説明

自動車のカウルグリル構造

【課題】歩行者保護性能を向上でき、しかもエンジンや排気管からの熱によるカウルグリル前部の変形を防止できる自動車のカウルグリル構造を提供する。
【解決手段】ボンネット19の後縁部に沿って配置される上部支持部29とカウルフロントパネル18上に載置される下部支持部30とが、前部に上下に略水平に形成されたカウルグリル20を有する自動車のカウルグリル構造であって、カウルグリル20のエンジンルーム12側における熱負荷の大きい部分に、カウルグリル20の上部支持部29と下部支持部30とにわたって遮熱板60を設け、遮熱板60の下部をカウルグリル20の下部支持部30にファスナ69で連結し、遮熱板60の下部支持部30に対する下方への相対移動に対して、遮熱板60と下部支持部30との連結強度を弱くする第1弱部66を形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歩行者保護性能に優れた自動車のカウルグリル構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のカウルグリル構造について説明すると、エンジンルームと車室とを区画するダッシュパネルが車幅方向の略全幅にわたって設けられ、ダッシュパネルの上部の前側には、ダッシュパネルの上部とカウルアッパパネルとカウルロアパネルとからなるカウルが車幅方向の略全幅にわたって設けられ、カウルロアパネルの前端部には前方へ延びるカウルフロントパネルが設けられている。カウルフロントパネルの上側にはカウルグリルが設けられ、カウルグリルは、フロントウィンドシールドとボンネット間の下側にわたって設けられ、カウルグリルの後縁部はフロントウィンドシールドの前縁部に圧接され、カウルグリルの前縁部はカウルフロントパネルの前縁部に固定支持され、カウルグリルの前縁部の上側にはシールラバーが設けられ、このシールラバーがボンネットの下面に圧接されることで、エンジンルーム内への雨水等の浸入が防止されている。また、フロントウィンドシールドを流下するなどしてカウルグリル上に流れ込んだ雨水等は、カウルグリルのグリル部からカウル内へ導入され、カウルの両側に設けた排水孔から外部へ排出されるように構成されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
ところで、カウル内にはカウルグリルのグリル部から空調エアが導入されるが、空調装置内への水の吸い込みを極力防止するため、カウルグリルの下側に排水樋をカウルパネルの縦壁部に固定して設け、グリル部等からカウル内に侵入した水が排水樋を介して効率的に排出されるように構成したものも提案され、実用化されている(例えば、特許文献2参照。)。
【0004】
一方、歩行者に対する保護性能を高めるため、車幅方向に延びるカウルグリルを、フロントウィンドの前縁部の上側からボンネットの後縁部の下方にわたって延びるカウルグリル上部と、カウルグリル上部の前縁部から下側へ延びるカウルグリル前部とに分割構成し、前記カウルグリル前部に、上方からの荷重に対する弱部を形成した衝撃吸収構造も提案され、実用化されている(例えば、特許文献3参照。)。この衝撃吸収構造では、衝突時において歩行者がボンネットに乗り上がってボンネットが下側へ変形し、カウルグリル前部に下方への荷重が作用したときに、カウルグリル前部が弱部を中心に破断若しくは変形して、ボンネットの変形が促進され、ボンネットからの衝撃が緩和されることによって、歩行者保護性能が高くなるように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−149165号公報
【特許文献2】特開2007−326385号公報
【特許文献3】特開2004−262290号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、カウルグリルは、その前部がエンジンや排気管からの熱気により変形しないように、耐熱性を有する合成樹脂材料で構成しているが、一般に耐熱性を有する合成樹脂材料はて剛性もそれに応じて高くなることから、カウルグリルが変形し難くなって歩行者保護性能が低下するという問題があった。
【0007】
一方、歩行者保護性能を高めるため、カウルグリルを薄肉に構成して、カウルグリル前部の変形を促進するように構成することも考えられるが、カウルグリルを薄肉に構成すると、カウルグリルを車体に組付けるため、作業者がエンジンルーム側からカウルグリルを手で支持しながら、カウル上方の所定位置へ押し込んで組付ける際に、カウルグリルが弾性変形して、カウルグリルの組付性が低下するという問題がある。
【0008】
本発明の目的は、歩行者保護性能を向上でき、しかもエンジンや排気管からの熱によるカウルグリル前部の変形を防止できる自動車のカウルグリル構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る自動車のカウルグリル構造は、フロントウィンドの前縁部からボンネットの後縁部の下方にわたって設けられるとともに、車幅方向の全幅にわたって設けられ、前部にボンネットの後縁部に沿って配置される上部支持部とクロスメンバ上に載置される下部支持部とが上下に略水平に形成されたカウルグリルを有する自動車のカウルグリル構造であって、前記カウルグリルのエンジンルーム側における熱負荷の大きい部分に、カウルグリルの上部支持部と下部支持部とにわたって遮熱板を設け、前記遮熱板の下部をカウルグリルの下部支持部に第1連結具で連結し、前記遮熱板の下部支持部に対する下方への相対移動に対して、前記遮熱板と下部支持部との連結強度を弱くする第1弱部を形成したものである。
【0010】
このカウルグリル構造では、カウルグリルの下部支持部と上部支持部とにわたって遮熱板を設けているので、カウルグリルの素材として耐熱性のやや低いものを採用しつつ、エンジンや排気管からの熱により、エンジンルーム内に露出するカウルグリル前部が熱変形することを防止できる。そして、このようにカウルグリルの素材として耐熱性がやや低く、剛性のやや低いものを採用することで、衝突時において歩行者がボンネットに乗り上がってボンネットが下側へ変形したときにおける、カウルグリル前部の変形を促進することで、歩行者への衝撃を少なくして、歩行者保護性能を向上できる。しかも、遮熱板の下部をカウルグリルの下部支持部に第1連結具で連結し、遮熱板の下部支持部に対する下方への相対移動に対して、遮熱板と下部支持部との連結強度を弱くする第1弱部を形成しているので、遮熱板を設けた位置においても、第1弱部を介して遮熱板が下部支持部から離脱することで、カウルグリル前部の下方への変形が遮熱板により阻害されるという不具合を防止して、歩行者との衝突時におけるカウルグリル前部の下方への変形を良好に維持し、歩行者保護性能の低下を防止できる。
【0011】
ここで、前記下部支持部に下方へ延びるフランジ部を形成し、該フランジ部に第1連結具を取付けるための第1取付孔を設けるとともに、前記第1弱部として、前記下部支持部のフランジ部に前記第1取付孔から下方へ延びるスリットを形成することが好ましい実施の形態である。この場合には、遮熱板に対して下方への荷重が作用したときに、遮熱板が第1連結具とともに下部支持部のフランジ部に対して相対的に下方へ移動して、第1連結具が第1弱部としてのスリットを通って第1取付孔から脱落し、遮熱板と下部支持部との連結を解除することで、カウルグリル前部の下方への変形を促進して、歩行者保護性能を向上できる。
【0012】
前記カウルグリルの後部の下側に車幅方向に延びる排水樋を固定し、前記排水樋にカウルグリルの下面に沿って前方へ延びる補強アームを設け、前記補強アームの前部をカウルグリルに第2連結具で連結し、前記補強アームに対するカウルグリルの下方への相対移動に対して、前記第2連結具による補強アームとカウルグリルとの連結強度を弱くする第2弱部を形成することも好ましい実施の形態である。このカウルグリル構造では、カウルグリルの後部の下側に排水樋が固定されて、カウルグリル後部の強度剛性が高められるので、車体に対するカウルグリルの組付強度を十分に確保しつつ、カウルグリルの肉厚を極力
薄くして、カウルグリル前部の変形を促進でき、衝突時において歩行者がボンネットに乗り上がってボンネットが下側へ変形したときに、カウルグリル前部の変形を促進することで、歩行者への衝撃を少なくして、歩行者保護性能を向上できる。しかも、排水樋から前方へ延びる補強アームを設けて、該補強アームの前部をカウルグリルに固定しているので、補強アームを設けた位置におけるカウルグリル前部の強度剛性、特に前後方向への強度剛性を高めることができるので、カウルグリルを極力薄肉に構成して、歩行者保護性能を十分に確保しつつ、作業者がカウルグリルを手で保持して後方へ押し込んで、カウルグリルを車体に組み付けるときに、カウルグリルが撓んだり変形したりすることを防止でき、カウルグリルの車体への組付性を向上できる。また、第2連結具による補強アームとカウルグリルとの連結強度が弱くなるように第2弱部を形成しているので、補強アームを設けた位置においても、第2弱部を介して補強アームに対するカウルグリル前部の下方への相対移動を促進でき、歩行者との衝突時におけるカウルグリル前部の下方への変形を促進して、歩行者保護性能を向上できる。
【0013】
前記補強アームを車幅方向に間隔をあけて、前記排水樋に複数設けることが好ましい実施の形態である。具体的には、作業者によるカウルグリルの保持位置に対応させて補強アームを形成することで、カウルグリルの組付け時におけるカウルグリルの変形を防止して、車体に対するカウルグリルの組付性を向上できる。
【0014】
前記カウルグリルに、頂部が車幅方向に延びる山形断面の隆起部を設け、前記隆起部の前側の斜面に前記補強アームを連結するとともに、前記第2弱部として、前記補強アームにおける第2連結具の第2取付孔から前方へ延びるスリットと、前記前側の斜面における第2連結具の第2取付孔から後方へ延びるスリットの少なくとも一方を形成することも好ましい実施の形態である。歩行者との衝突時には、ボンネットが下側へ移動して、ボンネットの下面で隆起部が下側へ押され、山形断面の隆起部が平坦な断面形状になるように変形し、カウルグリル前部が補強アームに対して相対的に前方へ移動する。本発明では、補強アームと前側の斜面に形成したスリットからなる弱部により、第2連結具がスリットからなる第2弱部に沿って移動し易くなるので、カウルグリル前部と補強アームとの相対移動を促進して、補強アームを設けることによりカウルグリル前部の下方への変形が阻害されることを防止できる。
【0015】
前記カウルグリルを車幅方向の途中部で接続可能な複数のカウルグリル分割体に分割構成することもできる。このように、カウルグリルを分割構成することで、カウルグリルの成形性を向上できるとともに、カウルグリルの輸送性や保管性を向上できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る自動車のカウルグリル構造によれば、カウルグリルの下部支持部と上部支持部とにわたって遮熱板を設けているので、カウルグリルの素材として耐熱性のやや低いものを採用しつつ、エンジンや排気管からの熱により、エンジンルーム内に露出するカウルグリル前部が熱変形することを防止できる。そして、このようにカウルグリルの素材として耐熱性がやや低く、剛性のやや低いものを採用することで、衝突時において歩行者がボンネットに乗り上がってボンネットが下側へ変形したときにおける、カウルグリル前部の変形を促進することで、歩行者への衝撃を少なくして、歩行者保護性能を向上できる。しかも、遮熱板の下部をカウルグリルの下部支持部に第1連結具で連結し、遮熱板の下部支持部に対する下方への相対移動に対して、遮熱板と下部支持部との連結強度を弱くする第1弱部を形成しているので、遮熱板を設けた位置においても、第1弱部を介して遮熱板が下部支持部から離脱することで、カウルグリル前部の下方への変形が遮熱板により阻害されるという不具合を防止して、歩行者との衝突時におけるカウルグリル前部の下方への変形を良好に維持し、歩行者保護性能の低下を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】遮熱板を組付けた状態でのカウルグリルの斜視図
【図2】遮熱板を取り外した状態でのカウルグリルの斜視図
【図3】図1におけるIII-III線でのカウルグリル及びその付近の車体の縦断面図
【図4】図1におけるIV-IV線でのカウルグリル及びその付近の車体の縦断面図
【図5】カウルグリルの平面図
【図6】カウルグリルの底面図
【図7】排水樋を取り外した状態でのカウルグリルの底面図
【図8】排水樋の連結部の斜視図
【図9】排水樋の連結部の分解斜視図
【図10】遮熱板の斜視図
【図11】遮熱板の正面図
【図12】遮熱板の取付構造を示す説明図
【図13】衝突時におけるカウルグリルの作動説明図
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。尚、本実施形態では、自動車の前後左右を基準に前後左右を定義して説明する。
【0019】
図3、図4に示すように、カウルグリル20付近の車体構造について説明すると、車室11の前側にはエンジンルーム12と車室11とを区画するダッシュパネル13が車幅方向の略全幅にわたって設けられ、ダッシュパネル13の上部の前側には、ダッシュパネル13の上部とカウルアッパパネル14とカウルロアパネル15とからなる閉断面状のカウル16が車幅方向の略全幅にわたって設けられ、フロントウィンドシールド17の前端縁はカウルアッパパネル14に固定設置されている。カウルロアパネル15の前端部には前方へ延びるカウルフロントパネル18が設けられ、カウルフロントパネル18(クロスメンバ)の上方にはフロントウィンドシールド17の前縁部の上側からボンネット19の後縁部の下方にわたって延びるカウルグリル20が配置され、カウルグリル20の下側には排水樋40が着脱可能に取り付けられ、カウルグリル20の前側の車幅方向の中央部にはエンジンや排気管からの熱によるカウルグリル前部22の変形を防止するための遮熱板60が設けられている。ただし、本発明は、排水樋40を省略したカウルグリル20に対しても同様に適用できる。また、車体構造は図示した以外の既存の構造を採用することも可能である。
【0020】
図1〜図7に示すように、カウルグリル20は、耐熱性及び剛性のやや低い素材、例えばポリプロピレンなどの合成樹脂材料で構成されており、フロントウィンドシールド17の前縁部の上側からボンネット19の後縁部の下方にわたって車幅方向に延びるカウルグリル上部21と、カウルグリル上部21の前縁部に設けた前方へ向けて開口する断面横向き略U字状のカウルグリル前部22とを有している。カウルグリル20は、車幅方向の略中央部において接続可能な2つのカウルグリル分割体20L、20Rに分割構成されており、両カウルグリル分割体20L、20Rは、合成樹脂製の一体成形品で構成されている。ただし、本実施の形態では、2つに分割構成したカウルグリル20に対して本発明を適用したが、分割構成していないカウルグリルに対しても本発明を適用できるし、3分割以上に分割構成したカウルグリルに対しても本発明を適用できる。
【0021】
カウルグリル上部21の前後方向の中央部には車幅方向に延びる山形断面の隆起部23が形成され、隆起部23は前方下がりの前部傾斜壁23aと後方下がりの後部傾斜壁23bとで倒立V字状に形成され、隆起部23の頂部はボンネット19の後縁部よりもやや前側に配置されている。カウルグリル上部21の後部にはフロントウィンドシールド17の上側に沿って配置される案内傾斜部24が形成され、隆起部23の後部傾斜壁23bと案
内傾斜部24とで車幅方向に延びる後側溝部25が形成され、フロントウィンドシールド17に沿って流下する雨水等は、後側溝部25に流入して、隆起部23によりエンジンルーム12側への移動が抑制され、後側溝部25の底部に設けた排水孔26を通じて排水樋40内へ導入されて、排水樋40の適所からカウル16内に導入され、カウル16の両端部から外部へ排出される。
【0022】
図1、図2、図5に示すように、前後の傾斜壁23a、23bには多数の貫通孔を形成してなる複数のグリル部27が形成され、このグリル部27を通じてカウル16内に空調装置のための外気が導入される。なお、雨水の一部はグリル部27を通ってカウル16内に導入され、カウル16の両端部から外部へ排出されるが、雨水の大部分は前述のように排水樋40を経てカウル16内に導入されるので、空調装置への雨水等の侵入を効果的に防止できる。
【0023】
カウルグリル前部22は、図3、図4に示すように、カウルグリル上部21の前縁部に接続された後方下がりの傾斜状の前壁部28と、前壁部28の上端部から前方へ略水平に延びる上部支持部29と、前壁部28の下端部から前方へ略水平に延びる下部支持部30とを有し、前方へ向けて開口する断面横向き略U字状に形成され、車幅方向の全幅にわたって設けられている。前壁部28の上部と隆起部23の前部傾斜壁23aとで前側溝部31が車幅方向に形成され、隆起部23を乗り越えて前側溝部31に流入した雨水等は、前側溝部31の両端部からカウル16内に導入される。
【0024】
上部支持部29の上面にはシール部材33が取付けられ、ボンネット19の裏面側に取付けたボンネットレインフォースメント34が、ボンネット19を閉じた状態で、このシール部材33に圧接されて、エンジンルーム12内への雨水等の浸入が防止されるように構成されている。下部支持部30はカウルフロントパネル18上に固定され、カウルグリル20の組付時には、作業者がカウルグリル20を手で支持しながら、エンジンルーム12側からカウルグリル20をカウル16側へ押し込んで、カウルグリル上部21の後縁部をフロントウィンドシールド17の前縁部上に載置するとともに、下部支持部30をカウルフロントパネル18上に載置して、カウルグリル20を車体に組み付けることになる。
【0025】
左右のカウルグリル分割体20L、20Rの後部の下側には車幅方向に延びる左右の排水樋40L、40Rが設けられ、左側の排水樋40Lは、左右方向に延びる断面U字状の本体部41Lと、本体部41Lに相互に間隔をあけて形成したカウルグリル分割体20Lのカウルグリル上部21に沿って前方へ延びる3つの補強アーム42Lとを有し、合成樹脂製の一体成形品で構成され、右側の排水樋40Rは、左右方向に延びる断面U字状の本体部41Rと、本体部41Rに相互に間隔をあけて形成したカウルグリル分割体20Rのカウルグリル上部21に沿って前方へ延びる2つの補強アーム42Rとを有し、合成樹脂製の一体成形品で構成されている。
【0026】
左右のカウルグリル分割体20L、20Rに対する左右の排水樋40L、40Rの取付構造について説明すると、左側の排水樋40Lの本体部41Lにはカウルグリル上部21側へ突出する3つの取付台43が相互に間隔をあけて形成され、各取付台43の上面にはカウルグリル上部21への取付孔44が設けられている。各補強アーム42Lにはカウルグリル上部21への第2取付孔45が形成されるとともに、該第2取付孔45から前方へ延びるスリットからなる第2弱部46が形成されている。右側の排水樋40Rの本体部41Rにはカウルグリル上部21に沿った4つの取付部47が相互に間隔をあけて形成され、各取付部47にはカウルグリル上部21への取付孔44が設けられている。各補強アーム42Rにはカウルグリル上部21への第2取付孔45が形成されるとともに、該第2取付孔45から前方へ延びるスリットからなる第2弱部46が形成されている。
【0027】
カウルグリル上部21の底面側には、円筒状の筒部50aと筒部50aと同じ高さの4枚のフィン50bとからなる取付部50が取付孔44、45に対応させて形成される。排水樋40を固定するための第2連結具53は排水樋40の板厚と略同じ長さの軸部53aを有する段付ネジで構成され、取付孔44、45は第2連結具53の軸部53aよりも大径で且つ第2連結具53の頭部53bよりも小径のバカ孔で構成され、取付孔44、45に第2連結具53を挿通させて、第2連結具53を筒部50aに締結した状態で、第2連結具53の頭部53bとフィン50b間に取付孔44、45の周縁部が保持されて、排水樋40がカウルグリル20に取り付けられるように構成されている。なお、カウルグリル20に対する排水樋40の位置決めは、排水樋40に形成した位置決め孔54にカウルグリル20に形成した位置決めピン55を嵌合させることでなされ、取付孔44、45をバカ孔とすることで、カウルグリル20と排水樋40の成形精度のバラツキを吸収できるように構成されている。
【0028】
本体部41L、41Rは隆起部23の後部傾斜壁23bの基部または案内傾斜部24の前部に固定され、補強アーム42L、42Rは隆起部23の前部傾斜壁23aの前部側に固定されており、図13に示すように、衝突によりボンネット19に対して下方への荷重が作用したときに、山形断面の隆起部23が平坦な断面形状に変形して、筒部50aが補強アーム42L、42Rに対して相対的に前方へ移動できるように構成されている。
【0029】
カウルグリル前部22の前側のうちのエンジンや排気管からの熱負荷が大きく、カウルグリル前部22が熱変形する可能性のある部位に対応させて、車幅方向に延びる耐熱製樹脂からなる遮熱板60が設けられている。具体的には、図1、図2に示すように、カウルグリル前部22の車幅方向の中央部の前側に、上部支持部29と下部支持部30とにわたって遮熱板60が設けられている。つまり、本発明では、歩行者保護性能を高めるためカウルグリル20の素材として剛性のやや低い合成樹脂材料を採用しており、このような合成樹脂材料は耐熱性もやや低く、エンジンや排気管からの輻射熱によりカウルグリル前部22が熱変形することが懸念されるので、エンジンや排気管からの熱負荷の高くなる箇所にのみ遮熱板60を設けることになる。ただし、遮熱板60の車幅方向の長さは、重量軽減や材料コストを低減するため、極力短く設定することが好ましいが、任意に設定可能で、車幅方向の全長にわたって設けることも可能である。
【0030】
遮熱板60の取付構造について説明すると、図3、図4、図10〜図12に示すように、遮熱板60の上端部には後方へ略水平に延びる上部フランジ61と、前方斜め上側へ延びる係止突部62が形成され、上部フランジ61の上面には前後方向に延びる案内突起63が車幅方向に間隔をあけて上方へ突出状に形成されている。遮熱板60は、上部フランジ61の案内突起63がカウルグリル前部22の上部支持部29の下面に圧接するように組み付けられるとともに、係止突部62が上部支持部29の前端部に略隙間なく当接するように組み付けられている。なお、上部フランジ61は、上部支持部29に対して相対的に下方へ移動できるように、上部支持部29の下面に圧接保持されており、ビスやファスナ等では機械的に結合しないように構成されている。
【0031】
下部支持部30の前端部における車幅方向の中央部には下方へ延びる3つの下部フランジ64が車幅方向に間隔をあけて形成され、下部フランジ64の高さ方向の途中部には第1取付孔65が形成され、下部フランジ64には第1取付孔65から下方へ延びるスリットからなる第1弱部66が形成されている。遮熱板60には中央部の下部フランジ64に対応させて挿通孔67が形成され、両側の下部フランジ64に対応させて後方へ突出する第1連結具としてのフック部68が形成されている。そして、遮熱板60を組付ける際には、図4に仮想線で示すように、フック部68を両側の下部フランジ64の第1取付孔65に引っ掛けた状態で、フック部68を中心に遮熱板60の上部を後方へ回動させて、遮熱板60の上部フランジ61をカウルグリル前部22の上部支持部29の下側に嵌合させ
、この状態で中央部の下部フランジ64の第1取付孔65に第1連結具としてのファスナ69を取り付けることで、カウルグリル前部22の前側に脱落しないように取り付けられている。ただし、第1連結具としてのフック部68やファスナ69の個数や配設位置は任意に設定できる。また、第1連結具としては、フック部68やファスナ69以外の構成のものを採用することも可能である。
【0032】
この遮熱板60の取付構造では、図13に示すように、衝突によりボンネット19に対して下方への荷重が作用したときに、上部支持部29がボンネットレインフォースメント34で下方へ押されて下側へ変形するが、このとき上部支持部29とともに遮熱板60が下方へ移動することで、フック部68及びファスナ69がスリットからなる第1弱部66を通って、比較的容易に第1取付孔65から下側へ脱落するように構成されている。
【0033】
このカウルグリル構造では、カウルグリル20の下部支持部30と上部支持部29とにわたって遮熱板60を設けているので、カウルグリル20の素材として耐熱性のやや低いものを採用しつつ、エンジンや排気管からの熱により、エンジンルーム12内に露出するカウルグリル前部22が熱変形することを防止できる。そして、このようにカウルグリル20の素材として耐熱性がやや低く、剛性のやや低いものを採用することで、衝突時において歩行者がボンネット19に乗り上がってボンネット19が下側へ変形したときにおける、カウルグリル前部22の変形を促進することで、歩行者への衝撃を少なくして、歩行者保護性能を向上できる。しかも、遮熱板60の下部をカウルグリル20の下部支持部30に第1連結具としてのフック部68やファスナ69で連結し、遮熱板60の下部支持部30に対する下方への相対移動に対して、遮熱板60と下部支持部と30の連結強度を弱くする第1弱部66を形成しているので、遮熱板60を設けた位置においても、第1弱部66を介して遮熱板60が下部支持部30から離脱することで、カウルグリル前部22の下方への変形が遮熱板60により阻害されるという不具合を防止して、歩行者との衝突時におけるカウルグリル前部22の下方への変形を良好に維持し、歩行者保護性能の低下を防止できる。つまり、カウルグリル前部22の上部支持部29が下側へ変形すると、図13に矢印Cで示すように、上部支持部29で押圧されて遮熱板60が下側へ移動し、フック部68及びファスナ69が、スリットからなる第1弱部66を通って、第1取付孔65から下方へ比較的容易に脱落するので、遮熱板60が、上部支持部29の下側への変形を阻害することを防止して、遮熱板60を設けることによる歩行者保護性能の低下を防止することができる。
【0034】
また、カウルグリル20の後部の下側に排水樋40が固定されて、カウルグリル20の後部の強度剛性が高められ、しかも排水樋40から前方へ延びる補強アーム42L、42Rを設けた位置におけるカウルグリル前部22の強度剛性、特に後方への強度剛性を高めることができるので、カウルグリル20を極力薄肉に構成しつつ、作業者がカウルグリル20を車体に組み付けるため、手でカウルグリル20を保持して後方へ押し込むときに、カウルグリル20が撓んだり変形したりすることを防止でき、カウルグリル20の車体への組付性を向上できる。また、このようにカウルグリル20の強度剛性を高めることにより、車体への組付性を十分に確保しつつ、カウルグリル20を極力薄肉に構成できるので、衝突時において歩行者がボンネット19に乗り上がってボンネット19が下側へ変形したときにおける、カウルグリル前部22の変形を促進することが可能となり、歩行者への衝撃を少なくして、歩行者保護性能を向上できる。
【0035】
更に、衝突時におけるカウルグリル前部22の下方への変形時に、補強アーム42L、42Rとカウルグリル前部22との結合が比較的容易に解除されるように、補強アーム42L、42Rに第2弱部46を形成しているので、カウルグリル前部22の下方への変形が、補強アーム42L、42Rにより阻害されることを防止して、補強アーム42L、42Rを設けることによる、歩行者保護性能の低下を防止できる。
【0036】
つまり、前述のように排水樋40に補強アーム42L、42Rを設けることで、カウルグリル前部22の強度剛性が高められるが、排水樋40の本体部41L、41Rをカウルグリル上部21の隆起部23の後部傾斜壁23bの基部に固定し、排水樋40の補強アーム42L、42Rをカウルグリル上部21の隆起部23の前部傾斜壁23aの前部側に固定することで、図13に示すように、ボンネット19に対して下方への荷重が作用して、カウルグリル前部22の上部支持部29が下側へ押されて、矢印Aで示すように、カウルグリル前部22の前壁部28が前側へ倒れ込んで、矢印Bで示すように、カウルグリル上部21の前縁部が前側へ引っ張られたときに、山形断面の隆起部23が平坦な断面形状に変形しようとして、取付部50が補強アーム42L、42Rに対して相対的に前方へ移動する。そして、このように取付部50が補強アーム42L、42Rに対して相対的に前方へ移動することで、スリットからなる第2弱部46に沿って第2連結具53が補強アーム42L、42Rに対して前方へ相対移動し、第2連結具53が補強アーム42L、42Rから比較的容易に脱落し、カウルグリル前部22の下方への変形が促進されるので、補強アーム42L、42Rを設けることによる歩行者保護性能の低下を防止することができる。
【0037】
なお、本実施の形態では、第1弱部66としてスリットを形成したが、上部支持部29に対して下方への荷重が作用して、遮熱板60が上部支持部29とともに下方へ移動したときに、第1連結具としてのフック部68及びファスナ69が、第1弱部66を通って、第1取付孔65から下方へ比較的容易に脱落するような構成であれば、スリットに代えてミシン目や薄肉部からなる第1弱部を形成することも可能である。また、第1弱部66を省略するとともに、第1連結具としてのフック部68やファスナ69に切り込みなどからなる弱部を形成して、遮熱板60が上部支持部29とともに下方へ移動したときに、該弱部が破断して遮熱板60が下部支持部30から脱落するように構成してもよい。
【0038】
また、カウルグリル20側に筒部50a及びフィン50bを形成し、排水樋40側に第2取付孔45及びスリットからなる第2弱部46を形成したが、カウルグリル20側に取付孔及びスリットからなる第2弱部を形成し、排水樋40側にスペーサ部及びフィンを形成することも可能である。ただし、この場合には、カウルグリル上部21に下方への荷重が作用したときに、カウルグリル上部21が排水樋に対して相対的に前方へ移動できるように、スリットは取付孔から後方へ向けて形成することになる。
【0039】
また、第2弱部46としてスリットを形成したが、カウルグリル上部21に下方への荷重が作用したときに、カウルグリル上部21が排水樋40に対して相対的に前方へ移動できるように、補強アーム42L、42Rとカウルグリル上部21との連結を解除できる構成であれば、任意の構成を採用することができ、例えばスリットの形成位置にミシン目や薄肉部からなる第2弱部を形成することも可能である。
【0040】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲においてその構成を変更し得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0041】
11 車室 12 エンジンルーム
13 ダッシュパネル 14 カウルアッパパネル
15 カウルロアパネル 16 カウル
17 フロントウィンドシールド 18 カウルフロントパネル
19 ボンネット 20 カウルグリル
20L カウルグリル分割体 20R カウルグリル分割体
21 カウルグリル上部 22 カウルグリル前部
23 隆起部 23a 前部傾斜壁
23b 後部傾斜壁 24 案内傾斜部
25 後側溝部 26 排水孔
27 グリル部 28 前壁部
29 上部支持部 30 下部支持部
31 前側溝部 33 シール部材
34 ボンネットレインフォースメント
40 排水樋 40L 排水樋
40R 排水樋 41L 本体部
41R 本体部 42L 補強アーム
42R 補強アーム 43 取付台
44 取付孔 45 第2取付孔
46 第2弱部 47 取付部
50 取付部 50a 筒部
50b フィン 53 第2連結具
53a 軸部 53b 頭部
54 位置決め孔 55 位置決めピン
60 遮熱板 61 上部フランジ
62 係止突部 63 案内突起
64 下部フランジ 65 第1取付孔
66 第1弱部 67 挿通孔
68 フック部 69 ファスナ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
フロントウィンドの前縁部からボンネットの後縁部の下方にわたって設けられるとともに、車幅方向の全幅にわたって設けられ、前部にボンネットの後縁部に沿って配置される上部支持部とクロスメンバ上に載置される下部支持部とが上下に略水平に形成されたカウルグリルを有する自動車のカウルグリル構造であって、
前記カウルグリルのエンジンルーム側における熱負荷の大きい部分に、カウルグリルの上部支持部と下部支持部とにわたって遮熱板を設け、
前記遮熱板の下部をカウルグリルの下部支持部に第1連結具で連結し、
前記遮熱板の下部支持部に対する下方への相対移動に対して、前記遮熱板と下部支持部との連結強度を弱くする第1弱部を形成した、
ことを特徴とする自動車のカウルグリル構造。
【請求項2】
前記下部支持部に下方へ延びるフランジ部を形成し、該フランジ部に第1連結具を取付けるための第1取付孔を設けるとともに、前記第1弱部として、前記下部支持部のフランジ部に前記第1取付孔から下方へ延びるスリットを形成した請求項1記載の自動車のカウルグリル構造。
【請求項3】
前記カウルグリルの後部の下側に車幅方向に延びる排水樋を固定し、前記排水樋にカウルグリルの下面に沿って前方へ延びる補強アームを設け、前記補強アームの前部をカウルグリルに第2連結具で連結し、前記補強アームに対するカウルグリルの下方への相対移動に対して、前記第2連結具による補強アームとカウルグリルとの連結強度を弱くする第2弱部を形成した請求項1又は2記載の自動車のカウルグリル構造。
【請求項4】
前記補強アームを車幅方向に間隔をあけて、前記排水樋に複数設けた請求項3記載の自動車のカウルグリル構造。
【請求項5】
前記カウルグリルに、頂部が車幅方向に延びる山形断面の隆起部を設け、前記隆起部の前側の斜面に前記補強アームを連結するとともに、前記第2弱部として、前記補強アームにおける第2連結具の第2取付孔から前方へ延びるスリットと、前記前側の斜面における第2連結具の第2取付孔から後方へ延びるスリットの少なくとも一方を形成した請求項3又は4記載の自動車のカウルグリル構造。
【請求項6】
前記カウルグリルを車幅方向の途中部で接続可能な複数のカウルグリル分割体に分割構成した請求項1〜5のいずれか1項記載の自動車のカウルグリル構造。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2013−23178(P2013−23178A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−163164(P2011−163164)
【出願日】平成23年7月26日(2011.7.26)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【出願人】(000107619)スターライト工業株式会社 (62)
【Fターム(参考)】