説明

自動滴定装置

【課題】サンプリング異常を的確に検出し、サンプリング異常に起因する滴定液の無駄や滴定値異常の原因究明に要する時間の無駄を回避する。
【解決手段】試料液を含む測定液の滴定が行われる滴定容器と、滴定容器に測定液を導入するサンプリング機構と、滴定容器に滴定液を供給するビュレットと、前記滴定液の供給量に対応して得られる滴定指標値を検出する検出器を備え、
サンプリング機構で滴定容器に導入された測定液のpHを検出すると共に、該検出したpHが設定範囲内の場合にビュレットを動作させ、設定範囲外の場合はビュレットを動作させない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品の酸度、メッキ液の濃度管理、石油の中和価測定などに利用可能な自動滴定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
試料液に滴定液を少量ずつ滴加し、試料液中の測定対象物質と反応させる滴定は、化学成分の濃度を測定するために有効で、汎用性の高い分析方法であり、食品の酸度、メッキ液の濃度管理、石油の中和価測定など様々の産業分野で利用されている(例えば特許文献1)。
自動滴定装置では、滴定容器への試料液の導入も自動化されている。装置内の配管のつまりや漏れがあったり、試料液の計量機構の故障があったりすると、試料液が滴定容器内に導入できない、又は充分に導入できない等のサンプリング不良が生じる。その場合、滴定を行っても、試料液の測定対象成分濃度を求めることはできない。
従来、試料液等が滴定容器に導入されたことを確認するため、滴定容器にレベル検出センサー等を設け、滴定容器に導入された液量を確認することが行われている。また、試料供給槽にフロートセンサ等を設け、充分な試料液が滴定装置内に導入されていることを確認することも行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平3−137562号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、試料供給槽にフロートセンサ等を設けても、試料供給槽の下流側で生じるサンプリング不良を検出することはできない。ところが、試料供給槽までは、比較的太い配管が使用されるものの、試料供給槽から滴定容器内に至るまでの配管は比較的細い配管が使用されること、加温されている試料が装置内で徐々に冷却されて結晶を析出する場合があること、等の理由により、サンプルのつまり等のトラブルが発生する場合は、むしろ、試料供給槽の下流側で発生しやすい。
一方、サンプリング不良があれば、その発生箇所にかかわらず、滴定容器内の液量は変動し得る。ところが、希釈液の液量に対して試料液の液量は少量であり、希釈液のみの液量と正常にサンプリングされた場合の液量の差は僅かである。そのため、レベル検出センサー等による滴定容器内の液量の確認によって、サンプリング不良を判別することは困難であった。
【0005】
そのため、サンプリング不良を検知できないまま滴定を行ってしまい、滴定値異常を生じてしまう場合があった。この場合、滴定試薬を無駄に消費してしまうという問題があった。また、滴定値異常の原因は多様であるため、原因がサンプリング不良であることを特定するまでの解析に、長時間を要するという問題があった。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、サンプリング異常を的確に検出し、サンプリング異常に起因する滴定液の無駄や滴定値異常の原因究明に要する時間の無駄を生じない自動滴定装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を達成するために、本発明は、以下の構成を採用した。
[1]試料液を含む測定液の滴定が行われる滴定容器と、滴定容器に測定液を導入するサンプリング機構と、滴定容器に滴定液を供給するビュレットと、前記滴定液の供給量に対応して得られる滴定指標値を検出する検出器を備え、サンプリング機構で滴定容器に導入された測定液のpHを検出すると共に、該検出したpHが設定範囲内の場合にビュレットを動作させ、設定範囲外の場合はビュレットを動作させないことを特徴とする自動滴定装置。
[2]前記検出器がpH電極であり、該pH電極によって、導入された測定液のpHを検出する[1]に記載の自動滴定装置。
[3]前記検出したpHが設定範囲外の場合、エラー出力をする[1]または[2]に記載の自動滴定装置。
【発明の効果】
【0007】
本発明の自動滴定装置によれば、サンプリング異常を的確に検出し、サンプリング異常に起因する滴定液の無駄や滴定値異常の原因究明に要する時間の無駄を回避できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の一実施形態に係る自動滴定装置の概略構成図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る自動滴定装置の動作手順のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<装置構成>
本発明の一実施形態に係る自動滴定装置について説明する。図1に示すように、本実施形態の自動滴定装置は、試料液Sを含む測定液Fが収容され、滴定液による滴定が行われる滴定容器1と、滴定容器1に試料液S中の測定対象物質と反応する滴定液Rを供給するビュレット2と、滴定液Rの供給量(以下「滴定量」という。)に対応して得られるpHを検出するpH電極3と、pH電極3から得られるpH値が入力される演算制御装置4と、滴定容器1に試料液Sを導入するサンプリング機構と、滴定容器1にpH標準液BU1を導入する第1pH標準液導入機構と、滴定容器1にpH標準液BU2を導入する第2pH標準液導入機構と、滴定容器1に洗浄水Wを導入する洗浄水導入機構と、滴定容器から排液をする排液機構と、測定液F等を攪拌するための攪拌装置70から、基本的に構成されている。
【0010】
ビュレット2は、滴定容器1に挿入されたノズル2aと、滴定液Rを収容する滴定液タンクTRに挿入された配管2bとを備えている。ノズル2aは測定液Fの液面以下となるように滴定容器1に挿入されている。
pH電極3は、検知部が測定液F内に挿入されるように配置されている。
演算制御装置4は、自動滴定装置全体の動作を制御するようになっている。また、pH電極3から得られるpHに基づき終点を求め、該終点における滴定量から、試料液S中の測定対象物質の濃度を演算するようになっている。また、pH電極3が検出する電位とpHとの関係を記憶するようになっている。
【0011】
サンプリング機構は、試料液計量ユニット10と、試料液計量ユニット10から希釈水Dと共に試料液Sを滴定容器1に供給するための配管L1と、試料液計量ユニット10に試料液入口20から試料液Sを導く配管L2と、配管L2に設けられた試料液供給槽21と、試料液計量ユニット10に希釈水入口30から希釈水Dを導く配管L3と、配管L3に上流側から順次設けられた希釈水計量管31及び送液ポンプP1と、試料液計量ユニット10から余剰の試料水Sを排液口40に導く配管L4と、配管L4に設けられた送液ポンプP2とから構成されている。
試料液計量ユニット10は、三方弁11、三方弁12、及びこれらの弁の共通ポート(白と黒の三角で示したポート)間に設けられた試料液計量管13とで構成されている。
三方弁11の常閉ポート(黒の三角で示したポート)には配管L1が接続され、三方弁11の常開ポート(白の三角で示したポート)には配管L2が接続され、三方弁12の常閉ポート(黒の三角で示したポート)には配管L3が接続され、三方弁12の常開ポート(白の三角で示したポート)には配管L4が接続されている。
試料液Sは、滴定液Rと反応する成分を、含む又は含む可能性があるものである。
【0012】
第1pH標準液導入機構は、pH標準液BU1が収容される標準液タンクT1と、標準液タンクT1から滴定容器1に導かれる配管L5と、配管L5に設けられた送液ポンプP3とから構成されている。
第2pH標準液導入機構は、pH標準液BU2が収容される標準液タンクT2と、標準液タンクT2から滴定容器1に導かれる配管L6と、配管L6に設けられた送液ポンプP4とから構成されている。
洗浄水導入機構は、洗浄水入口50から洗浄水Wを導く配管L7と、配管L7に設けられた二方弁51とから構成されている。
配管L1、L5、L6、L7は、何れも測定液Fに触れないよう、測定液Fの液面より上の空間に先端が配置されるように、滴定容器1に挿入されている。
【0013】
排液機構は、滴定容器1から排液口60に導かれる配管L8と、配管L8に設けられた送液ポンプP5とから構成されている。配管L8は、測定液Fの液面下、最も深い位置まで挿入されている。
攪拌装置70は、滴定容器1内に測定液F、標準液、洗浄液等が充填されている間、常時駆動するようになっている。
【0014】
<動作>
本実施形態の自動滴定装置は、演算制御装置4に記憶させた所定のタイミングで、又は演算制御装置4に、キー入力等により校正命令を入力したときに、pH校正工程を行う。また、演算制御装置4に記憶させた所定のタイミングで、又は演算制御装置4に、キー入力等により測定命令を入力したときに、試料液測定工程を行う。
【0015】
[pH校正工程]
pH校正工程は、以下のpH標準液BU1による校正、pH標準液BU2による校正を含む。
pH標準液BU1による校正、pH標準液BU2による校正を行うことにより、演算制御装置4は、pH電極3から得られる検出電位をpHに換算して認識できるようになる。pH標準液BU1による校正、pH標準液BU2による校正は、必要に応じて複数回繰り返してもよい。
【0016】
pH標準液BU1による校正は、滴定容器1に送液ポンプP3を動作させて配管L5よりpH標準液BU1を供給するステップ、供給されたpH標準液BU1についてpH電極3から得られる検出電位を、pH標準液BU1のpHと関連づけて演算制御装置4に記憶させるステップを有すると共に、最後に以下の洗浄ステップを有する。
洗浄ステップは、送液ポンプP5を動作させて配管L8よりpH標準液BU1を排出してから、二方弁51を開放して配管L7より洗浄水Wを供給する。そして、攪拌装置70を動作させることにより供給された洗浄水Wで滴定容器1内を洗浄し、その後、送液ポンプP5を動作させて配管L8より洗浄水Wを排出することにより行う。洗浄ステップは、必要に応じて複数回繰り返してもよい。
【0017】
また、pH標準液BU2による校正は、滴定容器1に送液ポンプP4を動作させて配管L6よりpH標準液BU2を供給するステップ、供給されたpH標準液BU2についてpH電極3から得られる検出電位を、pH標準液BU2のpHと関連づけて演算制御装置4に記憶させるステップを有すると共に、最後に以下の洗浄ステップを有する。
洗浄ステップは、送液ポンプP5を動作させて配管L8よりpH標準液BU2を排出してから、二方弁51を開放して配管L7より洗浄水Wを供給する。そして、攪拌装置70を動作させることにより供給された洗浄水Wで滴定容器1内を洗浄し、その後、送液ポンプP5を動作させて配管L8より洗浄水Wを排出することにより行う。洗浄ステップは、必要に応じて複数回繰り返してもよい。
【0018】
[試料液測定工程]
本実施形態の自動滴定装置によって行われる試料液測定工程では、演算制御装置4の制御の下、図2に示すステップA1〜A7を行う。
ステップA1では、サンプリングを行う。まず、試料液計量ユニット10における三方弁11の常開ポート及び三方弁12の常開ポートを開いた状態で送液ポンプP2を動作させ、試料液Sを配管L2から試料液計量管13を経由して配管L4へと流す。
次いで、三方弁11の常閉ポート及び三方弁12の常閉ポートを開いた状態に切り替えて送液ポンプP1を動作させ、予め希釈水計量管31で計量した希釈水Dを配管L3から試料液計量管13を経由して配管L1へと流す。これにより、試料液計量管13内に充填されていた一定量の試料液Sが、一定量の希釈水Dと共に測定液Fとして滴定容器1に供給される。
【0019】
ステップA1の後、ステップA2としてpH測定を行う。pH測定は、pH電極3により測定液FのpHを測定する。
続いて、ステップA3としてステップA2で得られたpHが設定範囲内に入っているかす否かを判別し、設定範囲内であった場合はステップA4に、設定範囲外であった場合はステップA8に進む。
【0020】
設定範囲は、予め演算制御装置4に記憶させておく。設定範囲は、上限値及び下限値の双方が規定される範囲だけでなく、上限値のみ、又は下限値のみで規定される範囲でもよい。また、上限値は、所定の値以下として規定してもよいし、所定の値未満として規定してもよい。同様に、下限値は、所定の値以上として規定してもよいし、所定の値超として規定してもよい。具体的な設定範囲は、試料液Sの組成や性状の予想変動範囲を考慮し、任意に規定できる。
例えば、試料Sが酸性試料の場合に、希釈水DのpHである中性付近のpHが検出されれば、試料Sが全く滴定容器1に導入されずに希釈水Dのみが導入されたことが分かる。また、酸性域のpHではあるものの、予想されるpHより高い場合は、規定量の試料Sが滴定容器1に導入されなかったことが分かる。試料Sの酸性成分含有量の変動量が小さいことが想定される場合、設定範囲は、例えばpH2〜3と規定できる。試料Sの酸性成分含有量の変動量が大きいことが想定される場合、設定範囲は、例えばpH1〜4と規定できる。
【0021】
ステップA4では、滴定を行う。ステップA4では、ビュレット2を動作させて滴定液Rを滴定容器1に供給しつつ、滴定量に応じたpH(滴定指標)をpH電極3により検出する。
ビュレット2の動作は、演算制御装置4により適宜制御する。例えば、滴定初期は連続して滴定液Rを注入し、終点近傍のpHに到達した後は、間欠的に微少量ずつ注入するように制御する。
そして、演算制御装置4により、検出したpHから終点を求める。終点の求め方に限定はなく、公知の方法が採用できる。例えばpHの微分値が極大値を得られたときを終点とする方法、pHが一定の値に達したときを終点とする方法が採用できる。
終点が求められたら滴定を終了する。また、滴定量が通常想定される量を著しく超過しても終点が求められない場合も滴定を終了する。
【0022】
ステップA4の後、ステップA5では濃度演算を行う。周知のように、試料液中の測定対象成分の濃度は、滴定容器1に供給された試料液の体積、滴定液中の測定対象成分と反応する成分の濃度、及び終点における滴定量から計算できる。なお、試料液の体積(本実施形態では試料液計量ユニット10の試料液計量管13内に充填される量)は、予め濃度既知の標準資料を滴定することにより正確に求めることができる。
ステップA5の後、ステップA6としてステップA5で求めた濃度出力を行う。濃度出力に併せて、必要に応じて、滴定量、温度、時間、その他の情報を含め、出力してもよい。出力形式に限定はなく、コントロールセンター等に配置したコンピュータ等への伝送出力、プリンターへの出力、表示画面への出力や、これらの組み合わせが挙げられる。
【0023】
ステップA6の後、ステップA7として洗浄ステップを行う。
洗浄ステップは、送液ポンプP5を動作させて配管L8より測定液Fを排出してから、二方弁51を開放して配管L7より洗浄水Wを供給する。そして、攪拌装置70を動作させることにより供給された洗浄水Wで滴定容器1内を洗浄し、その後、送液ポンプP5を動作させて配管L8より洗浄水Wを排出することにより行う。洗浄ステップは、必要に応じて複数回繰り返してもよい。
ステップA7の後、試料液測定工程を終了する。
【0024】
一方、ステップA3で設定範囲外と判定されてステップA8に進む場合、ステップA8ではエラー出力を行う。エラー出力の出力形式に限定はなく、コントロールセンター等に配置したコンピュータ等への伝送出力、プリンターへの出力、表示画面への出力や、これらの組み合わせが挙げられる。
エラー出力の後、試料液測定工程を終了する。
この場合、滴定を行わずに終了するため、滴定液Rを無駄に消費することがない。また、滴定容器1内には、エラー出力があった際の測定液がそのまま残されるため、エラー状況の確認も容易である。
【0025】
<その他の形態>
本実施形態では、pH校正工程を有することとしたが、pH校正は必須ではない。例えば、pHの微分値で終点を求めるようにすれば、pHの絶対値が正確である必要がないからである。ただし、上記ステップA3の判別を正確に行う観点から、pH校正を行うことが好ましいのは勿論である。
また、本実施形態では、滴定指標値を検出する検出器をpH電極としたが、滴定指標値の種類に応じて、他の検出器を選択してもよい。例えば、滴定指標値が酸化還元電位(電流)の場合は酸化還元電極を、滴定指標値が光透過率の場合は光センサーを、滴定指標値が電気伝導率の場合には電気伝導率センサーを、滴定指標値が温度の場合には温度センサーを、各々選択できる。
滴定指標値を検出する検出器がpH電極以外の場合、別途、測定液のpHを検出するpH電極を備えることが好ましい。別途pH電極を備えない場合は、発色指示薬を用いる等、他の手段で測定液のpHを検出する必要がある。
【0026】
また、本発明の自動滴定装置は、滴定に先立ち試薬を添加する前添加機構を備えてもよい。滴定に先立ち添加する試薬としては、例えば、逆滴定用の標準試薬(試料液中の測定対象成分と反応する過剰量の濃度既知の試薬)が挙げられる。
前添加機構を備える態様においては、サンプリング機構で滴定容器に導入された測定液のpHが設定範囲内の場合、前添加機構を動作させた後に、ビュレットを動作させる。一方、設定範囲外の場合は、ビュレットを動作させないだけでなく、前添加機構も動作させない。
【符号の説明】
【0027】
1…滴定容器、2…ビュレット、3…pH電極、4…演算制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料液を含む測定液の滴定が行われる滴定容器と、滴定容器に測定液を導入するサンプリング機構と、滴定容器に滴定液を供給するビュレットと、前記滴定液の供給量に対応して得られる滴定指標値を検出する検出器を備え、
サンプリング機構で滴定容器に導入された測定液のpHを検出すると共に、該検出したpHが設定範囲内の場合にビュレットを動作させ、設定範囲外の場合はビュレットを動作させないことを特徴とする自動滴定装置。
【請求項2】
前記検出器がpH電極であり、該pH電極によって、導入された測定液のpHを検出する請求項1に記載の自動滴定装置。
【請求項3】
前記検出したpHが設定範囲外の場合、エラー出力をする請求項1または2に記載の自動滴定装置。

【図1】
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【図2】
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