説明

自動販売機における乳脂肪分の分離浮上と凝固の発生を防止する方法及びそのための自動販売機

【課題】乳脂肪分分離防止のための複雑な乳飲料製造を回避しつつ、自動販売機内に保存されている乳入り飲料における乳脂肪分の分離を防止する。
【解決手段】自動販売機内に収納されている個別に容器詰された乳入り飲料における乳脂肪分の分離を防止するための方法であって、当該乳入り飲料又はその容器が受ける45〜100Hz、好ましくは45〜65Hz、より好ましくは45〜55Hzの範囲内の少なくとも1つの周波数、好ましくはすべての周波数における振動の最大ピーク強度の平均値を2.9×10−2(m/s)以下、好ましくは1.9×10−2(m/s)以下、さらに好ましくは0.95×10−2(m/s)以下に抑制する方法を実現した、個別に容器詰された乳入り飲料を提供するための自動販売機である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペットボトル、缶等の密閉容器に個別に充填された乳入り飲料が自動販売機に収納されている間に生じ得る乳脂肪分の分離浮上と凝固を防止する方法及びその方法を実現した自動販売機に関する。
【背景技術】
【0002】
ミルク入りコーヒー、ミルク入り紅茶、ココア等を包含する乳入り飲料は、美味であるために嗜好性が高く、広くその市場が形成されている。しかしながら、コンビニエンスストアやスーパーなどにおいて冷蔵(約15℃以下)で販売されている乳入り飲料には、乳脂肪分の分離浮上がしばしば発生することが広く知られている。分離して浮上した乳脂肪分は凝集して合一し、いわゆるネック・リングの状態へと至り、再分散性が悪くなる。これら乳脂肪分の分離浮上は、味質の低下のみならず外観の悪化を引き起こす。中でも特に、自動販売機中に収納され、冷蔵(約15℃以下)で販売されている乳入り飲料は、上記の再分散性の低下の程度が大きいため、問題の解決が切望されている。
【0003】
最近では、ペットボトルのような透明な容器が普及しているため、外観の悪化は特に深刻である。なぜなら、乳脂肪分の分離を見ることにより、消費者が不快感及び品質に対する不信感を覚えるからである。
【0004】
このような問題に対して、特開2004−187570号公報は、乳脂肪の浮上によるオイル・リングの形成等を防止する手段として、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル及び/又はステアロイル乳酸ナトリウムを添加剤として含有する乳含有飲料を開示している。
【0005】
また、特開2004−267013号公報は、フレッシュチーズに乳化剤及びカゼインナトリウムを添加することにより安定な飲料用組成物を調製することを開示している。
【0006】
特開2004−305005号公報は、植物細胞壁を原料とした微細な繊維状セルロースを乳成分含有飲料に配合することにより乳成分含有飲料を安定化する方法を開示している。
【0007】
特開2005−168412号公報は、その主構成脂肪酸がパルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸から選択される1種以上の脂肪酸であり、HLBが5〜10であるポリグリセリン脂肪酸エステルを主成分とする、乳成分の分散性改善剤を開示している。
【0008】
しかしながら、添加剤は少なからず味に悪影響を及ぼす。また、乳脂肪分分離防止のために複雑な乳飲料製造工程を要する場合には製造コストが増加する。したがって、先行技術において提案されている解決手段は、乳成分由来の本来の旨みや風味を損なうことなく乳脂肪分の分離の発生を防止するには十分ではなかった。
【特許文献1】特開2004−187570号公報
【特許文献2】特開2004−267013号公報
【特許文献3】特開2004−305005号公報
【特許文献4】特開2005−168412号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、自動販売機中に収納され、販売されている乳入り飲料において生じる乳脂肪分の分離を、添加剤の配合とは異なる手段により防止することである。
【0010】
本発明の別の目的は、乳脂肪分分離防止のための複雑な乳飲料製造工程を回避しつつ、自動販売機中で生じる乳入り飲料の乳脂肪分の分離を防止することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明者らは、自動販売機における乳脂肪分分離浮上及び凝固の発生原因に着目して鋭意検討した結果、その原因が飲料の原料のみにあるのでなく、流通過程における保存状態にもあることを見出し、本発明を完成させた。
【0012】
本発明は、自動販売機中に収納されている個別に容器詰された乳入り飲料における乳脂肪分の分離を防止するための方法であって、当該乳入り飲料又はその容器が受ける45〜100Hz、好ましくは45〜65Hz、より好ましくは45〜55Hzの範囲内の少なくとも1つの周波数、好ましくはすべての周波数における振動の最大ピーク強度の平均値を2.9×10−2(m/s)以下、好ましくは1.9×10−2(m/s)、以下さらに好ましくは0.95×10−2(m/s)以下に抑制することを含む方法、及びこの方法を実現した、個別に容器詰された乳入り飲料を提供するための自動販売機である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0014】
乳入り飲料
本明細書における乳入り飲料とは、(1)乳(生乳、牛乳、特別牛乳、生山羊乳、殺菌山羊乳、生めん羊乳、成分調整乳、低脂肪牛乳、無脂肪牛乳および加工乳)若しくは乳を原料とした飲料、又は(2)乳製品(クリーム、バター、バターオイル、チーズ、濃縮ホエイ、アイスクリーム類、濃縮乳、脱脂濃縮乳、無糖れん乳、無糖脱脂れん乳、加糖れん乳、加糖脱脂れん乳、全粉乳、脱脂粉乳、クリームパウダー、ホエイパウダー、たんぱく質濃縮ホエイパウダー、バターミルクパウダー、加糖粉乳、調整粉乳、はっ酵乳、乳殺菌飲料および乳飲料)を原料とした飲料のことをいう。具体的には、本明細書における乳入り飲料の例は、乳飲料、炭酸飲料、果実飲料、コーヒー飲料、豆乳類、乳性飲料、その他飲料(ココア飲料)等が含まれるが、これらに限定されない。
【0015】
本発明においては、乳入り飲料は個別に容器詰した形態で提供される。そのような容器には、缶、瓶、ペット容器、紙パック、プラスチック容器等が含まれるが、これらに限定されない。
【0016】
乳脂肪分の分離
乳脂肪分とは、乳由来の脂肪分のことをいう。本発明は、乳入り飲料におけるこれら乳脂肪分の分離を防止する。
【0017】
自動販売機
本発明者らは、乳脂肪分分離の発生原因に着目して鋭意検討した結果、乳脂肪分分離がエコベンダーと呼ばれる特定の保存条件を有する、電力消費量を低減した自動販売機で多発することを見出し、その発生メカニズムも突き止めた。
【0018】
エコベンダーとは、冷たい飲料を提供するために自動販売機内を部分的にのみ冷却する機能、サーモスタット機能により任意の温度以下になった場合に一時的に冷却を停止する機能、および/または電力需要がピークとなる時間帯に冷却運転をストップする機能等を有するものであり、近年広く普及しているものである。このようにエコベンダーは電力消費を低減するため、低資源化に貢献し環境適合性に優れていることが知られている。
【0019】
このようなエコベンダーを、図1及び2を参照して詳細に説明する。
【0020】
まず、エコベンダーは、一般的な自動販売機が有する通常の手段を全て備えている。例えば、本体は、購買者からの要求に応じて自動販売機内の商品を販売するための通常の手段を有する。そのような手段は、公知のものから当業者が適宜選択することができ、例えば、図1の商品選択ボタン4、料金投入パネル6及び商品取り出し口7が含まれるが、これらに限定されない。
【0021】
尚、本明細書における自動販売機の「本体」とは、図2に示される本体キャビネット1、外扉2、内扉8のようなパーツから構成される、自動販売機の外箱部分のことをいう。
【0022】
図2に示されているように、エコベンダーの本体キャビネット1は飲料容器を収納するための装置(商品収納装置10)を通常備えている。通常、商品収納装置10は飲料容器を排出するための開口部を下部に有し、当該開口部には、収納された飲料又は商品を1個ずつ搬出するための商品搬出装置9が設置されている。そして、商品収納装置10中には、商品が自動販売機の下部より順番に提供されるように、商品を上方に積むことができる(しかしながら、商品収納装置において、飲料Sは必ずしも図2に示すように一列に整列される必要はない。また、図2おいては、商品収納装置10がコラム11を備えており、その中に商品が一列に収納されているが、コラム11は必ずしも必要でない。)。自動販売機は、商品収納装置10を複数備えていてもよい(例えば、図2に示したような商品収納装置が、自動販売機中に並列的に設置されうる)。
【0023】
このような構成により、飲料が購入される際には、商品収納装置下部の開口部から飲料が搬出されて、搬送シュート12を経由して商品取出口7へ運ばれる。残りの飲料は飲料が購入される度に下部開口部へ近づく。
【0024】
通常のエコベンダーにおいては、商品収納装置10の下部A(最下部から収納装置の高さの約1/3まで)が冷却装置(蒸発器13、送風ファン15及び20、冷却コンプレッサー17、凝縮器18、冷却モーター21等を含む)によって常時冷却される。これ以外の中間部B(Aの上端から収納装置の高さの約2/3まで;換言すると、この部分は、商品収納装置を高さ方向におよそ三等分した内の中部1/3部分のことを意味する)及び上部C(Bの上端から収納装置の上端まで;換言すると、この部分は、商品収納装置を高さ方向におよそ三等分した内の上部1/3部分のことを意味する)は温度制御されていないため外気の温度に程近い温度になる。また、下部Aの影響により中間部Bは上部Cより低い温度となっている。すなわち、自動販売機の商品収納装置10の雰囲気温度は以下の通りである:下部A≦中間部B<上部C。商品収納装置に関して上記したように、飲料が購入される度に飲料が取り出し口から取り出され、残りの飲料が下部開口部に徐々に近づく。それにつれて上部又は中部の比較的温度の高い帯域に位置していた飲料は徐々に冷却され、開口部付近の下部Aで温度制御されて、飲用に最適な温度に冷却される。
【0025】
図2に示すように、自動販売機本体キャビネット1は、送風ファン15及び20、冷却装置(蒸発器13、凝縮機18、冷却コンプレッサー17、及びモーター21等が含まれる)、加熱装置(電熱ヒーター14等が含まれる)等の振動を発生する装置を備えている。これらに限定されないが、本明細書においては、これら装置を振動源と呼ぶ。また他の振動源として、自動販売機周辺の振動源(他の自動販売機等、強い振動を有するもの)も含まれるが、これらに限定されない。振動源で生じた振動は、自動販売機のパーツである、本体キャビネット1、外扉2、内扉8を含む本体を伝わって商品収納装置10及び飲料Sに到達する。
【0026】
本発明者らは、エコベンダーの実際の運用状況に従って、エコベンダー内に保管された乳入り飲料を定期的に取り出し口から取り出し、その際に乳脂肪分の分離発生状況を検証した。種々の振動及び温度条件を有するエコベンダーを用いて検討することにより、それら条件と乳脂肪分分離との関係を見出した。
【0027】
振動と乳脂肪分の分離
本発明によれば、乳入り飲料又はその容器が商品収納装置に保存される期間を通じて受ける45〜100Hz、好ましくは45〜65Hz、より好ましくは45〜55Hzの範囲内の少なくとも1つの周波数、好ましくは全ての周波数における振動の最大ピーク強度の平均値が2.9×10−2(m/s)以下に維持される場合には、それより大きい強度の振動を受ける場合と比較して乳脂肪分分離が観測される頻度が低くなる。後述の実施例1及び2に示されているように、特に、周波数約50Hz(45〜55Hz)の振動が乳脂肪分離に重要な役割を果たしている。さらに、当該振動の平均値が1.9×10−2(m/s)以下、特に0.95×10−2(m/s)以下に維持される場合には、乳脂肪分分離の頻度が更に低下する。
【0028】
乳入り飲料又はその容器が商品収納装置に保存される期間を通じて受ける特定の周波数における振動の最大ピーク強度の平均値は、以下の様にして求める。
【0029】
即ち、自動販売機に関して上述したように、飲料は、通常、自動販売機の商品収納装置中の上部から下部へ徐々に移動するため、飲料が移動した自動販売機中の各部分において飲料又はその容器が受ける特定の周波数の振動強度の最大値を測定し、それら各部位で得られた最大値から平均値を求める。この平均値が、特定の周波数における振動の最大ピーク強度の平均値である。
【0030】
飲料又はその容器の振動の測定は、例えば、飲料容器に直接振動センサーを取り付けることにより行なう。振動計及び必要な付属部品に関しては、公知のものを用いればよい。例えば、リオン株式会社の振動分析計「VA-11」、振動計用プリアンプ「VP-26C」および圧電式加速度ピックアップ「PV-90B」を用いればよい。
【0031】
振動伝達防止手段及び振動の抑制
これまでの自動販売機では、振動をある程度防止するための技術が採用されていた。また、振動を抑制するための静音設計も開発されている。しかしながら、いずれの技術においても振動防止は騒音を防止することが主な目的であり、振動防止の程度は、振動による乳脂肪分分離を防止できるレベルには至っていなかった。このことは、特に、乳飲料における乳脂肪分分離に関与する周波数を有する振動の防止にあてはまる。本発明は、従来の騒音防止を達成する程度ではなく、乳脂肪分分離を防止できるレベルまで振動を低減する方法、及びその方法を実現できる自動販売機を提供する。
【0032】
本明細書における「振動伝達の防止」には、自動販売機のあるパーツから別のパーツへの振動の伝達を防止することに加え、あるパーツの振動自体を防止することも含まれる。そのような振動の伝達の防止は、公知の手段を用いて達成することができる。そのような手段には、例えば、防振パッド(エアークッション式、スプリング式、ゴム、ゲル、マグネット式、スタビライザー)のような振動吸収材、ビス、クリップのような固定用具、及びインシュレーター、本体補強材などの振動伝達阻害材の使用が含まれる。したがって、それら手段を自動販売機のパーツに追加的に用いることにより、従来よりも高い防振効果を得ることができる。振動伝達防止手段が用いられるパーツには、ファン、冷却装置(冷却コンプレッサー、モーターが含まれる)、加熱装置(電熱ヒーターが含まれる)等の振動源、商品収納装置、本体、及びその他機械類等が含まれる。
【0033】
例えば、防振パッドのような振動吸収材は複数の商品収納装置の間に設置されて、収納装置の振動を防止できる。また、商品収納装置同士をビスのような固定用具で連結固定することによっても振動を防止し得る。また、商品収納装置と飲料又はその容器とを振動吸収素材又は振動伝達阻害材を介して接触させることにより(即ち、振動吸収素材又は振動伝達阻害材を、商品収納装置と飲料又はその容器との間に設置することによって)、振動の伝達を防止することができる。この目的のためには、具体的には、振動吸収素材又は振動伝達阻害材を、商品収納装置の内表面に設置する。
【0034】
さらに、冷却装置のような振動源を、振動吸収材を介して自動販売機に固定することによって振動の伝達を防止することができる。商品収納装置が、自動販売機本体中に懸架されているか、又は複数の商品収納装置間に存在しかつ本体中に固定された仕切り部に懸架されている場合には、振動伝達阻害剤を介して商品収納装置を本体又は仕切り部に懸架させることにより、振動の伝達を防止できる(ここで、「懸架」とは、物を他の物に掛けてぶら下げることをいう)。また、本体に振動伝達阻害材と取り付けることにより、振動源から自動販売機の本体を経由して商品収納装置に振動が伝達することを防止することができる。
【0035】
これら振動の伝達を防止する手段を単独で又は組み合わせて用いることにより、飲料にかかる振動の強度を適切な値まで低下させることができる。
【0036】
自動販売機における温度と乳脂肪分の分離
本発明者らは、温度も乳脂肪分の分離に関与することを明らかにした。
【0037】
即ち、飲料又はその容器の温度が5℃以上25℃以下に維持されていることにより、乳脂肪分分離の発生が促進されることを見出した。したがって、このような温度帯を有する自動販売機に対して本発明を適用する必要性が高く、そのような適用が好ましい。
【0038】
乳脂肪分分離発生のメカニズム
理論に拘束されないが、本発明者等の研究結果から想定される乳脂肪分分離の発生メカニズムは以下のとおりである。まず、外気に程近い温度で微小な振動を受けることにより、乳脂肪分の分離が開始される。続いて、微小な分離核が徐々に冷却されることにより乳脂肪分の凝集が促進されて凝集塊が形成される。さらに冷却が進むことにより、凝集塊の成長が促され、固化する。結果として、乳脂肪分の分離が生じるのである。
[発明の効果]
本発明は、特別な添加物を多量に用いることなく、ミルク由来の香味を十分に残したまま、自動販売機中で生じ得る乳脂肪分分離を防止することができる。
【0039】
また、本発明の自動販売機を用いれば、乳入り飲料の製造過程において複雑な処理を行なうことなく、広範な乳入り飲料における乳脂肪分分離を防止することができる。
【0040】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されないことは言うまでもない。
【実施例1】
【0041】
エコベンダーにおける振動の測定
一般的なエコベンダーに発生する振動を周波数ごとに測定した。VA11(リオン株式会社)を用いて、自動販売機の商品収納装置における振動を測定した。結果を図3に示す。図3より、自動販売機における主な振動は約45〜55Hzの周波数を有し、特に49Hzの周波数の振動が強いことが明らかとなった。この周波数帯の振動が乳脂肪分離に与える影響を次の実施例2に示す。
【実施例2】
【0042】
種々の周波数の振動が乳脂肪球の凝集、合一に与える影響
エコベンダーが発する主な振動の周波数である45〜55Hzを代表する値として49Hzを選択し、その周波数を有する振動を振動強度10×10−2(m/s)で、乳入り飲料であるミルク入りコーヒー飲料に2週間与えた。試験温度は1℃であった。その後、各試験液中の乳性分の凝集・合一を顕微鏡で確認した。その結果を、周波数100Hz及び150Hzの振動を用いて同様に行った実験結果、及び振動を与えないで得られた実験結果(コントロール)と共に図4に示す。
【0043】
図4によると、49Hzの振動を与えた試料において最も顕著な(約70μmの)凝集又は合一が確認された。100Hzにおいても、一定レベルの凝集又は合一が確認された。150Hzの振動では、殆ど凝集が生じなかった。したがって、約45〜100Hz、好ましくは約45〜55Hzの振動を抑制することにより乳脂肪分の分離を抑制できることが明らかとなった。より好ましくは、抑制されるべき振動の周波数は約50Hzであり、この周波数には、具体的には49Hz及び51Hz等の50Hz前後の値が含まれる。
【実施例3】
【0044】
自動販売機における振動防止の効果
a)振動伝達の防止
まず、振動防止手段の使用による振動の変化を確認した。
【0045】
コントロールとして、複数の商品収納装置を有し、図2と類似の構造を有する市販の自動販売機を用い、この自動販売機の中で乳入り飲料(透明ペトボトル入りミルクコーヒー:サントリー株式会社)の容器が受ける周波数49Hzの振動の強度を測定した。この自動販売機においては、下部Aのみ直接冷却された。振動の測定には、リオン株式会社の振動分析計「VA-11」、振動計用プリアンプ「VP-26C」および圧電式加速度ピックアップ「PV-90B」を用いた。具体的には、ピックアップ付属の絶縁アタッチメント「VP-53J」を分析用サンプル缶底部に接着剤アロンアルファ(登録商標:東亜合成株式会社)を用いて固定し、それにピックアップを接続した。ピックアップ付属のコード「VP-51L」を用いてピックアップとプリアンプとを接続し、さらにプリアンプを振動分析計に接続した。外部からのピックアップへの衝撃を防ぐために、分析用サンプル缶底部にプラスチックカップの底などをテープで接着してカバーした。また、コードが引っ張られることによりピックアップが破損することを防ぐために、コードを缶底にテープで固定した。このようにして、分析用サンプルを準備した。
【0046】
自動販売機においては、通常、商品が収納装置の最上部に投下されてから購入されるまで、10〜50日程度の日数を要している。図2を参照して説明すると、その間、飲料はコンプレッサー等の振動源から伝わった振動にさらされながら、商品収納装置の上部Cから下部Aまで移動する。また、飲料は下部Aに移動するにつれて徐々に冷却される。これら条件をシミュレートするため、以下の手順で実験を進めた。
【0047】
測定開始前に、測定を行なうコラムにダミーサンプルを(29(最大充填本数)−1、即ち28)本投入し、その最上部に分析用サンプルを投入した。そして、分析サンプルに加わる49Hz付近の振動の加速度のピーク値を測定した。次に、ダミーサンプルを商品取り出し口から取り出し、最上部から2段目の位置に分析用サンプルを移動させた。取り出したダミーサンプルは、コラムの最上部に入れた。落下の振動が落ち着いた後、分析用サンプルの振動の加速度のピークを測定した。以降、分析用サンプルが取り出し口から出るまで、上記の操作および測定を繰り返し、各位置における分析用サンプルに加わる49Hzの振動を測定した。コントロール自動販売機中で飲料が受けた最大振動強度の平均値は3.80m/sであった。
【0048】
これに対して、本発明の自動販売機として、コントロールと同じ自動販売機に振動防止手段を施したものを用意した。振動防止は、複数の商品収納装置間に防振パッド(幅26mm×長さ1000mm×厚さ2mm:ネオプレン合成ゴム)を設置すること、及び複数の商品収納装置同士をビスで固定することにより行なった。本発明の自動販売機においてコントロールと同様の実験を行った結果、飲料が受けた最大振動強度の平均値は、1.89m/sまで低下した。即ち、振動防止手段によりコントロールと比較して有意に振動が抑制された。
【0049】
b)乳脂肪分の分離状況の確認
次に、a)で用いたコントロール自動販売機及び本発明自動販売機における飲料の乳脂肪分分離状況を確認した。
【0050】
自動販売機の商品収納装置の最上段まで乳入り飲料(透明ペットボトル入りミルクコーヒー:サントリー株式会社)を積載し、取り出し口から飲料を1日1本ずつ取り出した。取り出した飲料の状態は、ビーカー等の透明容器に移し、その場で目視により確認した。乳脂肪分の分離レベルは、以下の基準に従って評価した。レベル0:固化した乳脂肪は観察されないか、または、注意深く見なければ見えないほどごく微量であるレベル;レベル1:目視によって小さな粒状物を飲料中に僅かに見出すことができるが、消費者は飲むだけではそれらの粒状物を認識できないレベル;レベル2:目視によって小さな粒状物を数多く飲料中に見出すことができ、消費者が敏感であれば飲むだけでその粒状物を認識できるレベル;レベル3:目視によって大きな粒状物を飲料中に数多く見出すことができ、消費者は飲むだけでその粒状物を認識できるレベル。これらの結果を、表1に示す。
【0051】
【表1】

【0052】
表1に示されているように、振動防止手段を施した本発明の自動販売機においては、明らかに乳脂肪分分離が抑制されていた。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】図1は、一般的なエコベンダーの前面図を示す。
【図2】図2は、一般的なエコベンダーの側面断面図を示す。
【図3】図3は、エコベンダーに発生する振動の強度を周波数ごとに示すグラフである。
【図4】図4は、種々の周波数の振動が乳脂肪球の凝集、合一に与える影響を示す顕微鏡写真である。
【符号の説明】
【0054】
1…本体キャビネット、2…外扉、3…商品見本、4…商品選択ボタン、5…商品ディスプレイ、6…料金投入パネル、7…商品取出口、8…内扉、9…商品搬出装置、10…商品収納装置、11…コラム、12…搬送シュート、13…蒸発器、14…電熱ヒーター、15…送風ファン、16…温度センサー、17…冷却コンプレッサー、18…凝縮機、19…機械室、20…送風ファン、21…モーター、22…商品搬入口、23…商品通過口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動販売機中に収納されている個別に容器詰された乳入り飲料における乳脂肪分の分離浮上と凝固を防止するための方法であって、当該乳入り飲料又はその容器が受ける45〜100Hzの範囲内の少なくとも1つの周波数における振動の最大ピーク強度の平均値を2.9×10−2(m/s)以下に抑制することを含む方法。
【請求項2】
前記振動の強度の平均値を1.9×10−2(m/s)以下に抑制する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
自動販売機が振動源と商品収納装置とを備えた本体を含み、当該振動源から当該商品収納装置を経由して乳入り飲料又はその容器へ振動が伝達されることを防止するための手段を用いて飲料又はその容器における振動を抑制する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
自動販売機が振動源と商品収納装置とを備えた本体を含み、当該振動源から本体を経由して当該商品収納装置へ振動が伝達されることを防止するための手段を用いて飲料又はその容器における振動を抑制する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
振動の伝達を防止するための手段が、振動吸収材、固定用具、又は振動伝達阻害材の使用である、請求項3又は4に記載の方法。
【請求項6】
自動販売機が複数の商品収納装置を有し、隣接する商品収納装置同士を固定用具によって連結固定することにより振動の伝達を防止する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
自動販売機が複数の商品収納装置を有し、隣接する商品収納装置の間に振動吸収材を設けることにより振動の伝達を防止する、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
商品収納装置と飲料又はその容器とを振動吸収材または振動伝達阻害材を介して接触させることにより振動の伝達を防止する、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
振動源を自動販売機本体に振動吸収材を介して固定することにより振動の伝達を防止する、請求項5に記載の方法。
【請求項10】
自動販売機が、複数の商品収納装置を有し、当該商品収納装置が本体中に懸架されているか又は当該商品収納装置間に存在しかつ本体中に固定された仕切り部に懸架されているものであって、振動伝達阻害材を介して当該商品収納装置を本体又は当該仕切り部に懸架することにより振動の伝達を防止する、請求項5に記載の方法。
【請求項11】
振動が振動源から自動販売機の本体を経由して当該商品収納装置に伝達されないように本体に振動伝達阻害材を取り付けることにより、振動の伝達を防止する、請求項5に記載の方法。
【請求項12】
商品収納装置の上部または中部における飲料またはその容器が受ける前記振動の強度の平均値を請求項1又は2に規定された値以下に抑制する、請求項3〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
振動源が、冷却コンプレッサー、冷却モーター、蒸発器、凝縮器、送風ファンから選択される1種以上のものである、請求項3〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
さらに、収納されている飲料又はその容器の温度を5℃以上25℃以下に維持することを含む、請求項1〜13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記自動販売機がエコベンダーであることを特徴とする、請求項1〜14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
振動源と商品収納装置とを備えた本体を含む、個別に容器詰された乳入り飲料を提供するための自動販売機であって、収納されている飲料又はその容器が受ける45〜100Hzの範囲内の少なくとも1つの周波数における振動の最大ピーク強度の平均値を2.9×10−2(m/s)以下に抑制するための手段を備えていることを特徴とする自動販売機。
【請求項17】
前記振動の強度の平均値を1.9×10−2(m/s)以下に抑制するための手段を備えていることを特徴とする、請求項16に記載の自動販売機。
【請求項18】
複数の商品収納装置を含み、隣接する商品収納装置同士を固定具によって連結固定した、請求項16又は17に記載の自動販売機。
【請求項19】
複数の商品収納装置を含み、隣接する商品収納装置の間に振動吸収材を設けた、請求項16又は17に記載の自動販売機。
【請求項20】
商品収納装置と飲料又はその容器とが振動吸収材又は振動伝達阻害材を介して接触するように振動吸収材又は振動伝達阻害材が当該商品収納装置に設置された、請求項16又は17に記載の自動販売機。
【請求項21】
振動源を自動販売機本体に振動吸収材を介して固定した、請求項16又は17に記載の自動販売機。
【請求項22】
複数の商品収納装置を有し、振動伝達阻害材を介して、当該商品収納装置が、本体中に懸架されているか又は当該商品収納装置間に存在しかつ本体中に固定された仕切り部に懸架されている、請求項16又は17に記載の自動販売機。
【請求項23】
本体に振動伝達阻害材が取り付けられた、請求項16又は17に記載の自動販売機。
【請求項24】
振動源が冷却コンプレッサー、冷却モーター、蒸発器、凝縮器、送風ファンから選択される1種以上のものである、請求項16〜23のいずれか1項に記載の自動販売機。
【請求項25】
さらに、商品収納装置内に収納されている飲料又はその容器の温度を5℃以上25℃以下に維持するための冷却手段を含む、請求項16〜24のいずれか1項に記載の自動販売機。
【請求項26】
エコベンダーであることを特徴とする、請求項16〜25のいずれか1項に記載の自動販売機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−65752(P2008−65752A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−245471(P2006−245471)
【出願日】平成18年9月11日(2006.9.11)
【出願人】(000001904)サントリー株式会社 (319)
【Fターム(参考)】