説明

自動車のパワートレインの試験装置

【課題】タイヤの影響を考慮したパワートレインの単独試験を可能とする。
【解決手段】ベース1に対して前後に移動可能に設けたステージ12上には、試験対象となるパワートレイン100が、タイヤ101が連結された状態で搭載される。ベース1の内部のアクチュエータ21で、ステージ12の下部を押し引きすることにより、タイヤ101の、ローラ2の周面に対する押圧力は制御される。ローラ2のローラシャフト3には、ローラモータ7が連結されている。また、ローラシャフト3に加わる軸回り(捻れ方向)のトルクを検出するローラ軸トルク計5、ローラシャフト3の回転速度を検出するローラ回転計6が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のパワートレインの試験に用いられる試験装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車の試験装置としては、車輪が載せ置かれるローラを備えたシャシダイナモメータを用いて、電気自動車を模擬走行させながら、電気自動車の走行用モータやバッテリの試験を行う試験装置(たとえば、特許文献1)や、ハイブリッド自動車のドライブシャフトに、負荷吸収用のモータを直結して、ハイブリッド自動車の各種性能の試験を行う技術(たとえば、特許文献2)や、電気自動車のモータの出力軸に負荷吸収用のモータを直結して、電気自動車の各種性能の試験を行う技術(たとえば、特許文献3)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10-123018号公報
【特許文献2】特開2005-274323公報
【特許文献3】特開2007-139527公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述したシャシダイナモメータを用いた試験装置によれば、駆動ユニットを電気自動車に搭載した状態でしか試験を行うことができず、パワートレイン単体での試験はこれを行うことができない。
一方で、前述した電気自動車のドライブシャフトやモータの出力軸に負荷吸収用モータを直結した試験装置によれば、タイヤの影響を考慮したパワートレインの試験は、これを行うことができない。
そこで、本発明は、タイヤの影響を考慮したパワートレインの単独試験を可能とすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題達成のために、本発明は自動車のパワートレインの試験に用いられる試験装置に、周面に前記タイヤが圧接されるローラと、前記ローラにトルクを与えるローラ用モータと、前記タイヤから前記ローラに加わるトルクを検出するローラトルク検出部と、前記タイヤが連結された前記パワートレインが搭載された可動ステージと、荷重制御手段とを設けたものである。ただし、前記可動ステージは、前記タイヤが前記ローラの周面と遠近する方向に移動可能であり、前記荷重制御手段は、前記可動ステージに力を加え、前記タイヤの前記ローラ周面に対する押圧力を制御するものである。
【0006】
このような試験装置によれば、タイヤをローラの周面に圧接した状態で、ローラモータの発生トルクを制御しながら、パワートレインを、タイヤに負荷を与えながら運転させることができるようになる。よって、タイヤの影響を含めてパワートレインの単独での試験を行うことができる。
【0007】
ここで、このような試験装置において、前記可動ステージは、前記タイヤと前記ローラの接点において、前記タイヤが前記ローラの径方向に移動する方向に移動可能とし、前記荷重制御手段は、前記可動ステージに力を加え、前記タイヤと前記ローラの接点において、前記タイヤが前記ローラに対して当該ローラの径方向に加える押圧力を制御するものとしてもよい。また、このような試験装置には、前記パワートレインと前記タイヤとの間に働くトルクを検出するタイヤトルク検出部を設けることが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
以上のように、本発明によれば、タイヤの影響を考慮したパワートレインの単独試験が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施形態に係る試験装置の構成を示す図である。
【図2】本発明の実施形態に係る試験装置の制御装置の構成を示すブロック図である。
【図3】本発明の実施形態に係る試験装置の他の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について説明する。
図1a1、a2に、本実施形態に係る試験装置の構成を示す。
ここで、図1a1、a2に示すように上下前後左右を定義するものとして、図1a1は試験装置を上方より見たようすを、図1a2は試験装置を右方より見たようすを表している。
図示するように、試験装置は、ベース1、ローラ2、ローラ2に連結されたローラシャフト3、ローラシャフト3を回動可能に支持する、ベース1に固定されたローラシャフト軸受4、ローラシャフト3に加わる軸回り(捻れ方向)のトルクを検出するローラ軸トルク計5、ローラシャフト3の回転速度を検出するローラ回転計6、ベース1に固定された、ローラシャフト3に出力軸が連結されているローラモータ7とを備えている。そして、このような構成によって、ローラモータ7の発生トルクがローラ2に伝達され、ローラモータ7の回転に伴いローラ2が回転するようになっている。
【0011】
また、試験装置は、ベース1に対して前後に移動可能に、二本のガイドシャフト11により支持されたステージ12を備えている。
そして、ステージ12上には、試験対象となるパワートレイン100が搭載される。また、パワートレイン100には、パワートレイン100によって回転駆動されるタイヤ101が連結される。ここで、パワートレイン100は、電気自動車のFFまたはRR方式のパワートレイン100であり、モータコントローラ、モータ、トランスミッション、ディファレンシャル等が一体化されている。パワートレイン100には、パワートレイン100のディファレンシャルに連結されたアクスルシャフト102が連結されており、このアクスルシャフト102の端部にタイヤ101が装着される。このパワートレイン100は、ステージ12に固定されており、アスクルシャフトはステージ12上に設けた軸受121で軸支されている。なお、この軸受121は、電気自動車のサスペンションを模擬するものとしてもよい。
【0012】
そして、ステージ12上には、アクスルシャフト102の回転速度を検出するタイヤ回転計13と、アクスルシャフト102に加わる軸回り(捻れ方向)のトルクを検出するタイヤ軸トルク計14とが設けられている。
また、パワートレイン100には、ステージ12の外に配置された、パワートレイン100に電力を供給するバッテリ103が接続されている。
また、試験装置は、図1b1に示すように、ベース1の内部にアクチュエータ21を備えており、アクチュエータ21で、ステージ12の下部を押し引きすることにより、図1b1-b2に示すように、ステージ12をベース1に対して前後方向に移動したり、タイヤ101の周面をローラ2の周面に任意の力で押しつけることができるようになっている。
【0013】
ここで、このような構成によれば、アクチュエータ21を用いて、タイヤ101の周面をローラ2の周面に任意の力で圧接した状態で、ローラモータ7の発生トルクを制御しながら、パワートレイン100を、タイヤ101に負荷を与えながら運転させることができるようになる。
【0014】
さて、このような試験装置において、本試験装置は、ローラモータ7やパワートレイン100の制御や、パワートレイン100の各種特性の測定を行うために、図1においては図示を省略した制御部を備えている。
図2に、この制御部の構成を示す。
図示するように、パワートレイン制御部200と、ローラモータ制御部210と、測定部220とより構成される。
パワートレイン制御部200は、用意された試験スケジュールに従って、タイヤ回転計13やタイヤ軸トルク計14の検出値を参照しながら、パワートレイン100の動作を制御する。
また、ローラモータ制御部210は、駆動力算出部211と走行抵抗算出部212とPID制御部213とを備えている。
走行抵抗算出部212は、ローラ回転計6が出力するローラ2の回転速度から算出されるローラ2の周速度を、パワートレイン100が搭載される電気自動車である仮想車両の車速として、当該車速における仮想車両の空気抵抗相当分の負荷を走行抵抗として算出し、駆動力算出部211は、仮想車両の重量をM、仮想車両の加速度をa、仮想車両の駆動力をF、仮想車両の走行抵抗(空気抵抗)をRa、仮想車両のタイヤ101の駆動力をFとするF=Ma+Raのモデルに基づいて、ローラ回転計6が出力するローラ2の回転速度から算出されるローラ2の周速度の加速度として求まる仮想車両の加速度に、仮想車両の重量Mを乗じた値に、走行抵抗算出部212が算出した走行抵抗を加算して、当該仮想車両のタイヤ101の駆動力を算出し、目標吸収力とする。
【0015】
そして、PID制御部213は、目標吸収力相当のトルクを発生するようにローラモータ7の発生トルクを制御する。
そして、測定部220は、ローラ回転計6が出力するローラ2の回転速度や、タイヤ回転計13が出力するタイヤ101の回転速度や、ローラ軸トルク計5が出力するローラシャフト3の軸トルクや、タイヤ軸トルク計14が出力するアクスルシャフト102の軸トルクや、その他の任意の測定器で検出した測定値(たとえば、消費電力や、回生電力)などに応じて、パワートレイン100の各種特性を測定する。
【0016】
以上、本発明の実施形態について説明した。
ところで、以上の実施形態では、ステージ12を前後方向に移動することにより、タイヤ101の周面をローラ2の周面に任意の力で押しつけて圧接できるようにしたが、これは、図3a1、a2に示すように、ベース1に対して揺動可能にステージ12を設け、荷重シリンダ31によってステージ12をステージ12の揺動軸回りの力を加えることにより、タイヤ101がローラ2の周面に加える押圧力を制御するようにしてもよい。
【0017】
ここで、ステージ12のベース1との連結点である揺動軸Pは、タイヤ101のローラ2との接点の揺動軸P回りの回転方向が、当該接点付近においてローラ2の周面と垂直となるように、ローラ2とタイヤ101との接点におけるローラ2の周の接線上(図では接点の真下)に配置する。これにより、荷重シリンダ31の力によりタイヤ101のローラ2との接点に働く力がローラ2の周面と垂直な方向と力となる。
【0018】
また、本実施形態で示した試験装置は、ハイブリッド自動車のパワートレインやガソリンエンジンを用いたパワートレインの試験に適用することもできる。
また、本実施形態で示した試験装置は、インホイールモータ方式の電気自動車のパワートレインの試験を行う場合についても同様に適用することができる。すなわち、この場合には、図3bに示すように、タイヤ101を装着したインホイールモータユニット300を、ステージ12上に固定するようにする。ここで、インホイールモータユニット300は、インホイールモータやトランスミッションを内蔵したユニットである。
【符号の説明】
【0019】
1…ベース、2…ローラ、3…ローラシャフト、4…ローラシャフト軸受、5…ローラ軸トルク計、6…ローラ回転計、7…ローラモータ、11…ガイドシャフト、12…ステージ、13…タイヤ回転計、14…タイヤ軸トルク計、21…アクチュエータ、31…荷重シリンダ、100…パワートレイン、101…タイヤ、102…アクスルシャフト、103…バッテリ、200…パワートレイン制御部、210…ローラモータ制御部、211…駆動力算出部、212…走行抵抗算出部、213…PID制御部、220…測定部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車のパワートレインの試験に用いられる試験装置であって、
周面に前記タイヤが圧接されるローラと、
前記ローラにトルクを与えるローラ用モータと、
前記タイヤから前記ローラに加わるトルクを検出するローラトルク検出部と、
前記タイヤが連結された前記パワートレインが搭載された可動ステージと、
荷重制御手段とを備え、
前記可動ステージは、前記タイヤが前記ローラの周面と遠近する方向に移動可能であり、
前記荷重制御手段は、前記可動ステージに力を加え、前記タイヤの前記ローラに対する押圧力を制御することを特徴とする試験装置。
【請求項2】
請求項1記載の試験装置であって、
前記可動ステージは、前記タイヤと前記ローラの接点において、前記タイヤが前記ローラの径方向に移動する方向に移動可能であり、
前記荷重制御手段は、前記可動ステージに力を加え、前記タイヤと前記ローラの接点において、前記タイヤが前記ローラに対して当該ローラの径方向に加える押圧力を制御することを特徴とする試験装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の試験装置であって、
前記パワートレインと前記タイヤとの間に働くトルクを検出するタイヤトルク検出部を有することを特徴とする試験装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−257173(P2011−257173A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−129827(P2010−129827)
【出願日】平成22年6月7日(2010.6.7)
【出願人】(000145806)株式会社小野測器 (230)
【Fターム(参考)】