説明

自動玉掛け機能を備えた吊具装置

【課題】簡便な構造で、作業性に優れ、製鋼のRH脱ガス設備の中間槽など重量物の搬送組立てに好適な自動玉掛け機能を備えた吊具装置を提供する。
【解決手段】前記吊具装置は昇降可能な装置本体と前記装置本体に連結部材を介して取り付けられた吊具と前記吊具のロッドと係合する、被運搬物に固定されるフックを備え、前記装置本体と前記吊具と前記連結部材はピン結合され、前記吊具と前記連結部材が自重の作用によって前記装置本体に吊り下げられている状態で前記装置本体が下降して、前記吊具のロッドと前記フックが係合する際、前記吊具のロッドは、前記フックの外形をなす斜辺と垂辺に沿って下降した後、前記斜辺の内側に設けられた切欠部に、前記吊具と前記連結部材とのピン結合部まわりに生じる回転モーメントによって押し付けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象物をクレーン等で吊り上げるための吊具装置に関し、特に簡便な構造で、作業性に優れ、製鋼のRH脱ガス設備の中間槽など重量物の搬送組立てに好適な自動玉掛け機能を備えたものに関する。
【背景技術】
【0002】
クレーン等で対象物を吊って運搬する場合、作業者が吊り具を対象物に引っ掛けて外れ防止装置を作動させる方法と自動玉掛け吊り具を用いる方法がある。
【0003】
対象物が比較的軽量な場合は作業者により玉掛け作業が行われるが、重量物となる場合、玉掛け吊り具も大型となるため、作業者による作業では作業性、安全性が劣り、自動玉掛け吊り具が用いられる。
【0004】
また、鉄骨建方工事のように高所の足場が悪いところで作業する場合にも、自動玉掛け吊り具の使用が検討される。
【0005】
自動玉掛け吊り具として、パイルや丸管などの長尺物をクレーンで運搬する際に用いられるものが提案されている(例えば、特許文献1,2)。
【0006】
特許文献3にはクランプ本体に吊りピースを挿入する開口部を設け、クランプ本体から自動で出し入れされるロックピンを吊りピースに挿通させる機構を有した自動玉掛け装置が記載されている。
【特許文献1】特開平9−2775号公報
【特許文献2】特開2004−35194号公報
【特許文献3】特開平9−328284号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、製鋼工場のRH脱ガス設備で使用する、溶鋼を入れる円筒形の槽は、上部槽、中間槽および下部槽で構成され、それぞれの部分は、適宜、保守点検のため、天井クレーンで吊り下げられて整備場に移動する。
【0008】
図5は中間槽を整備場まで移動させるのに使用する天井クレーン用一体型吊具の構造を説明する図で(a)は上面図、(b)は側面図を示す。方形の外枠14の4隅に取り付けた玉掛け吊り具1で中間槽13を吊り下げたものを天井クレーンで吊下する。
【0009】
中間槽13は重量約20トンのため、玉掛け吊り具1も大型の重量物となり、作業者が中間槽13に取り付ける作業は重労働で作業時間も長く、自動玉掛け吊り具が要望されていた。
【0010】
特許文献3記載の自動玉掛け吊り具はスプリング、モータ等を有するため機構が複雑で、故障が生じやすく、保守点検作業が中断された場合、下工程への影響が大きい上記作業用としては適当でない。また、大型とした場合にはスプリング、モータ等も能力が大きいものが必要で自動化のための改造費用も多額となる。
【0011】
そこで、本発明は、スプリング、モータ等を用いた複雑な機構を用いず、且つ作業性、安全性に優れる自動玉掛け機能を備えた吊具装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の課題は以下の手段で達成可能である。
1.自動玉掛け機能を備えた吊具装置であって、
前記吊具装置は鉛直方向に昇降可能な装置本体と前記装置本体に連結部材を介して取り付けられた吊具と前記吊具のロッドと係合する、被運搬物に固定されるフックを備え、
前記装置本体と前記吊具と前記連結部材はピン結合され、
前記吊具と前記連結部材が自重の作用によって前記装置本体に吊り下げられている状態で前記装置本体が下降して、前記吊具のロッドと前記フックが係合する際、
前記吊具のロッドは、前記フックの外形をなす斜辺と垂辺に沿って下降した後、前記斜辺の内側に設けられた切欠部に、前記吊具と前記連結部材とのピン結合部に生じる回転モーメントによって押し付けられることを特徴とする自動玉掛け機能を備えた吊具装置。
2.前記回転モーメントは、前記吊具と前記連結部材が自重の作用によって前記装置本体に吊り下げられている状態において、前記吊具のロッドが、前記吊具と前記連結部材のピン結合部の中心を通る鉛直線から偏心して位置し、且つ前記吊具のロッドが切欠部に接している状態で、前記吊具の重心が、前記吊具と前記連結部材のピン結合部の中心を通る鉛直線から偏心していることにより発生し、
前記切欠部は、前記吊具のロッドが前記回転モーメントによって前記切欠部の内側に押し当てられるように前記フックに設けられていることを特徴とする1記載の自動玉掛け機能を備えた吊具装置。
3.前記装置本体は、天井クレーンに吊下されて、鉛直方向に昇降することを特徴とする1または2記載の自動玉掛け機能を備えた吊具装置。
4.被運搬物がRH脱ガス装置における上部槽、中間槽または下部槽のいずれかであって、前記フックは上部槽、中間槽または下部槽の外周に等分に固定され、前記装置本体は、方形の枠体で、上部槽、中間槽または下部槽を枠内に内在させ、前記枠体の4隅に前記吊具を取り付けていることを特徴とする3記載の自動玉掛け機能を備えた吊具装置。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、作業者が容易且つ安全に重量物運搬のための玉掛け作業が実施でき、産業上極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面を用いて本発明を詳細に説明する。図1は、本発明に係る吊具装置における吊具と装置本体の取り付け部の構成を説明する図で、(a)は側面図、(b)は正面図を示す。
【0015】
図において、1は吊具、2は連結部材、3はピン軸受け、4は装置本体、5はフックの切欠部に嵌合するロッド、6は吊具1と連結部材2を連結するピン、7は装置本体4に連結部材2を連結するピン、11は側板、12は吊具1の重心を示す。
【0016】
吊具1は、装置本体4の下方に連結部材2を介してピン結合となるように取り付ける。装置本体4の下方に取り付けたピン軸受け3と連結部材2をピン7でピン結合し、連結部材2と吊具1をピン6でピン結合する。
【0017】
本発明に係る吊具1は、2枚の側板11間に、ピン6と、被運搬物に固定したフックを引っ掛けるためのロッド5を設けて構成する。ロッド5は吊具1の先端部に、吊具1の重心12の位置から離して設ける。
【0018】
吊具1を装置本体4に連結部材2を介して自重の作用で吊り下げた場合に、ロッド5がピン6,7を通過する鉛直線から外れて装置本体4の内側(被運搬物側)を向くように、ロッド5と重心12の位置を調整する。
【0019】
図2は、被運搬物に固定されるフックとその取り付け部の構成を説明する図で、図において8はフック、9は被運搬物、10はフック固定用冶具、81は切欠部、82は斜辺、83は垂辺(鉛直部)を示す。
【0020】
フック8は、被運搬物9にフック固定用冶具10を介して固定される。フック8は上方を頂点とする略三角形で、前記頂点から末広がりに続く斜辺82と、その下端部に続く垂辺(鉛直部)83を有し、垂辺(鉛直部)83に続いて前記斜辺82の内側となるように
切欠部81が設けられる。切欠部81は、吊具1のロッド5が容易に抜けないように頂点を上方とする略への字状とする。
【0021】
図4は、玉掛け作業における吊具1のフック8への係り具合を説明する図で、吊具1と連結部材2が自重の作用によって装置本体4に吊り下げられている状態(a)から、斜辺82に吊具1の先端のロッド5を接触させつつ次第に下降し(b)、更に、斜辺82に続く垂辺(鉛直部)83に沿って下降した後(c)、略への字状の切欠部81の内側の頂点となる位置に、吊具1の先端部にあるロッド5を押し当てている状態を示す(d)。
【0022】
以下の説明においてロッド5と斜辺82間には摩擦力は生じないものとする。ロッド5を二重管構造として斜辺82と接する外筒を回転可能とし、更に内筒と外筒の間に潤滑油を入れると、斜辺82との間で摩擦力が生じることが防止できる。
【0023】
吊具1と連結部材2が自重の作用によって装置本体4に吊り下げられている状態(a)では、吊具1の重心12はピン6(7)の中心点を通過する鉛直線gの延長上にあるので、ピン6の中心点まわりには重心12による回転モーメント(モーメント荷重)は生じない。
【0024】
吊具1においてロッド5は、ロッド5の中心点とピン6の中心点を結ぶ線が、ピン6の中心点を通過する鉛直線gから角度θ2だけ、装置本体4の内側に偏向した位置に設けられている。
【0025】
装置本体4を下降させて、吊具1のロッド5をフック8の斜辺82に接触させ、更に装置本体4を下降させると、吊具1の重心12が、重心12とピン6の中心点を結ぶ線が、ピン6の中心点を通過する鉛直線gから角度θ1だけ移動するのでピン6の中心点まわりに回転モーメントが生じ、ロッド5を斜辺82に押し付ける(b)。
【0026】
装置本体4を更に降下させて、ロッド5を斜辺82上で下降させるに従って、吊具1の重心12とピン6の中心点を結ぶ線がピン6の中心点を通過する鉛直線gから偏心する度合い(角度θ1)は大きくなり、前記回転モーメントは増大する。その結果、ロッド5が垂辺(鉛直部)83の下端に達した後、容易に切欠部81の内部に押し込まれる(c)。
【0027】
切欠部81の形状は、ロッド5が切欠部81の内部に押し込まれた状態で、ロッド5の中心点とピン6の中心点を結ぶ線が、ピン6の中心点を通過する鉛直線gとなす角度θ2が(a)で示す自由状態にある場合のロッド5の中心点とピン6の中心点を結ぶ線が、ピン6の中心点を通過する鉛直線gとなす角度θ2より小さくなるようにする。
【0028】
吊具1の重心12はピン6の中心点を通過する鉛直線gから角度θ1だけ偏心するようになるのでピン6の中心点まわりに回転モーメントが生じ、ロッド5は切欠部81に押し付けられている状態となり、フック8から吊具1が外れることが防止される(d)。
【0029】
切欠部81の形状は本発明で特に限定しないが、搬送の際の振動でロッド5が外れないように略への字状とすることが望ましい。
【0030】
尚、吊具1と斜辺82間の摩擦力を考慮する場合、ピン6まわりに反時計方向に回転モーメントが生じるように摩擦力を調整する。
【0031】
図3は、吊具1がフック8の斜辺82上を下降する際の、装置本体4と連結部材2とフック1の動きを説明する図で、図3(a)は装置本体4と連結部材2とフック1が自重の作用によって吊り下げられている状態から、装置本体4が下降して、フック1が斜辺82に接触点aで接触した状態を示す。
【0032】
吊具1の重心は線c上にないため、吊具1は斜辺82に、接触点aとピン6の中心点を結ぶ線cは、接触点aにおける斜辺82に対する垂線bに対して角度θが生じた状態で接触する。説明において、接触点aは、ロッド5を表すものとする。
【0033】
装置本体4を更に下降させると、吊具1は斜辺82に沿って下降するが、その際、斜辺82から吊具1には、斜辺82に垂直な抗力N(矢印d)と摩擦力μN(矢印e)が作用し、これらは合成力(矢印f)として吊具1に作用する。
【0034】
フック8にロッド5を係合させるためには、装置本体4の下降につれて、ロッド5が斜辺82上を下端部に向かって移動することが必要で、吊具1のピン6まわりに、合成力fによる回転モーメントを反時計まわりに発生させることが必要となる(図3(b))。
【0035】
そのため、斜面82の摩擦係数をμとした場合、tanθ>μとなるように、フック1の形状を設計する。
【0036】
抗力Nと摩擦力μNの合成力fによる回転モーメントが吊具1のピン6まわりに時計まわりに発生すると装置本体4が下降しても、吊具1は斜辺82上を上昇するようになりフックと係合しない(図3(c))。
【0037】
本発明に係る吊具装置は、RH脱ガス装置の槽、例えば中間槽を整備場まで移動させる天井クレーン用一体型吊具装置として好適で、装置本体である方形の外枠の4隅に取り付けた吊り具と、中間槽に固定したフックを係合して使用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の一実施例に係る吊具装置における吊具を説明する図で(a)は側面図、(b)は正面図を示す。
【図2】本発明の一実施例に係る吊具装置におけるフックを説明する図。
【図3】本発明の一実施例に係る吊具装置の作動原理を吊具とフックの位置関係から説明する図で(a)は初期状態、(b)は好適状態、(c)は不適状態を示す図。
【図4】本発明の一実施例に係る吊具装置による玉掛け作業を吊具とフックの位置関係で説明する図。
【図5】本発明の実施に好適な天井クレーン用一体型吊具の構造を説明する図。
【符号の説明】
【0039】
1 吊具
2 連結部材
3 ピン軸受け
4 装置本体
5 ロッド
6 ピン
7 同上
8 フック
9 被運搬物
10 フック固定用冶具
11 側板
12 重心
13 中間槽
14 外枠
81 切欠部
82 斜辺
83 垂辺(鉛直部)
a 接触点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動玉掛け機能を備えた吊具装置であって、
前記吊具装置は鉛直方向に昇降可能な装置本体と前記装置本体に連結部材を介して取り付けられた吊具と前記吊具のロッドと係合する、被運搬物に固定されるフックを備え、
前記装置本体と前記吊具と前記連結部材はピン結合され、
前記吊具と前記連結部材が自重の作用によって前記装置本体に吊り下げられている状態から前記装置本体が下降して、前記吊具のロッドと前記フックが係合する際、
前記吊具のロッドは、前記フックの外形をなす斜辺と垂辺に沿って下降した後、前記斜辺の内側に設けられた切欠部に、前記吊具と前記連結部材とのピン結合部に生じる回転モーメントによって押し付けられることを特徴とする自動玉掛け機能を備えた吊具装置。
【請求項2】
前記回転モーメントは、前記吊具と前記連結部材が自重の作用によって前記装置本体に吊り下げられている状態において、前記吊具のロッドが、前記吊具と前記連結部材のピン結合部の中心を通る鉛直線から偏心して位置し、且つ前記吊具のロッドが切欠部に接している状態で、前記吊具の重心が、前記吊具と前記連結部材のピン結合部の中心を通る鉛直線から偏心していることにより発生し、
前記切欠部は、前記吊具のロッドが、前記回転モーメントによって前記切欠部の内側に押し当てられるように前記フックに設けられていることを特徴とする請求項1記載の自動玉掛け機能を備えた吊具装置。
【請求項3】
前記装置本体は、天井クレーンに吊下されて、鉛直方向に昇降することを特徴とする請求項1または2記載の自動玉掛け機能を備えた吊具装置。
【請求項4】
被運搬物がRH脱ガス装置における上部槽、中間槽または下部槽のいずれかであって、前記フックは上部槽、中間槽または下部槽の外周に等分に固定され、前記装置本体は、方形の枠体で、上部槽、中間槽または下部槽を枠内に内在させ、前記枠体の4隅に前記吊具を取り付けていることを特徴とする請求項3記載の自動玉掛け機能を備えた吊具装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2009−184779(P2009−184779A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−26284(P2008−26284)
【出願日】平成20年2月6日(2008.2.6)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【出願人】(000200334)JFEメカニカル株式会社 (48)
【Fターム(参考)】