説明

自動薄切装置及び自動薄切片方法

【課題】試料ブロックの既切削面を傷つけるおそれが少なく、従前にセットした装置と異なる装置に試料ブロックをセットする場合であっても、試料ブロックの既切削面をナイフの仮想切削面に非接触状態でかつ容易に平行となるよう配置できる。
【解決手段】傾斜角可変手段により既切削面B2の傾斜角を調整可能な状態で試料ブロックBを支持する試料ブロックステージ10と、ダミーブロックDを支持するダミーブロックステージ11と、試料ブロックステージに支持された試料ブロックとダミーブロックステージに支持されたダミーブロックに対して相対移動されて、試料ブロック及びダミーブロックをそれぞれ切削可能なナイフ12と、試料ブックステージに支持された試料ブロックの既切削面B2とダミーブロックステージに支持されたダミーブロックのナイフによる切削面D2との傾斜角のずれを検知するオートコリメータ13とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、理化学実験や顕微鏡観察等に用いられる薄切片標本を作製する際に用いられる自動薄切装置および自動薄切方法に関し、特に、切削途中または薄切片採取済の試料ブロックを、再度試料ブロックステージにセットして、試料ブロックの既切削面に連続する薄切片を採取することができる自動薄切装置及び自動薄切方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
理化学実験や顕微鏡観察に用いられる薄切片標本は、厚さが数μm(例えば、3μm〜5μm)の薄切片を、スライドガラス等の基板上に固定させたものである。薄切片標本は、一般的に、ミクロトームを利用して作製されている。ここで、ミクロトームを利用した薄切片標本を作製する方法について説明する。
【0003】
まず、ホルマリン固定された生物や動物等の生体試料をパラフィン置換した後、更に周囲をパラフィンで固めて、ブロック状態の包埋ブロックを作製する。次に、この包埋ブロックを専用の薄切装置であるミクロトームにセットして、粗削りを行う。この粗削りによって、包埋ブロックの表面を平滑とすると共に、実験や観察の対象物である包埋された生体試料を表面に露出させる。
【0004】
この粗削りが終了した後、本削りを行う。これは、ミクロトームが有する切削刃により、包埋ブロックを上述した厚みで極薄にスライスする工程である。これにより、薄切片を得ることができる。
【0005】
次いで、本削りによって得られた薄切片を伸展させる伸展工程に移る。つまり、本削りによって作製された薄切片は、上述したように極薄の厚みでスライスされたものであるので、皺がついた状態や、丸まった状態(例えば、Uの字状)となってしまう。そこで、この伸展工程によって、皺や丸みを取って伸ばす必要がある。
一般的には、水と湯を利用して伸展させる。始めに、本削りによって得られた薄切片を水の中に浸漬させる。これにより、生体試料を包埋しているパラフィン同士のくっつきを防止しながら、薄切片の大きな皺や丸みをとる。その後、薄切片を湯の中に浸漬させる。これにより、薄切片が延び易くなるので、水による浸漬では取りきれなかった残りの皺や丸みをとることができる。
【0006】
そして、湯による伸展が終了した薄切片を、スライドガラス等の基板で掬って基板上に載置する。なお、この時点で仮に伸展が不十分であった場合には、基板ごとホットプレート等に乗せて熱を加える。これにより、薄切片をより伸展させることができる。
最後に、薄切片を乗せた基板を、乾燥器内に入れて乾燥させる。この乾燥により、伸展で付着した水分が蒸発すると共に、薄切片が基板上に固定される。その結果、薄切片標本を作製することができる。
【0007】
このようにして作製された薄切片標本は、例えば、創薬における前臨床等に使用される。つまり、薄切片に含まれる生体試料に対して、新薬を投与して、その効果や副作用等の分析や観察に使用される。
【0008】
ところで、作製された薄切片標本については、染色処理を行った後、観察するが、薄切片に含まれる生体試料に例えば病変等が見つかったときには、さらにその生体試料について詳しく調べる必要が出てくる。つまり、生体試料に対し、例えば、ある特定の蛋白質だけを染める染色処理を施したり、RNAを染めたりする等の処理を行って、追加観察することが必要になる。そのときには、現に使用した薄切片標本とは別に、新たな薄切片標本を用意しなければならず、このため、一旦、試料ブロックステージから取り外した薄切片採取済の試料ブロックを、再度試料ブロックステージにセットし、試料ブロックの既切削面から、さらに連続する複数の薄切片を採取することが必要になる。
【0009】
従来、試料ブロックステージから取り外した薄切片採取済の試料ブロックからさらに複数の薄切片を採取する方法の一つとして、薄切片採取済の試料ブロックを、再度、ミクロトームの試料ブロックステージにセットし、実際に、ナイフにより薄切を行い、切削面の形状を観察しながら、手動により、ホルダ傾斜角可変手段を介して試料ブロックホルダの傾きを変えることで、試料ブロックの切削面をナイフの仮想切削面に平行となるように配置させる、いわゆる面合わせを行い、その後薄切片を切削することが行われていた。
【0010】
しかしながら、このような薄切片の採取方法であると、所定の切削面を得るまでに、数百μm程度の予備的な薄切が必要となり、既切削面から数百ミクロンの離れた位置の薄切片しか採取できない問題があった。また、基本的に、手動によって面合わせを行うものであるから、経験の浅い作業者にとっては時間がかかり、かつ大変な辛苦を伴うものであった。
【0011】
このような問題に対処するものとして、下記の特許文献1には、送り台を、動力駆動装置を介して切削面へ送り、試料ブロック表面とナイフとが接触したときを検出する。また、送り台を、動力駆動装置を介して面センサの方向へ送り、試料ブロック表面と面センサとが接触したときを検出する。これら2つの検出値を基に、試料ブロックの送り量を決定する装置が開示されている。
また、他の対処方法として、特許文献2には、配向・位置合わせ可能な試料ホルダ(試料ブロックホルダの位置を指示する装置が開示されている。
【特許文献1】特表2002−539424号公報
【特許文献2】特開2004−354389号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
前述した従来の技術にあっては、それぞれ以下の問題があった。
すなわち、特許文献1に記載された技術にあっては、試料ブロックの既切削面にナイフや面センサを接触させて検知する方法であり、試料ブロックの既切削面を傷つけるおそれがあった。
また、特許文献2に記載された技術にあっては、薄切片採取済の試料ブロックを再度装置にセットする場合には、比較的容易に面あわせができるものの、異なる装置にセットするときには、面合わせができない問題があった。
【0013】
本発明は、このような事情に考慮してなされたもので、その目的とするところは、試料ブロックの既切削面を傷つけるおそれが少なく、また、従前にセットした装置と異なる装置に試料ブロックをセットする場合であっても、試料ブロックの既切削面をナイフの仮想切削面に平行となるように容易に配置させることができ、もって、切削途中または薄切片採取済の試料ブロックの既切削面に連続する薄切片を採取することができる自動薄切装置及び自動薄切方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、前記課題を解決するために、以下の構成を採用した。
すなわち、本発明にかかる自動薄切装置は、薄切片採取済または切削途中の試料ブロックを、再度試料ブロックステージに取り付けて、該試料ブロックの既切削面に連続する薄切片を採取する自動薄切装置であって、傾斜角可変手段により前記既切削面の傾斜角を調整可能な状態で前記試料ブロックを支持する前記試料ブロックステージと、ダミーブロックを支持するダミーブロックステージと、前記試料ブロックステージに支持された前記試料ブロックと前記ダミーブロックステージに支持された前記ダミーブロックに対して相対移動されて、該試料ブロック及びダミーブロックをそれぞれ切削可能なナイフと、前記試料ブックステージに支持された前記試料ブロックの前記既切削面と前記ダミーブロックステージに支持された前記ダミーブロックの前記ナイフによる切削面との傾斜角のずれを検知するオートコリメータと、を備えることを特徴とする。
【0015】
本発明によれば、例えば、薄切片採取済の試料ブロックあるいは別装置で粗削りを完了した切削途中の試料ブロックを、試料ブロックステージの試料ブロックホルダに取り付けて固定する。ついで、ダミーブロックに対してナイフを相対移動させて、ダミーブロックを切削する。そして、このダミーブロックの切削面と試料ブックステージに取り付けた試料ブロックの既切削面との傾斜角のずれ量を、オートコリメータで検知する。
【0016】
オートコリメータで検知した傾斜角のずれ量に基づいて、試料ブロックステージに設けた傾斜角可変手段により、試料ブロックの既切削面がダミーブロックの切削面に対して平行となるように、試料ブロックを角度調整する。つまり、試料ブロックの既切削面がナイフの仮想切削面に平行となるように面合わせを行う。
【0017】
そして、角度調整された試料ブロックに対して、ナイフまたは試料ブロックの高さ調整を行った後、試料ブロックに対してナイフを相対移動させる。これにより、試料ブロックの既切削面から、それに連続する所定厚さの薄切片を切削することができる。
【0018】
本発明にかかる自動薄切装置は、前記ホルダ傾斜角可変手段が、前記試料ブロックホルダの縦方向の傾きを調整するピッチ角調整部(ここでいう縦、横は、ナイフに対する相対的な移動方向を基準として定める)と、前記試料ブロックホルダの横方向の傾きを調整するロール角調整部とを備えることを特徴とする。
本発明によれば、ホルダ傾斜角可変手段をピッチ角調整部とロール角調整部とを備える構成になっており、試料ブロックの位置を計算する制御系として、互いに直交する直交座標系が使えるので、計算上有利になる。
【0019】
本発明にかかる自動薄切装置は、前記試料ブロックステージと前記ダミーブロックステージとを共通のガイドレールに載置し、それら両ステージを、少なくとも前記ナイフに対向する位置から前記オートコリメータに対向する位置までそれぞれ移動させるステージ移動手段を備えることを特徴とする。
本発明によれば、ナイフ及びコリメータをともに固定して置き、ステージ移動手段により、試料ブロックステージとダミーブロックステージとを移動させることにより、それらステージを、ナイフやオートコリメータに対向させることができる。両ステージを移動させる構成はほとんど同じであるから、それらステージを固定するとともにナイフやオートコリメータを移動させるような機構に比べて、構成が簡単になりかつ加工精度を上げることができる。
【0020】
本発明にかかる自動薄切片標本作製装置は、前記試料ブロックステージが、前記試料ブロックの高さを調整する高さ調整部を備えていることを特徴とする。
本発明によれば、高さ調整部によって試料ブロックの高さを適宜値に調整することができる。これにより、ダミーブロックを切削するときには、ダミーブロックの切削面よりも試料ブロックの既切削面を予め下げておくことができ、また、既切削面から薄切片を切り出す場合には、該薄切片の厚さを任意に設定することができる。
【0021】
本発明にかかる自動薄切装置は、前記オートコリメータと電気的に接続され、該オートコリメータからの検知信号に応じて、前記試料ブロックの前記既切削面が前記ダミーブロックの前記切削面と平行になるように、前記ピッチ角調整部と前記ロール角調整部をそれぞれ制御する角度制御部を備えることを特徴とする。
本発明によれば、オートコリメータからの検知信号に応じて、試料ブロックの既切削面のピッチ角およびロール角を自動的に調整することができる。つまり、自動運転が可能になる。
【0022】
本発明にかかる自動薄切方法は、薄切片採取済または切削途中の試料ブロックを、再度試料ブロックステージに取り付けて、該試料ブロックの既切削面に連続する薄切片を採取する自動薄切方法であって、試料ブロックステージに前記試料ブロックを取り付けて固定する試料ブロック取付工程と、試料ブロックステージに隣接するダミーブロックステージに取り付けダミーブロックを、該ダミーブロック及び前記試料ブロックに対して相対移動されるナイフによって切削するダミーブロック切削工程と、前記試料ブックステージに取り付けた前記試料ブロックの前記既切削面と前記ダミーブロックステージに取り付けた前記ダミーブロックの前記ナイフによる切削面との傾斜角のずれ量を検知する傾斜角ずれ量検知工程と、前記傾斜角ずれ量検知工程で検知した、前記試料ブロックの前記既切削面と前記ダミーブロックの前記切削面との傾斜角のずれ量に基づいて、前記試料ブロックステージに設けた傾斜角可変手段により、前記試料ブロックの前記既切削面が前記ダミーブロックの前記切削面に対して平行となるように、前記試料ブロックを角度調整する角度調整工程と、前記角度調整工程で角度調整された前記試料ブロックに対して前記ナイフを相対移動させて、試料ブロックの既切削面から連続して所定厚さの薄切片を切削する切削工程と、を備えたことを特徴とする。
【0023】
本発明によれば、ダミーブロックをナイフで実際に切削し、この切削面に、試料ブロックの既切削面が平行となるように調整しているので、試料ブロックの既切削面がナイフの仮想切削面に平行となるように、試料ブロックを角度調整することができる。これによって、試料ブロックの既切削面から、それに連続する所定厚さの薄切片を切削することができる。
【発明の効果】
【0024】
この発明によれば、試料ブロックの既切削面を傷つけるおそれが少なく、従前にセットした装置と異なる装置に試料ブロックをセットする場合であっても、試料ブロックの既切削面をナイフの仮想切削面に平行となるように容易に配置させることができ、もって、薄切片採取済の試料ブロックの既切削面から、それに連続する薄切片を採取することができる。また、粗削りと本削りを分離することも可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明に係る自動薄切装置の実施の形態を、図1〜図4を参照して説明する。なお、本実施の形態では、生体試料として、鼠等の実験動物から採取した生体組織を例に挙げて説明する。
本実施の形態の自動薄切装置1は、生体組織Zが包理剤に包埋された、薄切片採取済または切削途中の試料ブロックB(以下、単に「試料ブロックB」と略する場合もある)から薄切片B1を採取するとともに、採取した薄切片B1をスライドガラス(基板)G上に転写させて薄切片標本Hを作製する装置である。
【0026】
すなわち、自動薄切装置1は、図1に示すように、試料ブロックBから薄切片B1を切削する自動薄切装置本体3と、該自動薄切装置本体3により切削され、かつ、薄切片ハンドリング機構39によって搬送された薄切片B1を、少なくとも水(液体)Wの中に浸漬させて伸展させる伸展機構4と、伸展された薄切片B1を、スライドガラスG上に転写させて薄切片標本Hを作製するスライドガラスハンドリングロボット5とを備えている。
【0027】
前記自動薄切装置本体3は、試料ブロックBから所定厚みのシート状の薄切片B1を切り出して作製する装置である。
すなわち、自動薄切装置本体3は、図2にも示すように、試料ブロックBを載置固定する試料ブロックステージ10と、ダミーブロックDを支持するダミーブロックステージ11と、試料ブロックステージ10に支持された試料ブロックBとダミーブロックステージ11に支持されたダミーブロックDに対して相対移動されて、試料ブロックB及びダミーブロックDをそれぞれ切削可能なナイフ12と、試料ブックステージ10に支持された試料ブロックBの既切削面B2とダミーブロックステージ11に支持されたダミーブロックDのナイフ12による切削面D2との傾斜角のずれを検知するオートコリメータ13と、オートコリメータ13からの検知信号に応じて、試料ブロックステージ10に組み込まれた傾斜角可変手段14を制御する角度制御部15を備えている。
【0028】
試料ブロックBは、図3にも示すように、ホルマリン固定された生体組織Z内の水分をパラフィン置換した後、さらに周囲をパラフィン等の包理剤によってブロック状に固めた包埋ブロックを包埋カセット上に固定したものである。これにより、生体組織Zがパラフィン内に包埋された状態となっている。
【0029】
試料ブロックステージ10は、図3にも示すように、固定されたナイフ12に向かうX方向に延びたガイドレール21に沿って移動可能かつ昇降モータ(高さ調整部)22Aの作動により上下方向へ移動可能なZステージ22と、Zステージ22上に取り付けられ、X方向に延びる軸線を中心とする円弧面に沿ってロールモータ(ロール角調整部)23Aの作動により移動自在とされた(ナイフ12に対する移動方向を基準として横方向の傾きを調整自在とされた)ロールステージ23と、ロールステージ23上に取り付けられ、Y方向に延びる軸線を中心とする円弧面に沿ってピッチモータ(ピッチ角調整部)24Aの作動により移動自在とされた(ナイフ12に対する移動方向を基準として縦方向の傾きを調整自在とされた)ピッチステージ24と、ピッチステージ24上に取り付けられた試料ブロックホルダ25とから構成されている。また、ガイドレール21は、ナイフ12を越えた反対側にまで延びた状態で取り付けられている。
【0030】
また、前記ロールモータ23A及びピッチモータ24Aは、試料ブロックホルダ25の角度、つまり、試料ブロックホルダ25によって支持される試料ブロックBの既切削面B2の角度を調整する前記傾斜角可変手段14を構成している。
【0031】
ダミーブロックステージ11は、前記ガイドレール21に沿って移動可能になっている。ダミーブロックステージ11の上部には、ダミーブロックDを支持するダミーブロックホルダ27が取り付けられている。また、ダミーブロックステージ11の下部には昇降モータ28が組み込まれており、この昇降モータ28が作動されることによって、ダミーブロックホルダ27により支持されたダミーブロックDが、高さ調整されるようになっている。
【0032】
試料ブロックステージ10は、図2に示すように、モータ29の作動によって、ガイドレール21上を、少なくともナイフ12に対向する位置からオートコリメータ13に対向する位置まで往復移動されるようになっている。また、ダミーブロックステージ11も、モータ30の作動によって、ガイドレール21上を、少なくともナイフ12に対向する位置からオートコリメータ13に対向する位置まで往復移動されるようになっている。
すなわち、これらモータ29,30は、両ステージ10、11を、少なくともナイフ12に対向する位置からオートコリメータ13に対向する位置までそれぞれ移動させるステージ移動手段31を構成している。
【0033】
なお、ここでは、試料ブロックステージ10とダミーブロックステージ11を別々のモータ29,30によって、ガイドレール21上を、個別に移動させる構成にしているが、これに限られることなく、ガイドレール21上に共通ベースを設け、この共通ベースで、試料ブロックステージ10及びダミーブロックステージ11を支持するとともに、共通ベースに一台のモータを組み込み、このモータで共通ベース上の両ステージ10,11を一体に移動させる構成にしても良い。
【0034】
前記ナイフ12は、フレームから延びるアーム(ともに図示略)の先端に固定的に取り付けられている。
なお、本実施の形態では、ナイフ12およびオートコリメータ13を固定し、これらナイフ12等に対して試料ブロックステージ10やダミーブロックステージ11側を移動させる構成としたが、このような構成に限られるものではない。例えば、試料ブロックステージ10やダミーブロックステージ11を固定し、それら試料ブロックステージ10等に対してナイフ12やオートコリメータ13側を移動させる構成にしても構わないし、ステージ側とナイフ12及びオートコリメータ13側とを共に移動させる構成にしても良い。
【0035】
図2に示すように、オートコリメータ13は、単色光あるいは多色光を発する光源33と、光源33に隣接されて設けられかつピンホール34aを有する遮光板34と、遮光板34のピンホール34aを貫通する光を平行光に換えるコリメータレンズ35と、コリメータレンズ35によって向きを変えられた光を、試料ブロックステージ10上の試料ブロックBの既切削面B2や、ダミーブロックステージ11上のダミーブロックDの切削面D2側に反射させるとともに、それら試料ブロックBの切削面B2等からの反射光を透過させるハーフミラー36と、ハーフミラー36の上方に配置された結像レンズ37と、ハーフミラー36を透過する平行光が結像レンズ37により結像される位置に設けられたフォトセンサ38とを備えている。
【0036】
そして、オートコリメータ13では、ハーフミラー36からの平行光を反射する、試料ブロックBの既切削面B2やダミーブロックDの切削面D2の反射面の角度を、フォトセンサ38上のスポット位置として表示でき、反射面の微小な角度変化を、スポット位置のずれとし、X方向成分(ロール角の変化成分)とY方向成分(ピッチ角の変化成分)に分けて表示できる(図2、図4参照)。
また、図2に示すように、オートコリメータ13の側方には、レーザー変位計等からなる高さ計測手段61が設けられ、この高さ計測手段61によって、試料ブロックBの既切削面B2やダミーブロックDの切削面D2の高さが無接触の状態で、計測できるようになっている。
【0037】
なお、試料ブロックBの既切削面B2やダミーブロックDの切削面D2は、凹凸が極めて少ない鏡面状態になっており、ここで反射される平行光は、フォトセンサ38上で結像される際、輝度の高いスポット位置Sとして認識できる。
【0038】
角度制御部15は、オートコリメータ13の検知信号から得られる情報、つまり、ロール成分情報とピッチ成分情報とをそれぞれ電気的な制御信号に変換し、これら制御信号をロールモータ23Aとピッチモータ24Aにそれぞれ個別に送ることで、試料ブロックホルダ25に支持される試料ブロックBの既切削面B2の傾きを、任意の角度に制御するものである。
【0039】
試料ブロックステージ10の上方には、例えば、ガイドレール21と同じX方向に延びる水平ガイドレール40が図示しない支持部によって取り付けられている。水平ガイドレール40の下方に位置した状態で、自動薄切装置本体3側から順に水(液体)Wを貯留した水槽41と、未使用のスライドガラスGを収納するスライドガラス収納棚42と、作製された薄切片標本Hを収納する収納棚43とが設けられている。
【0040】
また、水平ガイドレール40には、該水平ガイドレール40に沿って移動可能な水平ステージ45が取り付けられている。そして、この水平ステージ45には、Z方向に移動可能であると共に、試料ブロックBから切り出された薄切片B1を、例えば静電気を利用して先端に吸着可能なアーム部46が取り付けられている。なお、静電気に限られず、吸引力や接着剤等を利用して薄切片B1を捕らえても構わない。
また、アーム部46は、吸着した薄切片B1を、自動薄切装置本体3から水槽41まで搬送し、貯留された水Wの中に浸漬させるようになっている。すなわち、上述した水平ガイドレール40、水平ステージ45及びアーム部46は、前記薄切片ハンドリング機構39を構成している。
【0041】
また、水平ガイドレール40には、前記水平ステージ45に加え、該水平ガイドレール40に沿って移動可能な水平ステージ50が取り付けられている。なお、この水平ステージ50は、単に水平方向に移動するだけでなく、Z軸周りに回転可能とされている。この水平ステージ50には、Z方向に直交する一軸周りに回転可能な状態でスライドガラス把持ロボット51が取り付けられている。また、スライドガラス把持ロボット51は、一定距離離間した状態で平行に配されると共に互いの距離を接近離間自在に調整可能な一対のアーム部51aを備えている。
【0042】
そしてこれら水平ステージ50及びスライドガラス把持ロボット51をそれぞれ適宜作動させることで、スライドガラス収納棚42から未使用のスライドガラスGを把持すると共に、水槽41内に浮いている薄切片B1を、把持したスライドガラスG上に転写して薄切片標本Hを作製することができるようになっている。更には、作製した薄切片標本Hを収納棚43に収納することもできるようになっている。
これら上述した水平ガイドレール40、水平ステージ50及びスライドガラス把持ロボット51は、前記スライドガラスハンドリングロボット5を構成している。
なお、本実施の形態では、水平ガイドレール40が、薄切片ハンドリング機構39及びスライドガラスハンドリングロボット5を共に構成する兼用部品となっている。
【0043】
次に、このように構成された自動薄切装置1により、薄切片採取済の試料ブロックB、あるいは、事前に粗削りまで完了した試料ブロックBを、試料ブロックステージ10にセットして、試料ブロックBの既切削面B2に連続する薄切片B1を採取する、自動薄切方法について説明する。
【0044】
まず、薄切片採取済の試料ブロックBまたは粗削りが完了した試料ブロックBを、人手により、あるいは図示せぬブロックハンドリングロボットを利用して、試料ブロックステージ10の試料ブロックホルダ25に取り付けて固定する(試料ブロック取付工程)。
また、ダミーブロックDについても同様に、試料ブロックステージ10に隣接するダミーブロックステージ11のダミーブロックホルダ27に取り付けて固定する。
【0045】
ついで、ダミーブロックステージ11に組みつけてある昇降モータ29を作動させて、ナイフ12による切削が可能な高さとなるよう、ダミーブロックDの高さを調整する。尚、図2では、ナイフによる切り込み厚さをtで表している。そして、モータ30を作動させてダミーブロックステージ11をナイフ12側に移動させ、ナイフ12によってダミーブロックDを切削する(ダミーブロック切削工程)。
【0046】
なお、一度で、鮮明な切削面が得られない場合には、昇降モータ29によってダミーブロックDの高さ調整を行いながら、モータ30を作動させてダミーブロックDをガイドレール21に沿って往復動させ、これにより、ナイフ12による切削を複数回行う。
このとき、ガイドレール21上を、ダミーブロックステージ11のみ移動させても、あるいは試料ブロックステージ10とともに一体的に移動させても良い。試料ブロックステージ10とともに一体的に移動させるときには、ダミーブロックDの高さをナイフ12の刃の高さよりも高くなるように調整するとともに、試料ブロックBの高さをナイフ12の刃の高さよりも低くなるように設定することが必要である。
【0047】
ついで、オートコリメータ13により、試料ブロックステージ10に取り付けた前記試料ブロックBの既切削面B2と、ダミーブロックステージ11に取り付けたダミーブロックDの切削面D2との傾斜角のずれ量を検知する(傾斜角ずれ量検知工程)。
このとき、先に、試料ブロックBの既切削面B2のスポット位置S1を調べるか、ダミーブロックDの切削面D2のスポット位置S2を調べるかは任意である。
【0048】
具体的な傾斜角のずれ量の検知方法について説明すると、例えば、最初に、試料ブロックBがオートコリメータ13と対向する位置に来るように、モータ29を作動させて、試料ブロックステージ10を移動させる(図2参照)。この状態で、光源33を発光させて、そこから発せられる光を、遮光板34のピンホール34a、コリメータレンズ35及びハーフミラー36を介して、試料ブロックBの既切削面B2に導き、この既切削面B2を照射する。照射された光は既切削面B2で反射し、ハーフミラー36を透過した後、結像レンズ37で屈曲された後、フォトセンサ38上で結像される。この結像位置は、フォトセンサ38により、試料ブロックBの既切削面B2によるスポット位置S1として検知できる。
【0049】
一方、モータ29、30をそれぞれ作動させて、試料ブロックBの代わりにダミーブロックがオートコリメータ13と対向する位置に来るように、試料ブロックステージ10とダミーブロックステージ11とを入れ替える。
ダミーブロックステージ11上のダミーブロックDの切削面D2に対しても、前述と同様な操作を繰り返し、ダミーブロックDの切削面D2によるスポット位置S2を検知する。
これら両スポット位置S1、S2のずれが、そのまま、試料ブロックBの既切削面B2とダミーブロックDの切削面D2と傾きのずれとなる(図4参照)。
【0050】
角度制御部15では、オートコリメータ13から送られる検知信号からロール成分情報とピッチ成分情報を得ることができ、この得られたロール成分情報とピッチ成分情報をそれぞれ電気的な制御信号に変換する。そして、これら制御信号をロールモータ23Aとピッチモータ24Aにそれぞれ送り、試料ブロックホルダ25に支持された試料ブロックBの既切削面B2の傾きを調整する。これにより、試料ブロックホルダ25に支持された試料ブロックBの既切削面B2を、ダミーブロックDの切削面D2と平行となるよう、試料ブロックBの角度を調整することができる(角度調整工程)。
【0051】
このように試料ブロックBの角度の調整が完了したとき、試料ブロックBの既切削面B2は、ナイフ12による仮想切削面と平行となっている。つまり、面合わせが完了したこととなる。
その後、面合わせが完了した試料ブロックBに対して、高さ計測手段61により既切断面B2の高さを計測し、その計測値と、予め、測定したダミーブロックDの切削面D2の高さとの差に基づいて、試料ブロックステージ10に組み込まれた昇降モータ22Aを操作し、試料ブロックBを昇降させてナイフ12による切削が可能な高さに調整する。つまり、試料ブロックBの既切断面B2の高さを、ダミーブロックDの切削面D2の高さよりも、ナイフ12による切り込み厚さ分だけ高くする。ついで、試料ブロックステージ10を、ガイドレール21に沿って移動させ、ナイフ12により、試料ブロックBの前記既切削面B2から連続して所定厚さの薄切片(例えば、5μm)を切削する(切削工程)。
なお、試料ブロックBの切削のための高さ調整は、面合わせが完了した後に限られることなく、ナイフ14の交換が終わった後においても、有効である。ナイフを交換したときには、刃先の高さが20μm〜30μm程度ずれてしまうからである。
【0052】
以上の操作によって、薄切片採取済の試料ブロックB、あるいは、事前に粗削りまで完了した試料ブロックBに対して、既切削面B2から連続して薄切片B1を採取することができる。
【0053】
このように採取した薄切片B1は、試料ブロックBの切削開始位置近傍に先端が待機したアーム部46により、ナイフ12によって試料ブロックBから切り出され始めた時点で静電気によって吸着される。そして、試料ブロックステージ10の移動に合わせて、アーム部46が取り付けられた水平ステージ45が水平ガイドレール40に沿って動く。これにより、薄切片B1に外力を加えることなく、アーム部46の先端に、薄切片B1を確実に吸着させることができる。
【0054】
薄切片ハンドリング機構39は、アーム部46の先端に薄切片B1を吸着した後、水平ステージ45を移動させて薄切片B1を所定位置まで搬送する。そして、伸展機構4が有する水槽41の上方にアーム部46が達したときに、該アーム部46をZ方向に下降させて先端を水Wの中に入れる。これにより、アーム部46の先端に吸着されていた薄切片B1は、吸着が解かれて水Wの中に浸漬されて浮かんだ状態となる。水Wの中に浸漬された薄切片B1は、表面張力により切削時に生じた皺や丸みが取れて延び、伸展した状態となる。
【0055】
一方、上述した薄切片B1の切り出し及び搬送に合わせて、スライドガラスハンドリングロボット5は、水平ステージ50及びスライドガラス把持ロボット51を適宜作動させて、スライドガラス収納棚42から未使用のスライドガラスGを1枚取り出し、水槽41上方にて待機している。
すなわち、まず水平ステージ50及びスライドガラス把持ロボット51を適宜作動させて、スライドガラス把持ロボット51の一対のアーム部51aをスライドガラス収納棚42に挿し込ませる。次いで、一対のアーム部51aを互いに接近させるように作動させて、未使用のスライドガラスGを1枚挟み込んで挟持固定する。そして、スライドガラスGを挟持したまま、再度水平ステージ50及びスライドガラス把持ロボット51を適宜作動させて、スライドガラスGを引き出し、水槽41上方に移動させる。そしてこの状態のまま、水槽41に薄切片B1が搬送されてくるまで待機する。
【0056】
そして、上述したように水槽41内に薄切片B1が搬送されて、水Wの中に浸漬された状態が一定時間経過した後、図1に示すように、スライドガラスハンドリングロボット5は、水平ステージ50及びスライドガラス把持ロボット51を適宜作動させて、把持しているスライドガラスGを用いて水Wに浮かんでいる薄切片B1を掬い上げる。これにより薄切片B1は、スライドガラスG上に転写された状態となる。その結果、薄切片標本Hが作製される。最後にスライドガラスハンドリングロボット5は、作製した薄切片標本Hを収納棚43まで搬送し、該収納棚43に入れて保管する。
【0057】
なお、本発明は、前述の実施の形態に限られることなく、発明の主旨を逸脱しない範囲で種々設計変形可能である。
例えば、前記実施の形態では、ガイドレール21上に試料ブロックステージ10とダミーブロックステージ11を組み付けているが、ダミーブロックステージ11は、通常、ガイドレール21から外しておき、必要なときのみガイドレール21上に組みつけても良い。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明に係る自動薄切装置の実施の形態を示す構成図である。
【図2】図1に示す自動薄切装置本体を示す概略構成図である。
【図3】図1に示す自動薄切片装置の試料ブロックステージを示す斜視図である。
【図4】図1に示す自動薄切片装置のオートコリメータの作用を説明する図である。
【符号の説明】
【0059】
B試料ブロック B1薄切片 B2既切削面 Dダミーブロック D2切削面 Z生体組織(生体試料) 1自動薄切装置 3自動薄切装置本体 4伸展機構 5スライドガラスハンドリングロボット 10試料ブロックステージ 11ダミーブロックステージ 12ナイフ 13オートコリメータ 14傾斜可変手段 15角度制御部 21ガイドレール22Zステージ 22A昇降モータ(高さ調整部) 23ロールステージ 23Aロールモータ(ロール角調整部)24ピッチステージ 24Aピッチモータ(ピッチ角調整部) 25試料ブロックホルダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄切片採取済または切削途中の試料ブロックを、再度試料ブロックステージに取り付けて、該試料ブロックの既切削面に連続する薄切片を採取する自動薄切装置であって、
傾斜角可変手段により前記既切削面の傾斜角を調整可能な状態で前記試料ブロックを支持する前記試料ブロックステージと、
ダミーブロックを支持するダミーブロックステージと、
前記試料ブロックステージに支持された前記試料ブロックと前記ダミーブロックステージに支持された前記ダミーブロックに対して相対移動されて、該試料ブロック及びダミーブロックをそれぞれ切削可能なナイフと、
前記試料ブックステージに支持された前記試料ブロックの前記既切削面と前記ダミーブロックステージに支持された前記ダミーブロックの前記ナイフによる切削面との傾斜角のずれを検知するオートコリメータと、
を備えることを特徴とする自動薄切装置。
【請求項2】
前記傾斜角可変手段は、前記既切削面の縦方向の傾きを調整するピッチ角調整部と、前記既切削面の横向きの傾きを調整するロール角調整部とを備えることを特徴とする請求項1記載の自動薄切装置。
【請求項3】
前記試料ブロックステージと前記ダミーブロックステージとを共通のガイドレールに載置し、それら両ステージを、少なくとも前記ナイフに対向する位置から前記オートコリメータに対向する位置までそれぞれ移動させるステージ移動手段を備えることを特徴とする請求項2記載の自動薄切装置。
【請求項4】
前記試料ブロックステージが、前記試料ブロックの高さを調整する高さ調整部を備えていることを特徴とする請求項3記載の自動薄切装置。
【請求項5】
前記オートコリメータと電気的に接続され、該オートコリメータからの検知信号に応じて、前記試料ブロックの前記既切削面が前記ダミーブロックの前記切削面と平行になるように、前記ピッチ角調整部と前記ロール角調整部をそれぞれ制御する角度制御部を備えることを特徴とする請求項3または4記載の自動薄切装置。
【請求項6】
薄切片採取済または切削途中の試料ブロックを、再度試料ブロックステージに取り付けて、該試料ブロックの既切削面に連続する薄切片を採取する自動薄切方法であって、
試料ブロックステージに前記試料ブロックを取り付けて固定する試料ブロック取付工程と、
試料ブロックステージに隣接するダミーブロックステージに取り付けたダミーブロックを、該ダミーブロック及び前記試料ブロックに対して相対移動されるナイフによって切削するダミーブロック切削工程と、
前記試料ブックステージに取り付けた前記試料ブロックの前記既切削面と前記ダミーブロックステージに取り付けた前記ダミーブロックの前記ナイフによる切削面との傾斜角のずれ量を検知する傾斜角ずれ量検知工程と、
前記傾斜角ずれ量検知工程で検知した、前記試料ブロックの前記既切削面と前記ダミーブロックの前記切削面との傾斜角のずれ量に基づいて、前記試料ブロックステージに設けた傾斜角可変手段により、前記試料ブロックの前記既切削面が前記ダミーブロックの前記切削面に対して平行となるように、前記試料ブロックを角度調整する角度調整工程と、
前記角度調整工程で角度調整された前記試料ブロックに対して前記ナイフを相対移動させて、試料ブロックの既切削面から連続して所定厚さの薄切片を切削する切削工程と、
を備えたことを特徴とする自動薄切方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−218618(P2007−218618A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−36621(P2006−36621)
【出願日】平成18年2月14日(2006.2.14)
【出願人】(000002325)セイコーインスツル株式会社 (3,629)
【Fターム(参考)】