説明

自動薄切片標本作製装置及び自動薄切片標本作製方法

【課題】作業者の負担を軽減でき、複数の包埋ブロックから必要枚数の薄切片標本を自動的に作製することができると共に、作製した薄切片標本を元となる包埋ブロックに完全に対応付けて、高精度な品質管理を行うこと。
【解決手段】包埋カセットKを切断位置に搬送可能な第1の搬送手段3と、切断位置に搬送された後、包埋ブロックBを所定の厚みで切断してシート状の薄切片B1を切り出す切断手段5と、切断位置に搬送された際に、個別データDを読み取る読取手段4と、薄切片を伸展させる伸展手段6と、切断された薄切片を伸展手段に搬送する第2の搬送手段7と、伸展された薄切片を基板G上に転写させて薄切片標本Hを作製する転写手段8と、読み取られた個別データを記憶する記憶部9aを有する制御手段9と、個別データを基板上に記録する記録手段10とを備えている自動薄切片標本作製装置1を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、理化学実験や顕微鏡観察等に用いられる薄切片標本を、自動的に作製する自動薄切片標本作製装置及び自動薄切片標本作製方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、理化学実験や顕微鏡観察に用いられる薄切片標本を作製する装置として、ミクロトームが一般的に知られている。この薄切片標本は、厚さが数μm(例えば、3μm〜5μm)の薄切片を、スライドガラス等の基板上に固定させたものである。ここで、ミクロトームを利用して薄切片試料を作製する一般的な方法について説明する。
【0003】
まず、ホルマリン固定された生物や動物等の生体試料をパラフィン置換した後、更に周囲をパラフィンで固めて強固にして、ブロック状態の包埋ブロックを作製する。次に、この包埋ブロックを専用の薄切り装置であるミクロトームにセットして、粗削りを行う。この粗削りによって、包埋ブロックの表面が平滑面となると共に、実験や観察の対象物である包埋された生体試料の観察したい面が表面に露出した状態となる。
【0004】
粗削りが終了した後、本削りを行う。これは、ミクロトームが有する切断刃により、包埋ブロックを上述した厚みで極薄にスライスする工程である。これにより、目的の面を持った薄切片を得ることができる。この際、包埋ブロックをミクロンオーダで制御し、薄くスライスすることで、薄切片の厚みを細胞レベルの厚みに近付けることができるので、より観察し易い薄切片標本を得ることができる。よって、可能な限り厚さが制御された薄い薄切片を作製することが求められている。なお、この本削りは、必要枚数の薄切片が得られるまで連続して行う。
【0005】
次いで、本削りによって得られた薄切片を伸展させる伸展工程を行う。つまり、本削りによって作製された薄切片は、上述したように極薄の厚みでスライスされたものであるので、皺がついた状態や、丸まった状態(例えば、Uの字状)となってしまう。そこで、この伸展工程によって、皺や丸みを取って伸ばす必要がある。
一般的には、水とお湯を利用して伸展させている。始めに、本削りによって得られた薄切片を水に浮かべる。これにより、生体試料を包埋しているパラフィン同士のくっつきを防止しながら、薄切片の大きな皺や丸みを取ることができる。その後、薄切片をお湯に浮かべる。これにより、薄切片が伸び易くなるので、水による伸展では取りきれなかった残りの皺や、切削時に受けた圧力によって生じた歪を取ることができる。
【0006】
そして、お湯による伸展が終了した薄切片をスライドガラス等の基板で掬って該基板上に載置する。なお、この時点で仮に伸展が不十分であった場合には、基板ごとホットプレート等に乗せてさらに熱を加える。これにより、薄切片をより伸展させることができる。
最後に、薄切片を乗せた基板を乾燥器内に入れて乾燥させる。この乾燥により、伸展で付着した水分が蒸発すると共に、薄切片が基板上に固定される。
その結果、薄切片標本を作製することができる。また、作製された薄切片標本は、主に生物、医学分野等で使用されている。
【0007】
ここで、従来から行われていた細胞の形状から組織の正常/異常を診断する方法をはじめとして、近年においてはゲノム科学の進歩により、網羅的且つ組織学的に遺伝子や蛋白の発現を見るニーズが増加している。そのため、ますます多くの均質な薄切片標本を効率良く作製する必要が出てきた。ところが、従来上述した工程のほとんどが、高度な技術や経験を要するものであるため、熟練した作業者の手作業でしか対応できず、時間や手間がかかるものであった。
【0008】
そこで、このような不具合を少しでも解消するため、上述した工程の一部分を自動で行う薄切片試料作製装置が提供されている(例えば、特許文献1参照)。
この薄切片試料作製装置は、セットされた包埋ブロックを切断して薄切片を作製する工程と、作製した薄切片をキャリアテープによって搬送してスライドガラス上に転写させる工程と、スライドガラスごと薄切片を伸展装置まで搬送して伸展を行う工程とを、自動的に行っている。
この薄切片試料作製装置によれば、作業者の負担を軽減することができると共に、作業者による人為的なミスもなくすことができ、良好な薄切片標本を作製することができる。
【0009】
一方、ミクロトームを利用して薄切片標本を作製する装置の1つとして、包埋ブロックと、該包埋ブロックから作製された薄切片標本とを、対応付けすることができる装置も提供されている。
この種の装置は、いくつか提供されているが、例えば、包埋ブロックが載置されたカセットの識別情報(予め印された識別情報)を読み取り、読み取った識別情報を、薄切片が載置されるスライドガラス等の基板に印字等によって表示して割り当てる装置が知られている。(例えば、特許文献2参照)
【0010】
また、別の装置として、包埋ブロックが載置されたカセットのデータ(予め印されたデータ)と、薄切片が載置されるスライドガラス等の基板の識別情報(予め印されたデータ)とを、読み取って両者が一致するか否かを照合する装置が知られている(例えば、特許文献2参照)。
上述したいずれの装置にしても、包埋ブロックと基板とを対応付けることができる。その後、作業者は、この基板上にミクロトームでスライスされた薄切片を、伸展工程等を適宜行いながら載置する作業を行う。その結果、薄切片標本と包埋ブロックとの対応付けを行うことができる。
【特許文献1】特開2004−28910号公報
【特許文献2】特表2005−509154号公報
【特許文献3】特開2005−91358号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上述した従来の装置では、まだ以下の課題が残されていた。
まず、上記特許文献1に記載されている薄切片試料作製装置は、1つの包埋ブロックから、自動的に薄切片標本を作製できるものであるが、包埋ブロックを効率良く交換しながら、複数の包埋ブロックから次々に薄切片標本を作製した場合には、作製された複数の薄切片標本がどの包埋ブロックから作製されたものであるのか判らなくなってしまう場合がある。特に、包埋されている生体試料が、形状が似かよった同じ臓器等の場合には、見分けが付き難い。そのため、包埋ブロックと薄切片標本との対応付けを行うことができない不都合があった。
【0012】
特に、包埋ブロックに関しては、対象となる動物の主な臓器全てについて発現を見る場合があり、1個体につき20個以上の包埋ブロックを薄切する必要がある。実際には、実験結果を統計処理するために実験個体数を増すことが一般的であり、その場合には、包埋ブロックの数が容易に数百個に達してしまう。よって、作製される薄切片標本の数も膨大であり、上述した問題が生じ易かった。
その結果、正確な品質管理ができず、薄切片標本を用いたその後の観察の信頼性に影響を与えてしまうものであった。
【0013】
一方、特許文献2及び3に記載されている装置に関しては、自動的に薄切片標本を作製することができず、作業者自らがミクロトームでスライスされた薄切片を伸展させた後、基板上に載置する必要があった。そのため、作業者の負担が大きく、手間と時間のかかるものであった。
また、作業者の手を介して薄切片標本を作製するので、基板と包埋ブロックとが事前に対応付けられていたとしても、薄切片を伸展する段階や薄切片を基板に載置する段階等で、人為的なミスが発生してしまい、薄切片標本と包埋ブロックとを完全に対応付けすることができない場合があった。
【0014】
本発明は、このような事情に考慮してなされたもので、その目的は、作業者の負担を軽減でき、複数の包埋ブロックから必要枚数の薄切片標本を自動的に作製することができると共に、作製した薄切片標本を元となる包埋ブロックに完全に対応付けて、高精度な品質管理を行うことができる自動薄切片標本作製装置及び自動薄切片標本作製方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、前記課題を解決するために以下の手段を提供する。
本発明の自動薄切片標本作製装置は、少なくとも識別番号を含んだ個別データが予め印された包埋カセットに保持され、生体試料が包埋剤に包埋された複数の包埋ブロックから、それぞれ薄切片標本を作製する自動薄切片標本作製装置であって、複数の前記包埋カセットの中から任意に選択された包埋カセットを切断位置に搬送可能な第1の搬送手段と、前記包埋カセットが前記切断位置に搬送された後、前記包埋ブロックを所定の厚みで切断してシート状の薄切片を切り出す切断手段と、前記包埋カセットが前記切断位置に搬送された際に、前記個別データを読み取る読取手段と、液体が貯留された貯留槽を有し、前記薄切片を伸展させる伸展手段と、前記切断手段により切断された前記薄切片を、前記貯留槽に搬送すると共に液面に浮かべる第2の搬送手段と、前記伸展手段により伸展された前記薄切片を、基板上に転写させて前記薄切片標本を作製する転写手段と、前記読取手段で読み取られた前記個別データを記憶する記憶部を有する制御手段と、該制御手段からの指示を受けて、記憶された前記個別データを前記基板上に記録する記録手段とを備えていることを特徴とするものである。
【0016】
また、本発明の自動薄切片標本作製方法は、少なくとも識別番号を含んだ個別データが予め印された包埋カセットに保持され、生体試料が包埋剤に包埋された複数の包埋ブロックから、それぞれシート状の薄切片を切り出すと共に、該薄切片を基板上に転写させて薄切片標本を作製する自動薄切片標本作製方法であって、複数の前記包埋カセットの中から任意に選択された包埋カセットを切断位置に搬送する第1の搬送工程と、前記切断位置に搬送された前記包埋カセットから前記個別データを読み取る読取工程と、前記切断位置に搬送された前記包埋ブロックを、所定の厚みで切断してシート状の薄切片を切り出す切断工程と、切断された前記薄切片を、液体が貯留された貯留槽に搬送すると共に液面に浮かべて伸展を開始させる第2の搬送工程と、伸展された前記薄切片を、前記基板上に転写させて前記薄切片標本を作製する転写工程と、前記読取工程後、読み取った前記個別データを記憶部に記憶すると共に、記憶した個別データを前記基板上に記録する記録工程とを備えていることを特徴とするものである。
【0017】
この発明に係る自動薄切片標本作製装置及び自動薄切片標本作製方法においては、まず、包埋ブロックを保持している包埋カセットに、少なくとも特有の識別番号を含んだ個別データが予め印されている。これにより、包埋カセットに保持された包埋ブロックを、それぞれ確実に区別できるようになっている。
次いで、作業を開始すると、制御手段が第1の搬送手段を制御して、複数の包埋カセットの中から任意に選択された1つの包埋カセットを切断位置に搬送させる第1の搬送工程を行う。この際、作業者が第1の搬送手段に包埋カセットを手渡しても構わないし、第1の搬送手段が所定位置に置かれている包埋カセットを取り上げて搬送しても構わない。
【0018】
切断位置に包埋カセットが搬送されると、読取手段が該包埋カセットの個別データを読み取る読取工程を行うと共に、読み取った個別データを制御手段に出力する。この読取工程により、最初に搬送されてきた包埋ブロックを特定することができる。また、制御手段は、送られてきた個別データを記憶部に記憶させる。
【0019】
また、切断位置に包埋カセットが搬送されると、切断手段が包埋カセットに保持された包埋ブロックを所定の厚み(例えば、5μmの極薄)でシート状に切断(スライス)して、薄切片を作製する切断工程を行う。第2の搬送手段は、この切断された薄切片を、水等の液体が貯留された伸展手段の貯留槽に搬送すると共に、水面(液面)に浮かべて伸展を開始させる第2の搬送工程を行う。薄切片は、この伸展手段により、切断時による皺や丸みが取れて伸展した状態となる。伸展後、転写手段が水面に浮かんだ薄切片をスライドガラス等の基板上に転写して固定する転写工程を行う。その結果、基板上に薄切片が固定された薄切片標本を作製することができる。
【0020】
また、転写工程後、若しくは、転写工程前に、記録手段が制御手段からの指示を受けて、記憶部に記憶された個別データを基板上に記録する記録工程を行う。これにより、作製された薄切片標本には、包埋カセットに予め記載されていた個別データと同じものが記録された状態となる。つまり、薄切片標本と包埋カセットに保持された包埋ブロックとが、対応付けされた状態となる。
また、制御手段は、最初に搬送されてきた包埋ブロックから必要枚数の薄切片標本を作製した後、包埋カセットを戻して次の包埋カセットを切断位置に搬送させる。つまり、次の包埋カセットに対して第1の搬送工程を繰り返す。
【0021】
そして、上述した各工程を繰り返すことで、複数の包埋ブロックからそれぞれ必要枚数の薄切片を切り出して自動的に薄切片標本を作製することができる。よって、従来のものとは異なり、作業者の負担を軽減することができると共に作業時間の短縮化を図ることができる。また、人為的なミスの発生もなくすことができる。
特に、作製された薄切片標本は、上述したように包埋カセットと同じ個別データが記録されて、元となる包埋ブロックに対して完全に対応付けられた状態となっている。従って、作業者は、自動的に作製された薄切片標本を、どの包埋ブロックから作製されたものであるのか容易且つ確実に照合することができ、高精度な品質管理を行うことができる。
【0022】
上述したように、本実施形態の自動薄切片標本作製装置及び自動薄切片標本作製方法によれば、作業者の負担を軽減でき、複数の包埋ブロックから必要枚数の薄切片標本を自動的に作製することができると共に、作製した薄切片標本を元となる包埋ブロックに完全に対応付けて、高精度な管理を行うことができる。
【0023】
また、本発明の自動薄切片標本作製装置は、上記本発明の自動薄切片標本作製装置において、前記制御手段が、同一の前記包埋ブロックから複数の前記薄切片標本を作製する際に、これら複数の薄切片標本をそれぞれ区別する枝番号を前記個別データに付加した状態で、前記記憶部に記憶させると共に、前記基板上に記録するように前記記録手段に指示をだすことを特徴とするものである。
【0024】
また、本発明の自動薄切片標本作製方法は、上記本発明の自動薄切片標本作製方法において、前記記録工程が、同一の前記包埋ブロックから複数の前記薄切片標本を作製する際に、これら複数の薄切片標本をそれぞれ区別する枝番号を前記個別データに付加した状態で、前記記憶部に記憶すると共に、前記基板上に記録することを特徴とするものである。
【0025】
この発明に係る自動薄切片標本作製装置及び自動薄切片標本作製方法においては、1つの包埋ブロックから薄切片を複数、例えば、5枚切り出して、5枚の薄切片標本を作製する場合、制御手段が記憶部に読み取った個別データに5つの枝番号を付加した状態で記憶させる。これにより、同一の包埋ブロックから5つの薄切片標本を作製したことを確実に記憶することができる。
また、制御手段は、5枚の薄切片が転写される5枚の基板に対して、それぞれ個別データに枝番号を付加した状態で記録するように記録手段に指示を出す。その結果、同一の個別データを有する包埋ブロックから複数の薄切片標本を作製した場合であっても、それぞれを明確に区別することができる。従って、品質管理をより正確に行うことができる。
【0026】
また、本発明の自動薄切片標本作製装置は、上記本発明の自動薄切片標本作製装置において、前記記録手段が、レーザ光を照射して前記個別データを前記基板上に印字することを特徴とするものである。
【0027】
また、本発明の自動薄切片標本作製方法は、上記本発明の自動薄切片標本作製方法において、前記記録工程の際、レーザ光を照射して前記個別データを前記基板上に印字することを特徴とするものである。
【0028】
この発明に係る自動薄切片標本作製装置及び自動薄切片標本作製方法においては、記録工程を行う際に、記録手段が基板に対してレーザ光を照射することで、個別データを印字する。そのため、基板に極力外力を加えることなく明瞭に印字でき、基板の撓みや変形等を防止することができる。また、特筆すべきは、この後の工程でキシレンやアルコール等の有機溶媒を使用したとしても、該有機溶媒に浸されることで、レーザ光で印字された文字が消えることがない。よって、極めて信頼性が高く、より高品質な薄切片標本を作製することができる。
【0029】
また、本発明の自動薄切片標本作製装置は、上記本発明の自動薄切片標本作製装置において、前記記録手段が、熱転写プリンタであり、前記個別データを前記基板上に転写して印刷することを特徴とするものである。
【0030】
また、本発明の自動薄切片標本作製方法は、上記本発明の自動薄切片標本作製方法において、前記記録工程の際、熱転写プリンタにより前記個別データを前記基板上に転写して印刷することを特徴とするものである。
【0031】
この発明に係る自動薄切片標本作製装置及び自動薄切片標本作製方法においては、記録工程を行う際に、熱転写プリンタが前記個別データを基板上に直接転写して、印刷を行う。特に、熱を加えてインクを昇華させ、基板上に個別データを印刷可能であるので、印字濃度を自由に細かく設定でき、明瞭な印刷を行うことができる。よって、見易く高品質な薄切片標本を作製することができる。
【0032】
また、本発明の自動薄切片標本作製装置は、上記本発明の自動薄切片標本作製装置において、前記記録手段が、前記個別データを専用紙に転写して印刷する熱転写プリンタを有し、該熱転写プリンタで印刷された専用紙を前記基板上に貼付することを特徴とするものである。
【0033】
また、本発明の自動薄切片標本作製方法は、上記本発明の自動薄切片標本作製方法において、前記記録工程の際、熱転写プリンタにより前記個別データを専用紙に転写して印刷し、印刷された専用紙を前記基板上に貼付することを特徴とするものである。
【0034】
この発明に係る自動薄切片標本作製装置及び自動薄切片標本作製方法においては、記録工程を行う際に、まず、熱転写プリンタが前記個別データを専用紙に印刷する。そして、記録手段は、この個別データが印刷された専用紙を基板上に貼付する。これにより、個別データを基板に記録することができる。特に、熱を加えてインクを昇華させ、専用紙に個別データを印刷可能であるので、印字濃度を自由に細かく設定でき、明瞭に印刷することができる。よって、見易く高品質な薄切片標本を作製することができる。
【0035】
また、本発明の自動薄切片標本作製装置は、上記本発明のいずれかの自動薄切片標本作製装置において、前記包埋カセットを出し入れ可能に複数保管する保管庫を備え、前記制御手段が、任意に選択した前記包埋カセットを前記保管庫から取り出して前記切断位置に搬送させると共に、前記薄切片を必要枚数切り出した後、該包埋カセットを保管庫に戻して、次の包埋カセットを取り出すように第1の搬送手段を制御することを特徴とするものである。
【0036】
また、本発明の自動薄切片標本作製方法は、上記本発明のいずれかの自動薄切片標本作製方法において、前記第1の搬送工程の際、前記包埋カセットが出し入れ可能に予め複数保管された保管庫から、任意に選択した包埋カセットを取り出して前記切断位置に搬送すると共に、前記薄切片を必要枚数切り出した後、該包埋カセットを保管庫に戻して、次の包埋カセットを再度取り出すことを特徴とするものである。
【0037】
この発明に係る自動薄切片標本作製装置及び自動薄切片標本作製方法においては、保管庫を有しているので、作業者が予め複数の包埋カセットを保管庫内に保管しておくことができる。そして、第1の搬送工程の際、第1の搬送手段は、この保管庫に保管されている包埋カセットを1つ取り出して切断位置に搬送する。また、該包埋カセットに保持された包埋ブロックから薄切片を必要枚数切り出して薄切片標本を作製した後、第1の搬送手段は、この包埋カセットを保管庫の元の位置に戻すと共に、次に選択した包埋カセットを保管庫から取り出して切断位置に搬送する。
このように、作業者が予め複数の包埋カセットを保管庫内に保管しておくだけで、包埋カセットの交換作業に関しても効率良く自動で行うことができる。従って、作業者の負担をさらに軽減することができると共に、作業時間の短縮化を図ることができる。
【0038】
また、本発明の自動薄切片標本作製装置は、上記本発明のいずれかの自動薄切片標本作製装置において、前記転写手段が、前記薄切片標本を複数収納する収納棚を有し、前記制御部が、作製した前記薄切片標本を、前記収納棚に収納するように前記転写手段を制御することを特徴とするものである。
【0039】
また、本発明の自動薄切片標本作製方法は、上記本発明のいずれかの自動薄切片標本作製方法において、前記転写工程の際、作製した前記薄切片標本を、該薄切片標本を複数収納可能な収納棚に収納することを特徴とするものである。
【0040】
この発明に係る自動薄切片標本作製装置及び自動薄切片標本作製方法においては、転写工程の際、転写手段が個別データの記録が終了した薄切片標本を、自動的に収納棚に収納する。その結果、次々と作製される薄切片標本を自動的に収納棚に収納することができる。よって、作業者の負担をさらに軽減することができると共に、さらなる作業時間の短縮化を図ることができる。また、完成した薄切片標本が、専用の収納棚に収納されているので、その後、薄切片標本を取り扱い易い。
【発明の効果】
【0041】
本発明に係る自動薄切片標本作製装置及び自動薄切片標本作製方法によれば、作業者の負担を軽減でき、複数の包埋ブロックから必要枚数の薄切片標本を自動的に作製することができると共に、作製した薄切片標本を元となる包埋ブロックに完全に対応付けて、高精度な管理を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0042】
以下、本発明に係る自動薄切片標本作製装置及び自動薄切片標本作製方法の一実施形態を、図1から図7を参照して説明する。この自動薄切片標本作製装置は、包埋カセットに保持され、生体試料が包埋剤に包埋された複数の包埋ブロックから、それぞれ薄切片を切り出し、該薄切片を基板上に転写させて薄切片標本を自動的に作製する装置である。
なお、本実施形態では、生体試料として、鼠や猿等の実験動物から採取した生体組織を例に挙げて説明する。
【0043】
始めに、包埋カセット及び包埋ブロックについて説明する。
図1に示すように、包埋ブロックBは、ホルマリン固定された生体組織S内の水分をパラフィン置換した後、さらに周囲をパラフィン等の包埋剤によってブロック状に固めたものである。これにより、生体組織Sがパラフィン内に包埋された状態となっている。またこの包埋ブロックBは、箱状に形成された包埋カセットKに保持されている。また、生体組織Sは、実験動物の種類、実験動物の性別、実験動物の臓器の種類等に応じて複数種類用意され、それぞれが包埋されて別々の包埋ブロックBとなっている。
【0044】
包埋カセットKは、例えば、耐有機溶媒性のプラスチック等で形成されており、一部分が斜面となっている。そして、この斜面上に、個々を識別するための識別番号(シリアルナンバー)と、保持している包埋ブロックBのデータとを含む個別データDが予め印されている。包埋ブロックBのデータとしては、例えば、生体組織Sがどの実験動物から採取されたものであるかを示すデータや、その実験動物の性別を示すデータや、その実験動物のどの臓器から採取されたものであるかを示すデータ等である。
よって、個別データDを確認することで、複数の包埋カセットKをそれぞれ区別できると共に、保持している包埋ブロックBの種類を特定できるようになっている。
【0045】
次に、本実施形態の自動薄切片標本作製装置について説明する。
本実施形態の自動薄切片標本作製装置1は、図2に示すように、包埋カセットKを出し入れ可能に複数保管する保管庫2と、選択した1つの包埋カセットKを保管庫2から出し入れすると共に切断位置Pに搬送可能なブロックハンドリングロボット(第1の搬送手段)3と、包埋カセットKが切断位置Pに搬送された際に、個別データDを読み取る読取部(読取手段)4と、包埋カセットKが切断位置Pに搬送された後に、包埋ブロックBを所定の厚みで切断し、シート状の薄切片B1を切り出す切削機構(切断手段)5と、水(液体)W1が貯留された水槽(貯留槽)28を有し、薄切片B1を伸展させる伸展機構(伸展手段)6と、切削機構5によって切り出された薄切片B1を水槽28に搬送すると共に水面(液面)に浮かべる切片搬送機構(第2の搬送手段)7と、伸展された薄切片B1を、スライドガラス(基板)G上に転写させて薄切片標本Hを作製するスライドガラスハンドリングロボット(転写手段)8と、これら各構成品を総合的に制御すると共に、読取部4で読み取られた個別データDを記憶するメモリ部(記憶部)9aを有する制御部(制御手段)9と、制御部9からの指示を受けて記憶された個別データDをスライドガラスG上に記録する記録部(記録手段)10とを備えている。
【0046】
上記保管庫2は、図3及び図4に示すように、包埋カセットK上に固定された複数の包埋ブロックBを、それぞれ区分けして保管する複数の保管棚15と、これら複数の保管棚15が外周面上に設けられ、回転軸Lを中心に回転自在であると共に上記制御部9によって回転制御される回転体16とを備えている。
本実施形態の回転体16は、回転軸Lを中心とした円柱状に形成されており、図示しないモータ等の駆動源によって回転される回転ステージ17上に固定されている。そして、制御部9は、この駆動源の作動を制御している。これにより、回転体16は、任意の回転方向及び回転速度で回転するように制御部9によってコントロールされている。
【0047】
また、保管棚15は、回転体16の外周面上に均等配置されており、例えば合計120個形成されている。即ち、回転軸L方向であるZ方向に向けて所定間隔毎に10個形成されていると共に、これら10個を一列として、回転軸Lを中心に30度毎に12列形成されている。
【0048】
上記切削機構5は、図5に示すように保管庫2から一定距離離間した位置に、包埋カセットKを載置固定するブロック固定台20と、載置固定された包埋カセットKに保持されている包埋ブロックBに対してスライド操作される切断刃21とを備えている。
この切断刃21は、図示しない駆動機構によって所定の速度及び引き角をもってスライド操作されるようになっている。また、ブロック固定台20は、切断刃21のスライド操作に合わせて、包埋ブロックBを切断面から所定量毎上昇させるようになっている。これにより、包埋ブロックBは、切断刃21によって所定の厚みで切断されて、薄切片B1が切り出されるようになっている。即ち、ブロック固定台20の上面が、切断位置Pとなっている。また、ブロック固定台20に載置固定された包埋ブロックBは、図示しない帯電装置によってプラスの電荷が与えられるようになっている。
【0049】
なお、本実施形態では、ブロック固定台20に対して切断刃21をスライド操作して、包埋ブロックBを切断する構成としたが、この場合に限られるものではない。例えば、切断刃21を固定し、この固定された切断刃21に対してブロック固定台20を移動させることで、包埋ブロックBを切断するように切削機構5を構成しても構わない。更には、切断刃21及びブロック固定台20を共に相対的に移動させることで、包埋ブロックBを切断するように切削機構5を構成しても構わない。
【0050】
また、保管庫2とブロック固定台20との間には、図3及び図4に示すように、Z方向に延びるZ軸ガイドレール22が取り付けられている。このZ軸ガイドレール22には、該Z軸ガイドレール22に沿って移動可能な昇降ステージ23が取り付けられている。この昇降ステージ23には、水平方向に延びた水平ガイドレール24が取り付けられている。そして、この水平ガイドレール24には、Z軸ガイドレール22と同様に水平ガイドレール24に沿って移動可能な水平ステージ25が取り付けられている。なお、水平ステージ25は、単に水平方向に移動するだけでなく、図4に示すように、Z軸周りに回転可能とされている。
【0051】
また、水平ステージ25には、一定距離離間した状態で平行に配されると共に、互いの距離を接近離間自在に調整可能な一対のアーム26aを有する把持ロボット26が取り付けられている。そして、昇降ステージ23、水平ステージ25及び把持ロボット26をそれぞれ適宜作動させることで、保管庫2の保管棚15に収納されているいずれかの包埋ブロックBを保管棚15から出し入れすることができるようになっている。
【0052】
即ち、一対のアーム26aにより包埋ブロックBを保持している包埋カセットKを把持した状態で、水平ステージ25及び昇降ステージ23を作動させることで、保管棚15から包埋ブロックBの出し入れを行える。また、包埋カセットKを把持したまま昇降ステージ23、水平ステージ25を適宜作動させることで、切断位置Pであるブロック固定台20上に載置することもできる。なお、これら昇降ステージ23、水平ステージ25及び把持ロボット26は、制御部9によって制御される図示しないモータによって駆動される。
上述したZ軸ガイドレール22、昇降ステージ23、水平ガイドレール24、水平ステージ25及び把持ロボット26は、上記ブロックハンドリングロボット3を構成している。
【0053】
また、図3及び図5に示すように、ブロック固定台20に隣接して、該ブロック固定台20と略同じ高さの読取部用固定台27が設けられており、該読取部用固定台27上に読取部4が設置されている。この読取部4は、切断位置Pに包埋カセットKが搬送されてくると、該包埋カセットKの斜面に印された個別データDを、例えば光学的に読み取るようになっている。また、読取部4は、読み取った個別データDを制御部9に出力している。
【0054】
また、読取部用固定台27の隣には、図5に示すように水槽28が設けられている。この水槽28は、切削機構5によって切り出された薄切片B1を、表面張力を利用して伸展させる上記伸展機構6を構成する一部である。
【0055】
また、ブロック固定台20及び水槽28の上方には、予め図示しない帯電装置によってマイナスの電荷が与えられたキャリアテープ30が設けられている。このキャリアテープ30は、ガイドローラ31と図示しないテープ駆動機構とによって、ブロック固定台20から水槽28に向かう方向に送られるようになっている。
また、キャリアテープ30は、ブロック固定台20に包埋カセットKが載置されたときに、包埋ブロックBに面接触すると共に、水槽28上に達したときに水槽28内に貯留された水W1の表面に接触するよう弛むようになっている。
【0056】
これにより、切削機構5によって切り出された薄切片B1は、静電気によってキャリアテープ30の下面に吸着され、吸着された状態でキャリアテープ30の移動と共に水槽28に向けて搬送されるようになっている。そして薄切片B1は、水槽28上に達した時点で、キャリアテープ30が弛んで水W1に漬かることで、キャリアテープ30から離間して水W1に浮かんだ状態となる。
上述したキャリアテープ30、ガイドローラ31及びテープ駆動機構は、上記切片搬送機構7を構成している。
【0057】
また、水槽28の隣には、図6に示すように、未使用のスライドガラスGを予め複数枚収納するスライドガラス収納棚35と、スライドガラスG上に薄切片B1が転写された薄切片標本Hを複数枚収納する薄切片標本収納棚(収納棚)36とが順に設けられている。
【0058】
また、水槽28と薄切片標本収納棚36との間には、上記ブロックハンドリングロボット3と同様に、Z方向に延びるZ軸ガイドレール40が取り付けられている。このZ軸ガイドレール40には、該Z軸ガイドレール40に沿って移動可能な昇降ステージ41が取り付けられている。この昇降ステージ41には、水平方向に延びた水平ガイドレール42が取り付けられている。またこの水平ガイドレール42には、該水平ガイドレール42に沿って移動可能な水平ステージ43が取り付けられている。なお、この水平ステージ43は、単に水平方向に移動するだけでなく、Z軸周りに回転可能とされている。
【0059】
更に水平ステージ43には、Z方向に直交する一軸周りに回転可能な状態でスライドガラス把持ロボット44が取り付けられている。スライドガラス把持ロボット44は、上記把持ロボット26と同様に、一定距離離間した状態で平行に配されると共に互いの距離を接近離間自在に調整可能な一対のアーム44aを備えている。
そしてこれら昇降ステージ41、水平ステージ43及びスライドガラス把持ロボット44をそれぞれ適宜作動させることで、未使用のスライドガラスGを把持すると共に、水槽28内に浮いて伸展がなされた薄切片B1を、把持したスライドガラスG上に転写して薄切片標本Hを作製することができるようになっている。更には、作製した薄切片標本Hを薄切片標本収納棚36に収納することができるようになっている。これについては、後に詳細に説明する。
上述したZ軸ガイドレール40、昇降ステージ41、水平ガイドレール42、水平ステージ43及びスライドガラス把持ロボット44は、上記スライドガラスハンドリングロボット8を構成している。
【0060】
上記制御部9は、上述した各構成品を総合的に制御している。例えば、任意に選択した包埋カセットKを保管庫2から取り出して切断位置Pに搬送させると共に、この包埋ブロックBから薄切片B1を必要枚数切り出した後、該包埋カセットKを保管庫2に戻して、次の包埋カセットKを取り出すようにブロックハンドリングロボット3の制御を行っている。
また、作製した薄切片標本Hを薄切片標本収納棚36に順次収納するように、スライドガラスハンドリングロボット8の制御を行っている。
【0061】
また、制御部9は、読取部4から送られてきた個別データDをメモリ部9aに記憶させると共に、記録部10に指示を出して薄切片B1が転写されるスライドガラスG上にこの個別データDを記録するように指示を出している。
この記録部10は、例えば、レーザーマーカーであり、スライドガラスG上にレーザ光Lを照射して、制御部9からの指示に基づいて個別データDを印字するようになっている。また、記録部10は、図6に示すように、水槽28と薄切片標本収納棚36との間に配置されており、スライドガラスハンドリングロボット8によって薄切片標本収納棚36に収納される前に、印字を行うようになっている。
この際、スライドガラスG上に先に印字を行い、その後印字されたスライドガラスGを用いて水面に浮かぶ薄切片B1を転写しても構わないし、先にスライドガラスG上に薄切片B1を転写して薄切片標本Hを作製し、その後印字を行っても構わない。
【0062】
また、本実施形態の制御部9は、図2に示すように、上述したメモリ部9a以外に、薄切片標本Hを作製する際の作製条件が複数の包埋カセットKに対して予めそれぞれ入力された条件テーブル9bを有している。そして、制御部9は、読取部4で読み取られた包埋カセットKの個別データDに基づいて、搬送されてきた包埋カセットKの種類を特定すると共に、該個別データDと条件テーブル9bとの照合を行う。そして、この包埋カセットKに応じた作製条件で作製がされるように上述した各構成品を総合的に制御するようになっている。
【0063】
具体的に、上記作製条件としては切断条件及び伸展条件であり、これら切断条件及び伸展条件が予め条件テーブル9bに入力されている。切断条件は、切削機構5により包埋ブロックBを切断する際の、薄切片B1の厚さ、切断速度又は切断する際の引き角のうち、少なくとも1つを決定する条件である。また、伸展条件は、薄切片B1を水W1に浮かべて伸展させる際の、水W1の温度又は水面に浮かべる時間のうち、少なくとも1つを決定する条件である。また、この作製条件には、上述した切断条件及び伸展条件以外に、包埋ブロックBの種類に応じて最低限必要とされる薄切片標本Hの作製枚数も含まれている。
そして、制御部9は、個別データDから特定した包埋カセットKの種類に応じて、これらの条件を条件テーブル9bから割り出して決定し、該条件及び作製枚数で薄切片標本Hの作製を行うように各構成品を制御するようになっている。
【0064】
また、制御部9は、読み取った包埋カセットKの個別データDをメモリ部9aに記憶させる際に、上述した作製条件(切断条件、伸展条件及び作製枚数)も併せて記憶して、作業ログ(作業表)9cを作成するようになっている。つまり、切断位置Pに搬送されてきた包埋カセットKの識別番号と、包埋ブロックBの種類(即ち、生体組織Sの種類)を示すデータと、条件テーブル9bから割り出した作製条件とが、同時に記憶された作業ログ9cの作成を行う。
【0065】
更に、本実施形態の制御部9は、図2及び図6に示すように、スライドガラスG上に転写された薄切片B1を観察して、条件テーブル9bで決定した作製条件通りに作製されているか否かの良否判断を行う判断部9dを備えており、該判断部9dによる判断結果を個別データDに付加した状態でメモリ部9aに記憶するようになっている。これにより、作業ログ9cには、実際の作製結果も併せて記憶されるようになっている。なお、判断部9dは、例えば、薄切片B1を光学的に観察して、その形状や表面状態等から良否の判断を行っている。また、この判断部9dで良品と判断された薄切片標本Hが、記録部10にて記録されるようになっている。
【0066】
また、上記判断部9dが不良と判断した場合には、制御部9が再度同一の包埋ブロックBから薄切片B1を切り出させて薄切片標本Hを作製させるように各構成品の制御を行うと共に、判断部9dに再判断を行わせるようになっている。
但し、制御部9は、判断部9dによる再判断を所定回数(N回)行わせたときに、同一の包埋ブロックBからの薄切片標本Hの再作製を中止すると共に、その旨をメモリ部9aに記憶させるようになっている。
【0067】
次に、このように構成された自動薄切片標本作製装置1により、種類の異なる複数の包埋ブロックBから、作製条件にしたがった必要枚数の薄切片標本Hをそれぞれ作製する自動薄切片標本作製方法について、以下に説明する。
本実施形態の自動薄切片標本作製方法は、保管庫2が有する複数の保管棚15に予めそれぞれ区分けされた状態で保管された複数の包埋カセットKのうち、選択した1つの包埋カセットKを保管庫2から取り出して切断位置Pに搬送する第1の搬送工程と、切断位置Pに搬送された包埋カセットKから個別データDを読み取る読取工程と、切断位置Pに搬送された包埋ブロックBを、所定の厚みで切断して薄切片B1を切り出す切断工程と、切断された薄切片B1を、水槽28に搬送すると共に水面に浮かべて伸展を開始させる第2の搬送工程と、伸展された薄切片B1を、スライドガラスG上に転写させて薄切片標本Hを作製する転写工程と、読取工程後、読み取った個別データDをメモリ部9aに記憶すると共に、記憶した個別データDをスライドガラスG上に記録する記録工程とを備えている。
【0068】
また、本実施形態の自動薄切片標本作製方法は、上記読取工程後、読み取った個別データDに基づいて包埋カセットKの種類を特定すると共に、条件テーブル9bとの照合を行って、搬送されてきた包埋カセットKに応じた作製条件で作製がなされるように上記各工程を行うものである。
上述した各工程を含め、本実施形態の自動薄切片標本作製方法について、図7に示すフローチャートを参照しながら以下に詳細に説明する。
【0069】
始めに作業者は、それぞれ種類が異なる包埋ブロックBが載置された複数の包埋カセットKを、予め保管庫2の保管棚15に保管しておく。また、スライドガラス収納棚35に未使用のスライドガラスGを収納しておく。次いで、作業者は、制御部9の条件テーブル9bに、保管庫2に保管した複数の包埋カセットKに応じた作製条件、即ち、各生体組織Sの種類に応じた切断条件、伸展条件及び作製枚数を予め入力しておく。
【0070】
上述した初期設定の終了後、薄切片標本Hの作製を開始する。
まず、制御部9は、ブロックハンドリングロボット3を制御して、保管庫2に保管されている複数の包埋カセットKの中から、選択した最初の包埋カセットKを取り出して切断位置Pであるブロック固定台20上に搬送させる第1の搬送工程を行う(S1)。即ち、ブロックハンドリングロボット3の昇降ステージ23及び水平ステージ25を適宜作動させて、把持ロボット26の一対のアーム26aを保管棚15に挿し込ませる。この際、制御部9は、同時に回転ステージ17を適宜回転させて、最初の包埋ブロックBがブロックハンドリングロボット3側に向くように制御を行う。
【0071】
次いで、一対のアーム26aを互いに接近させるように作動させて、包埋ブロックBが載置されている包埋カセットKを挟み込んで挟持固定する。次いで、包埋カセットKを挟持したまま、再度昇降ステージ23及び水平ステージ25を適宜作動させて、図3に示すように、包埋カセットKをブロック固定台20上に搬送すると共に、該ブロック固定台20上に包埋カセットKを載置する。
上述した第1の搬送工程により、ブロック固定台20に包埋カセットKが載置されると、該包埋カセットKに保持された包埋ブロックBは、図5に示すように、マイナスの電荷が与えられたキャリアテープ30に面接触した状態となる。
【0072】
また、ブロック固定台20上である切断位置Pに包埋カセットKが搬送されると、読取部4が包埋カセットKに印された個別データDを光学的に読み取る読取工程を行う(S2)と共に、読み取った個別データDを制御部9に出力する。
この読取工程によって、制御部9は個別データDに含まれる識別番号から、搬送されてきた包埋カセットKを複数の中から確実に識別することができる。また、制御部9は、個別データDに含まれる包埋ブロックBのデータ(実験動物の種類を示すデータ、実験動物の性別を示すデータ、実験動物のどの臓器から採取されたものであるかを示すデータ)から、包埋カセットKが保持している包埋ブロックBの種類がどのようなものであるかを確実に特定することができる(S3)。
【0073】
次に、制御部9は、特定した識別番号及び包埋ブロックBのデータを含む個別データDをメモリ部9aに記憶して作業ログ9cを作成する記憶工程を行う(S4)と共に、特定した包埋ブロックBの種類を条件テーブル9bに照合する(S5)。その結果、搬送されてきた包埋ブロックBの種類に応じた最適な作製条件の割り出しを行って、この条件で作製を行うことを決定する。つまり、切断条件及び伸展条件の決定を行う(S6、S7)。また、これと同時に作製枚数を決定する。そして、制御部9は、この決定した条件で切削機構5及び伸展機構6を作動させるように制御を行う。また、制御部9は、上述した記憶工程時に、決定した作製条件も併せてメモリ部9aに記憶させ、作業ログ9cを作成する。
【0074】
上述した読取工程後、切削機構5は、切断刃21をスライド操作してブロック固定台20上に搬送されてきた包埋ブロックBをシート状に切断する。この際、切削機構5は、制御部9から指示された切削条件に基づいて、薄切片B1の厚さ、切断速度又は引き角のうち、少なくとも1つをコントロールしながら切断を行う(S8)。これにより、包埋ブロックBを包埋している生体組織Sに最適な切断条件で切断することができる。
また、包埋ブロックBは、ブロック固定台20上に載置された時点で帯電装置によってプラスの電荷が与えられているので、この切断工程によって切り出された薄切片B1は切り出されたと同時にキャリアテープ30の下面に静電気によって吸着する。
【0075】
そして、吸着された薄切片B1は、テープ駆動機構によって移動するキャリアテープ30と共に伸展機構6の水槽28に向けて搬送される。このキャリアテープ30は、水槽28の上方まで移動すると、水槽28に貯留されている水W1の中に漬かるように水槽28に向けて弛む。そのため、搬送された薄切片B1は、キャリアテープ30と共に水W1の中に漬かるので、吸着が解かれて水面に浮かんだ状態となる。そして薄切片B1は、一定時間水面上に浮かぶことによって、切断時に発生した皺や丸みが表面張力によって取れて、伸展した状態となる。このように、第2の搬送工程によって伸展機構6に搬送された薄切片B1は、該伸展機構6によって伸展される。
【0076】
また、この伸展工程を行う際、伸展機構6は、制御部9から指示された伸展条件に基づいて、水W1の温度をコントロールしている。また、後述するスライドガラスハンドリングロボット8が、水面に浮かんでいる薄切片B1を、決められた時間で掬い取って伸展を終了させる。
このように、水W1の温度又は伸展時間を変更することで、包埋ブロックBを、包埋している生体組織Sに最適な伸展条件で伸展させることができる(S9)。
【0077】
一方、上述した薄切片B1の切り出し、搬送に合わせて、スライドガラスハンドリングロボット8は、図6に示すように、昇降ステージ41、水平ステージ43及びスライドガラス把持ロボット44を適宜作動させて、スライドガラス収納棚35から未使用のスライドガラスGを1枚取り出して、水槽28上方にて待機させる。
即ち、まず昇降ステージ41、水平ステージ43及びスライドガラス把持ロボット44を適宜作動させて、スライドガラス把持ロボット44の一対のアーム44aをスライドガラス収納棚35に挿し込ませる。次いで、一対のアーム44aを互いに接近させるように作動させて、未使用のスライドガラスGを1枚挟み込んで挟持固定する。そして、スライドガラスGを挟持したまま、再度昇降ステージ41、水平ステージ43及びスライドガラス把持ロボット44を適宜作動させて、スライドガラスGを引き出し、水槽28上方に移動させる。そしてこの状態のまま、水槽28に薄切片B1が搬送されてくるまで待機させる。
【0078】
そして、水槽28に薄切片B1が搬送されて伸展が開始し、制御部9で決定された伸展時間が経過した後、スライドガラスハンドリングロボット8は、昇降ステージ41、水平ステージ43及びスライドガラス把持ロボット44を適宜作動させて、把持しているスライドガラスGを用いて水面に浮かんでいる薄切片B1を掬い上げる。これにより、決定された伸展時間通りで伸展を終了させることができると共に、スライドガラスG上に薄切片B1を転写することができる。この転写工程の結果、薄切片標本Hが作製される。
【0079】
そして、スライドガラスハンドリングロボット8は、作製した薄切片標本Hを薄切片標本収納棚36に向けて搬送し始め、判断部9d及び記録部10の下方で一旦搬送を停止する。すると、判断部9dは、スライドガラスハンドリングロボット8で把持されている薄切片B1を光学的に観察し(S10)、その形状や表面状態等から制御部9で決定された作製条件通りに作製がされたか否かの良否を判断する判断工程を行う(S11)。また、判断部9dは、その判断結果を制御部9に送る。
【0080】
ここで、判断部9dが良品と判断した場合、制御部9はその旨を個別データDに付加した状態でメモリ部9aに記憶させて作業ログ9cに記載すると共に、記録部10に対して記録を行うように指示を出す。記録部10は、制御部9からの指示を受けて、スライドガラスGにレーザ光Lを照射してメモリ部9aに記憶された識別番号及び包埋ブロックBのデータを含む個別データDを印字する記録工程を行う(S12)。
これにより、スライドガラスGには、包埋カセットKに予め印されていた個別データDと同じものが記録された状態となる。つまり、薄切片標本Hと包埋カセットKに保持された包埋ブロックBとが、互いに対応付けされた状態となる。
この記録工程が終了した後、スライドガラスハンドリングロボット8は、再度搬送を開始して、薄切片標本Hを薄切片標本収納棚36に収納する。
【0081】
一方、上記判断工程時に、判断部9dが不良と判断した場合には、制御部9はその旨をメモリ部9aに記憶させて作業ログ9cに記載すると共に、再度同一の包埋ブロックBから薄切片B1を切り出させて薄切片標本Hを作製させる。そして、判断部9dで再判断を行わせる。
そして制御部9は、判断部9dが再判断で良品と判断した場合に、再判断の回数と併せてその旨をメモリ部9aに記憶させて作業ログ9cに記載を行わせる。そして、上述したと同様に、記録部10で記録を行わせた後、薄切片標本Hを薄切片標本収納棚36に収納させる。
【0082】
また、再判断を所定回数繰り返してもまだ判断部9dが良品と判断しない場合、制御部9は、薄切片標本Hの再作製を中止させる(S13)と共に、その旨をメモリ部9aに記憶させて作業ログ9cに記載する。
【0083】
上述したように、最初に搬送した包埋カセットKに保持された包埋ブロックBから、作製条件にしたがった必要枚数の薄切片標本Hの作製を終了した後、制御部9は、ブロックハンドリングロボット3を作動させて、使用済みの包埋カセットKを再度保管庫2に戻すように制御すると共に、次に選択した未使用の包埋カセットKを切断位置Pに搬送するようにブロックハンドリングロボット3の制御を行う。これにより、次々と途切れることなく、複数の包埋ブロックBから薄切片B1を必要枚数だけ切り出して、薄切片標本Hの作製を行える。
その結果、人手を介すことなく保管庫2に保管されている全ての包埋カセットKを適宜交換しながら、各包埋カセットKに保持されている包埋ブロックBから必要枚数の薄切片標本Hを自動的に作製することができる。
【0084】
よって、従来のものとは異なり、作業者の負担を軽減することができると共に作業時間の短縮化を図ることができる。また、人為的なミスの発生もなくすことができる。
特に、本実施形態の自動薄切片標本作製装置1及び自動薄切片標本作製方法によれば、作製された薄切片標本Hは、包埋カセットKと同じ個別データDが記録されて、元となる包埋ブロックBに対して完全に対応付けられた状態となっている。従って、作業者は、自動的に作製された薄切片標本Hを、どの包埋ブロックBから作製されたものであるのか容易且つ確実に照合することができ、高精度な品質管理を行うことができる。
【0085】
また、記録工程を行う際に、記録部10がスライドガラスGに対してレーザ光Lを照射することで、個別データDの印字を行っている。即ち、レーザーマーカーのように印字することができる。そのため、スライドガラスGに極力外力を加えることなく明瞭に印字でき、スライドガラスGの撓みや変形等を防止することができる。また、特筆すべきは、この後の工程で、キシレンやアルコール等の有機溶媒を使用したとしても、該有機溶媒に浸されることで、レーザ光で印字された文字が消えることがない。よって、極めて信頼性が高く、より高品質な薄切片標本を作製することができる。
【0086】
また、保管庫2を備えているので、作業者が予め複数の包埋カセットKを保管庫2内に保管しておくだけで、包埋カセットKの交換作業に関しても効率良く自動で行うことができる。従って、作業者の負担をさらに軽減することができると共に、作業時間の短縮化を図ることができる。
また、薄切片標本収納棚36を備えているので、次々と作製される薄切片標本Hを自動的に収納することができる。よって、この点からも作業者の負担を軽減でき、作業時間の短縮化を図ることができる。また、完成した薄切片標本Hが専用の収納棚に収納されるので、その後、薄切片標本Hを取り扱い易い。
【0087】
更に、本実施形態の自動薄切片標本作製装置1は、制御部9が、薄切片標本Hを作製する際の作製条件が予め入力されている条件テーブル9bを有している。つまり、各包埋カセットKが保持している包埋ブロックBの種類(より具体的には、包埋されている生体組織Sの種類)に応じて、最適な薄切片標本Hを作製するための条件テーブル9bを有している。
よって、薄切片標本Hの作製を行うにあたって、作業者自らが包埋ブロックBの種類を確認したり、事前に作製条件を調整したりする必要がない。この点からも、作業者の負担を軽減することができ、高品質な薄切片標本Hを作製することができる。
【0088】
また、作製条件の1つとして切断条件を挙げているので、生体組織Sが肝臓や骨や筋肉等のように、それぞれ硬さ等が異なる生体組織Sであったとしても、それぞれ最適な切断条件で薄切片B1を切り出すことができる。よって、生体組織Sに与えるダメージを最小にでき、高品質な薄切片標本Hを作製することができる。
また、作製条件のもう1つの条件として伸展条件を挙げているので、それぞれ硬さや吸水性等が異なる生体組織Sであったとしても、やはりそれぞれ最適な伸展条件で伸展を行うことができる。よって、生体組織Sを確実に伸展することができ、高品質な薄切片標本Hを作製することができる。
【0089】
また、メモリ部9aには、実際に搬送されてきた包埋カセットKの識別番号と、種類と、該包埋カセットKに対する作製条件とが次々と蓄積された状態で記憶され、これらが記載された作業ログ9cが作成されている。そのため、作業者は、この作業ログ9cを確認するだけで、実際の作業状況や過去の経歴等を一目で容易に確認することができる。従って、さらに高精度な品質管理を行うことができる。
特に、判断部9dによる判断結果を、個別データDに付加した状態で作業ログ9cを作成しているので、作業者は、実際に作製条件通りに薄切片標本Hが作製されたのか否かを確認することができる。よって、品質管理の精度をさらに高めることができると共に、良品と不良品とを容易に選別することができる。
【0090】
また、制御部9は、作製した薄切片標本Hが判断部9dで良品と判断されるまで、薄切片標本Hの作製を繰り返し行うので、良品とされた薄切片標本Hを効率良く数多く作製することができる。
また、制御部9は、所定回数作製し直しても、まだ作製条件に一致したとの判断が得られない場合には、同じ包埋ブロックBからの薄切片標本Hの再作製を中止すると共に。その旨をメモリ部9aに記憶させている。よって、何らかの原因により作製が正しく行われないときに、無駄な作業を続けてしまうことを防止することができる。よって、無駄な作業時間を無くすことができ、また、包埋ブロックBの無駄な消費を防止することができる。更に、その旨をメモリ部9aに記憶させるので、作業者が後に原因を特定し易い。
【0091】
また、ブロックハンドリングロボット3によって、いずれかの保管棚15に保管されている包埋カセットKを出し入れする際に、回転体16を回転軸L回りに回転させることで、外周面上に配されている複数の保管棚15を次々とブロックハンドリングロボット3側に向けることができる。このように、回転体16の外周面に保管棚15が設けられているので、狭い設置スペースで複数の保管棚15を効率良く多数設けることができる。よって、装置全体の小型化を図ることができる。また、包埋ブロックBを出し入れする際の、ブロックハンドリングロボット3の可動範囲を極力抑えることができる。このことからも、装置の小型化を図ることができ、構成の簡略化を図ることができる。
【0092】
なお、本発明の技術範囲は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0093】
例えば、レーザ光を照射することで記録を行うように記録部を構成したが、この場合に限られず、スライドガラス上に記録を行えれば、記録方法は何でも構わない。例えば、熱転写プリンタを記録部とし、個別データをスライドガラス上に直接転写して印刷を行っても構わない。この場合には、熱を加えてインクを昇華させて個別データを印刷可能であるので、印字濃度を自由に細かく設定でき、明瞭に印刷することができる。よって、見易く高品質な薄切片標本を作製することができる。
また、熱転写プリンタを使用する場合には、直接スライドガラス上に印刷するのではなく、一旦専用紙に個別データを印刷し、この印刷された専用紙をスライドガラス上に貼付しても構わない。この場合においても、同様に見易く高品質な薄切片標本を作製することができる。
【0094】
また、薄切片がスライドガラス上に転写された後に、個別データをスライドガラスに記録したが、この場合に限られず、先にスライドガラスに記録を行い、その後記録がされたスライドガラスで薄切片を水槽から掬い上げて薄切片標本を作製するようにしても構わない。
【0095】
また、上記実施形態において、同一の包埋ブロックから複数の薄切片標本を作製する場合、制御部が、記憶工程時にこれら複数の薄切片標本をそれぞれ区別するために、枝番号を共通の個別データに付加した状態でメモリ部に記憶させると共に、記録工程時に枝番号を付加した状態でスライドガラスに記録させるように記録部を制御しても構わない。
こうすることで、同一の包埋ブロックから複数の薄切片標本を作製した場合であっても、スライドガラスに印された記録を見るだけで、それぞれを明確に区別することができる。また、作業ログをより正確に作成することができる。従って、品質管理をより正確に行うことができる。
【0096】
また、包埋カセットに予め印した個別データとして、包埋ブロックのデータと識別番号とを両方含んだ場合を説明したが、少なくとも識別番号だけが印されていても構わない。また、条件テーブルがなくても構わない。
但し、上述したように、個別データ及び条件テーブルを共に備えることで、包埋カセットと薄切片標本とを対応付けさせるだけでなく、最適な作製条件で自動的に薄切片標本を作製できるので、より好ましい。
【0097】
また、保管庫及び薄切片標本収納棚を共に備えた構成にしたが、いずれか一方のみだけ備えても構わないし、両方共になくても構わない。この場合には、包埋カセットをブロックハンドリングロボットに作業者が手渡しても構わないし、スライドガラスハンドリングロボットから作製された薄切片標本を、作業者が受け取っても構わない。
但し、上述したように、保管庫及び薄切片標本収納棚を共に備えることが好ましい。
【0098】
また、第1の搬送手段及び転写手段を、それぞれブロックハンドリングロボット及びスライドガラスハンドリングロボットとして構成したが、このようなロボットに限られるものではない。また、キャリアテープに静電気を利用して薄切片を吸着させ、該キャリアテープによって薄切片を搬送するように第2の搬送手段を構成したが、この構成に限られるものではない。
【0099】
また、上記実施形態では、伸展機構として水を貯留する水槽を設けただけの構成にしたが、この場合に限られるものではない。例えば、図8に示すように、水槽28に隣接して、お湯W2を貯留する第2の水槽50と、ホットプレート51とを設けた伸展機構6としても構わない。
この場合には、スライドガラスハンドリングロボット8によって、水伸展が終了した薄切片B1をスライドガラスG上に載置した後、該薄切片B1を第2の水槽50に搬送してお湯(液体)W2に浮かべる。このお湯伸展によって、薄切片B1が伸び易くなるので、水W1による伸展では取り切れなかった残りの皺や丸み等を取ることができる。よって、さらに高品質な薄切片標本Hを作製することができる。なお、この場合には、薄切片B1をお湯W2に浮かべるまでが、第2の搬送工程となる。
【0100】
更に、このお湯伸展後、薄切片B1を載置したスライドガラスGをホットプレート51上に載置することで、スライドガラスGを通して薄切片B1にさらに熱を加えることができる。これにより、お湯伸展で取り切れなかった皺や丸み等をさらに取ることができる。
このように、第2の水槽50及びホットプレート51を設けることで、より高品質な薄切片標本Hを作製できるので、より好ましい。
また、伸展条件として、お湯W2を利用するか否か、ホットプレート51を利用するか否か、またこれらの使用時間等についても伸展条件として、条件テーブル9b内に入力しておくと良い。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】本発明に係る自動薄切片標本作製装置で用いられる包埋カセット及び包埋ブロックの斜視図である。
【図2】本発明に係る自動薄切片標本作製装置の一実施形態を示す構成ブロック図である。
【図3】図2に示す保管庫及びブロックハンドリングロボットの側面図である。
【図4】図3に示す保管庫及びブロックハンドリングロボットの上面図である。
【図5】図2に示す切削機構、切片搬送機構、記録部及び伸展機構の側面図である。
【図6】図2に示すスライドガラスハンドリングロボットの側面図である。
【図7】図2に示す自動薄切片標本作製装置により、薄切片標本を作製する際のフローチャートである。
【図8】図6に示す伸展機構の他の例を示す図であって、水伸展、お湯伸展、ホットプレートによる伸展が可能な伸展機構を示す図である。
【符号の説明】
【0102】
B 包埋ブロック
B1 薄切片
D 個別データ
G スライドガラス(基板)
H 薄切片標本
K 包埋カセット
P 切断位置
S 生体組織(生体試料)
W1 水(液体)
W2 お湯(液体)
1 自動薄切片標本作製装置
2 保管庫
3 ブロックハンドリングロボット(第1の搬送手段)
4 読取部(読取手段)
5 切削機構(切断手段)
6 伸展機構(伸展手段)
7 切片搬送機構(第2の搬送手段)
8 スライドガラスハンドリングロボット(転写手段)
9 制御部(制御手段)
9a メモリ部(記憶部)
10 記録部(記録手段)
28 水槽(貯留槽)
36 薄切片標本収納棚(収納棚)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも識別番号を含んだ個別データが予め印された包埋カセットに保持され、生体試料が包埋剤に包埋された複数の包埋ブロックから、それぞれ薄切片標本を作製する自動薄切片標本作製装置であって、
複数の前記包埋カセットの中から任意に選択された包埋カセットを切断位置に搬送可能な第1の搬送手段と、
前記包埋カセットが前記切断位置に搬送された後、前記包埋ブロックを所定の厚みで切断してシート状の薄切片を切り出す切断手段と、
前記包埋カセットが前記切断位置に搬送された際に、前記個別データを読み取る読取手段と、
液体が貯留された貯留槽を有し、前記薄切片を伸展させる伸展手段と、
前記切断手段により切断された前記薄切片を、前記貯留槽に搬送すると共に液面に浮かべる第2の搬送手段と、
前記伸展手段により伸展された前記薄切片を、基板上に転写させて前記薄切片標本を作製する転写手段と、
前記読取手段で読み取られた前記個別データを記憶する記憶部を有する制御手段と、
該制御手段からの指示を受けて、記憶された前記個別データを前記基板上に記録する記録手段とを備えていることを特徴とする自動薄切片標本作製装置。
【請求項2】
請求項1に記載の自動薄切片標本作製装置において、
前記制御手段は、同一の前記包埋ブロックから複数の前記薄切片標本を作製する際に、これら複数の薄切片標本をそれぞれ区別する枝番号を前記個別データに付加した状態で、前記記憶部に記憶させると共に、前記基板上に記録するように前記記録手段に指示をだすことを特徴とする自動薄切片標本作製装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の自動薄切片標本作製装置において、
前記記録手段は、レーザ光を照射して前記個別データを前記基板上に印字することを特徴とする自動薄切片標本作製装置。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の自動薄切片標本作製装置において、
前記記録手段は、熱転写プリンタであり、前記個別データを前記基板上に転写して印刷することを特徴とする自動薄切片標本作製装置。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の自動薄切片標本作製装置において、
前記記録手段は、前記個別データを専用紙に転写して印刷する熱転写プリンタを有し、該熱転写プリンタで印刷された専用紙を前記基板上に貼付することを特徴とする自動薄切片標本作製装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の自動薄切片標本作製装置において、
前記包埋カセットを出し入れ可能に複数保管する保管庫を備え、
前記制御手段は、任意に選択した前記包埋カセットを前記保管庫から取り出して前記切断位置に搬送させると共に、前記薄切片を必要枚数切り出した後、該包埋カセットを保管庫に戻して、次の包埋カセットを取り出すように第1の搬送手段を制御することを特徴とする自動薄切片標本作製装置。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載の自動薄切片標本作製装置において、
前記転写手段は、前記薄切片標本を複数収納する収納棚を有し、
前記制御部は、作製した前記薄切片標本を、前記収納棚に収納するように前記転写手段を制御することを特徴とする自動薄切片標本作製装置。
【請求項8】
少なくとも識別番号を含んだ個別データが予め印された包埋カセットに保持され、生体試料が包埋剤に包埋された複数の包埋ブロックから、それぞれシート状の薄切片を切り出すと共に、該薄切片を基板上に転写させて薄切片標本を作製する自動薄切片標本作製方法であって、
複数の前記包埋カセットの中から任意に選択された包埋カセットを切断位置に搬送する第1の搬送工程と、
前記切断位置に搬送された前記包埋カセットから前記個別データを読み取る読取工程と、
前記切断位置に搬送された前記包埋ブロックを、所定の厚みで切断してシート状の薄切片を切り出す切断工程と、
切断された前記薄切片を、液体が貯留された貯留槽に搬送すると共に液面に浮かべて伸展を開始させる第2の搬送工程と、
伸展された前記薄切片を、前記基板上に転写させて前記薄切片標本を作製する転写工程と、
前記読取工程後、読み取った前記個別データを記憶部に記憶すると共に、記憶した個別データを前記基板上に記録する記録工程とを備えていることを特徴とする自動薄切片標本作製方法。
【請求項9】
請求項8に記載の自動薄切片標本作製方法において、
前記記録工程は、同一の前記包埋ブロックから複数の前記薄切片標本を作製する際に、これら複数の薄切片標本をそれぞれ区別する枝番号を前記個別データに付加した状態で、前記記憶部に記憶すると共に、前記基板上に記録することを特徴とする自動薄切片標本作製方法。
【請求項10】
請求項8又は9に記載の自動薄切片標本作製方法において、
前記記録工程の際、レーザ光を照射して前記個別データを前記基板上に印字することを特徴とする自動薄切片標本作製方法。
【請求項11】
請求項8又は9に記載の自動薄切片標本作製方法において、
前記記録工程の際、熱転写プリンタにより前記個別データを前記基板上に転写して印刷することを特徴とする自動薄切片標本作製方法。
【請求項12】
請求項8又は9に記載の自動薄切片標本作製方法において、
前記記録工程の際、熱転写プリンタにより前記個別データを専用紙に転写して印刷し、印刷された専用紙を前記基板上に貼付することを特徴とする自動薄切片標本作製方法。
【請求項13】
請求項8から12のいずれか1項に記載の自動薄切片標本作製方法において、
前記第1の搬送工程の際、前記包埋カセットが出し入れ可能に予め複数保管された保管庫から、任意に選択した包埋カセットを取り出して前記切断位置に搬送すると共に、前記薄切片を必要枚数切り出した後、該包埋カセットを保管庫に戻して、次の包埋カセットを再度取り出すことを特徴とする自動薄切片標本作製方法。
【請求項14】
請求項8から13のいずれか1項に記載の自動薄切片標本作製方法において、
前記転写工程の際、作製した前記薄切片標本を、該薄切片標本を複数収納可能な収納棚に収納することを特徴とする自動薄切片標本作製方法。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−212386(P2007−212386A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−35053(P2006−35053)
【出願日】平成18年2月13日(2006.2.13)
【出願人】(000002325)セイコーインスツル株式会社 (3,629)
【Fターム(参考)】