自動車のカウル部構造
【課題】コスト及び車体重量を増やすことなく、車両衝突時にカウルサイドパネル及びフロントピラーが車内側に倒れ込むのを防止できる自動車のカウル部構造を提供する。
【解決手段】カウルインナパネル2の後壁部2cの少なくとも車幅方向端部に、車両前方側に突出する棚部2fを形成し、該棚部2fにカウルサイドパネル3及びフロントピラー4を結合する。
【解決手段】カウルインナパネル2の後壁部2cの少なくとも車幅方向端部に、車両前方側に突出する棚部2fを形成し、該棚部2fにカウルサイドパネル3及びフロントピラー4を結合する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車幅方向に延びるカウルインナパネルの車幅方向左,右端部にカウルサイドパネルを配設し、該カウルサイドパネルの車両後側にフロントピラーを配設した自動車のカウル部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車においては、車両衝突時の入力をカウルサイドパネルからフロントピラーを介して車体後部に伝達することにより、車室への影響を回避する構造を採用している。例えば、特許文献1には、カウルインナパネルのフランジ部と、カウルサイドパネルのフランジ部と、フロントピラーのフランジ部とを重ね合わせてスポット溶接により結合し、これにより入力をベルトライン部に伝達するようにした構造が開示されている(図2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−343336号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、前記従来構造では、車両衝突時の入力によりカウルインナパネルにねじれ変形が生じ易く、場合によってはカウルサイドパネル及びフロントピラーが車内側に倒れ込むように変形するおそれがあり、入力を車体後部のベルトライン部に効率よく伝達できないという懸念がある。特に、ルーフのないオープンカーでは、フロントピラーが片持ち状態であることから、室内側に倒れ易い傾向がある。
【0005】
ここで、カウルサイドパネル及びフロントピラーの倒れ込みを防止するには、例えば補強部材を追加してカウルサイドパネルのねじれ剛性を高めることが考えられる。しかしながら、補強部材を新たに追加すると、組み付け工数及び部品点数の増加によりコストが上昇するとともに、車体重量が増えるという問題が生じる。
【0006】
本発明は、前記従来の状況に鑑みてなされたもので、コスト及び車体重量を増やすことなく、車両衝突時にカウルサイドパネル及びフロントピラーが車内側に倒れ込むのを防止できる自動車のカウル部構造を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の発明は、車室前部の一部を構成し、上向きに開口する断面略ハット形状のカウルインナパネルと、該カウルインナパネルの車幅方向端部に配設されたカウルサイドパネルと、該カウルサイドパネルの車両後側に配設されたフロントピラーとを備えた自動車のカウル部構造において、前記カウルインナパネルの後壁部の少なくとも車幅方向端部に、車両前方側に突出する棚部を形成し、該棚部に前記カウルサイドパネル及び前記フロントピラーを結合したことを特徴としている。
【0008】
請求項2の発明は、請求項1に記載の自動車のカウル部構造において、前記棚部は、前記カウルインナパネルの車幅方向全長に渡って形成され、前記カウルインナパネルの後上面部分には、カウルアウタパネルが配設され、該カウルアウタパネルの車幅方向側縁部は、前記棚部に重ね合わせて結合されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
請求項1の発明に係るカウル部構造によれば、カウルインナパネルの後壁部に前方に突出する棚部を形成し、該棚部にカウルサイドパネル及びフロントピラーを結合したので、カウルインナパネルの車幅方向端部におけるねじれ剛性を高めることができる。これにより、車両衝突時の入力をカウルインナパネルの棚部で効果的に受け止めることができ、カウルサイドパネル,フロントピラーの車内側への倒れ込みを防止することができ、入力をカウルサイドパネルからフロントピラーを介して車体後方のベルトライン部に効率よく伝達することができる。
【0010】
本発明では、カウルインナパネルに前方に突出する棚部を形成するだけの構造を採用しているので、新たに補強部材を追加する必要はなく、コスト上昇及び車体重量増といった問題を回避できる。
【0011】
請求項2の発明では、棚部を車幅方向全長に渡って形成したので、カウルインナパネルのねじれ剛性を車幅方向全長に渡って高めることができる。これにより、カウルインナパネルの一側方から受けた入力を他側方に効率よく伝達することができ、カウルサイドパネル及びフロントピラーの倒れ込みを確実に防止することができる。
【0012】
また前記カウルインナパネルに配設されたカウルアウタパネルの車幅方向側縁部を棚部に重ね合わせて結合したので、カウルアウタパネルにより棚部を補強することができ、カウルインナパネルのねじれ剛性をより一層高めることができる。これによりカウルサイドパネル及びフロントピラーの倒れ込みをより確実に防止することができる。
【0013】
さらに前記カウルアウタパネルに上方から落下した被衝突物の荷重は、カウルアウタパネルが変形して受けつつ、カウルインナパネルが棚部の前側折れ線を起点に下方に倒れるように変形することで吸収でき、ひいては歩行者保護性能を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施例1によるオープンカー(自動車)の概略斜視図である。
【図2】前記自動車のカウル部の平面図である。
【図3】前記カウル部の斜視図である。
【図4】前記カウル部の斜視図である。
【図5】前記カウル部の断面図(図4のV-V線断面図)である。
【図6】前記カウル部の断面図(図4のVI-VI線断面図)である。
【図7】前記カウル部の断面図(図3のVII-VII線断面図)である。
【図8】前記カウル部のカウルインナパネルの斜視図である。
【図9】前記カウル部のカウルサイドパネルの断面図(図4のIX-IX線断面図)である。
【図10】前記カウル部のフロントピラーの断面図(図4のX-X線断面図)である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0016】
図1ないし図10は、本発明の実施例1による自動車のカウル部構造を説明するための図である。なお、本実施例の説明の中で、前後,左右という場合は、シートに着座した状態で車両前進方向に見た場合の前後,左右を意味する。
【0017】
図において、1はオープンカーのカウル部を示している。このカウル部1は、車室Aの前部に配設された車幅方向に延びるカウルインナパネル2と、該カウルインナパネル2の車幅方向左,右端部に配設された車両前後方向に延びる左,右のカウルサイドパネル3,3と、該左,右のカウルサイドパネル3の車両後側に配設された車両上下方向に延びるフロントピラー4,4とを備えている。
【0018】
前記カウルインナパネル2の前縁部には、前記車室Aとエンジン室Bとを画成するダッシュパネル(不図示)の上縁部が結合されている。
【0019】
前記左,右のフロントピラー4の下端部には、車両前後方向に延びるロッカパネル5の前端部が結合されており、該左,右のロッカパネル5の後端部にはセンタピラー6の下端部が結合されている。
【0020】
このフロントピラー4,ロッカパネル5及びセンタピラー6によりドア開口7が形成されており、該ドア開口7には前記フロントピラー4により回動可能に支持されたドア(不図示)が配設されている。また左,右のロッカパネル5間には車室Aのフロアを構成するフロアパネル8が配設されている。
【0021】
前記カウルインナパネル2と左,右のカウルサイドパネル3との間には、前輪を支持するストラットタワー13が配設されている(図2参照)。このストラットタワー13は、カウルインナパネル2及びカウルサイドパネル3に溶接により結合されている。
【0022】
前記フロントピラー4は、角筒状の閉断面部をなすよう形成されており、前記ロッカパネル5から垂直上方に延びる垂直部4aと、該垂直部4aの上端に続いて後斜め上方に傾斜して延びる傾斜部4bとを有する。この左,右の傾斜部4bの上端部間はウインドアッパ部材9により連結されている。前記垂直部4aの上面は、カウルサイドパネル3の上面と略面一をなす平面部4cとなっており、該平面部4cの後縁部から前記傾斜部4bが延びている。
【0023】
前記カウルインナパネル2,左,右の傾斜部4b及びウインドアッパ部材9によりウインド開口10が形成され、該ウインド開口10にはウインドシールドガラス11が配設されている。
【0024】
前記カウルインナパネル2は、プレス成形により、底壁部2aに前,後壁部2b,2cを一体に形成するとともに、該前,後壁部2b,2cの上縁にそれぞれ前方,後方に突出する前,後フランジ部2d,2eを一体に形成した構造を有する。このカウルインナパネル2内には、ウインドシールドガラス11に付着した雨水を払拭するワイパモジュール(不図示)が取り付けられている。
【0025】
前記カウルインナパネル2の左,右側部の前後開口幅w1は、車幅方向中央部の開口幅w2より幅広に設定され、車幅方向端部ほど幅広になっている(図2参照)。この種のオープンカーでは、意匠効果を高める観点から、ウインドシールドガラス11の車幅方向における曲率を大きくするとともに、車高を低くする意匠となっている。このため、ウインドシールドガラス11の下縁を支持するカウルインナパネル2の後フランジ部2eの左,右側端部は、前フランジ部2dに対して後方に大きく回り込む湾曲状に形成されており、このため前記開口幅w1が大きくなっている。また車高を低くするために、前記カウルインナパネル2は底の浅い形状となっている。
【0026】
前記カウルインナパネル2の後上面部分には、該カウルインナパネル2の後側開口を覆うようにカウルアウタパネル15が配設されている。このカウルアウタパネル15の後縁部15aは、前記カウルインナパネル2の後フランジ部2eにスポット溶接により結合されている。またカウルアウタパネル15の前部15bは支持構造的には自由端となっている。
【0027】
前記左,右のカウルサイドパネル3は、カウルサイドインナ16とカウルサイドアウタ17とを大略角筒状の閉断面部をなすよう溶接により結合した構造を有し、その前後方向後端部が前記垂直部4aの上端部に結合されている。
【0028】
前記カウルサイドインナ16は、前記カウルインナパネル2の前,後壁部2b,2c間に対応する前後長を有する。また前記カウルサイドアウタ17は、カウルサイドインナ16よりさらに前方に延びており、これの前端部17aは不図示の連結部材を介してサイドメンバに連結されている。これにより車両衝突時の入力は、その一部がサイドメンバからカウルサイドパネル3に伝達される。
【0029】
車両側方から見ると、前記カウルサイドパネル3は、前述のドア内に形成された高剛性のベルトライン部Lと略同じ高さに位置するよう配置されている(図1参照)。これにより、車両衝突時の入力は、カウルサイドパネル3からフロントピラー4を介してベルトライン部Lに伝達され、該ベルトライン部Lからセンタピラー6に伝達される。
【0030】
前記カウルサイドインナ16は、前後に長方形状をなす上壁部16bと該上壁部16bの車内縁から下方に屈曲して延びる縦壁部16cとを有し、該縦壁部16cの後フランジ部16aがフロントピラー4の前フランジ部4fにスポット溶接により結合されている(図4参照)。
【0031】
また前記カウルサイドアウタ17は、これの後フランジ部17bがフロントピラー4の外側壁4eにスポット溶接により結合されている。
【0032】
前記カウルサイドインナ16には、前記縦壁部16cの下縁に続いて車内側に屈曲して延びる結合フランジ部16dが形成されており、この結合フランジ部16dは後述するカウルインナパネル2に結合されている。
【0033】
前記カウルサイドインナ16の結合フランジ部16dとカウルインナパネル2の底壁部2aとの間には、カウルインナパネル2内に進入した雨水,洗浄水を外部に排出する排出口18が設けられている(図3参照)。
【0034】
前記カウルインナパネル2の後壁部2cには、その一部を車両前方側に突出させることにより棚部2fが形成されている。この棚部2fは、カウルインナパネル2の車幅方向全長に渡って形成されている。
【0035】
そして前記棚部2fには、前記カウルサイドパネル3のカウルサイドインナ16及びフロントピラー4が結合されており、詳細には以下の構造となっている。
【0036】
前記棚部2fは、カウルインナパネル2をプレス成形する際に一体に形成されたもので、後壁部2cの中途部から前方にせり出すように延びる上辺部2gと、該上辺部2gの前縁から下方に屈曲して延びる縦辺部2hとを有する。
【0037】
前記棚部2fは、車幅方向中央部2f′に対して左,右側部2f′′が高所に位置する段差状をなすように形成されている(図8参照)。この棚部2fの上辺部2gは、左,右側部2f′′側に行くほど高所となるよう傾斜しており、該上辺部2gの側縁部2g′は、後フランジ部2eと略同じ高さ位置となるよう設定されている。
【0038】
前記棚部2fの側縁部2g′及び後フランジ部2eの側縁部2e′には、前記フロントピラー4の平面部4cの内側フランジ部4c′が上下方向のスポット溶接により結合されている。
【0039】
前記内側フランジ部4c′は、図示していないが、ピラーアウタ及びピラーインナのフランジ部同士を重ね合わせて結合することにより形成されている。また前記内側フランジ部4c′の後部には、該内側フランジ部4c′に続いて車内側に突出する突出フランジ部4dが形成されている(図2,図4参照)。
【0040】
前記カウルアウタパネル15の車幅方向左,右側縁部15dは、これの前部が前記棚部2fの上辺部2gに2枚重ねて上下方向のスポット溶接により結合されており、後部が前記カウルインナ2の後フランジ部2eとともに前記内側フランジ部4c′の突出フランジ部4dに3枚重ねて上下方向のスポット溶接により結合されている。
【0041】
前記棚部2fの縦辺部2hには、前記カウルサイドインナ16の結合フランジ部16dの後結合部16eが前後方向のスポット溶接により結合されている。またカウルインナパネル2の前壁部2bには、前記結合フランジ部16dの前結合部16fが斜め下向き方向のスポット溶接により結合されている(図3参照)。これによりカウルインナパネル2の両端開口の剛性を高めている。
【0042】
本実施例によれば、カウルインナパネル2の後壁部2cに段差状の棚部2fを形成し、該棚部2fにカウルサイドインナ16の結合フランジ部16d及びフロントピラー4の内側フランジ部4c′を結合したので、カウルインナパネル2のねじれ剛性を高めることができる。これにより、車両衝突時の入力をカウルインナパネル2の棚部2fで効果的に受け止めることができ、カウルサイドパネル3,フロントピラー4の車内側への倒れ込み(図10の矢印C参照)を防止することができ、入力をカウルサイドパネル3からフロントピラー4を介してベルトライン部Lに効率よく伝達することができる。
【0043】
即ち、前述のように、オープンカーのカウルインナパネル2は左,右端部の前後開口幅w1が広く、かつ底の浅い形状となっていることから、車両衝突時の入力によりカウルインナパネル2にねじれ変形が生じ易く、しかもフロントピラー4は片持ち支持となっていることから、車内側に倒れ易い。本実施例では、カウルインナパネル2の後壁部2cにボックス形状をなす棚部2fを形成し、該棚部2fにカウルサイドパネル3及びフロントピラー4を結合したので、ねじれ変形に対する剛性を向上できる。
【0044】
またカウルインナパネル2とカウルサイドパネル3との間にストラットタワー13を結合したので、該ストラットタワー13がフロントピラー4の倒れを抑えることとなり、この点からも車内側への倒れ込みを防止することができる。
【0045】
本実施例では、カウルインナパネル2に棚部2fを形成するだけの構造であるので、新たに補強部材を追加する必要はなく、コスト上昇及び車体重量増といった問題を生じることなく衝突安全性能を向上できる。
【0046】
本実施例では、前記棚部2fをカウルインナパネル2の車幅方向全長に渡って形成したので、カウルインナパネル2のねじれ剛性を車幅方向全長に渡って高めることができる。これにより、カウルインナパネル2の一側方から受けた入力を他側方に効率よく伝達することができ、カウルサイドパネル3及びフロントピラー4の倒れ込みを確実に防止することができる。
【0047】
本実施例では、前記カウルインナパネル2に配設されたカウルアウタパネル15の車幅方向側縁部15dを棚部2fに重ね合わせて結合したので、カウルアウタパネル15により棚部2fを補強することができ、カウルインナパネル2のねじれ剛性を一層高めることができ、カウルサイドパネル3及びフロントピラー4の倒れ込みを確実に防止することができる。
【0048】
また前記カウルアウタパネル15の側縁部15dの後部を棚部2fとともにフロントピラー4の突出フランジ部4dに3枚重ねて結合したので、カウルインナパネル2のねじれ剛性をより一層高めることができる。
【0049】
図7に示すように、前記カウルアウタパネル15に上方から落下した被衝突物の荷重Fは、カウルアウタパネル15が下方に変形して受けつつ、カウルインナパネル2が棚部2fの前側折れ線を起点に下方に倒れるように変形して吸収することとなり、ひいては歩行者保護性能を高めることができる。
【0050】
なお、前記実施例では、ルーフのないオープンカーに適用した場合を例に説明したが、本発明は、ルーフを備えた自動車にも適用でき、この場合にも衝突安全性能を向上できる。
【符号の説明】
【0051】
1 カウル部
2 カウルインナパネル
2c 後壁部
2f 棚部
3 カウルサイドパネル
4 フロントピラー
15 カウルアウタパネル
15d 側縁部
A 車室
【技術分野】
【0001】
本発明は、車幅方向に延びるカウルインナパネルの車幅方向左,右端部にカウルサイドパネルを配設し、該カウルサイドパネルの車両後側にフロントピラーを配設した自動車のカウル部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車においては、車両衝突時の入力をカウルサイドパネルからフロントピラーを介して車体後部に伝達することにより、車室への影響を回避する構造を採用している。例えば、特許文献1には、カウルインナパネルのフランジ部と、カウルサイドパネルのフランジ部と、フロントピラーのフランジ部とを重ね合わせてスポット溶接により結合し、これにより入力をベルトライン部に伝達するようにした構造が開示されている(図2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−343336号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、前記従来構造では、車両衝突時の入力によりカウルインナパネルにねじれ変形が生じ易く、場合によってはカウルサイドパネル及びフロントピラーが車内側に倒れ込むように変形するおそれがあり、入力を車体後部のベルトライン部に効率よく伝達できないという懸念がある。特に、ルーフのないオープンカーでは、フロントピラーが片持ち状態であることから、室内側に倒れ易い傾向がある。
【0005】
ここで、カウルサイドパネル及びフロントピラーの倒れ込みを防止するには、例えば補強部材を追加してカウルサイドパネルのねじれ剛性を高めることが考えられる。しかしながら、補強部材を新たに追加すると、組み付け工数及び部品点数の増加によりコストが上昇するとともに、車体重量が増えるという問題が生じる。
【0006】
本発明は、前記従来の状況に鑑みてなされたもので、コスト及び車体重量を増やすことなく、車両衝突時にカウルサイドパネル及びフロントピラーが車内側に倒れ込むのを防止できる自動車のカウル部構造を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の発明は、車室前部の一部を構成し、上向きに開口する断面略ハット形状のカウルインナパネルと、該カウルインナパネルの車幅方向端部に配設されたカウルサイドパネルと、該カウルサイドパネルの車両後側に配設されたフロントピラーとを備えた自動車のカウル部構造において、前記カウルインナパネルの後壁部の少なくとも車幅方向端部に、車両前方側に突出する棚部を形成し、該棚部に前記カウルサイドパネル及び前記フロントピラーを結合したことを特徴としている。
【0008】
請求項2の発明は、請求項1に記載の自動車のカウル部構造において、前記棚部は、前記カウルインナパネルの車幅方向全長に渡って形成され、前記カウルインナパネルの後上面部分には、カウルアウタパネルが配設され、該カウルアウタパネルの車幅方向側縁部は、前記棚部に重ね合わせて結合されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
請求項1の発明に係るカウル部構造によれば、カウルインナパネルの後壁部に前方に突出する棚部を形成し、該棚部にカウルサイドパネル及びフロントピラーを結合したので、カウルインナパネルの車幅方向端部におけるねじれ剛性を高めることができる。これにより、車両衝突時の入力をカウルインナパネルの棚部で効果的に受け止めることができ、カウルサイドパネル,フロントピラーの車内側への倒れ込みを防止することができ、入力をカウルサイドパネルからフロントピラーを介して車体後方のベルトライン部に効率よく伝達することができる。
【0010】
本発明では、カウルインナパネルに前方に突出する棚部を形成するだけの構造を採用しているので、新たに補強部材を追加する必要はなく、コスト上昇及び車体重量増といった問題を回避できる。
【0011】
請求項2の発明では、棚部を車幅方向全長に渡って形成したので、カウルインナパネルのねじれ剛性を車幅方向全長に渡って高めることができる。これにより、カウルインナパネルの一側方から受けた入力を他側方に効率よく伝達することができ、カウルサイドパネル及びフロントピラーの倒れ込みを確実に防止することができる。
【0012】
また前記カウルインナパネルに配設されたカウルアウタパネルの車幅方向側縁部を棚部に重ね合わせて結合したので、カウルアウタパネルにより棚部を補強することができ、カウルインナパネルのねじれ剛性をより一層高めることができる。これによりカウルサイドパネル及びフロントピラーの倒れ込みをより確実に防止することができる。
【0013】
さらに前記カウルアウタパネルに上方から落下した被衝突物の荷重は、カウルアウタパネルが変形して受けつつ、カウルインナパネルが棚部の前側折れ線を起点に下方に倒れるように変形することで吸収でき、ひいては歩行者保護性能を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施例1によるオープンカー(自動車)の概略斜視図である。
【図2】前記自動車のカウル部の平面図である。
【図3】前記カウル部の斜視図である。
【図4】前記カウル部の斜視図である。
【図5】前記カウル部の断面図(図4のV-V線断面図)である。
【図6】前記カウル部の断面図(図4のVI-VI線断面図)である。
【図7】前記カウル部の断面図(図3のVII-VII線断面図)である。
【図8】前記カウル部のカウルインナパネルの斜視図である。
【図9】前記カウル部のカウルサイドパネルの断面図(図4のIX-IX線断面図)である。
【図10】前記カウル部のフロントピラーの断面図(図4のX-X線断面図)である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0016】
図1ないし図10は、本発明の実施例1による自動車のカウル部構造を説明するための図である。なお、本実施例の説明の中で、前後,左右という場合は、シートに着座した状態で車両前進方向に見た場合の前後,左右を意味する。
【0017】
図において、1はオープンカーのカウル部を示している。このカウル部1は、車室Aの前部に配設された車幅方向に延びるカウルインナパネル2と、該カウルインナパネル2の車幅方向左,右端部に配設された車両前後方向に延びる左,右のカウルサイドパネル3,3と、該左,右のカウルサイドパネル3の車両後側に配設された車両上下方向に延びるフロントピラー4,4とを備えている。
【0018】
前記カウルインナパネル2の前縁部には、前記車室Aとエンジン室Bとを画成するダッシュパネル(不図示)の上縁部が結合されている。
【0019】
前記左,右のフロントピラー4の下端部には、車両前後方向に延びるロッカパネル5の前端部が結合されており、該左,右のロッカパネル5の後端部にはセンタピラー6の下端部が結合されている。
【0020】
このフロントピラー4,ロッカパネル5及びセンタピラー6によりドア開口7が形成されており、該ドア開口7には前記フロントピラー4により回動可能に支持されたドア(不図示)が配設されている。また左,右のロッカパネル5間には車室Aのフロアを構成するフロアパネル8が配設されている。
【0021】
前記カウルインナパネル2と左,右のカウルサイドパネル3との間には、前輪を支持するストラットタワー13が配設されている(図2参照)。このストラットタワー13は、カウルインナパネル2及びカウルサイドパネル3に溶接により結合されている。
【0022】
前記フロントピラー4は、角筒状の閉断面部をなすよう形成されており、前記ロッカパネル5から垂直上方に延びる垂直部4aと、該垂直部4aの上端に続いて後斜め上方に傾斜して延びる傾斜部4bとを有する。この左,右の傾斜部4bの上端部間はウインドアッパ部材9により連結されている。前記垂直部4aの上面は、カウルサイドパネル3の上面と略面一をなす平面部4cとなっており、該平面部4cの後縁部から前記傾斜部4bが延びている。
【0023】
前記カウルインナパネル2,左,右の傾斜部4b及びウインドアッパ部材9によりウインド開口10が形成され、該ウインド開口10にはウインドシールドガラス11が配設されている。
【0024】
前記カウルインナパネル2は、プレス成形により、底壁部2aに前,後壁部2b,2cを一体に形成するとともに、該前,後壁部2b,2cの上縁にそれぞれ前方,後方に突出する前,後フランジ部2d,2eを一体に形成した構造を有する。このカウルインナパネル2内には、ウインドシールドガラス11に付着した雨水を払拭するワイパモジュール(不図示)が取り付けられている。
【0025】
前記カウルインナパネル2の左,右側部の前後開口幅w1は、車幅方向中央部の開口幅w2より幅広に設定され、車幅方向端部ほど幅広になっている(図2参照)。この種のオープンカーでは、意匠効果を高める観点から、ウインドシールドガラス11の車幅方向における曲率を大きくするとともに、車高を低くする意匠となっている。このため、ウインドシールドガラス11の下縁を支持するカウルインナパネル2の後フランジ部2eの左,右側端部は、前フランジ部2dに対して後方に大きく回り込む湾曲状に形成されており、このため前記開口幅w1が大きくなっている。また車高を低くするために、前記カウルインナパネル2は底の浅い形状となっている。
【0026】
前記カウルインナパネル2の後上面部分には、該カウルインナパネル2の後側開口を覆うようにカウルアウタパネル15が配設されている。このカウルアウタパネル15の後縁部15aは、前記カウルインナパネル2の後フランジ部2eにスポット溶接により結合されている。またカウルアウタパネル15の前部15bは支持構造的には自由端となっている。
【0027】
前記左,右のカウルサイドパネル3は、カウルサイドインナ16とカウルサイドアウタ17とを大略角筒状の閉断面部をなすよう溶接により結合した構造を有し、その前後方向後端部が前記垂直部4aの上端部に結合されている。
【0028】
前記カウルサイドインナ16は、前記カウルインナパネル2の前,後壁部2b,2c間に対応する前後長を有する。また前記カウルサイドアウタ17は、カウルサイドインナ16よりさらに前方に延びており、これの前端部17aは不図示の連結部材を介してサイドメンバに連結されている。これにより車両衝突時の入力は、その一部がサイドメンバからカウルサイドパネル3に伝達される。
【0029】
車両側方から見ると、前記カウルサイドパネル3は、前述のドア内に形成された高剛性のベルトライン部Lと略同じ高さに位置するよう配置されている(図1参照)。これにより、車両衝突時の入力は、カウルサイドパネル3からフロントピラー4を介してベルトライン部Lに伝達され、該ベルトライン部Lからセンタピラー6に伝達される。
【0030】
前記カウルサイドインナ16は、前後に長方形状をなす上壁部16bと該上壁部16bの車内縁から下方に屈曲して延びる縦壁部16cとを有し、該縦壁部16cの後フランジ部16aがフロントピラー4の前フランジ部4fにスポット溶接により結合されている(図4参照)。
【0031】
また前記カウルサイドアウタ17は、これの後フランジ部17bがフロントピラー4の外側壁4eにスポット溶接により結合されている。
【0032】
前記カウルサイドインナ16には、前記縦壁部16cの下縁に続いて車内側に屈曲して延びる結合フランジ部16dが形成されており、この結合フランジ部16dは後述するカウルインナパネル2に結合されている。
【0033】
前記カウルサイドインナ16の結合フランジ部16dとカウルインナパネル2の底壁部2aとの間には、カウルインナパネル2内に進入した雨水,洗浄水を外部に排出する排出口18が設けられている(図3参照)。
【0034】
前記カウルインナパネル2の後壁部2cには、その一部を車両前方側に突出させることにより棚部2fが形成されている。この棚部2fは、カウルインナパネル2の車幅方向全長に渡って形成されている。
【0035】
そして前記棚部2fには、前記カウルサイドパネル3のカウルサイドインナ16及びフロントピラー4が結合されており、詳細には以下の構造となっている。
【0036】
前記棚部2fは、カウルインナパネル2をプレス成形する際に一体に形成されたもので、後壁部2cの中途部から前方にせり出すように延びる上辺部2gと、該上辺部2gの前縁から下方に屈曲して延びる縦辺部2hとを有する。
【0037】
前記棚部2fは、車幅方向中央部2f′に対して左,右側部2f′′が高所に位置する段差状をなすように形成されている(図8参照)。この棚部2fの上辺部2gは、左,右側部2f′′側に行くほど高所となるよう傾斜しており、該上辺部2gの側縁部2g′は、後フランジ部2eと略同じ高さ位置となるよう設定されている。
【0038】
前記棚部2fの側縁部2g′及び後フランジ部2eの側縁部2e′には、前記フロントピラー4の平面部4cの内側フランジ部4c′が上下方向のスポット溶接により結合されている。
【0039】
前記内側フランジ部4c′は、図示していないが、ピラーアウタ及びピラーインナのフランジ部同士を重ね合わせて結合することにより形成されている。また前記内側フランジ部4c′の後部には、該内側フランジ部4c′に続いて車内側に突出する突出フランジ部4dが形成されている(図2,図4参照)。
【0040】
前記カウルアウタパネル15の車幅方向左,右側縁部15dは、これの前部が前記棚部2fの上辺部2gに2枚重ねて上下方向のスポット溶接により結合されており、後部が前記カウルインナ2の後フランジ部2eとともに前記内側フランジ部4c′の突出フランジ部4dに3枚重ねて上下方向のスポット溶接により結合されている。
【0041】
前記棚部2fの縦辺部2hには、前記カウルサイドインナ16の結合フランジ部16dの後結合部16eが前後方向のスポット溶接により結合されている。またカウルインナパネル2の前壁部2bには、前記結合フランジ部16dの前結合部16fが斜め下向き方向のスポット溶接により結合されている(図3参照)。これによりカウルインナパネル2の両端開口の剛性を高めている。
【0042】
本実施例によれば、カウルインナパネル2の後壁部2cに段差状の棚部2fを形成し、該棚部2fにカウルサイドインナ16の結合フランジ部16d及びフロントピラー4の内側フランジ部4c′を結合したので、カウルインナパネル2のねじれ剛性を高めることができる。これにより、車両衝突時の入力をカウルインナパネル2の棚部2fで効果的に受け止めることができ、カウルサイドパネル3,フロントピラー4の車内側への倒れ込み(図10の矢印C参照)を防止することができ、入力をカウルサイドパネル3からフロントピラー4を介してベルトライン部Lに効率よく伝達することができる。
【0043】
即ち、前述のように、オープンカーのカウルインナパネル2は左,右端部の前後開口幅w1が広く、かつ底の浅い形状となっていることから、車両衝突時の入力によりカウルインナパネル2にねじれ変形が生じ易く、しかもフロントピラー4は片持ち支持となっていることから、車内側に倒れ易い。本実施例では、カウルインナパネル2の後壁部2cにボックス形状をなす棚部2fを形成し、該棚部2fにカウルサイドパネル3及びフロントピラー4を結合したので、ねじれ変形に対する剛性を向上できる。
【0044】
またカウルインナパネル2とカウルサイドパネル3との間にストラットタワー13を結合したので、該ストラットタワー13がフロントピラー4の倒れを抑えることとなり、この点からも車内側への倒れ込みを防止することができる。
【0045】
本実施例では、カウルインナパネル2に棚部2fを形成するだけの構造であるので、新たに補強部材を追加する必要はなく、コスト上昇及び車体重量増といった問題を生じることなく衝突安全性能を向上できる。
【0046】
本実施例では、前記棚部2fをカウルインナパネル2の車幅方向全長に渡って形成したので、カウルインナパネル2のねじれ剛性を車幅方向全長に渡って高めることができる。これにより、カウルインナパネル2の一側方から受けた入力を他側方に効率よく伝達することができ、カウルサイドパネル3及びフロントピラー4の倒れ込みを確実に防止することができる。
【0047】
本実施例では、前記カウルインナパネル2に配設されたカウルアウタパネル15の車幅方向側縁部15dを棚部2fに重ね合わせて結合したので、カウルアウタパネル15により棚部2fを補強することができ、カウルインナパネル2のねじれ剛性を一層高めることができ、カウルサイドパネル3及びフロントピラー4の倒れ込みを確実に防止することができる。
【0048】
また前記カウルアウタパネル15の側縁部15dの後部を棚部2fとともにフロントピラー4の突出フランジ部4dに3枚重ねて結合したので、カウルインナパネル2のねじれ剛性をより一層高めることができる。
【0049】
図7に示すように、前記カウルアウタパネル15に上方から落下した被衝突物の荷重Fは、カウルアウタパネル15が下方に変形して受けつつ、カウルインナパネル2が棚部2fの前側折れ線を起点に下方に倒れるように変形して吸収することとなり、ひいては歩行者保護性能を高めることができる。
【0050】
なお、前記実施例では、ルーフのないオープンカーに適用した場合を例に説明したが、本発明は、ルーフを備えた自動車にも適用でき、この場合にも衝突安全性能を向上できる。
【符号の説明】
【0051】
1 カウル部
2 カウルインナパネル
2c 後壁部
2f 棚部
3 カウルサイドパネル
4 フロントピラー
15 カウルアウタパネル
15d 側縁部
A 車室
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車室前部の一部を構成し、上向きに開口する断面略ハット形状のカウルインナパネルと、該カウルインナパネルの車幅方向端部に配設されたカウルサイドパネルと、該カウルサイドパネルの車両後側に配設されたフロントピラーとを備えた自動車のカウル部構造において、
前記カウルインナパネルの後壁部の少なくとも車幅方向端部に、車両前方側に突出する棚部を形成し、
該棚部に前記カウルサイドパネル及び前記フロントピラーを結合した
ことを特徴とする自動車のカウル部構造。
【請求項2】
請求項1に記載の自動車のカウル部構造において、
前記棚部は、前記カウルインナパネルの車幅方向全長に渡って形成され、
前記カウルインナパネルの後上面部分には、カウルアウタパネルが配設され、
該カウルアウタパネルの車幅方向側縁部は、前記棚部に重ね合わせて結合されている
ことを特徴とする自動車のカウル部構造。
【請求項1】
車室前部の一部を構成し、上向きに開口する断面略ハット形状のカウルインナパネルと、該カウルインナパネルの車幅方向端部に配設されたカウルサイドパネルと、該カウルサイドパネルの車両後側に配設されたフロントピラーとを備えた自動車のカウル部構造において、
前記カウルインナパネルの後壁部の少なくとも車幅方向端部に、車両前方側に突出する棚部を形成し、
該棚部に前記カウルサイドパネル及び前記フロントピラーを結合した
ことを特徴とする自動車のカウル部構造。
【請求項2】
請求項1に記載の自動車のカウル部構造において、
前記棚部は、前記カウルインナパネルの車幅方向全長に渡って形成され、
前記カウルインナパネルの後上面部分には、カウルアウタパネルが配設され、
該カウルアウタパネルの車幅方向側縁部は、前記棚部に重ね合わせて結合されている
ことを特徴とする自動車のカウル部構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2013−35423(P2013−35423A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−173380(P2011−173380)
【出願日】平成23年8月8日(2011.8.8)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年8月8日(2011.8.8)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】
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