説明

自動車のシールド導電体

【課題】電線挿入時に、スクラッチ傷の発生を防止でき、プロテクターを曲げる時、電線が絡まる現象を防止でき、外部から異物や水分がプロテクターの内部に侵入すのを確実に防止できる電気自動車又はハイブリッド自動車のシールド導電体を提供する。
【解決手段】バッテリパックと高電圧分配ボックスとの間を接続するシールド電線及び非シールド電線と、シールド電線電線及び非シールド電線が貫通挿入される円筒状のプロテクターと、プロテクターの端部の外周を囲みシールド電線及び非シールド電線に貫通される電線孔と係止用のフックとを有し、フックを用いてプロテクターに形成されたクリップ孔に係止さ、プロテクターに冠着されるプラスチック材質の射出物のプロテクター仕上げ用クリップと、を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動車のシールド導電体に係り、より詳しくは、電気自動車の動力回路を構成するバッテリパックと高電圧分配ボックスとの間を接続する自動車のシールド導電体に関する。
【背景技術】
【0002】
環境に対する認識の変化と原油価格の高謄により、低炭素・高効率である低燃費自動車の重要性がますます増大している。
ハイブリッド自動車や電気自動車は、動力源として用いられるバッテリにより作動するモータを駆動させて走行する車両であって、現在の主流を占めている内燃機関が装着された車両が引き起こしている環境問題を根本的に解決できる自動車である。
【0003】
すなわち、電気自動車は、主にバッテリを電源として動力を得る自動車であって、通常、AC又はDCモータを駆動して発生する動力を用いて車両の運行に必要とする動力を得ると共に、車両に搭載されている電気・電子装置などに必要とされる動力もバッテリの電源から供給するメカニズムを有する。
【0004】
通常、電気自動車のモータは、電気配線ラインによりインバータ又はバッテリパックなどに電気的に接続され、バッテリパックなどは、各種電気負荷に電源を供給するための高電圧分配ボックスなどに電気的に接続される。従ってバッテリパックと高電圧分配ボックスとの間の電気的な接続のためには安全な電気配線ラインが求められる。
【0005】
電気配線ラインは、3本の絶縁された電気導体、例えばシールド及び非シールド導電体を有する導電体からなり、これらの導電体は電気シールドにより囲まれている。
例えば、電気自動車の電気配線ラインとして用いられるシールド(Shielding)導電体は、円筒状の金属製プロテクターの内部に複数ラインの電線を挿入貫通させた構造であり、シールド機能、熱害焼損防止機能、及び電線保護機能を有する。
【0006】
この時、電線はプロテクターの両端部から突出して各種機器に接続される。
プロテクターは、バッテリパックと高電圧分配ボックスとの間を接続する円筒状の金属プロテクターであって、周辺機器との干渉を避け、車体の底パネルの形状に合わせて曲げられた配置構造を有する。
【0007】
現在、韓国で市販されているハイブリッド自動車は、シールド部材と電線を保護する方法として、通常、シールド部材を合成樹脂製(Synthetic resin)のプロテクターで囲む方法が適用されるが、プロテクターを用いるか、海外車種のシールド及び非シールド電線をそれぞれ囲む金属製のプロテクターを適用すると、部品数が増加する問題がある。
【0008】
このようなシールド導電体を適用する技術が開示されているが(例えば特許文献1及び特許文献2を参照)、これらの従来技術は、プロテクターに電線を挿入する時、プロテクターの両端部の鋭い部分により電線にスクラッチ傷が発生する問題がある。
また、従来技術は、自動車の底パネルに設置する場合、干渉を避けるための曲げ工程を有するが、この工程によりプロテクターの内部で電線が絡まる現象を避けることができず、異物や水分の侵入に対してもぜい弱な面があるなど、気密性の維持が困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開第2007−157435号公報
【特許文献2】特開第2007−80692号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであって、電線挿入時にスクラッチ傷の発生を防止でき、プロテクターを曲げる時に電線が絡まる現象を防止でき、外部から異物や水分がプロテクターの内部に侵入することを確実に防止できる電気自動車又はハイブリッド自動車のシールド導電体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するためになされた本発明の自動車のシールド導電体は、バッテリパックと高電圧分配ボックスとの間を接続するシールド電線及び非シールド電線と、シールド電線及び非シールド電線が挿入され貫通される円筒状のプロテクターと、プロテクターの端部の外周を囲み、シールド電線及び非シールド電線に貫通される電線孔と係止用のフックとを有し、フックを用いてプロテクターに形成されたクリップ孔に係止されてプロテクターに冠着されるプラスチック材質の射出物のプロテクター仕上げ用クリップと、を有することを特徴とする。
【0012】
また本発明は、電線孔が、1本のシールド電線と、シールド電線より相対的に小さい直径の2本の非シールド電線と、のそれぞれの円周の一部を密着収容する3個の電線載置溝部を有することを特徴とする。
【0013】
また本発明は、プロテクターの端部から外部に導き出されるシールド電線及び非シールド電線の延長部分と、プロテクターの端部に装着されるプロテクター仕上げ用クリップと、を一緒に被覆して外部から異物や水分がプロテクターの内部に侵入することを防止するグロメットを更に含むことを特徴とする。
【0014】
また、本発明は、プロテクターの端部から外部に突出するシールド電線及び非シールド電線の延長部分は、編組網部材で覆われること特徴とする。
また、本発明のロテクターは、アルミニウム材質からなることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、遮蔽性能を向上させるために、アルミニウム製のプロテクターに対して個別遮蔽ではなく一括遮蔽を適用したものであって、次のような長所を有する。
第1に、通常、プロテクターの端部には鋭い切断面があり、電線を挿入する時、この切断面によりスクラッチ傷が発生することがあるが、プロテクターの両端にプラスチック材料を射出成型した部材を装着することにより、電線を挿入する時、電線にスクラッチ傷が発生するのを防止することができる。
【0016】
第2に、プラスチック材料を射出成型した部材は、プロテクターの内部を通過する電線の直径に合わせて設けられるので、電線が挿入された後、プロテクターを曲げる時、この射出物により電線がプロテクターの内部で絡まるのを防止することができる。
【0017】
第3に、プラスチック材料を射出成型した部材が電線を保持する役割をするため、プロテクターの一部を内部に突出させる形態ではなく、射出物の適用によりプロテクターの回転を規制でき、これによって金型の開発費用を低減する効果がある。具体的に説明すると、射出物を適用しない場合、アルミニウムプロテクターの終端を滑らかに処理するための工程が必要であり、この場合、金型の開発費用が上昇するが、本発明の射出物を適用することにより、この費用を低減することができる。
【0018】
第4に、プロテクターの端部に装着される射出物は耐食性に優れた材質であって、降雨や洗浄などの外部の異物が内部に侵入することを1次的に防止できる。更に仕上げ用射出物、すなわちクリップの締結後にグロメットを適用して水密性を高めることができるため、外部からプロテクターの内部に水分が流入することをより確実に遮断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施例によるシールド導電体を示す分解斜視図である。
【図2】本発明の一実施例によるシールド導電体を示す断面斜視図である。
【図3】本発明の一実施例によるシールド導電体の製作過程を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、添付図面を参照して本発明を詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施例によるシールド導電体を示す分解斜視図であり、図2は、本発明の一実施例によるシールド導電体を示す断面斜視図である。
図1と図2に示すように、本発明のシールド導電体は、各電線の個別遮蔽ではなく、一括遮蔽方式で電線を保護する形態であって、アルミニウム材質の円筒状のプロテクターの外部に、EPDM(エチレンプロピレンゴム)などのプラスチック材質の射出物による結合構造方式を適用し、グロメットを適用することにより、水分などの流入を確実に遮断することを目的とする。
【0021】
このために、本発明の高電圧バッテリを使用する自動車の動力回路は、バッテリパックと高電圧分配ボックスとの間を接続する手段として円筒状のプロテクター11が設けられ、プロテクター11の内部にシールド電線10a及び非シールド電線10bが貫通挿入されて保護される。
【0022】
プロテクター11は、通常、耐食性に優れたアルミニウム材質からなるが、プロテクターの材質がこれに限定される訳ではない。
プロテクター11の端部には、プラスチック材質の射出物からなるプロテクター仕上げ用クリップ13が冠着される。
プロテクター仕上げ用クリップ13は、プロテクター11の端部の外周を囲むように嵌め込まれており、プロテクター仕上げ用クリップ13の後端部に、プロテクター11の内側に向かって1以上の係止用のフック14が突出形成される。プロテクター仕上げ用クリップ13は、例えば180°間隔に配置された3つのフック14を用い、プロテクター11に設けられているクリップ孔15に係止されて締結される。
【0023】
プロテクター仕上げ用クリップ13は、円筒状のキャップの形状を有し、プロテクター11の端部に同心円状にはめ込まれ、フック14とクリップ孔15との締結構造によりプロテクターの端部を仕上げるように冠着される。
【0024】
プロテクター仕上げ用クリップ13の、プロテクター11の先端部の断面を覆う面には、シールド電線10aと非シールド電線10bとを貫通するための電線孔12が形成される。電線孔12は3本の電線を安定して強固に保持する形状を有する。
【0025】
例えば、電線孔12には、合計3本のシールド電線10a及び非シールド電線のうち、相対的に大きい直径の1本のシールド電線10aと相対的に小さい直径の2本の非シールド電線10bそれぞれの外周面が密着収容される。すなわち、各電線の外側面を囲んで載置する3つの電線載置溝部16a、16b、16cが形成される。各電線載置溝部16a、16b、16cは、3本の電線の直径と同一の曲率を有する3個の円弧が1つにつながって電線孔12の全体をなす形状に形成される。
【0026】
これによって、樹脂テープ19により一体化された状態で電線孔12に挿通されるシールド電線10a及び非シールド電線10bの束の外周面は、各電線載置溝部16a、16b、16cの内面と一致する形態に掲載され密着される。このような電線孔12を有するプロテクター仕上げ用クリップ13が電線を保持する役割をするため、プロテクター11が、自動車の底パネルに設けられた状態で、周辺機器との干渉を避けて曲げられる時、プロテクター11の内部で電線が絡まるのを防止することができる。
【0027】
また、プロテクター11の両端部にプラスチック射出物からなるプロテクター仕上げ用クリップ13が冠着されることにより、電線を挿入する時、電線にスクラッチ傷が発生するのを防止することができる。
【0028】
本発明では、外部から異物や水分がプロテクター11の内部に侵入するのを防ぐ手段として、ゴムなどの材質のグロメット17を使用する。
グロメット17は、プロテクター11の端部に装着されるプロテクター仕上げ用クリップ13と、プロテクター11の端部から外部に導き出されるシールド電線10a及び非シールド電線10bの延長部分の一部と、を一緒に被覆する。
この時、グロメット17は予め成形されている形態のものを圧着式ではめ込んで装着してもよく、射出式で所望の形状に成形してもよく、様々な方式を適用することができる。
【0029】
したがって、プロテクター仕上げ用クリップ13による外部の異物を1次的に防止する機能と共に、グロメット17による2次的な水密の機能が加えられ、外部からプロテクターの内部に異物や水分が侵入することをより確実に遮断することができる。
【0030】
また、プロテクター11の端部から外部に突出するシールド電線10a及び非シールド電線10bの束の延長部分を、接地する代わりに編組網部材18により被覆する。編組網部材18は電線の外周面とグロメット17の内周面との間に介在するように配置され、クランプ(図示せず)により固定される。
【0031】
図3は、本発明の一実施例によるシールド導電体の製作過程を示す断面図である。
図3に示すように、先ず、プロテクター11内に挿入する合計3本のシールド電線10a及び非シールド電線10bを一束にまとめて樹脂テープ19により一定の間隔でテーピングする。
【0032】
次いで、テーピング処理された電線をプロテクター11に挿入するが、挿入の前にプロテクター11の端部にプロテクター仕上げ用クリップ13を冠着する。
すなわち、プロテクター仕上げ用クリップ13のフック14をプロテクター11のクリップ孔15に係止することで、クリップによりプロテクター11の端部の仕上げ処理を行う。
【0033】
プロテクター11にプロテクター仕上げ用クリップ13を冠着した後、プロテクター仕上げ用クリップ13の電線孔12を介してシールド電線10a及び非シールド電線10bの束をプロテクター11の内部に挿入する。
この時シールド電線10a及び非シールド電線10bは、プロテクター仕上げ用クリップ13に接触しながら挿入されるため、プロテクター11の鋭い端部に接触することがなく、スクラッチ傷の発生が防止される。
【0034】
プロテクター11にシールド電線10a及び非シールド電線10bの束を挿入した後、プロテクター11の端部の外側に突出している電線の、プロテクター仕上げ用クリップ13と隣接した電線側を、樹脂テープ19で再度テーピングして固定する。
次に、プロテクター11の外部に導き出された電線の周囲に、接地の代わりに編組網部材18を被せ、編組網部材18をクランプにより固定する。
【0035】
これら作業を完了した後、ゴム材質のグロメット17を用い、プロテクター11の端部、プロテクター仕上げ用クリップ13、及びプロテクター11の端部から導き出された一定の長さの電線を一緒に被覆する。これにより、降雨や洗浄水などが外部からプロテクター11の内部に流入して腐食などが発生すること確実に防止することができる。
【0036】
本発明は、プロテクターの両端部を射出成型された部材を使用して封止することにより、電線を挿入する時に発生するスクラッチ傷と、プロテクターを曲げる時に電線が絡まることなどを防止し、外部からプロテクターの内部に水分及び異物が侵入することを防止し、これによって、自動車の動力回路のバッテリパックと高電圧分配ボックスとの間の配線ラインを安全に保護することができる。
【符号の説明】
【0037】
10a シールド電線
10b 非シールド電線
11 プロテクター
12 電線孔
13 プロテクター仕上げ用クリップ
14 フック
15 クリップ孔
16a、16b、16c 電線載置溝部
17 グロメット
18 編組網部材
19 樹脂テープ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バッテリパックと高電圧分配ボックスとの間を接続するシールド電線(10a)及び非シールド電線(10b)と、
前記シールド電線(10a)及び前記非シールド電線(10b)が挿入され貫通される円筒状のプロテクター(11)と、
前記プロテクター(11)の端部の外周を囲み、前記シールド電線(10a)及び前記非シールド電線(10b)に貫通される電線孔(12)と係止用のフック(14)とを有し、前記フック(14)を用いて前記プロテクター(11)に形成されたクリップ孔(15)に係止され、前記プロテクター(11)に冠着されるプラスチック材質の射出物のプロテクター仕上げ用クリップ(13)と、
を有することを特徴とする自動車のシールド導電体。
【請求項2】
前記電線孔(12)は、1本の前記シールド電線(10a)と、前記シールド電線(10a)より相対的に小さい直径の2本の前記非シールド電線(10b)と、のそれぞれの円周の一部を密着収容する3個の電線載置溝部(16a、16b、16c)を有することを特徴とする請求項1に記載の自動車のシールド導電体。
【請求項3】
前記プロテクター(11)の端部から外部に導き出される前記シールド電線(10a)及び前記非シールド電線(10b)の延長部分と、前記プロテクター(11)の端部に装着された前記プロテクター仕上げ用クリップ(13)と、を一緒に被覆して外部から異物や水分が前記プロテクター(11)の内部に侵入するの防止するグロメット(17)を更に含むことを特徴とする請求項1に記載の自動車のシールド導電体。
【請求項4】
前記プロテクター(11)の端部から外部に突出する前記シールド電線(10a)及び前記非シールド電線(10b)の延長部分は、編組網部材(18)で覆われることを特徴とする請求項1に記載の自動車のシールド導電体。
【請求項5】
前記プロテクター(11)は、アルミニウム材質からなることを特徴とする請求項1に記載の自動車のシールド導電体。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−46564(P2013−46564A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−246595(P2011−246595)
【出願日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【出願人】(591251636)現代自動車株式会社 (1,064)
【出願人】(500518050)起亞自動車株式会社 (449)
【出願人】(510297152)ユラ コーポレーション (2)
【Fターム(参考)】