説明

自動車のフロア構造

【課題】車体重量増やコスト上昇を招くことなく、車両衝突時の衝突荷重を効率よく分散させることができる自動車のフロア構造を提供する。
【解決手段】フロアパネル3の、トンネル部(車体構成部材)3aとフロアメンバ11との間には、車幅方向に延びるビード部3hが形成され、該ビード部3hの車幅方向端部3h′には、フロアメンバ11の接合部(側縁部)11eが重ね合わせて結合されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両前後方向に延びる左,右一対のサイドメンバと、該左,右のサイドメンバの後部に配設されたフロアパネルとを備えた自動車のフロア構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のフロア部は、左,右のサイドメンバの後部上面にフロアパネルを結合し、該フロアパネルの車幅方向中央部にトンネル部を形成するとともに、車幅方向外縁部にロッカパネルを結合した構造となっている。
【0003】
このようなフロア部では、サイドメンバの前部がフロアパネルより前方に延びていることから、車両衝突時にサイドメンバに加わる入力と、フロアパネルのトンネル部に加わる入力とに時間差,入力差が生じ、フロアパネルのサイドメンバとトンネル部との間に皺が発生したり,フロアパネルのスポット溶接部が剥離したりする場合があり、衝突荷重をトンネル部に分散させることができないという懸念がある。
【0004】
このような皺の発生や溶接部の剥離を防止するために、例えば、特許文献1には、フロアパネルの下面に配設されたフロアトンネルと、左,右のサイドメンバの上面に結合されたフロアフレームとにそれぞれ延長部を形成し、該延長部同士を重ね合わせて結合することにより、フロアフレームに作用する衝突荷重をフロアトンネルに分散させるようにした構造のものが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−119493号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、前記特許文献1では、フロアパネルの下面にフロアトンネルを追加することで補強する構造であり、このため車体重量及びコストが増えるという問題がある。特に、軽量化,低コスト化が望まれる小型車の場合には、前記フロアトンネルの追加は採用し難い構造であり、衝突安全構造を満足しつつ、軽量化,低コスト化を達成するフロア構造が要請される。
【0007】
本発明は、前記従来の実情に鑑みてなされたもので、車体重量増やコスト上昇を招くことなく、車両衝突時の衝突荷重を分散できる自動車のフロア構造を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、車両前後方向に延びる左,右一対のサイドメンバと、該左,右のサイドメンバの後部上面に配設されたフロアパネルと、該フロアパネルの前記左,右のサイドメンバの車幅方向内側又は外側に車両前後方向に延びるように設けられた車体構成部材とを備えた自動車のフロア構造であって、前記フロアパネルの上面には、該フロアパネルを挟んで前記左,右のサイドメンバに対向するよう配設された断面ハット形状の左,右一対のフロアメンバが設けられ、前記フロアパネルの前記車体構成部材と前記フロアメンバとの間には、車幅方向に延びるビード部が形成され、該ビード部の車幅方向端部には、前記フロアメンバの側縁部が重ね合わせて結合されていることを特徴としている。
【0009】
ここで、本発明における前記車体構成部材には、フロアパネルの車幅方向中央部に形成されたトンネル部,あるいはフロアパネルの外縁部に結合されたロッカパネルが含まれ、前記ビード部は、フロアパネルのトンネル部とフロアメンバとの間,あるいはフロアパネルのロッカパネルとフロアメンバとの間の何れか一方に設けるか、又は両方に設けることとなる。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係るフロア構造によれば、フロアパネルの車体構成部材とフロアメンバとの間に車幅方向に延びるビード部を形成し、該ビード部の車幅方向端部にフロアメンバの側縁部を重ね合わせて結合したので、サイドメンバに加わる衝突荷重は、その一部がフロアメンバからビード部を介して車体構成部材に伝達されることとなり、衝突荷重を効率よく分散させることができ、所望の衝突安全構造を得ることができる。
【0011】
本発明では、フロアパネルに形成される車体振動による騒音を抑制するためのビード部を有効利用することにより衝突安全構造を実現できるので、従来の補強部材を追加する場合に比べて車体重量及びコストを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施例1による自動車のフロア構造を説明するためのフロントフロア部の平面図である。
【図2】前記フロントフロア部の断面側面図である。
【図3】前記フロントフロア部のビード部の平面図である。
【図4】前記フロントフロア部の断面図(図1のIV-IV線断面図)である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0014】
図1ないし図4は、本発明の実施例1による自動車のフロア構造を説明するための図である。なお、本実施例の説明のなかで前後,左右という場合は、特記なき限り、フロアに搭載されたシートに着座した状態で車両進行方向に向かって見た場合の前後,左右を意味する。
【0015】
図において、1は自動車のフロントフロア部を示している。このフロントフロア部1は、車両前後方向に延びる左,右一対のサイドメンバ2,2と、該左,右のサイドメンバ2の後述するリヤ部2cの上面に結合されたフロアパネル3とを備えている。前記フロントフロア部1は、車体中心線Cに対して略左右対称となっている(図1参照)。
【0016】
前記フロントフロア部1は、前記フロアパネル3の左,右のサイドメンバ2の間の車幅方向中央部に前後方向に延びるよう一体に形成されたトンネル部(車体構成部材)3aと、車両前後方向に延びる左,右のロッカパネル(車体構成部材)4,4とを備えている。前記ロッカパネル4,4は、前記フロアパネル3の左,右のサイドメンバ2の車幅方向外側に形成されたフランジ部3b,3bに結合されている。
【0017】
前記フロアパネル3のトンネル部3aと左,右のロッカパネル4との間の部分は、平坦部3g,3gとなっている。また前記左,右のロッカパネル4の前部とサイドメンバ2との間にはサスペンションタワー5,5が結合されている。
【0018】
前記左,右のサイドメンバ2は、車両側方から見ると、略水平に直線状に延びるフロント部2aと、該フロント部2aの後端から斜め下方に傾斜して延びるキック部2bと、該キック部2bの下端から車両後方に略直線状に延びる前記リヤ部2cとを有する。
【0019】
前記左,右のフロント部7a間にエンジンユニット及びサスペンションメンバ(不図示)が搭載されており、前記左,右のリヤ部7cの上面に前記フロアパネル3が配置されている。
【0020】
前記左,右のサイドメンバ2のキック部2bには、エンジン室Eと車室Rとを画成するダッシュパネル7が配設されている。このダッシュパネル7と前記トンネル部3aとの間にはダッシュリインホース8が架け渡して結合されている。
【0021】
前記ダッシュパネル7は、その下縁部7aが前記フロアパネル3の前縁部3cにスポット溶接により結合されており、上縁部7bが車幅方向に延びるカウルパネル(不図示)にスポット溶接により結合されている。
【0022】
前記フロアパネル3のトンネル部3aは、前記左,右の平坦部3g,3gの内縁に続いて上方に起立して延びる左,右縦壁3d,3dと、該左,右縦壁3dの上縁から内側に延びる上壁3eとを有する断面凸形状をなしている。前記上壁3eにはシフトレバー挿通孔3fが形成されている。
【0023】
前記トンネル部3aの上面にはトンネルリインホース9が配置されている。該トンネルリインホース9は、トンネル部3aの上壁3eと左,右縦壁3dの上部とを覆うように形成され、該左,右縦壁3dにスポット溶接により結合されている。
【0024】
前記フロアパネル3の後部には、車幅方向に延びるクロスメンバ10が配設されている。このクロスメンバ10は、下方に開口する断面ハット形状をなしており、その車幅方向両端部10aが前記ロッカパネル4に結合され、前,後フランジ部10b,10cがフロアパネル3に結合されている。
【0025】
前記クロスメンバ10にはシート(不図示)が取り付けられ、フロアパネル3の平坦部3gのクロスメンバ10前側部分が乗員の足載せ部となっている。
【0026】
前記フロアパネル3の上面には、左,右のフロアメンバ11,11がフロアパネル3を挟んで前記左,右のサイドメンバ2に対向するように配設されている。
【0027】
前記左,右のフロアメンバ11は、下方に開口する断面ハット形状をなしており、これの車幅方向内,外フランジ部11a,11bは、前記フロアパネル3とともに前記サイドメンバ2に3枚重ねでスポット溶接により結合されている。
【0028】
前記左,右のフロアメンバ11の前端部11cは、前記ダッシュパネル7とともにサイドメンバ2に3枚重ねでスポット溶接により結合されている。また後端部11dは、前記クロスメンバ10の前フランジ部10bとフロアパネル3との間に配置され、3枚重ねでスポット溶接により結合されている。
【0029】
前記フロアパネル3の平坦部3gの、トンネル部3aと左,右のフロアメンバ11との間には、車幅方向に延びる4つのビード部3hが前後方向に所定間隔をあけて形成されている。
【0030】
前記各ビード部3hは、上方に凸状をなすように形成されており、フロアパネル3の面剛性を高めることにより車体振動によるこもり音の発生を抑制している。
【0031】
前記各ビード部3hの外端部3h′は、フロアメンバ11の近傍まで延びており、各内端部3h′′は、トンネル部3aの左,右縦壁3dの中途部まで延びている。
【0032】
そして前記各ビード部3hの外端部3h′には、前記フロアメンバ11の内フランジ部11aに、上方に段をなすように延長形成された接合部11eが重ね合わされており、この各外端部3h′と接合部11eとはスポット溶接により結合されている(図3の×印参照)。
【0033】
本実施例によれば、フロアパネル3のトンネル部3aとフロアメンバ11との間に車幅方向に延びる複数のビード部3hを上方に凸をなすように形成し、各ビード部3hの車幅方向外端部3h′にフロアメンバ11の接合部11eを重ね合わせてスポット溶接により結合したので、サイドメンバ2に加わる衝突荷重は、その一部がフロアメンバ11から各ビード部3hを介してトンネル部3aに伝達されることとなり、衝突荷重を効率よく分散させることができ、所望の衝突安全性能を得ることができる。
【0034】
本実施例では、フロアパネルにこもり音抑制のために形成された既存のビード部3hを有効利用することにより衝突安全構造を実現できるので、従来の補強部材を追加する場合に比べて車体重量及びコストを低減できる。ちなみに、従来のビード部は、フロアパネルのトンネル部と平坦部とのコーナー部分に形成されているに過ぎず、衝突荷重の伝達機能は得られない。本実施例では、前記ビード部をフロアメンバに近接する位置まで延長し、フロアメンバに結合したのでビード部が衝突荷重の伝達機能を有する。
【0035】
なお、前記実施例1では、フロアパネル3のトンネル部3aとフロアメンバ11との間にビード部3hを形成したが、本発明は、図3において、二点鎖線で示すように、フロアパネル3のフロアメンバ11とロッカパネル4との間に複数のビード部3iを形成し、該各ビード部3iの内端部3i′に、フロアメンバ11の外フランジ部11bに延長形成された接合部11fを重ね合わせて結合してもよい。
【0036】
このようにフロアパネル3のフロアメンバ11を挟んだ左,右側部にビード部3h,3iを形成し、左,右の各ビード部3h,3iにフロアメンバ11の接合部11e,11fを接合した場合には、サイドメンバ2からの衝突荷重をトンネル部3aとロッカパネル4とに分散させることができ、軽量,低コストでありながら、より高い衝突安全構造を得ることができる。
【0037】
また前記実施例では、ビード部をフロアメンバの近傍に位置するように形成したが、ビード部を延長してサイドメンバとフロアメンバとのフランジ部で挟むようにしてもよい。このようにした場合には、フロアメンバに接合部を延長形成しなくても済む。
【符号の説明】
【0038】
1 フロントフロア部
2 サイドメンバ
3 フロアパネル
3a トンネル部(車体構成部材)
3h,3iビード部
4 ロッカパネル(車体構成部材)
11 フロアメンバ
11e,11f 接合部(側縁部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両前後方向に延びる左,右一対のサイドメンバと、
該左,右のサイドメンバの後部上面に配設されたフロアパネルと、
該フロアパネルの前記左,右のサイドメンバの車幅方向内側又は外側に車両前後方向に延びるように設けられた車体構成部材と
を備えた自動車のフロア構造であって、
前記フロアパネルの上面には、該フロアパネルを挟んで前記左,右のサイドメンバに対向するよう配設された断面ハット形状の左,右一対のフロアメンバが設けられ、
前記フロアパネルの前記車体構成部材と前記フロアメンバとの間には、車幅方向に延びるビード部が形成され、
該ビード部の車幅方向端部には、前記フロアメンバの側縁部が重ね合わせて結合されている
ことを特徴とする自動車のフロア構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−30657(P2012−30657A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−170874(P2010−170874)
【出願日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】