説明

自動製パン機

【課題】調理工程の途中で発生する時間的な工程誤差を、パンの出来栄えに影響することなく吸収し得る自動製パン機を提供する。
【解決手段】パン原料をパンに焼き上げる少なくとも1つの製パンコースを実行させることが可能な自動製パン機であって、制御装置が、調理動作開始後に少なくとも1回以上、調理予定時間と実際の調理進行時間とを比較し、調理予定時間と調理進行時間に誤差が生じた場合には、その後の製パンコース内のパン生地を静置する工程(「休止工程」または「冷却工程」または「発酵工程」)の時間を調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として一般家庭で使用される自動製パン機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
市販の家庭用自動製パン機は、パン原料を入れるパン容器をそのまま焼き型としてパンを製造する仕組みのものが一般的である。このような自動製パン機では、まず、パン原料を入れたパン容器が本体内の焼成室に入れられる。そして、パン容器内のパン原料がパン容器内に設けられる混練ブレードでパン生地に練り上げられる(練り工程)。その後、練り上げられたパン生地の発酵が行われ(発酵工程)、パン容器が焼き型として使用されてパンが焼き上げられる(焼成工程)。
【0003】
このような自動製パン機を用いてパンの製造が行われる場合、これまでは、パン原料として、小麦や米などの穀物を製粉した粉(小麦粉、米粉等)や、そのような製粉した粉に各種の補助原料が混ぜられたミックス粉が必要とされた。しかしながら、一般家庭においては、米粒に代表されるように、粉の形態ではなく粒の形態で穀物が所持されることがある。このために、自動製パン機が穀物粒から直接パンを製造する仕組みを有すれば、非常に便利である。このようなことを念頭において、穀物粒を出発原料としてパンを製造するパン製造方法を本出願人は開発した(特許文献1参照)。
【0004】
このパン製造方法では、まず、穀物粒と液体とが混合され、この混合物の中で粉砕ブレードが回転されて穀物粒が粉砕される(粉砕工程)。そして、粉砕工程を経て得られたペースト状の粉砕粉を含むパン原料が、混練ブレードを用いてパン生地に練り上げられる(練り工程)。その後、練り上げられたパン生地を発酵させる発酵工程が行われ、続いてパンを焼き上げる焼成工程が行われる。
【0005】
更に、本出願人は、穀物粒を出発原料としてパンを製造する自動製パン機に、あらかじめ焼き上がり予定時刻を設定して所望の時刻にパンを焼き上げるためのタイマー予約機能を具備する際に、予約待機する工程を粉砕工程の後に行う方法(特許文献2参照)や、粉砕工程の直後に行われる生地の冷却工程に予約待機時間を含める方法(特許文献3参照)を開発した。又、上記特許文献の技術を搭載した自動製パン器も実際に製品化されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−35476号公報
【特許文献2】特開2011−172722号公報
【特許文献3】特開2011−110273号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような従来の自動製パン器では、予約待機時間をあらかじめ計算し、予約設定完了時刻(予約設定時の現在時刻)と焼き上がり予約時刻の差分からパン調理に必要な全調理時間を差し引いた時間(超過時間)を予約待機時間として算出する。このように、粉砕工程実施の前に計算した予約待機時間によって予約待機動作を行っているが、粉砕工程では粉砕用ブレード(粉砕刃)の回転動作を複数回(例えば約10回程度)動作と休止を繰り返して穀物粒と液体の混合物をペースト状にしている。粉砕動作の間に何回も休止をはさむのは、材料の温度が上がるのを防ぐためである。また、粉砕工程では粉砕のみならず、混練用ブレードの回転動作を行う場合もある。これは穀物粒の粉砕を均一になるようにするための動作で、前述の複数回の粉砕動作の間に何回か(例えば約2回程度)攪拌動作として行う場合がある。
【0008】
このように従来の自動製パン器では、粉砕工程内では「粉砕」、「休止」、「攪拌」の各動作を複数回繰り返し運転するようになっている。このような構成では、粉砕ブレードと軸との接続から、混練ブレードと軸との接続へ切り替える際に、クラッチがうまくかみ合わない場合があるが、クラッチがうまくかみ合わなければ、クラッチがうまくかみ合うまでに何度かクラッチのかみ合わせをリトライする構成となっている。
【0009】
このため、クラッチの切り替えといった動作切り替えが何回も必要になることから、粉砕工程の予定工程時間と実工程時間とに違いが生じる場合が少なくない。予定された粉砕工程時間に変動が生じれば、あらかじめ計算された予約待機時間を粉砕工程の後に実施した場合、パンの焼きあがり予定時刻に誤差が生じてしまうという課題を有していた。
【0010】
また、タイマー予約を行わない通常の製パン調理においても、同様に予定された粉砕工程時間に変動が生じれば、調理開始時点で予定されているパンの焼き上がり予定時刻に誤差が生じてしまうという課題を有していた。
【0011】
尚、前述の粉砕工程が無い従来型の自動製パン機の場合にも同様に調理工程内に時間的な変動が生じる可能性はあるが、前述の粉砕工程のように「粉砕」、「休止」、「攪拌」の各動作を複数回繰り返し運転する場合が無く、大きく分類して「混練」、「発酵」、「焼成」の各工程のみであるために、各工程での時間的な変動はほとんど生じない。
【0012】
本発明は、前記従来の課題を解決するもので、例えば粉砕工程で粉砕工程時間に変動が生じた場合でも予約調理完了時刻や通常の調理完了時刻に誤差を生じることが少ない自動製パン機を提供し、合わせて粉砕工程が無い従来型の自動製パン機の場合であっても、工程時間に変動が生じた場合でも予約調理完了時刻や通常の調理完了時刻に誤差を生じることが少ない自動製パン機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために請求項1に記載の発明は、パン原料が投入されるパン容器と、パン原料をパン生地に練り上げる混練手段と、前記パン容器内のパン原料を加熱する加熱手段と、前記混練手段、及び前記加熱手段を制御して、パン原料をパンに焼き上げる少なくとも1つの製パンコースを実行させる制御手段とを備える自動製パン機であって、前記制御手段は、調理動作開始後に少なくとも1回以上、調理予定時間と実際の調理進行時間とを比較し、調理予定時間と調理進行時間に誤差が生じた場合には、その後の製パンコース内のパン生地を静置する工程(「休止工程」または「冷却工程」または「発酵工程」)の時間を調整することを特徴とする。
【0014】
この構成によれば、制御手段が、各工程が実行される際に生じた時間的な誤差を、パンの焼き上がりにほとんど影響しない工程時間を用いて微調整することにより、パンの焼き上がり完了時刻に誤差が生じることを、抑制することが可能になる。
【0015】
また、請求項2に記載の発明は、パン原料が投入されるパン容器と、パン原料をパン生地に練り上げる混練手段と、前記パン容器内のパン原料を加熱する加熱手段と、前記混練手段、及び前記加熱手段を制御して、パン原料をパンに焼き上げる少なくとも1つの製パンコースを実行させる制御手段と、タイマー予約を行うための入力手段と、予約調理を行う際に予約待機する機能と、を備える自動製パン機であって、前記制御手段は、調理動作開始後に少なくとも1回以上、調理予定時間と実際の調理進行時間とを比較し、調理予定時間と調理進行時間に誤差が生じた場合には、前記予約待機の時間を調整するように制御することを特徴とする。
【0016】
この構成によれば、タイマー予約を行う場合に、パンの焼き上がり完了時刻に誤差が生じることを、抑制することが可能になる。
【0017】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の自動製パン機であり、パン原料として穀物粒を使用し、穀物粒を粉砕する粉砕手段を更に備え、前記穀物粒を前記粉砕手段によって粉砕する粉砕工程と、粉砕工程の前、または後に行われる吸液工程と、前記穀物粒の粉砕粉を含む前記パン容器内のパン原料を前記混練手段によってパン生地に練り上げる練り工程と、練り上げられたパン生地を発酵させる発酵工程と、発酵させたパン生地を焼成する焼成工程と、を順次に連続して行い、予約調理を行う際に、前記粉砕工程の後に前記予約待機を行い、前記制御手段は、タイマー予約設定完了時点で、パンの焼き上げ予定時間から調理予定時間を差し引いた時間を第1の予約待機時間とし、前記粉砕工程完了時点で、再度、予約待機時間を計算し、それを第2の予約待機時間とし、第2の予約待機時間が負であれば、予約待機時間として第1の予約待機時間を採用し、第2の予約待機時間が負でなければ、予約待機時間として第2の予約待機時間を採用するように制御することを特徴とする。
【0018】
この構成によれば、時間的な誤差が生じやすい粉砕工程を行う製パンコースであってもパンの焼き上がり完了時刻に誤差が生じることを、抑制することが可能になる。また、時間的な誤差が生じやすい粉砕工程を行う製パンコースのタイマー予約を行う場合に、パンの焼き上がり完了時刻に誤差が生じることを、抑制することが可能になる。更に、時間的な誤差が生じやすい粉砕工程を行う製パンコースのタイマー予約を行う場合に、簡易な制御処理方法で、パンの焼き上がり完了時刻に誤差が生じることを、抑制することが可能になる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によると、パンの焼き上がり状態にほとんど悪影響を及ぼすことなく、予め設定されたパン焼き上がり時刻にほとんど時間的な誤差を生じることなく、パンを焼き上げることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本実施形態の自動製パン機の外観構成を示す概略斜視図
【図2】本実施形態の自動製パン機の本体内部の構成を説明するための模式図
【図3】本実施形態の自動製パン機が備える第1の動力伝達部に含まれるクラッチについて説明するための図
【図4】本実施形態の自動製パン機における、パン容器が収容された焼成室及びその周辺の構成を示す模式図
【図5】本実施形態の自動製パン機が備えるブレードユニットの構成を示す概略斜視図
【図6】本実施形態の自動製パン機が備えるブレードユニットの構成を示す分解概略斜視図
【図7】本実施形態の自動製パン機が備えるブレードユニットの構成を示す概略側面図及び概略断面図
【図8】本実施形態の自動製パン機が備えるブレードユニットを下から見た場合の概略平面図(ガードが取り外された場合の図)
【図9】本実施形態の自動製パン機が備えるブレードユニットの動作を説明するための図で、パン容器を上から見た場合の図
【図10】本実施形態の自動製パン機の制御ブロック図
【図11】本実施形態の自動製パン機によって実行される通常調理時の米粒用製パンコースの流れを示す模式図
【図12】本実施形態の自動製パン機が備える通常調理時の時間的誤差吸収制御のフローチャート
【図13】本実施形態の自動製パン機によって実行されるタイマー予約調理時の米粒用製パンコースの流れを示す模式図
【図14】本実施形態の自動製パン機が備えるタイマー予約調理時の時間的誤差吸収制御のフローチャート
【図15】本実施形態の自動製パン機が備えるタイマー予約調理時の時間的誤差吸収制御のフローチャート(簡易方式の場合の図)
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の自動製パン機の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本明細書に登場する具体的な時間や温度等はあくまでも例示であり、それらは本発明の内容を限定するものではない。
【実施例】
【0022】
(自動製パン機の構成)
図1は、本実施形態の自動製パン機の外観構成を示す概略斜視図で、図1(a)は蓋が閉じられた状態、図1(b)は蓋が開かれた状態を示している。図1に示すように、自動製パン機1の本体10(その外殻は例えば金属や合成樹脂等によって形成される)は、操作部20が設けられた上面を有している。この操作部20は、スタートキー、取り消しキー、タイマー(時、分)キー、予約キー、パンの製造コース(米粒を出発原料に用いてパンを製造するコース、米粉を出発原料に用いてパンを製造するコース、小麦粉を出発原料に用いてパンを製造するコース等)を選択する選択キー等の操作キー群と、時間、操作キー群によって設定された内容、エラー等を表示する表示部とによって構成されている。なお、表示部は、例えば液晶表示パネル等によって構成される。
【0023】
また、本体10内部には、詳細は後述するパン容器80が収容される焼成室30が設けられている。この焼成室30は、例えば板金からなる底壁30a及び4つの側壁30b(後述の図4も参照)を有する平面形状略短形の箱形状に構成され、その上面が開口している。この焼成室30は、本体10の背面側に回動可能に一端が軸支されて、焼成室30の開口を覆う閉位置と該閉位置から所定角度回転された開位置との間で変位する蓋(蓋体)40によって開閉可能となっている。
【0024】
この蓋40には、焼成室30に収容されるパン容器80内の様子を外部から覗けるように、例えば耐熱ガラスからなる覗き窓41が設けられている。また、蓋40には、パンの製造工程の途中で一部のパン原料を自動投入できるように設けられるパン原料収納容器110が取付可能となっている。
【0025】
操作部20下部側の本体10内には自動投入用ソレノイド(図示せず)が設けられており、この自動投入用ソレノイドが駆動すると、そのプランジャーが、蓋40に隣接する本体壁面10aに設けられる開口10bから突出するようになっている。そして、この突出したプランジャーによって可動する可動部材(図示せず)によって可動フック(図示せず)が動かされ、容器蓋と可動フックとの係合が外れて容器蓋が回動し、容器本体の開口が開かれた状態になる。なお、図1(b)においては、容器本体の開口が開かれた状態が示されている。
【0026】
容器本体、及び容器蓋は、容器内に収納される粉体パン原料(例えばグルテンやドライイースト等)が容器内に残留し難いように、アルミニウム等の金属で設けられるのが好ましい。そして、それらの表面は、シリコンやフッ素等のコーティング層で覆われるのが好ましく、アルマイト層で覆われるように構成するとさらに好ましい。また、容器本体、及び容器蓋は、凹凸がなるべく設けられず、滑らかに形成されるのが好ましい。なお、蓋40の内側(パン原料収納容器110が取り付けられる側)の部材も同様であり、基材をアルミニウムとして、表面をシリコンやフッ素等のコーティング層やアルマイト層で覆うように構成すると、好ましい。
【0027】
また、米粒等の穀物粒を粉砕する際に発生する蒸気等が容器本体内に入り込むと、パン原料が容器内面に付着し易くなって好ましくない。このために、容器内に前述の蒸気等が入り込まないように、容器本体の開口側縁には鍔部(フランジ部)が設けられて、この鍔部と容器蓋との間にはパッキン(シール部材)が介在するようになっている。
【0028】
また、蓋40は、蓋40が閉じられた状態において、その上面の略全体が本体10の前面側から背面側に向けて高くなる傾斜面となっている。このために、蓋40を閉じた状態において、本体10前面寄りに配置される覗き窓41から焼成室30に収容されるパン容器80内の様子が観察し易くなっている。また、蓋40を閉じた状態において本体10の背面寄りに取り付けられるパン原料収納容器110は、蓋40の厚みが厚い部分に配置されることになるため、その高さを高くすることによって大きな容積を稼げるようになっている。
【0029】
図2は、本実施形態の自動製パン機の本体内部の構成を説明するための模式図である。図2は、自動製パン機1を上側から見た場合を想定しており、図の下側が自動製パン機1の正面側、図の上側が背面側である。図2に示すように、自動製パン機1には、焼成室30の右横に練り工程で用いられる低速・高トルクタイプの混練モータ50が固定配置され、焼成室30の後ろ側に粉砕工程で用いられる高速回転タイプの粉砕モータ60が固定配置されている。混練モータ50及び粉砕モータ60はいずれも竪軸である。
【0030】
混練モータ50の上面から突出する出力軸51には第1のプーリ52が固定される。この第1のプーリ52は、第1のベルト53によって、その径が第1のプーリ52よりも大きく形成されるとともに第1の回転軸54の上部側に固定される第2のプーリ55に連結されている。第1の回転軸54の下部側には、その回転中心が第1の回転軸54とほぼ同一となるように第2の回転軸57が設けられている(後述の図3参照)。なお、第1の回転軸54及び第2の回転軸57は、本体10内部に回転可能に支持されている。また、第1の回転軸54と第2の回転軸57との間には、動力伝達と動力遮断を行うクラッチ56が設けられている(後述の図3参照)。このクラッチ56の構成については後述する。
【0031】
第2の回転軸57の下部側には第3のプーリ58が固定されている(後述の図3参照)。第3のプーリ58は、第2のベルト59によって、焼成室30の下部側に設けられるとともに原動軸11に固定される第1の原動軸用プーリ12(第3のプーリ58とほぼ同一の径を有する)に連結されている(後述の図3参照)。混練モータ50自身が低速・高トルクタイプであり、その上、第1のプーリ52の回転が第2のプーリ55によって減速回転される(例えば1/5の速度に減速される)。このため、クラッチ56が動力伝達を行う状態で混練モータ50を駆動すると、原動軸11は低速で回転する。
【0032】
なお、第1のプーリ52、第1のベルト53、第1の回転軸54、第2のプーリ55、クラッチ56、第2の回転軸57、第3のプーリ58、第2のベルト59、及び第1の原動軸用プーリ12で構成される動力伝達部のことを、以下において第1の動力伝達部と表現することがある。
【0033】
粉砕モータ60の下面から突出する出力軸61には、第4のプーリ62が固定されている。この第4のプーリ62は、第3のベルト63によって、原動軸11に固定される第2の原動軸用プーリ13(第1の原動軸用プーリ12より下側で固定される;後述の図3参照)に連結されている。第2の原動軸用プーリ13は第4のプーリ62とほぼ同一の径を有する。粉砕モータ60には高速回転のものが選定され、第4のプーリ62の回転は第2の原動軸用プーリ13においてほぼ同一速度で維持されるために、粉砕モータ60を駆動すると、原動軸11は高速回転(例えば7000〜8000rpm)を行う。
【0034】
なお、第4のプーリ62、第3のベルト63、及び第2の原動軸用プーリ13で構成される動力伝達部のことを、以下において第2の動力伝達部と表現することがある。第2の動力伝達部は、クラッチを有さない構成であり、粉砕モータ60の出力軸61と原動軸11とを常時動力伝達可能に連結する。
【0035】
図3は、本実施形態の自動製パン機が備える第1の動力伝達部に含まれるクラッチについて説明するための図である。図3は、図2の矢印X方向に沿って見た場合を想定した図である。なお、図3(a)はクラッチ56が動力遮断を行う状態を示し、図3(b)はクラッチ56が動力伝達を行う状態を示す。
【0036】
図3に示すように、クラッチ56は、第1のクラッチ部材561と第2のクラッチ部材562とを有する。そして、第1のクラッチ部材561に設けられる爪561aと、第2のクラッチ部材562に設けられる爪562aとが噛み合う場合(図3(b)の状態)に、クラッチ56は動力伝達を行う。また、2つの爪561a、562aが噛み合わない場合(図3(a)の状態)に、クラッチ56は動力遮断を行う。すなわち、クラッチ56は噛み合いクラッチとなっている。
【0037】
なお、本実施形態では、2つのクラッチ部材561、562のそれぞれには、周方向(第1のクラッチ部材561を下から平面視した場合、或いは、第2のクラッチ部材562を上から平面視した場合を想定)にほぼ等間隔に並ぶ6つの爪561a、562aが設けられているが、この爪の数は適宜変更してもよい。また、爪561a、562aの形状は、好ましい形状を適宜選択すればよい。
【0038】
第1のクラッチ部材561は、抜け止め対策を施された上で、第1の回転軸54に、その軸方向(図3において上下方向)に摺動可能、且つ、相対回転不能に取り付けられている。第1の回転軸54の第1のクラッチ部材561の上部側には、バネ71が遊嵌されている。このバネ71は、第1の回転軸54に設けられるストッパ部54aと第1のクラッチ部材561とに挟まれるように配置されており、第1のクラッチ部材561を下側に向けて付勢している。一方、第2のクラッチ部材562は、第2の回転軸57の上端に固定されている。
【0039】
クラッチ56における、動力伝達状態と動力遮断状態との切り替えは、第1のクラッチ部材561から固定状態で延出するアーム部72と、永久磁石73aが内蔵された自己保持型のソレノイド(クラッチ用ソレノイド)73と、を用いて行われる。ソレノイド73のプランジャー73bは、その先端部(図3においては下部側が該当)がアーム部72に設けられる取付部72aに固定された状態となっている。アーム部72(取付部72aを含む)は金属で形成されているために、永久磁石73aに吸着可能となっている。
【0040】
図3(a)の状態から、ソレノイド73に、永久磁石73aの磁界を打ち消すように電圧を印加すると、永久磁石73aのアーム部72(より正確には72a)を吸着する力が低下し、バネ71の付勢力によって第1のクラッチ部材561が下側に押し下げられる。これにより、第1のクラッチ部材561の爪561aと、第2のクラッチ部材562の爪562aとの噛み合いが得られ、クラッチ56は動力伝達を行うようになる(図3(b)の状態となる)。この噛み合いが得られた状態は、バネ71の付勢力によって維持されるために、第1のクラッチ部材561を引き下げるための駆動を行った後は、ソレノイド73はオフとされる。また、この噛み合いが得られた状態では、アーム部72が引き下がるために、ソレノイド73のプランジャー73bは、ハウジング73cからの突出量(下側への突出量)が増した状態となっている。
【0041】
一方、図3(b)の状態から、ソレノイド73に、プランジャー73bを引き上げる方向の電圧(永久磁石73aの磁界を打ち消す方向の電圧とはプラスマイナスが逆となる電圧)を印加すると、バネ71の付勢力に反して、アーム部72と共に第1のクラッチ部材561が上側に引き上げられる。これにより、第1のクラッチ部材561の爪561aと、第2のクラッチ部材562の爪562aとの噛み合いが解除され、クラッチ56は動力遮断を行うようになる(図3(a)の状態となる)。この噛み合いが解除された状態においては、ソレノイド73に内蔵される永久磁石73aがアーム部72(より正確には72a)を吸着する。このために、第1のクラッチ部材561を引き上げるための駆動を行った後は、ソレノイド73をオフとしても、クラッチ73の噛み合いが解除された状態を維持できるので、ソレノイド73はオフされる。
【0042】
粉砕モータ60を駆動する際に、クラッチ56が動力伝達を行う状態(図3(b)の状態)であると、原動軸11を高速回転させる回転動力が混練モータ50の出力軸51に伝達される(図2参照)。この場合、粉砕モータ60が例えば8000rpmで回転されるとすると、第1のプーリ52と第2のプーリ55との半径比(例えば1:5)によって、混練モータ50の出力軸51を40000rpmで回転させようとすることになる。この場合、粉砕モータ60に非常に大きな負荷が加わることになるため、粉砕モータ60が破損する可能性がある。このため、粉砕モータ60を駆動する際には、原動軸11を高速回転させる回転動力が混練モータ50の出力軸51に伝達されないようにする必要があり、自動製パン機1は、動力伝達と動力遮断を行うクラッチ56を第1の動力伝達部に含む構成となっている。
【0043】
なお、上述のように自動製パン機1においては、第2の動力伝達部にはクラッチを設けない構成としているが、この場合には上述のようなモータ破損は生じない。これは、混練モータ50を駆動しても原動軸11は低速回転(例えば180rpm等)されるのみであり、原動軸11を回転させる回転動力が粉砕モータ60の出力軸に伝達されても、混練モータ50に大きな負荷が加わることはないからである。そして、このように第2の動力伝達部に敢えてクラッチを設けない構成とすることにより、自動製パン機1の製造コストを抑制している。ただし、第2の動力伝達部にクラッチを設ける構成としても勿論構わない。
【0044】
図4は、本実施形態の自動製パン機における、パン容器が収容された焼成室及びその周辺の構成を模式的に示す図である。図4は、自動製パン機1を前面側から見た場合の構成を想定しており、焼成室30及びパン容器80の構成については概ね断面図で示している。なお、パン原料が投入されるとともにパン焼き型として使用されるパン容器80は、焼成室30に対して出し入れ自在となっている。
【0045】
図4に示すように、焼成室30の内部には、シーズヒータ31(加熱手段の一例)が焼成室30に収容されたパン容器80を包囲するように配置され、パン容器80内のパン原料(この表現にはパン生地とされたパン原料も含まれる)を加熱できるようになっている。
【0046】
また、焼成室30の底壁30aの略中心にあたる箇所には、パン容器80を支持するパン容器支持部14(例えばアルミニウム合金のダイキャスト成型品からなる)が固定されている。このパン容器支持部14は、焼成室30の底壁30aから窪むように形成され、その窪みの形状は上から見た場合に略円形となっている。このパン容器支持部14の中心には、上述の原動軸11が底壁30aに対して略垂直となるように支持されている。
【0047】
パン容器80は例えばアルミニウム合金のダイキャスト成型品(その他、板金等で構成しても構わない)であり、バケツのような形状をしており、開口部側縁に設けられる鍔部80aに手提げ用のハンドル(図示せず)が取り付けられている。パン容器80の水平断面は四隅を丸めた矩形である。また、パン容器80の底部には、詳細は後述するブレードユニット90の一部を収容する平面視略円形状の凹部81が形成されている。
【0048】
パン容器80の底部中心には、垂直方向に延びるブレード回転軸82が、シール対策を施された状態で回転可能に支持されている。このブレード回転軸82の下端(パン容器80の底部から外部側に突き出ている)には、容器側カップリング部材82aが固定されている。また、パン容器80の底部外面側には筒状の台座83が設けられており、パン容器80は、この台座83がパン容器支持部14に受け入れられた状態で、焼成室30内に収容されるようになっている。なお、台座83は、パン容器80とは別に形成してもよいし、パン容器80と一体的に形成してもよい。
【0049】
パン容器支持部14の内周面と台座83の外周面とには、それぞれ図示しない突起が形成されており、これらの突起には周知のバヨネット結合を構成する。すなわち、パン容器80をパン容器支持部14に取り付ける際、台座83の突起がパン容器支持部14の突起に干渉しないようにしてパン容器80を下ろす。そして、台座83がパン容器支持部14に嵌り込んだ後、パン容器80を水平にひねると、パン容器支持部14の突起の下面に台座83の突起が係合するようになっている。これにより、パン容器80は上方に抜けなくなる。
【0050】
なお、この操作で、ブレード回転軸82の下端に設けられる前述の容器側カップリング部材82aと、原動軸11の上端に固定される原動軸側カップリング部材11aとの連結(カップリング)も同時に達成される。そして、このカップリングにより、ブレード回転軸82は原動軸11から回転動力を伝えられるようになる。
【0051】
ブレード回転軸82のパン容器80内部に突出する部分には、その上からブレードユニット90が着脱可能に取り付けられるようになっている。このブレードユニット90の構成について、図5から図9を参照しながら説明する。なお、図5は、本実施形態の自動製パン機が備えるブレードユニットの構成を示す概略斜視図である。図6は、本実施形態の自動製パン機が備えるブレードユニットの構成を示す分解概略斜視図である。図7は、本実施形態の自動製パン機が備えるブレードユニットの構成を示す図で、図7(a)は概略側面図、図7(b)は図7(a)のA−A位置における断面図である。図8は、本実施形態の自動製パン機が備えるブレードユニットを下から見た場合の概略平面図で、図8(a)は混練ブレードが折り畳み姿勢にある場合の図、図8(b)は混練ブレードが開き姿勢にある場合の図である。図8においては、後述のガードが取り外された状態を示している。図9は、本実施形態の自動製パン機が備えるブレードユニットの動作を説明するための図で、パン容器を上から見た場合の図である。図9(a)は混練ブレードが折り畳み姿勢にある場合の図、図9(b)は混練ブレードが開き姿勢にある場合の図である。
【0052】
ブレードユニット90は、大きくは、ユニット用シャフト91と、ユニット用シャフト91に相対回転不能且つ着脱可能に取り付けられる粉砕ブレード92と、ユニット用シャフト91に相対回転可能且つ粉砕ブレード92を覆うように取り付けられる平面視略円形のドーム状カバー93と、ドーム状カバー93に相対回転可能に取り付けられる混練ブレード101と、を備える構成となっている(例えば、図5〜図7参照)。ブレードユニット90がブレード回転軸82に取り付けられた状態において、粉砕ブレード92は、パン容器80の凹部81底面より少し上の箇所に位置する。また、粉砕ブレード92及びドーム状カバー93のほぼ全体は凹部81に収容される。
【0053】
ユニット用シャフト91は、例えばステンレス鋼板等の金属によって形成される略円柱状の部材であり、一方端(図6及び図7の下端)に開口が設けられ、その内部は中空となっている。また、ユニット用シャフト91の側壁の下部側(開口側)には、ユニット用シャフト91の回転中心を挟んで対称配置される一対の切り欠き91aが形成されている(例えば図6参照。ただし図6では一方のみが示されている)。ユニット用シャフト91がブレード回転軸82に被せられた場合に、ブレード回転軸82を水平に貫くピン(図示せず)が切り欠き91aに係合し、ユニット用シャフト91はブレード回転軸82に相対回転不能に取り付けられた状態になる。
【0054】
なお、図7(b)に示すように、ブレード回転軸82(破線で示す)の上面(略円形状)の中央部に設けられる凸部82aと係合するように、ユニット用シャフト91の上部側内面の中央部には凹部91bが形成されている。これにより、ユニット用シャフト91とブレード回転軸82との中心を合わせた状態で、ブレードユニット90はブレード回転軸82に容易に取り付けることができる。このために、ブレードを回転する際における、不要なガタツキが抑制される。本実施形態では、ブレード回転軸82側に凸部82a、ユニット用シャフト91側に凹部91bを設ける構成としたが、これとは逆に、ブレード回転軸82側に凹部、ユニット用シャフト91側に凸部が設けられる構成としても構わない。
【0055】
穀物粒粉砕用の粉砕ブレード(本発明の粉砕手段の実施形態)92は例えばステンレス鋼板によって形成され、その形状は例えば飛行機のプロペラのようになっている。粉砕ブレード92の中心部には、図6に示すように、平面視略矩形状の開口92aが形成されている。粉砕ブレード92は、ユニット用シャフト91の下部側から、開口92aにユニット用シャフト91を嵌め込むようにして取り付けられている。
【0056】
ユニット用シャフト91の下部側は、円柱の側面を削ったような形状となっており、下から見た場合に、粉砕ブレード92の開口92aとほぼ同形状(略矩形状)となっている。また、ユニット用シャフト91の下部側を下から見た場合の面積は、開口92aより、ほんの僅かだけ小さくなっている。このような形状を採用しているために、粉砕ブレード92はユニット用シャフト91に相対回転不能に取り付けられる。粉砕ブレード92の下部側には抜け止め用のストッパ部材94がユニット用シャフト91に嵌め込まれるために、粉砕ブレード92がユニット用シャフト91から脱落することはない。
【0057】
粉砕ブレード92を囲んで覆い隠すように配置されるドーム状カバー93は、例えばアルミニウム合金のダイキャスト成型品からなり、その内面側には、ベアリング95(本実施形態では転がり軸受けを使用している)を収容する凹状の収容部931(図7(b)参照)が形成されている。換言すると、この収容部931を形成するために、ドーム状カバー93は、それを外面から見た場合に、中央部に略円柱状の凸部93aが形成された構成となっている。なお、凸部93aの外面には開口が形成されておらず、収容部931に収容されるベアリング95はその側面及び上面が収容部931の壁面に囲い込まれた状態となっている。
【0058】
ベアリング95は上下に抜け止めリング96a、96bが配置された状態で、その内輪95aがユニット用シャフト91に相対回転不能に取り付けられている(内輪95a内側の貫通孔にユニット用シャフト91が圧入されている)。また、ベアリング95は、その外輪95bの外壁が収容部931の側壁に固定されるように、収容部931に圧入されている。このベアリング95(内輪95aが外輪95bに対して相対回転する)の介在によって、ドーム状カバー93はユニット用シャフト91に相対回転可能に取り付けられている。
【0059】
また、ドーム状カバー93の収容部931には、外部からベアリング95内に異物(例えば穀物粒の粉砕時に用いられる液体や粉砕により得られたペースト状物等)が入り込まないように、例えばシリコン系或いはフッ素系の材料によって形成されるシール材97及び、このシール材97を保持する金属製のシールカバー98が、ベアリング95の下部側から圧入されている。シールカバー98は、ドーム状カバー93への固定が確実となるように、リベット99によってドーム状カバー93に固着されている。このリベット99による固定は行わなくてもよいが、確実な固定を得るために、本実施形態のように構成するのが好ましい。 なお、シール材97及びシールカバー98はシール手段として機能する。また、シールカバー98は、テフロン(登録商標)塗装などによりコーティングすると好ましい。特に、銀色の塗料を用いると、塗装が剥がれ難く、万が一剥がれたとしても目立ち難いため、好ましい。
【0060】
ドーム状カバー93の外面には、凸部93aに隣接する箇所に垂直方向に延びるように配置された支軸100(図6参照)により、平面形状「く」の字形の混練ブレード101(例えばアルミニウム合金のダイキャスト成型品からなる)が取り付けられている。混練ブレード101は、支軸100に相対回転不能に取り付けられており、ドーム状カバー93に相対回転可能に取り付けられる支軸100と動きを共にする。換言すると、混練ブレード101は、ドーム状カバー93に対して相対回転可能に取り付けられた構成となっている。
【0061】
また、本実施形態では、ドーム状カバー93の外面に、混練ブレード101に並ぶように補完混練ブレード102(例えばアルミニウム合金のダイキャスト成型品からなる)が固定配置されている。この補完混練ブレード102は、必ずしも設ける必要がないが、パン生地を練り上げる練り工程における混練効率を高めるために設けるのが好ましい。
【0062】
ここで、混練ブレード101の動作について説明する。混練ブレード101は、支軸100と共に支軸100の軸線周りに回転し、図5、図7、図8(a)及び図9(a)に示す折り畳み姿勢と、図8(b)及び図9(b)に示す開き姿勢との2姿勢をとる。折り畳み姿勢では、混練ブレード101の下縁から垂下した突起101a(図5及び図6参照)がドーム状カバー93の上面(外面)に設けられた第1のストッパ部93bに当接し、混練ブレード101は、それ以上ドーム状カバー93に対して反時計方向(上から見た場合を想定)の回動を行うことができない。この折り畳み姿勢では、混練ブレード101の先端がドーム状カバー93から少し突き出している。
【0063】
この姿勢(図9(a)の状態)から混練ブレード101がドーム状カバー93に対して時計方向(上から見た場合を想定)に回動して図9(b)に示す開き姿勢になると、混練ブレード101の先端はドーム状カバー93から大きく突き出す。この開き姿勢における混練ブレード101の開き角度は、ドーム状カバー93の内面に設けられる第2のストッパ部93c(図8参照)によって制限される。詳細は後述する第2係合体103b(支軸100に固定される)が、ドーム状カバー93の内面に設けられる第2のストッパ部93cに当って回転できなくなった時点で、混練ブレード101は最大開き角度となる。
【0064】
なお、混練ブレード101が折り畳み姿勢となっている場合には、例えば図5や図7に示すように補完混練ブレード102は混練ブレード101に整列し、あたかも「く」の字形状の混練ブレード101のサイズが大型化したようになる。
【0065】
ところで、ユニット用シャフト91には、図6に示すように、粉砕ブレード92とシールカバー98との間にカバー用クラッチ103を構成する第1係合体103aが取り付けられている。例えば亜鉛ダイカストからなる第1係合体103aには略矩形状の開口103aaが形成されており、この開口103aaにユニット用シャフト91の下部側の平面視略矩形状部分が嵌め込まれることにより、第1係合体103aはユニット用シャフト91に相対回転不能に取り付けられている。この第1係合体103aは粉砕ブレード92よりも先に、ユニット用シャフト91の下側から嵌め込まれ、ストッパ部材94によって、粉砕ブレード92と共にユニット用シャフト91からの脱落が防止されている。なお、本実施形態では、第1係合体103aとシールカバー98との間には、第1係合体103aの劣化防止等を考慮してワッシャ104を配置する構成としているが、このワッシャ104は必ずしも設けなくてもよい。
【0066】
また、混練ブレード101が取り付けられる支軸100の下部側には、カバー用クラッチ103を構成する第2係合体103bが取り付けられている。例えば亜鉛ダイカストからなる第2係合体103bには略矩形状の開口103baが形成されており、この開口103baに支軸100の下部側の平面視略矩形状部分が嵌め込まれることにより、第2係合体103bは支軸100に相対回転不能に取り付けられている。なお、本実施形態では、第2係合体103bの上側に、第2係合体103bの劣化防止等を考慮してワッシャ105を配置する構成としているが、このワッシャ105は必ずしも設けなくてもよい。
【0067】
第1係合体103aと第2係合体103bとで構成されるカバー用クラッチ103は、ブレード回転軸82の回転動力をドーム状カバー93に伝達するか否かを切り替えるクラッチとして機能する。カバー用クラッチ103は、混練モータ50が原動軸11を回転させるときのブレード回転軸82の回転方向(この回転方向を「正方向回転」とする。図8では反時計方向回転、図9では時計方向回転となる。)において、ブレード回転軸82の回転動力をドーム状カバー93に伝達する。逆に、粉砕モータ60が原動軸11を回転させるときのブレード回転軸82の回転方向(この回転方向を「逆方向回転」とする。図8では時計方向回転、図9では反時計方向回転となる。)においては、カバー用クラッチ103は、ブレード回転軸82の回転動力をドーム状カバー93に伝達しない。以下、このカバー用クラッチ103の動作について更に詳細に説明する。
【0068】
混練ブレード101が折り畳み姿勢にある場合(例えば図8(a)、図9(a)の状態)、第2係合体103bの係合部103bbは第1係合体103aの係合部103ab(本実施形態では2つあるが1つでもよい)の回転軌道に干渉する角度となる(図8(a)の破線参照)。このため、ブレード回転軸82が正方向回転すると、第1係合体103aと第2係合体103bは係合し、ブレード回転軸82の回転動力がドーム状カバー93に伝達される。
【0069】
一方、混練ブレード101が開き姿勢にある場合(例えば図8(b)、図9(b)の状態)、第2係合体103bの係合部103bbは第1係合体103aの係合部103abの回転軌道から逸脱した角度となる(図8(b)の破線参照)。このために、ブレード回転軸82が回転しても、第1係合体103aと第2係合体103bは係合しない。従って、ブレード回転軸82の回転動力はドーム状カバー93に伝達されない。
【0070】
例えば図5及び図6に示すように、ドーム状カバー93には、カバー内空間とカバー外空間を連通する窓93dが形成される。窓93dは粉砕ブレード92に並ぶ高さか、それよりも上の位置に配置される。なお、本実施形態では、計4個の窓93dが90°間隔で並んでいるが、それ以外の数と配置間隔を選択することもできる。
【0071】
また、ドーム状カバー93内面には、各窓93dに対応して計4個のリブ93eが形成されている。各リブ93eはドーム状カバー93の中心近傍から外周の環状壁まで半径方向に斜めに延び、4個合わさって一種の巴形状を構成する。また、各リブ93eは、それに向かって押し寄せるパン原料に対面する側が凸となるように湾曲している。
【0072】
また、ドーム状カバー93の下面には、着脱可能なガード106が取り付けられている。このガード106は、ドーム状カバー93の下面を覆って粉砕ブレード92にユーザの指が接近するのを阻止する。ガード106は、例えば耐熱性を有するエンジニアリングプラスチックによって形成され、例えばPPS(ポリフェニレンサルファイド)等の成型品とできる。なお、このガード106は設けなくても構わないが、ユーザが安心して使用できるように設けるのが好ましい。
【0073】
例えば図6に示すように、ガード106の中心には、ユニット用シャフト91に固定されるストッパ部材94を通すリング状のハブ106aがある。また、ガード106の周縁にはリング状のリム106bがある。ハブ106aとリム106bとは複数のスポーク106cで連結される。スポーク106c同士の間は、粉砕ブレード92によって粉砕される穀物粒を通す開口部106dとなる。開口部106dは、指が通り抜けられない程度の大きさとなっている。
【0074】
ガード106のスポーク106cは、ドーム状カバー93に取り付けられた時、粉砕ブレード92と近接状態となる。そして、あたかも、ガード106が回転式電気かみそりの外刃で、粉砕ブレード92が内刃のような形になる。
【0075】
リム106bの周縁には、90°間隔で計4個(この構成に限定されないのは言うまでもない)の柱106eが一体成形されている。この柱106eのガード106中心側を向いた側面には、一端が行き止まりになった水平な溝106eaが形成される。この溝106eaと、ドーム状カバー93の外周に形成される突起93f(これも90°間隔で計4個配置されている)とを係合させることによって、ガード106はドーム状カバー93に取り付けられる。なお、溝106eaと突起93fとは、バヨネット結合を構成するように設けられている。
【0076】
以上のように、本実施形態の自動製パン機1では、粉砕ブレード92及び混練ブレード101を1つのユニット(ブレードユニット90)に組み込む構成としているので、その取り扱いが便利である。ユーザは、ブレードユニット90をブレード回転軸82から簡単に引き抜くことが可能であり、製パン作業終了後にブレードの洗浄を手軽に行うことができる。また、ブレードユニット90が備える粉砕ブレード92は、ユニット用シャフト91に着脱可能に取り付けられるものであり、その量産が行いやすく、ブレード交換等のメンテナンス性にも優れる。
【0077】
また、本実施形態の自動製パン機1では、パン容器80に水等の液体が入れられるために、ユニット用シャフト91に対してドーム状カバー93を相対回転可能とするベアリング95に液体が入り込まないように、ベアリング95は密閉構造とされるのが好ましい。この点、自動製パン機1では、ベアリング95がドーム状カバー93に設けられる凹状の収容部931に収容されているために、ドーム状カバー93の内面側にのみシール手段(シール材97及びシールカバー98)を設ければ、ベアリング95を密閉する構造が得られる。このため、ベアリング95の上下にシール手段を設ける必要がなく、ベアリング95のシール構造の小型化が図れる。このため、自動製パン機1では、焼き上がったパンの形状に対する悪影響(例えば、パンの底面が大きく凹む等)を抑制することが可能になる。
【0078】
図10は、本実施形態の自動製パン機の構成を示すブロック図である。図10に示すように、自動製パン機1における制御動作は制御装置120によって行われる。制御装置120は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、I/O(Input/Output)回路部等からなるマイクロコンピュータ(マイコン)によって構成される。この制御装置120は、焼成室30の熱の影響を受け難い位置に配置するのが好ましい。また、制御装置120には、時間計測機能が備えられており、パンの製造工程における時間的な制御が可能となっている。
【0079】
制御装置120には、上述の操作部20と、焼成室30の温度を検知する温度センサ15と、上述のクラッチ56の状態を検知するクラッチセンサ731と、混練モータ駆動回路121と、粉砕モータ駆動回路122と、ヒータ駆動回路123と、クラッチ用ソレノイド駆動回路124と、が電気的に接続されている。
【0080】
混練モータ駆動回路121は、制御装置120からの指令の下で混練モータ50の駆動を制御するための回路である。また、粉砕モータ駆動回路122は、制御装置120からの指令の下で粉砕モータ60の駆動を制御するための回路である。ヒータ駆動回路123は、制御装置120からの指令の下でシーズヒータ31の動作を制御するための回路である。クラッチ用ソレノイド駆動回路124は、制御装置120からの指令の下で、クラッチ56(図3参照)の状態を切り替える際に使用されるクラッチ用ソレノイド73(図3参照)の駆動を制御するための回路である。
【0081】
制御装置120は、操作部20からの入力信号に基づいてROM等に格納されたパンの製造コース(製パンコース)に係るプログラムを読み出し、混練モータ駆動回路121を介して混練モータ50による混練ブレード101及び補完混練ブレード102の回転の制御、粉砕モータ駆動回路122を介して粉砕モータ60による粉砕ブレード92の回転の制御、ヒータ駆動回路123を介してシーズヒータ31による加熱動作の制御、クラッチ用ソレノイド駆動回路124を介してクラッチ用ソレノイド73によるクラッチ56の切替制御を行いながら、自動製パン機1にパンの製造工程を実行させる。
【0082】
また、制御装置120は、所定の工程を開始する際に、クラッチセンサ731の状態を確認することで、クラッチ56の状態(動力伝達を行う状態か、動力遮断を行う状態か)を確認する。なお、制御装置120は、本発明の制御手段の一例である。また、制御装置120によるクラッチセンサ731の確認動作の詳細については、後述する。
【0083】
(自動製パン器の動作)
以上のように構成される自動製パン機1でパンを製造する場合の動作について説明する。ここでは、自動製パン機1によって米粒を出発原料に用いてパンを製造する場合を例に、自動製パン機1の動作を説明する。
【0084】
米粒が出発原料に用いられる場合には、米粒用製パンコースが実行される。図11は本実施形態の自動製パン機によって実行される通常調理時の米粒用製パンコースの流れを示す模式図である。図11に示すように、米粒用製パンコースにおいては、浸漬工程と、粉砕工程と、休止工程と、練り(捏ね)工程と、発酵工程と、焼成工程と、がこの順番で順次に実行される。
【0085】
米粒用製パンコースを開始するにあたって、ユーザは、パン容器80のブレード回転軸82にユニット用シャフト91を被せることによって、ブレードユニット90をブレード回転軸82に取り付ける。そして、ユーザは、米粒、水、調味料(例えば食塩、砂糖、ショートニング等)をそれぞれ所定量ずつ計量してパン容器80に入れる。
【0086】
また、ユーザは、パンの製造工程の途中で自動投入されるパン原料を計量してパン原料収納容器110に入れる。
【0087】
なお、パン原料収納容器110に収納されるパン原料としては、例えば、グルテン、ドライイースト等が挙げられる。グルテンの代わりに、例えば小麦粉、増粘剤(グアガム等)及び上新粉のうちの少なくとも1つをパン原料収納容器110に収納するようにしてもよい。また、グルテン、小麦粉、増粘剤、上新粉等は用いずに、例えばドライイーストのみがパン原料収納容器110に収納されるようにしてもよい。更に、場合によっては、例えば食塩、砂糖、ショートニングといった調味料についてもパンの製造工程の途中で自動投入すべく、例えばグルテン、ドライイーストと共に、これらの原料をパン原料収納容器110に収納するようにしてもよい。この場合には、パン容器80に予め投入しておくパン原料は米粒及び水(単なる水の代わりに、例えばだし汁のような味成分を有する液体、果汁やアルコールを含有する液体等でもよい)となる。
【0088】
この後、ユーザは、パン容器80を焼成室30に入れ、更に、パン原料収納容器110を蓋40の所定位置に取り付ける。そして、ユーザは蓋40を閉じ、操作部20によって米粒用製パンコースを選択し、スタートキーを押す。これにより、制御装置120は、米粒を出発原料に用いてパンを製造する米粒用製パンコースの制御動作を開始する。
【0089】
米粒用製パンコースがスタートされると、制御装置120の指令によって浸漬工程が開始される。浸漬工程では、パン容器80に予め投入されたパン原料が静置状態とされ、この静置状態が予め定められた所定時間(本実施形態では30分)維持される。この浸漬工程は、米粒に水を含ませることによって、その後に行われる粉砕工程において、米粒を芯まで粉砕しやすくすることを狙う工程である。
【0090】
なお、米粒の吸水速度は水の温度によって変動し、水温が高いと吸水速度が高まり、水温が低いと吸水速度が低下する。このために、浸漬工程の時間は、例えば自動製パン機1が使用される環境温度等によって変動させるようにしてもよい。これにより、米粒の吸水度合いのばらつきを抑制することが可能になる。また、浸漬時間を短時間とするために、シーズヒータ31に通電して、焼成室30の温度が高められるようにしてもよい。
【0091】
また、浸漬工程の初期段階で粉砕ブレード92が回転されるようにしてもよく、更に、その後も、断続的に粉砕ブレード92が回転されるようにしてもよい。このようにすると、米粒の表面に傷をつけることができ、米粒の吸液効率が高められる。
【0092】
上記所定時間が経過すると、制御装置120の指令によって、浸漬工程が終了され、米粒を粉砕する粉砕工程が開始される。この粉砕工程では、米粒と水とが含まれる混合物の中で粉砕ブレード92が高速回転(例えば7000〜8000rpm)される。この粉砕工程では、制御装置120は、粉砕モータ60を制御してブレード回転軸82を逆方向回転(図8では時計方向回転、図9では反時計方向回転)させる。
【0093】
なお、制御装置120は、粉砕モータ60を駆動させる前に、クラッチ用ソレノイド駆動回路124を制御し、クラッチ用ソレノイド73を駆動させて、クラッチ56が動力遮断を行うようにする(図3(a)の状態とする)。そして、制御装置120は、クラッチセンサ731から得られる情報によって、クラッチ56が動力遮断を行う状態であることが確認されると、粉砕モータ60の駆動を開始させる。このために、クラッチ56が動力伝達を行う状態で、粉砕モータ60が高速回転されることはなく、粉砕モータ60の故障が発生し難い。
【0094】
粉砕ブレード92を回転させるために、ブレード回転軸82が逆方向回転された場合、ドーム状カバー93もブレード回転軸82の回転に追随して回転を開始するが、次のような動作によってドーム状カバー93の回転はすぐに阻止(停止)される。なお、粉砕ブレード92は、粉砕工程の初期段階では低速で回転され、その後、高速回転されるようにするのが好ましい。
【0095】
粉砕ブレード92を回転させるためのブレード回転軸82の回転に伴うドーム状カバー93の回転方向は、図9において反時計方向であり、混練ブレード101は、それまで折り畳み姿勢(図9(a)に示す姿勢)であった場合には、米粒と水が含まれる混合物から受ける抵抗で開き姿勢(図9(b)に示す姿勢)に転じていく。
【0096】
混練ブレード101が開き姿勢になると、第2係合体103bの係合部103bbが第1係合体103aの係合部103abの回転軌道(図8の破線参照)から逸脱する。このために、カバー用クラッチ103は、ブレード回転軸82とドーム状カバー93との連結を切り離す。また、開き姿勢になった混練ブレード101は、図9(b)に示すように、その一部(正確には、図示していない先端側に設けられる緩衝材)がパン容器80の内側壁(詳細には粉砕効率を向上するためにパン容器80の内壁に設けられた畝状の凸部)に当接するために、ドーム状カバー93の回転は阻止(停止)される。
【0097】
粉砕工程における米粒の粉砕は、先に行われた浸漬工程によって米粒に水が浸み込んだ状態で実行されるために、米粒を芯まで容易に粉砕することができる。粉砕工程における粉砕ブレード92の回転は本実施形態では間欠回転とされる。この間欠回転は、例えば30秒回転して5分間停止するというサイクル(粉砕ブレード92を回転させる工程が間欠的に繰り返されるサイクル)で行われ、このサイクルが10回繰り返される。なお、最後のサイクルでは、5分間の停止は行わない。粉砕ブレード92の回転は連続回転としてもよいが、例えばパン容器80内の原料温度が高くなり過ぎることを防止する等の目的のために、間欠回転とするのが好ましい。
【0098】
粉砕工程においては、米粒の粉砕が回転停止したドーム状カバー93内で行われるから、米粒がパン容器80の外に飛び散る可能性が低い。また、回転停止状態にあるガード106の開口部106dからドーム状カバー93内に入る米粒は、静止したスポーク106cと回転する粉砕ブレード92との間でせん断されるので、効率良く粉砕が行える。また、ドーム状カバー93に設けられるリブ93eによって、米粒と水とが含まれる混合物の流動(粉砕ブレード92の回転と同方向の流動である)が抑制されるので、効率良く粉砕が行える。
【0099】
また、粉砕された米粒と水とを含む混合物は、リブ93eによって窓93dの方向に誘導されて、窓93dからドーム状カバー93の外に排出される。リブ93eは、それに向かって押し寄せる混合物に対向する側が凸となるように湾曲しているので、混合物はリブ93eの表面に滞留しにくく、スムーズに窓93dの方へ流れていく。更に、ドーム状カバー93内部から混合物が排出されるのと入れ替わりに、凹部81の上の空間に存在していた混合物が凹部81に入り、凹部81からガード106の開口部106dを通ってドーム状カバー93内に入いる。このような循環をさせつつ粉砕ブレード92による粉砕を行うので、効率良く粉砕できる。
【0100】
なお、自動製パン機1においては所定の時間(本実施形態では50分)で粉砕工程が終了するようにしている。しかしながら、米粒の硬さのばらつきや環境条件によって粉砕粉の粒度にばらつきが生じることがある。このため、粉砕工程の終了が、粉砕モータ60の負荷の大きさ(例えば、モータの制御電流等で判断できる)を指標に判断される構成等としても構わない。
【0101】
粉砕工程が終了すると、制御装置120の指令によって休止工程が実行される。この休止工程は、粉砕工程によって上昇したパン容器80内の内容物の温度を下げる冷却期間として設けられている。温度を下げるのは、次に行われる練り工程が、イーストが活発に働く温度(例えば30℃前後)で実行されるようにするためである。本実施形態では、休止工程は所定時間(30分)とされているが、場合によっては、パン容器80の温度等が所定の温度となるまで、休止工程が行なわれる構成等としても構わない。
【0102】
休止工程が終了すると、制御装置120の指令によって練り工程が開始される。なお、制御装置120は、混練モータ50を駆動させる前に、クラッチ用ソレノイド73を駆動させて、クラッチ56が動力伝達を行うようにする(図3(b)の状態とする)。そして、制御装置120は、クラッチセンサ731から得られる情報によって、クラッチ56が動力伝達を行う状態であることが確認されると、混練モータ50の駆動を開始させる。制御装置120は、混練モータ50を制御してブレード回転軸82を正方向回転(図8では反時計方向回転、図9では時計方向回転)させる。
【0103】
ブレード回転軸82を正方向回転させると、粉砕ブレード92も正方向に回転し、粉砕ブレード92の周囲のパン原料が正方向に流動する。それにつられてドーム状カバー93が正方向(図9では時計方向)に動くと、混練ブレード101は流動していないパン原料から抵抗を受けて、開き姿勢(図9(b)参照)から折り畳み姿勢(図9(a)参照)へと角度を変えて行く。これにより、第2係合体103bの係合部103bbが第1係合体103aの係合部103abの回転軌道(図8の破線参照)に干渉する角度となる。そして、カバー用クラッチ103がブレード回転軸82とドーム状カバー93とを連結し、ドーム状カバー93はブレード回転軸82によって本格的に駆動される態勢に入る。ドーム状カバー93と折り畳み姿勢になった混練ブレード101とは、ブレード回転軸82とともに正方向回転する。
【0104】
なお、以上に説明したカバー用クラッチ103の連結を確実に行うために、練り工程初期におけるブレード回転軸82の回転は、間欠回転或いは低速回転とするのが好ましい。また、上述のように、混練ブレード101が折り畳み姿勢になると、混練ブレード101の延長上に補完混練ブレード102が並ぶために、混練ブレード101があたかも大型化したかのようになって、パン原料は力強く押される。このため、生地の練り上げをしっかり行える。
【0105】
混練ブレード101(この用語は、折り畳み姿勢においては、補完混練ブレード102を含む表現として用いる。以下同様。)の回転は、練り工程の初期においては非常にゆっくりとされ、段階的に速度が速められるように制御装置120によって制御される。混練ブレード101の回転が非常にゆっくりである練り工程の初期段階において、制御装置120は自動投入用ソレノイド(図示せず)を駆動させて、パン原料収納容器110の可動フックが容器蓋を支えた状態を解消させる。これにより、容器本体の開口が開かれて、例えば、グルテン、ドライイースといったパン原料がパン容器80内に自動投入される。
【0106】
上述のように、パン原料収納容器110は、容器本体及び容器蓋の内部にコーティング層が設けられて滑りがよくなっており、また、内部に凹凸部が設けられないように工夫されている。更に、パッキンの配置方法の工夫により、パン原料がパッキンに引っ掛かるという事態も抑制されている。このために、パン原料収納容器110にはパン原料がほとんど残ることなく、自動投入が完了する。
【0107】
なお、本実施形態では、パン原料収納容器110に収納されるパン原料を、混練ブレード101が回転している状態で投入することにしているが、これに限定されず、混練ブレード101が停止している状態で投入してもよい。ただし、本実施形態のように、混練ブレード101が回転した状態でパン原料を投入するようにした方が、パン原料を均一に分散することができるので好ましい。
【0108】
パン原料収納容器110に収納されたパン原料がパン容器80に投入された後は、混練ブレード101の回転によって、パン原料は所定の弾力を有する一つにつながった生地(Dough)に練り上げられていく。混練ブレード101が生地を振り回してパン容器80の内壁にたたきつけることにより、混練に「捏ね」の要素が加わることになる。混練ブレード101の回転によりドーム状カバー93も回転する。ドーム状カバー93が回転すると、ドーム状カバー93に形成されるリブ93eも回転するために、ドーム状カバー93内のパン原料は速やかに窓93dから排出され、混練ブレード101が混練しているパン原料の塊(生地)に同化する。
【0109】
なお、練り工程においては、ドーム状カバー93と共にガード106も正方向に回転する。ガード106のスポーク106cは、正方向回転時、ガード106の中心側が先行しガード106の外周側が後続する形状とされている。このために、ガード106は、正方向に回転することにより、ドーム状カバー93内外のパン原料をスポーク106cで外側に押しやる。これにより、パンを焼き上げた後に廃棄分となる原料の割合を減らすことができる。
【0110】
また、ガード106の柱106eは、ガード106が正方向に回転するときに回転方向前面となる側面106eb(図6参照)が上向きに傾斜しているから、混練時、ドーム状カバー93の周囲のパン原料が柱106eの前面で上方に跳ね上げられる。このために、パンを焼き上げた後に廃棄分となる原料の割合を減らすことができる。
【0111】
自動製パン機1においては、練り工程の時間は、所望の弾力を有するパン生地が得られる時間として実験的に求められた所定の時間(本実施形態では10分)を採用する構成としている。ただし、練り工程の時間を一定とすると、環境温度等によってパン生地の出来上がり具合が変動する場合がある。このため、例えば、混練モータ50の負荷の大きさ(例えば、モータの制御電流等で判断できる)を指標に、練り工程の終了時点が判断される構成等としても構わない。
【0112】
なお、具材(例えばレーズン、ナッツ、チーズ等)入りのパンを焼く場合には、この練り工程の途中で投入するようにすればよい。
【0113】
練り工程が終了すると、制御装置120の指令によって発酵工程が開始される。この発酵工程では、制御装置120はシーズヒータ31を制御して、焼成室30の温度を、発酵が進む温度(例えば38℃)に維持する。そして、発酵が進む環境下で所定の時間(本実施形態では60分)放置される。
【0114】
なお、場合によっては、この発酵工程の途中で、混練ブレード101を回転してガス抜きや生地を丸める処理を行うようにしても構わない。
【0115】
発酵工程が終了すると、制御装置120の指令によって焼成工程が開始される。制御装置120はシーズヒータ31を制御して、焼成室30の温度を、パン焼きを行うのに適した温度(例えば125℃)まで上昇させる。そして、制御装置120は、焼成環境下で所定の時間(本実施形態では50分)パンを焼くように制御する。焼成工程の終了については、例えば操作部20の液晶表示パネルにおける表示や報知音等によってユーザに知らされる。ユーザは、製パン完了を検知すると、蓋40を開けてパン容器80を取り出して、パンの製造を完了させる。
【0116】
なお、パン容器80内のパンは、例えば、パン容器80の開口を斜め下に向けることで取り出すことができる。そして、このパンの取り出しと同時に、ブレード回転軸82に取り付けられたブレードユニット90もパン容器80から取り出される。パンの底には、ブレードユニット90の混練ブレード101及び補完混練ブレード102(パン容器80の凹部81から上側に突き出ている)の焼き跡が残る。しかし、ドーム状カバー93とガード106が凹部81の中に収容される構成であるために、それらがパンの底に大きな焼き跡を残すようなことは抑制される。
【0117】
(制御装置によるクラッチの状態の確認動作)
上述のように、図11に示した一連の製造コースに含まれる粉砕工程では、主として粉砕ブレード92が回転する(粉砕モータ60の回転動力による高速回転)。一方、練り工程では、主として混練ブレード101が回転する(混練モータ50の回転動力による低速回転)。したがって、制御装置120は、製造コースの進行に伴い、当該製造コースに含まれる工程に応じて、クラッチ56を順次切り替えたり、混練モータ50及び粉砕モータ60のそれぞれの回転及び停止を順次制御したりする必要がある。
【0118】
さらに、製造コースは、およそ図11に示すような工程に分けられるが、実際にはさらに細かい工程に分けられ得る。例えば、上述のように粉砕工程には、粉砕ブレード92を回転させる工程が複数含まれている。さらに、例えばこれらの工程の間に、混練ブレード101を回転させる工程が挿入される場合もある。これは。穀物粒を拡散させて、粉砕の均一化を図るためである。また例えば、焼成工程の前後に、粉砕ブレード92を回転させる工程が挿入される場合もある。これは、ブレードユニット90からパンが外れにくくなったり焦げ付いたりすることを、抑制するためである。当然、制御装置120は、これらの工程に応じてクラッチ56を順次切り替えたり、混練モータ50及び粉砕モータ60のそれぞれの回転及び停止を順次制御したりする必要がある。
【0119】
そこで、制御装置120は、例えば上記の工程が開始される際に、クラッチ56の状態を確認する。確認の結果、所望のクラッチ56の状態でなかった場合には、制御装置120はクラッチ用ソレノイド駆動回路124を駆動してクラッチ用ソレノイド73を制御し、所望のクラッチ56の状態になるように制御する。また、1回の制御で所望のクラッチ56の状態にならない場合には、複数回(本実施形態では2回まで)の制御リトライを行い、それでも所望のクラッチ56の状態にならない場合には、制御装置120は、クラッチ56の切替えエラーと判断し、調理動作中止として、エラー情報を操作部20の表示部に表示したり、エラー音を出力するなどしてユーザにエラーを報知する。このようにクラッチ56を切替える際に制御リトライが発生することによって、予定された工程時間より長い工程時間になる可能性が高くなる。
【0120】
図11に示す本実施形態の全工程の合計調理時間は、3時間50分であり、例えば14時0分に調理開始したとすると、調理終了の予定時刻は17時50分となる。しかしながら前述の制御装置120のクラッチ56の切替え制御において制御リトライが発生し、例えば+1分の誤差が生じたとすると、調理終了の予定時刻は17時51分となってしまう。前述の制御リトライ1回の発生で1分(60秒)もの誤差が生じることはないが、通常は操作部20の時間表示に秒桁までの表示は行わないため、例えば14時0分といっても14時0分58秒などのタイミングで調理開始した場合を想定すると+2秒程度の誤差が生じることによって、分桁としては前述の+1分の誤差が生じたのと同様な状態になってしまう。
【0121】
このようにして生じた調理時間の時間的誤差を吸収するように制御するための制御装置120の詳細制御について以下に説明する。
【0122】
(通常調理の場合)
図12は本実施形態の自動製パン機が備える通常調理時の時間的誤差吸収制御のフローチャートである。図12のフローチャートは、調理運転中に発生する可能性がある各工程の時間的誤差を吸収するための制御について示している。
【0123】
ユーザの操作部20の操作により、調理コースが選択(本実施形態では米粒用製パンコースを選択)され、スタートキーが押下されると調理運転を開始する。
【0124】
調理運転開始時点で、制御装置120は、工程誤差の累計を初期化(=0)する(ステップS1)。次に工程終了タイミングになるのを待つ(ステップS2)。工程終了タイミングになったら、練り工程終了タイミングかどうか判断する(ステップS3)。尚、この工程終了とは、浸漬工程、または粉砕工程、または休止工程、または練り工程の各工程の内いずれかの工程の終了タイミングを示している。
【0125】
ステップS3でNoの場合、制御装置120は、浸漬工程、または粉砕工程、または休止工程の各工程終了タイミングで、工程経過時間(その時点までに実際にその工程で費やした時間)と予定工程時間とを比較する(ステップS5)。比較した結果、違いがなければ(ステップS5でNoの場合)、工程誤差は生じていないのでステップS2に戻って次の工程終了タイミングを待つ。工程経過時間と予定工程時間に違いがある場合(ステップS5でYes)には、工程誤差が生じているので、制御装置120は工程誤差を算出する(ステップS6)。そして工程誤差の累計を算出(ステップS7)して、ステップS2に戻って次の工程終了タイミングを待つ。
【0126】
尚、ここでいう工程誤差の累計とは、浸漬工程、または粉砕工程、または休止工程の各工程で生じた誤差の累計である。
【0127】
制御装置120は、練り工程終了タイミング(ステップS3でYes)になったと判定すると、次工程となる発酵工程の時間にステップS7で算出した工程誤差の累計(浸漬工程開始から練り工程終了までの工程誤差の累計)を当初予定していた発酵工程時間に加えて新たな発酵工程時間として、次の工程である発酵工程を実行する。
【0128】
尚、ステップS4で、工程誤差の累計を加算する形式で表現したが、ステップS6の工程誤差の算出では予定工程時間−工程経過時間として算出し、工程経過時間の方が予定工程時間より大きければ、工程誤差は負の値となり、ステップS4で工程誤差の累計を加算することは、負の値を加算、すなわちマイナスするということになる。
【0129】
このように制御装置120で制御することによって、図11の浸漬工程開始から練り工程終了までの間(特に粉砕工程の間)に発生する工程誤差を、パンの出来栄えに影響が少ない発酵工程で吸収することができ、調理時間の総合計である3時間50分に影響のない制御が可能になる。
【0130】
本実施形態ではパンの出発原料として穀物粒を用いる場合を例に説明したが、出発原料として粉(小麦粉や米粉など)の形態を用いる場合、すなわち図11の練り工程から始まる調理の場合でも図12の制御方法によって発酵工程の直前までに発生した工程誤差を同様に吸収することが可能になる。
【0131】
尚、発酵工程以降に工程誤差が発生した場合には、対応できないが、発酵工程と焼成工程では、どちらもパン生地が静置される工程であり、時間的な工程誤差はほとんど発生することがなく、工程誤差の発生する可能性が高いモータ駆動する工程での問題点は、本実施形態の方法で解決可能である。
【0132】
また、図11と図12では説明の簡素化のために工程を浸漬工程、粉砕工程、休止工程、練り工程、発酵工程、焼成工程としたが、実際には各工程内には更に細分化した工程があり、図12の処理において細分化した工程の終了タイミングで工程誤差を算出するようにしても構わない。
【0133】
次にタイマー予約機能がある場合の時間的工程誤差を吸収する方法について説明する。
【0134】
(タイマー予約調理の場合)
図13は本実施形態の自動製パン機によって実行されるタイマー予約調理時の米粒用製パンコースの流れを示す模式図である。図11に示す通常調理時との違いは、予約待機が休止工程と練り工程との間に入っている部分だけである。タイマー予約機能を利用して米粒用製パンコースをスタートさせた場合には、制御装置120はスタート時点で、一旦、予約待機の時間を算出する。予約待機時間の算出方法は、パンの焼き上げ予定時間から調理予定時間を差し引いた時間となる。例えば現在時刻が13:00で、パンの焼き上げ予定時間を18:00として予約設定した場合であれば、図11の通常調理時の調理合計時間が3時間50分であるから、スタート時点での予約待機の時間は、5時間から3時間50分を差し引くので、1時間10分となる。
【0135】
図14は本実施形態の自動製パン機が備えるタイマー予約調理時の時間的誤差吸収制御のフローチャートである。図14のフローチャートは、タイマー予約調理運転中に発生する可能性がある各工程の時間的誤差を吸収するための制御について示している。
【0136】
ユーザの操作部20の操作により、調理コースが選択(本実施形態では米粒用製パンコースを選択)され、予約キーが押下された後に、ユーザが時キーと分キーを操作してパンの焼き上げ予定時間を18:00に設定して、スタートキーを押下するとタイマー予約調理運転を開始する。
【0137】
タイマー予約調理運転開始時点で、制御装置120は、初期値としての予約待機時間を算出し(ステップS1)、工程誤差の累計を初期化(=0)する(ステップS2)。次に工程終了タイミングになるのを待つ(ステップS3)。尚、この工程終了とは、浸漬工程、または、粉砕工程、または休止工程の各工程の内いずれかの工程の終了タイミングを示している。
【0138】
制御装置120は、工程終了タイミングになったと判定すると、休止工程終了タイミングかどうか判断する(ステップS4)。
【0139】
ステップS4でNoの場合、制御装置120は、浸漬工程、または粉砕工程の各工程終了タイミングで、工程経過時間(その時点までに実際にその工程で費やした時間)と予定工程時間とを比較する(ステップS6)。違いがなければ(ステップS6でNoの場合)、工程誤差は生じていないのでステップS3に戻って次の工程終了タイミングを待つ。
【0140】
一方、工程経過時間と予定工程時間に違いがある場合(ステップS6でYes)には、工程誤差が生じているので、制御装置120は、工程誤差を算出する(ステップS7)。そして工程誤差の累計を算出(ステップS8)して、ステップS3に戻って次の工程終了タイミングを待つ。
【0141】
休止工程終了タイミング(ステップS4でYes)になると、制御装置120は、次工程となる予約待機の時間にステップS8で算出した工程誤差の累計(浸漬工程開始から休止工程終了までの工程誤差の累計)を加えて新たな予約待機時間として、次の工程である予約待機を実行する。
【0142】
尚、ステップS5で、工程誤差の累計を加算する形式で表現したが、ステップS7の工程誤差の算出では予定工程時間−工程経過時間として算出し、工程経過時間の方が予定工程時間より大きければ、工程誤差は負の値となり、ステップS5で工程誤差の累計を加算することは、負の値を加算、すなわちマイナスするということになる。
【0143】
このように制御装置120で制御することによって、図13の浸漬工程開始から休止工程終了までの間(特に粉砕工程の間)に発生する工程誤差を、パンの出来栄えに影響が少ない予約待機の工程で吸収することができ、パンの焼き上げ予定時間(前述の例では18:00)に影響のない制御が可能になる。
【0144】
尚、予約待機以降に工程誤差が発生した場合には、対応できないが、予約待機、練り工程、発酵工程、焼成工程では、パン生地が静置される工程か、または練りのみの工程であり、モータ駆動の切り替えが発生しないため、時間的な工程誤差はほとんど発生することがなく、工程誤差の発生する可能性が高いモータ駆動の切り替えが発生する工程での問題点は、本実施形態の方法で解決可能である。
【0145】
また、図13と図14では説明の簡素化のために工程を浸漬工程、粉砕工程、休止工程、予約待機、練り工程、発酵工程、焼成工程としたが、実際には各工程内には更に細分化した工程があり、図14の処理において細分化した工程の終了タイミングで工程誤差を算出するようにしても構わない。
【0146】
次に同じくタイマー予約機能がある場合の時間的工程誤差を吸収する方法で、簡易的な方法について説明する。
【0147】
図15は本実施形態の自動製パン機が備えるタイマー予約調理時の時間的誤差吸収制御のフローチャート(簡易方式の場合の図)である。図15のフローチャートは、タイマー予約調理運転中に発生する可能性がある時間的誤差を吸収するための簡易的な制御について示している。
【0148】
ユーザの操作部20の操作により、調理コースが選択(本実施形態では米粒用製パンコースを選択)され、予約キーが押下された後に、時キーと分キーが操作されることにより、パンの焼き上げ予定時間が18:00に設定され、スタートキーが押下されるとタイマー予約調理運転が開始される。
【0149】
制御装置120は、タイマー予約調理運転開始時点で、第1の予約待機時間を算出する(ステップS1)。第1の予約待機時間の算出方法は、パンの焼き上げ予定時間から調理予定時間を差し引いた時間となる。例えば現在時刻が13:00で、パンの焼き上げ予定時間を18:00として予約設定した場合であれば、図11の通常調理時の調理合計時間が3時間50分であるから、第1の予約待機時間は、5時間から3時間50分を差し引くので、1時間10分となる。
【0150】
次に制御装置120は、粉砕工程終了タイミングになるのを待つ(ステップS2)。粉砕工程終了タイミングになったら、第2の予約待機時間を算出する(ステップS3)。第2の予約待機時間の算出方法は、現時点以降のパンの焼き上げ予定時間から現時点以降の実調理予定時間を差し引いた時間となる。例えば現時点での現在時刻が14:21で、パンの焼き上げ予定時間を18:00として予約設定した場合であれば、図11の通常調理時の現時点以降の実調理予定時間、すなわち休止工程以降の調理合計時間が2時間30分であるから、第2の予約待機時間は、「18:00」−「14:21」−2時間30分=3時間39分−2時間30分=1時間9分となる。
【0151】
次に制御装置120は、第2の予約待機時間が負の値かどうか判断する(ステップ4)。ステップS4でYesの場合、予約待機時間を第1の予約待機時間とし(ステップ5)、図13に示す休止工程以降の各工程を実行する。
【0152】
ステップS4でNoの場合、制御装置120は、予約待機時間を第2の予約待機時間とし(ステップ6)、図13に示す休止工程以降の各工程を実行する。前述の例では、第2の予約待機時間が1時間9分となったので、ステップS4でNoの場合となり、図13の予約待機の時間は第2の予約待機時間となって、1時間9分の予約待機を行うこととなる。前述の例では、粉砕工程完了までの間にちょうど1分間、実調理工程時間が長くなっている状態であるが、予約待機時間が予約調理スタート時点の1時間10分から1時間9分に変更され、ちょうど1分間、予約待機時間が短くなることによって、粉砕工程完了までに生じた時間的な工程誤差を予約待機時間を短くすることによって吸収し、予約調理スタート時点のパンの焼き上げ予定時間(例では18:00)を守ることが可能になる。予約待機の状態は、パン原料を静置する状態であるため、予約待機時間を変更したとしても、パンの出来栄えにほとんど影響は生じない。
【0153】
また、ステップS4でYesの場合に第1の予約待機時間を使用するのは、次のような理由による。ステップS4でYesとは、第2の予約待機時間の値が負になった場合であるから、粉砕工程終了時点で発生した時間的な工程誤差が吸収しきれない値となっていることを意味している。通常の時間的な工程誤差は大きくても数分程度までであるから、数分程度を吸収しきれないような場合とは、タイマー予約機能の予約時間の設定時間、すなわち予約したパンの焼き上げ予定時間が、通常調理の場合のパンの焼き上げ予定時間と比較して数分程度しか長くないような場合であるので、タイマー予約機能を使用する意味がほとんどないと言ってもよく、通常調理を行えばよい。よって、タイマー予約機能を必要とするような場合においては、ステップS4でYesになるような場合は、ほとんどないと言ってもよいが、タイマー予約機能の設定時には、通常調理の場合のパンの焼き上げ予定時間より先の時間を設定可能にしているために、タイマー予約でのパンの焼き上げ予定時間が、通常調理の場合のパンの焼き上げ予定時間より数分程度しか先にならないような場合も考えられる。このような場合のために予約時間として第1の予約待機時間を使用できるようにしている。この場合には発生した時間的な工程誤差を吸収することはできないが、前述のようにタイマー予約機能を有効に使用する場合においては、このような状態にならないため、本実施形態のような簡易的な制御方法でも十分な効果を発揮することができる。
【0154】
このように制御装置120で制御することによって、図13の浸漬工程開始から粉砕工程終了までの間(特に粉砕工程の間)に発生する工程誤差を、パンの出来栄えに影響が少ない予約待機の工程で吸収することができ、パンの焼き上げ予定時間(前述の例では18:00)に影響のない制御が可能になる。
【0155】
尚、休止工程以降に工程誤差が発生した場合には、対応できないが、休止工程、予約待機、練り工程、発酵工程、焼成工程では、パン生地が静置される工程か、または練りのみの工程であり、モータ駆動の切り替えが発生しないため、時間的な工程誤差はほとんど発生することがなく、工程誤差の発生する可能性が高いモータ駆動の切り替えが発生する工程での問題点は、本実施形態の方法で解決可能である。
【0156】
以上に示した自動製パン機の実施形態は本発明の一例であり、本発明が適用される自動製パン機の構成は、以上に示した実施形態に限定されるものではない。
【0157】
また、以上に示した実施形態においては、米粒が出発原料として用いられる場合を例に、自動製パン機の構成及び動作が説明された。しかし、本発明は、例えば小麦、大麦、粟、稗、蕎麦、とうもろこし、大豆等の米粒以外の穀物粒が出発原料として用いられる場合にも、適用可能である。
【0158】
また、以上においては、米粒(穀物粒)が出発原料として用いられる場合を示したが、本実施形態の自動製パン機1は、例えば小麦粉や米粉等の穀物粉を出発原料に用いてパンを製造することもできる。小麦粉や米粉が出発原料として用いられる場合には、粉砕ブレード92は不要である。このため、この場合には、以上に示したのとは異なるパン容器やブレードユニットが使用されるようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0159】
本発明は、家庭用の自動製パン機に好適である。
【符号の説明】
【0160】
1 自動製パン機
11 原動軸
50 混練モータ
51 混練モータの出力軸
56 クラッチ
60 粉砕モータ
61 粉砕モータの出力軸
73 クラッチ用ソレノイド
80 パン容器
82 ブレード回転軸
92 粉砕ブレード
101 混練ブレード
120 制御装置(制御手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パン原料が投入されるパン容器と、パン原料をパン生地に練り上げる混練手段と、前記パン容器内のパン原料を加熱する加熱手段と、前記混練手段、及び前記加熱手段を制御して、パン原料をパンに焼き上げる少なくとも1つの製パンコースを実行させる制御手段とを備える自動製パン機であって、
前記制御手段は、調理動作開始後に少なくとも1回以上、調理予定時間と実際の調理進行時間とを比較し、調理予定時間と調理進行時間に誤差が生じた場合には、その後の製パンコース内のパン生地を静置する工程(「休止工程」または「冷却工程」または「発酵工程」)の時間を調整することを特徴とする自動製パン機。
【請求項2】
パン原料が投入されるパン容器と、パン原料をパン生地に練り上げる混練手段と、前記パン容器内のパン原料を加熱する加熱手段と、前記混練手段、及び前記加熱手段を制御して、パン原料をパンに焼き上げる少なくとも1つの製パンコースを実行させる制御手段と、タイマー予約を行うための入力手段と、予約調理を行う際に予約待機する機能と、を備える自動製パン機であって、
前記制御手段は、調理動作開始後に少なくとも1回以上、調理予定時間と実際の調理進行時間とを比較し、調理予定時間と調理進行時間に誤差が生じた場合には、前記予約待機の時間を調整するように制御することを特徴とする自動製パン機。
【請求項3】
請求項2に記載の自動製パン機であり、
パン原料として穀物粒を使用し、穀物粒を粉砕する粉砕手段を更に備え、前記穀物粒を前記粉砕手段によって粉砕する粉砕工程と、粉砕工程の前、または後に行われる吸液工程と、前記穀物粒の粉砕粉を含む前記パン容器内のパン原料を前記混練手段によってパン生地に練り上げる練り工程と、練り上げられたパン生地を発酵させる発酵工程と、発酵させたパン生地を焼成する焼成工程と、を順次に連続して行い、予約調理を行う際に、前記粉砕工程の後に前記予約待機を行い、
前記制御手段は、タイマー予約設定完了時点で、パンの焼き上げ予定時間から調理予定時間を差し引いた時間を第1の予約待機時間とし、前記粉砕工程完了時点で、再度、予約待機時間を計算し、それを第2の予約待機時間とし、第2の予約待機時間が負であれば、予約待機時間として第1の予約待機時間を採用し、第2の予約待機時間が負でなければ、予約待機時間として第2の予約待機時間を採用するように制御することを特徴とする自動製パン機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2013−111435(P2013−111435A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−263302(P2011−263302)
【出願日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】