説明

自動車における車体ルーフ構造

【課題】積雪時に、ルーフパネル本体自身が積雪からの荷重に対し強固に対抗できるようにする。
【解決手段】車体2のルーフパネル13が、ルーフパネル13の車体2の幅方向における中途部を構成し、車体2の正面断面視で、上方に向かって円弧凸形状となるよう形成されるルーフパネル本体17を備える。車体2の正面断面視において、ルーフパネル本体17の左、右外側端同士を結ぶ仮想水平線21からのルーフパネル本体17の部分の高さをyとし、仮想水平線21に沿った方向で、ルーフパネル本体17の車体2の幅方向における中心線18からこのルーフパネル本体17の外側端に至るまでのルーフパネル本体17の部分の位置をxとし、かつ、中心線18上における仮想水平線21からのルーフパネル本体17のルーフ高さをhとしたとき、ルーフパネル本体17の断面形状が、y=−ax+h、ただし、n=2.01〜2.20の式を満足するようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体のルーフパネル上への積雪時に、このルーフパネルの車体の幅方向における中途部を構成するルーフパネル本体自身が、このルーフパネル本体上の積雪からの荷重に対し強固に対抗できるようにするための自動車における車体ルーフ構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
上記自動車における車体ルーフ構造には、従来、下記特許文献1に示されるものがある。この公報のものによれば、自動車における車体ルーフ構造は、車体の幅方向における左、右外側端部がそれぞれ車体の側壁に溶接により結合されて、車体の上面を形成するルーフパネルと、車体の左、右側壁部に架設されて、上記ルーフパネルをその下方から支持する車体の前後方向で複数の補強体とを備えている。
【0003】
そして、上記ルーフパネル上への積雪時には、この積雪からの負荷に対し上記ルーフパネルと補強体とが協同して対抗することとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−112655号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記従来の技術では、車体ルーフは、ルーフパネルに加えて複数の補強体を備えている。このため、車体ルーフの部品点数が多いことから、その構成が複雑になったり、車体ルーフの質量が過大になったりするおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記のような事情に注目してなされたもので、本発明の目的は、車体のルーフパネル上への積雪時に、このルーフパネルの車体の幅方向における中途部を構成するルーフパネル本体自身が、このルーフパネル本体上の積雪からの荷重に対し強固に対抗できるようにして、上記ルーフパネルを補強するための補強体をできるだけ不要にすることにより、車体ルーフの部品点数を少なくしてその構成を簡単にし、かつ、その質量を小さくできるようにすることである。
【0007】
請求項1の発明は、車体2の幅方向における左、右外側端部がそれぞれ車体2の側壁3に溶接Sにより結合されて、車体2の上面を形成するルーフパネル13を備え、このルーフパネル13が、このルーフパネル13の車体2の幅方向における中途部を構成し、車体2の正面断面視(図1)で、上方に向かって円弧凸形状となるよう形成されるルーフパネル本体17を備えた自動車における車体ルーフ構造において、
車体2の正面断面視(図1)において、上記ルーフパネル本体17の左、右外側端同士を結ぶ仮想水平線21からの上記ルーフパネル本体17の部分の高さをyとし、上記仮想水平線21に沿った方向で、上記ルーフパネル本体17の車体2の幅方向における中心線18からこのルーフパネル本体17の外側端に至るまでの上記ルーフパネル本体17の部分の位置をxとし、かつ、上記中心線18上における上記仮想水平線21からのルーフパネル本体17のルーフ高さをhとしたとき、上記ルーフパネル本体17の断面形状が、
y=−ax+h、ただし、n=2.01〜2.20
の式を満足するようにしたことを特徴とする自動車における車体ルーフ構造である。
【0008】
なお、この項において、上記各用語に付記した符号や図面番号は、本発明の技術的範囲を後述の「実施例」の項や図面の内容に限定解釈するものではない。
【発明の効果】
【0009】
本発明による効果は、次の如くである。
【0010】
請求項1の発明は、車体の幅方向における左、右外側端部がそれぞれ車体の側壁に溶接により結合されて、車体の上面を形成するルーフパネルを備え、このルーフパネルが、このルーフパネルの車体の幅方向における中途部を構成し、車体の正面断面視で、上方に向かって円弧凸形状となるよう形成されるルーフパネル本体を備えた自動車における車体ルーフ構造において、
車体の正面断面視において、上記ルーフパネル本体の左、右外側端同士を結ぶ仮想水平線からの上記ルーフパネル本体の部分の高さをyとし、上記仮想水平線に沿った方向で、上記ルーフパネル本体の車体の幅方向における中心線からこのルーフパネル本体の外側端に至るまでの上記ルーフパネル本体の部分の位置をxとし、かつ、上記中心線上における上記仮想水平線からのルーフパネル本体のルーフ高さをhとしたとき、上記ルーフパネル本体の断面形状が、
y=−ax+h、ただし、n=2.01〜2.20
の式を満足するようにしている。
【0011】
即ち、上記発明によれば、ルーフパネル上への積雪時に、そのルーフパネル本体上の積雪からの荷重が、このルーフパネル本体に与えられる場合、このルーフパネル本体に、車体の幅方向で三点の座屈が同時に発生するという「合計三点座屈」を得ることができる。このため、上記ルーフパネル本体に上記荷重により一点もしくは二点の座屈を発生させるようにした場合に比べて、上記ルーフパネル本体の上記荷重に対する強度が飛躍的に向上する。
【0012】
この結果、上記ルーフパネル本体自身が上記積雪からの荷重に対し強固に対抗することから、上記ルーフパネルを補強するための補強体をできるだけ不要にでき、よって、その分、車体ルーフの部品点数を少なくしてその構成を簡単にし、かつ、その質量を小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図2のI−I線矢視断面線図である。
【図2】自動車の全体平面図である。
【図3】図1の部分拡大断面図である。
【図4】図1に相当する図で、形状指数を定める根拠を説明するための図である。
【図5】積雪高さと形状指数との関係における第1、第2応答曲面の各断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の自動車における車体ルーフ構造に関し、車体のルーフパネル上への積雪時に、このルーフパネルの車体の幅方向における中途部を構成するルーフパネル本体自身が、このルーフパネル本体上の積雪からの荷重に対し強固に対抗できるようにして、上記ルーフパネルを補強するための補強体をできるだけ不要にすることにより、車体ルーフの部品点数を少なくしてその構成を簡単にし、かつ、その質量を小さくできるようにする、という目的を実現するため、本発明を実施するための形態は、次の如くである。
【0015】
即ち、車体の幅方向における左、右外側端部がそれぞれ車体の側壁に溶接により結合されて、車体の上面を形成するルーフパネルを備え、このルーフパネルが、このルーフパネルの車体の幅方向における中途部を構成し、車体の正面断面視で、上方に向かって円弧凸形状となるよう形成されるルーフパネル本体を備えた自動車における車体ルーフ構造において、
車体の正面断面視において、上記ルーフパネル本体の左、右外側端同士を結ぶ仮想水平線からの上記ルーフパネル本体の部分の高さをyとし、上記仮想水平線に沿った方向で、上記ルーフパネル本体の車体の幅方向における中心線からこのルーフパネル本体の外側端に至るまでの上記ルーフパネル本体の部分の位置をxとし、かつ、上記中心線上における上記仮想水平線からのルーフパネル本体のルーフ高さをhとしたとき、上記ルーフパネル本体の断面形状が、
y=−ax+h、ただし、n=2.01〜2.20
の式を満足するようにしている。
【実施例】
【0016】
本発明をより詳細に説明するために、その実施例を添付の図に従って説明する。
【0017】
図1〜3において、符号1は自動車であり、矢印Frは、この自動車1の進行方向の前方を示している。また、下記する左右とは、自動車1の車体2の幅方向をいうものとする。
【0018】
上記車体2は、その左、右各側部を構成する側壁3,3と、車体2の上端部を構成し、上記左、右側壁3,3の各上端縁部に架設されるルーフ4とを備え、これら側壁3,3とルーフ4とで囲まれた車体2の内部が車室5とされている。
【0019】
また、上記側壁3は、この側壁3の上端縁部を構成し、車体2の前後方向に延びるルーフサイドレール8と、縦方向に延びて、これら各ルーフサイドレール8を車体2の下部に支持する前、後複数のピラー9とを備え、これらルーフサイドレール8とピラー9とは、それぞれ車体2の骨格部材を構成して、十分の強度と剛性とを備えている。
【0020】
上記ルーフ4は、車体2の幅方向における左、右外側端部12,12がそれぞれ上記各側壁3のルーフサイドレール8にスポット溶接Sにより結合されて、車体2の上面を形成する板金製のルーフパネル13と、このルーフパネル13を下方から覆って上記車室5の上面を形成するルーフライニング14とを備えている。
【0021】
上記ルーフパネル13は、このルーフパネル13の車体2の幅方向における略全体の中途部を構成するルーフパネル本体17を備えている。このルーフパネル本体17は、車体2の正面断面視(図1)で、上方に向かって円弧凸形状となるよう形成され、かつ、車体2の幅方向におけるルーフ4の中心線18を基準として左右対称形とされている。
【0022】
上記ルーフパネル13の各外側端部12は、上記ルーフパネル本体17の左、右外側端から一旦下方に向かって一体的に延出する縦向き片12aと、この縦向き片12aの下端縁から車体2の外側方に向かって一体的に延出する横向き片12bとを備え、この横向き片12bが、前記したようにルーフサイドレール8に溶接Sされている。つまり、上記各外側端部12は断面L字形状をなして、上記ルーフサイドレール8に溶接Sされることにより、十分の強度と剛性とを備えている。
【0023】
上記車体2の正面断面視(図1)において、上記ルーフパネル本体17の左、右各外側端同士を結ぶ仮想水平線21からの上記ルーフパネル本体17の部分の高さをy(≧0)とし、上記仮想水平線21に沿った方向で、上記中心線18からルーフパネル本体17の外側端に至るまでの上記ルーフパネル本体17の部分の位置をxとしたとき、上記ルーフパネル本体17の断面形状が下記式を満足することとされている。
【0024】
y=−ax+h
【0025】
ただし、y≧0、x≧0で、車体2の幅方向における上記ルーフパネル本体17の全幅をwとしたとき、−w/2≦x≦w/2である。
【0026】
また、hは、上記中心線18上におけるルーフパネル本体17のルーフ高さであり、上記hやaの値は、主に、ルーフ4上面の排水性やルーフ4の外観上の見栄えにより定められる値である。なお、実機では、一般に、w/2=360〜700mm、h=10〜60mmであり、軽自動車に限定すれば、w/2=412〜512mm、h=28〜40mmである。
【0027】
また、nは形状指数であって、n=2.01〜2.20、より好ましくは、n=2.04〜2.18であり、更に好ましくは、n=2.07〜2.17である。ここで、上記したw,h,nの各値をそれぞれ定めれば、これら各値から上記aの値は一意的に決定される。具体的には、上記したようにw/2=360〜700mm、h=10〜60mm、n=2.01〜2.20とすれば、a=2.53×10−5〜1.76×10−3となる。また、軽自動車に限定して、上記したように、w/2=412〜512、h=28〜40、n=2.01〜2.20とすれば、a=1.76×10−4〜6.49×10−4となる。
【0028】
次に、上記した範囲に形状指数nの値を定めた根拠を下記する。
【0029】
まず、初期設定として、上記ルーフパネル13上に積雪があったとし、上記ルーフパネル本体17が上記積雪から等分布荷重24を与えられるとする。この場合、この荷重24により、上記ルーフパネル本体17は下方に向かって変形しようとする。そして、この際、この変形モードが安定していると考えられるのは、自動車1の長手方向のある一部分において、第1の点として、図4(a)で示すように、上記ルーフパネル本体17の車体2の幅方向における中央部にのみ、一点の座屈25が発生するという「中央部一点座屈」の場合である。また、第2の点として、図4(b)で示すように、上記ルーフパネル本体17の両側部にそれぞれ一点の座屈25、つまり、合計二点の座屈25が同時に発生するという「両側部各一点座屈」の場合である。
【0030】
そこで、上記第1の点に関し、図4(a)にて図示のルーフパネル本体17の「中央部一点座屈」を得ることを目的とし、実験計画法に基づき、下記「表1」における4つの因子と3つの水準との組み合わせを割り付けて実験を行い、その結果より応答曲面解析を行い、図5で示すように、積雪高さと、形状指数nに係る上記ルーフパネル本体17形状相当の第1応答曲面の断面26を得た。
【0031】
【表1】

【0032】
また、上記第2の点に関し、図4(b)にて図示のルーフパネル本体17の「両側部各一点座屈」を得ることを目的とし、下記「表2」における4つの因子と3つの水準との種々の組み合わせを用いて上記と同様の応答曲面解析を行い、図5で示すように、上記と同様の第2応答曲面の断面27を得た。
【0033】
【表2】

【0034】
図5において、上記第1応答曲面の断面26と第2応答曲面の断面27とが交差する交点28においては、図4(a)図示の「中央部一点座屈」と、図4(b)図示の「両側部各一点座屈」とが同時に発生し、つまり、ルーフパネル本体17に、車体2の幅方向で三点の座屈25が同時に発生するという「合計三点座屈」が得られる部分であり、上記交点28における上記形状指数nの値は、略2.12である。
【0035】
そして、上記したように、形状指数nの値を定めてやれば、ルーフパネル本体17上に与えられる上記荷重24により、上記ルーフパネル本体17には「合計三点座屈」が得られることとなる。そして、これによれば、上記ルーフパネル本体17に上記荷重24により一点もしくは二点の座屈25を発生させるようにした場合に比べて、上記ルーフパネル本体17の上記荷重24に対する強度が飛躍的に向上する、という「作用」が生じる。
【0036】
また、上記「作用」は、上記した形状指数nの値の近傍における、ある範囲で生じるため、前記したように、n=2.01〜2.20、より好ましくは、n=2.04〜2.18、更に好ましくは、n=2.07〜2.17としたのである。
【0037】
そして、上記「作用」によれば、車体2のルーフパネル13上への積雪時には、上記ルーフパネル本体17自身が上記積雪からの荷重24に対し強固に対抗することから、上記ルーフパネル13を補強するための補強体をできるだけ不要にでき、よって、その分、車体ルーフ4の部品点数を少なくしてその構成を簡単にし、かつ、その質量を小さくすることができる。
【0038】
なお、図1中一点鎖線のルーフパネル本体17はn=1.5とした場合のもの、二点鎖線のルーフパネル本体17はn=2とした場合のもの、実線のルーフパネル本体17はn=3とした場合のものを示している。
【0039】
また、上記形状指数nは、自動車1の長手方向におけるルーフパネル本体17の各部において互いに一定値ではなく、このルーフパネル本体17の縦曲率に合わせて適宜変更すればよい。
【符号の説明】
【0040】
1 自動車
2 車体
3 側壁
4 ルーフ
5 車室
12 外側端部
12a 縦向き片
12b 横向き片
13 ルーフパネル
14 ルーフライニング
17 ルーフパネル本体
18 中心線
21 仮想水平線
24 荷重
25 座屈
26 第1応答曲面の断面
27 第2応答曲面の断面
28 交点
S 溶接
h ルーフ高さ
n 形状指数

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体の幅方向における左、右外側端部がそれぞれ車体の側壁に溶接により結合されて、車体の上面を形成するルーフパネルを備え、このルーフパネルが、このルーフパネルの車体の幅方向における中途部を構成し、車体の正面断面視で、上方に向かって円弧凸形状となるよう形成されるルーフパネル本体を備えた自動車における車体ルーフ構造において、
車体の正面断面視において、上記ルーフパネル本体の左、右外側端同士を結ぶ仮想水平線からの上記ルーフパネル本体の部分の高さをyとし、上記仮想水平線に沿った方向で、上記ルーフパネル本体の車体の幅方向における中心線からこのルーフパネル本体の外側端に至るまでの上記ルーフパネル本体の部分の位置をxとし、かつ、上記中心線上における上記仮想水平線からのルーフパネル本体のルーフ高さをhとしたとき、上記ルーフパネル本体の断面形状が、
y=−ax+h、ただし、n=2.01〜2.20
の式を満足するようにしたことを特徴とする自動車における車体ルーフ構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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