説明

自動車のカウルルーバ

【課題】自動車のフードパネルの後端縁に沿って配置されるカウルルーバに、エンジンルームからの暖気が中央へ流れ込まないようにするための遮熱板が設けられている。従来この遮熱板は歩行者保護を考慮して別部品とされていたため、コスト高になる問題があった。本発明では、歩行者保護機能を損なうことなく、カウルルーバのコスト低減を図ることを目的とする。
【解決手段】底部11の前端縁に対してインテグラルヒンジ15を介して前壁部12を上下に回動可能に支持して、この前壁部12に立て壁部14を一体に設けておくことによりコスト低減を図り、組み付け時に前壁部12を上方に回動させて立て壁部14を後壁部13に弾性係合させておくことにより歩行者保護を図る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動車のフードパネルの後部とフロントガラスの下部との間に沿って設けられるカウルルーバに関する。
【背景技術】
【0002】
カウルルーバは、エンジンルームの後部とフロントガラスの下部シールドに沿って配置されるカウルダクトを塞ぐカバーとして配置される外板で、カウルダクト内に外気を導入するための通気窓等を備えている。このカウルルーバについては、下記の特許文献に示すように車両前方斜め上方からの大きな衝撃に対して変形させることによりその衝撃を吸収して歩行者保護対策を図るための様々な工夫がなされている。
また、従来歩行者保護対策とは別に、エンジンルーム内からの暖気がカウルダクト内に流入しないようにすることを主たる機能とする遮熱板を設ける技術が提供されていた。この種の遮熱板は、概ね断面U字形をなすカウルルーバの左右側部を遮蔽する状態に設けられて、カウルルーバの側方からエンジンルーム内の暖気が中央へ回り込まないようにしていた。従来、この左右の遮熱板は、カウルルーバとは別体で製作されて、嵌め込み等の係合手段により所定の位置に組み付けられて、歩行者保護対策をクリアしつつ遮熱機能を持たせた構成となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−154811号公報
【特許文献2】特開2009−1216号公報
【特許文献3】特開2008−56166号公報
【特許文献4】特開2007−137363号公報
【特許文献5】特開2007−15609号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このように、従来カウルルーバに設ける遮熱板は、カウルルーバとは別体で製作して組み付ける構成であったのでコスト高になる問題があった。
本発明は、カウルルーバに要求される歩行者保護機能を損なうことなく、そのコスト低減を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題は下記の発明により解決される。
第1の発明は、自動車のフードパネルの後端部とフロントガラスの下端部との間に沿って車幅方向に延びるカウルダクトを塞ぐカウルルーバであって、底部と、この底部の前部と後部に沿って相互に対向して車幅方向に延びる、フードパネル側の前壁部と、フロントガラス側の後壁部と、前壁部と後壁部との間を塞ぐ立て壁部を備えており、前壁部は底部に対して上下に回動可能に結合され、かつ前壁部又は後壁部又は底部の少なくとも一つに立て壁部が一体に形成されており、この立て壁部は、前壁部を上方へ回動させて後壁部に対して閉じることにより前壁部と後壁部との間を塞ぐ位置に保持された構成としたカウルルーバである。
第1の発明によれば、立て壁部が前壁部又は後壁部又は底部の少なくとも一つに一体に設けられて1部品とされていることから、従来別部品とする構成に比して当該カウルルーバのコスト低減を図ることができる。
また、前壁部は底部に対して上下に回動可能(後壁部に対して開閉可能)に設けられていることから、立て壁部は、前壁部と後壁部と底部の何れか一つにのみ一体に形成されるか、後壁部と底部の双方に跨って一体に形成されている。このため、自動車の例えば前方斜め上方からの衝撃に対して前壁部を下方へ回動させてその衝撃を吸収することができるので、歩行者保護機能を損なうことなく立て壁部を一体に設けることができる。
第2の発明は、第1の発明において、前壁部はインテグラルヒンジを介して底部の前部に沿って上下に回動可能に支持されたカウルルーバである。
第2の発明によれば、ヒンジ部材等の支持部材を別途用いることなく、前壁部を底部に対して上下に回動可能に支持することができることから、この点でも当該カウルルーバのコスト低減を図ることができるとともに良好な組み付け性を確保することができる。
第3の発明は、第1又は第2の発明において、前壁部の回動により相互に接近、離間する立て壁部の端縁部と前壁部又は後壁部又は底部との間に、当該立て壁部の位置を保持する係合部を設けたカウルルーバである。
第3の発明によれば、立て壁部の遮蔽位置がより確実に保持される。自動車の例えば前方斜め上方からの衝撃に対して係合部を離脱させることにより歩行者保護機能が確保される。
第4の発明は、第1〜第3の何れか一つの発明において、立て壁部を車幅方向の2箇所に左右対称に備えたカウルルーバである。
第4の発明によれば、左右の立て壁部によって、自動車のエンジンルームの左右両側方からの暖気のカウルダクト内への流入を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】自動車のカウルダクト及びカウルルーバ周辺の縦断面図である。
【図2】本実施形態に係るカウルルーバの斜視図である。
【図3】図2の(III)-(III)線矢視図であって、立て壁部の側面図である。本図では、前壁部を閉じた状態が実線で示され、開いた状態が二点鎖線で示されている。
【図4】図3の(IV)-(IV)線矢視図であって、立て壁部の横断面図である。
【図5】第2実施形態に係るカウルルーバの縦断面図であって、立て壁部の側面図である。
【図6】第2実施形態に係る立て壁部の横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
次に、本発明の実施形態を図1〜図6に基づいて説明する。図1は、自動車1の前部であって、フードパネル2の後端部とフロントガラス3の下端部との間に配置された第1実施形態に係るカウルルーバ10及びカウルダクト4の周辺を示している。カウルダクト4の後部には空調用のエアダクト5が接続されている。カウルダクト4は、上方に開放したU字溝形状を有しており、フードパネル2の後端部とフロントガラス3の下端部との間に沿って車幅方向に長く延びている。このカウルダクト4の上部開口側がカウルルーバ10で塞がれている。カウルルーバ10は、合成樹脂の成形により形成されている。
図2に示すように第1実施形態のカウルルーバ10は、底部11と、フードパネル2側の前壁部12と、フロントガラス3側の後壁部13を有する断面U字形の溝形状を有し、カウルダクト4に沿って車幅方向に長く延びている。前壁部12と後壁部13との間であって左右両側には、エンジンルーム内からの暖気が左右側方から中央へ流入することを抑制するための遮熱板として機能する立て壁部14,14が設けられている。
図3に示すように前壁部12は、インテグラルヒンジ15を介して底部11の前端縁に対して上下に回動可能に結合されている。第1実施形態では、この前壁部12の内面に立て壁部14,14が一体に成形されている。図3中二点鎖線で示すように、底部11に対して前壁部12を下方へ開いた状態で当該カウルルーバ10が製作(成形)される。当該カウルルーバ10の自動車1への組み付け時に、図3中実線で示すように前壁部12を上方へ回動させて後壁部13に対向する位置(底部11の前端縁から上方へ起立する位置)に移動させる。
これにより、立て壁部14,14がそれぞれ底部11の上方であって後壁部13の前面に突き当てられる位置(遮蔽位置)に移動する。両立て壁部14,14の後端縁には、それぞれ係合爪部14aが一体に設けられている。これに対して、後壁部13の前面であって両係合爪部14a,14aに対向する位置には、爪受け部13a,13aが一体に設けられている。前壁部12を上方へ回動させて両立て壁部14,14を遮蔽位置に移動させると、それぞれの係合爪部14aが爪受け部13aに弾性的に嵌り込んで係合される。両係合爪部14a,14aがそれぞれ爪受け部13aに係合されることにより、両立て壁部14,14がそれぞれ遮蔽位置に保持され、ひいては前壁部12が起立位置に保持される。
こうして当該カウルルーバ10の組み付け作業時に、その前壁部12を起立方向に回動させることにより左右の立て壁部14,14が前壁部12と後壁部13との間に跨った遮蔽位置に保持される。遮蔽位置に保持された左右の立て壁部14,14は従来と同様、エンジンルーム内からの暖気がカウルルーバ10の車幅方向中央へ流入することを抑制するための遮熱板として機能させることができる。
【0008】
以上のように構成した第1実施形態のカウルルーバ10によれば、エンジンルーム内の暖気がカウルルーバ10の中央へ流入することを防止する立て壁部14,14が、当該カウルルーバ10の前壁部12に一体に設けられている。このため、従来別部品としていた構成に比して当該カウルルーバ10の部品点数を削減してそのコスト低減を図ることができる。
しかも、前壁部12に一体に設けられた左右の立て壁部14,14は、それぞれ後壁部13の爪受け部13a,13aに対して弾性的に係合されて遮蔽位置に保持されている。このため、前壁部12に例えば前方斜め上方から大きな衝撃が付加されると、両爪受け部13a,13aに対する係合爪部14a,14aの弾性係合状態が瞬時に外れて、前壁部12がインテグラルヒンジ15を介して下方へ回動し、これにより当該大きな衝撃が吸収され、ひいては従来と同等の歩行者保護を図ることができる。
このように、第1実施形態のカウルルーバ10によれば、歩行者保護機能の低下を招くことなく、そのコスト低減を図ることができる。
【0009】
以上説明した第1実施形態には種々変更を加えることができる。例えば、図5及び図6には第2実施形態のカウルルーバ20が示されている。第1実施形態では、左右の立て壁部14,14が前壁部12に一体に設けられた構成であったが、第2実施形態では、底部21と後壁部23とに跨って左右の立て壁部24,24が一体に設けられている。このため、第2実施形態では、左右の立て壁部24,24は、当該カウルルーバ20の製作(成形)当初より、遮蔽位置に一体に設けられている。前壁部22は、第1実施形態と同様インテグラルヒンジ25を介して底部21の前端縁に上下に回動可能に支持されている。
また、第1実施形態と同様、左右の立て壁部24,24の前端縁には、それぞれ係合爪部24aが一体に設けられており、これに対向して前壁部22の後面には爪受け部22aが一体に設けられている。このため、第2実施形態においても、当該カウルルーバ20の組み付け作業時に前壁部22を上方へ回動させて後壁部23に対向させると、左右の立て壁部24,24の係合爪部24a,24aがそれぞれ前壁部22の爪受け部22aに弾性的に係合されて、当該前壁部22が起立位置であって後壁部23に対向する位置に保持される。
この第2実施形態のカウルルーバ20によっても、左右の立て壁部24,24が底部21と後壁部23との間に一体に設けられていることから、従来別部品とする構成に比してそのコスト低減を図ることができる。しかも、前方斜め上方から大きな衝撃が付加された場合には、爪受け部22aに対する係合爪部24aの弾性係合状態が外れて前壁部22が瞬時に下方へ回動し、これにより当該大きな衝撃が吸収される。このことから、第2実施形態によっても、従来と同等の歩行者保護機能を確保しつつ、当該カウルルーバ20の部品点数を削減してそのコスト低減を図ることができる。
【0010】
以上説明した第1、第2実施形態にはさらに変更を加えることができる。例えば、左右の立て壁部を一体に設ける部位について、第1実施形態では前壁部12に一体に設け、第2実施形態では底部21と後壁部23の双方に跨って一体に設ける構成を例示したが、底部に立て壁部を一体に設ける構成、あるいは後壁部に立て壁部を一体に設ける構成としてもよい。何れの場合であっても、底部の前端縁にインテグラルヒンジを介して前壁部が上下に回動可能に支持され、この前壁部と立て壁部の前端縁との間で弾性係合される構成とすることにより、従来の歩行者保護機能を損なうことなく、当該カウルルーバのコスト低減を図ることができる。
また、前壁部を後壁部に対して対向する起立位置に保持する係合部として、立て壁部側に係合爪部を設け、この係合爪部が弾性係合される爪受け部を後壁部13(第1実施形態)若しくは前壁部22(第2実施形態)に設ける構成を例示したが、逆に立て壁部側に爪受け部を設け、後壁部側若しくは前壁部側に係合爪部を設ける構成としてもよい。また、底部に立て壁部を遮蔽位置に保持するための弾性係合部を設ける構成としてもよい。
さらに、係合手段は、係合爪部を爪受け部に弾性係合させる構成に代えて、クリップ止めする構成としてもよい。
また、立て壁部を直接底部、前壁部又は後壁部の何れか一つに対して係合させることにより当該立て壁部を遮蔽位置に保持する構成としたが、これに加えて若しくはこれに代えて、前壁部を起立位置に保持する係合手段を例えば底部との間等に別途設けて間接的に立て壁部を遮蔽位置に保持する構成としてもよい。
さらに、左右一対の立て壁部14,14(24,24)を設ける構成を例示したが、本発明は、立て壁部を一箇所に設ける場合あるいは3箇所以上に設ける場合にも同様に適用することができる。
【符号の説明】
【0011】
1…自動車
2…フードパネル
3…フロントガラス
4…カウルダクト
5…エアダクト
10…カウルルーバ(第1実施形態)
11…底部
12…前壁部
13…後壁部、13a…爪受け部
14…立て壁部、14a…係合爪部
15…インテグラルヒンジ
20…カウルルーバ(第2実施形態)
21…底部
22…前壁部、22a…爪受け部
23…後壁部
24…立て壁部、24a…係合爪部
25…インテグラルヒンジ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車のフードパネルの後端部とフロントガラスの下端部との間に沿って車幅方向に延びるカウルダクトを塞ぐカウルルーバであって、底部と、該底部の前部と後部に沿って相互に対向して車幅方向に延びる、前記フードパネル側の前壁部と、前記フロントガラス側の後壁部と、前記前壁部と前記後壁部との間を塞ぐ立て壁部を備えており、前記前壁部は前記底部に対して上下に回動可能に結合され、かつ該前壁部又は前記後壁部又は前記底部の少なくとも一つに前記立て壁部が一体に形成されており、該立て壁部は、前記前壁部を上方へ回動させて前記後壁部に対して閉じることにより該前壁部と前記後壁部との間を塞ぐ位置に保持された構成としたカウルルーバ。
【請求項2】
請求項1記載のカウルルーバであって、前記前壁部はインテグラルヒンジを介して前記底部の前部に沿って上下に回動可能に支持されたカウルルーバ。
【請求項3】
請求項1又は2記載のカウルルーバであって、前記前壁部の回動により相互に接近、離間する立て壁部の端縁部と前記前壁部又は前記後壁部又は前記底部との間に、当該立て壁部の位置を保持する係合部を設けたカウルルーバ。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか1項に記載したカウルルーバであって、前記立て壁部を車幅方向の2箇所に左右対称に備えたカウルルーバ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−250681(P2012−250681A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−127035(P2011−127035)
【出願日】平成23年6月7日(2011.6.7)
【出願人】(000110321)トヨタ車体株式会社 (1,272)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】