説明

自動車のカウル構造

【課題】コスト及び車体重量を増やすことなく、車両衝突時の被衝突物に対する衝突エネルギーの吸収機能と、上下方向の振動に対するウインドシールドガラスの支持剛性を高める機能とを両立できる自動車のカウル構造を提供する。
【解決手段】ブレース20中間部20cは、路面に対して略垂方向F1に起立して延びる起立壁20dと、車両衝突時に前斜め上方から加わる被衝突物の入力方向F2に略対向する対向壁20eとを有し、該対向壁20eと起立壁20dとの境界に沿って折れ線20fが形成され、該折れ線20fは、その前端部20f′が中間部20cの下フランジ部20bとのコーナー部近傍に位置し、後端部20f′′が中間部20cの上フランジ部20aとのコーナー部近傍に位置するよう配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウインドシールドガラスを支持するカウルアッパパネルと、該カウルアッパパネルとで前方に開口する開口部を形成するカウルロアパネルとを備えた自動車のカウル構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のカウル部においては、例えば歩行者保護の観点から、車両衝突時に斜め上方から落下する被衝突物への衝突エネルギーを吸収するようにした構造を採用している。例えば、特許文献1には、ウインドシールドガラスの下縁部を支持するカウルアッパパネルとカウルロアパネルとの開口部内に正面視で門型のブレースを配設し、該ブレースの左,右側壁に折れ部を形成し、これにより左,右側壁を外側に屈曲変形させることにより衝突エネルギーを吸収するようにした構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−240393号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、前記従来構造では、車両衝突時の被衝突物への衝突エネルギーの吸収機能は得られるものの、路面から車輪を介して伝わる上下方向の振動に対しては左,右側壁が折れ部を起点に変形することから、上下振動に対するウインドシールドガラスの支持剛性が低いという懸念がある。このため、路面からの上下振動がウインドシールドガラスに伝わり、こもり音が発生するおそれがある。
【0005】
このような上下振動に対するウインドシールドガラスの支持剛性を高めるには、例えばカウルアッパパネルのガラス支持部に補強部材を別途追加して車幅方向に延びる閉断面構造のボックス部を形成することが考えられる。しかしながら、このようにすると部品コスト及び製造コストが上昇するとともに、車体重量が増えるという問題が生じる。
【0006】
本発明は、前記従来の状況に鑑みてなされたもので、コスト及び車体重量を増やすことなく、車両衝突時の被衝突物に対する衝突エネルギーの吸収機能と、上下方向の振動に対するウインドシールドガラスの支持剛性を高める機能とを両立できる自動車のカウル構造を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ウインドシールドガラスを支持するカウルアッパパネルと、該カウルアッパパネルとで車両前方に開口する開口部を形成するカウルロアパネルと、前記開口部内に上下方向に突っ張るように配置されたブレースとを備えた自動車のカウル構造であって、前記ブレースは、前記カウルアッパパネルに結合される上フランジ部と、前記カウルロアパネルに結合される下フランジ部と、該上,下フランジ部同士を一体に接続する中間部とを有し、該中間部は、路面に対して略垂方向に起立して延びる起立壁と、車両衝突時に前斜め上方から加わる被衝突物の入力方向に略対向する対向壁とを有し、該対向壁と前記起立壁との境界に沿って折れ線が形成され、該折れ線は、その前端部が前記中間部の下フランジ部とのコーナー部近傍に位置し、後端部が前記中間部の上フランジ部とのコーナー部近傍に位置するよう配置されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係るカウル構造によれば、ブレースの中間部を、路面に対して略垂方向に延びる起立壁と、車両衝突時に加わる前斜め上方からの入力方向に対して略対向する対向壁とを有するものとし、該対向壁と起立壁との境界線に沿って形成された折れ線の前端部,後端部をそれぞれ中間部の下フランジ部近傍,上フランジ部近傍に位置するよう配置した。
【0009】
このように構成したので、路面からの上下方向の振動に対しては起立壁が開口部間で突っ張って受け止めることとなり、それだけウインドシールドガラスの支持剛性を高めることができる。これにより路面振動がウインドシールドガラスに伝わるのを抑制でき、室内に伝わるこもり音の発生を防止できる。
【0010】
一方、車両衝突時に前斜め上方から落下する被衝突物の入力に対しては対向壁が変形することにより受け止めることとなり、衝突エネルギーを吸収することができ、これにより被衝突物への影響を抑制できる。
【0011】
このように本発明では、開口部に配設された既存のブレースを、起立壁と対向壁とを有するものとするだけの構造で、上下方向の振動に対するウインドシールドガラスの支持剛性を高める機能と、車両衝突時の被衝突物に対する衝突エネルギーの吸収機能とを両立することができ、前述のコスト上昇,車体重量増といった問題を回避できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施例1によるカウル構造が採用された自動車の斜視図である。
【図2】前記自動車のカウルパネルの断面図である。
【図3】前記カウルパネルの平面から見た概略図である。
【図4】前記カウルパネルに配設されたブレースの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0014】
図1ないし図4は、本発明の実施例1による自動車のカウル構造を説明するための図である。なお、本実施例の説明の中で、前後,左右という場合は、特記なき限り、シートに着座した状態で車両前進方向に見た場合の前後,左右を意味する。
【0015】
図において、1は自動車のカウル部を示している。このカウル部1は、車両上下方向に延びる左,右のフロントピラー2と、該左,右のフロントピラー2間に配設された車幅方向に延びるカウルパネル3と、該カウルパネル3,前記左,右のフロントピラー2及びルーフパネル5により囲まれたウインド開口1aに配設されたウインドシールドガラス4とを備えている。
【0016】
前記カウルパネル3の前側には、樹脂製のカウルルーバー6が配設され、該カウルルーバー6の前側にはフード7が配設されている。このカウルルーバー6は、前記ウインドシールドガラス4とフード7との間を覆うように配設されている。
【0017】
前記カウルパネル3は、前記ウインドシールドガラス4の下端部4aを支持するカウルアッパパネル10と、該カウルアッパパネル10とで車両前方に開口する開口部12を形成するカウルロアパネル11とを備えている。
【0018】
前記カウルアッパパネル10は、前記ウインドシールドガラス4の下端部4aが固定された支持壁部10aと、該支持壁部10aに続いて前方に段落ち状に屈曲形成された前壁部10bと、前記支持部10aに続いて後方に略水平に屈曲して延びる上壁部10cと、該上壁部10cの後端から下方に屈曲して延びる後壁部10dと、該後壁部10dの下端に続いて後方に屈曲して延びるフランジ部10eとを有する。
【0019】
前記カウルロアパネル11は、エンジン室Aと車室Bとを画成するダッシュパネル15の上フランジ部15aが結合された底壁部11aと、該底壁部11aに続いて前上方に起立して延びる前壁部11bと、該前壁部11bに続いて前記上壁部10cに対向するよう前方に屈曲して延びる平壁部11cと、前記底壁部11aに続いて後上方に起立して延びる後壁部11dと、該後壁部11dに続いて後方に屈曲形成されたフランジ部11eとを有する。
【0020】
前記カウルアッパパネル10のフランジ部10eと、前記カウルロアパネル11とフランジ部11eとはスポット溶接により結合されている。
【0021】
前記カウルパネル3内の車幅方向右側部には、ウインドシールドガラス4に付着した雨水等を払拭するワイパユニット(不図示)が配置されている。
【0022】
前記カウルルーバー6の車幅方向中央部には、車体中心線aを跨いで車幅方向に延びる幅広の外気導入口6aが形成されている。
【0023】
一方、前記カウルロアパネル11の後壁部11dの前記外気導入口6aに対応する部分には、車幅方向に延びる吸気ダクト孔11fが形成されている。この吸気ダクト孔11fは、外気導入口6aに対して車幅方向左側に偏位させて配置されている。
【0024】
前記吸気ダクト孔11fには空調ユニット(不図示)に接続された吸気ダクト16が取り付けられている。走行風はカウルルーバー6の外気導入口6aからカウルパネル3内に流入し、吸気ダクト孔11fから吸気ダクト16を介して空調ユニットに導入される。
【0025】
前記カウルパネル3の開口部12内には、板金製のブレース20が配置されている。このブレース20は、平面視で車幅方向中央部の前記外気導入口6aと吸気ダクト孔11fとの間に配置されている(図3参照)。
【0026】
前記ブレース20は、前記開口部12を上下方向に突っ張るように配置されており、これによりワイパユニット等の振動によるカウルパネル3の口開きを防止している。
【0027】
ここで、カウルパネル3の開口部12の剛性を高めるには、ブレース20を車幅方向に複数配置することが好ましい。しかしながら、ワイパユニット側に配置するとワイパの払拭動作に干渉するおそれがあり、またカウルパネル3の左,右側端部はフロントピラー2に結合されていることから不要である。このため比較的配置スペースに余裕がある車幅方向中央部に1つだけ配置している。
【0028】
前記ブレース20は、前記カウルアッパパネル10の上壁部10cに溶接により結合された上フランジ部20aと、前記カウルロアパネル11の平壁部11cに溶接により結合された下フランジ部20bと、該上,下フランジ部20a,20b同士を一体に接続する中間部20cとを有する大略Z形状のものである。
【0029】
前記中間部20cは、路面から車輪を介して伝わる上下方向の振動F1と略平行な方向に起立して延びる起立壁20dと、車両衝突時に前斜め上方から加わる被衝突物の入力方向F2に略対向する対向壁20eとを有する。この被衝突物の入力方向F2は水平面に対して大略20〜60度の範囲に想定されている。
【0030】
前記対向壁20eと前記起立壁20dとは、両者の境界に沿って形成された折れ線20fにより折り曲げられている。
【0031】
前記折れ線20fは、その前端部20f′が前記中間部20cの下フランジ部20bとのコーナー部近傍に位置し、後端部20f′′が前記中間部20cの上フランジ部20aとのコーナー部近傍に位置するよう形成されている。
【0032】
前記対向壁20eは、車幅方向に延びる直線と略平行に、かつ若干後方に傾斜した状態で前方を向いている。また前記起立壁20dは、折れ線20fから、ひいては車幅方向に延びる直線から後向きに傾斜した状態で側方を向いている。さらに換言すれば、前記起立壁20dは、前記外気導入口6aと吸気ダクト孔11fとを結ぶ線上に位置するように傾斜させて配置されている。これにより外気導入口6aから流入した走行風aを、起立壁20dにより吸気ダクト孔11fに向かって流れるようにガイドする作用が得られる。即ち、ブレース20を外気導入口6aと吸気ダクト孔11fとの間に配置した場合、ブレース20が走行風の流れを邪魔することが懸念されるが、本実施例では、ブレース20の起立壁20dの角度を前述のように設定することにより、走行風の流れを邪魔することなく吸気ダクト孔11fに導くことができ、吸気ダクト16への空気量を増やすことができる。
【0033】
ここで、前記起立壁20dの対向壁20eひいては前記車幅方向に延びる直線に対する角度は本実施例に限定されるものではなく、車両の重量,サイズ、上下振動の大きさあるいは前記外気導入口6a,吸気ダクト孔11fの位置等に基づいて適宜変更可能である。
【0034】
本実施例によれば、カウルパネル3の開口部12内に配置されたブレース20を、路面からの入力方向F1に対して平行に延びる起立壁20dと、車両衝突時に加わる前斜め上方からの入力方向F2に対して略対向する対向壁20eとを有するものとし、該対向壁20eと起立壁20dとの境界に沿って形成された折れ線20fの前端部20f′,後端部20f′′をそれぞれ中間部20cの下フランジ部20b近傍,上フランジ部20a近傍に位置するよう形成した。
【0035】
このように構成したので、路面からの上下方向の振動F1に対しては起立壁20dが開口部12間で突っ張って受け止めることとなり、それだけウインドシールドガラス4の支持剛性を高めることができる。これにより路面振動がウインドシールドガラス4に伝わるのを抑制でき、車室B内に伝わるこもり音の発生を防止できる。
【0036】
一方、車両衝突時に前斜め上方から落下する被衝突物の入力F2に対しては対向壁20eが変形することにより受け止めることとなり、衝突エネルギーを吸収することができ、これにより被衝突物への影響を抑制できる。
【0037】
このように本実施例では、カウルパネル3の開口部12に配設された既存のブレース20を、起立壁20dと対向壁20eを有するものとするだけの構造で、上下方向の振動に対するウインドシールドガラス4の支持剛性を高める機能と、車両衝突時の被衝突物に対する衝突エネルギーの吸収機能とを1つの部品で両立することができ、コスト上昇,車体重量増といった問題を回避できる。
【0038】
ここで、図4に二点鎖線で示すように、起立壁20dの上下方向力に対する支持剛性を高めるために、ビード22やフランジ23を追加形成してもよい。
【0039】
なお、前記実施例では前記対向壁20eが後方に傾斜していることから、折れ線20fの符号20f′,20f′′部分をそれぞれ前端部,後端部と称したが、これらは下端部,上端部と称することも可能である。
【符号の説明】
【0040】
4 ウインドシールドガラス
10 カウルアッパパネル
11 カウルロアパネル
12 開口部
20 ブレース
20a 上フランジ部
20b 下フランジ部
20c 中間部
20d 起立壁
20e 対向壁
20f 折れ線
20f′ 前端部
20f′′ 後端部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウインドシールドガラスを支持するカウルアッパパネルと、該カウルアッパパネルとで車両前方に開口する開口部を形成するカウルロアパネルと、前記開口部内に上下方向に突っ張るように配置されたブレースとを備えた自動車のカウル構造であって、
前記ブレースは、前記カウルアッパパネルに結合される上フランジ部と、前記カウルロアパネルに結合される下フランジ部と、該上,下フランジ部同士を一体に接続する中間部とを有し、
該中間部は、路面に対して略垂方向に起立して延びる起立壁と、車両衝突時に前斜め上方から加わる被衝突物の入力方向に略対向する対向壁とを有し、
該対向壁と前記起立壁との境界に沿って折れ線が形成され、該折れ線は、その前端部が前記中間部の下フランジ部とのコーナー部近傍に位置し、後端部が前記中間部の上フランジ部とのコーナー部近傍に位置するよう配置されている
ことを特徴とする自動車のカウル構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−112266(P2013−112266A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−262044(P2011−262044)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】