説明

自動車のアクティブシャシのバネ力特性を制御する装置及び方法

本発明は、自動車のアクティブシャシのバネ力特性を制御する装置及び方法であって、作動装置(16i)を制御することによりホイールスプリング装置(15i)のバネ力特性を変更できる、車体と車輪キャリアとの間に配置されたホイールスプリング装置(15i)と、自動車の前方の経路の垂直断面を反映する予測変数(h)を検出するためのセンサ(21)と、ホイールスプリング装置(15i)のバネ力特性が自動車の前方の経路の垂直断面の形状に対して予測的に調節されるように検出された予測変数(h)に基づいて、作動装置(16i)を制御する制御装置(22)を有する装置及び方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のアクティブシャシのバネ力特性を制御する装置及び方法に関する。さらに、本発明は、上記装置が装備される自動車に関する。
【背景技術】
【0002】
アクティブシャシであっても、運転力学と運転快適性との間の葛藤において物理的制限に直面することが知られている。このことは、特に、従来のアクティブシャシが、例えば、凸凹の地面等を走行している場合に発生するような走行に関連する道路励起に対して比較的遅れて反応するだけ、という事実に起因する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
当然ながら、道路励起が自動車又は車体に作用してからでないと、情報は、アクティブシャシのセンサで利用できない(これらのセンサは、例えば、車体の垂直加速度、及び/又は自動車のホイールスプリング装置で生じるバネ行程を感知するために使用される)。その結果、走行で生じた道路励起を補正するための残りの時間が相応して短くなり、主に、道路励起の影響を減衰することが制限される。
【課題を解決するための手段】
【0004】
これらの課題は、予測的に作用するアクティブシャシを使用することによって解決されるか、又は少なくとも著しく軽減させることができる。
【0005】
このために、自動車の走行方向の道路の予想される垂直断面に関する三次元情報が用いられる。道路の垂直断面を評価して前方の障害物を検出することにより、突き上げ衝撃の伝達が可能な限り最小な状態で自動車及び車体が障害物を乗り越えることを保証するように、アクティブシャシのバネ力特性を各種の障害物に予測的に適合させることが可能になる。
【0006】
上記アクティブシャシの制御手順は、連続する複数のステップに分割されることができる。第1のステップでは、前方の障害物が、できるだけ早く感知される。次に、第2のステップでは、障害物の種類が分析されて、障害物の種類に適切な乗り越え方式が選択される。最後に、第3のステップでは、アクティブシャシのバネ力特性を適合させることによって、障害物を乗り越えるための適切な制御が開始される。
【0007】
本発明による装置又は本発明に係る方法の別の利点は、従属項から及び図面の説明から明らかになる。
【0008】
添付図面を参照して、本発明に係る装置及び本発明に係る方法について以下により詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明による装置が装備される自動車が障害物を乗り越えようとしている走行状態を概略的に示した図面である。
【図2】一例として示した本発明による装置の実施形態の図面である。
【図3】本発明による装置によって行われる長期的な方策に基づいて障害物を乗り越える走行状態を概略的に示した図面である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1は、本発明による装置が装備される自動車10が障害物を乗り越えようとしている走行状態を概略的に示している。
【0011】
障害物は、図1a)によれば、例えば、約10センチメートルの高さを有しかつ走行方向において自動車10の前方の約10メートルの距離にあると仮定される段状隆起部11である。自動車10の最大利用可能なバネ行程は隆起部11の高さよりも小さいので、突き上げ衝撃の伝達を認識することなく隆起部11を乗り越えることは不可能である。したがって、図1b)によれば、最大利用可能なバネ行程を長くするために、車体12が隆起部11の前で矢印13の方向に上昇され、この結果、図1c)によれば、隆起部11を快適に乗り越えることが可能である。
【0012】
図2は、図1に関連して、一例として示した本発明による方法を行うための本発明による装置の実施形態を示している。装置14は、車両の個々の車輪に割り当てられかつ自動車10の車体12と車輪キャリアとの間に取付けられる複数のホイールスプリング装置15iを備え、この場合、バネ力特性に対して、最大利用可能なバネ行程を適合させるために、関連する作動装置16iによりホイールスプリング装置15iを調節できる。この場合、ホイールスプリング装置15iは、作動装置16iと同様に、自動車10のアクティブシャシの構成要素である。この場合、本例は四輪自動車10を含むと想定されるので、i=1、...、4である。
【0013】
より正確には、作動装置16iにより、ホイールスプリング装置15iのバネ力の又はバネ力特性の、したがって最終的には、路面に対する車体12の位置の適合が可能になる。さらに、このことにより、障害物を乗り越える前の車体12の上昇又は下降に加えて、道路の凸凹等による比較的小さい道路による励起の補正が可能になる。
【0014】
装置14は、ホイールスプリング装置15iで発生するバネ行程値zを感知するための、及びホイールスプリング装置15iの領域の運動により車体12に作用する垂直加速度値aを感知するための複数のシャシセンサ20も有する。さらに、道路の垂直断面の三次元感知用の予測センサ21は自動車10の走行方向にも存在する。シャシセンサ20と予測センサ21とによって利用可能になるセンサ生データが制御装置22に供給され、この制御装置が、予め規定された制御方式に基づき、前方の道路の垂直断面へのホイールスプリング装置15iのバネ力特性の快適指向の適合を考慮して作動装置16iを制御する。
【0015】
作動装置16iの適切な制御によって、車体12に作用する垂直加速度値a、及び個々のホイールスプリング装置15iで利用可能になるバネ行程値
【数1】

の両方が、従うべき設定値ai,setp=0と
【数2】

を予め規定することにより最小になる。
【0016】
このために、減算要素23において、設定値ai,setp
【数3】

が、シャシセンサ20によって検出される対応する実際値a
【数4】

と比較されている間に、差形成工程ai,setp、−a
【数5】

が行われる。それに続いて、このように形成される差が制御部24に供給され、この制御部が、車体12のホイールスプリング装置15iの領域で生じる対応する力Fdisr、及び/又はホイールスプリング装置15iで生じる対応するバネ行程値zdisrとして表される走行で生じた道路励起の低減を考慮して、作動装置16iを制御する。制御回路における、走行によって外部から作用する伝達された突き上げ衝撃Fdisrとzdisrの影響は、本図で加算要素25によって示されている。
【0017】
本例において、自動車10には、その前方の道路の垂直断面に関する三次元情報を得るために自動車10の前輪の前方領域の車線を各々感知する合計2つの予測センサ21が装備される。例えば、2つの予測センサ21はレーザスキャナであるが、画像生成レーダシステム及び/又はCCDカメラを使用することもできる。レーザスキャナは、パルス赤外線により動作し、自動車10の左側前輪及び右側前輪の前方の経路を点状に走査する。制御装置22によって行われるリアルタイム調整30の範囲内で予測変数hを検出するために、センサ生データがインターフェースを介して制御装置22に伝達され、そこで評価される。
【0018】
予測変数hは、自動車10の走行方向前方の経路の垂直断面の三次元図を提供し、パイロット制御工程31の範囲内で、対応するパイロット制御変数sを得ることによって作動装置16iを制御するために用いられる。
【0019】
それに続いて、制御部24と作動装置16iとの間に取付けられる加算要素32によって、パイロット制御変数sが入力される。
【0020】
対応する縦揺れ運動、横揺れ運動及び/又は往復運動として表される車体12の走行で生じた運動のために、予測センサ21によって利用可能になるデータがシャシセンサ20のデータに合わせられることにより、リアルタイム調整30の範囲内で、予測センサ21によって利用可能になるデータが補正される。したがって、上記シャシセンサは、路面に対して発生する車体12の縦揺れ運動、横揺れ運動及び/又は往復運動に関する直接的な情報を提供する。
【0021】
より正確には、制御装置22は、走行中の路面に対する車体12の現在の運動状態を表す状態変数ζに基づいて予測変数hを計算し、状態変数ζは、車体の長手方向軸線に対する車体12の縦揺れ運動を表す縦揺れ角変数、及び/又は車体の横方向軸線に対する車体12の横揺れ運動を表す横揺れ角変数、及び/又は車体の垂直軸線に対する車体12の往復運動を表す往復運動変数の関数である。
【0022】
データの品質を向上させるために、リアルタイム調整30の間の状態変数ζの計算中、連続的に感知されて記憶される道路の複数の垂直断面が重畳される。この場合、予測センサ21によって利用可能になるセンサ生データの統計的平均を行うこともできるので、予測変数hの品質を向上させることができる。
【0023】
予測センサ21を使用することによって、道路の予想された垂直断面に関する三次元情報が、自動車10の前方の数メートルの距離で既に利用可能になっている。したがって、障害物が道路上で検出された直後に、作動装置16iを制御することによって、適切な対策を開始することが可能である。作動装置16iの機械的慣性、及びセンサ生データの調整又は処理による可能な遅延はもはや重要ではない。このように実施される補正方式は、数メートルの比較的短い予測範囲のみを必要とする。
【0024】
さらに、自動車10の前方の比較的長い距離において道路の垂直断面を認識するのであれば、アクティブシャシの早期の予備調整を行うことを可能にする長期的な方策を実施することが可能である。
【0025】
このような長期的な方策の実施は図3に示されており、図3a)によれば、隆起部11が感知された後、それを乗り越えた場合に予想される突き上げ衝撃の伝達を最小にするために、車体12の理想的な運動順序がここで検出される。この場合、図3b)によれば、隆起部11に到達する直前に、作動装置16iを適切に制御することによって車両のそれぞれの車輪が矢印35の方向に上昇され、この結果、図3c)によれば、引き続き、突き上げ衝撃の伝達が著しく低減された状態で隆起部11を乗り越えることが可能になる。
【0026】
最終的には、道路状態と、検出された予測変数hの結果として得られた予測範囲とに応じて、2つの方式のいずれかが用いられる。
【0027】
パイロット制御部31が存在することにより、制御部24との対立が生じることがあるが、この理由は、パイロット制御部31と制御部24とが本質的に互いを全く認識せず、制御部24が、作動装置16iへのパイロット制御部31の介入を、走行による外部からの突き上げ衝撃の伝達であると誤って解釈し、それに応じて作動装置16iを制御することにより、突き上げ衝撃の伝達を補正しようとするからである。
【0028】
このような対立を回避するために、パイロット制御部31は、状態変数ζ、及び/又は時間経過に伴う状態変数の変化ζ’とζ”を評価することにより、フィードバックループ34を用いて供給されかつ制御部24の現在の又は予想される動作、したがって最終的には、車体12の現在の及び/又は予想される運動状態に関する情報を考慮する。
【0029】
パイロット制御部31が、例えば、センサ20又は21の1つ以上の故障による道路の感知された垂直断面に関するあり得ない情報により、エラーを検出した場合、パイロット制御部31によって利用可能になるパイロット制御変数hが無視される。この場合、アクティブシャシは、予測なしに動作し、従来のアクティブシャシから周知の最低限の走行快適性が維持されることを保証する。
【0030】
このために、道路の感知された垂直断面に基づくデータの品質の評価から得られる品質係数gは、乗数要素35によってパイロット制御変数hと論理的に組み合わされる。センサ20又は21の1つ以上の故障により、診断品質が悪影響を受けた場合、品質係数gは0に等しく設定される。他方、データの品質が悪影響を受けなかった場合、品質係数gは1に等しく設定される。特に、品質係数gは、データの品質によって増加する0〜1の範囲の値を有することもできる。
【図1a)】

【図1b)】

【図1c)】

【図3a)】

【図3b)】

【図3c)】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車のアクティブシャシのバネ力特性を制御する装置であって、
自動車(10)の車体(12)と車輪キャリアとの間に取付けられるホイールスプリング装置(15i)であって、作動装置(16i)を制御することにより該ホイールスプリング装置(15i)のバネ力特性を変更できるホイールスプリング装置(15i)と、
自動車(10)の走行方向前方の経路の垂直断面を表す予測変数(h)を検出するためのセンサ(21)と、
前記ホイールスプリング装置(15i)のバネ力特性が、自動車(10)の走行方向前方の経路の感知された垂直断面の形状に適合されるように、検出された前記予測変数(h)に基づいて前記作動装置(16i)を制御する制御装置(22)と、
を有する装置。
【請求項2】
前記ホイールスプリング装置(15i)で利用可能なバネ行程が、前記バネ力特性を適合させることにより、感知された垂直断面の前記形状に従って変更されることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記センサ(21)が、前記垂直断面を感知するためのレーザスキャナであることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項4】
2つのレーザスキャナが前記自動車(10)の前方領域を的確に検知するように取付けられることを特徴とする請求項3に記載の装置。
【請求項5】
前記センサ(21)が画像生成レーダシステム又はCCDカメラであることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項6】
検出された前記予測変数(h)が、感知された垂直断面の三次元図を提供することを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項7】
前記制御装置(22)が、時間的に連続して感知された垂直断面を重畳することによって前記予測変数(h)を検出することを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項8】
前記制御装置(22)が、検出された予測変数(h)に基づいて、感知された垂直断面に適合される前記作動装置(16i)を制御する方策を選択することを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項9】
前記方策が、前記予測変数(h)が基づく予測範囲に基づいて選択されることを特徴とする請求項8に記載の装置。
【請求項10】
前記制御装置(22)が、走行中の路面に対する車体(12)の現在の運動状態を表す計算された状態変数(ζ)に基づいて、前記予測変数(h)を検出することを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項11】
前記制御装置(22)が、時間的に連続して感知された垂直断面の比較に基づいて前記状態変数(ζ)を計算することを特徴とする請求項10に記載の装置。
【請求項12】
前記状態変数(ζ)が、長手方向軸線に対する車体(12)の縦揺れ運動を表す縦揺れ角変数、及び/又は横方向軸線に対する前記車体(12)の横揺れ運動を表す横揺れ角変数、及び/又は垂直軸線に対する前記車体(12)の往復運動を表す往復運動変数の関数であることを特徴とする請求項10に記載の装置。
【請求項13】
前記制御装置(22)が、前記作動装置(16i)を制御するために、前記予測変数(h)に依存するパイロット制御変数(s)を検出することを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項14】
前記制御装置(22)が、前記予測変数(h)のデータの品質に基づいて前記パイロット制御変数(s)を変更することを特徴とする請求項13に記載の装置。
【請求項15】
前記制御装置(22)が、前記パイロット制御変数(s)と、前記予測変数(h)のデータの品質に依存する品質係数(g)とを乗算することを特徴とする請求項14に記載の装置。
【請求項16】
前記品質係数(g)が、前記データの品質によって増加する0〜1の範囲の値を有することを特徴とする請求項15に記載の装置。
【請求項17】
前記車体(12)の現在の運動状態に基づいて前記作動装置(16i)を制御し、かつ前記車体(12)の現在の及び/又は予想される運動状態を考慮しつつ前記作動装置(16i)で前記パイロット制御変数(s)を調節する制御装置(22)と相互作用する制御部(24)が設けられることを特徴とする請求項13に記載の装置。
【請求項18】
自動車のアクティブシャシのバネ力特性を制御する方法であって、自動車(10)の走行方向前方の経路の垂直断面を検出する予測変数(h)が検出され、自動車(10)の車体(12)と車輪キャリアとの間に取付けられた前記アクティブシャシのホイールスプリング装置(15i)のバネ力特性が、検出された予測変数(h)に基づいて、自動車(10)の走行方向前方の経路の感知された垂直断面の形状に適合される方法。
【請求項19】
請求項1〜17のいずれか一項に記載の装置を備えることを特徴とする自動車。

【図2】
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【公表番号】特表2010−501387(P2010−501387A)
【公表日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−524920(P2009−524920)
【出願日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際出願番号】PCT/EP2007/006843
【国際公開番号】WO2008/022696
【国際公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【出願人】(598051819)ダイムラー・アクチェンゲゼルシャフト (1,147)
【氏名又は名称原語表記】Daimler AG
【住所又は居所原語表記】Mercedesstrasse 137,70327 Stuttgart,Deutschland
【Fターム(参考)】