説明

自動製パン器

【課題】穀物粒から出来の良いパンを製造できる自動製パン器をなるべく低コストで提供する。
【解決手段】本発明の自動製パン器1によって実行される製パンコースには、穀物粒からパンを焼き上げる穀物粒用製パンコースが含まれる。前記穀物粒用製パンコースにおいて実行される製パン工程には、穀物粒を粉砕する粉砕工程とパン原料をパン生地に練り上げる練り工程の間に実行されて、穀物粒の粉砕粉に吸液させる粉砕後吸液工程が含まれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として一般家庭で使用される自動製パン器に関する。
【背景技術】
【0002】
市販の家庭用自動製パン器は、製パン原料を入れたパン容器を本体内の焼成室に入れ、パン容器内の製パン原料を混練ブレードで混練して練り(捏ね)上げ、発酵工程を経た後に、パン容器をそのままパン焼き型としてパンを焼き上げる仕組みのものが一般的である(例えば特許文献1参照)。
【0003】
従来においては、このような自動製パン器を用いてパンを製造する場合、小麦や米などの穀物を製粉した粉(小麦粉、米粉等)や、そのような製粉した粉に各種の補助原料を混ぜたミックス粉を入手し、これを製パン原料として用いることによってパンを製造していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−116526号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、一般家庭においては米粒に代表されるように、粉の形態ではなく粒の形態で穀物を所持していることがある。このために、自動製パン器を用いて穀物粒から直接パンを製造することができれば便利である。この点、本出願人らは、鋭意研究の末、穀物粒を原料としてパンを製造する方法を発明している。なお、これについては、先に特許出願を行っている(特願2008−201507)。
【0006】
ここで、先に出願したパンの製造方法について紹介する。このパンの製造方法では、まず、穀物粒を液体と混合し、この混合物を粉砕ブレードによって粉砕する(粉砕工程)。そして、粉砕工程を経て得られたペースト状の粉砕粉を生地に練り上げ(練り工程)、生地を発酵(発酵工程)後、パンに焼き上げる(焼成工程)。
【0007】
本出願人らは、これまでの研究の中で、粉砕工程直後に得られる粉砕粉は温度が高くなり過ぎており、そのままの状態でパン生地に練り上げるのは不向きであるという知見を得ている。このため、冷却装置を設けて、できる限り早く粉砕粉の温度を下げて練り工程を開始するという手法を試していた。しかしながら、冷却装置を設ける構成は、自動製パン器のコストが高くなる等の問題があった。
【0008】
そこで、本発明は、穀物粒から出来の良いパンを製造できる自動製パン器をなるべく低コストで提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために本発明の自動製パン器は、パン原料を投入する容器と、パン原料として前記容器に投入された穀物粒を粉砕する粉砕手段と、前記容器内のパン原料をパン生地に練り上げる混練手段と、前記容器内のパン原料を加熱する加熱手段と、前記粉砕手段、前記混練手段、及び前記加熱手段を制御して、パン原料をパンに焼き上げる少なくとも1つの製パンコースを実行させる制御手段と、を備える自動製パン器であって、前記製パンコースには、前記穀物粒からパンを焼き上げる穀物粒用製パンコースが含まれ、前記穀物粒用製パンコースにおいて実行される製パン工程には、前記粉砕手段によって粉砕された前記穀物粒の粉砕粉に吸液させる粉砕後吸液工程が含まれることを特徴としている。
【0010】
本構成によれば、穀物粒からパンを焼き上げる場合に、穀物粒の粉砕粉に液体を吸液させる粉砕後吸液工程を設けた構成となっている。これまでは、穀物粒の粉砕が終了すると、冷却装置を用いて早期に温度を下げて練り工程を開始することを検討していた。本構成は、これとは逆転の発想である。この粉砕後吸液工程を設けることにより、冷却装置を用いる場合より練り工程に移行するまでの時間は長くなる。しかし、粉砕後吸液工程を設けたことにより、温度が上昇した穀物粒の粉砕粉の冷却期間を得られるばかりか、粉砕粉が更に崩れて微粒子の量が多くなることがわかった。そして、この微粒子の量が増えたことにより、きめが細く、出来の良い(美味しい)パンが焼き上げられることがわかった。すなわち、本構成によれば、穀物粒から出来の良いパンを製造でき、冷却装置を設けずに済むために自動製パン器のコストを抑制できる。
【0011】
上記構成の自動製パン器において、外気温度、前記容器の温度、前記容器周辺の温度、及び前記容器内のパン原料温度のうちの少なくとも1つを検知可能な温度検知手段を更に備え、前記制御手段は、前記温度検知手段で検知された温度に基づいて、前記粉砕後吸液工程の時間を制御するのが好ましい。
【0012】
本構成によれば、粉砕後吸液工程の時間を、粉砕粉の冷却速度に影響を及ぼす温度(環境温度)、或いは、粉砕粉の温度(直接或いは間接的に得られる温度)に基づいて制御するようになっているために、粉砕後吸液工程が終了した時点の温度を狙いの温度に調整し易い。すなわち、粉砕後吸液工程の次に行われる練り工程の開始時温度のばらつきを抑制でき、出来の良いパンを得やすい。
【0013】
上記構成の自動製パン器において、前記温度検知手段は、前記容器の温度を検知可能に設けられ、前記制御手段は、前記粉砕後吸液工程において、前記容器の温度が所定の温度に到達すると、前記粉砕後吸液工程を終了させることとしてもよい。
【0014】
これによれば、粉砕粉の温度を検知(間接的に検知)して、所定の温度となった時点で粉砕後吸液工程を終了する構成であるために、続いて行われる練り工程開始時の温度ばらつきを効果的に抑制できる。なお、所定の温度は、イーストが活発に働く温度(例えば28℃〜30℃)とするのが好ましい。
【0015】
上記構成の自動製パン器において、前記温度検知手段は、前記容器の温度に加えて前記外気温度を検知可能に設けられ、前記制御手段は、前記粉砕後吸液工程において、前記外気温度が前記所定の温度よりも高い場合には、前記容器の温度が前記外気温度に到達すると、前記粉砕後吸液工程を終了させるのが好ましい。
【0016】
例えば夏季のように環境温度が高い場合には、所定の温度まで短時間で温度を下げられない場合も想定される。したがって、本構成のように、可能な限り温度を下げて、所定の温度に到達する前に次の練り工程に移行するように構成した方が、パンの製造時間を徒に長くせずに済むために好ましい。また、できる限り温度を下げて次の練り工程に進むために、本構成の場合でも、練り工程開始時の温度ばらつきは、ある程度抑制できる。
【0017】
上記構成の自動製パン器において、前記制御手段は、更に、前記粉砕後吸液工程の時間が、第1の時間以上、第2の時間以内となるように前記粉砕後吸液工程の時間を制御するのが好ましい。
【0018】
上述のように、粉砕後吸液工程は、粉砕粉の冷却期間を得るのみならず、粉砕粉における微粒子の量を増やす効果も狙ったものである。このために、吸液時間があまりにも短くならないように、本構成を採用するのが好ましい。ただし、第1の時間をあまり長く設定すると、粉砕粉の冷却が進みすぎて、練り工程開始時の温度が必要以上に低くなってしまう場合もある。この点を考慮して、第1の時間を決定するのが好ましい。また、容器温度が、所定の温度、或いは、外気温度まで下がるのに、非常に時間を要する場合も想定される。このような場合に、いつまでも練り工程を開始しないと、パンの製造時間が著しく長くなってユーザが不便に感じる可能性もある。このため、吸液時間があまりにも長くなり過ぎないように、吸液時間の上限を設定しておくのが好ましい。
【0019】
上記構成の自動製パン器において、外気温度、前記容器の温度、前記容器周辺の温度、及び前記容器内のパン原料温度のうちの少なくとも1つを検知可能な温度検知手段を更に備え、前記制御手段は、温度に対応して吸液時間を定めた吸液時間テーブルと、前記温度検知手段を用いて前記穀物粒の粉砕前、或いは、前記穀物粒の粉砕後に検知された温度とに基づいて、前記粉砕後吸液工程における吸液時間を決定することとしてもよい。
【0020】
本構成のように、温度に対応付けられた吸液時間テーブル(例えば実験によって求められる)を用いれば、穀物粒の粉砕粉の冷却を十分行えると共に、粉砕後吸液工程終了時の温度ばらつきを抑制できる。なお、温度検知手段が外気温度や容器周辺の温度を検知するものである場合には、穀物粒の粉砕後、或いは、粉砕前に検知された温度に基づいて吸液時間を決定できる。一方、温度検知手段が容器温度やパン原料温度を検知するものである場合には、穀物粒の粉砕前に検知した温度に基づいて吸液時間を決定できる。
【0021】
上記構成の自動製パン器において、前記穀物粒用製パンコースは、前記容器内の穀物粒に液体を吸液させる粉砕前吸液工程と、液体を吸液した前記穀物粒を前記粉砕手段によって粉砕する粉砕工程と、前記粉砕後吸液工程と、前記穀物粒の粉砕粉を含む前記容器内のパン原料を前記混練手段によってパン生地に練り上げる練り工程と、練り上げられたパン生地を発酵させる発酵工程と、発酵させたパン生地を焼成する焼成工程と、を順次に連続して行うコースであることとしてもよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によると、穀物粒から出来の良いパンを製造できる自動製パン器を安価に提供できる。このため、家庭でのパン製造をより身近なものとできる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本実施形態の自動製パン器の垂直断面図
【図2】図1に示す本実施形態の自動製パン器を図1と直角の方向に切断した一部垂直断面図
【図3】本実施形態の自動製パン器が備える粉砕ブレード及び混練ブレードの構成を説明するための概略斜視図
【図4】本実施形態の自動製パン器が備える粉砕ブレード及び混練ブレードの構成を説明するための概略平面図
【図5】混練ブレードが折り畳み姿勢にある場合のパン容器の上面図
【図6】混練ブレードが開き姿勢にある場合のパン容器の上面図
【図7】混練ブレードが開き姿勢にある場合のクラッチの状態を示す概略平面図
【図8】本実施形態の自動製パン器の制御ブロック図
【図9】本実施形態の自動製パン器における米粒用製パンコースの流れを示す模式図
【図10】本実施形態の自動製パン器において実行される粉砕後吸水工程の詳細フローを示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の自動製パン器の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本明細書に登場する具体的な時間や温度等はあくまでも例示であり、本発明の内容を限定するものではない。
【0025】
図1は、本実施形態の自動製パン器の垂直断面図である。図2は、図1に示す本実施形態の自動製パン器を図1と直角の方向に切断した一部垂直断面図である。図3は、本実施形態の自動製パン器が備える粉砕ブレード及び混練ブレードの構成を説明するための概略斜視図で、斜め下方から見た場合の図である。図4は、本実施形態の自動製パン器が備える粉砕ブレード及び混練ブレードの構成を説明するための概略平面図で、下から見た図である。図5は、混練ブレードが折り畳み姿勢にある場合のパン容器の上面図である。図6は、混練ブレードが開き姿勢にある場合のパン容器の上面図である。以下、主に図1から図6を参照しながら、自動製パン器の全体構成について説明する。
【0026】
なお、以下においては、図1における左側が自動製パン器1の正面(前面)、右側が自動製パン器1の背面(後面)とする。また、自動製パン器1に正面から向き合った観察者の左手側が自動製パン器1の左側、右手側が自動製パン器1の右側であるものとする。
【0027】
自動製パン器1は、合成樹脂製の外殻により構成される箱形の本体10を有する。本体10には、その左側面と右側面の両端に連結したコの字状の合成樹脂製ハンドル11が設けられ、これにより運搬容易となっている。本体10の上面前部には操作部20が設けられる。操作部20には、図示は省略するが、スタートキー、取り消しキー、タイマーキー、予約キー、パンの製造コース(米粉パンコース、小麦粉パンコース等)を選択する選択キー等の操作キー群と、操作キー群によって設定された内容やエラー等を表示する表示部が設けられている。なお、表示部は、液晶表示パネルと、発光ダイオードを光源とする表示ランプとによって構成されている。
【0028】
操作部20から後ろの本体上面は、合成樹脂製の蓋30で覆われる。蓋30は、図示しない蝶番軸で本体10の背面側に取り付けられており、その蝶番軸を支点として垂直面内で回動する構成となっている。なお、図示しないが、蓋30には耐熱ガラスからなる覗き窓が設けられており、後述の焼成室40を覗けるようになっている。
【0029】
本体10の内部には焼成室40が設けられている。焼成室40は板金製で、上面が開口しており、ここからパン容器50が入れられる。焼成室40は水平断面矩形の周側壁40aと底壁40bとを備える。焼成室40の内部には、シーズヒータ41が焼成室40に収容されたパン容器50を包囲するように配置され、パン容器50内のパン原料を加熱できるようになっている。
【0030】
また、本体10の内部には板金製の基台12が設置されている。基台12には、焼成室40の中心にあたる箇所に、アルミニウム合金のダイキャスト成型品からなるパン容器支持部13が固定されている。パン容器支持部13の内部は焼成室40の内部に露出している。
【0031】
パン容器支持部13の中心には原動軸14が垂直に支持されている。原動軸14に回転を与えるのはプーリ15、16である。プーリ15と原動軸14の間、及び、プーリ16と原動軸14の間には、各々クラッチが配置されていて、プーリ15を一方向に回転させて原動軸14に回転を伝える時、原動軸14の回転はプーリ16に伝わらず、プーリ16をプーリ15とは逆方向に回転させて原動軸14に回転を伝えるとき、原動軸14の回転はプーリ15には伝わらない仕組みになっている。
【0032】
プーリ15を回転させるのは、基台12に固定された混練モータ60である。混練モータ60は竪軸であって、下面から出力軸61が突出する。出力軸61には、プーリ15にベルト63で連結されるプーリ62が固定されている。混練モータ60自身が低速・高トルクタイプであり、その上、プーリ62がプーリ15を減速回転させるので、原動軸14は低速・高トルクで回転する。
【0033】
プーリ16を回転させるのは同じく基台12に支持された粉砕モータ64である。粉砕モータ64も竪軸であって、上面から出力軸65が突出する。出力軸65には、プーリ16にベルト67で連結されるプーリ66が固定されている。粉砕モータ64は、後述する粉砕ブレードに高速回転を与える役割を担う。そのため、粉砕モータ64には高速回転のものが選定され、プーリ66とプーリ16の減速比はほぼ1:1になるように設定されている。
【0034】
パン容器50は板金製で、バケツのような形状をしており、口縁部には手提げ用のハンドル(図示せず)が取り付けられている。パン容器50の水平断面は四隅を丸めた矩形である。また、パン容器50の底部には、詳細は後述する粉砕ブレード54とカバー70を収容する凹部55が形成されている。凹部55は平面形状円形で、カバー70の外周部と凹部55の内面の間には、製パン原料の流動を可能とする隙間56が設けられている。また、パン容器50の底面には、アルミニウム合金のダイキャスト成型品である筒状の台座51が設けられている。パン容器50は、この台座51がパン容器支持部13に受け入れられた状態で、焼成室40内に配置されるようになっている。
【0035】
パン容器50の底部中心には、垂直方向に延びるブレード回転軸52が、シール対策が施された状態で支持されている。ブレード回転軸52には、原動軸14よりカップリング53を介して回転力が伝えられる。カップリング53を構成する2部材のうち、一方の部材はブレード回転軸52の下端に固定され、他の部材は原動軸14の上端に固定されている。カップリング53の全体は、台座51とパン容器支持部13に囲い込まれる。
【0036】
パン容器支持部13の内周面と台座51の外周面とには、それぞれ図示しない突起が形成されており、これらの突起は周知のバヨネット結合を構成する。詳細には、パン容器50をパン容器支持部13に取り付ける際、台座51の突起がパン容器支持部13の突起に干渉しないようにしてパン容器50を下ろす。そして、台座51がパン容器支持部13に嵌り込んだ後、パン容器50を水平にひねると、パン容器支持部13の突起の下面に台座51の突起が係合する。これにより、パン容器50が上方に抜けなくなる。また、この操作で、カップリング53の連結も同時に達成される。
【0037】
なお、パン容器50取り付け時のひねり方向は、後述する混練ブレード72の回転方向に一致させ、混練ブレード72が回転してもパン容器50が外れないように構成される。
【0038】
ブレード回転軸52には、パン容器50の底部より少し上の箇所に、粉砕ブレード54が取り付けられている。粉砕ブレード54は、ブレード回転軸52に対して回転不能に取り付けられる。粉砕ブレード54は、ステンレス鋼板製であり、図3及び図4に示すように、飛行機のプロペラのような形状(この形状はあくまでも一例である)を有している。粉砕ブレード54は、ブレード回転軸52から引き抜いて取り外せるようになっており、製パン作業終了後の洗浄や、切れ味が悪くなった時の交換を手軽に行うことができる。
【0039】
ブレード回転軸52の上端には、平面形状円形のドーム状カバー70が取り付けられている。カバー70は、ポリカーボネートの成型品からなり、粉砕ブレード54のハブ54aによって受け止められ、粉砕ブレード54を覆い隠す。このカバー70もブレード回転軸52から簡単に引き抜くことができるので、製パン作業終了後の洗浄を手軽に行うことができる。
【0040】
カバー70の上部外面には、ブレード回転軸52から離れた箇所に配置された垂直方向に延びる支軸71により、平面形状くの字形の混練ブレード72が取り付けられている。混練ブレード72はアルミニウム合金のダイキャスト成型品である。支軸71は、混練ブレード72に固定ないし一体化されており、混練ブレード72と動きを共にする。
【0041】
混練ブレード72は、支軸71を中心として水平面内で回動し、図5に示す折り畳み姿勢と、図6に示す開き姿勢とをとる。折り畳み姿勢では、混練ブレード72はカバー70に形成したストッパ部73に当接しており、それ以上カバー70に対し時計方向の回動を行うことができない。混練ブレード72の先端は、この時、カバー70から少し突き出している。開き姿勢では、混練ブレード72の先端はストッパ部73から離れ、混練ブレード72の先端はカバー70から大きく突き出す。
【0042】
なお、カバー70には、カバー内空間とカバー外空間を連通する窓74と、各窓74に対応して内面側に設けられて粉砕ブレード54によって粉砕された粉砕物を窓74の方向に誘導するリブ75と、が形成されている。この構成により、粉砕ブレード54を用いた粉砕の効率が高められている。
【0043】
カバー70とブレード回転軸52の間には、図4に示すようにクラッチ76が介在する。クラッチ76は、混練モータ60が原動軸14を回転させるときのブレード回転軸52の回転方向(この回転方向を「正方向回転」とする)において、ブレード回転軸52とカバー70を連結する。逆に、粉砕モータ64が原動軸14を回転させるときのブレード回転軸52の回転方向(この回転方向を「逆方向回転」とする)では、クラッチ76はブレード回転軸52とカバー70の連結を切り離す。なお、図5及び図6では、前記「正方向回転」は反時計方向回転となり、前記「逆方向回転」は時計方向回転となる。
【0044】
クラッチ76は、混練ブレード72の姿勢に応じて連結状態を切り換える。すなわち、混練ブレード72が図5に示す折り畳み姿勢にある場合は、図4に示すように、第2係合体76bは第1係合体76aの回転軌道に干渉しており、ブレード回転軸52が正方向回転すると、第1係合体76aと第2係合体76bは係合し、ブレード回転軸52の回転力がカバー70及び混練ブレード72に伝達される。一方、混練ブレード72が図6に示す開き姿勢にある場合には、図7に示すように、第2係合体76bは第1係合体76aの回転軌道から逸脱した状態にあり、ブレード回転軸52が逆方向回転しても、第1係合体76aと第2係合体76bは係合しない。従って、ブレード回転軸52の回転力はカバー70及び混練ブレード72に伝達されない。なお、図7は、混練ブレードが開き姿勢にある場合のクラッチの状態を示す概略平面図である。
【0045】
図8は、本実施形態の自動製パン器の制御ブロック図である。図8に示すように、自動製パン器1における制御動作は制御装置81によって行われる。制御装置81は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、I/O(input/output)回路部等からなるマイクロコンピュータ(マイコン)によって構成される。この制御装置81は、焼成室40の熱の影響を受け難い位置に配置するのが好ましく、自動製パン器1においては、本体10の正面側壁と焼成室40との間に配置されている。
【0046】
制御装置81には、第1温度検知部18と、第2温度検知部19と、上述の操作部20と、混練モータ駆動回路82と、粉砕モータ駆動回路83と、ヒータ駆動回路84と、が電気的に接続されている。
【0047】
第1温度検知部18は、図2に示すように本体10の側面に設けられて外気温度を検知可能な温度センサである。第2温度検知部19は、図1に示すように、温度センサ19aとソレノイド19bとを備え、温度センサ19aの先端側が焼成室40の正面側壁から焼成室40に突出ように設けられている。温度センサ19aの先端は、ソレノイド19bによって、パン容器50に接触する位置と非接触の位置とに切り換えることが可能となっている。なお、図1では、温度センサ19aの先端が、パン容器50に非接触の位置にある場合を示している。第1温度検知部19は、温度センサ19aの先端位置の切り換えによって、焼成室40内の温度とパン容器50の温度とを切り換えて検知可能である。
【0048】
混練モータ駆動回路82は、制御装置81からの指令の下で混練モータ60の駆動を制御する回路である。また、粉砕モータ駆動回路83は、制御装置81からの指令の下で粉砕モータ64の駆動を制御する回路である。ヒータ駆動回路84は、制御装置81からの指令の下でシーズヒータ41の動作を制御する回路である。
【0049】
制御装置81は、操作部20からの入力信号に基づいてROM等に格納されたパンの製造コース(製パンコース)に係るプログラムを読み出し、混練モータ駆動回路82を介して混練ブレード72の回転、粉砕モータ駆動回路83を介して粉砕ブレード54の回転、ヒータ駆動回路84を介してシーズヒータ41による加熱動作を制御しながら、自動製パン器1にパンの製造工程を実行させる。また、制御装置81には、時間計測機能が備えられており、パンの製造工程における時間的な制御が可能となっている。
【0050】
なお、制御装置81は本発明の制御手段の実施形態である。また、混練ブレード72、混練モータ60及び混練モータ駆動回路82は本発明の混練手段の実施形態である。また、粉砕ブレード54、粉砕モータ64及び粉砕モータ駆動回路83は本発明の粉砕手段の実施形態である。また、シーズヒータ41及びヒータ駆動回路84は本発明の加熱手段の実施形態である。また、第1温度検知部18及び第2温度検知部19は本発明の温度検知手段の実施形態である。
【0051】
以上のように構成される本実施形態の自動製パン器1は、小麦粉や米粉からパンを製造する製パンコースに加えて、米粒(穀物粒の一形態)からパンを製造する製パンコース(米粒用製パンコース)を実行できるようになっている。そして、自動製パン器1は米粒からパンを製造する米粒用製パンコースを実行する場合の制御動作に特徴を有する。このため、以下では、自動製パン器1を用いて米粒からパンを製造する場合の制御動作に絞って説明する。
【0052】
図9は、本実施形態の自動製パン器における米粒用製パンコースの流れを示す模式図である。なお、図9において、温度はパン容器50の温度を示している。図9に示すように、米粒用製パンコースにおいては、粉砕前吸水工程(粉砕前吸液工程の一形態)と、粉砕工程と、粉砕後吸水工程(粉砕後吸液工程の一形態)と、練り(捏ね)工程と、発酵工程と、焼成工程と、がこの順番で順次に実行される。
【0053】
米粒用製パンコースを実行するにあたって、ユーザは、パン容器50に、粉砕ブレード54と混練ブレード72付きのカバー70とを取り付ける。そして、ユーザは、米粒と水をそれぞれ所定量ずつ計量(一例として米粒220g、水210g)してパン容器50に入れる。なお、ここでは、米粒と水とを混ぜることにしているが、単なる水の代わりに、例えば、だし汁のような味成分を有する液体、果汁、アルコールを含有する液体等としてもよい。ユーザは、米粒と水とを投入したパン容器50を焼成室40に入れて蓋30を閉じ、操作部20によって米粒用製パンコースを選択し、スタートキーを押す。これにより、米粒からパンを製造する米粒用製パンコースが開始される。
【0054】
粉砕前吸水工程は、米粒に水(液体の一形態)を含ませることによって、その後に行われる粉砕工程において、米粒を芯まで粉砕しやすくすることを狙う工程である。この粉砕前吸水工程では、制御装置81は、米粒と水の混合物が、パン容器50内で静置された状態で所定の時間(例えば50分間)放置されるように制御する。この所定の時間は、後の粉砕工程を効率良く行える時間として実験的に求めればよい。
【0055】
なお、米の吸水速度は水温によって異なるために、例えば第2温度検知部19によってパン容器50の温度を検知(温度センサ19aの先端を容器50に接触した状態で温度検知)して、検知温度によって粉砕前吸水工程の時間を変化させてもよい。具体的には、例えば予め実験により、パン容器50の温度と最適な吸水時間との関係を調べておき(例えば5℃〜35℃の間において、5℃間隔で吸水時間を調べておく)、この情報を制御装置81のROMに記憶させておく。そして、米粒と水をパン容器50に入れて静置した段階でパン容器50の温度を検知し、検知された温度と予め制御装置81に記憶させておいた情報とから吸水時間を決定する。この決定された吸水時間で、粉砕前吸水工程を実行する。
【0056】
また、粉砕前吸水工程の初期段階で粉砕ブレード54を回転させ、その後も断続的に粉砕ブレード54を回転させるようにしてもよい。このようにすると、米粒の表面に傷をつけることができ、米粒の吸液効率を高められる。
【0057】
粉砕前吸水工程が終了すると、制御装置81の指令によって、米粒を粉砕する粉砕工程が実行される。この粉砕工程では、米粒と水との混合物の中で粉砕ブレード54が高速回転される。具体的には、制御装置81は、粉砕モータ64を制御してブレード回転軸52を逆方向回転させ、米粒と水との混合物の中で粉砕ブレード54の回転を開始させる。なお、この際、カバー70もブレード回転軸52の回転に追随して回転を開始するが、次のような動作によってカバー70の回転はすぐに阻止される。
【0058】
粉砕ブレード54を回転させるためのブレード回転軸52の回転に伴うカバーの回転方向は、図5において時計回り方向であり、混練ブレード72は、それまで折り畳み姿勢(図5に示す姿勢)であった場合には、米粒と水の混合物から受ける抵抗で開き姿勢(図6に示す姿勢)に転じる。混練ブレード72が開き姿勢になると、図7に示すように、クラッチ76は、第2係合体76bが第1係合体76aの回転軌道から逸脱するために、ブレード回転軸52とカバー70の連結を切り離す。同時に、開き姿勢になった混練ブレード72は図6に示すようにパン容器50の内側壁に当るために、カバー70の回転は阻止される。
【0059】
粉砕工程における米粒の粉砕は、先に行われる粉砕前吸水工程によって米粒に水が浸み込んだ状態で実行されるために、米粒を芯まで容易に粉砕することができる。粉砕ブレード54の回転は間欠回転とされる。この間欠回転は、例えば1分間回転して3分間回転停止するサイクルが5回実行される。なお、最後のサイクルでは、3分間の停止は行わない。粉砕ブレード54の回転は連続回転としてもよいが、間欠回転とすることにより、米粒を対流させて満遍なく米粒を粉砕できるために、間欠回転とするのが好ましい。
【0060】
なお、自動製パン器1においては所定の時間(本実施形態では17分)で粉砕工程が終了するようにしている。しかしながら、米粒の硬さのばらつきや環境条件によって粉砕粉の粒度にばらつきが生じることがある。このため、粉砕工程の終了を、粉砕時の負荷(トルク)の大きさを指標に判断する構成としても構わない。
【0061】
また、粉砕工程時においては、パン容器50の振動が大きいために、第2温度検知部19の温度センサ19aはパン容器50に接触しない位置とするのが好ましい。これにより、温度センサ19a及びパン容器50の損傷を防止できる。
【0062】
図9に示すように、粉砕工程においては、粉砕時の摩擦によりパン容器50の温度(パン容器50内の粉砕粉の温度)が上昇する。そして、パン容器50の温度は例えば40〜45℃程度となる。このような状態で、イーストを投入してパン生地の作製を行うと、イーストが働かず出来の良いパンを製造することができない。このため、自動製パン器1では、粉砕工程の後に、米粒の粉砕粉を水に浸漬した状態で放置する粉砕後吸水工程を設けている。
【0063】
この粉砕後吸水工程は、米粒の粉砕粉の温度を低下させる冷却期間であると同時に、粉砕粉に更に水を吸水させて、微粒子の量を増やす役割も担う工程である。このように、微粒子を増やすことにより、きめの細かいパンを焼き上げることが可能になる。粉砕後吸水工程は、予め決められた所定の時間だけ行う構成としてもよいが、このような構成の場合、例えば環境温度等によって、次に行う練り工程の開始時におけるパン容器50(パン原料)の温度にばらつきが生じて、出来の良いパンが得られない場合がある。
【0064】
このため、1つの対策として、第1温度検知部18(外気温度を検知する)、或いは、第2温度検知部19(温度センサ19aの先端をパン容器50に接触させない状態とする。すなわち、パン容器50周辺の温度(焼成室40内の温度)を検知するモードで使用)によって、粉砕工程の終了時(粉砕工程の開始前でもよい)に環境温度を検知し、この環境温度に基づいて粉砕後吸水工程の時間を決定するようにしてもよい。これにより、粉砕後吸水工程が終了した段階におけるパン容器50の温度のばらつきを抑制できる。
【0065】
具体的には、例えば予め実験により、環境温度と、粉砕工程後のパン容器50の温度が最適な温度(例えば28℃〜30℃程度)となる時間との関係を調べておき、この情報を制御装置81のROMに記憶させておく。例えば5℃〜35℃の環境温度において、5℃間隔で最適な吸水時間を調べて記憶させておく。そして、前述のように環境温度を検知し、検知された温度と予め制御装置81に記憶させておいた情報とから吸水時間を決定して粉砕後吸水工程を実行する。
【0066】
本実施形態の自動製パン器1においては、粉砕後吸水工程は上記のフローではなく、図10に示すような別のフローで実行される。
【0067】
粉砕工程が終了すると、制御装置81は第1温度検知部18によって外気温度を検知する(ステップS1)。検知された外気温度が予め設定された所定の温度以下であるか否かを確認する(ステップS2)。所定の温度は、練り工程を開始するに際して好ましい温度であり、例えば28℃以上30℃以下の温度に設定される。
【0068】
外気温度が所定の温度以下である場合(ステップS2でYes)には、制御装置81は第2温度検知部19によってパン容器50の温度を検知する(ステップS3)。なお、ここでは、第2温度検知部19の温度センサ19aの先端がパン容器50に接触した状態で温度検知を行う。そして、制御装置81は、検知されたパン容器50の温度が所定の温度以下であるか否かを確認する(ステップS4)。
【0069】
検知されたパン容器50の温度が所定の温度以下である場合(ステップS4でYes)には、制御装置81は、粉砕後吸水工程が開始されてから予め設定された第1の時間(例えば30分)が経過しているか否かを確認する(ステップS5)。この第1の時間は、粉砕後吸水工程の時間が短くなりすぎないように設けられている。すなわち、上述のように粉砕後吸水工程は、粉砕工程で得られた粉砕粉に更に水を吸水させることにより、粉砕粉の微粒子の量を増加させる役割も担う。このため、粉砕後吸水工程があまりに短くなると好ましくないために、第1の時間は設定されている。ただし、第1の時間をあまり長く設定すると、粉砕粉の冷却が進みすぎて、練り工程開始時の温度ばらつきの要因ともなるために、このような事態が発生しないように第1の時間を設定するのが好ましい。なお、第1の時間を経過しているか否かを確認するステップS5は、設けない構成としても構わない。
【0070】
粉砕後吸水工程が開始されてから第1の時間が経過している場合(ステップS5でYes)には、制御装置81は粉砕後吸水工程を終了する。一方、粉砕後吸水工程が開始されてから第1の時間が経過していない場合(ステップS5でNo)には、制御装置81は第1の時間が経過するまで待って、粉砕後吸水工程を終了する。
【0071】
検知されたパン容器50の温度が所定の温度より高い場合(ステップS4でNo)には、制御装置81は、粉砕後吸水工程が開始されてから予め設定された第2の時間(第1の時間よりも長い時間であり、例えば60分)が経過しているか否かを確認する(ステップS6)。そして、第2の時間を経過している場合(ステップS6でYes)には、パン容器50の温度が所定の温度に到達していなくても粉砕後吸水工程を終了する。一方、第2の時間を経過していない場合(ステップS6でNo)には、ステップS3に戻り、ステップS3以降の動作を行う。
【0072】
粉砕後吸水工程の開始から第2の時間を経過したか否かを確認するステップS6は、次のような理由により設けられる。すなわち、パン容器50の温度が、所定の温度まで下がるのに、非常に時間を要する場合も想定される。このような場合に、いつまでも練り工程を開始しないとパンの製造時間が著しく長くなって、ユーザが不便に感じる可能性もある。このため、粉砕後吸水工程の時間があまりにも長くなり過ぎないように、吸水時間の上限を設定するものである。ただし、このステップS6は設けない構成としてもよい。この場合には、パン容器50の温度が所定の温度になるまで待って、粉砕後吸水工程を終了することになる。
【0073】
ところで、外気温度が所定の温度より高い場合には、粉砕後吸水工程において、パン容器50の温度を所定の温度まで下げるのは無理である。このために、この場合には、原則として外気温度まで下がった時点で粉砕後吸水工程を終了することにしている。詳細には、次のように処理される。
【0074】
すなわち、ステップS2において、外気温度が所定の温度より高い場合(ステップS2でNo)、制御装置81は第2温度検知部19によってパン容器50の温度を検知する(ステップS7)。そして、制御装置81は、検知されたパン容器50の温度が外気温度以下であるか否かを確認する(ステップS8)。
【0075】
検知されたパン容器50の温度が外気温度以下である場合(ステップS8でYes)には、制御装置81は、粉砕後吸水工程が開始されてから第1の時間が経過しているか否かを確認する(ステップS9)。この第1の時間は、ステップS5の場合と同様の趣旨で定められるものである。そして、ステップ5と同様にステップS9を設けない構成としてもよい。
【0076】
粉砕後吸水工程が開始されてから第1の時間が経過している場合(ステップS9でYes)には、制御装置81は粉砕後吸水工程を終了する。一方、粉砕後吸水工程が開始されてから第1の時間が経過していない場合(ステップS9でNo)には、制御装置81は第1の時間が経過するまで待って、粉砕後吸水工程を終了する。
【0077】
検知されたパン容器50の温度が外気温度より高い場合(ステップS8でNo)には、制御装置81は、粉砕後吸水工程が開始されてから予め設定された第2の時間が経過しているか否かを確認する(ステップS10)。そして、第2の時間を経過している場合(ステップS10でYes)には、パン容器50の温度が外気温度に到達していなくても粉砕後吸水工程を終了する。一方、第2の時間を経過していない場合(ステップS10でNo)には、ステップS7に戻り、ステップS7以降の動作を行う。
【0078】
なお、ステップS10を設ける趣旨は、ステップS6を設ける趣旨と同様である。ステップS10はステップS6と同様に設けない構成としても構わない。この場合には、パン容器50の温度が外気温度になるまで待って、粉砕後吸水工程を終了することになる。
【0079】
粉砕後吸水工程が終了すると、続いて練り工程が行われる。練り工程の開始時には、グルテンや、食塩、砂糖、ショートニングといった調味料がそれぞれ所定量(一例として、グルテン50g、砂糖16g、塩4g、ショートニング10g)パン容器50に投入される。この投入は、例えばユーザの手によって投入するようにしてもよいし、自動投入装置を設けてユーザの手を煩わせることなくそれらを投入するようにしてもよい。
【0080】
なお、グルテンは、パン原料として必須のものではない。このため、好みに応じてパン原料に加えるか否かを判断してよい。また、グルテンの代わりに増粘安定剤(例えばグアガム)を投入するようにしても構わない。
【0081】
粉砕工程で粉砕された米粒の粉砕粉を含むパン容器50内のパン原料を生地に練り上げる練り工程を開始するにあたって、制御装置81は、混練モータ60を制御してブレード回転軸52を正方向回転させる。このブレード回転軸52の正方向回転に追随してカバー70が正方向(図6においては反時計方向)に回転すると、パン容器50内のパン原料からの抵抗を受けて混練ブレード72が開き姿勢(図6参照)から折り畳み姿勢(図5参照)に転じる。これを受けてクラッチ76は、図4に示すように、第2係合体76bが第1係合体76aの回転軌道に干渉する角度となり、ブレード回転軸52とカバー70を連結する。これにより、カバー70と混練ブレード72は、ブレード回転軸52と一体となって正方向に回転する。なお、混練ブレード72の回転は低速・高トルクとされる。
【0082】
混練ブレード72の回転によってパン原料は混練され、所定の弾力を有する一つにつながった生地(dough)に練り上げられていく。混練ブレード72が生地を振り回してパン容器50の内壁にたたきつけることにより、混練に「捏ね」の要素が加わることになる。練り工程における混練ブレード72の回転は、終始連続回転としてもよいが、自動製パン器1では、練り工程の初期の段階は間欠回転とし、後半を連続回転としている。
【0083】
自動製パン器1では、初期に行う間欠回転が終了した段階で、イースト(例えばドライイースト)を投入するようになっている。このイーストは、ユーザが投入するようにしてもよいし、自動投入するようにしてもよい。なお、イーストをグルテン等と一緒に投入しないのは、イースト(ドライイースト)と水とが直接接触するのをなるべく避けるためである。ただし、場合によっては、イーストをグルテン等と同時に投入してもよい。
【0084】
自動製パン器1においては、練り工程の時間は、所望の弾力を有するパン生地が得られる時間として実験的に求められた所定の時間(例えば15分)を採用する構成としている。ただし、練り工程の時間を一定とすると、環境温度によってパン生地の出来上がり具合が変動する場合がある。このために、練り工程の開始時に外気温度(場合によっては焼成室40内の温度)を検知して、外気温度によって練り工程に要する時間を変更する構成としても構わない。環境温度が高い場合には練り工程を短時間とし、環境温度が低い場合には練り工程を長時間とするのが好ましい。また、パン生地の出来上がり具合の変動を防止するために、混練時の負荷(トルク)の大きさを指標に練り工程を終了するタイミングを判断してもよい。
【0085】
なお、自動製パン器1においては、制御装置81はシーズヒータ41を制御して焼成室40の温度が所定の温度(例えば32℃等)となるように調整している。この場合、第2温度検知部19の温度センサ19aの先端はパン容器50に接触しない位置にある。このため、パン容器50の振動が大きい練り工程において、温度センサ19a及びパン容器50の損傷は発生し難い。また、具材(例えばレーズン等)入りのパンを焼く場合には、この練り工程の途中で投入するようにすればよい。
【0086】
練り工程が終了すると、制御装置81の指令によって続いて発酵工程が実行される。この発酵工程では、制御装置81はシーズヒータ41を制御して、焼成室40の温度を、発酵が進む温度(例えば38℃)にする。そして、発酵が進む環境下で所定の時間(本実施形態では50分)放置される。
【0087】
なお、場合によっては、この発酵工程の途中で、ガス抜きや生地を丸める処理を行うようにしても構わない。また、発酵工程の時間を一定にすると、外気温度によってパン生地の膨らみ具合等が変動する場合がある。このために、発酵工程の開始時に外気温度を検知して、外気温度によって発酵工程に要する時間を変更する構成としても構わない。外気温度が高い場合には発酵工程を短時間とし、外気温度が低い場合には発酵工程を長時間とするのが好ましい。
【0088】
発酵工程が終了すると、制御装置81の指令によって続いて焼成工程が実行される。制御装置81は、シーズヒータ41を制御して、焼成室40の温度を、パン焼きを行うのに適した温度(例えば125℃)まで上昇させ、焼成環境下で所定の時間(本実施形態では50分)パンを焼く。焼成工程の終了については、例えば操作部20の図示しない液晶表示パネルにおける表示や報知音等によってユーザに知らされる。ユーザは、製パン完了を検知すると、蓋30を開けてパン容器50を取り出す。
【0089】
以上のように、本実施形態の自動製パン器1によれば、米粒からパンを焼き上げることが可能であるために、非常に便利である。そして、米粒を粉砕する粉砕工程と、パン生地を練り上げる練り工程の間に、粉砕後吸水工程を設ける構成としたために、冷却装置を設けることなく、きめの細かい美味しいパンを焼き上げることが可能となっている。
【0090】
なお、以上に示した自動製パン器は本発明の一例であり、本発明が適用される自動製パン器の構成は、以上に示した実施形態に限定されるものではない。
【0091】
例えば、以上に示した実施形態では、米粒からパンを製造する構成としたが、米粒に限らず、小麦、大麦、粟、稗、蕎麦、とうもろこし、大豆等の穀物粒を原料としてパンを製造する場合にも、本発明は適用されるものである。
【0092】
また、以上に示した実施形態において、パン容器50の温度を検知するように構成された部分は、パン容器50内に投入されるパン原料の温度を検知する構成に変更しても構わない。また、外気温度を検知する構成とした部分も、場合によっては、パン容器50の周辺温度(焼成室40内の温度)を検知する構成に変更しても構わない。
【0093】
また、以上に示した実施形態では、粉砕後吸水工程に要する時間(粉砕後吸水工程の終了時期)を、粉砕後吸水工程中にパン容器50の温度を適宜検知しながら決定する構成とした。これに代えて、粉砕後吸水工程の開始時に、例えば外気温度及びパン容器50の温度を検知し、外気温度によって予想されるパン容器50の温度低下率(予め実験によって求めておく必要がある)とパン容器50の温度から、粉砕後吸水工程に要する時間を決定する構成等としても構わない。
【0094】
また、以上に示した米粒用製パンコースで実行される製造工程は例示であり、他の製造工程としてもよい。例を挙げると、以上に示した実施形態では、米粒からパンを製造するにあたって、粉砕工程を行う前に粉砕前吸水工程を行う構成としているが、この粉砕前吸水工程を行わない構成等としてもよい。
【0095】
その他、以上に示した実施形態では、自動製パン器1が粉砕ブレード54と混練ブレード72との2つのブレードを備える構成とした。しかし、これに限らず、自動製パン器が粉砕と混練とを兼用するブレード1つのみを備える構成等としてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明は、家庭用の自動製パン器に好適である。
【符号の説明】
【0097】
1 自動製パン器
18 第1温度検知部(温度検知手段の一部)
19 第2温度検知部(温度検知手段の一部)
41 シーズヒータ(加熱手段の一部)
50 パン容器
54 粉砕ブレード(粉砕手段の一部)
60 混練モータ(混練手段の一部)
64 粉砕モータ(粉砕手段の一部)
72 混練ブレード(混練手段の一部)
81 制御装置(制御手段)
82 混練モータ駆動回路(混練手段の一部)
83 粉砕モータ駆動回路(粉砕手段の一部)
84 ヒータ駆動回路(加熱手段の一部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パン原料を投入する容器と、
パン原料として前記容器に投入された穀物粒を粉砕する粉砕手段と、
前記容器内のパン原料をパン生地に練り上げる混練手段と、
前記容器内のパン原料を加熱する加熱手段と、
前記粉砕手段、前記混練手段、及び前記加熱手段を制御して、パン原料をパンに焼き上げる少なくとも1つの製パンコースを実行させる制御手段と、
を備える自動製パン器であって、
前記製パンコースには、前記穀物粒からパンを焼き上げる穀物粒用製パンコースが含まれ、前記穀物粒用製パンコースにおいて実行される製パン工程には、前記粉砕手段によって粉砕された前記穀物粒の粉砕粉に吸液させる粉砕後吸液工程が含まれることを特徴とする自動製パン器。
【請求項2】
外気温度、前記容器の温度、前記容器周辺の温度、及び前記容器内のパン原料温度のうちの少なくとも1つを検知可能な温度検知手段を更に備え、
前記制御手段は、前記温度検知手段で検知された温度に基づいて、前記粉砕後吸液工程の時間を制御することを特徴とする請求項1に記載の自動製パン器。
【請求項3】
前記温度検知手段は、前記容器の温度を検知可能に設けられ、
前記制御手段は、前記粉砕後吸液工程において、前記容器の温度が所定の温度に到達すると、前記粉砕後吸液工程を終了させることを特徴とする請求項2に記載の自動製パン器。
【請求項4】
前記温度検知手段は、前記容器の温度に加えて前記外気温度を検知可能に設けられ、
前記制御手段は、前記粉砕後吸液工程において、前記外気温度が前記所定の温度よりも高い場合には、前記容器の温度が前記外気温度に到達すると、前記粉砕後吸液工程を終了させることを特徴とする請求項3に記載の自動製パン器。
【請求項5】
前記制御手段は、更に、前記粉砕後吸液工程の時間が、第1の時間以上、第2の時間以内となるように前記粉砕後吸液工程の時間を制御することを特徴とする請求項3又は4に記載の自動製パン器。
【請求項6】
外気温度、前記容器の温度、前記容器周辺の温度、及び前記容器内のパン原料温度のうちの少なくとも1つを検知可能な温度検知手段を更に備え、
前記制御手段は、温度に対応して吸液時間を定めた吸液時間テーブルと、前記温度検知手段を用いて前記穀物粒の粉砕前、或いは、前記穀物粒の粉砕後に検知された温度とに基づいて、前記粉砕後吸液工程における吸液時間を決定することを特徴とする請求項1に記載の自動製パン器。
【請求項7】
前記穀物粒用製パンコースは、前記容器内の穀物粒に液体を吸液させる粉砕前吸液工程と、液体を吸液した前記穀物粒を前記粉砕手段によって粉砕する粉砕工程と、前記粉砕後吸液工程と、前記穀物粒の粉砕粉を含む前記容器内のパン原料を前記混練手段によってパン生地に練り上げる練り工程と、練り上げられたパン生地を発酵させる発酵工程と、発酵させたパン生地を焼成する焼成工程と、を順次に連続して行うコースであることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の自動製パン器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−110274(P2011−110274A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−270384(P2009−270384)
【出願日】平成21年11月27日(2009.11.27)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【出願人】(000214892)三洋電機コンシューマエレクトロニクス株式会社 (1,582)
【Fターム(参考)】