被検液の種類や濃度に応じて適切なものが選択されて使用される(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
また、上記滴定装置において実行される滴定は、例えば、当量点の数を設定しておいて設定した数の当量点を見つけた時点で滴定を停止する自動終点停止滴定、あるいは、センサから出力される電気信号に対して閾値を設定し、センサから出力された電気信号が当該閾値に到達した時点で滴定を停止する終点電位設定滴定、更に予め設定しておいた滴定量になるまで滴定を続ける全量滴定等の終了条件が満たされるまで実行される。
【0005】
近年、上記各種のセンサと、各種の滴定終了条件とを任意に組み合わせた滴定を自動的に行う自動滴定装置が開発され使用されている。
【0006】
図7は従来の自動滴定装置の概要を示すものである。例えば、図7に例示する自動滴定装置100では、本体1にビュレットユニット2が接続される。当該ビュレットユニット2は、例えば滴定ノズル21、該滴定ノズル21に滴定試薬を供給するビュレット駆動部22、被検液Sが収容される滴定セル23及び被検液Sの滴定状態を検出する1のセンサ24よりなり、このセンサ24から出力される電気信号は本体1内に設けられたアンプ3で増幅され、A/D変換器4でディジタル信号に変換されてから、マイクロコンピュータやメモリ等で構成される制御部5に入力される。
【0007】
上記制御部5は、滴定制御手段51、データ管理手段52、演算手段53から構成されている。滴定制御手段51は、操作部6を介して予め指定された滴定終了条件(自動終点停止滴定、終点電位設定滴定)に対応するプログラムに基づいてビュレット駆動部22を作動させる。また、滴定時の条件(センサ24の種類、初期滴定量、滴定終了条件ごとの各種設定値、アンプのゲイン、表示単位(mV,pH等)等)を設定するパラメータは、操作部6を介して制御部5、アンプ3、及び、表示手段8に入力されるようになっている。
【0008】
上述のように、センサ24よりの出力信号がディジタル化され、当該ディジタル化された値(以下、単に出力値という)が制御部5のデータ管理手段52に入力されると、データ管理手段52は該出力値を記憶手段7に格納するとともに演算手段53に出力する。このとき、演算手段53は該出力値に基づいて次の滴定量を決定して滴定制御手段51に出力する。滴定制御手段51は当該滴定量に応じて、ビュレット駆動部22を作動させるとともに、演算手段53は当量点検出のための演算を行う。なお、データ管理手段52は必要に応じて、上記出力値を本体1が備える表示手段8に表示させるようになっている。
【特許文献1】特開平05−256843号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、上述のような自動滴定装置により、種々のセンサを用いた滴定を自動的に行うことが可能となったが、このような自動滴定装置を使用していないユーザには、その測定の簡便さから上記光学滴定(被検液に混入した指示薬の呈色により当量点を求める滴定)が広く使用されている。
【0010】
この光学滴定を使用していたユーザが、上記自動滴定装置を導入し、例えば電位差滴定(pHセンサ等、目的のイオン濃度を電極間の電位差として出力するセンサにより、当量点を求める滴定)等の他の物理量又は化学量を検出する滴定を使用する場合、従来使用していた光学滴定の当量点と、新たに使用する電位差滴定の当量点とが同一であるか否かを確認することが、測定のトレーサビリティの観点から重要視される。このような確認は、測定ばらつき等の統計データを取得して行う必要があるため、一度だけの確認でなく、所定期間継続して、あるいは、定期的に確認できることが好ましい。
【0011】
しかしながら、このような異なる物理量又は化学量に基づいて当量点を求める滴定間のデータの比較を行うことは、各滴定の動作(滴定試薬の滴定量、被検液の攪拌など)が同一でなければならず、非常に手間のかかる作業となる。
【0012】
例えば、光学滴定用のセンサを装着した自動滴定装置により取得した滴定データ(滴定曲線)と、電位差滴定用のセンサを装着した自動滴定装置により取得した滴定データでは、各センサの出力値が同一ではないため、センサからの出力値に応じて変動する滴定試薬の滴定量は同一にならず、単純な比較を行うことができない。
【0013】
また、滴定試薬の滴定量を等速とすれば、滴定試薬の滴定量が同一の滴定データを取得することが可能となるが、当該確認のために膨大な時間を要することになる。自動滴定装置を2台使用することで時間の短縮は可能であるが、コスト高となるため好ましくない。
【0014】
また、上記従来の自動滴定装置では、特定のセンサの出力に基づいて滴定量を制御するとともに、同じセンサの出力で当量点等の必要なポイントを検出するようになっている。
【0015】
しかしながら、滴定量の制御に適した滴定曲線が得られるセンサと、当量点を求めるのに適した滴定曲線が得られるセンサは異なっているため、上記従来の方式を用いると最適な制御の下での最適な滴定曲線(当量点等必要なポイントが見つけやすい滴定曲線)が得られるとは限らなかった。
【0016】
図8は電位差滴定(pHセンサ)の場合の滴定曲線と光度滴定(光学センサ)の場合の滴定曲線を示すものである。
【0017】
図8(a)に示すように、電位差滴定では、当量点付近で大きくpHが変化するため、それに対応して滴定量を小さくする制御を行うことができるが、当量点自体は決定しにくい滴定曲線が得られることになる。
【0018】
逆に光度滴定では、当量点付近の滴定曲線の変化が小さいため、光度センサの出力に基づいて滴定量の制御を行うと、当量点の直前でも滴定量は小さくならい。そのため、滴定曲線は図8(b)の破線に示すように当量点を越えた位置で急激に変化することになり(過滴定)、精度の高い測定はできない。一方、適正な滴定曲線が得られた場合は、図8(b)の実線に示すように、呈色前の直線と、呈色後の直線の交点を当量点とすればよいのであるから比較的正確に当量点を求めることができる。
【0019】
本発明は、上記従来の事情に基づいて提案されたものであって、被検液に最適なセンサを用いて当量点を求めることができるとともに、同一の被検液に対して、異なる物理量又は化学量に基づく滴定データの対応関係を容易に把握することができる自動滴定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は、上記目的を達成するために以下の手段を採用している。まず、本発明は、被検液に滴定試薬を滴定し、被検液の当量点を求める自動滴定装置を前提としている。そして、本発明に係る自動滴定装置は、それぞれ異なる物理量又は化学量を検出することにより上記被検液の滴定状態を検出する複数の検出手段が設けられる。
【0021】
また、上記自動滴定装置は、演算手段、選択手段、滴定量決定手段、及び滴定制御手段を備える。すなわち、演算手段は、検出手段から出力された出力値の変化率を演算し、当該各変化率に基づいて、選択手段が複数の検出手段から1の検出手段を選択する。そして、滴定量決定手段が上記選択された検出手段の出力値の変化率に基づいて、滴定試薬の次の滴定量を決定し、滴定制御手段が当該滴定量に基づいて滴定試薬を被検液に滴下する。
【0022】
上記構成によれば、選択手段が複数の検出手段から、被検液の滴定状態の変化を最も良く捉えている検出手段を自動的に選択し、当該検出手段の出力値の変化率に基づいて、滴定試薬の次の滴定量を決定することができる。このため、滴定量の決定に適した検出手段の出力値に基づいて滴定を行い、当量点を求めるに適した検出手段の出力値に基づいて当量点を求めることも可能となる。
【0023】
上記複数の検出手段としては、例えば、被検液のpH値を検出する第1の検出手段と、被検液の光透過率を検出する第2の検出手段とを採用することができる。これにより、同一被検液に対して、被検液のpH値により示される滴定曲線と、被検液に混入した指示薬の呈色により示される滴定曲線とを単一の滴定で取得することができる。また、両滴定曲線において、滴定試薬の滴定量(あるいは、滴定開始からの経過時間)は、完全に一致しているため、両滴定曲線の比較を容易に行うことができる。なお、異なる物理量又は化学量に基づいて取得した滴定曲線の比較を行うという観点では、上記選択手段は、上述のように各変化率に基づいて検出手段の選択を行う構成に限らず、予め指定された検出手段を選択する構成にしてもよい。
【0024】
また、自動滴定装置は、複数の検出手段の各検出値を1画面上にリアルタイムで表示する表示手段を備える構成とすれば、各検出手段により検出された被検液の滴定状態の比較をより容易に行うことも可能となる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、同一被検液中に配置された複数の検出手段の各出力値に基づいて、当該被検液の滴定状態を検出するに最適なセンサを自動的に選択することができる。このため、未知の被検液に対しても従来に比べ、短時間で当量点を求めることが可能となる。
【0026】
また、滴定量の決定に適した検出手段の出力値に基づいて滴定量の制御を行い、当量点を求めるに適した検出手段の出力値に基づいて当量点を求めることも可能となる。
【0027】
さらに、本発明によれば、同一被検液の滴定状態を異なる物理量又は化学量に基づいて検出しているため、従来困難であった異種のセンサで検出された滴定曲線の比較を容易に行えるという効果も得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態を図面にしたがって詳細に説明する。図1は、本発明に係る自動滴定装置10の構成を示す概略図であり、図2は、自動滴定装置10が行う処理を示すフロー図である。なお、図1において、従来の自動滴定装置100と同様の作用をする部位には同一の符号を付している。
【0029】
図1に示すように、本発明にかかる自動滴定装置10は、従来の自動滴定装置100と同様に、本体1にビュレットユニット2が接続されている。当該ビュレットユニット2は、滴定ノズル21、ビュレット駆動部22、滴定セル23、及び滴定セル23内の被検液Sの滴定状態を検出する複数の検出手段24(24a、24b)を備える。
【0030】
上記検出手段24は、それぞれ被検液Sの滴定状態を異なる物理量又は化学量に基づいて検出するセンサであればよく、その種類や数が限定されるものではない。例えば、被検液S中の特定イオンの濃度(例えば、水素イオン濃度)を電極間の電位差として出力する複合ガラス電極、被検液に混入された指示薬による呈色を被検液の透光率の変化として検出するための光学センサ、被検液中のイオン濃度を導電率として検出するための導電率センサ、被検液の酸化還元電位を電極間の電位差として出力するORP(Oxidation Reduction Potential)センサ等、従来から使用されていたセンサの中から、2種以上のセンサを目的に応じて採用することが可能である。なお、複数の検出手段24の1つは、当量点のpH値を確認取得するための複合ガラス電極からなるpHセンサであることが好ましい。図1では、検出手段24として、複合ガラス電極からなるpHセンサ24aと光学センサ24bとを備えた構成を示している。
【0031】
また、本体1には、各検出手段24a、24bから出力された電気信号をセンサ種に応じてそれぞれ増幅する複数のアンプ3(3a、3b)が設けられている。当該アンプ3の出力は、A/D変換器4でディジタル信号に変換された後、制御部5に入力される。
【0032】
本発明の自動滴定装置10の制御部5は、上記各出力値の変化率を演算する演算手段74と、当該各出力値の変化率に基づいて複数の検出手段24の中から1の検出手段24を選択する選択手段55とを備える点で、上記従来の自動滴定装置の制御部5と異なっている。
【0033】
さて、上記構成において、ユーザは、まず、検出手段24としてどの種のセンサを使用するのか、及び、どの滴定終了条件により滴定を行うのかを操作部6から指定するとともに、初期滴定量や滴定終了条件を規定するパラメータ等を入力する。
【0034】
図1に示す例では、検出手段24として複合ガラス電極と光学センサとが指定され、また、滴定終了条件として全量滴定が選択されるものとする(図2 S1)。なお、被検液Sには、当量点で呈色する指示薬が混入されているものとする。
【0035】
各種パラメータの入力が完了した後、ユーザが本体1に設けられた滴定開始ボタンを押すことで滴定が開始される。このとき、各検出手段24の初期出力信号が取得されるとともに、滴定制御手段51が上記初期滴定量を滴定量として滴定を開始する(図2 S2→S3)。
【0036】
上記滴定量の滴定試薬の吐出が完了すると、各検出手段24の出力信号が、アンプ3及びA/D変換器を経てデータ管理手段52に入力される。このとき、データ管理手段52は、各検出手段24に対応するアンプ3の出力値を滴定制御手段51から取得した滴定試薬の滴定量及び検出手段24の種類を識別する識別コードとともに記憶手段7に格納するとともに、上記出力値を表示手段8に表示させる(図2 S4)。
【0037】
また、データ管理手段52は、上記出力値の格納と平行して(あるいは、前後して)、記憶手段7に格納したデータと同一のデータを演算手段54に入力する。演算手段54は、各検出手段24の直前の出力値を保持する構成になっており、当該直前の出力値と、入力された各検出手段24の最新の出力値と、及び滴定試薬の滴定量とに基づいて各出力値の変化率を演算する(図2 S5)。なお、各検出手段24の初期出力値の取得時には、上記演算を実行しないことはいうまでもない。また、本実施の形態では、演算手段54の演算結果もデータ管理手段52を介して記憶手段7に格納する構成にしている。
【0038】
演算手段54は、各出力値の変化率の演算が完了すると、演算結果を選択手段55に入力する。選択手段55には、検出手段24の種類ごとに変化率の閾値が予め設定されており、当該閾値にアンプ3のゲインが勘案された上で、演算手段54から入力された各変化率の値の評価が行われる。例えば、pHセンサや光学センサのように当量点付近で変化率の絶対値が増大する検出手段24に対しては、変化率の絶対値が上記閾値を超えているかが判定される。また、導電率センサのように、当量点付近で変化率の絶対値が減少する検出手段24に対しては、変化率の絶対値が上記閾値より小さいかが判定される(図2 S6)。
【0039】
選択手段55は、上述の条件を満たす検出手段24が存在した場合、当該検出手段24を選択する(図2 S6Yes→S7)。このとき、上述の条件を満足する検出手段24が複数存在する場合は、例えば、検出手段24を優先順位に従って選択する、あるいは、検出手段24ごとにレベルの異なる複数の閾値を設定し、より高いレベルの条件を満足する検出手段24を選択する等により、1つの検出手段24が選択されるようにする。
【0040】
次に、選択手段55は、当該選択した検出手段24の種類と変化率を滴定量決定手段56に入力する。滴定量決定手段56には、検出手段24の種類ごとに変化率に応じた滴定量が設定されており、選択手段55から入力された変化率に応じて次の滴定量が決定される(図2 S8)。例えば、pHセンサや光学センサのように当量点付近で変化率の絶対値が増大する検出手段24に対しては、変化率の絶対値が大きいほど滴定量が小さく設定され、導電率センサのように、当量点付近で変化率の絶対値が減少する検出手段24に対しては、変化率の絶対値が小さいほど滴定量が小さく設定されている。
【0041】
滴定量決定手段56によって次の滴定量が決定されると、滴定制御手段51は滴定終了条件を確認し、滴定終了条件が満足されていないときのみ決定された滴定量に基づいて次の滴定を行う(図2 S9No)。
【0042】
一方、上記変化率の評価において、上述の条件を満足する検出手段24が存在しない場合、選択手段55はその旨を滴定量決定手段56に通知する。滴定量決定手段56は、滴定量を予め設定された所定量だけ増大させ(あるいは、滴定量を変更することなく)、滴定制御手段51に次の滴定を指示する(図2 S6No→S8)。
【0043】
そして、上述の処理が、滴定終了条件を満足するまで繰り返される(図2 S9Yes)。
【0044】
ここで、上記選択手段55が検出手段24を選択する状況を、具体的な事例を用いて説明する。図3に示す曲線は、図1に示す構成において、被検液Sと滴定試薬にそれぞれ強酸と強塩基を使用した場合に取得される滴定曲線である。図3において、実線で示す曲線AはpHセンサ24aにより取得された滴定曲線(左軸)であり、破線で示す曲線Bは光学センサ24bにより取得された滴定曲線(右軸)である。
【0045】
図3に示すように、pHセンサ24aにより取得された滴定曲線Aは、当量点に近づくにつれて徐々に増加し、当量点付近で急増している。一方、光学センサ24bにより取得された滴定曲線Bは、当量点に近づくまで殆ど変化せず、当量点付近で急激に減少する。
【0046】
この事例において、本発明の自動滴定装置の選択手段55は、pHセンサ24aの変化率の絶対値が予め設定された閾値を越えた時点でpHセンサ24aを選択し、pHセンサ24aの出力値の変化率に基づいて滴定を行うことになる。このため、従来に比べて短時間で、且つ、容易に光学センサ24bによる滴定曲線Bを取得することができる。
【0047】
すなわち、pHセンサ24aの出力値に基づいて決定される滴定量は、当量点に近づくにつれて小さくする制御が行われるため、この滴定量の制御下で光学センサ24bの出力値の基づいて得られる滴定曲線Bも当然に適正な曲線となる。したがって、滴定曲線Aにおいて、変化率が最大となる点から当量点を求めるのではなく、滴定曲線Bにおいて、呈色前の直線と呈色後の直線との交点から当量点を求めることで、比較的容易に当量点を求めることが可能となる。つまり、本発明によれば、滴定量の制御に適した検出手段の出力値に基づいて滴定量の制御を行うとともに、当量点等のポイントを見つけるのに適した検出手段に基づいて当量点を求めることができるのである。
【0048】
なお、当量点を越えた後、選択手段55は、光学センサ24bの出力値の変化率に基づいて滴定を行う状況になることが考えられるが、当量点が検出された後のデータであるので何等問題ない。
【0049】
また、図4に示す曲線は、被検液Sと滴定試薬にそれぞれ弱酸と弱塩基を使用した場合に取得される滴定曲線である。図4において、実線で示す曲線Cは、図1の光学センサに代えて、あるいは、図1の構成に加えて設けた、導電率センサにより取得された滴定曲線(左軸)であり、破線で示す曲線DはpHセンサ24aにより取得された滴定曲線(右軸)である。
【0050】
この事例の場合、導電率センサにより取得された滴定曲線Cは、当量点に近づくにつれて減少し、当量点で極小点となっている。一方、pHセンサ24aにより取得された滴定曲線Dは、当量点に近づくまでほぼ一定に増大し、当量点付近で変化率が微増している。
【0051】
この事例においても、本発明の自動滴定装置10では、選択手段55は、導電率センサの変化率の絶対値が予め設定された閾値を下回った時点で導電率センサを選択し、導電率センサの出力値の変化率に基づいて滴定を行うことになる。すなわち、当量点付近の滴定状態の変化を検出するのに最適なセンサが自動的に選択されるのである。
【0052】
さらに、図5に示す曲線は、被検液Sと滴定試薬にそれぞれ弱塩基と弱酸を使用した場合に取得される滴定曲線である。図5において、実線で示す曲線Eは、図1の光学センサに代えて、あるいは、図1の構成に加えて設けたORPセンサにより取得された滴定曲線(左軸)であり、破線で示す曲線FはpHセンサ24aにより取得された滴定曲線(右軸)である。
【0053】
図5に示すように、ORPセンサにより取得された滴定曲線Eは、当量点に近づくにつれて徐々に減少し、当量点付近で急減している。一方、pHセンサ24aにより取得された滴定曲線Fは、当量点に近づくまでほぼ一定に減少し、当量点付近で変化率の絶対値が微増している。
【0054】
この事例においても、本発明の自動滴定装置10では、選択手段55は、ORPセンサの変化率の絶対値が予め設定された閾値を越えた時点でORPセンサを選択し、ORPセンサの出力値の変化率に基づいて滴定を行うことになる。すなわち、当量点付近の滴定状態の変化を検出するのに最適なセンサが自動的に選択されるのである。
【0055】
以上説明したように、本発明の自動滴定装置10によれば、異なる物理量又は化学量を検出する複数の検出手段24から、滴定状態の変化を検出するのに最適な検出手段を選択することができる。このため、当量点が未知の被検液に対しても、短時間で当量点を求めることが可能となる。
【0056】
ところで、本発明の自動滴定装置は、上述のように表示手段8を備え、表示画面上に異なる物理量又は化学量を検出する複数の検出手段24の出力値を1画面上にリアルタイムで表示するようにしている。図6は、図3に示した事例の滴定を実行中の自動滴定装置における、画面表示の例である。
【0057】
図6に示すように、同一被検液の滴定状態を異なる物理量又は化学量に基づいて検出したデータが表示されるので、従来困難であった異種のセンサで検出された滴定曲線の比較を一見して行うことができる。
【0058】
なお、異なる物理量又は化学量に基づいて取得した滴定曲線の比較を行うという観点では、上記選択手段は、各検出手段からの出力値の変化率に基づくことなく、予めユーザにより指定された検出手段を選択する構成にしてもよい。
【0059】
また、上記で説明した自動滴定装置の構造は具体例を示したものであり、本発明の技術的範囲を限定するものではない。本発明の効果を奏する範囲において任意に設計することが可能である。
【0060】
また、上記説明において、当量点を求める演算について特に言及していないが、上述のようにして取得した滴定データに基づいて、公知の手法により演算を行えばよい。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明は、従来に比べ、短時間で滴定を完了することができるとともに、異種のセンサで検出された同一被検液の滴定データの比較を容易にかつリアルタイムで行うことができ、自動滴定装置として非常に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の自動滴定装置の概略図。
【図2】本発明の滴定のフロー図。
【図3】本発明の滴定の一例を示す図。
【図4】本発明の滴定の一例を示す図。
【図5】本発明の滴定の一例を示す図。
【図6】本発明の画面表示例を示す図。
【図7】従来の自動滴定装置の概略図。
【図8】従来の滴定の一例を示す図。
【符号の説明】
【0063】
1 本体
2 ビュレットユニット
5 制御部
10、100 自動滴定装置
21 滴定ノズル
22 ビュレット駆動部
23 滴定セル
24(24a、24b) 検出手段(センサ)
51 滴定制御手段
52 データ管理手段
53 演算手段
54 演算手段
55 選択手段
56 滴定量決定手段
S 被検液


【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検液に滴定試薬を滴下し、被検液の当量点を求める自動滴定装置において、
前記被検液中に配置され、それぞれ異なる物理量又は化学量を検出することにより当該被検液の滴定状態を検出する複数の検出手段と、
前記検出手段の出力値の変化率を演算する演算手段と、
いずれか1つの前記検出手段からの出力値の変化率に基づいて、前記滴定試薬の次の滴定量を決定する滴定量決定手段と、
前記決定された滴定量に基づいて、前記滴定試薬を前記被検液に滴下する滴定制御手段と、
を備えたことを特徴とする自動滴定装置。
【請求項2】
前記複数の検出手段の各出力値の変化率に基づいて、前記1つの検出手段を選択する選択手段をさらに備えた請求項1に記載の自動滴定装置。
【請求項3】
前記複数の検出手段が、前記被検液のpH値を検出する第1の検出手段と、被検液の光透過率を検出する第2の検出手段である請求項1または2に記載の自動滴定装置。
【請求項4】
前記次の滴定量の決定に用いた検出手段と異なる他の検出手段の出力値に基づいて前記被検液の当量点を求める請求項1から3のいずれかに記載の自動滴定装置。
【請求項5】
前記複数の検出手段の各出力値を1画面上にリアルタイムで表示する表示手段を備えた請求項1から3のいずれかに記載の自動滴定装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−71355(P2006−71355A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−252718(P2004−252718)
【出願日】平成16年8月31日(2004.8.31)
【出願人】(000161932)京都電子工業株式会社 (29)
【Fターム(参考)】