説明

自動製パン器

【課題】ユーザにとって使い勝手が良く、穀物粒を出発原料としてパンを製造するのに好適な自動製パン器を提供する。
【解決手段】自動製パン器1は、パン原料が投入されるパン容器70を受け入れる本体10と、本体10内に設けられ、パン容器70が有する回転軸72に回転力を与えるモータ60と、モータ60に流れる電流の大きさを検知する電流検知手段111cと、電流検知手段111cから得られる電流値に基づいて、パンの製造に関する制御を行う制御手段110と、を備える。制御手段110は、パンの製造のためにモータ60を駆動させる第1の工程において、所定のタイミングで得られる前記電流値に対して所定の変換処理を行うとともに、得られた変換値を順次積算して積算値を取得し、該積算値が所定の閾値を超えた場合に前記第1の工程を強制終了させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動製パン器に関し、特に穀物粒を出発原料としてパンを製造するのに好適な自動製パン器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、家庭用の自動製パン器を用いてパンの製造が行われる場合、パン原料として、小麦や米などの穀物を製粉した粉(小麦粉、米粉等)や、そのような製粉した粉に各種の補助原料が混ぜられたミックス粉が必要とされた。しかしながら、一般家庭においては、米粒に代表されるように、粉の形態ではなく粒の形態で穀物が所持されることがある。このために、自動製パン器が穀物粒から直接パンを製造する仕組みを有すれば、非常に便利である。このようなことを念頭において、本出願人らは、穀物粒を出発原料としてパンを製造するパンの製造方法を開発している(特許文献1参照)。
【0003】
このパンの製造方法では、まず、穀物粒と液体とが混合され、この混合物の中で粉砕ブレードが回転されて穀物粒が粉砕される(粉砕工程)。そして、粉砕工程を経て得られたペースト状の粉砕粉を含むパン原料が、混練ブレードを用いてパン生地に練り上げられる(練り工程)。その後、練り上げられたパン生地を発酵させる発酵工程が行われ、続いてパンを焼き上げる焼成工程が行われる。
【0004】
本出願人らは、上述の穀物粒を出発原料としてパンを製造する方法を実行可能な、新しい仕組みを備えた自動製パン器の開発を行ってきた。そして、本出願人らは、例えば特許文献2に示されるように、パン容器の底部に設けた回転軸の回転方向によって粉砕機能と混練機能とを切り替えて発揮できる自動製パン器を提案している。なお、パン容器の底部に設けられる回転軸は、本体内に設けられるモータによって駆動(回転)される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−35476号公報
【特許文献2】特開2011−050576号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、粉砕ブレードを回転させるためのモータには、負荷の増大によってモータ温度が上昇して発火する等の事態を避けるべく、安全対策としての温度ヒューズが備えられる。しかしながら、自動製パン器の構成が、ユーザの単純な計量ミス等で温度ヒューズが簡単に切れるような構成であると、その自動製パン器に対して、ユーザは使い勝手が悪いとの印象を抱く可能性がある。
【0007】
例えば、ユーザが使用する液体や米粒の量を誤ったり、もち米のような粘り気のある穀物種を用いてパンの製造を行おうとしたりした場合に、粉砕工程時にモータに加わる負荷が非常に大きくなることがある。そして、このような場合に、簡単に温度ヒューズが切れる構成であると、その自動製パン器は使い勝手が悪いとの印象をユーザに抱かれる可能性がある。
【0008】
このような事態を避けるために、例えばモータの温度を検出する温度センサを設けて、モータの温度が所定の温度(温度ヒューズが切れる温度より少し低い温度)に達したら、粉砕工程が終了される(モータの駆動が停止される)構成を採用することが考えられる。この構成であれば、ユーザの単純な計量ミス等によって、粉砕工程時に温度ヒューズが切れるという事態は避けられる。しかし、このような構成は部品点数を増やすことになり、自動製パン器の構造が複雑なものになるとともに、コスト面でも不利である。
【0009】
また、別の構成として、モータに流れる電流値を監視して、単純にこの電流値が所定の閾値を超えた場合に、粉砕工程が終了される構成を採用することも考えられる。この構成では、負荷の増大に合わせてモータを停止させられ、粉砕工程時に温度ヒューズが切れるのを防止できる。
【0010】
しかしながら、この構成はモータの温度とはかけ離れた制御となり易く、モータが安全に使用できる(温度ヒューズ切れが生じるまでに十分な余裕がある)にもかかわらず、粉砕工程が終了されてしまうという事態の発生が懸念される。粉砕工程時にモータに加わる負荷の変動はかなり大きく、この構成では、モータが安全に使用できる可能性が高い粉砕工程の初期で電流値が閾値を超えてしまい、粉砕不十分なまま粉砕工程が修了されてしまうという事態の発生が懸念される。そして、このような自動製パン器は、ユーザにとって使い勝手が良いものとは言えない。
【0011】
以上の点に鑑みて、本発明の目的は、ユーザにとって使い勝手が良く、穀物粒を出発原料としてパンを製造するのに好適な自動製パン器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために本発明の自動製パン器は、パン原料が投入されるパン容器を受け入れる本体と、前記本体内に設けられ、前記パン容器が有する回転軸に回転力を与えるモータと、前記モータに流れる電流の大きさを検知する電流検知手段と、前記電流検知手段から得られる電流値に基づいて、パンの製造に関する制御を行う制御手段と、を備え、前記制御手段は、パンの製造のために前記モータを駆動させる第1の工程において、所定のタイミングで得られる前記電流値に対して所定の変換処理を行うとともに、得られた変換値を順次積算して積算値を取得し、該積算値が所定の閾値を超えた場合に前記第1の工程を強制終了させる構成(第1の構成)となっている。
【0013】
本構成によれば、モータの温度の指標となる積算値と閾値との比較で、第1の工程を強制終了させるか否かを判断する構成が実現でき、第1の工程時にモータに備えられる温度ヒューズが切れる事態を避けられる。また、本構成によれば、単に電流値と閾値との比較を行うのではなく、電流値に対して所定の処理を行った後に得られる積算値と閾値との比較を行うことで、第1の工程を強制終了させるか否かを判断する構成となっている。このために、一時的な負荷の増大で第1の工程を強制終了させてしまうことがない。すなわち、本構成では、粉砕工程の初期段階での強制終了を避けられ、強制終了後に次工程に移行してもパンの品質が極端に悪くなることを避けられる。
【0014】
上記第1の構成の自動製パン器において、前記制御手段は、前記積算値が前記所定の閾値を超えて前記第1の工程を強制終了させたのち、自動的に第2の工程を実行させる構成(第2の構成)とするのが好ましい。
【0015】
上記第1又は第2の構成の自動製パン器において、前記本体内の温度を検知する温度検知手段を更に備え、前記制御手段は、前記第1の工程を開始する際に前記温度検知手段から温度を取得し、取得した温度に応じて前記所定の閾値を決定する構成(第3の構成)とするのが好ましい。本体内の温度によって積算開始時におけるモータの温度が異なる。すなわち、ヒューズ切れを起こすに至るまでの温度変化量が、本体内の温度によって異なることになる。このため、本構成のように、第1の工程を開始する際に温度検知手段から温度を得て、その温度に応じて閾値を変更するのが好ましい。
【0016】
上記第1から第3のいずれかの構成の自動製パン器において、前記制御手段は、前記第1の工程が途中で中断された場合には、当該中断中は前記積算値を得るための処理は停止し、前記第1の工程が再開された時点で前記積算値を得るための処理を再開する構成(第4の構成)とするのが好ましい。例えば停電や自動製パン器に採用される機能によって、粉砕工程が中断されることが考えられるが、本構成によれば、このような場合に適切に対応して、モータの温度ヒューズ切れを防止できる。
【0017】
上記第4の構成の自動製パン器において、異常を検知する異常検知手段を更に備え、前記制御手段は、前記異常検知手段によって異常が検知されている場合には前記第1の工程を中断する構成(第5の構成)としてもよい。
【0018】
上記第1から第5のいずれかの構成の自動製パン器において、前記回転軸とともに回転可能に設けられ、前記パン容器内で穀物粒を粉砕するために使用される粉砕手段を更に備え、前記第1の工程は、前記パン容器内で前記粉砕手段を用いて穀物粒を粉砕する粉砕工程である構成とするのが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によると、ユーザにとって使い勝手が良く、穀物粒を出発原料としてパンを製造するのに好適な自動製パン器を提供可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本実施形態の自動製パン器の外観構成を示す概略斜視図
【図2】本実施形態の自動製パン器の本体内部の構成を説明するための模式図
【図3】本実施形態の自動製パン器における、パン容器が収容された焼成室及びその周辺の構成を模式的に示した図
【図4】本実施形態の自動製パン器が備えるブレードユニットの構成を示す概略斜視図
【図5】本実施形態の自動製パン器が備えるブレードユニットの構成を示す図
【図6】本実施形態の自動製パン器が備えるブレードユニットを下から見た場合の概略平面図
【図7】本実施形態の自動製パン器が備えるブレードユニットの動作を説明するための図で、ブレードユニットが取り付けられたパン容器を上から見た場合の図
【図8】本実施形態の自動製パン器の構成を示すブロック図
【図9】本実施形態の自動製パン器が備えるモータ駆動部の回路構成を示す回路図
【図10】本実施形態の自動製パン器によって実行される米粒用製パンコースの流れを示す模式図
【図11】本実施形態の自動製パン器における粉砕工程の詳細を説明するための模式図
【図12】粉砕モータが備える温度ヒューズの温度と、積算加熱値との関係を示すグラフ
【図13】本実施形態の自動製パン器において実行される「粉砕工程時のモータ異常温度対策」の流れを示すフローチャート
【図14】本実施形態の自動製パン器における、積算加熱値の取得方法を説明するための模式図
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の自動製パン器の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本明細書に登場する具体的な数値(例えば時間、温度等)はあくまでも例示であり、それらは本発明の内容を限定するものではない。
(自動製パン器の構成)
図1は、本実施形態の自動製パン器1の外観構成を示す概略斜視図で、図1(a)は蓋30が閉じられた状態、図1(b)は蓋30が開かれた状態を示している。図1に示すように、自動製パン器1は、パン容器70を収容可能な焼成室40を備える本体10と、本体10に回動可能に取り付けられて焼成室40を開閉する蓋30と、が備えられている。
【0022】
本体10には、閉じられた蓋30と並ぶように操作部20が設けられている。この操作部20は、操作キー群と、時間、操作キー群によって設定された内容、エラー等を表示する表示部(例えば液晶表示パネル等)と、によって構成されている。操作キー群には、例えば、スタートキー、取り消しキー、タイマーキー、予約キー、パンの製造コース(製パンコース)を選択するための選択キー等が含まれる。
【0023】
本体10内部に設けられる焼成室40は平面視略矩形の箱形状の部屋であり、焼成室40の側壁及び底壁は例えば板金で構成される。この焼成室40には、焼成室40に収容されたパン容器70内の原料や生地を加熱できるように、加熱手段が設けられている。自動製パン器1では、加熱手段としてはシーズヒータ42(後述の図3参照)が用いられている。このシーズヒータ42は、焼成室40の内側壁に沿うように略額縁状に配置され、焼成室40に収容されたパン容器70を包囲する。
【0024】
蓋30には、焼成室40内を覗けるように、例えば耐熱ガラスからなる覗き窓31が設けられている。また、蓋30の内面側には、パンの製造工程の途中で一部のパン原料を自動投入するために使用される自動投入容器32が着脱自在に取り付けられるようになっている。なお、図1(b)においては、自動投入容器32の容器蓋322は開かれている。
【0025】
図2は、本実施形態の自動製パン器1の本体10内部の構成を説明するための模式図である。図2は、自動製パン器1を上側から見た場合が想定されており、図の下側が自動製パン器1の前面(正面)側、図の上側が背面側である。図2における破線は、実線で示す部材によって隠されて本来は見えないものであることを示している。
【0026】
図2に示すように、自動製パン器1には、焼成室40の右横に低速・高トルクタイプの混練モータ50が固定配置され、焼成室40の後ろ側に高速回転タイプの粉砕モータ60が固定配置されている。混練モータ50及び粉砕モータ60はいずれも竪軸である。なお、粉砕モータ60は本発明のモータの一例である。
【0027】
混練モータ50の上面から突出する出力軸51は、複数のプーリ、複数の回転軸、及び複数のベルトを含む第1の動力伝達部MT1によって、焼成室40の下部側に設けられる原動軸11に動力伝達可能に連結されている。ただし、第1の動力伝達部MT1にはクラッチC1(本実施形態では噛み合いクラッチが使用されている)が含まれ、このクラッチC1によって、出力軸51の回転動力を伝達する動力伝達状態と、出力軸51の回転動力を伝達不能な動力遮断状態との切り替えが可能になっている。また、第1の動力伝達部MT1は、混練モータ50の回転動力をトルクアップして原動軸11に伝達するように設けられている。
【0028】
粉砕モータ60の下面から突出する出力軸61は、複数のプーリ及び1本のベルトを含む第2の動力伝達部MT2によって、焼成室40の下部側に設けられる原動軸11に動力伝達可能に連結されている。なお、第2の動力伝達部MT2は、クラッチを有さず、粉砕モータ60の出力軸61と原動軸11とを常時動力伝達可能に連結している。ただし、第2の動力伝達部MT2にも、動力伝達状態を切り替えるクラッチが含まれるようにしてもよい。
【0029】
次に、焼成室40に出し入れ自在に設けられるパン容器70について説明する。パン容器70は、パン原料が投入されるとともにパン焼き型として使用される容器である。図3は、本実施形態の自動製パン器1における、パン容器70が収容された焼成室40及びその周辺の構成を模式的に示した図である。図3は、自動製パン器1を前面(正面)側から見た場合の構成を想定したものであり、焼成室40及びパン容器70の構成は概ね断面図で示されている。
【0030】
例えばアルミニウム合金のダイキャスト成型品からなるパン容器70は、図3に示すようにバケツのような形状をしており、その水平断面は四隅を丸めた矩形である。パン容器70の開口部側縁に設けられる鍔部70aには、図示しない手提げ用のハンドルが取り付けられている。パン容器70の底部には、詳細は後述するブレードユニット80の一部を収容する平面視略円形状の凹部71が形成されている。
【0031】
パン容器70の底部中心には、垂直方向に延びるブレード回転軸72(本発明の回転軸の一例)がシール対策を施された状態で回転可能に支持されている。このブレード回転軸72の下端(パン容器70の底部から外部側に突き出ている)には、容器側接続部72aが固定されている。また、パン容器70の底部外面側には、ブレード回転軸72のパン容器70の底部から外部側に突き出た部分を取り囲むように、筒状の台座73が設けられている。
【0032】
図3に示すように、焼成室40の底壁40aの略中心にあたる箇所には、パン容器70を支持するパン容器支持部14(例えばアルミニウム合金のダイキャスト成型品からなる)が固定されている。このパン容器支持部14は、焼成室40の底壁40aから窪むように形成され、その窪みの形状は上から見た場合に略円形となっている。このパン容器支持部14の中心には、上述の原動軸11が底壁40aに対して略垂直となるように支持されている。原動軸11の上端には、本体側接続部11aが固定されている。
【0033】
パン容器70は、台座73がパン容器支持部14に受け入れられた状態で焼成室40内に収容される。パン容器70の台座73がパン容器支持部14に受け入れられた状態においては、ブレード回転軸72の下端に設けられる容器側接続部72aと、原動軸11の上端に固定される本体側接続部11aとの連結が得られる。これにより、ブレード回転軸72は原動軸11から回転動力を伝えられるようになる。すなわち、本体側接続部11aと容器側接続部72aとはカップリングを構成する。
【0034】
ブレード回転軸72のパン容器70内部に突出する部分には、その上からブレードユニット80が着脱自在に取り付けられるようになっている。このブレードユニット80の構成について、図4から図7を参照しながら説明する。
【0035】
なお、図4は、本実施形態の自動製パン器1が備えるブレードユニット80の構成を示す概略斜視図で、図4(a)は斜め上方から見た図、図4(b)は斜め下方から見た図である。図5は、本実施形態の自動製パン器1が備えるブレードユニット80の構成を示す図で、図5(a)は概略側面図、図5(b)は図5(a)のA−A位置における概略断面図である。図6は、本実施形態の自動製パン器1が備えるブレードユニット80を下から見た場合の概略平面図で、図6(a)は混練ブレード84が折り畳み姿勢にある場合の図、図6(b)は混練ブレード84が開き姿勢にある場合の図である。図6においては、後述のガード85が取り外された状態を示している。図7は、本実施形態の自動製パン器1が備えるブレードユニット80の動作を説明するための図で、ブレードユニット80が取り付けられたパン容器70を上から見た場合の図である。図7(a)は混練ブレード84が折り畳み姿勢にある場合の図、図7(b)は混練ブレード84が開き姿勢にある場合の図である。
【0036】
ブレードユニット80は、大きくは、ユニット用シャフト81と、ユニット用シャフト81に相対回転不能に取り付けられる粉砕ブレード82と、ユニット用シャフト81に相対回転可能且つ粉砕ブレード82を上から覆うように取り付けられる平面視略円形のドーム状カバー83と、ドーム状カバー83に相対回転可能に取り付けられる混練ブレード84と、ドーム状カバー83に取り付けられ、粉砕ブレード82を下から覆うガード85と、を備える構成となっている。
【0037】
なお、粉砕ブレードは本発明の粉砕手段の一例である。また、ブレードユニット80がブレード回転軸72に取り付けられた状態において、粉砕ブレード82は、パン容器70の凹部71底面より少し上の箇所に位置する。また、ブレードユニット80がブレード回転軸72に取り付けられた状態において、粉砕ブレード82、ドーム状カバー83、及び、ガード85は凹部71に収容される(例えば図3参照)。なお、ドーム状カバー83は、正確には、その一部が凹部71から突出する。
【0038】
ユニット用シャフト81は、例えばステンレス鋼板等の金属によって形成される略円柱状の部材であり、一方端(下端)に開口が設けられ、その内部は中空となっている。すなわち、ユニット用シャフト81は、下端からブレード回転軸72を挿入できるように、挿入孔81bが形成された構成となっている(例えば図5(b)参照)。
【0039】
また、ユニット用シャフト81の側壁の下部側(開口側)には、ユニット用シャフト81の回転中心を挟んで対称配置される一対の切り欠き部81aが形成されている。ブレード回転軸72を水平に貫くピン721(図5(b)参照)が、この切り欠き部81aと係合することによって、ユニット用シャフト81はブレード回転軸72に相対回転不能に取り付けられた状態になる。
【0040】
穀物粒粉砕用の粉砕ブレード82は、例えばステンレス鋼板を加工することによって形成される。この粉砕ブレード82は、中心部分に設けられる開口部(図示せず)がユニット用シャフト72の下部側が嵌め込まれる形で、ユニット用シャフト81に相対回転不能に取り付けられる。粉砕ブレード82の下部側においては、抜け止め用のストッパー部材86がユニット用シャフト81に嵌め込まれる(例えば図5(b)、図6参照)。このために、粉砕ブレード82がユニット用シャフト81から脱落することはない。
【0041】
粉砕ブレード82を囲んで覆い隠すように配置されるドーム状カバー83は、例えばアルミニウム合金のダイキャスト成型品からなり、その内面側には、ベアリング87を収容する凹状の収容部831(図5(b)参照)が形成されている。換言すると、この収容部831を形成するために、ドーム状カバー83は、それを外面から見た場合に、中央部に略円柱状の凸部83aが形成された構成となっている。
【0042】
ベアリング87は、その外輪が収容部831の側壁に固定されるように、収容部831に圧入されている。このベアリング87の内輪には、ユニット用シャフト81が相対回転不能に取り付けられている。このベアリング87の介在により、ドーム状カバー83は、ユニット用シャフト81に相対回転可能に取り付けられることになる。
【0043】
なお、ベアリング87の上下には、抜け止めリング88a、88bが配置される。また、ベアリング87の下部側には、外部から異物(例えば穀物粒の粉砕時に用いられる液体や粉砕により得られたペースト状物等)が入り込まないように、シール材89が配置されている。シール材89は、その下側に配置されるシールカバー90を用いて固定されている。
【0044】
ドーム状カバー83の外面には、凸部83aに隣接する箇所に垂直方向に延びるように配置される支軸91(図6参照)を用いて、平面形状「く」の字形の混練ブレード84(例えばアルミニウム合金のダイキャスト成型品からなる)が取り付けられている。混練ブレード84は、支軸91に相対回転不能に取り付けられており、ドーム状カバー83に相対回転可能に取り付けられる支軸91と動きを共にする。換言すると、混練ブレード84は、ドーム状カバー83に対して相対回転可能に取り付けられた構成となっている。
【0045】
混練ブレード84は、支軸91と共に支軸91の軸線周りに、一定の範囲内だけ回転可能となっている。図4、図5、図6(a)及び図7(a)に示す折り畳み姿勢は、混練ブレード84が回転可能な範囲の一端にある場合に該当する。また、図6(b)及び図7(b)に示す開き姿勢は、混練ブレード84が回転可能な範囲の他端にある場合に該当する。
【0046】
なお、混練ブレード84の先端側近傍の一方面には、緩衝材92が取り付けられている。緩衝材92は、混練ブレード84の先端から僅かに突出するように設けられている(例えば図6参照)。この緩衝材92は、混練ブレード84と、パン容器70の内壁とが接触して傷が付くこと等を防止する目的で設けられている。
【0047】
また、ドーム状カバー83の外面に、混練ブレード84に並ぶように補完混練ブレード93(例えばドーム状カバー83と一体的に設けられる)が固定配置されている。混練ブレード84が折り畳み姿勢となっている場合には、例えば図4や図5に示すように補完混練ブレード93は混練ブレード84に整列し、あたかも「く」の字形状の混練ブレード84のサイズが大型化したようになる。この補完混練ブレード93により、混練効率を高められる。
【0048】
ユニット用シャフト81には、図5(b)に示すように、粉砕ブレード82とシールカバー90との間にカバー用クラッチ94を構成する第1係合体941が相対回転不能に取り付けられている。この第1係合体941は、ストッパー部材86によって、粉砕ブレード82と共にユニット用シャフト81からの脱落が防止されている。また、混練ブレード84が取り付けられる支軸91の下部側には、カバー用クラッチ94を構成する第2係合体942が相対回転不能に取り付けられている(図6参照)。
【0049】
第1係合体941と第2係合体942とで構成されるカバー用クラッチ94は、ブレード回転軸72の回転動力をドーム状カバー83に伝達するか否かを切り替える機能を有する。
【0050】
混練ブレード84が折り畳み姿勢にある場合(例えば図6(a)、図7(a)の状態)、第2係合体942の係合部942aは第1係合体941の係合部941a(本実施形態では2つあるが1つでもよい)の回転軌道に干渉する角度となる(図6(a)の破線参照)。このため、ユニット用シャフト81が回転(図6(a)において反時計方向回転)すると、第1係合体941と第2係合体942とは係合する。すなわち、混練ブレード84が折り畳み姿勢にある場合には、ブレード回転軸72の回転動力をドーム状カバー83に伝達することが可能になる。なお、混練ブレード84が折り畳み姿勢にある場合には、混練ブレード84の回転を規制するストッパーの働きにより、第2係合体942は時計方向(図6(a)を想定した表現である)に回転しない。
【0051】
一方、混練ブレード84が開き姿勢にある場合(例えば図6(b)、図7(b)の状態)、第2係合体942の係合部942aは第1係合体941の係合部941aの回転軌道から逸脱した角度となる(図6(b)の破線参照)。このために、ブレード回転軸72が回転しても、第1係合体941と第2係合体942は係合しない。従って、ブレード回転軸72の回転動力はドーム状カバー83に伝達されない。
【0052】
ドーム状カバー83には、カバー内空間とカバー外空間を連通する窓83b(本実施形態では4つ)が形成される。窓83bは粉砕ブレード82に並ぶ高さか、それよりも上の位置に配置される。また、ドーム状カバー83内面には、各窓83bに対応して計4個のリブ83cが形成されている(図6参照)。各リブ83cはドーム状カバー83の中心近傍から外周の環状壁まで半径方向に対して斜めに延び、4個合わさって一種の巴形状を構成する。また、各リブ83cは、それに向かって押し寄せるパン原料に対面する側が凸となるように湾曲している。
【0053】
また、ドーム状カバー83の下面には、ガード85が着脱可能に取り付けられるようになっている。このガード85は、ドーム状カバー83の下面を覆って粉砕ブレード82にユーザの指が接近するのを阻止する。ガード85は、例えば耐熱性を有するエンジニアリングプラスチックによって形成され、例えばPPS(ポリフェニレンサルファイド)等の成型品とできる。
【0054】
なお、図4(b)に示すように、ガード85の中心には、ユニット用シャフト81に固定されるストッパー部材86を通すリング状のハブ851がある。また、ガード85の周縁には、ハブ851と同心円状に設けられたリング状のリム852がある。ハブ851とリム852とは複数のスポーク853で連結される。複数のスポーク853は所定の間隔を置いて配置され、スポーク853同士の間が、粉砕ブレード82によって粉砕される穀物粒を通す開口部854となる。
【0055】
図8は、本実施形態の自動製パン器の構成を示すブロック図である。図8に示すように、自動製パン器1における制御動作は制御装置110によって行われる。制御装置110は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、I/O(input/output)回路部等からなるマイクロコンピュータ(マイコン)によって構成される。この制御装置110は、焼成室40の熱の影響を受け難い位置に配置するのが好ましい。また、制御装置110には、時間計測機能が備えられており、パンの製造工程における時間的な制御が可能となっている。なお、この制御装置110は本発明の制御手段の一例である。
【0056】
制御装置110には、上述の操作部20と、温度センサ21と、異常検知部22と、モータ駆動部111と、ヒータ駆動部112と、クラッチ切替部113と、自動投入駆動部114と、が電気的に接続されている。温度センサ21は、焼成室40の温度を検出するための温度センサであり、例えば焼成室40の側壁等に取り付けられる。なお、この温度センサは本発明の温度検知手段の一例である。
【0057】
異常検知部22は、自動製パン器1によってパンの製造工程を実行する上で、製パン動作を続行しては都合が悪い状態を検知するために設けられる検知部である。この異常検知部22は、本発明の異常検知手段の一例である。
【0058】
この異常検知部22には、例えば、パンの製造工程を実行中に蓋30が開いたことを検知する蓋センサが含まれてよい。例えば蓋30が開いた状態で粉砕モータ60が高速回転をするとユーザに危険が及ぶ可能性がある。このため、蓋センサにより異常が検知された場合、制御装置110が、その情報に応じて粉砕モータ60の回転を禁止するようにすればよい。蓋センサは、例えば磁気センサと磁石との組み合せによって得てもよいし、又はフォトインタラプタであってもよい。また、蓋センサは、マイクロスイッチ等の機械式のセンサであってもよい。
【0059】
また、異常検知部22には、例えば焼成室40に収容されるパン容器70の種類を判定可能とするパン容器判定センサが含まれてもよい。自動製パン器1は、穀物粒を出発原料としてパンを製造する第1製パンコースと、穀物粉を出発原料としてパンを製造する第2製パンコースとの実行が可能となっている。第2製パンコースでは粉砕工程がないために粉砕ブレードが必要なく、第1製パンコースで使用する第1パン容器とは異なる第2パン容器が使用される。
【0060】
第2製パンコースを実行する場合に、粉砕モータ60を回転してしまうと、ユーザに危険が及ぶ等、不都合である。このため、制御装置110は、焼成室40に第1パン容器が収容されていると判断される場合以外を異常と判断して、粉砕モータ60の駆動を禁止する構成とするのがよい。パン容器判定センサは、第1パン容器が粉砕ブレード82等を収容する凹部71の存在によって、第2パン容器よりも高さが高くなることを利用して、例えばマイクロスイッチによって構成可能である。その他、パン容器判定センサは光学式のセンサ等でもよい。
【0061】
また、異常検知部22には、第1の動力伝達部MT1(図2参照)に含まれるクラッチC1の状態を検知するクラッチセンサが含まれてもよい。クラッチC1が動力伝達状態で粉砕モータ60を回転させると、粉砕モータ60に非常な大きな負荷が加わり粉砕モータ60が破損する可能性がある。このために、制御装置110は、クラッチC1が動力遮断状態であると判断される場合以外を異常と判断して、粉砕モータ60の駆動を禁止する構成とするのがよい。クラッチセンサは、光学式センサ(フォトインタラプタ等)や機械式センサ(マイクロスイッチ等)等であってよい。
【0062】
モータ駆動部111は、制御装置110からの指令の下で混練モータ50及び粉砕モータ60の駆動を制御する。このモータ駆動回路111は、電力供給部111aと、切替部111bと、電流検知部111cと、を含む。なお、電流検知部111cは、本発明の電流検知手段の一例である。
【0063】
図9は、本実施形態の自動製パン器1が備えるモータ駆動部111の回路構成を示す回路図である。図9に示すように、モータ駆動部111は、上述の電力供給部111aに相当する交流電源P及びトライアックTRIと、上述の切替部111bに相当するリレーRYと、上述の電流検知部111cの一部に相当するカレントトランスCTと、を備える。これらは、混練モータ50及び粉砕モータ60に対して直列に接続される、
交流電源Pは、例えば商用電源(または、商用電源から供給される電力を調整して得られる交流電力を供給する電源)である。トライアックTRIは、その2つの主電極が、交流電源Pと、混練モータ50及び粉砕モータ60に対して直列に接続され、その制御電極に制御装置110が出力する駆動信号が入力される。
【0064】
例えば、制御装置110は、パルス状または連続的な駆動信号(トライアックTRIの保持電流よりも大きい電流信号)をトライアックTRIの制御電極に入力することで、トライアックTRIを導通状態(ON)にする。トライアックTRIは、駆動信号が制御電極に入力されてから、交流電源Pが供給し主電極に入力される交流電流が0になるまで、当該交流電流を導通する。そのため、制御装置110は、パルス状の駆動信号をトライアックTRIの制御電極に入力することで、交流電源Pが供給する交流電力を、混練モータ50または粉砕モータ60に対して部分的に供給することができる。一方、制御装置110は、連続的な駆動信号をトライアックTRIの制御電極に入力することで、交流電源Pが供給する交流電力を、混練モータ50または粉砕モータ60に対して略そのまま供給することができる。
【0065】
カレントトランスCTは、交流電源Pと、トライアックTRIと、混練モータ50及び粉砕モータ60と、に対して直列に接続される一次側コイルL1と、一次側コイルL1に電流が通じられることで生じる磁界により電流を生じる二次側コイルL2と、を備える。二次側コイルL2の一端は接地され、他端にはダイオードD1のアノードが接続されている。ダイオードD1のカソードには、一端が接地された抵抗R1の他端が接続される。そして、抵抗R1及びダイオードD1の接続ノードには、一端が接地されたコンデンサCの他端が接続され、当該接続ノードに現れる電圧信号(検知結果)が、制御装置110に入力される。
【0066】
ダイオードD1及びコンデンサCは、二次側コイルL2で発生した電流を整流及び平滑化する(交流を直流に変換する)。抵抗R1は、電流信号を電圧信号に変換することで、制御装置110が取得可能な信号を生成する。なお、カレントトランスCT、ダイオードD1、抵抗R1及びコンデンサCが、上述した電流検知部111c(図8参照)に相当する。
【0067】
制御装置110は、上記のようにして得られたアナログの電圧信号である検知結果を取得して、デジタルの信号に変換する。これにより、制御装置110は、交流電源P及びトライアックTRIが供給する交流電流の大きさ(すなわち、混練モータ50及び粉砕モータ60に流れる電流の大きさ)を、確認することが可能になる。
【0068】
リレーRYは、交流電源P及びトライアックTRIと、混練モータ50及び粉砕モータ60のいずれかとの電気的及び機械的な接続を切替可能なスイッチSryと、スイッチSryの接続を制御する制御コイルLryとを備える。制御コイルLryは、一端が接地されるとともにダイオードD2のアノードに接続され、他端がダイオードD2のカソードに接続される。例えば、スイッチSryは、制御コイルLryに電流が通じられない場合、交流電源P及びトライアックTRIと混練モータ50とを接続し、制御コイルLryに電流が通じられる場合に、交流電源P及びトライアックTRIと粉砕モータ60とを接続する。
【0069】
また、制御コイルLryの他端及びダイオードD2のカソードの接続ノードには、PNP型のトランシスタTRのコレクタが接続される。トランジスタTRのエミッタには、抵抗R2の一端が接続されるとともに、直流電源VE(例えば、商用電源が供給する交流電力に基づいて直流電力を生成及び供給する電源)が接続される。抵抗R2の他端はトランジスタTRのベースに接続され、その接続ノードに抵抗R3の一端が接続される。制御装置110は、抵抗R3の他端に、リレーRYの切替を制御する切替信号を出力する。
【0070】
例えば、制御装置110が、トランジスタがON(エミッタ−コレクタ間が導通)になる程度に低い電圧(ロー)の切替信号を出力すると、直流電源VEが供給する直流電流が制御コイルLryに通じられ、交流電源P及びトライアックTRIと粉砕モータ60とが接続される。一方、制御装置110が、トランジスタがOFF(エミッタ−コレクタ間が非導通)になる程度に高い電圧(ハイ)の切替信号を出力すると、直流電源VEが供給する直流電流が制御コイルLryに通じられず、交流電源P及びトライアックTRIと混練モータ50とが接続される。このように構成すると、制御装置110が切替信号を出力しないとき(ハイインピーダンス)に、交流電源P及びトライアックTRIと混練モータ50とが接続され、粉砕モータ60が接続されなくなるため、安全性を確保する観点から好ましいものとなる。
【0071】
ヒータ駆動部112は、制御装置110からの指令の下でシーズヒータ42の加熱動作を制御する。クラッチ切替部113は、制御装置110からの指令の下で、第1の動力伝達部MT1に含まれるクラッチC1(図2参照)の動力伝達状態の切り替えを行うクラッチ用ソレノイド23の駆動を制御する。また、自動投入駆動部114は、パンの製造工程の途中で一部のパン原料を自動投入する際に駆動する自動投入用ソレノイド24の駆動を制御する。自動投入ソレノイド24の駆動によって、自動投入容器32の容器蓋322(図1参照)が閉じられた状態を維持するロック機構323の解除が行われる。
【0072】
制御装置110は、操作部20からの入力信号に基づいてROM等に格納されたパンの製造コース(製パンコース)に係るプログラムを読み出す。そして、制御装置110は、上述の各駆動部等の制御を行いながら、自動製パン器1にパンの製造工程を実行させる。
(自動製パン器による製パン動作)
次に、以上のように構成される自動製パン器1でパンを製造する場合の動作について説明する。自動製パン器1は、米粒(穀物粒の一例)を出発原料に用いてパンを製造できるとともに、小麦粉(穀物粉の一例)を出発原料に用いてパンを製造することも可能に設けられている。ただし、ここでは、米粒を出発原料に用いる場合を例に製パン動作を説明する。
【0073】
ユーザは、パン容器70のブレード回転軸72にユニット用シャフト81を被せることによって、ブレードユニット80をブレード回転軸72に取り付ける。上述のように、ブレードユニット80がガード85を備える構成であるために、この作業時にユーザの指が粉砕ブレード82に触れることがなく、ユーザは安全に作業を行える。ブレードユニット80の取り付け作業後に、ユーザは、米粒、水、調味料(例えば食塩、砂糖、ショートニング等)をそれぞれ所定量ずつ計量してパン容器70に入れる。
【0074】
また、ユーザは、パンの製造途中で自動投入される一部のパン原料を計量して自動投入容器32(図1参照)の容器本体321に収納する。ユーザは、収納すべきパン原料を容器本体321に収納したら、ロック機構323を用いて、容器蓋322によって容器本体321の開口が閉じられた閉状態を維持するようにする。
【0075】
なお、自動投入容器32に収納されるパン原料としては、例えば、グルテンとドライイーストが挙げられる。グルテンの代わりに、例えば小麦粉、上新粉、増粘剤(グアガム等)等が自動投入容器32に収納されるようにしてもよい。また、グルテン、小麦粉、増粘剤、上新粉等は用いずに、例えばドライイーストのみが自動投入容器32に収納されるようにしてもよい。更に、場合によっては、例えば食塩、砂糖、ショートニングといった調味料についてもパンの製造工程の途中で自動投入すべく、例えばグルテン、ドライイーストと共に、これらの原料を自動投入容器32に収納するようにしてもよい。この場合には、パン容器70に予め投入しておくパン原料は米粒及び水(単なる水の代わりに、例えばだし汁のような味成分を有する液体、果汁やアルコールを含有する液体等でもよい)となる。
【0076】
上述の準備が完了したら、ユーザは、パン容器70を焼成室40に入れ、更に、自動投入容器32を蓋30の所定位置(図1参照)に嵌め込む。そして、ユーザは蓋30を閉じ、操作部20によって米粒からパンを製造するための製パンコース(米粒用製パンコース)を選択する。ユーザが、米粒用製パンコースの選択後、操作部20に含まれるスタートキーを押すと、制御装置110による制御の下、パンの製造動作が開始される。
【0077】
図10は、本実施形態の自動製パン器1によって実行される米粒用製パンコースの流れを示す模式図である。図10に示すように、米粒用製パンコースにおいては、浸漬工程と、粉砕工程と、休止工程と、練り(捏ね)工程と、発酵工程と、焼成工程と、がこの順番で順次に実行される。
【0078】
米粒用製パンコースでは、まず、制御装置110の指令によって浸漬工程が開始される。浸漬工程では、パン容器70に予め投入されたパン原料が静置状態とされ、この静置状態が予め定められた所定時間(例えば30〜60分程度)維持される。この浸漬工程は、米粒に水を含ませることによって、その後に行われる粉砕工程において、米粒を芯まで粉砕しやすくすることを狙う工程である。
【0079】
なお、米粒の吸水速度は水の温度によって変動し、水温が高いと吸水速度が高まり、水温が低いと吸水速度が低下する傾向がある。このため、浸漬時間を短時間とするために、浸漬工程は、シーズヒータ42に通電して焼成室40の温度を高めた状態(例えば50℃程度)で行うようにしてもよい。
【0080】
上記所定時間が経過すると、制御装置110の指令によって、浸漬工程が終了され、米粒を粉砕する粉砕工程が開始される。この粉砕工程では、米粒と水とが含まれる混合物の中で粉砕ブレード82が高速回転(例えば7000〜8000rpm)される。この粉砕工程では、制御装置110は、粉砕モータ60を制御してブレード回転軸72を逆方向回転(図6では時計方向回転、図7では反時計方向回転)させる。ブレード回転軸72の逆方向回転により、粉砕ブレード82の刃部分(切削刃)が回転方向前方となるために、この逆方向回転により粉砕機能が得られる。
【0081】
なお、粉砕モータ60を用いて粉砕ブレード82を回転させる場合、制御装置110は、モータ駆動部111の切替部111bを制御して電力供給部111aと粉砕モータ60とが電気的に接続されるようにする。また、制御装置110は、クラッチ切替部113を制御してクラッチC1(図2参照)が動力遮断を行うようにする。これにより、粉砕モータ60に大きな負荷が加わって粉砕モータ60が破損するといった事態を避けられる。
【0082】
粉砕ブレード82を回転させるために、ブレード回転軸72が逆方向回転された場合、ドーム状カバー83もパン容器70内の米粒と水を含む混合物の流れによって逆方向回転しようとするが、次のような動作によってドーム状カバー83の逆方向回転は阻止(停止)される。
【0083】
ブレード回転軸72が逆方向回転された時点で混練ブレード84が折り畳み姿勢(図7(a)に示す姿勢)であった場合、カバー用クラッチ94の第1係合体941の係合部941aが第2係合体942の係合部942aと接触し、混練ブレード84は開き姿勢(図7(b)に示す姿勢)となる方向に回転される。また、混練ブレード84は、ドーム状カバー83の逆方向回転(図7において反時計方向回転)に伴ってパン容器70内の混合物から抵抗を受け、これによっても開き姿勢となる方向に回転される。
【0084】
混練ブレード84が開き姿勢になると、第2係合体942aが第1係合体941aの回転軌道(図6の破線参照)から逸脱する。このために、カバー用クラッチ94は、ブレード回転軸72とドーム状カバー83との連結を切り離す。また、開き姿勢になった混練ブレード84は、図7(b)に示すように、その一部(正確には、先端側に設けられる緩衝材92)がパン容器70の内側壁(詳細には粉砕効率を向上するためにパン容器70の内壁に設けられた畝状の凸部70b)に当接するために、ドーム状カバー83の回転は阻止(停止)される。
【0085】
粉砕工程における米粒の粉砕は、先に行われた浸漬工程によって米粒に水が浸み込んだ状態で実行されるために、米粒を芯まで容易に粉砕することができる。図11は、本実施形態の自動製パン器1における粉砕工程の詳細を説明するための模式図である。図11(a)に示すように、粉砕工程における粉砕ブレード82の回転は本実施形態では間欠回転とされる。この間欠回転は、例えば30秒回転(図11(a)の回転期間に相当)して、5分間停止(図11(b)の冷却期間に相当)するというサイクルで行われ、このサイクルが例えば10回繰り返される。なお、本実施形態では、最後のサイクルにおける冷却期間は実施しない構成となっている。粉砕ブレード82の回転は連続回転としてもよいが、例えばパン容器70内の原料温度が高くなり過ぎることを防止する等の目的のために、間欠回転とするのが好ましい。
【0086】
また、本実施形態においては、図11(b)に示すように、各回転期間における粉砕ブレード82の回転は、最初のうち(例えば開始から5秒間等)は低速回転とされ、その後に高速回転とされる(高速回転の時間は25秒等)。粉砕ブレード82の回転は、最初から高速回転とする構成でも構わないが、本実施形態のように構成することで、例えばカバー用クラッチ94の切り替え等がスムーズに行われる。
【0087】
粉砕工程においては、米粒の粉砕が回転停止したドーム状カバー83内で行われるから、米粒がパン容器70の外に飛び散る可能性が低い。また、回転停止状態にあるガード85の開口部854からドーム状カバー83内に入る米粒は、静止したスポーク853と回転する粉砕ブレード82との間でせん断されるので、効率良く粉砕が行える。また、ドーム状カバー83に設けられるリブ83cによって、米粒と水とが含まれる混合物の流動(粉砕ブレード82の回転と同方向の流動である)が適度に抑制されるので、効率良く粉砕が行える。
【0088】
また、粉砕された米粒と水とを含む混合物は、ドーム状カバー83のリブ83cによって窓83bの方向に誘導されて、窓83bからドーム状カバー83の外に排出される。ドーム状カバー83のリブ83cは、それに向かって押し寄せる混合物に対向する側が凸となるように湾曲しているので、混合物はリブ83cの表面に滞留しにくく、スムーズに窓83bの方へ流れていく。更に、ドーム状カバー83内部から混合物が排出されるのと入れ替わりに、凹部71の上の空間に存在していた混合物が凹部71に入り、凹部71からガード85の開口部854を通ってドーム状カバー83内に入いる。このような循環をさせつつ粉砕ブレード82による粉砕が行われるので、効率良く粉砕が行える。
【0089】
粉砕工程が終了すると、制御装置110の指令によって休止工程が実行される。この休止工程は、粉砕工程によって上昇したパン容器70内の内容物の温度を下げる冷却期間として設けられている。温度を下げるのは、次に行われる練り工程が、イーストが活発に働く温度(例えば30℃前後)で実行されるようにするためである。本実施形態では、休止工程は所定時間(例えば30〜60分程度)とされている。
【0090】
休止工程が終了すると、制御装置110の指令によって練り工程が開始される。制御装置110は、練り工程が開始される前に、モータ駆動部111の切替部111bを制御して電力供給部111aと混練モータ50とが電気的に接続された状態とする。また、練り工程の開始にあたって、制御装置110はクラッチ切替部114を制御して、クラッチC1(図2参照)が動力伝達を行うようにする。そして、制御装置110は混練モータ50を制御してブレード回転軸72を正方向回転(図6では反時計方向回転、図7では時計方向回転)させる。なお、粉砕工程と練り工程とではブレード回転軸72の回転方向は逆である。
【0091】
ブレード回転軸72を正方向回転させると、粉砕ブレード82も正方向に回転する。この場合、粉砕ブレード82は刃部分(切削刃)が回転方向後方となって回転し、粉砕機能を発揮しない。粉砕ブレード82の回転により、粉砕ブレード82の周囲のパン原料が正方向(図7では時計方向)に流動する。それにつられてドーム状カバー83が正方向に動くと、混練ブレード84は流動していないパン原料から抵抗を受けて、開き姿勢(図7(b)参照)から折り畳み姿勢(図7(a)参照)へと角度を変えて行く。これにより、第2係合体942の係合部942aが、第1係合体941の係合部941aの回転軌道(図6の破線参照)に干渉する角度となる。そして、カバー用クラッチ94がブレード回転軸72とドーム状カバー83とを連結し、ドーム状カバー83はブレード回転軸72によって本格的に駆動される態勢に入る。ドーム状カバー83と折り畳み姿勢になった混練ブレード84とは、ブレード回転軸72とともに正方向回転する。
【0092】
なお、以上に説明したカバー用クラッチ94の連結を確実に行うために、練り工程初期におけるブレード回転軸72の回転は、間欠回転或いは低速回転とするのが好ましい。また、上述のように、混練ブレード84が折り畳み姿勢になると、混練ブレード84の延長上に補完混練ブレード93が並ぶために、混練ブレード84があたかも大型化したかのようになって、パン原料は力強く押される。このため、生地の練り上げをしっかり行える。
【0093】
混練ブレード84(この用語は、折り畳み姿勢においては、補完混練ブレード93を含む表現として用いる。以下同様。)の回転は、練り工程の初期においては非常にゆっくりとされ、段階的に速度が速められるように制御装置110によって制御される。混練ブレード84の回転が非常にゆっくりである練り工程の初期段階において、制御装置110は自動投入駆動部114を制御して、自動投入容器32のロック機構323によるロック状態を解除させる。これにより、容器蓋322が重力によって回動し、例えばグルテン、ドライイースといったパン原料がパン容器70内に自動投入される。
【0094】
また、本実施形態では、自動投入容器32に収納されるパン原料を、混練ブレード84が回転している状態で投入することにしているが、これに限定されず、混練ブレード84が停止している状態で投入してもよい。ただし、本実施形態のように、混練ブレード84が回転している状態でパン原料を投入するようにした方が、パン原料を均一に分散することができるので好ましい。
【0095】
自動投入容器32に収納されたパン原料がパン容器70に投入された後は、混練ブレード84の回転によって、パン原料は所定の弾力を有する一つにつながった生地(dough)に練り上げられていく。混練ブレード84が生地を振り回してパン容器70の内壁にたたきつけることにより、混練に「捏ね」の要素が加わることになる。混練ブレード84の回転時にはドーム状カバー83も回転する。ドーム状カバー83が回転すると、ドーム状カバー83に形成されるリブ83cも回転するために、ドーム状カバー83内のパン原料は速やかに窓83bから排出され、混練ブレード84が混練しているパン原料の塊(生地)に同化する。
【0096】
なお、練り工程においては、ドーム状カバー83と共にガード85も正方向に回転する。ガード85のスポーク853は、正方向回転時、ガード85の中心側が先行しガード85の外周側が後続する形状とされている。このために、ガード85は、正方向に回転することにより、ドーム状カバー83内外のパン原料(パン生地)をスポーク853で外側に押しやる。これにより、パンを焼き上げた後に廃棄分となる原料の割合を減らすことができる。
【0097】
また、ガード85の外周に設けられる柱855は、ガード85が正方向に回転するときに回転方向前面となる面855a(図4参照)が、上向きに傾斜する構成となっている。このために、混練時、ドーム状カバー83の周囲のパン原料(パン生地)が柱855の回転方向前面855aで上方に跳ね上げられる。跳ね上げられたパン原料は、上方のパン原料の塊(生地)に同化するために、パンを焼き上げた後に廃棄分となる原料の割合を減らすことができる。
【0098】
自動製パン器1においては、練り工程の時間は、所望の弾力を有するパン生地が得られる時間として実験的に求められた所定の時間(例えば10分程度)を採用する構成としている。なお、具材(例えばレーズン、ナッツ、チーズ等)入りのパンを焼く場合には、この練り工程の途中で具材が投入されるようにすればよい。
【0099】
練り工程が終了すると、制御装置110の指令によって発酵工程が開始される。この発酵工程では、制御装置110はシーズヒータ42を制御して、焼成室40の温度を、発酵が進む温度(例えば38℃)に維持する。そして、発酵が進む環境下で所定の時間(例えば30〜60分程度)放置される。
【0100】
なお、場合によっては、この発酵工程の途中で、混練ブレード84を回転してガス抜きや生地を丸める処理を行うようにしても構わない。
【0101】
発酵工程が終了すると、制御装置110の指令によって焼成工程が開始される。制御装置110はシーズヒータ42を制御して、焼成室40の温度を、パン焼きを行うのに適した温度(例えば120〜130℃程度)まで上昇させる。そして、制御装置110は、焼成環境下で所定の時間(例えば50分程度)パンを焼くように制御する。焼成工程の終了については、例えば操作部20の液晶表示パネルにおける表示や報知音等によってユーザに知らされる。ユーザは、製パン完了を検知すると、蓋30を開けてパン容器70を取り出して、パンの製造を完了させる。
【0102】
なお、パン容器70内のパンは、例えば、パン容器70の開口を斜め下に向けることで取り出すことができる。そして、このパンの取り出しと同時に、ブレード回転軸72に取り付けられたブレードユニット80もパン容器70から取り出される。ガード85の存在により、このパンの取り出し作業時にユーザは粉砕ブレード82に触れることがなく、ユーザは安全にパンの取り出し作業を行える。また、パンの底には、ブレードユニット80の混練ブレード84及び補完混練ブレード93(パン容器70の凹部71から上側に突き出ている)の焼き跡が残る。しかし、ドーム状カバー83とガード85が凹部71の中に収容される構成であるために、それらがパンの底に大きな焼き跡を残すようなことは抑制される。
(粉砕工程時のモータ異常温度対策)
次に、本実施形態の自動製パン器1に適用される、粉砕工程(本発明の第1の工程の一例)時のモータ異常温度対策について説明する。例えばユーザが使用する水や米粒等の量を誤った場合に、粉砕工程時に粉砕モータ60に大きな負荷が加わってモータ温度が上昇し、粉砕モータ60が備える温度ヒューズが切れることが起こり得る。また、例えば使用する米の種類によっても、粉砕工程時に粉砕モータ60に加わる負荷が変わることがあり、ユーザが何気なく使用した米粒の性質(硬い、粘り気がある等)が原因となって、上記温度ヒューズ切れが生じることが起こり得る。
【0103】
このようなことが原因で温度ヒューズ切れが生じ易い構成の自動製パン器は、ユーザにとって使い勝手が悪いものと考えられる。このために、自動製パン器1は、パン原料の量の誤りや負荷が増大し易い種類の米を使用したこと等が原因となって簡単に温度ヒューズ切れが生じないように、「粉砕工程時のモータ異常温度対策」機能を備えている。なお、この機能は、単に温度ヒューズが切れることを防止するだけのもではない。すなわち、ユーザが例えばパン原料の量を誤った場合や、負荷が増大し易い種類の米を使用した場合でも、パンの製造工程を中止することなく続行できる点に特徴を有する。
【0104】
図12は、粉砕モータ60が備える温度ヒューズの温度と、積算加熱値との関係を示すグラフで、実験結果を示すものである。図12のグラフは、パン原料に投入する水を変化させる等、負荷が変動するように複数の実験条件を準備し、各実験条件で粉砕工程を行い、算出された積算加熱値と、それに対応して測定された温度ヒューズの温度とをプロットしたものである。
【0105】
積算加熱値は、詳細は以下で明らかになるが、粉砕工程中に、電流検知部111cから所定のタイミングで得られた電流値に対して所定の変換処理を施し、得られた変換値を順次積算して得られる積算値である。図12に示すように、本出願人らは、この積算加熱値とヒューズ温度との関係が、いずれの実験条件の場合にも、ほぼ同一のラインを示すことを見出し、これを「粉砕工程時のモータ異常温度対策」に適用した。
【0106】
なお、図12において、破線の直線で示す「標準」は、本出願人らが推奨するパン原料の量及び米種を用いた場合における、粉砕工程完了(予定した粉砕工程を予定通り終えたことを指す)時のヒューズ温度を示すものである。また、破線の楕円で示す部分は、温度ヒューズがヒューズ切れを起こした領域を示すものである。積算加熱値が、この温度ヒューズ切れを起こす範囲に至る前に粉砕モータ60を止めれば粉砕モータ60における温度ヒューズ切れを防止できる。
【0107】
また、積算加熱値が温度ヒューズ切れを起こす範囲に至るのは、例えばパン原料として投入する水の量が予め決められた量よりもかなり少ないような場合でも、粉砕工程がかなり進行した後であった。このため、積算加熱値が温度ヒューズ切れを起こす範囲に至る少し手前の値を粉砕モータ60の駆動停止を判断する閾値としておけば、この閾値を超えた段階で粉砕工程を終了して次の工程に進んでも、ユーザが許容できる品質のパンを得られることがわかった。
【0108】
以下、図13及び図14を参照しながら、本実施形態の自動製パン器1において実行される「粉砕工程時のモータ異常温度対策」について、詳細に説明する。図13は、本実施形態の自動製パン器1において実行される「粉砕工程時のモータ異常温度対策」の流れを示すフローチャートである。図14は、本実施形態の自動製パン器1における、積算加熱値の取得方法を説明するための模式図である。
【0109】
粉砕工程の開始時において、制御装置110は、温度センサ21の温度を確認し、確認した温度に基づいて閾値を決定する(ステップS1)。ここでいう閾値は、積算加熱値がその値を超えた場合に粉砕工程を強制終了するという判断を行うためのものである。そして、この閾値は、粉砕モータ60の温度ヒューズ切れが生じないように、且つ、できる限り予定した粉砕工程を遂行できるように、実験やシミュレーションによって決められるものである。
【0110】
ところで、粉砕工程を開始する際の本体10内の温度によって、積算(積算加熱値を得るための積算)開始時におけるモータの温度が異なる。すなわち、ヒューズ切れを起こすに至るまでの温度変化量が、本体10内の温度によって異なることになる。このため、粉砕工程を開始する際の本体10内の温度によって、上記閾値を変更するのが好ましい。
【0111】
そこで、本実施形態では、粉砕工程開始時に温度センサ21によって検知される温度と、その温度に対応した最適な閾値との関係を実験によって求め、これをテーブル化(或いは関係式)して、制御装置110のROM等に記憶させている。したがって、ステップS1では、制御装置110は、温度センサ21から得られた温度から、予め記憶されているテーブル等に基づいて閾値を決定することになる。
【0112】
なお、本実施形態では、閾値を決定する際に用いる温度センサとして、焼成室40の温度を検出する温度センサ21を使用している(低コスト化目的)が、これとは別の温度センサを本体10内に配置し、これを用いて上記閾値の決定を行ってもよい。
閾値が決定されると、制御装置110は、粉砕工程を中断する理由が発生していないか否かを確認する(ステップS2)。ここで、中断理由としては、例えば異常検知部22で異常が検知されている状態や停電状態である場合等が該当する。なお、異常検知部22で検知される異常状態には、例えば自動製パン器1の蓋30が開いている状態や、米粒からパンを製造するために使用されるパン容器が焼成室40内に入っていないと判断される状態等が該当する。
【0113】
上記中断理由が発生していないと判断される場合(ステップS2でYes)には、制御装置110は、電流検知部111cから所定のタイミングで電流値を取得する(ステップS4)。なお、制御装置110は、電流検知部111cから得られた電流値をアナログデータからデジタルデータへと変換(AD変換)する。一方、上記中断理由が発生していると判断される場合(ステップS2でNo)には、制御装置110は粉砕工程が再開した場合にはステップS4の処理を行い、粉砕工程が再開しない場合には、その必要がないのでモータ温度異常対策を終了する(ステップS3)。
【0114】
上述のように(図11参照)、粉砕工程は回転期間と冷却期間とが繰り返し行われる構成となっており、各回転期間について、粉砕モータ60(粉砕ブレード82)は初め低速回転してその後高速回転を行う。このような粉砕工程において、制御装置110は、各回転期間における粉砕モータ60が高速回転をしている際に、次のようなタイミング(所定のタイミング)で電流値の取得を行う。
【0115】
制御装置110は、図14(a)に示すように、各回転期間の1回目の電流値取得である場合には、高速回転開始1秒後に電流値の読み込み(取得)を行う。また、制御装置110は、図14(a)に示すように、各回転期間の2回目以降については、先に電流値の読み込みを行ってから2秒後に電流値の読み込みを行う。各回転期間において、電流値は10回までしか読み込まず、10回目の読み込みを行ったのちは、その後に粉砕モータ60が回転していても電流値の読み込みは行われない。
【0116】
なお、高速回転開始後すぐに電流値を読み込まないのは、高速回転開始直後は電流値が不安定であり、このような不安定な値は使用しない趣旨である。ただし、1秒後というのはあくまでも例示であり、各回転期間における1回目の電流値取得タイミングは適宜変更してもよい。
【0117】
また、2秒毎に電流値を読み込むというのも例示であり、その間隔は適宜変更してよい。電流値の取得間隔があまりに短いとデータサイズが大きくなり、データ処理に時間がかかる。また、電流値の取得間隔があまりに長いと、モータ(温度ヒューズ)の温度指標として得られる積算加熱値を使用した、モータ温度異常対策の信頼性が低下する。この点を考慮して、電流値の取得間隔は、適当な間隔が設定されればよい。また、本実施形態では、各回転期間における電流値の取得回数を10回までとしているが、一定回数の上限値が決められていればよく、この上限値も適宜変更してよい。
【0118】
制御装置110は、電流値(AD変換値)を取得すると、この電流値に対して次に所定の変換処理を行う(ステップS5)。本実施形態では、所定の変換処理として、電流値を5乗して所定の係数を掛ける処理を行う。また、本実施形態では、電流値と、この変換処理して得られる値(以下、加熱変換値と表現する)とを関係付けるテーブルが予めROM等に記憶されている。このために、制御装置110は、電流値を取得するとそれに対応する加熱変換値をテーブルから読み出す。
【0119】
なお、所定の変換処理として、本実施形態では、電流値を5乗して所定の係数を掛ける処理を行う構成としている。しかし、本発明の範囲は、所定の変換処理が前述の変換処理とは異なる変換処理である場合も含む趣旨である。要は、取得した電流値に所定の変換処理を行い、その変換値を積算して得られる積算値と、ヒューズ温度との関係が、例えば使用したパン原料の量の変動や米種の違い等によらず、ほぼ同一のライン(曲線又は直線)を示すように、所定の変換処理は行われればよい。
制御装置110は、加熱変換値を取得すると、得られた加熱変換値を先に得た積算加熱値に積算する積算処理を行う(ステップS6)。なお、粉砕工程の開始にあたっては、積算加熱値はゼロとしておく必要がある。すなわち、粉砕工程を開始して初めて得られた加熱変換値を積算して得られる積算加熱値は、加熱変換値そのものとなる。
【0120】
積算加熱値が得られると、制御装置110はこの積算加熱値をステップS1で決定した閾値と比較して、積算加熱値が閾値以下であるか否かを確認する(ステップS7)。積算加熱値が閾値以下である場合(ステップS7でYes)には、粉砕モータ60が安全に使用できる状態(温度ヒューズ切れが生じない状態)と判断できる。このために、この時点で粉砕工程が強制終了されることはない。
【0121】
一方、積算加熱値が閾値を超えた場合(ステップS7でNo)には、これ以上粉砕工程を続けると温度ヒューズが切れる可能性があるので、制御装置110は粉砕工程を強制終了する。粉砕工程を強制終了する場合には、その後、制御装置110が自動的に次工程(本実施形態では休止工程;本発明の第2の工程に相当)を実行させるのが好ましい。また、粉砕工程を強制終了する場合には、そのことをユーザに知らしめることとしてもよい。
【0122】
なお、本実施形態では、粉砕工程を強制終了する場合に、制御装置110が自動的に次工程を実行させる構成としている。しかし、本発明の構成はこれに限らず、粉砕工程を強制終了させたことのみをユーザに知らしめ、次工程を実行させるか否かはユーザが判断するような構成であってもよい。
【0123】
粉砕工程が強制終了されない場合(ステップS7でYes)には、制御装置110は、予定していた粉砕工程が完了したか否かを確認する(ステップS8)。予定の粉砕工程が完了したと判断された場合(ステップS8でYes)には、制御装置110は粉砕工程を終了(正式な終了を指す)する。
【0124】
一方、予定の粉砕工程が完了していないと判断された場合(ステップS8でNo)には、制御装置110はステップS2に戻って、ステップS2以降の上述した処理を繰り返す。これにより、粉砕工程が実行中においては加熱変換値が順次積算され、図14(a)に示すように積算加熱値は階段状に増えていくことになる。なお、図14(a)は、1つの回転期間における積算加熱値の変化のみを示しているが、この回転期間が終了し、その次の回転期間が開始されると、先の回転期間で得た加熱積算値に、更に順次加熱変換値が積算されることになる。
【0125】
また、ステップS2で中断が発生していると判断された場合は、中断が再開されるまでは、電流値の取得が行われない。図14(b)は、粉砕工程の途中で蓋30が開いたことによって粉砕工程の中断が発生した場合における、積算加熱値が如何に得られるかを示すイメージ図である。
【0126】
図14(b)では、或る回転期間において、2回目の電流値取得を行った後に粉砕工程の中断が発生した状態となっている。中断発生中は電流値取得が行われない。そして、中断が解消されて粉砕工程が再開される(この際にはいきなり高速回転される)と、続きの3回目からの電流値取得が行われる。3回目の電流値取得は、高速回転開始1秒後に行われ、以降の各電流値取得は、先の電流値取得の2秒後に行われる。中断解消後に最初に得られた加熱変換値は、中断発生前に得られた積算加熱値に積算され、この積算値に以後、順次得られた加熱変換値が積算されることになる。
【0127】
以上に示した粉砕工程時のモータ異常温度対策により、ユーザがパン原料の量を間違ったり、想定外の米種を使用したりして粉砕工程時の負荷が増大した場合でも、粉砕モータ60の温度ヒューズが切れることなく粉砕工程を終了させて、パンを焼き上げられる。
(その他)
以上に示した自動製パン器の実施形態は本発明の例示にすぎず、本発明が適用される自動製パン器の構成は、以上に示した実施形態に限定されるものではない。
【0128】
例えば、以上に示した実施形態では、粉砕モータ60の温度ヒューズが切れないように粉砕工程を強制終了させる際に使用する閾値を、温度に応じて変更させる構成とした。しかし、本発明はこの構成に限定されるものではなく、温度によらず1つの閾値のみを使用する構成も本発明の範囲に含まれる。
【0129】
また、以上に示した実施形態では、粉砕モータ60の温度ヒューズ切れを防止するために、積算加熱値を用いた、工程の強制終了判断が行われた。しかし、積算加熱値を用いた、工程の強制終了判断は、混練モータ50の温度ヒューズ切れを防止するために用いられてもよい。
【0130】
また、以上に示した実施形態では、自動製パン器1が米粒を出発原料としてパンを製造する場合を示した。しかし、これに限らず、例えば小麦、大麦、粟、稗、蕎麦、とうもろこし、大豆等の米粒以外の穀物粒が出発原料として用いられる場合にも、本発明は適用可能である。
【0131】
また、以上に示した米粒用製パンコースの製造フローは例示であり、米粒用製パンコースは他の製造フローとしてもよい。一例を挙げると、粉砕工程後の休止工程は省いてもよい。
【0132】
また、以上に示した実施形態では、粉砕工程と練り工程とで別々のモータを使用する構成とした。しかし、本発明の適用範囲はこの構成に限定されず、粉砕工程と練り工程とで同一のモータが使用される場合にも本発明は適用可能である。
【0133】
また、以上に示した実施形態における自動製パン器1では、発酵工程や焼成工程が可能となっている。しかしながら、本発明の自動製パン器は、このような構成のものに限定される趣旨ではない。例えば、発酵機能及び焼成機能がない自動製パン器や、発酵機能を有して焼成機能がない自動製パン器等も、本発明の範囲に含まれる。このような構成の場合には、本発明の自動製パン器を用いた後に、オーブン等の焼成装置を用いてパンを焼き上げることになる。要は、本発明は、粉砕工程及び練り工程を実行する機能を持った自動製パン器に広く適用されるものである。
【産業上の利用可能性】
【0134】
本発明は、例えば家庭用の自動製パン器に好適である。
【符号の説明】
【0135】
1 自動製パン器
10 本体
21 温度センサ
22 異常検知部
60 粉砕モータ
70 パン容器
72 ブレード回転軸
82 粉砕ブレード
111c 電流検知部
110 制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パン原料が投入されるパン容器を受け入れる本体と、
前記本体内に設けられ、前記パン容器が有する回転軸に回転力を与えるモータと、
前記モータに流れる電流の大きさを検知する電流検知手段と、
前記電流検知手段から得られる電流値に基づいて、パンの製造に関する制御を行う制御手段と、を備え、
前記制御手段は、パンの製造のために前記モータを駆動させる第1の工程において、所定のタイミングで得られる前記電流値に対して所定の変換処理を行うとともに、得られた変換値を順次積算して積算値を取得し、該積算値が所定の閾値を超えた場合に前記第1の工程を強制終了させる、自動製パン器。
【請求項2】
前記制御手段は、前記積算値が前記所定の閾値を超えて前記第1の工程を強制終了させたのち、自動的に第2の工程を実行させる、請求項1に記載の自動製パン器。
【請求項3】
前記本体内の温度を検知する温度検知手段を更に備え、
前記制御手段は、前記第1の工程を開始する際に前記温度検知手段から温度を取得し、取得した温度に応じて前記所定の閾値を決定する、請求項1又は2に記載の自動製パン器。
【請求項4】
前記制御手段は、前記第1の工程が途中で中断された場合には、当該中断中は前記積算値を得るための処理は停止し、前記第1の工程が再開された時点で前記積算値を得るための処理を再開する、請求項1から3のいずれかに記載の自動製パン器。
【請求項5】
異常を検知する異常検知手段を更に備え、
前記制御手段は、前記異常検知手段によって異常が検知されている場合には前記第1の工程を中断する、請求項4に記載の自動製パン器。
【請求項6】
前記回転軸とともに回転可能に設けられ、前記パン容器内で穀物粒を粉砕するために使用される粉砕手段を更に備え、
前記第1の工程は、前記パン容器内で前記粉砕手段を用いて穀物粒を粉砕する粉砕工程である、請求項1から5のいずれかに記載の自動製パン器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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