説明

自動発火機能を有する小型ガス発生器

排ガスのクリーンさを損なうことなく、熱による脆弱化の前に作動する自動発火性機能を有したマイクロガスジェネレータの開発が望まれている。ガス発生剤と、該ガス発生剤を充填するカップ体と、スクイブと一体となり該スクイブを該カップ体内に封じ固定するホルダとを備えるガス発生器あって、該カップ体の内面に自動発火剤層を有するガス発生器。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、ガス発生器に関し、特にシートベルトプリテンショナー等の自動車用安全部材の作動用として好適な自動発火性を持つ小型ガス発生器に関する。
【背景技術】
自動車の衝突時に生じる衝撃から乗員を保護するための安全装置の1つとして、シートベルトプリテンショナーが知られている。このシートベルトプリテンショナーは、小型ガス発生器を備え、衝突時にガス発生器から発生する高温、高圧ガスにて作動し、シートベルトを若干巻き上げて乗員を保護するものである。このシートベルトプリテンショナーに使用されるような小型ガス発生器の用途は最近拡大してきており、例えば座席の前端を衝突時に瞬時に若干はねあげて乗員の前方への移動を抑制して人体への傷害を低減する装置や歩行者との衝突時にボンネット部を瞬時に若干はねあげてボンネットとエンジン部の隙間をつくり歩行者の受ける衝撃を低減する装置等の作動用として普及し出している。
これらの用途で使用される小型ガス発生器は、ガス発生剤を充填するアルミニウム製のカップ体と該ガス発生剤を点火するスクイブと該スクイブを該カップ体内に封じ固定するホルダとを備えており、マイクロガスジェネレータとも呼ばれる。
このマイクロガスジェネレータに使用されるガス発生剤としては、従来ガス発生量が多く、かつカップ体の素材であるアルミニウムの脆化温度より低い発火温度のものが使用されてきた。
しかし、最近の環境・衛生意識の向上に伴い、ガス発生剤として、ガス発生量が多く排ガスがよりクリーンなものが要望されている。このようなガス発生剤は発火温度も300℃以上と高いものである(米国特許第6,136,114号公報参照)。
このような発火温度の高いガス発生剤を使用したマイクロガスジェネレータが、車両火災等によって高温に曝されると、該安全装置の脆弱化とマイクロガスジェネレータの作動等により破壊されるといった事態を引き起こすことが予想される。
ところで、ガス発生装置として代表的なエアバック用インフレータについては、車両火災等による高温対策として、ハウジングの破裂を防止するため、ハウジングの板厚を厚くしてハウジングの強度を高める他、比較的低い温度で自然発火する薬剤(以下「自動発火剤」という)をハウジングの適所に装填し、ハウジングが燃焼ガスの高圧に耐えられる温度状態にある間にガス発生剤を燃焼させてしまうようにしたもの(特開2001−225711号等公報参照)、自動発火剤をフィルム状に形成して前記ハウジングの内面と前記ガス発生剤との双方に接するように配設したもの(特開平9−328052号公報参照)等が知られている。
しかし、これらの方法では、ガス発生器の内部に何等かの構造物を取り付けるため、構造が複雑化し、コストアップの要因となるという欠点がある。特にシートベルトプリテンショナー等に使用される小型ガス発生器は、ガス発生剤の量がエアバッグ用インフレータに比べて少ないために自動発火機能を発現させるための自動発火剤量の割合が相対的に多くなり、そのために燃焼特性に影響してしまう可能性がある。
本発明は、このような欠点の改善、すなわち少量で且つ排ガスのクリーンさ及びガス発生剤の燃焼特性を損なうことなく、熱によるカップ体の脆弱化の前に作動する自動発火性機能を有した小型ガス発生器(マイクロガスジェネレータ)の開発を目的とする。本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、ガス発生剤の燃焼室の内面に自動発火剤層を設けることにより、自動発火剤の使用量を減らしても確実に自動発火するガス発生器が得られることを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【発明の開示】
即ち、本発明は、
(1) ガス発生剤と、該ガス発生剤を充填するカップ体と、スクイブと一体となり該スクイブを該カップ体内に封じ固定するホルダとを備えるガス発生器であって、該カップ体の内面に自動発火剤層を有するガス発生器、
(2) 自動発火剤剤の重量が少なくとも3mgである(1)に記載のガス発生器、
(3) 自動発火剤層が自動発火剤含有溶液をカップ体内面に付着させた後乾燥することにより形成される層である(1)または(2)に記載のガス発生器、
(4) ガス発生剤の燃焼室内面に自動発火剤層を有し、自動発火剤層の重量が少なくとも4mgである(1)乃至(3)のいずれか1項に記載のガス発生器、
(5) 自動発火剤層がガス発生剤に接している(1)乃至(4)のいずれか1項に記載のガス発生器、
(6) 自動発火剤の発火温度が150℃以上でガス発生剤の発火温度未満である(1)乃至(5)のいずれか1項に記載のガス発生器、
(7) 自動発火剤の発火温度が150〜250℃である(1)乃至(5)のいずれか1項に記載のガス発生器、
(8) 自動発火剤層の重量が3mg〜10mg未満である(1)乃至(7)のいずれか1項に記載のガス発生器、
(9) フィルター材、伝火薬又はクーラントを用いない(1)乃至(8)のいずれか1項に記載のガス発生器、
(10) ガス発生剤を300mg〜2000mgの範囲内で用いる(1)乃至(9)のいずれか1項に記載のガス発生器、
に関する。
【図面の簡単な説明】
第1図は、本発明に係るガス発生器の一実施形態例の断面図である。第2図は、ボンファイア試験器の模式図である。第3図は、自動発火剤8mgを塗布したガス発生器の経時安定性加速試験による圧力と時間の関係を表わした図である。第4図は、自動発火剤20mgを塗布したガス発生器の経時安定性加速試験による圧力と時間の関係を表わした図である。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明のガス発生器は、ガス発生剤の燃焼室の内面に、自動発火剤層を有する。具体的には、例えばガス発生剤と、該ガス発生剤を充填するカップ体と、スクイブと一体となり該スクイブを該カップ体内に封じ固定するホルダとを備えるガス発生器あって、該カップ体の内面に自動発火剤層が設けられている。ガス発生剤の燃焼室はカップ体の内側空間部分に相当する。この燃焼室は、ガス発生剤が完全に燃焼することまでは要せず、ガス発生剤が燃焼し始める室であればよい。自動発火剤層はガス発生剤燃焼室の内面であれば特に制限なく形成することができ、例えばカップ体の内面、具体的にはその内側底面または内側側面のいずれかに形成されていてもよく、また双方に形成されていてもよい。また、ホルダはスクイブと一体成形により製造されたものであってもよく、またホルダとスクイブを別に作成し、両者をカシメ等により一体化したものでもよい。なお、スクイブとは衝突信号によりガス発生剤を点火せしめる点火部材のことである。
第1図は本発明のガス発生器の1例を示したものである。1はホルダ、2はスクイブ、3はカップ体、4は自動発火剤層、5はガス発生剤である。この例では、自動発火剤層がカップ体の内側底面及び内側側面の双方に形成されている。また、ホルダ1はスクイブ2と別に作成し、両者をカシメ等により一体化したものが使用されている。
ホルダ1は、スクイブ2の塞栓Aを挿入して嵌めるための皿状に形成されたテーパ部11と、スクイブ2の塞栓Aを嵌めるための突起12と、カップ体3を嵌めるための突起13とを有している。ホルダ1としては、例えば、ポリブチレンテレフタート、ポリエチレンテレフタート、ナイロン6、ナイロン66、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンオキシド、ポリエチレンイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルサルホン等の樹脂や更にそれらにガラス繊維、カーボン等を含有させたものを、図を省略するモールド内に射出することで成形する。又、ホルダ1には、各導電性ピン14、15が一体に備えられている。各導電性ピン14、15は、上記モールド内へ樹脂を射出するとき、モールド内に配置しておくことで、ホルダ1の樹脂と一体化される。
スクイブ2には、着火薬20を発火させるための電気を通電する目的で立設された2本の導電性ピン14、15と塞栓Aを含んでいる。本発明で用いられるスクイブには、ガラスにより塞栓を封止するガラススクイブや塞栓Aが樹脂にて形成された点火玉のスクイブを用いるのが好ましい。
導電性ピン14、15の材質は、ニッケルを含む合金、鉄、ステンレスが好ましい。塞栓Aの材料は、例えば、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン6、ナイロン66等を含んでいる。
また、ホルダ1には、スクイブ2の塞栓Aを保持する際、スクイブ2の塞栓Aとの間にOリング等のシール部材16が配置され、スクイブ2とホルダ1との間の防湿が図られている。シール部材16の材質としては、特に限定されるものではないが、ニトリル、シリコン、エチレンプロピレンゴム等の水分を透過しにくいものが好ましい。これらのシール部材16は、ホルダとスクイブの接合部全周にわたって設けられているのが好ましい。
カップ体3は、有底円筒形状をしている。このカップ体3の底には複数の線状の切欠き19が設けられている。カップ体3内に収納されるガス発生剤5の燃焼時に、この切欠き19が破断され、図示しないシートベルトプリテンショナーにガスが直接的に放出される。カップ体3の開口端には径方向の外方に延びるフランジ部位21が形成されており、ホルダ1に設けられた突起13のかしめによってホルダ1に取り付けられている。カップ体3の材料としては、例えばステンレス、鉄、アルミニウムなどの金属材が挙げられる。
自動発火剤層は、一定温度になると自然発火する性質を有する薬剤の層で、ガス発生剤に接している方が好ましい。一定温度とは、例えば150℃以上でガス発生剤の発火温度未満の温度、好ましくは150℃〜250℃の範囲の温度で、カップ体の脆化温度未満である。発火温度は、クルップ式発火点試験器を用いて測定される。
また、自動発火剤の重量は、少なくとも3mg、好ましくは少なくとも4mgであり、少なくとも5mgあれば十分であり、100mg以下が好ましく、より好ましくは50mg以下であり、さらに好ましくは20mg以下であり、実用的には、特にガス発生剤の経時安定性を考慮すると、3〜10mg、さらにガス発生剤への着火性を考慮すると、好ましくは5〜10mg程度または5〜10mg未満で十分である。この重量の測定は、自動発火剤を形成する前のカップ体重量と該組成物層を形成した後のカップ体重量との差、または該組成物層を形成した後のカップ体重量と該組成物層を除去した後のカップ体重量との差、から求められる。
この自動発火剤層をガス発生剤の燃焼室内面に形成するには、例えば自動発火剤及び必要に応じ下記に例示するような添加物を溶剤又は溶媒に溶解又は懸濁させ、ついでカップ体の内面に付着させた後乾燥すればよい。具体的には、例えば該溶解液又は懸濁液をカップ体に滴下し、そのまま乾燥してもよく、また遠心塗布した後乾燥してもよい。また、該溶解液又は懸濁液をカップ体に注入後余分な液を吸引等の方法で除去した後乾燥してもよい。すなわち、カップ体の内面の全体または一部を該溶解液又は懸濁液で濡らした後乾燥すればよい。自動発火剤を溶剤又は溶媒に溶解又は懸濁させるときの濃度は2〜40重量%に調整されるのが好ましい。溶液濃度は好ましくは5〜30重量%、さらに好ましくは10〜20重量%に調整することが望ましい。
自動発火剤層を設けるための自動発火剤としては、例えば無煙火薬、セルロイド等のニトロセルロースがあげられ、組成物として例えば蔗糖、塩素酸カリウム、酸化マグネシウムからなるもの、更にはこれにシリコーンやウレタンを添加したもの(特開平7−232989号公報参照)、デキストリン、塩素酸カリウム、酸化亜鉛、ブチルゴムからなるもの(同号公報参照)、3−ニトロ−1,2,4,−トリアゾール−5−オンのヒドラジン塩と酸化剤とを含む組成物(特表平8−508972号公報参照)、5−アミノテトラゾール、硝酸カリウム、三酸化モリブデンを含む組成物等であってもよい。これらの自動発火剤を懸濁液として使用する場合、その粒径は50μm以下が好ましく、20μm以下がより好ましい。また、付着を良好にする為、発火性に実質的な影響を与えない範囲でバインダー等の添加剤を添加しても良い。
自動発火剤の溶解液又は懸濁液を製造する為の溶剤又は溶媒としては、適度な揮発性を有するものが好ましく、例えばメタノール、エタノール、ブタノール等のアルコール類、アセトン、エチルメチルケトン、イソブチルメチルケトン、ジアセトンアルコール、シクロヘキサノン等のケトン類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸アミル、酢酸イソアミル等の酢酸エステル類、乳酸エチル、DMF(ジメチルホルムアミド)、ジエチルエーテル、セロソルブ、ブチルセロソルブ、ジオキサン等のエーテル類があげられる。これらの溶剤又は溶媒は単独または2種以上混合して使用される。
第1図に示される具体例において、ガス発生剤5は、フィルター材又は/及びクーラントを介することなく、カップ体3の内周に直接接触する状態にして充填されている。ここで、使用できるガス発生剤は、例えば燃料成分、酸化剤成分、添加物等を含有し、これら成分は良好な耐熱性を有することが望ましい。さらには酸素バランスを調整し、燃焼ガスをクリーンにすることが望ましい。燃料成分としては、例えば5−アミノテトラゾール、硝酸グアニジン、ニトログアニジン、ペンタエリスリトールよりなる群から選ばれる少なくとも1種以上が挙げられる。酸化剤成分としては、例えば硝酸ストロンチウム、硝酸アンモニウム、硝酸カリウム、過塩素酸アンモニウム、過塩素酸カリウムよりなる群から選ばれる少なくとも1種以上が挙げられる。添加物としては、例えば燃焼触媒として酸化銅、酸化鉄、三酸化モリブデン等の金属酸化物又は塩基性金属炭酸塩或いは塩基性金属硝酸塩が挙げられる。また、ガス発生剤に添加しうる他の添加物としては、例えばバインダーなどが挙げられ、バインダーとしては、例えばメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、酢酸セルロース、プロピオン酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、ニトロセルロース、微結晶性セルロース、カルボキシメチルセルロース、水溶性セルロースエーテル、ポリビニルアルコール、グアガム、澱粉等の多糖誘導体、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン等の有機バインダー、二硫化モリブデン、酸性白土、タルク、ベントナイト、ケイソウ土カオリン、シリカ、アルミナ、合成ヒドロタルサイト等の無機バインダーが挙げられる。好適なガス発生剤は、燃料成分として5−アミノテトラゾール及び硝酸グアニジン、またはニトログアニジン、酸化剤成分として硝酸ストロンチウム及び過塩素酸アンモニウム、燃焼触媒として酸化銅、酸化鉄等の金属酸化物又は塩基性炭酸銅、塩基性炭酸コバルト、塩基性炭酸亜鉛、塩基性炭酸鉄、塩基性炭酸マンガン等の塩基性金属炭酸塩或いは塩基性硝酸銅、塩基性硝酸コバルト、塩基性硝酸亜鉛、塩基性硝酸鉄、塩基性硝酸マンガン等の塩基性硝酸塩、バインダーとしてヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリアクリルアミドを含有するガス発生剤である。より好適には、燃料成分として5−アミノテトラゾールを0〜30重量%、硝酸グアニジンを10〜45重量%、またはニトログアニジンを30〜50重量%、酸化剤成分として硝酸ストロンチウムを15〜35重量%、過塩素酸アンモニウムを15〜35重量%、燃焼触媒として酸化銅、バインダーを1〜10重量%を含有するガス発生剤である。本発明のガス発生器では、ガス発生剤を50mg〜2000mgの範囲内で用いることが好ましく、300mg〜2000mgの範囲内で用いることがより好ましい。
本発明で用いられるガス発生剤は、シートベルトプリテンショナー等に充填可能な形態にするため、例えば所望の形状の成形体にすることができる。この成形体の形状は特に限定されるものではなく、ガス発生剤に、(a)燃料、(b)酸化剤、(c)バインダー(d)燃焼調節剤等の種類及び量に応じて、水又は有機溶媒を添加し均一に混合した後、混練、押し出し成形し裁断して得られる円柱状または円筒状の成体形、打錠機等を用いて得られるペレット状の成形体にすることができる。
プレス成形を行う場合、まず、燃料成分、及び酸化剤に固結防止剤を添加し、それぞれ別々にV型混合機で混合した後に粉砕を行う。粉砕済み燃料成分、粉砕済み酸化剤、成形用助剤、燃焼調節剤を所定量計り取り、V型混合機で均一に混合した後、プレス成形機に投入後、熱処理を行う。得られた成形体はガス発生剤として用いる。
押し出し成形を行う場合、同様に燃料成分、酸化剤を粉砕し、粉砕済み燃料成分、粉砕済み酸化剤、成形用助剤、燃焼調節剤を所定量計り取り、V型混合機で均一に混合する。この混合薬剤に外割りで8〜25重量%の水又は有機溶媒を添加し、十分に混練することで粘性を有する湿薬にする。その後、真空混練押出成形機を用いて、所望の形状に押し出し成形し、適宜切断した後、熱処理を行う。このようにして得られた押し出し成形体をガス発生剤組成物として用いる。
本発明のガス発生器6は、少なくともフィルター材、伝火薬又はクーラントを用いないことが好ましく、フィルター材及び伝火薬、フィルター材及びクーラント又は伝火薬及びクーラントを用いないことがより好ましく、フィルター材、伝火薬及びフィルター材を用いないことが特に好ましい。
また、本発明のガス発生器6は、シートベルトプリテンショナー等のガス発生器やアンチサブマリン用デバイス(自動車乗員前方移動拘束装置)等に用いられるのが好ましい。
このように構成される本発明のガス発生器6は、次のような手順にて製造することができる。まず、ホルダ1にスクイブ2の導電性ピン14、15を挿通し、スクイブ2をシール部材16を介してホルダ1のテーパ部11にはめ込むようにして装着する。次いで、スクイブ2の表面を覆うようにして、嵌め突起12を嵌めることによって、スクイブ2をホルダ1に一体に装着する。次に、スクイブ2が装着されたホルダ1に、ガス発生剤5が充填されているカップ体3を嵌合し、嵌め突起13によってかしめ固定する。
次に、本発明のガス発生器6の作動について説明する。図示しない衝突センサーが自動車の衝突を感知すると、スクイブ2に立設された導電性ピン14、15が通電され、着火薬20が発火する。続いて、この着火薬20の発火によりガス発生剤5が発火、燃焼してガスを放出する。着火薬20の燃焼に伴ってスクイブ2の内部は高温且つ、高圧になっていく。より燃焼が進んで高温、且つ、高圧となったガスや粒子がスクイブケース17に向かって放出される。つまり、燃焼によりスクイブケース17内部は、より高温、且つ、高圧となる。この時、スクイブケース17の導火孔18を通じて一気にカップ体3内のガス発生剤5に高温、且つ、高圧のガスが燃焼途中のガス発生剤とともに噴出される。なお、スクイブケース17はホルダ1に嵌め固定されているため、ガス発生剤5側に吹き飛ばされることはない。続いて、ガス発生剤5の燃焼によりカップ体3内に発生した多量のガスは、カップ体3の内圧を急速に高め、やがてカップ体3の底に設けられている切欠き19を破断して、例えば図示しないシートベルトプリテンショナーへ導入され、シートベルトプリテンショナーが動作する。
【実施例】
以下、実施例により、本発明に係るガス発生器を具体的に説明するが本発明に係るガス発生器は、以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
自動発火剤としてはニトロセルロースを使用した。ニトロセルロースを酢酸エチルに溶解させ、濃度が15重量%になるように調整を行った溶液をディスペンサーによりカップ体に直接注入した。このときカップ体を回転させることで内面全体に付着させ層を形成させた。これとは別に付着部分をカップ体の底部のみに層を形成させたものも作成した。このとき注入量を変えることで自動発火剤量を容易にコントロールすることができる。次にこれらを60℃に設定した乾燥器に投入し溶媒(剤)を揮発させ、カップ体に完全に付着させた。次にこれらの自動発火剤層を有したカップ体にガス発生剤を充填し、スクイブと一体となり該スクイブを該カップ体内に封じ固定するホルダとを備えるガス発生器を作成し試験を行った。
ボンファイア試験
このガス発生器の自動発火性を調べるため、第2図に示したような装置を用いてボンファイア試験を行った。作成したガス発生器6を3.5ccボンブ7(ガス発生器を組み込むためのボンファイア試験用治具)に組み込みプロパンガスバーナー9の火口(直径60mm)から400mmの位置に固定し、バーナー9で加熱した。この時のバーナー9の火炎高さは600mmに調整した。3.5ccボンブ7のガス抜け穴径は、直径1.0mmを使用し、自動発火剤はニトロセルロースを使用し、5mg〜46mgの自動発火剤層を有するカップ体を備えたガス発生器を使用した。ガス発生剤は燃料成分として5−アミノテトラゾール:7.2重量部および硝酸グアニジン:29.2重量部、酸化剤成分として硝酸ストロンチウム:29.8重量部及び過塩素酸アンモニウム:29.8重量部、バインダー:4.0重量部のガス発生剤組成物を使用し、ガス発生剤量は1800mgのサンプルを用いた。測定は、火炎を当て始めてから発音が確認された時の時間を測定した。
ボンファイア試験における測定結果を表1に示す。

表1から明らかなように、自動発火剤層が少なくとも5mgあればガス発生器の作動時間を短縮できる。
経時安定性加速試験
自動発火剤(ニトロセルロース)8mg(サンプルA;n=2)、20mg(サンプルB;n=2)をそれぞれカップ体内側底面に塗布し、次いでこのカップ体を用いて本発明の小型ガス発生器(シートベルトプリテンショナー用)を製造した。そしてこのガス発生器を、107℃、400時間の条件下に曝す、経時安定性加速試験に供した。この試験前のガス発生器と試験後のガス発生器について、通電による作動性(ガス発生挙動)を調べた。その結果を第3図、第4図、表2、表3に示す。


なお、表2、表3において、5%Peakとは、最大圧力を100%とした場合、通電から圧力が5%上昇した時までの時間〔ms〕を表わし、tPeakとは、通電から最大圧力に到達するまでの時間〔ms〕を表わし、Pmaxとは、最大圧力〔MPa〕を表わす。5%Peak時間値は、通電からガス発生剤の着火までの時間の指標となる値である。
表2から明らかなように、自動発火剤8mgを塗布した場合、経時安定性加速試験を行ったサンプルAは、経時安定性加速試験をおこなわなかったサンプルAと比較すると、5%Peak時間値にばらつきが見られるものの、tPeak時間値、Pmax値はほぼ同一であり、両者の間には大きな違いは見られない。このことは、第3図で示される、通電後の経過時間に対するガス発生による圧力上昇カーブが、試験前のサンプルと、試験後のサンプルの間に大きな違いが見られないことからも明らかである。
一方、表3から明らかなように、自動発火剤20mgを塗布した場合、経時安定性加速試験を行ったサンプルBは、経時安定性加速試験をおこなわなかったサンプルBと比較すると、5%Peak時間値及びtPeak時間値に明らかな遅れが見られ、Pmax値は低下しており、両者の間には大きな違いが見られる。このことは、第4図で示される、通電後の経過時間に対するガス発生による圧力上昇カーブが、試験前のサンプルと試験後のサンプルの間に大きな違いが見られることからも明らかである。
経時安定性加速試験において、自動発火剤8mgを塗布した場合と自動発火剤20mgを塗布した場合との対比から明らかなように、自動発火剤量を制限したサンプルでは、自動発火剤量が多いサンプルよりも、試験前後におけるガス発生状態の変化の度合いが小さく、従って自動発火剤のガス発生剤へ与える影響が少ないことがわかる。
なお、試験において使用したガス発生剤は、前記ボンファイア試験において使用したガス発生剤(各成分の組成、量等)と同じものである。
以上の実験結果から、自動発火剤20mgを用いたガス発生器では、高温時におけるガス発生剤の自動作動時間を短縮できる点で良いものではあるが、自動発火剤を8mg用いたガス発生器は、この点に優れているだけでなく、更に、経時安定性の点においても優れている。従って、自動発火剤の使用量を制限することにより、自動車に搭載された場合でも長期間の製品安定の保証がなされる。
【産業上の利用可能性】
本発明によると、ガス発生剤の燃焼室内面に自動発火剤層を設けることにより、自動発火剤の使用量がmg単位という極めて少ない量でも高温時におけるガス発生器の自動作動時間を短縮できる。この結果、排ガスのクリーンさを損なうことなく、熱による脆弱化の前に作動する自動発火性機能を有した小型ガス発生器が得られる。また、自動発火剤の使用量を制限することにより、経時安定性が優れた自動発火性小型ガス発生器が得られる。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス発生剤と、該ガス発生剤を充填するカップ体と、スクイブと一体となり該スクイブを該カップ体内に封じ固定するホルダとを備えるガス発生器であって、該カップ体内面に自動発火剤層を有するガス発生器。
【請求項2】
自動発火剤層の重量が少なくとも3mgである請求の範囲第1項に記載のガス発生器。
【請求項3】
自動発火剤層が自動発火剤含有溶液をカップ体内面に付着させた後乾燥することにより形成される層である請求の範囲第1項または第2項に記載のガス発生器。
【請求項4】
ガス発生剤の燃焼室内面に自動発火剤層を有し、自動発火剤層の重量が少なくとも4mgである請求の範囲第1項乃至第3項のいずれか1項に記載のガス発生器。
【請求項5】
自動発火剤層がガス発生剤に接している請求の範囲第1項乃至第4項のいずれか1項に記載のガス発生器。
【請求項6】
自動発火剤の発火温度が150℃以上でガス発生剤の発火温度未満である請求の範囲第1項乃至第5項のいずれか1項に記載のガス発生器。
【請求項7】
自動発火剤の発火温度が150〜250℃である請求の範囲第1項乃至第5項のいずれか1項に記載のガス発生器。
【請求項8】
自動発火剤層の重量が3mg〜10mg未満である請求の範囲第1項乃至第7項のいずれか1項に記載のガス発生器。
【請求項9】
フィルター材、伝火薬又はクーラントを用いない請求の範囲第1項乃至第8項のいずれか1項に記載のガス発生器。
【請求項10】
ガス発生剤を50mg〜2000mgの範囲内で用いる請求の範囲第1項乃至第9項のいずれか1項に記載のガス発生器。

【国際公開番号】WO2004/025210
【国際公開日】平成16年3月25日(2004.3.25)
【発行日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−535892(P2004−535892)
【国際出願番号】PCT/JP2003/011089
【国際出願日】平成15年8月29日(2003.8.29)
【出願人】(000004086)日本化薬株式会社 (921)
【Fターム(参考)】