説明

自動車のカウル構造

【課題】簡易な構造で歩行者保護性能及びNV性能を向上させた自動車のカウル構造を提供する。
【解決手段】エンジンルームと車室とを区画するダッシュパネル3の上側から車両前方に延びてフロントウィンドウ5の下端部を支持するカウル10を備えた自動車のカウル構造であって、カウル10が上方パネル11と下方パネル12と後方パネル13とを備えた中空状に形成されるとともに、車両平面視で車両前方に突出する円弧状に形成され、上方パネル11の箱状の車両前側部分11aが上方パネル11の車両後側部分11bよりも高い位置になるように、上方及び下方パネル11,12が車両側面視で段違い状に構成されて、上方パネル11の車両前側部分11aにフロントウィンドウ5の下端部を支持させた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダッシュパネルの上側から車両前方に延びてフロントウィンドウの下端部を支持する自動車のカウル構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ダッシュパネルの上側から車両前方に延びてフロントウィンドウの下端部を支持する自動車のカウルが存在する。カウルは、下方パネルと、下方パネルの後端部から起立する後方パネルと、後方パネルの上端部から車両前方へ延出する上方パネルとを備えており、上方パネルの車両前側部分でフロントウィンドウの下端部を支持する。
【0003】
カウルがダッシュパネルの上側から車両前方に張り出して形成された場合には、上方パネルの車両前側部分に上下振動が発生すると、この上下振動が車両後側部分に伝わって、車両側面視においてカウルの車両後側部分の中央付近を中心としてカウルの車両後側部分が微小角度の範囲で往復揺動して振動が発生することがある。このように、ダッシュパネルの上側から車両前方に延びてフロントウィンドウの下端部を支持する自動車のカウルにおいては、NV性能(振動及び振動音を抑制する性能)が低下することがある。このため、特許文献1のカウルでは、NV性能を向上させるために、カウルとは別部材である補強パネルをカウルに配置してカウルの剛性を高めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−101956号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、別部材の補強パネルをカウルに配置すると、その分、部品点数が増加する。カウルの後方部分の剛性を高めるために、その部分の板厚を厚くすると、カウル全体の重量が増加することになる。
【0006】
また、カウルは、歩行者保護の観点から、走行中の車両が歩行者に衝突し、歩行者がボンネットの後部に乗り上げた際に、下方へ変形して衝撃を吸収するように剛性を低下させて構成されている。よって、カウルに補強パネルを過度に配置した場合には、カウルの剛性が必要以上に高まり、歩行者の保護という面でも不利となる。
【0007】
本発明の目的は、簡易な構造でNV性能及び歩行者の保護性能を向上させた自動車のカウル構造を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る自動車のカウル構造の第1特徴構成は、エンジンルームと車室とを区画するダッシュパネルの上側から車両前方に延びてフロントウィンドウの下端部を支持するカウルを備えた自動車のカウル構造であって、前記カウルが上方パネルと下方パネルと後方パネルとを備えた中空状に形成されるとともに、車両平面視で車両前方に突出する円弧状に形成され、前記上方パネルの箱状の車両前側部分が前記上方パネルの車両後側部分よりも高い位置になるように、前記上方及び下方パネルが車両側面視で段違い状に構成されて、前記上方パネルの車両前側部分に前記フロントウィンドウの下端部を支持させてある点にある。
【0009】
〔作用〕
本発明に係る自動車のカウル構造では、上方パネルの箱状の車両前側部分が上方パネルの車両後側部分よりも高い位置になるように、上方及び下方パネルが車両側面視で段違い状に構成されているので、カウルは、車両側面視で前後に段違いの箱状に形成されて、車両前後方向の中間部に略垂直方向の部分を有する。その上、カウルは、車両平面視で車両前方に突出する円弧状に形成されているので、カウルの略垂直方向の部分と当該略垂直方向の部分に連続する前後の水平部分との稜線が、車両左右方向に亘り車両前方に突出する円弧状に複数存在することとなる。こうして、複数の稜線によってカウルの剛性が高められて、カウルの振動が抑制される。
【0010】
また、上方パネルの箱状の車両前側部分が上方パネルの車両後側部分よりも高い位置になるように、上方及び下方パネルが車両側面視で段違い状に構成されており、カウルは車両前側部分が車両後側部分よりも高くなり、車両側面視において斜め上方に片持ちで張り出すことになる。これにより、例えばカウルが車両前方に向けて略水平に張り出している場合に比べて、カウル全体の車両側面視での重心位置をより斜め上方に位置させることができ、上方パネルの車両前側部分に上下振動が発生した場合であっても、カウルの車両側面視における重心回りで車両後側部分が揺動し難くなる。よって、カウル全体が微小角度の範囲で往復揺動するような振動が発生し難くなる。
【0011】
さらに、カウルの車両前側部分が車両後側部分に対して斜め上方に位置し、車両前側部分と車両後側部分との間に稜線が存在するので、歩行者等との衝突時に作用する歩行者の衝撃荷重によりカウルの車両後側部分は変形し難く、車両前側部分だけが下側に倒れるか、又は座屈変形して潰れ易い。よって、カウルに蛇腹形状等の複雑な形状を採用しなくもカウルを容易に変形させることができ、衝突の際の歩行者の保護という面でも有利になる。
【0012】
〔効果〕
こうして、カウルの部品点数や重量を増すことなく、カウルのNV性能及び歩行者の保護機能を向上させることができた。
【0013】
本発明に係る自動車のカウル構造の第2特徴構成は、前記下方パネルの車両前側部分と車両後側部分とに亘って接続される縦壁部において、前記下方パネルの車両前側部分と前記縦壁部との接続部分と、前記縦壁部の下側部分とに亘って、車両前方に膨出するようにプレス加工された膨出部を形成してある点にある。
【0014】
[作用]
下方パネルの車両前側部分と縦壁部との接続部分と、縦壁部の下側部分とに亘って、車両前方に膨出するようにプレス加工された膨出部を形成したので、この膨出部により、下方パネルにおける車両前側部分よりも後側の部分の剛性を高めることができる。下方パネルにおける車両前側部分よりも後側の部分の剛性が高まると、歩行者等との衝突時に作用する歩行者の衝撃荷重によりカウルの車両前側部分が潰れ易くなる。また、膨出部がプレス加工によって形成されているので、カウルの部品点数が増すこともない。
【0015】
[効果]
こうして、下方パネルの縦壁部に形成された膨出部により、カウルの部品点数や重量を増すことなく、歩行者の保護機能をより向上させることができた。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】自動車の前部車体構造を示す縦断側面図
【図2】自動車のカウルの部分を示す横断平面図
【図3】図2のIII−III線矢視断面図
【図4】図2のIV−IV線矢視断面図
【図5】別実施形態のカウルの縦断側面図
【図6】別実施形態のカウルの部分を示す横断平面図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0018】
図1に示すように、自動車の前部には、エンジンフード1により開閉可能なエンジンルーム2が設けられており、エンジンルーム2の車両後方にはダッシュパネル3を挟んで車室4が設けられている。このように、自動車の前部車体には、エンジンルーム2と車室4とを区画するダッシュパネル3が設けられており、ダッシュパネル3の上側から車両前方に向けて、フロントウィンドウ5の下端部を支持するカウル10が配設されている。カウル10の上方及び車両後方には、インストルメントパネル6が配設されている。
【0019】
図2に示すように、カウル10は車両左右向きに設けられ、車両平面視において、車両前方に突出する円弧状に形成されている。図3に示すように、カウル10は、上方パネル11と下方パネル12と後方パネル13とを備えており、下方パネル12の後端部から後方パネル13が起立し、後方パネル13の上端から上方パネル11が前方へ延出して、全体として中空状に形成されている。外気導入ダクト14は、後方パネル13の車両左側(助手席側)に配設されている。カウル10は、金属板をプレス加工して製作される。カウル10は、下方パネル12及び後方パネル13が1枚の金属板からプレス成形されており、上方パネル11の後縁部と後方パネル13の上縁部とがスポット溶接等により接合されている。
【0020】
上方パネル11は、箱状の車両前側部分11aの前端部でフロントウィンドウ5の下端部を支持部材を介して支持している。上方パネル11は、車両前側部分11aと車両後側部分11bとの間に両者を接続する縦壁部11cを備えている。下方パネル12は、車両前側部分12aと車両後側部分12bとの間に両者を接続する縦壁部12cを備えている。なお、下方パネル12の車両後側部分12bは、車両前後方向にプレス加工で形成された凹状断面部分dを有しており、剛性が高められている。
【0021】
図3及び図4に示すように、フロントウィンドウ5の下端縁部とエンジンフード1の後部との間には、合成樹脂製のカウルルーバ16が配設されている。カウルルーバ16の下方には、下方パネル12の前端からエンジンフード1の後端の裏側に合成樹脂製のOAカウル17が架設されている。カウルルーバ16には外気取入口16aが車両左右方向に適宜設けられており、外気取入口16aから外部空気がカウル10に導入されるとともに、カウル10に導入された空気は外気導入ダクト14に導かれる。
【0022】
上方パネル11の車両前側部分11aは、縦壁部11cの上端部に連設される前後向き部分と、この前後向き部分の前端部から斜め前方下方に延出された支持部分と、この支持部分から下方延出された上下向き部分と、この上下向き部分から前方に延出された前方延出部分とを備えて、箱状に盛り上がった断面形状に構成されている。上方パネル11は、車両後側部分11bよりも車両前側部分11aの方が高い位置となるように形成されている。一方、下方パネル12は、車両前側部分12aよりも車両後側部分12bの方が低くなるように形成されており、カウル10は、上方パネル11と下方パネル12とが車両側面視において段違い状に構成されている。上方パネル11の車両前側部分11aと車両後側部分11bとの間に略垂直な縦壁部11cを有し、下方パネル12の車両前側部分12aと車両後側部分12bとの間に略垂直な縦壁部12cを有する。すなわち、カウル10は、車両前側部分が11a、12a、及び縦壁部11cで箱状に形成され、車両後側部分が11b、12b、縦壁部12c、及び後方パネル13で箱状に形成されて、全体としても車両側面視で前後に段違いの箱状に構成されている。
【0023】
こうして、上方パネル11の車両前側部分11aと縦壁部11cとの接続部分に稜線Rが存在し、縦壁部11cと車両後側部分11bとの接続部分に稜線Aが存在する。また、下方パネル12の車両前側部分12aと縦壁部12cとの接続部分に稜線Bが存在し、縦壁部12cと車両後側部分12bとの接続部分に稜線Sが存在する。稜線Rは、図2に示すように、平面視で車両前方に突出する円弧状に形成されており、他の稜線A,B,Sも稜線Rと同様の形状である。このように、カウル10において、複数の稜線R,A,B,Sが車両左右両側部に亘り車両前方に突出する円弧状に存在することで、カウル10の剛性が高められる。
【0024】
カウル10が、上方パネル11の箱状の車両前側部分11aが上方パネル11の車両後側部分11bよりも高い位置になるように、上方及び下方パネル11,12が車両側面視で段違い状に構成されていると、カウル10の車両前側部分11a,12aが車両後側部分11b,12bよりも高くなり、車両側面視において斜め上方に片持ちで張り出すこととなる。これにより、例えばカウル10が車両前方に向けて略水平に張り出している場合に比べて、カウル10全体の車両側面視での重心位置をより斜め上方に位置させることができ、上方パネル11の車両前側部分11aに上下振動が発生した場合であっても、カウル10の車両側面視における重心回りで車両後側部分11b,12bが揺動し難くなる。よって、カウル10全体が微小角度の範囲で往復揺動するような振動が発生し難くなる。また、カウル10の剛性が高まることで、カウル10にワイパ支持部材(不図示)を介して配設されるワイパユニット(不図示)を安定的に保持できる。
【0025】
歩行者との衝突時に歩行者の衝撃荷重がカウルの上方から作用した際には、縦壁部11cと車両後側部分11bとの間の稜線Aと、車両前側部分12aと縦壁部12cとの間の稜線Bとを折れ起点として、車両前側部分11a,12aが下側に倒れるか(図3のカウル10の2点鎖線参照)、又は座屈変形して潰れる。ここで、稜線Aと稜線Bとを結ぶ仮想線Vが、車両前後方向に対して側面視で略垂直(やや前方下方に傾斜)になるよう構成されているので、稜線A,Bを折れ起点として、車両前側部分11a,12aが下側に倒れて潰れ易くなる。また、上方パネル11の車両前側部分11aの後方にスペースができるので、このスペースを各種内装部材の設置等に利用することもできる。
【0026】
カウル10の下方パネル12において、車両前側部分12aと縦壁部12cとの接続部分である稜線Bと縦壁部12cの下側部分とに亘って、車両前方に膨出する膨出部15がプレス加工によって車両左右向きに形成されている。なお、この膨出部15は、車両左右幅全体ではなく、部分的に適宜形成されていてもよい。
【0027】
下方パネル12の車両前側部分12aと縦壁部12cとの接続部分と、縦壁部12cの下側部分とに亘って、車両前方に膨出するようにプレス加工された膨出部15を形成したので、この膨出部15により、カウル10の車両後側部分11b,12bの剛性を高めることができた。こうして、カウル10の車両後側部分11b,12bの剛性が高まると、歩行者との衝突時に作用する歩行者の衝撃荷重により上方パネル11の車両前側部分11a,12aが潰れ易くなる。
【0028】
図2及び図4に示すように、OAカウル17には、車両前後方向の後寄りに遮水板18が立設されている。遮水板18は、後方パネル13に配設された外気導入ダクト14の前方に位置し、外気導入ダクト14への水や異物等の侵入を防止している。なお、カウル10に侵入した水が、車両左右端部に設けられた排水口(不図示)から排出されるように、カウル10の底面が車両左右端部に向けて徐々に下方に傾斜している。本実施形態では、カウル10の下半分の垂直方向の長さを、車両左右端部に向けて徐々に長くなるよう構成している。つまり、カウル10の下部分の垂直方向の長さ(後方パネル13の垂直方向の長さ)が、図3に示すL1より図4に示すL2の方が長くなるようにして、車両左右中央部分から左右端に向けてカウル10の底面を徐々に傾斜させている。
【0029】
カウル10を補強する部材として、上方パネル11の前縁と下方パネル12の前縁との間の開口部には、板状の補強部材19が架け渡されている。補強部材19の上端部は上方パネル11の前縁に平行に屈曲されて固定され、補強部材19の下端部は下方パネル12の前縁に平行に屈曲されて固定されている。補強部材19は、カウル10の車両左右方向の複数箇所(図2では2箇所)に配置されている。このように、カウル10を車両左右方向において部分的に閉断面化(図3参照)することで、カウル10の振動を抑えることができ、NV性能の向上に有利に働くこととなる。
【0030】
[別実施形態]
(1)上記実施形態では、遮水板18をフロントウィンドウ5の下縁部の下方であって、OAカウル17の車両前後方向の後寄りに立設したが、図5に示すように、遮水板18をOAカウル17の後端部に立設して構成してもよい。こうすると、空気の流入領域が上下に大きく確保されて、外気導入ダクト14への空気の流入がスムーズになる。また、遮水板18をOAカウル17の後端部に立設させることで、カウル10の下方パネル12の前端に遮水板18を連続して配置でき、カウル10の下方パネル12の剛性を高めることも可能となる。
【0031】
さらに、図6に示すように、遮水板18を車両左右方向の中央部分から助手席側の端部まで配設して、空気の流れを妨げないで外気導入ダクト14に対して前方及び左右側方から水が侵入し難いように構成することもできる。
【0032】
(2)上記の実施形態では、カウル10には車両左右方向の複数箇所に補強部材19を配設する構成を示したが、カウル10が、上方パネル11、下方パネル12及び後方パネル13のみで十分なNV性能を有する場合には、補強部材19は設けなくてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明に係る自動車のカウル構造は、歩行者の保護機能及び、NV性能の向上が必要とされる各種車両に幅広く利用することができる。
【符号の説明】
【0034】
1 エンジンフード
2 エンジンルーム
3 ダッシュパネル
4 車室
5 フロントウィンドウ
10 カウル
11 上方パネル
11a 車両前側部分
11b 車両後側部分
11c 縦壁部
12 下方パネル
12a 車両前側部分
12b 車両後側部分
12c 縦壁部
13 後方パネル
15 膨出部
18 遮水板
19 補強部材
A,B,R,S 稜線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンルームと車室とを区画するダッシュパネルの上側から車両前方に延びてフロントウィンドウの下端部を支持するカウルを備えた自動車のカウル構造であって、
前記カウルが上方パネルと下方パネルと後方パネルとを備えた中空状に形成されるとともに、車両平面視で車両前方に突出する円弧状に形成され、
前記上方パネルの箱状の車両前側部分が前記上方パネルの車両後側部分よりも高い位置になるように、前記上方及び下方パネルが車両側面視で段違い状に構成されて、
前記上方パネルの車両前側部分に前記フロントウィンドウの下端部を支持させてある自動車のカウル構造。
【請求項2】
前記下方パネルの車両前側部分と車両後側部分とに亘って接続される縦壁部において、前記下方パネルの車両前側部分と前記縦壁部との接続部分と、前記縦壁部の下側部分とに亘って、車両前方に膨出するようにプレス加工された膨出部を形成してある請求項1記載の自動車のカウル構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−173568(P2011−173568A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−40794(P2010−40794)
【出願日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】