説明

自動車のステアリングシャフト支持構造

【課題】ステアリングシャフトを取り付けたインパネメンバを車体に組み付けるとき、ステアリングシャフトが車体に接触してしまうのを抑制することができる自動車のステアリングシャフト支持構造を提供する。
【解決手段】自動車のステアリングシャフト支持構造は、上端31aがインパネメンバ21に取り付けられ、ユニバーサルジョイント37が設けられたステアリングシャフト31を備え、このステアリングシャフト31がインパネメンバ21の車体への組み付け前に取り付けられるようになっている自動車のステアリングシャフト支持構造であって、インパネメンバ21に取り付けられ、衝突時に操作ペダル9が後退すると操作ペダル9の後退を防止するペダル後退防止構造51と、このペダル後退防止構造51に設けられ、インパネメンバ21を車体に取り付ける際にステアリングシャフト31のシャフト下部31bが仮止めされるブラケット57とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のステアリングシャフト支持構造に関し、特に、ステアリングシャフトがインパネメンバの車体への組み付け前に取り付けられるようになっている自動車のステアリングシャフト支持構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、上端が、ステアリングの位置を調整するための位置調整ユニットを介してインパネメンバに取り付けられ、下端がステアリングギアボックスに連結されて、これらの間で延びるステアリングシャフトの中間部にユニバーサルジョイントを設け、車両の前突時にステアリングシャフトが運転席側に後退するのを防止するようになった、所謂コラプス構造が知られている(例えば、特許文献1参照)。ステアリングシャフトの中間部にユニバーサルジョイントを設けることによって、ステアリングシャフトが車両後方に押された場合に、ステアリングシャフトをユニバーサルジョイントによる連結部位で屈曲させるそしてこれにより、運転席側にステアリングシャフトが後退するのを防止して、ドライバを保護するようになっている。
【0003】
【特許文献1】特開2000−142339号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来から、このようなステアリングシャフトにユニバーサルジョイントを設ける構造においては、例えば位置調整ユニットを介してステアリングシャフトをインパネメンバに取り付けた後に、そのインパネユニットをフロントウィンドウ用開口から車室にいれるようになっている。この間、ユニバーサルジョイントを設けた構造では、ステアリングシャフトの下端をステアリングギアボックスに連結するまで、ステアリングシャフトがインパネメンバに固定された位置調整ユニットから垂れ下がり、ユニバーサルジョイントよりも下側のシャフト下部が、インパネメンバに対して自由に揺動し、車体の組み立て時のステアリングシャフトの取り扱いが困難なものとなっていた。そしてこの場合、ステアリングシャフトは、ステアリングシャフトが揺れて車体を傷付けてしまうという問題があった。
【0005】
そこで本発明は、上述した問題点を解決するためになされたものであり、ステアリングシャフトを取り付けたインパネメンバを車体に組み付けるとき、ステアリングシャフトが車体に接触してしまうのを抑制することができる自動車のステアリングシャフト支持構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するために、本発明は、上端がインパネメンバに取り付けられ、ユニバーサルジョイントが設けられたステアリングシャフトを備え、このステアリングシャフトがインパネメンバの車体への組み付け前に取り付けられるようになっている自動車のステアリングシャフト支持構造であって、インパネメンバに取り付けられ、衝突時に車体に取り付けられた吊下げ式の操作ペダルが後退するとその操作ペダルが当接することにより操作ペダルの後退を防止するペダル後退防止構造と、このペダル後退防止構造に設けられ、インパネメンバを車体に取り付ける際にステアリングシャフトの下部が仮止めされる仮止め部とを有することを特徴とする。
【0007】
このように構成された本発明のステアリングシャフト支持構造によれば、インパネメンバの車体への組み付け前に、ステアリングシャフトの上端がインパネメンバに取り付けられる一方、ステアリングシャフトの下部がペダル後退防止構造の仮止め部を介してインパネメンバに取り付けられる。従って、ステアリングシャフトは、その上下の両端部がインパネメンバに取り付けられることになり、インパネメンバを車体に組み付ける際において、ステアリングシャフトの下部がぶらついたりすることなく、ステアリングシャフトと車体との干渉或いは衝突を有効に防止することが出来る。
【0008】
また、本発明において、好ましくは、仮止め部は、ステアリングシャフトの下部を、車両後側から支持する後側支持部と、この後側支持部の車幅方向両側に各々設けられ、車両前側に向かって突出する第1突出部及び第2突出部を備える。
このように構成された本発明によれば、ステアリングシャフトを車両後側、及び車幅方向の三方向から支持することができ、これにより、インパネメンバを車体に組み付けた後に、仮止めされたステアリングシャフトを容易に解放することができる。
【0009】
また、本発明において、好ましくは、第1突出部は、後側支持部の車幅方向一方側に設けられており、ペダル後退防止構造は、第1突出部よりもさらに車幅方向一方側に設けられた第3突出部と、この第3突出部と第1突出部の間で車幅方向に延び、操作ペダルが当接する当接部材とを備える。
このように構成された本発明によれば、第1突出部と第2突出部によってステアリングシャフトが仮止めされる仮止め部を構成し、さらに第1突出部と第3突出部によって操作ペダルが当接するための部分を構成することができ、これにより第1突出部を2つの部分において相互に使用することができる。
【0010】
また、本発明において、好ましくは、仮止め部は、第1突出部よりも車幅方向一方側に設けられ、仮止め部の垂直方向の剛性を高めるための補強部を備え、この補強部は、車両前後方向の剛性を低下させる脆弱構造を備える。
このように構成された本発明によれば、補強部を設けることによって仮止め部の垂直方向の剛性を高め、さらに脆弱構造によって仮止め部の車両前後方向の剛性を低下させることができ、これにより、操作ペダルが後退して補強部に接触した場合でも、操作ペダルが破損するのを防止することができる。
【0011】
また、本発明において、好ましくは、仮止め部は、車室付属品を支持するための付属品支持部を備える。
このように構成された本発明によれば、仮止め部に車室付属品を支持させることができ、操作ペダルの近くにあることが好ましい、フットライトのような車室付属品を容易に位置決めすることができる。
【0012】
また、本発明において、好ましくは、インパネメンバは、アッパーインパネメンバと、このアッパーインパネメンバの下側に設けられたロワインパネメンバを備え、ペダル後退防止構造は、ロワインパネメンバの車両前側に固定されている。
このように構成された本発明によれば、アッパーインパネメンバとロワインパネメンバの2本のメンバを備えるインパネメンバにおいても、インパネメンバの車体への組み付け時にステアリングシャフトの下部がふらつくのを防止することができる。
【0013】
また、本発明において、好ましくは、仮止め部は、操作ペダルの車両後方に位置決めされており、この操作ペダルの後退を防止するための手段としても機能するようになっている。
このように構成された本発明によれば、操作ペダルの後退を防止するための手段と、仮止め部を同一の部品から構成することができ、これにより、部品点数の増加を防ぐことができる。
【0014】
また、本発明において、好ましくは、ペダル後退防止構造は、操作ペダルの車両後方に位置決めされており、操作ペダルが接触する当接部材をさらに備え、仮止め部は、この当接部材よりも車幅方向内側に位置決めされている。
このように構成された本発明によれば、ステアリングシャフトを仮止めする位置を、操作ペダルの位置とずらすことができ、これにより、インパネを車体に組み付ける前に、車体に操作ペダルが取り付けられていたとしても、ステアリングシャフトと操作ペダルが干渉するのを防止することができる。
【発明の効果】
【0015】
このように本発明によれば、ステアリングシャフトを取り付けたインパネメンバを車体に組み付けるとき、ステアリングシャフトが車体に接触してしまうのを抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態による自動車のステアリングシャフト支持構造について説明する。図1は、自動車の車室前方のインパネの一部を斜め後方から見た斜視図であり、図2は、インパネのカバーを外した状態における、ステアリングシャフト支持構造を車室前方から見た正面図であり、図3は、図2のIII-III´断面の断面図である。
【0017】
まず、図1に示すように、自動車の車室前方には、空調機、各種計器等を搭載するインパネ1が設けられており、さらにインパネ1の運転席側には、ステアリング3が設けられている。また、運転席のステアリング3の下には、アクセルペダル5及びブレーキペダル7等の操作ペダル9が設けられている。この操作ペダル9は、インパネ1の車両前方において車体から吊下げられた、所謂吊下げ式の操作ペダルである。また、インパネ1の車両前側にはフロントウィンドウ11が設けられており、このフロントウィンドウ11は、その車幅方向両側に設けられたAピラー13と、下方のカウル(図示せず)及び上方のルーフによって支持されている。
【0018】
次に、図2及び図3に示すように、車室前方には、ダッシュパネル15と、車幅方向に延びるアッパーインパネメンバ17及びその下側に設けられたロワインパネメンバ19を備えるインパネメンバ21が設けられており、インパネメンバ21は、インパネ1とダッシュパネル15の間に設けられている。アッパーインパネメンバ17及びロワインパネメンバ19は、インパネ1よりも車両前側において、車幅方向に車両を横切るように延びており、インパネメンバ21は、ほぼ平行に延びる2本の管状のインパネメンバ17,19を複数の連結部材23で連結して構成されている。
【0019】
また、インパネメンバ21とダッシュパネル15の間には、アクセルペダル5及びブレーキペダル7が、車体に取り付けられている。そしてブレーキペダル7は、運転席の中央よりも僅かに車幅方向外側において車体に取り付けられたアーム部25と、このアーム部25によって支持されており、運転者が足で踏むペダル面27を備える。アーム部25は、車体への取付け位置からほぼ垂下してロワインパネメンバ19とダッシュパネル15の間を通って延びている。そしてアーム部25の下端には、ペダル面27が固定されている。
【0020】
また、ステアリングシャフト支持構造は、ステアリング3よりも車両前側に設けられ、このステアリング3が連結され、ステアリング3の角度と前側位置を調整するための位置調整ユニット29と、この位置調整ユニット29から車両前側に延び、ステアリング3の操舵力をホイール(図示せず)に伝達するためのステアリングシャフト31を備える。
【0021】
ステアリング3及び位置調整ユニット29は、その車幅方向両側に設けられたインパネフレーム33を介してインパネメンバ21に固定されている。そしてこれらステアリング3及び位置調整ユニット29は、運転席の中央に位置するように位置決めされてインパネメンバ21に固定されている。さらにインパネメンバ21に固定された位置調整ユニット29は、アッパーインパネメンバ17とロワインパネメンバ19の間に位置決めされており、その車両後側が、インパネ1のアッパーカバー35から車両後側に突出するようになっている。
【0022】
また、位置調整ユニット29から延びるステアリングシャフト31は、複数のユニバーサルジョイント37,39と、このユニバーサルジョイント37,39の間に設けられたシャフト部41を備えており、ユニバーサルジョイント37,39が設けられた箇所において屈折するようになっている。このステアリングシャフト31の上端31aは、位置調整ユニット29を介してアッパーインパネメンバ17に取り付けられるようになっている。また、ステアリングシャフト31をステアリングギアボックスに取り付ける前は、ステアリングシャフト31の上側のユニバーサルジョイント37よりも下側のシャフト下部31bは、上側のユニバーサルジョイント37から垂れ下がり、ユニバーサルジョイント37の可動範囲で、アッパーインパネメンバ17に対して自由に移動できるようになっている。そして、ステアリングシャフト31の下端がステアリングギアボックスに取り付けられたときは、ステアリングシャフト31は、ステアリング3の回転軸の延長線上の位置から、アッパーインパネメンバ17とロワインパネメンバ19の間を通って車両前側に延び、さらにロワインパネメンバ19とダッシュパネル15の間を通ってインパネ1のアンダーカバー43よりも車両後側まで延びる。このときステアリングシャフト31は、運転席中央に配置された位置調整ユニット29から、段階的に屈折して車両中央側、且つ下側に向けて延びる。そしてこれにより、ステアリングシャフト31は、位置調整ユニット29と、この位置調整ユニット29よりも車幅方向中央側に設けられたステアリングギアボックスの間で二点支持されている。
【0023】
さらにステアリングシャフト支持構造は、車両の前突時にブレーキペダル7の後退を防止するためのペダル後退防止構造51を備える。ペダル後退防止構造51は、位置調整ユニット29の下方、すなわち運転席の中央近傍において、ロワインパネメンバ19の車両前側に取り付けられている。
【0024】
図4は、ロワインパネメンバを車両前上方から見た斜視図であり、図5は、ロワインパネメンバに設けられたペダル後退防止構造の一部を示す斜視図であり、図6は、ペダル後退防止構造を車両後上方から見た斜視図であり、図7は、ペダル後退防止構造の上面図である。
【0025】
まず、図4に示すようにペダル後退防止構造51は、ロワインパネメンバ19の軸線方向に沿ってロワインパネメンバ19に固定された水平部材53と、ロワインパネメンバ19の軸線と直交するように延びる直交部材55と、所定形状のブラケット57を備える。
【0026】
水平部材53は、コ字状断面を有し、ロワインパネメンバ19の軸線方向に延びるように形成されている。そしてこの水平部材53の車両後側端部は、各々ロワインパネメンバ19の車両前側に固定されており、水平部材53の前側面59は垂直に立設されている。この水平部材53の前側面59には、車両の衝突時に後退するブレーキペダル7が当接し、ブレーキペダル7の後退を防止するようになっている。そして水平部材53の前側面59とロワインパネメンバ19の間には、間隙が設けられており、ブレーキペダル7が水平部材53に当接したときに、その衝撃を吸収するようになっている。
【0027】
また、直交部材55は、ロワインパネメンバ19の車両前側に固定されており、コ字状断面を有し、ロワインパネメンバ19の軸線と直交して、ロワインパネメンバ19の車両前側から、さらに車両前側に向けて延びるように形成されている。そして直交部材55の側面は、垂直に立設されており、さらにロワインパネメンバ19の軸線と直交して車両前後方向に延びる形状を有する。また、この直交部材55は、水平部材53の車幅方向の一方の端部に隣接して、ロワインパネメンバ19に固定されており、水平部材53の前側面59と、直交部材55の側面61は、平面視したときに、ほぼL字を形成するようになっている。また、ブラケット57は、水平部材53の他方の端部に近接してロワインパネメンバ19に固定されている。
【0028】
図5に示すようにブラケット57は、ロワインパネメンバ19の軸線方向に沿って延び、車両前側に向けて開口したほぼコ字断面を有する。ブラケット57の車両後端面63は、ロワインパネメンバ19の軸線方向に沿って延びており、このブラケット57の車両後端面63の上端には、車両前側に向かって延びる第1突出部65と、これよりも車幅方向内側の第2突出部67が設けられている。第1突出部65と第2突出部67は、車幅方向に所定の間隔を隔てて設けられている。そして、第1突出部65及び第2突出部67のうち、車幅方向外側に位置している第1突出部65の車幅方向外側の端面69は、車両前後方向に延びている。また、第1突出部65と第2突出部67の互いに隣接する端面71,73は、平面視したときに車両後側に窪んだ弧を描くように形成されている。そしてこの弧は、その窪んだ箇所に、少なくともステアリングシャフト31のシャフト下部31bを受け入れられる大きさを有する。このようなブラケット57は、一定の強度と、成形性を兼ね備えたPP(ポリプロピレン)のような材料によって形成されるのがよい。
【0029】
また、ブラケット57の車両後側端面63の下端には、車両前側に向かって延びる延設部75が設けられており、この延設部75の車両前側端には、アンダーカバー43を取り付けるための取付孔77が設けられている。ここにアンダーカバー43の取付爪(図示せず)を嵌合することによって、ブラケット57がアンダーカバー43を支持するようになっている。
【0030】
また、図6に示すように、ブラケット57の車両後端面63には、車両後側に突出する突起79が設けられており、この突起79を水平部材53に設けられた孔81に嵌めることによって、ブラケット57を水平部材53に取り付けるようになっている。
【0031】
さらに図7に示すように、ペダル後退防止構造51は、平面視したときに、ロワインパネメンバ19の軸線方向に隣接して、ブラケット57の突起部65、水平部材53の前側面59、及び直交部材55の端面61によって定められるコ字型の第1開口83と、ブラケット57の一対の突起部65,67の互いに隣接する端面73,77によって定められる弧状の第2開口85を有する。
【0032】
第1開口83の間には、水平部材53が延びており、この第1開口83は、自動車の前突時に、後退するブレーキペダル7のアーム部25を受け入れるようになっている。これによりアーム25は、水平部材53に当接する。
【0033】
また、第2開口85は、車両の製造段階における、インパネメンバ21を含むインパネ1、並びにステアリングシャフト31、及び位置調整ユニット29からなるインパネユニットを組み付ける工程中に、ステアリングシャフト31を仮止めできるようになっている。また、第2開口85は、少なくともその車両後側の縁が、ステアリングシャフト31のシャフト下部31bの回動の支点となる上側のユニバーサルジョイント37よりも車両前側に位置するようになっている。そして、第2開口85内では、ステアリングシャフト31は、平面視したときに弧を形成する端面73,77に接触して、これら一対の突起部65,67によって車両後側、及び車幅方向両側から支持される。
【0034】
図8は、インパネユニットを車体に組み付ける工程を示す分解斜視図であり、図9は、インパネユニットを車体に組み付ける工程中におけるペダル後退防止構造を車両前側から見た正面図である。
【0035】
まず、インパネユニットを車体に取り付ける工程に先立って、インパネ1、インパネメンバ21、ステアリングシャフト31、及び位置調整ユニット29を組み立てて、インパネユニットを形成する。アッパーインパネメンバ17及びロワインパネメンバ19の各々の端部には、取付用ブラケット87が設けられている。また、位置調整ユニット29が、インパネメンバ21によって支持されており、位置調整ユニット29の車両前側からは、ステアリングシャフト31が垂れ下がっている。そしてインパネユニットを車体に取り付けるときは、上記のように組み立てたられたインパネユニットを、フロントウィンドウ11用の開口から車室に入れ、アッパーインパネメンバ17及びロワインパネメンバ19に設けられた取付用ブラケット87を、車体側に設けられた支持部89に取り付ける。
【0036】
そしてインパネ1、インパネメンバ21、ステアリングシャフト31、及び位置調整ユニット29を組み立てるときに、図9に示すように、ステアリングシャフト31のシャフト下部31bは、一対の突出部65,67の間に置かれる。これにより、ステアリングシャフト31のシャフト下部31bは、第2開口85によって車両後側から支持されて、第2開口85内に仮止めされる。このとき、ステアリングシャフト31の回動の支点となるユニバーサルジョイント37が、第2開口85の車両後側の縁よりも車両後側に位置しているので、このユニバーサルジョイント37から車両前側に向けて延びるステアリングシャフト31のシャフト下部31bは、自重によって一対の突出部65,67の間に押し付けられて車両前側、及び両側の少なくとも三方向から支持されて、第2開口85内で静止するように保持される。また、ステアリングシャフト31は、車幅方向内側に向けて傾斜するように支持される。そしてインパネユニットを車体に固定した後、ステアリングシャフト31のシャフト下部31bを車両前側に向けて持ち上げることで、シャフト下部31bは、上側のユニバーサルジョイント37を支点に回動し、ステアリングシャフト31を突出部65,67から解放することができる。そして、解放したステアリングシャフト31の下端をステアリングギアボックスに取り付けることができる。
【0037】
また、ステアリングシャフト31を突出部65,67の間に仮止めしたときに、ワイヤやゴム等を使用して、ステアリングシャフト31を突出部65,67の間に仮止めすることもできる。
【0038】
このようにインパネユニットを車体に取り付けるときに、ステアリングシャフト31を一対の突出部65,67の間に仮止めすることによって、取付け工程中にステアリングシャフト31のシャフト下部31bが動くのを防止することができる。また、このときステアリングシャフト31は、車幅方向内側に向けて傾斜するように支持されているので、ステアリングシャフト31とブレーキペダル7のアーム部25の車幅方向の位置がずれるようになっている。これにより、インパネユニットを車体に取り付ける工程に先立って車体にブレーキペダル7が取り付けられていても、取付け時にステアリングシャフト31とブレーキペダル7のアーム部25が干渉するのを防止することができる。
【0039】
図10は、ブラケットの変形例を示す斜視図であり、図11は、このブラケットが取付けられたロワインパネメンバを車両前上方から見た斜視図であり、図12は、ブラケットの別の変形例によるブラケットを示す斜視図である。
【0040】
まず、図10に示すように、ブラケット101では、ブラケット57と比較して取付孔77の幅が広がっており、これによりアンダーカバー43をより確実に固定することができる。さらにブラケット101は、車幅方向外側の突出部65よりもさらに車幅方向外側に補強部103を備える。
【0041】
補強部103は、ブラケット101の車幅方向外側の端部に設けられ、垂直方向に延びる垂直フランジ105と、この垂直フランジ105と連続的に形成され、垂直フランジ105の下端から車両前側に水平に延びる水平フランジ107を備える。そして補強部103は、取付孔77にアンダーカバー43が取り付けられたときのアンダーカバー43の荷重に対する剛性を高めるようになっている。また、補強部103は、ブラケット101の車両前後方向の剛性を低下させるための脆弱構造として、車両前後方向に延びる開口部109を備える。この開口部109は、ブラケット101の車両後端面63と取付孔77の間の延設部75に設けられている。また、開口部109は、車幅方向内側の端部111が、取付孔77の車幅方向外側の端部113よりも車幅方向内側に位置するようになっており、開口部109と取付孔77が車幅方向においてオーバーラップするようになっている。
【0042】
このような補強部103を設けることによって、アンダーカバー43の荷重に対するブラケット101の剛性を高めることができ、これにより、図11に示すような比較的大型のアンダーカバー115を取り付けることができる。また、補強部103に開口部109を設け、さらにこの開口部109と取付孔77を車幅方向においてオーバーラップさせることで、補強部103の車両前後方向の剛性を低下させることができ、これにより、ブレーキペダル7が後退してアーム部25が補強部103に当たったとしても、補強部103が車両前後方向に潰れるのでアーム部25が想定外の挙動で後退するのを防止することができる。
【0043】
また、図12に示すように、ブラケット121の車幅方向内側の延設部123に、車室付属品としてのフットランプ125を取り付けることもできる。ブラケット121にフットランプ125を取り付けることによって、フットランプ125をブレーキペダル7近傍に位置決めすることができる。また、この場合、突出部65,67の下方には、ダミーソケット127が設けられており、これにより、フットランプ125を取り外した場合に、車体の電気系統から延びるフットランプ用の導線が垂れ下がるのを防止することができる。
【0044】
次に、本発明の第2の実施形態について詳述する。図13は、第2の実施形態によるステアリングシャフト支持構造を示す斜視図であり、図14は、図13の要部を拡大した斜視図である。
【0045】
図13及び図14に示すように、ステアリングシャフト支持構造は、車幅方向に延びる1本のインパネメンバ201と、このインパネメンバ201から下方に延びる垂直メンバ203と、この垂直メンバ203の下端に固定されたペダル後退防止ブラケット205を備える。ペダル後退防止ブラケット205の車両後側端部の車幅方向両側には、第1突出部207と、これよりも車幅方向内側の第2突出部209が設けられており、これら突出部207,209の間には、車両後側に向けて開いた第3開口211が形成される。
【0046】
このペダル後退防止ブラケット205は、ブレーキペダル(図示せず)の車両後側に位置決めされており、ブレーキペダルが後退したときに、ブレーキペダルのアーム部(図示せず)が第3開口211によって受け止められるようになっている。また、このペダル後退防止ブラケット205は、インパネユニットを車体に組み付けるときに、ステアリングシャフト31のシャフト下部31bを所定位置に保持する。具体的にはペダル後退防止ブラケット205は、インパネユニットの車体への組み付け工程において、このペダル後退防止ブラケット205よりも車幅方向内側から車幅方向外側に向けて下向きに延びるステアリングシャフト31のシャフト下部31aを、突出部207,209の間で車幅方向に延びる端面によって車両後側から支持し、さらに突出部207,209によって車幅方向両側からステアリングシャフト31を支持することで第3開口211内に保持する。
【0047】
このように第2の実施形態にかかるステアリングシャフト支持構造によれば、インパネユニットの組み付け時にステアリングシャフト31のシャフト下部31bをペダル後退防止ブラケット205に保持させることができ、これにより新たな部品を設けることなく、インパネユニットの車体への組み付けを容易にすることができる。
【0048】
次に第2の実施形態の変形例について詳述する。図15は、第2の実施形態の変形例によるブラケットを示す斜視図であり、図16は、このブラケットを示すの分解斜視図である。
【0049】
図15に示すうに、ブラケット221は、車両後側に向けて開いた第4開口223を備える第1部材225と、第1部材225に隣接して垂直メンバ203に固定された第2部材227を備える。このブラケット221は、1本のインパネメンバ201から下方に延びる垂直メンバ203の先端に固定されている。
【0050】
図16に示すように、第1部材225は、車両前側に設けられた垂直壁229と、この垂直壁229から車幅方向外側に向けて延びる外側延設部231を備える。そしてこの外側延設部231の先端には、車両後側に向いた突出部233が設けられており、さらに外側延設部231の車両前側の端面235は、車幅方向に一直線状に延びている。そして垂直壁229には、取付孔237が形成されている。
【0051】
また、第2部材227は、車両前側に設けられた垂直壁239と、この垂直壁239から車両前側に向けて延びる第1突出部241と、これよりも車幅方向内側の第2突出部243と、垂直壁239と直交して車両前側に延びる直交壁245を備える。垂直壁239の車幅方向外側と、直交壁239には、それぞれ取付孔247,249が形成されており、垂直壁の取付孔247は、第1部材225の垂直壁229の取付孔237と重複するように配置されて、これら取付孔237,247内部にビス251を通すことで、第1部材225と第2部材227を直交メンバ203の車両前側面に固定するようになっている。また、直交壁245の取付孔249にもビス253を通すことで、第2部材227を垂直メンバ203の車幅方向内側面に固定するようになっている。また、突出部241,243の間には、第5開口255が設けられており、この第5開口255は、突出部241,243によってステアリングシャフト31のシャフト下部31bを両側から支持し、さらに突出部241,243の間に延びる面によってステアリングシャフト31のシャフト下部31bを車両後側から支持し、これによりステアリングシャフト31のシャフト下部31bを第5開口255内に保持するようになっている。そして、第1部材225と第2部材227を組み合わせると、車幅方向外側の突出部243と、外側延設部231の先端の突出部233によって、第4開口223が形成される。
【0052】
そして第4開口223は、ブレーキペダル7の車両後側に位置決めされており、さらに第5開口255は、この第4開口223よりも車幅方向内側に位置決めされている。そしてこのような第2の実施形態の変形例によっても、組み付け工程中にステアリングシャフト31のシャフト下部31bを、ブレーキペダルを避けるような位置に仮止めすることができる。
【0053】
次に、本発明の第3の実施形態について詳述する。図17は、第3の実施形態にかかるステアリングシャフト支持構造を示す斜視図である。
【0054】
図17に示すように、ステアリングシャフト支持構造は、車幅方向に延びる1本のインパネメンバ301から、下方に向けて延びるペダル後退防止部材303を備える。このペダル後退防止部材303は、ブレーキペダル7のアーム部25と車幅方向において重複する位置で、インパネメンバ301に固定されている。また、ペダル後退防止部材303は、車両後側下方に向けて延びる底面部305を備える。この底面部305は、車幅方向と平行に延び、さらに段階的に屈曲しており、インパネメンバ301近傍ではほぼ垂直となり、ペダル後退防止部材303の下端近傍ではほぼ水平になっている。そして、この底面部305の両側には、段階的に屈曲した底面部305に沿って延びる壁部307,309が設けられている。そしてこのようなペダル後退防止部材303は、底面部305及びその両側に設けられた壁部307,309によって、上側に開口したコ字断面を有する。また、ペダル後退防止部材303の下端では、壁部307,309が底面部305から車両前側に突出しており、この突出した部分が、一対の突出部311,313を形成するようになっている。そして、これら突出部311,313の間に形成された第6開口315がブレーキペダル7の後退を防止すると共に、インパネユニットの車体への組み付け時における仮止め部としても機能する。
【0055】
このように第3の実施形態にかかるステアリングシャフト支持構造によれば、インパネユニットの取付け時にステアリングシャフト31を第6開口315に保持させることができ、インパネユニットの取付けを容易にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の第1の実施形態による自動車の車室前方のインパネの一部を斜め後方から見た斜視図である。
【図2】インパネのカバーを外した状態における、本発明の第1の実施形態のステアリングシャフト支持構造を車室前方から見た正面図である。
【図3】図2のIII-III´断面の断面図である。
【図4】本発明の第1の実施形態によるロワインパネメンバを車両前上方から見た斜視図である。
【図5】本発明の第1の実施形態によるロワインパネメンバに設けられたペダル後退防止構造の一部を示す斜視図である。
【図6】本発明の第1の実施形態によるペダル後退防止構造を車両後上方から見た斜視図である。
【図7】本発明の第1の実施形態によるペダル後退防止構造の上面図である。
【図8】本発明の第1の実施形態によるインパネユニットを車体に組み付ける工程を示す分解斜視図である。
【図9】本発明の第1の実施形態によるインパネユニットを車体に組み付ける工程中におけるペダル後退防止構造を車両前側から見た正面図である。
【図10】本発明の第1の実施形態の変形例によるブラケットの変形例を示す斜視図である。
【図11】本発明の第1の実施形態の変形例によるこのブラケットが取付けられたロワインパネメンバを車両前上方から見た斜視図である。
【図12】本発明の第1の実施形態の別の変形例によるブラケットを示す斜視図である。
【図13】本発明の第2の実施形態によるステアリングシャフト支持構造を示す斜視図である。
【図14】図13の要部を拡大した斜視図である。
【図15】第2の実施形態の変形例によるブラケットを示す斜視図である。
【図16】第2の実施形態の変形例によるブラケットを示すの分解斜視図である。
【図17】第3の実施形態によるステアリングシャフト支持構造を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0057】
1 インパネ
7 ブレーキペダル
9 操作ペダル
17 アッパーインパネメンバ
19 ロワインパネメンバ
21 インパネメンバ
31 ステアリングシャフト
31a ステアリングシャフト上端
31b シャフト下部31b
51 ペダル後退防止構造
53 水平部材
55 直交部材
57,101,121 ブラケット
65,207,241 第1突出部
67,209,243 第2突出部
83 第1開口
85 第2開口
103 補強部
109 開口部
205 ペダル後退防止ブラケット
211 第3開口
223 第4開口
225 第1部材
227 第2部材
255 第5開口
303 ペダル後退防止部材
315 第6開口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上端がインパネメンバに取り付けられ、ユニバーサルジョイントが設けられたステアリングシャフトを備え、このステアリングシャフトが前記インパネメンバの車体への組み付け前に取り付けられるようになっている自動車のステアリングシャフト支持構造であって、
前記インパネメンバに取り付けられ、衝突時に車体に取り付けられた吊下げ式の操作ペダルが後退するとその操作ペダルが当接することにより操作ペダルの後退を防止するペダル後退防止構造と、
このペダル後退防止構造に設けられ、前記インパネメンバを車体に取り付ける際に前記ステアリングシャフトの下部が仮止めされる仮止め部と、
を有することを特徴とする自動車のステアリングシャフト支持構造。
【請求項2】
前記仮止め部は、前記ステアリングシャフトの下部を、車両後側から支持する後側支持部と、この後側支持部の車幅方向両側に各々設けられ、車両前側に向かって突出する第1突出部及び第2突出部を備える請求項1に記載の自動車のステアリングシャフト支持構造。
【請求項3】
前記第1突出部は、前記後側支持部の車幅方向一方側に設けられており、
前記ペダル後退防止構造は、前記第1突出部よりもさらに車幅方向一方側に設けられた第3突出部と、
この第3突出部と前記第1突出部の間で車幅方向に延び、前記操作ペダルが当接する当接部材とを備える請求項2に記載の自動車のステアリングシャフト支持構造。
【請求項4】
前記仮止め部は、前記第1突出部よりも車幅方向一方側に設けられ、当該仮止め部の垂直方向の剛性を高めるための補強部を備え、
この補強部は、車両前後方向の剛性を低下させる脆弱構造を備える請求項3に記載の自動車のステアリングシャフト支持構造。
【請求項5】
前記仮止め部は、車室付属品を支持するための付属品支持部を備える請求項1乃至4の何れか1項に記載の自動車のステアリングシャフト支持構造。
【請求項6】
前記インパネメンバは、アッパーインパネメンバと、このアッパーインパネメンバの下側に設けられたロワインパネメンバを備え、
前記ペダル後退防止構造は、前記ロワインパネメンバの車両前側に固定されている請求項1乃至請求項5の何れか1項に記載の自動車のステアリングシャフト支持構造。
【請求項7】
前記仮止め部は、前記操作ペダルの車両後方に位置決めされており、この操作ペダルの後退を防止するための手段としても機能するようになっている請求項1又は2に記載の自動車のステアリングシャフト支持構造。
【請求項8】
前記ペダル後退防止構造は、前記操作ペダルの車両後方に位置決めされており、前記操作ペダルが接触する当接部材をさらに備え、
前記仮止め部は、この当接部材よりも車幅方向内側に位置決めされている請求項1又は請求項2に記載の自動車のステアリングシャフト支持構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate


【公開番号】特開2010−143487(P2010−143487A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−324711(P2008−324711)
【出願日】平成20年12月19日(2008.12.19)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【出願人】(390026538)ダイキョーニシカワ株式会社 (492)
【Fターム(参考)】