説明

自動車における車体前部の衝撃力緩和構造

【課題】 前突によりフロントサイドメンバにその前方から衝撃力が与えられたとき、このフロントサイドメンバが十分に塑性変形して、上記衝撃力が効果的に緩和されるようにする。
【解決手段】 自動車1は、車体2の長手方向に延びる左右一対のフロントサイドメンバ3と、このフロントサイドメンバ3の下側に配置されて前輪5を懸架するサスペンションメンバ6と、このサスペンションメンバ6の各側部をこれに対応するフロントサイドメンバ3に支持させる長手方向で3つ以上の支持具7−9とを備えている。各支持具7−9のうち、中間支持具8の近傍におけるフロントサイドメンバ3の長手方向の中途部分24が、自動車1の前突時に上記車体2に与えられる衝撃力Aにより、サスペンションメンバ6から離れるよう変形することを促進する変形促進手段25を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フロントサイドメンバと、このフロントサイドメンバに支持されるサスペンションメンバとを備えた自動車において、前進走行時の自動車がその前方の何らかの物体に衝突(前突)して、上記フロントサイドメンバにその前方から衝撃力が与えられたとき、このフロントサイドメンバの塑性変形により上記衝撃力を緩和するようにした自動車における車体前部の衝撃力緩和構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
上記自動車における車体前部の衝撃力緩和構造には、従来、下記特許文献1に示されるものがある。この公報のものによれば、自動車は、車体の長手方向に延びる左右一対のフロントサイドメンバと、このフロントサイドメンバの下側に配置されて前輪を懸架するサスペンションメンバと、このサスペンションメンバの各側部をこれに対応する上記フロントサイドメンバに支持させる上記長手方向で5つの支持具とを備えている。
【0003】
そして、自動車が前突して、上記サスペンションメンバにその前方から所定値以上の衝撃力が与えられたときには、上記各支持具の位置とサスペンションメンバの形状とによって、このサスペンションメンバに所望の変形モード特性の圧縮による塑性変形が生じることとされている。これにより、上記前突により生じる衝撃エネルギーが吸収され、上記衝撃力が緩和することとされる。
【0004】
【特許文献1】特開2001−310755号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記した従来の技術では、フロントサイドメンバとサスペンションメンバとは5つという多くの支持具で互いに結合されている。また、このサスペンションメンバは前輪を懸架するものであって、一般に、大きい強度と剛性とを備えている。このため、上記フロントサイドメンバはサスペンションメンバによって大きく補強されがちとなる。
【0006】
よって、前突により上記フロントサイドメンバにその前方から衝撃力が与えられたとき、このフロントサイドメンバの塑性変形は上記サスペンションメンバによる補強によって阻害されるおそれがある。つまり、上記従来の技術では、フロントサイドメンバによる前突時の衝撃力の緩和は不十分になるおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記のような事情に注目してなされたもので、本発明の目的は、前突によりフロントサイドメンバにその前方から衝撃力が与えられたとき、このフロントサイドメンバが十分に塑性変形して、上記衝撃力が効果的に緩和されるようにすることである。
【0008】
請求項1の発明は、車体2の長手方向に延びる左右一対のフロントサイドメンバ3と、このフロントサイドメンバ3の下側に配置されて前輪5を懸架するサスペンションメンバ6と、このサスペンションメンバ6の各側部をこれに対応する上記フロントサイドメンバ3に支持させる上記長手方向で3つ以上の支持具7−9とを備えた自動車において、
上記各支持具7−9のうち、中間支持具8の近傍における上記フロントサイドメンバ3の長手方向の中途部分24が、自動車1の前突時に上記車体2に与えられる衝撃力Aにより、上記サスペンションメンバ6から離れるよう変形することを促進する変形促進手段25を設けたものである。
【0009】
請求項2の発明は、請求項1の発明に加えて、上記各支持具7−9のうち、後支持具9の近傍における上記サスペンションメンバ6の部分30が、上記衝撃力Aにより、上記フロントサイドメンバ3から離脱することを促進する離脱促進手段31を設けたものである。
【0010】
なお、この項において、上記各用語に付記した符号は、本発明の技術的範囲を後述の「実施例」の項や図面の内容に限定解釈するものではない。
【発明の効果】
【0011】
本発明による効果は、次の如くである。
【0012】
請求項1の発明は、車体の長手方向に延びる左右一対のフロントサイドメンバと、このフロントサイドメンバの下側に配置されて前輪を懸架するサスペンションメンバと、このサスペンションメンバの各側部をこれに対応する上記フロントサイドメンバに支持させる上記長手方向で3つ以上の支持具とを備えた自動車において、
上記各支持具のうち、中間支持具の近傍における上記フロントサイドメンバの長手方向の中途部分が、自動車の前突時に上記車体に与えられる衝撃力により、上記サスペンションメンバから離れるよう変形することを促進する変形促進手段を設けてある。
【0013】
このため、自動車が前突して、上記フロントサイドメンバにその前方から衝撃力が与えられたときには、上記変形促進手段により、上記フロントサイドメンバの中途部分は変形して、上記サスペンションメンバから離脱させられる(図1中一点鎖線)。
【0014】
すると、上記サスペンションメンバによるフロントサイドメンバの補強が軽減されて、このフロントサイドメンバは、上記衝撃力により十分に塑性変形する。これにより、上記前突により生じる衝撃エネルギーが効果的に吸収され、よって上記衝撃力は効果的に緩和される。
【0015】
ここで、上記衝撃力があまり大きくない場合には、各支持具のうち、上記中間支持具を除く前、後支持具により、上記フロントサイドメンバにサスペンションメンバが支持されたままに保持される。このため、上記前突時の衝撃力は前記のように効果的に緩和されるが、車体に対する前輪の懸架状態は維持されて、車体が無用に過大に変形することは防止される。
【0016】
請求項2の発明は、上記各支持具のうち、後支持具の近傍における上記サスペンションメンバの部分が、上記衝撃力により、上記フロントサイドメンバから離脱することを促進する離脱促進手段を設けている。
【0017】
このため、上記衝撃力がより大きい場合には、上記離脱促進手段により、上記サスペンションメンバの部分が上記フロントサイドメンバから離脱させられる。
【0018】
すると、上記サスペンションメンバによるフロントサイドメンバの補強がより確実に軽減されて、このフロントサイドメンバは、上記衝撃力により更に十分に塑性変形する。これにより、上記前突により生じる衝撃エネルギーがより効果的に吸収され、よって、上記衝撃力はより効果的に緩和される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の自動車における車体前部の衝撃力緩和構造に関し、前突によりフロントサイドメンバにその前方から衝撃力が与えられたとき、このフロントサイドメンバが十分に塑性変形して、上記衝撃力が効果的に緩和されるようにする、という目的を実現するため、本発明を実施するための最良の形態は、次の如くである。
【0020】
即ち、自動車は、車体の長手方向に延びる左右一対のフロントサイドメンバと、このフロントサイドメンバの下側に配置されて前輪を懸架するサスペンションメンバと、このサスペンションメンバの各側部をこれに対応する上記フロントサイドメンバに支持させる上記長手方向で3つ以上の支持具とを備えている。上記各支持具のうち、中間支持具の近傍における上記フロントサイドメンバの長手方向の中途部分が、自動車の前突時に上記車体に与えられる衝撃力により、上記サスペンションメンバから離れるよう変形することを促進する変形促進手段が設けられる。
【実施例】
【0021】
本発明をより詳細に説明するために、その実施例を添付の図に従って説明する。
【0022】
図において、符号1は自動車で、矢印Frはこの自動車1の進行方向の前方を示している。
【0023】
この自動車1の車体2は、この車体2の長手方向に延びる左右一対のフロントサイドメンバ3,3と、車体2の幅方向に延びて上記フロントサイドメンバ3,3を互いに結合させるクロスメンバ4と、上記フロントサイドメンバ3,3の下側に配置されて前輪5を懸架するサスペンションメンバ6と、このサスペンションメンバ6の各側部をこれに対応するフロントサイドメンバ3に支持させる上記長手方向で3つの前、中間、後支持具7−9とを備え、上記前輪5により走行面10上に自動車1が支持されている。
【0024】
上記フロントサイドメンバ3、クロスメンバ4、およびサスペンションメンバ6はいずれも板金製である。上記フロントサイドメンバ3とクロスメンバ4の各横断面は箱形状をなしている。また、上記サスペンションメンバ6は、平面視(図3)でほぼ矩形の枠形状をなし、上記長手方向に延びる左右一対のサスペンションサイドメンバ12,12と、車体2の幅方向に延び、これらサスペンションサイドメンバ12,12を互いに結合させる前、後サスペンションクロスメンバ13,13とを備えている。これら各サスペンションサイドメンバ12とサスペンションクロスメンバ13の各横断面も箱形状をなしている。
【0025】
上記前支持具7は、上記サスペンションメンバ6の前端側部から上方に突出する板金製の前支持片14と、この前支持片14の上端部と上記フロントサイドメンバ3とを互いに結合させる締結具15とを備えている。また、上記中間支持具8は、上記サスペンションメンバ6の側部の上記長手方向における中間部から上方に突出する板金製の中間支持片16と、上記フロントサイドメンバ3に締結具17により結合され、上記中間支持片16の上端部に形成された係止孔18に嵌入される縦向きの円形パイプ形状のカラー19とを備えている。
【0026】
また、上記後支持具9は締結具であって、上記サスペンションメンバ6の後端側部に形成されたボルト孔21に嵌入されて、上記サスペンションメンバ6の後端側部を上記フロントサイドメンバ3に締結させるボルト22を備えている。この場合、サスペンションメンバ6は、その後端部よりも前部側が下側にオフセットされている。
【0027】
上記車体2には、自動車1の前突時に上記車体2にその前方から与えられる衝撃力Aにより、上記フロントサイドメンバ3の長手方向の中途部分24が、上記サスペンションメンバ6から外側方に向かって離れるよう変形することを促進する変形促進手段25が設けられている。上記車体2の中途部分24は、平面視(図1,3)で、上記各支持具7−9のうち、中間支持具8の近傍に位置している。
【0028】
上記変形促進手段25は、上記各フロントサイドメンバ3の内面に形成される上記長手方向で複数(3本)の縦向きビード26と、上記カラー19の外側方に位置する係止孔18周りの薄肉縁部27とで構成されている。上記各ビード26は、上記フロントサイドメンバ3の内部側に向かって突出するよう形成されている。また、上記薄肉縁部27は、上記係止孔18の内周面の一部を切り欠くことにより薄肉となるよう形成されている。
【0029】
上記車体2には、上記サスペンションメンバ6の部分30が、上記衝撃力Aにより、上記フロントサイドメンバ3から離脱することを促進する離脱促進手段31が設けられている。上記サスペンションメンバ6の上記部分30は、平面視(図1)で、上記各支持具7−9のうち、最後部の後支持具9の近傍に位置し、つまり、上記サスペンションメンバ6の後端側部に相当している。上記離脱促進手段31は、上記ボルト孔21の内周面の後部から上記サスペンションメンバ6の後方に向かって延びるスリット32により構成されている。
【0030】
上記車体2には、上記サスペンションメンバ6がその前方から衝撃力Aを与えられたとき、上記各サスペンションサイドメンバ12が座屈することを促進する座屈促進手段34が設けられている。この座屈促進手段34は、上記長手方向で上記各サスペンションサイドメンバ12の中間部の上面に形成される切り欠き35により構成されている。
【0031】
そして、自動車1が前突して、上記フロントサイドメンバ3にその前方から衝撃力Aが与えられたときには、まず、上記変形促進手段25の各ビード26により、上記フロントサイドメンバ3の中途部分24は上記サスペンションメンバ6から外側方に向かって離れるよう塑性変形し始める。すると、上記中途部分24と共に外側方に向かおうとする上記カラー19が上記薄肉縁部27を破断させる。そして、上記フロントサイドメンバ3の中途部分24は外側方に向かい大きく湾曲するよう塑性変形して、上記サスペンションメンバ6から離脱させられる(図1中一点鎖線)。
【0032】
すると、上記サスペンションメンバ6によるフロントサイドメンバ3の補強が軽減されて、このフロントサイドメンバ3は、上記衝撃力Aにより十分に塑性変形する。これにより、上記前突により生じる衝撃エネルギーが効果的に吸収され、よって上記衝撃力Aは効果的に緩和される。
【0033】
また、上記サスペンションメンバ6にその前方から衝撃力Aが与えられたときには、まず、このサスペンションメンバ6の前部側が後方移動させられて、その後端部に接近し、この際、これら前部側と後端部との間がZ折れ形状に塑性変形し(図2中一点鎖線)、これによっても、上記衝撃力Aが緩和される。
【0034】
ここで、上記衝撃力Aがあまり大きくない場合には、各支持具7−9のうち、上記中間支持具8を除く前、後支持具7,9により、上記フロントサイドメンバ3にサスペンションメンバ6が支持されたままに保持される。このため、上記前突時の衝撃力は前記のように効果的に緩和されるが、車体2に対する前輪5の懸架状態は維持されて、車体2が無用に過大に変形することは防止される。
【0035】
また、前記したように、各支持具7−9のうち、後支持具9の近傍における上記サスペンションメンバ6の部分30が、上記衝撃力Aにより、上記フロントサイドメンバ3から離脱することを促進する離脱促進手段31を設けている。
【0036】
このため、上記衝撃力Aがより大きくて、サスペンションメンバ6が更に塑性変形したとすると、このサスペンションメンバ6の部分30に応力集中が生じて大きく塑性変形する。そして、この際、上記離脱促進手段31のスリット32が拡開して、この離脱促進手段31により、上記サスペンションメンバ6の部分30が上記フロントサイドメンバ3から離脱させられる。
【0037】
すると、上記サスペンションメンバ6によるフロントサイドメンバ3の補強がより確実に軽減されて、このフロントサイドメンバ3は、上記衝撃力Aにより更に十分に塑性変形する。これにより、上記前突により生じる衝撃エネルギーがより効果的に吸収され、よって、上記衝撃力Aはより効果的に緩和される。
【0038】
また、上記衝撃力Aにより、サスペンションメンバ6の各サスペンションサイドメンバ12は座屈促進手段34により座屈するよう塑性変形する。このため、上記サスペンションメンバ6の各サスペンションサイドメンバ12が単に屈曲することに比べ、上記衝撃力Aは更に効果的に緩和される。
【0039】
なお、図1中三点鎖線で示すように、上記離脱促進手段31のスリット32は、上記ボルト孔21の内周面の前部から前方に向かって延びるものであってもよい。このようにすれば、上記サスペンションメンバ6に衝撃力Aが与えられて、このサスペンションメンバ6が上記フロントサイドメンバ3に対し後方移動したときには、上記離脱促進手段31のスリット32がより円滑に拡開して、この離脱促進手段31により上記サスペンションメンバ6の部分30が上記フロントサイドメンバ3からより確実に離脱させられる。
【0040】
また、以上は、図示の例によるが、上記中間支持具8は、上記長手方向で複数設けてもよい。また、上記変形促進手段25のビード26は、上記フロントサイドメンバ3の外側に向かって突出するよう形成してもよい。また、上記薄肉縁部27に加え、もしくはこれに代えてスリットを形成してもよい。また、上記離脱促進手段31のスリット32は、これに加え、もしくはこれに代えて薄肉縁部としてもよく、切り欠きを形成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】図3の部分拡大作用説明図である。
【図2】自動車1前部の部分側面図である。
【図3】自動車1前部の部分平面図である。
【符号の説明】
【0042】
1 自動車
2 車体
3 フロントサイドメンバ
5 前輪
6 サスペンションメンバ
7 支持具
8 支持具
9 支持具
24 中途部分
25 変形促進手段
26 ビード
27 薄肉縁部
30 部分
31 離脱促進手段
34 座屈促進手段
A 衝撃力

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体の長手方向に延びる左右一対のフロントサイドメンバと、このフロントサイドメンバの下側に配置されて前輪を懸架するサスペンションメンバと、このサスペンションメンバの各側部をこれに対応する上記フロントサイドメンバに支持させる上記長手方向で3つ以上の支持具とを備えた自動車において、
上記各支持具のうち、中間支持具の近傍における上記フロントサイドメンバの長手方向の中途部分が、自動車の前突時に上記車体に与えられる衝撃力により、上記サスペンションメンバから離れるよう変形することを促進する変形促進手段を設けたことを特徴とする自動車における車体前部の衝撃力緩和構造。
【請求項2】
上記各支持具のうち、後支持具の近傍における上記サスペンションメンバの部分が、上記衝撃力により、上記フロントサイドメンバから離脱することを促進する離脱促進手段を設けたことを特徴とする請求項1に記載の自動車における車体前部の衝撃力緩和構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2007−55340(P2007−55340A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−240790(P2005−240790)
【出願日】平成17年8月23日(2005.8.23)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】