説明

自動薄切装置

【課題】連続して稼動しても薄切片標本作製に失敗するおそれが少なく、しかも、人手を介在させることなく、複数の試料ブロックから連続して薄切片を切削する。
【解決手段】交換指令信号に基づき、切削台2に取り付けてある試料ブロック3を取り外し代わりに新たな試料ブロックを切削台に取り付ける試料ブロック着脱手段4と、切削台に取り付けた試料ブロックに対してナイフ5を相対移動させて所定厚さの薄切片を切削する切削手段7と、切削された薄切片を観察する観察手段10と、観察手段によって得られた観察データと予め入力された試料ブロック切断面データとを比較することにより薄切片の良否を判断し、薄切片を良と判断したときに試料ブロック着脱手段に、試料ブロックを交換させる旨の交換指令信号を発信する評価手段とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、理化学実験や顕微鏡観察等に用いられる薄切片標本を作製する際に用いられる自動薄切装置および自動薄切方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
理化学実験や顕微鏡観察に用いられる薄切片標本は、厚さが数μm(例えば、3μm〜5μm)の薄切片を、スライドガラス等の基板上に固定させたものである。薄切片標本は、一般的に、ミクロトームを利用して作製されている。ここで、ミクロトームを利用した薄切片試料を作製する方法について説明する。
【0003】
まず、ホルマリン固定された生物や動物等の生体試料をパラフィン置換した後、更に周囲をパラフィンで固めて、ブロック状態の包埋ブロックを作製する。次に、この包埋ブロックを専用の薄切装置であるミクロトームにセットして、粗削りを行う。この粗削りによって、包埋ブロックの表面を平滑とすると共に、実験や観察の対象物である包埋された生体試料を表面に露出させる。
【0004】
この粗削りが終了した後、本削りを行う。これは、ミクロトームが有する切断刃により、包埋ブロックを上述した厚みで極薄にスライスする工程である。これにより、薄切片を得ることができる。
【0005】
次いで、本削りによって得られた薄切片を伸展させる伸展工程に移る。つまり、本削りによって作製された薄切片は、上述したように極薄の厚みでスライスされたものであるので、皺がついた状態や、丸まった状態(例えば、Uの字状)となってしまう。そこで、この伸展工程によって、皺や丸みを取って伸ばす必要がある。
一般的には、水と湯を利用して伸展させる。始めに、本削りによって得られた薄切片を水の中に浸漬させる。これにより、生体試料を包埋しているパラフィン同士のくっつきを防止しながら、薄切片の大きな皺や丸みをとる。その後、薄切片を湯の中に浸漬させる。これにより、薄切片が伸び易くなるので、水による浸漬では取りきれなかった残りの皺や丸みをとることができる。
【0006】
そして、湯による伸展が終了した薄切片を、スライドガラス等の基板で掬って基板上に載置する。なお、この時点で仮に伸展が不十分であった場合には、基板ごとホットプレート等に乗せて熱を加える。これにより、薄切片をより伸展させることができる。
最後に、薄切片を乗せた基板を、乾燥器内に入れて乾燥させる。この乾燥により、伸展で付着した水分が蒸発すると共に、薄切片が基板上に固定される。その結果、薄切片標本を作製することができる。
【0007】
このように作製された薄切片標本は、生物、医学分野等で使用されている。従来から行われていた細胞の形状から組織の正常/異常を診断する方法をはじめとして、近年においてはゲノム科学の進歩により、網羅的且つ組織学的に遺伝子や蛋白の発現を見るニーズが増加している。そのため、ますます多くの薄切片標本を効率良く作製する必要が出てきた。ところが、従来上述した工程のほとんどが、高度な技術や経験を要するものであるため、熟練した作業者の手作業でしか対応できず、時間や手間がかかるものであった。
【0008】
そこで、このような不具合を少しでも解消するため、上述した工程の一部分である粗削り工程と本削り工程とを自動的に行う薄切装置が提供されている(例えば、特許文献1参照)。
この装置は、セットされた包埋ブロックを切断して薄切片を作製する工程と、作製した薄切片をキャリアテープによって搬送してスライドガラス上に転写させる工程と、スライドガラスごと薄切片を伸展装置まで搬送して伸展を行う工程とを、自動的に行っている。
この装置によれば、作業者の負担を軽減することができると共に、作業者による人為的なミスもなくすことができ、良好な薄切片標本を作製することができる。
【特許文献1】特開2004−28910号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記特許文献1に記載の装置では、以下の課題が残されていた。
すなわち、前述した装置は、自動的に、予めセットされた包埋ブロックから薄切片を作製すると共に、伸展を終わらせた状態で該薄切片をスライドガラス上に固定させることができる装置であるが、装置稼動の際に、生体試料に対する前処理の状況、生体試料の種類、切削方向の違いなど予測不可能な条件変化があって、一定の条件下で、切削およびその後の伸展処理等を行うことはきわめて困難であった。このため、薄切片標本作製に失敗する確率が高く、自動化された装置であるにも拘わらず、連続して稼動させることができなかった。
【0010】
本発明は、このような事情に考慮してなされたもので、その目的とするところは、連続して稼動しても薄切片標本作製に失敗するおそれが少なく、しかも、人手を介在させることなく、複数の試料ブロックから連続して薄切片を切削することができる自動薄切装置および自動薄切方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、前記課題を解決するために、以下の構成を採用した。
すなわち、本発明にかかる自動薄切装置は、交換指令信号に基づき、切削台に取り付けてある試料ブロックを取り外し代わりに新たな試料ブロックを切削台に取り付ける試料ブロック着脱手段と、前記切削台に取り付けた試料ブロックに対してナイフを相対移動させて所定厚さの薄切片を切削する切削手段と、切削された前記薄切片を観察する観察手段と、前記観察手段によって得られた観察データにより前記薄切片の良否を判断し、薄切片を良と判断したときに前記試料ブロック着脱手段に、試料ブロックを交換させる旨の交換指令信号を発信する評価手段と、を備えたことを特徴とする。
【0012】
本発明によれば、切削した薄切片に対して、その場で、評価手段により良否の判断を行い、良と判断した場合には、試料ブロック着脱手段により新たな試料ブロックに交換し、この新たな資料ブロックから薄切片を切削し、否と判断した場合には、切削台に取り付けてある試料ブロックから再び薄切片を切削する。つまり、評価手段により良と判断した場合のみ試料ブロックを交換し、否の場合には、同じ試料ブロックから再度薄切片を切削するので、連続して稼動しても薄切片標本作製に失敗するおそれは極めて少ない。
【0013】
本発明にかかる自動薄切装置は、前記観察データが、落射照明により、鏡面反射する媒体の表面に配置された前記薄切片を、周囲の前記媒体ごと撮像して得られた画像データであることを特徴とする。
本発明によれば、落射照明による光が薄切片にあたる場合には、散乱されるためその反射光は弱くなる。一方、光が薄切片の周囲の媒体に当たったときは、正反射されるため、反射光は強くなる。この結果、輝度の差によって薄切片の外形や内部の孔の存在を把握することができる。
【0014】
本発明にかかる自動薄切装置は、前記観察データが、透過照明により、透明媒体中に配置された前記薄切片を、周囲の前記透明媒体ごと撮像して得られた画像データであることを特徴とする。
本発明によれば、透過照明による光が薄切片を通過する場合には、薄切片によって光が吸収されたり散乱されたりするため、透過光は弱くなる。一方、光が薄切片の周囲の透明媒体を通過するときは、光がほとんどそのまま通過するため、透過光は強くなる。この結果、輝度の差によって薄切片の外形や内部の孔の存在を把握することができる。
【0015】
本発明にかかる自動薄切装置は、前記評価手段が、輝度情報を基に前記画像データを2値化処理して得られた明暗データにより、前記薄切片の良否を判断することを特徴とする。
本発明によれば、薄切片の画像データを2値化処理することによって、薄切片部分は暗く、薄切片の外側は明るく表示することができる。これにより、薄切片の外形等を、より明確に把握することができる。
【0016】
本発明にかかる自動薄切装置は、前記評価手段が、前記観察手段によって得られた観察データと予め入力された試料ブロック切断面データとを比較することにより前記薄切片の良否を判断し、薄切片を良と判断したときに前記試料ブロック着脱手段に、試料ブロックを交換させる旨の交換指令信号を発信することを特徴とする。
本発明によれば、観察手段によって得られた観察データと予め入力された試料ブロック切断面データとを比較することにより、薄切片の良否を判断するため、良否の基準となる試料ブロック切断面データがある分、良否の判断が容易に行える。
【0017】
本発明にかかる自動薄切装置は、前記評価手段が、輝度情報を基に前記画像データを2値化処理して得られた明暗データと前記試料ブロック切断面データとを比較することにより前記薄切片の良否を判断することを特徴とする。
本発明によれば、薄切片の画像データを2値化処理することによって、薄切片部分は暗く、薄切片の外側は明るく表示することができること、並びに、良否の基準となるものがあることから、薄切片の良否の判断を容易に行うことができる。
【0018】
本発明にかかる自動薄切装置は、前記評価手段において、前記明暗データと前記試料ブロック切断面データとを比較する際に、明暗データから得られる仮想薄切片画像と試料ブロック切断面データから得られる試料ブロック切断面画像とを、面積要素、重心の位置要素、パターンマッチング要素のうちの少なくとも一つの要素で比較することを特徴とする。
この発明によれば、仮想薄切片画像と試料ブロック切断面画像とを、面積要素、重心の位置要素、パターンマッチング要素のうちの少なくとも一つの要素で比較するから、試料ブロック切断面画像と仮想薄切片画像との違いを定量的に表すことができ、薄切片の良否判断を、より一層、容易に行うことができる。
【0019】
本発明にかかる自動薄切方法は、切削台に取り付けてある試料ブロックを取り外し代わりに新たな試料ブロックを切削台に取り付ける試料ブロック着脱工程と、前記切削台に取り付けた試料ブロックに対してナイフを相対移動させて所定厚さの薄切片を切削する切削工程と、切削された前記薄切片を観察する観察工程と、前記観察工程で得られた観察データと予め入力された試料ブロック切断面データとを比較することにより薄切片の良否を判断する評価工程とを備え、前記評価工程で良と判断した場合に、前記試料ブロック着脱工程へ移行した後、前記切削工程、前記観察工程、前記評価工程へ順に移行し、前記評価工程で否と判断した場合に、前記試料ブロック着脱工程へ移行することなく、再び、前記切削工程、前記観察工程、前記評価工程へ順に移行することを特徴とする。
【0020】
本発明によれば、評価手段により良と判断した場合のみ試料ブロックを交換し、否の場合には、同じ試料ブロックから再度薄切片を切削するので、連続して稼動しても薄切片標本作製に失敗するおそれは極めて少ない。
【発明の効果】
【0021】
この発明によれば、連続して稼動しても薄切片標本作製に失敗するおそれが少なく、しかも、人手を介在させることなく、複数の試料ブロックから連続して薄切片を切削することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は自動薄切装置の構成を示す図、図2は観察手段を示す図、図3は自動薄切装置の制御系の機能ブロック図である。自動薄切装置1は、交換指令信号に基づき、切削台2に取り付けてある試料ブロック3を取り外し代わりに新たな試料ブロック3を切削台2に取り付ける、ブロックハンドリングロボットからなる試料ブロック着脱手段4と、切削台2に取り付けた試料ブロック3に対してナイフ5を相対移動させて所定厚さの薄切片6を切削する切削手段7と、切削手段7によって切削された薄切片6を搬送する搬送手段8と、搬送手段8を介して水槽9まで搬送された薄膜片6を観察する観察手段10とを備える。なお、ブロック保管庫11には予め複数の試料ブロック3が所定位置に収納されているが、これら試料ブロック3は、包埋カセット3a上に包埋ブロック3bが固定されて作られる。
【0023】
試料ブロック着脱手段4は、図示しない制御部からの指令信号に基づき、ブロック保管庫11に収納された複数の試料ブロック3から必要な試料ブロック3を順次選択し、後段の切削手段7の切削台2に供給すると同時に、薄切片6を取り終えた試料ブロック3をブロック保管庫11の所定位置に戻すものである。
【0024】
切削手段7は、前記切削台2とナイフ5とを備える。切削台2は、試料ブロック着脱手段4から試料ブロックを受け取るブロック受け取り位置(A)と、上部に取り付けた試料ブロック3をナイフ5によって切削する切断終了位置(B)との間を、図示しない案内レールに沿って移動できるようになっている。なお、図1は、切削台2が切断終了位置(B)に至った状態を示している。また、切削台2の試料ブロック固定面は、水平面上の互いに直交するX・Y軸周りの傾きが調整可能になっており、これにより、試料ブロック3を任意の方向へ傾けて、所望の切削面が得られるようになっている。また、ナイフ5は上下動機構によって高さ調整が可能になっており、これにより、薄切片6の切削厚が任意に設定できるようになっている。
【0025】
搬送手段8は、切削手段7によって切削された薄切片6を水槽9内に浸るように搬送するものであり、例えば、支柱に旋回可能に支持された旋回アーム8aの先端に陰圧を利用して薄切片6を吸着して搬送するものや、薄切片6を接着材あるいは静電気を利用して貼り付ける貼着部を備えたベルトによって搬送するもの等が利用される。
【0026】
観察手段10は、図2に示すように、表面反射する媒体(例えば水)Cの表面の法線に平行なコリメート光をあてる落射照明系11と、薄切片6を周囲の媒体Cごと撮像するCCD等の撮像素子12と、媒体Cの表面の法線と平行な光軸をもち、薄切片6や周囲の媒体からの反射光を撮像素子12上で結像させる結像レンズ13とを備える。落射照明系11は、平行光を作り出す面発光源11aと、面発光源11aから照射された平行光を薄切片6側に反射させるとともに、薄切片6や周囲の媒体からの反射光を透過するハーフミラー11bとからなっている。
なお、光源としては、面発光源11aのほか、点光源からの光をピンホールおよびコリメータレンズを通過させて平行光にかえるものであってもよい。また、ハーフミラー11bによって薄切片6側に屈曲された平行光が媒体Cの表面に対して垂直に向かうように、面発光源11aおよびハーフミラー11bの位置が設定されている。
【0027】
自動薄切装置の制御系について説明すると、図3に示すように、切削手段5には、試料カセット3上の包埋ブロック3aとそれを切削する刃との間の相対速度(切削速度)を制御したり、刃の送り量を制御する切削制御部15が設けられている。切削制御部15には、前記試料ブロック着脱手段4の制御部および評価手段16がそれぞれ電気的に接続され、評価手段16は、前記観察手段10および試料ブロック着脱手段4の制御部にそれぞれ電気的に接続されている。
【0028】
評価手段11は、観察手段10によって得られた観察データと予め入力された試料ブロック切断面データとを比較することにより薄切片6の良否を判断し、薄切片を良と判断したときに試料ブロック着脱手段4に、試料ブロックを交換させる旨の交換指令信号を発信するものである。
【0029】
次に、上記構成の自動薄切装置を用いた自動薄切方法について、図4に示すフローチャートを参照しながら説明する。なお、以下の処理は、すべて人手を介することなく、コンピュータにより自動的に行われる。
まず、試料ブロック着脱手段4によって試料ブロック3を切削台2上にセットする(ステップS1)。セットが完了すると、その旨の情報が、試料ブロック着脱手段4の制御部から、信号の形で切削手段7の切削制御部15へ出力され、切削手段7による粗削りが開始されて、包埋ブロック3bの表面を平滑面とし、かつ、実験や観察の対象物である包埋された生体試料を表面に露出させる(ステップS2)。そして、本削りに移行し、高さ調整されたナイフ5によって、包埋ブロック3aの切削表面を所定の厚みで極薄にスライスする(ステップS3)。
【0030】
その後、得られた薄切片6を搬送手段8によって水槽9まで搬送し、図5に示すように薄切片6が伸展したところで、該薄切片6を観察する(ステップS4、S5)。すなわち、観察手段10の落射照明により、水面に浮かんだ薄切片6を、周囲の水ごと撮像素子12によって撮像する。
【0031】
このとき、落射照明による光が薄切片6にあたる場合には、薄切片表面が多少の凹凸があって光が散乱したり光が吸収されたりするため、そこからの反射光は弱くなる。一方、光が薄切片6の周囲の媒体(図5では水面)にあたったときは、正反射されるため、反射光は強くなる。このため、図6(a)に示すように、周囲に比べて薄切片6のある箇所が暗く表示される画像が得られる。
なお、この画像において、符号Zaは水面部分、Zbは薄切片部分、Zbaは薄切片内の生体試料部分、Zbbは薄切片内の破れた部分、Zbcは薄切片の欠けた部分をそれぞれ示す。
【0032】
得られた画像は画像データの形で、評価手段16へ送られる。評価手段16では、観察手段10から送られた画像データを、輝度情報を基に2値化処理し、得られた明暗データと前記試料ブロック切断面データとを比較し、切削された薄切片6が良か否かを判断する(ステップS6)。
【0033】
すなわち、図6(a)に示す画像において、例えば、A―A線に沿った部分から図6(b)に示すような輝度情報が得られ、この輝度情報に対し、予め設定した閾値Dを基準として、輝度がD以上の部分は白、輝度がDより低い部分は黒となるよう、2値化処理する。この処理によって得られた画像を図7に示す。この画像の明暗データと予め入力された試料ブロック切断面データとを、面積要素、重心の位置要素、パターンマッチング要素のうちの少なくとも一つの要素で比較する。
これにより、薄切片6の欠陥、例えば、薄切片6の皴や欠けによる外形異常、薄切片の破れ、パラフフィン部分からの生体試料の抜けがあるかどうかを判断することができる。
【0034】
例えば、面積要素で比較するときは、図7に示す明暗データのうち黒で表示している面積(薄切片の面積(a×b))と、予め、入力された試料ブロックの切断された面積とを比較し、黒で表示している面積(薄切片の面積)が試料ブロックの切断された面積の例えば95パーセント以上であれば「良」、95パーセントに満たない場合には「否」と判断する。
また、重心の位置要素で比較するときは、図7の黒で表示している部分の重心位置が、試料ブロックの切断された部分の重心位置からどの程度ずれているかどうか判断し、そのずれ量がある値以内であれば「良」、ずれ量がある値を越していれば「否」と判断する。 またパターンマッチング要素で比較するときには、画像をあるサイズに区分けし、それぞれ区分けした部分で、像が合致するかどうか判断する。そして、像が合致していない部分が全体に対してどの程度あるか判断し、その割合がある値以内であれば「良」、割合がある値を越していれば「否」と判断する。
【0035】
上記した3つの判断要素は、そのうち1つでも、2つでもあるいは3つすべて採用してもよい。例えば、3つを採用する場合には、3つの判断要素のうち2つが「良」ならば、結果的に「良」、3つの判断要素とも「否」あるいは1つ判断要素のみが「良」で、他の2つが「否」の場合には結果的に「否」と判断してもよく、その組み合わせは任意である。
なお、このように切削された薄切片6が良か否かの判断は、画像データのうちの輝度情報を中心に行うので、落射照明系11の光源としては、散乱現象が顕著にわれる、波長に短い青色系統の光を発するものの方が好ましい。
【0036】
上記評価手段で「良」と判断した場合には、続いて、ステップS7へ移行し、続いて処理しなければならない試料ブロックがあるかどうか判断し、処理しなければならない試料ブロックがある場合には、評価手段16から試料ブロック着脱手段4へ、試料ブロック3を交換させる旨の交換指令信号を発信する。すると、試料ブロック着脱手段4では、現在ある試料ブロックを取り外し(ステップS8)、代わりに新たな試料ブロックを切削台2上にセットする(ステップS1)。以下、ステップS2〜S6を繰り返す。一方、ステップS7で処理しなければならない試料ブロックがないと判断した場合には、処理を終了する。
【0037】
また、前記ステップS6で、評価手段16による判断が「否」の場合には、1をカウントし、カウント数が所定値に達したか否か判断する(ステップS9,10)。すなわち、このカウント数は、本削りを何回行ったかを表す数である。カウント数が所定値に達していない場合は、ステップS3に移行し、再度、本削りを行う。一方、カウント数が所定値に達した場合には、試料ブロック3に、もはや削り代がないとして、エラー表示の出力信号を発した後(ステップS11)、終了する。なお、粗削りが終わった時点で、本削りの回数を表すnの値は、「0」にリセットされる。
なお、その後、必要に応じて、水槽9上に浮かんだ、薄切片6をステンドグラスにより掬い取り、その後の、湯伸展工程および乾燥工程を経て、薄切片標本を作製する。
【0038】
このような自動薄切方法であると、評価手段16により「良」と判断した場合のみ試料ブロック3を交換し、「否」の場合には、同じ試料ブロック3から再度薄切片6を切削するので、連続して稼動しても薄切片標本作製に失敗するおそれは極めて少ない。
また、ブロック保管庫11に予め収納された複数の試料ブロック3から、連続して薄切片6を切削することができる。
【0039】
なお、本発明は、前述の実施形態に限られることなく、発明の主旨を逸脱しない範囲で種々設計変形可能である。
例えば、前記実施形態では、得られた薄切片6について評価手段16により「良」か「否」かの判断を行うのに、水槽9に浮かべた薄切片6、つまり、水伸展後のものを対象に行っているが、これに限られることなく、切断した直後、あるいは、湯伸展後やホットプレートを用いた伸展後の薄切片6を対象に判断してもよい。
【0040】
また、前記実施形態では、観察のため、薄切片6を載せる鏡面反射する媒体として水槽9に貯めた水を利用しているが、これに限られることなく、図8に示すような、スライドガラス21を利用してもよく、あるいは、図9に示すような、例えば鏡面仕上げされた金属箔製の載置部22aを有するベルト22を利用してもよい。
また、前記実施形態では、評価手段16において、観察手段によって得られた観察データと比較するのに、予め、人手によって入力された試料ブロック切断面データを基準としているが、これに限られることなく、図1中2点差線で示すように、切削された試料ブロックをCCD等の撮像手段23で撮像し、そこから取り組んだ試料ブロック3の外形の画像データを基準として利用してもよい。
【0041】
また、前記実施形態では、観察手段10によって得られた観察データと予め入力された試料ブロック切断面データとを比較することにより、評価手段16によって薄切片6の良否を判断しているが、これに限られることなく、観察手段10によって得られた観察データのみによって薄切片6の良否を判断しても良い。その場合、良否の判断は、薄切片6の外形形状が滑らか直線あるいは曲線となっているか、あるいは薄切片6の内部に生体試料部分が抜けた孔があるかないか等を基準に行う。
勿論、観察手段10によって得られた観察データのみによって薄切片6の良否を判断するときも、観察データを2値化処理して得られた明暗データを基に判断しても良い。
【0042】
また、前記実施形態では、薄切片の良否を判断するための観察データを得るのに、落射照明系11によって照射された光を利用して、鏡面反射する媒体の表面に配置された前記薄切片を、周囲の前記媒体ごと撮像して得ているが、これに限られることなく、図10に示すように、透過照明系23によって照射された光を利用して、透明媒体(例えば水、スライドガラス、透明テープ等が該当)Dの内部あるいは表面に配置された薄切片6を、周囲の透明媒体Dごと撮像して得ても良い。なお、透過照明系23の光源23aとしては、例えば面発光素子など、照射対象物を均一に照明できる構成であれば足り、必ずしも平行光である必要はない。また、透過照明系23で照射する場合には、薄切片6がある程度薄いときに、薄切片6自体を光が透過するため、検出が難しくおそれがある。その場合には、映像素子12の輝度の分解能を、例えば10〜16ビット程度に高めることで対処可能である。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の実施形態の自動薄切装置の全体構成を示す図である。
【図2】本発明の実施形態の観察手段を説明する側面図である。
【図3】本発明の実施形態の自動薄切装置の制御系の機能ブロック図である。
【図4】本発明の実施形態の自動薄切装置を用いた自動薄切方法を説明するフローチャートである。
【図5】本発明の実施形態の自動薄切装置により切削された薄切片を説明する斜視図である。
【図6】本発明の実施形態の自動薄切装置の評価手段の処理法を説明するための図である。
【図7】本発明の実施形態の自動薄切装置の評価手段の処理法を説明するための図である。
【図8】本発明の実施形態の観察手段による薄切片の観察方法の他の例を示す斜視図である。
【図9】本発明の実施形態の観察手段による薄切片の観察方法の他の例を示す斜視図である。
【図10】本発明の実施形態の観察手段による薄切片の観察方法のさらに他の例を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0044】
1 自動薄切装置 2 切削台 3 試料ブロック 4 試料ブロック着脱手段 5 ナイフ 6 薄切片 7 切削手段 10 観察手段 16 評価手段 C 表面反射する媒体 D 透明媒体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
交換指令信号に基づき、切削台に取り付けてある試料ブロックを取り外し代わりに新たな試料ブロックを切削台に取り付ける試料ブロック着脱手段と、
前記切削台に取り付けた試料ブロックに対してナイフを相対移動させて所定厚さの薄切片を切削する切削手段と、
切削された前記薄切片を観察する観察手段と、
前記観察手段によって得られた観察データにより前記薄切片の良否を判断し、薄切片を良と判断したときに前記試料ブロック着脱手段に、試料ブロックを交換させる旨の交換指令信号を発信する評価手段と、
を備えたことを特徴とする自動薄切装置。
【請求項2】
前記観察データは、落射照明により、鏡面反射する媒体の表面に配置された前記薄切片を、周囲の前記媒体ごと撮像して得られた画像データであることを特徴とする請求項1記載の自動薄切装置。
【請求項3】
前記観察データは、透過照明により、透明媒体中に配置された前記薄切片を、周囲の前記透明媒体ごと撮像して得られた画像データであることを特徴とする請求項1記載の自動薄切装置。
【請求項4】
前記評価手段は、輝度情報を基に前記画像データを2値化処理して得られた明暗データにより、前記薄切片の良否を判断することを特徴とする請求項2または3記載の自動薄切片装置。
【請求項5】
前記評価手段は、前記観察手段によって得られた観察データと予め入力された試料ブロック切断面データとを比較することにより前記薄切片の良否を判断し、薄切片を良と判断したときに前記試料ブロック着脱手段に、試料ブロックを交換させる旨の交換指令信号を発信することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の自動薄切片装置。
【請求項6】
前記評価手段は、輝度情報を基に前記画像データを2値化処理して得られた明暗データと前記試料ブロック切断面データとを比較することにより前記薄切片の良否を判断することを特徴とする請求項5記載の自動薄切片装置。
【請求項7】
前記評価手段において、前記明暗データと前記試料ブロック切断面データとを比較する際に、明暗データから得られる仮想薄切片画像と試料ブロック切断面データから得られる試料ブロック切断面画像とを、面積要素、重心の位置要素、パターンマッチング要素のうちの少なくとも一つの要素で比較することを特徴とする請求項6記載の自動薄切装置。
【請求項8】
切削台に取り付けてある試料ブロックを取り外し代わりに新たな試料ブロックを切削台に取り付ける試料ブロック着脱工程と、
前記切削台に取り付けた試料ブロックに対してナイフを相対移動させて所定厚さの薄切片を切削する切削工程と、
切削された前記薄切片を観察する観察工程と、
前記観察工程で得られた観察データと予め入力された試料ブロック切断面データとを比較することにより薄切片の良否を判断する評価工程とを備え、
前記評価工程で良と判断した場合に、前記試料ブロック着脱工程へ移行した後、前記切削工程、前記観察工程、前記評価工程へ順に移行し、
前記評価工程で否と判断した場合に、前記試料ブロック着脱工程へ移行することなく、再び、前記切削工程、前記観察工程、前記評価工程へ順に移行することを特徴とする自動薄切方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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