説明

自動車のフロントピラー

【課題】フロントピラーの重量増加を抑えた状態で、中空部材の剛性を高めることができる自動車のフロントピラーを提供する。
【解決手段】右フロントピラー18は、車体後方に向けて上り勾配に延出された中空部材25が多角形の閉断面に形成され、中空部材25にアウタパネル28が設けられている。この右フロントピラー18は、中空部材25の車外側壁部26が車体外側に向けて膨出するように凸形湾曲状に形成されるとともに、中空部材25の車室側壁部27が車体外側に向けて凹むように凹形湾曲状に形成されている。そして、凹形湾曲状に形成された車室側壁部27にインナパネル29を重ね合わせた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空部材が車体後方に向けて上り勾配に延出され、中空部材にアウタパネルが設けられた自動車のフロントピラーに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のフロントピラーのなかには、アウタパネルおよびインナパネルのフランジ部を溶接して閉断面状に形成したものに代えて、ハイドロフォーム成形法で一体形成された中空部材を用いたものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2006−182079号公報
【0003】
ハイドロフォーム成形法で中空部材を一体に成形することで、アウタパネルおよびインナパネルのフランジ部を溶接して閉断面状に形成する必要がない。
アウタパネルおよびインナパネルのフランジ部は、それぞれのパネルから外側に張り出された張出片である。
よって、フランジ部を減らすことで、フロントピラーの幅寸法を小さく抑え、車室内側からの視界範囲をさらに広く確保することが可能であるとされている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、中空部材はハイドロフォーム成形法で一体成形されている。よって、中空部材の剛性を高めるためには、中空部材の全体において肉厚寸法を大きく設定する必要がある。
しかし、中空部材全体の肉厚寸法を大きく設定すると、フロントピラーの重量が増加することが考えられ、この観点から改良の余地が残されていた。
【0005】
本発明は、フロントピラーの重量増加を抑えた状態で、中空部材の剛性を高めることができる自動車のフロントピラーを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に係る発明は、車体後方に向けて上り勾配に延出された中空部材が車体外側に対向する車外側壁部および車室側に対向する車室側壁部で多角形の閉断面に形成され、前記車外側壁部に対向してアウタパネルが設けられ、前記中空部材および前記アウタパネルがサイドドア窓枠の一部を構成する自動車のフロントピラーにおいて、前記中空部材の車外側壁部が車体外側に向けて膨出するように凸形湾曲状に形成されるとともに、前記中空部材の前記車室側壁部が車体外側に向けて凹むように凹形湾曲状に形成され、凹形湾曲状に形成された前記車室側壁部に前記インナパネルを重ね合わせたことを特徴とする。
【0007】
請求項2は、前記インナパネルは、前記中空部材の一部を収容可能な規制凹部を備え、前記規制凹部で前記中空部材の車幅方向への移動を規制することを特徴とする。
【0008】
請求項3は、前記アウタパネルに、前記サイドドア窓枠の内側に張り出された窓枠側アウタフランジを備え、前記インナパネルに、前記サイドドア窓枠の内側に張り出された窓枠側インナフランジを備え、前記窓枠側アウタフランジおよび前記窓枠側インナフランジが重ね合わせられ、重ね合わせた前記窓枠側アウタフランジおよび前記窓枠側インナフランジを、前記サイドドア窓枠のシール材を取り付けるシール取付部としたことを特徴とする。
【0009】
請求項4は、前記アウタパネルに、前記サイドドア窓枠の外側に張り出された外側アウタフランジを備え、前記外側アウタフランジが前記中空部材に接合され、前記インナパネルに、前記サイドドア窓枠の外側に張り出された外側インナフランジを備え、前記外側インナフランジが前記中空部材に接合されたことを特徴とする。
【0010】
請求項5は、前記外側アウタフランジおよび前記中空部材が前記外側アウタフランジのみに電極を押し付けるインダイレクトスポット溶接で接合され、前記外側インナフランジおよび前記中空部材がミグ溶接で接合され、前記窓枠側アウタフランジおよび前記窓枠側インナフランジが重ね合わされ、重ね合わされた前記窓枠側アウタフランジおよび前記窓枠側インナフランジを一対の電極で挟み込むダイレクトスポット溶接で接合されたことを特徴とする。
【0011】
ここで、例えば、中空部材に外側アウタフランジや外側インナフランジを接合する方法として、スポット溶接(ダイレクトスポット溶接)が考えられる。
ダイレクトスポット溶接は、重ね合わせた2部材を一対の電極で挟み込むために、一方の電極を中空部材内に差し込む必要がある。
しかし、中空部材は閉断面に形成された長尺部材であり、一方の電極を中空部材内に差し込むことは難しい。
【0012】
そこで、請求項5において、外側アウタフランジおよび中空部材をインダイレクトスポット溶接(いわゆる、片側スポット溶接)で接合し、外側インナフランジおよび中空部材をミグ(MIG)溶接で接合することにした。そして、外部に露出された窓枠側アウタフランジおよび窓枠側インナフランジをダイレクトスポット溶接で接合することにした。
【0013】
請求項6は、前記インナパネルのうち、前記車室側壁部に重ね合わせた部位が、前記車室側壁部にミグ溶接で接合されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に係る発明では、中空部材の車外側壁部が車体外側に向けて膨出するように凸形湾曲状に形成され、中空部材の車室側壁部が車体外側に向けて凹むように凹形湾曲状に形成されている。
よって、車体前部に衝撃荷重が作用して、衝撃荷重の一部が中空部材に伝わったとき、中空部材が車体外側に向けて折れ曲がるように中空部材曲げ応力が作用する。
よって、一部の衝撃荷重が中空部材に伝わったとき、中空部材の車室側壁部に圧縮応力が作用する。
【0015】
そこで、請求項1において、中空部材の車室側壁部にインナパネルを重ね合わせた。車室側壁部にインナパネルを重ね合わせることで、車室側壁部の剛性を高めることができる。
これにより、一部の衝撃荷重が中空部材に作用した場合に、作用した衝撃荷重を車室側壁部で長手方向に効率よく伝えることができる。
【0016】
さらに、中空部材の車室側壁部にインナパネルを重ね合わせるだけで、衝撃荷重を長手方向に効率よく伝えることができるので、従来技術で説明したように、中空部材全体の肉厚寸法を大きく設定する必要がない。
これにより、フロントピラーの重量増加を抑えることができる。
【0017】
請求項2に係る発明では、インナパネルに、中空部材の一部を収容可能な規制凹部を備えた。そして、規制凹部で、中空部材が車幅方向へ移動することを規制するようにした。
中空部材が車幅方向へ移動することを規制凹部で規制することで、中空部材の剛性を高めることができる。
【0018】
よって、衝撃荷重の一部が中空部材に伝わり、中空部材に曲げ応力が作用したとき、中空部材の幅方向への移動を規制することができる。
これにより、中空部材に作用した曲げ応力を中空部材で長手方向に効率よく伝えることができる。
【0019】
請求項3に係る発明では、アウタパネルに窓枠側アウタフランジを備え、インナパネルに窓枠側インナフランジを備えた。
そして、窓枠側アウタフランジおよび窓枠側インナフランジを重ね合わせた。
これにより、重ね合わせたフランジでフロントピラーを補強し、フロントピラーの剛性を高めることができる。
【0020】
さらに、重ね合わせたフランジを、サイドドアのシール材を取り付けるシール取付部として利用するようにした。
これにより、シール取付部の剛性を高めることができ、サイドドアのシール材をシール取付部で一層良好に支えることができる。
【0021】
請求項4に係る発明では、アウタパネルに外側アウタフランジを備え、外側アウタフランジを中空部材に接合した。また、インナパネルに外側インナフランジを備え、外側インナフランジを中空部材に接合した。
よって、アウタパネルおよびインナパネルの各フランジを互いに重ね合わせる必要がない。
これにより、アウタパネルおよびインナパネルをコンパクトに抑えることができるので、フロントピラーの軽量化を図ることができる。
【0022】
請求項5に係る発明では、外側アウタフランジおよび中空部材を、外側アウタフランジに電極を押し付けるインダイレクトスポット溶接で接合した。
よって、重ね合わせた外側アウタフランジおよび中空部材を一対の電極で挟み込む必要がない。
これにより、中空部材内に電極を差し込み、差し込んだ電極を中空部材の内面に押し付ける必要がない。
【0023】
また、外側インナフランジおよび中空部材をミグ溶接で接合した。
よって、外側インナフランジに、電極となる溶接ワイヤを近接することで外側インナフランジおよび中空部材を接合することができる。
これにより、中空部材内に電極を差し込み、差し込んだ電極を中空部材の内面に押し付ける必要がない。
【0024】
さらに、窓枠側アウタフランジおよび窓枠側インナフランジを、窓枠側アウタフランジおよび窓枠側インナフランジを一対の電極で挟み込むダイレクトスポット溶接で接合した。
窓枠側アウタフランジおよび窓枠側インナフランジは両部材とも外部に露出されている。
これにより、重ね合わせた窓枠側アウタフランジおよび窓枠側インナフランジを一対の電極で挟み込むことができる。
【0025】
このように、各接合部の構成に適した溶接手段を採用することで、溶接による接合工程を効率よくおこなうことができ、自動車のフロントピラーの量産性を高めることができる。
【0026】
加えて、中空部材は肉厚寸法が比較的大きい、さらに、インナフランジはアウタフランジと比較して板厚寸法が大きい。そこで、外側インナフランジおよび中空部材をミグ溶接で接合することにした。
これにより、外側インナフランジを中空部材に一層強固に接合することが可能になり、フロントピラーの剛性をさらに高めることができる。
【0027】
請求項6に係る発明では、インナパネルのうち、車室側壁部に重ね合わせた部位をミグ溶接で接合した。
中空部材の車室側壁部にインナパネルをミグ溶接で接合することで、フロントピラーの剛性を一層高めることができる。
これにより、オフセット衝突などのように、フロントピラーに比較的大きな衝撃荷重が作用する場合でも、作用した衝撃荷重をフロントピラーで支えることが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
本発明を実施するための最良の形態を添付図に基づいて以下に説明する。なお、「前」、「後」、「左」、「右」は運転者から見た方向にしたがい、前側をFr、後側をRr、左側をL、右側をRとして示す。
【0029】
図1は本発明に係る自動車のフロントピラーを備えた車体を示す斜視図である。
車体10は、ラジエータなどの冷却部材を支えるフロントバルクヘッド11と、フロントバルクヘッド11の下端部に設けられた左右のフロントサイドフレーム12,12と、左右のフロントサイドフレーム12,12の外側にそれぞれ設けられた左右のアッパフレーム13,13と、左右のアッパフレーム13,13をフロントバルクヘッド11に連結する左右の連結バー14,14とを備えている。
左右のフロントサイドフレーム12,12の前端部12a,12aにフロントバンパービーム15が架け渡されている。
【0030】
さらに、車体10は、左右のアッパフレームから車体後方に向けてそれぞれ延出された左右のフロントピラー(自動車のフロントピラー)17,18と、左右のフロントピラー17,18から車体後方に向けてそれぞれ延出された左右のルーフサイドレール21,21とを備えている。
【0031】
左右のフロントピラー17,18は、左右対称の部材である。よって、右フロントピラー18について説明して左フロントピラー17の説明を省略する。
【0032】
図2は本発明に係る自動車のフロントピラーを示す平面図、図3は本発明に係る自動車のフロントピラーの湾曲状態を説明する図である。
右フロントピラー18は、サイドドア窓枠23(図1参照)の上部(一部)を構成する支柱である。
右フロントピラー18は、右アッパフレーム13の後端部13aに連結された中空部材25と、中空部材25の車外側壁部26に設けられたアウタパネル28と、中空部材25の車室側壁部27に設けられたインナパネル29とを備えている。
【0033】
この中空部材25は、ハイドロフォーム成形法で略矩形状の閉断面に一体成形された部材であり、車体外側に対向する車外側壁部26(図5も参照)と、車室34側に対向する車室側壁部27(図5も参照)とを備えている。
【0034】
右フロントピラー18は、図3に示すように、車体外側に向けて膨出するように湾曲状に形成されている。
よって、車体外側に対向する車外側壁部26は、車体外側に向けて膨出するように凸形湾曲状に形成される。
一方、車室34側に対向する車室側壁部27は、車体外側に向けて凹むように凹形湾曲状に形成されている。
【0035】
具体的には、中空部材25の車外側壁部26は、側面視で上方に膨出する湾曲線32のように凸形湾曲状に形成されている。
なお、湾曲線32は、右フロントピラー18の前後の端部18a,18bを結んだ直線31に対して車体外側上方に距離L1だけ膨出された線である。
【0036】
さらに、中空部材25の車外側壁部26は、平面視で車体幅方向外側に膨出する湾曲線33のように凸形湾曲状に形成されている。
なお、湾曲線33は、右フロントピラー18の前後の端部18a,18bを結んだ直線31に対して車体幅方向外側に距離L2だけ膨出された線である。
【0037】
一方、中空部材25の車室側壁部27は、側面視で上方に凹む湾曲線32のように凹形湾曲状に形成されている。
さらに、中空部材25の車室側壁部27は、平面視で車体幅方向外側に凹む湾曲線33のように凸形湾曲状に形成されている。
【0038】
よって、中空部材25に衝撃荷重F(図3参照)が作用した際に、中空部材25が車体外側(矢印方向)に向けて折れ曲がるように、中空部材25に曲げ応力が作用する。
すなわち、衝撃荷重Fが中空部材25に伝わったとき、中空部材25の車室側壁部27に圧縮応力が作用する。
そこで、凹形湾曲状に形成された車室側壁部27に、インナパネル29を重ね合わせた。
さらに、凸形湾曲状に形成された車外側壁部26に、アウタパネル28を重ね合わせた。
凹形湾曲状に形成された車室側壁部27にインナパネル29を重ね合わせることで、車室側壁部27の剛性を高めることができる。
これにより、衝撃荷重が中空部材25に作用した場合に、作用した衝撃荷重を車室側壁部27(中空部材25)で長手方向に効率よく伝えることができる。
【0039】
さらに、中空部材25の車室側壁部27にインナパネル29を重ね合わせるだけで、衝撃荷重を長手方向に効率よく伝えることができるので、従来技術で説明したように、中空部材全体の肉厚寸法を大きく設定する必要がない。
これにより、右フロントピラー18の重量増加を抑えることができる。
【0040】
図4は図2の4部を拡大した状態を示す斜視図、図5は図4の5−5線断面図である。
中空部材25は、右アッパフレーム13の後端部13a(図2参照)から右ルーフサイドレール21まで車体後方に向けて上り勾配に延出された支柱である。
この中空部材25は、前述したように、ハイドロフォーム成形法で略矩形状の閉断面に一体成形された部材であり、車体外側に対向する車外側壁部26と、車室34側に対向する車室側壁部27とを備えている。
【0041】
車外側壁部26は、外上壁部35および外側壁部36で断面略L字状に形成された部位である。
車室側壁部27は、内下壁部37および内側壁部38で断面略L字状に形成された部位である。
【0042】
車外側壁部26に対向してアウタパネル28が設けられている。
アウタパネル28は、車外側壁部26に沿って設けられた長尺状の部材である。
このアウタパネル28は、車外側壁部26に対向するように所定間隔をおいて設けられたアウタ本体41と、アウタ本体41の下辺41aからサイドドア窓枠23(図1参照)の内側に張り出された窓枠側アウタフランジ42と、アウタ本体41の上辺41bから外上壁部35に沿って車室34側に向けて張り出された横アウタフランジ(外側アウタフランジ)43を備えている。
【0043】
車室側壁部27に対向してインナパネル29が設けられている。
インナパネル29は、車室側壁部27に沿って設けられた長尺状の部材である。
このインナパネル29は、車室側壁部27に対向するように設けられたインナ本体45と、インナ本体45の外辺45aからサイドドア窓枠23の内側に張り出された窓枠側インナフランジ46と、インナ本体45の内辺45bから内側壁部38に沿って上方に向けて張り出された縦インナフランジ(外側インナフランジ)47とを備えている。
【0044】
アウタパネル28の窓枠側アウタフランジ42およびインナパネル29の窓枠側インナフランジ46が重ね合わせられ、重ね合わせた窓枠側アウタフランジ42および窓枠側インナフランジ46がダイレクトスポット溶接で接合されている。
これにより、重ね合わせたフランジ42,46で右フロントピラー18を補強し、右フロントピラー18の剛性を高めることができる。
【0045】
そして、接合した窓枠側アウタフランジ42および窓枠側インナフランジ46を、サイドドア51用のシール材53(すなわち、サイドドア窓枠23のシール材)を取り付けるシール取付部52として用いることにした。
これにより、シール取付部52の剛性を高めることができ、シール取付部52でサイドドア51のシール材53を一層良好に支えることができる。
【0046】
アウタパネル28の横アウタフランジ43は、中空部材25(外上壁部35)にインダイレクトスポット溶接で接合されている。
インナパネル29の縦インナフランジ47は、中空部材25(内側壁部38)にミグ溶接で接合されている。
【0047】
よって、横アウタフランジ43および縦インナフランジ47を互いに重ね合わせる必要がない。
これにより、アウタパネル28およびインナパネル29をコンパクトに抑えることができるので、右フロントピラー18の軽量化を図ることができる。
【0048】
インナ本体45は、内下壁部37に沿って設けられた接合部(すなわち、インナパネル29のうち、車室側壁部27に重ね合わせた部位)54と、接合部54の外辺54aから略90°上方に向けて立ち上げられた外立上部55とを備えている。
接合部54は、内下壁部37に接触した状態に配置されている。接合部54は内下壁部37に重ね合わされて溶接部64…が内下壁部37にミグ溶接で接合されている。
外立上部55は、外側壁部36の下部36aに接触した状態に配置されている。
【0049】
また、接合部54の内辺(インナ本体45の内辺)45bから縦インナフランジ47が内側壁部38に沿って略90°上方に向けて張り出されている。
縦インナフランジ47は、内側壁部38に対して一定間隔Sをおいて配置され、上辺47aに複数の溶接凹部57が所定間隔をおいて形成されている。
【0050】
複数の溶接凹部57は、内側壁部38に向けて突出した部位で、内側壁部38に接触された状態に保たれている。
複数の溶接凹部57の溶接部65が、中空部材25(内側壁部38)にミグ溶接で接合されている。
【0051】
ここで、インナ本体45および縦インナフランジ47で規制凹部61が構成されている。規制凹部61は、中空部材25の下部(中空部材の一部)25aを収容可能な凹部である。
この規制凹部61は、中空部材25の下部25aを収容することで、中空部材25が車幅方向に移動することを規制できる。
中空部材25が車幅方向へ移動することを規制凹部61で規制することで、中空部材25の剛性を高めることができる。
【0052】
よって、衝撃荷重が中空部材25に伝わり、中空部材25に曲げ応力が作用した場合に、中空部材25が幅方向に移動することを規制できる。
これにより、中空部材25に作用した衝撃荷重を中空部材25で長手方向に効率よく伝えることができる。
【0053】
つぎに、自動車の右フロントピラー18を溶接する例を図6に基づいて説明する。
図6は本発明に係る自動車のフロントピラーを溶接する例を説明する図である。
まず、窓枠側アウタフランジ42および窓枠側インナフランジ46をスポット溶接する例について説明する。
窓枠側アウタフランジ42および窓枠側インナフランジ46を重ね合わせた状態で、重ね合わせたフランジ42,46を一対の電極71,72で挟み込む。一対の電極71,72間に電流を流して各フランジ42,46をダイレクトスポット溶接で接合する。
【0054】
窓枠側アウタフランジ42および窓枠側インナフランジ46は両部位とも、中空部材25から離れる方向に延出されている。
重ね合わせたフランジ42,46が外部に露出されている。これにより、各フランジ42,46を一対の電極71,72で挟み込むことができるので、ダイレクトスポット溶接による接合が可能になる。
【0055】
つぎに、横アウタフランジ43および中空部材25(外上壁部35)をスポット溶接する例について説明する。
外上壁部35に横アウタフランジ43を重ね合わせた状態で、横アウタフランジ43に電極73を押し付ける。電極73および外上壁部35間に電流を流して外上壁部35および横アウタフランジ43をインダイレクトスポット溶接で接合する。
【0056】
よって、重ね合わせた横アウタフランジ43および外上壁部35を一対の電極で挟み込む必要がない。
これにより、中空部材25内に電極を差し込んで、中空部材25の内面に電極を押し付ける必要がない。
【0057】
ついで、縦インナフランジ47を中空部材25(内側壁部38)にミグ溶接する例について説明する。
内側壁部38に縦インナフランジ47を重ね合わせた状態で、縦インナフランジ47に溶接ワイヤ75を近接させ、この溶接ワイヤ75を電極として用い、縦インナフランジ47を内側壁部38にミグ溶接で接合する。
【0058】
このように、縦インナフランジ47に、電極となる溶接ワイヤ75を近接させることで縦インナフランジ47および内側壁部38を接合することができる。
これにより、中空部材25内に電極を差し込み、差し込んだ電極を中空部材25の内面に押し付ける必要がない。
【0059】
このように、各接合部の構成に適した溶接手段を採用することで、溶接による接合工程を効率よくおこなうことができ、右フロントピラー18の量産性を高めることができる。
【0060】
加えて、中空部材25は肉厚寸法T1が比較的大きい、さらに、インナフランジ29の板厚寸法T2はアウタフランジ28の板厚寸法T3と比較して大きい。
そこで、縦インナフランジ47および中空部材25をミグ溶接で接合することにした。
これにより、縦インナフランジ47を中空部材25に一層強固に接合することが可能になり、右フロントピラー18の剛性をさらに高めることができる。
【0061】
つぎに、インナパネル29の接合部54を中空部材25(内下壁部37)にミグ溶接する例について説明する。
このミグ溶接は、内下壁部37にインナパネル29の接合部54を重ね合わせた状態で、接合部54に、レーザを併用して溶接ワイヤ76を近接させる。
そして、溶接部64…に沿って溶接ワイヤ76を移動し、溶接部64…を溶け込ませて接合部54を内下壁部37に接合する。
すなわち、このミグ溶接は、溶接部64…を溶け込ませることで、いわゆる、貫通ミグ溶接といわれる。
【0062】
接合部54を内下壁部37にミグ溶接で接合することで、右フロントピラー18の剛性を一層高めることができる。
これにより、オフセット衝突などのように、右フロントピラー18に比較的大きな衝撃荷重が作用する場合でも、作用した衝撃荷重を右フロントピラー18で支えることが可能になる。
【0063】
つぎに、自動車の右フロントピラー18に衝撃荷重が作用した例を図7〜図8に基づいて説明する。
図7(a),(b)は本発明に係る自動車の前部に相手車両が衝突した例を説明する図である。
(a)において、車体10のフロントバンパービーム15に相手車両81が衝突することで、フロントバンパービーム15に衝撃荷重F1が矢印の如く作用する。
衝撃荷重F1の一部が、右アッパフレーム13を経て右フロントピラー18に衝撃荷重F2として矢印の如く伝わる。
【0064】
(b)において、車室側壁部27にインナパネル29が重ね合わされている。
これにより、衝撃荷重F2((a)参照)が中空部材25に作用した場合に、作用した衝撃荷重F2を車室側壁部27(中空部材25)で長手方向に効率よく伝えることができる。
【0065】
さらに、中空部材25の下部(一部)25aが規制凹部61で収容されている。
よって、衝撃荷重F2((a)参照)が中空部材25に作用した場合に、中空部材25の幅方向への移動を規制凹部61で規制することができる。
【0066】
このように、車室側壁部27にインナパネル29を重ね合わせ、さらに、中空部材25の幅方向への移動を規制凹部61で規制することで、(a)に示すように、作用した衝撃荷重F2を中空部材25で右ルーフサイドレール21まで矢印の如く効率よく伝えることができる。
【0067】
図8(a),(b)は本発明に係る自動車の前部に相手車両がオフセット衝突した例を説明する図である。
(a)において、車体10のフロントバンパービーム15に相手車両81が右側にずれてオフセット衝突することで、フロントバンパービーム15に衝撃荷重F3が矢印の如く作用する。
衝撃荷重F3の一部が、右アッパフレーム13を経て右フロントピラー18に衝撃荷重F4として矢印の如く伝わる。
【0068】
(b)において、車室側壁部27にインナパネル29が重ね合わされている。
これにより、衝撃荷重F4((a)参照)が中空部材25に作用した場合に、作用した衝撃荷重F4を車室側壁部27(中空部材25)で長手方向に効率よく伝えることができる。
【0069】
さらに、中空部材25の下部(一部)25aが規制凹部61で収容されている。
よって、衝撃荷重F4((a)参照)が中空部材25に作用した場合に、中空部材25の幅方向への移動を規制凹部61で規制することができる。
【0070】
加えて、接合部54の溶接部64が中空部材25(内下壁部37)にミグ溶接で接合されることで、右フロントピラー18の剛性が一層高められている。
【0071】
これにより、オフセット衝突などのように、右フロントピラー18に比較的大きな衝撃荷重が作用する場合でも、(a)に示すように、作用した衝撃荷重F4を中空部材25で右ルーフサイドレール21まで矢印の如く効率よく伝えることができる。
【0072】
なお、前記実施の形態では、中空部材25を略矩形状の閉断面に形成した例について説明したが、これに限らないで、5角形などの他の多角形の閉断面に形成することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明は、中空部材が車体後方に向けて上り勾配に延出され、中空部材にアウタパネルが設けられたフロントピラーを備えた自動車への適用に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明に係る自動車のフロントピラーを備えた車体を示す斜視図である。
【図2】本発明に係る自動車のフロントピラーを示す平面図である。
【図3】本発明に係る自動車のフロントピラーの湾曲状態を説明する図である。
【図4】図2の4部を拡大した状態を示す斜視図である。
【図5】図4の5−5線断面図である。
【図6】本発明に係る自動車のフロントピラーを溶接する例を説明する図である。
【図7】本発明に係る自動車の前部に相手車両が衝突した例を説明する図である。
【図8】本発明に係る自動車の前部に相手車両がオフセット衝突した例を説明する図である。
【符号の説明】
【0075】
10…車体、17,18…左右のフロントピラー(サイドドア窓枠の上部(一部)、自動車のフロントピラー)、23…サイドドア窓枠、25…中空部材、25a…中空部材の下部(中空部材の一部)、26…車外側壁部、27…車室側壁部、28…アウタパネル、29…インナパネル、34…車室、42…窓枠側アウタフランジ、43…横アウタフランジ(外側アウタフランジ)、46…窓枠側インナフランジ、47…縦インナフランジ(外側インナフランジ)、51…サイドドア、52…シール取付部、53…シール材、61…規制凹部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体後方に向けて上り勾配に延出された中空部材が車体外側に対向する車外側壁部および車室側に対向する車室側壁部で多角形の閉断面に形成され、前記車外側壁部に対向してアウタパネルが設けられ、前記中空部材および前記アウタパネルがサイドドア窓枠の一部を構成する自動車のフロントピラーにおいて、
前記中空部材の車外側壁部が車体外側に向けて膨出するように凸形湾曲状に形成されるとともに、
前記中空部材の前記車室側壁部が車体外側に向けて凹むように凹形湾曲状に形成され、
凹形湾曲状に形成された前記車室側壁部に前記インナパネルを重ね合わせたことを特徴とする自動車のフロントピラー。
【請求項2】
前記インナパネルは、
前記中空部材の一部を収容可能な規制凹部を備え、
前記規制凹部で前記中空部材の車幅方向への移動を規制することを特徴とする請求項1記載の自動車のフロントピラー。
【請求項3】
前記アウタパネルに、前記サイドドア窓枠の内側に張り出された窓枠側アウタフランジを備え、
前記インナパネルに、前記サイドドア窓枠の内側に張り出された窓枠側インナフランジを備え、
前記窓枠側アウタフランジおよび前記窓枠側インナフランジが重ね合わせられ、
重ね合わせた前記窓枠側アウタフランジおよび前記窓枠側インナフランジを、前記サイドドア窓枠のシール材を取り付けるシール取付部としたことを特徴とする請求項1または請求項2記載の自動車のフロントピラー。
【請求項4】
前記アウタパネルに、前記サイドドア窓枠の外側に張り出された外側アウタフランジを備え、
前記外側アウタフランジが前記中空部材に接合され、
前記インナパネルに、前記サイドドア窓枠の外側に張り出された外側インナフランジを備え、
前記外側インナフランジが前記中空部材に接合されたことを特徴とする請求項3記載の自動車のフロントピラー。
【請求項5】
前記外側アウタフランジおよび前記中空部材が前記外側アウタフランジのみに電極を押し付けるインダイレクトスポット溶接で接合され、
前記外側インナフランジおよび前記中空部材がミグ溶接で接合され、
前記窓枠側アウタフランジおよび前記窓枠側インナフランジが重ね合わされ、重ね合わされた前記窓枠側アウタフランジおよび前記窓枠側インナフランジを一対の電極で挟み込むダイレクトスポット溶接で接合されたことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の自動車のフロントピラー。
【請求項6】
前記インナパネルのうち、前記車室側壁部に重ね合わせた部位が、前記車室側壁部にミグ溶接で接合されたことを特徴とする請求項5記載の自動車のフロントピラー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−13021(P2010−13021A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−176261(P2008−176261)
【出願日】平成20年7月4日(2008.7.4)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】