説明

自動車のブロワーモータ用転がり軸受

【課題】低温から高温までの広い温度範囲における音響特性に優れ、かつ高温耐久性に優れた自動車のブロワーモータ用転がり軸受を提供する。
【解決手段】内輪と外輪との間に保持器により複数の転動体を回動自在に保持してなり、40℃における動粘度が90〜150mm2/secで、ペンタエリスリトールとジペンタエリスリトールとを混合したエステル系合成油を基油全量の50質量%以上含有する基油に、リチウム石けんを配合したグリースを封入したことを特徴とする自動車のブロワーモータ用転がり軸受。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低温から高温まで優れた音響特性を示す自動車のブロワーモータ用転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のブロワーモータ用転がり軸受では、その潤滑のために主としてグリースが使用されている。このブロワーモータ用転がり軸受は、低温時においても作動することから低温時の潤滑不良による異音の発生、また運転席に近い場所に配置されることが多いことから音響特性(特に静粛性)に対して厳しい要求がある。また、100℃を超えるような高温で使用されるものもあり、高温での耐久性も必要とされている。
【0003】
従来、上記ブロワーモータ用転がり軸受に封入されるグリースとして、低粘度のエステル系合成油にリチウム石けんを配合したリチウム石けん系グリースや、合成炭化水素油にウレア化合物を配合したウレア系グリースが一般的である。しかし、リチウム石けん系グリースは、音響特性は良好であるものの、高温耐久性に問題があり、特に100℃を超えるような高温での使用には適していない。一方、ウレア系グリースは、高温耐久性に優れるものの、リチウム石けんグリースと比較すると音響特性が劣っており、静粛性が要求される箇所での使用は難しい。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、低温から高温までの広い温度範囲における音響特性に優れ、かつ高温耐久性に優れた自動車のブロワーモータ用転がり軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的は、本発明の、内輪と外輪との間に保持器により複数の転動体を回動自在に保持してなり、40℃における動粘度が90〜150mm2/secで、ペンタエリスリトールとジペンタエリスリトールとを混合したエステル系合成油を基油全量の50質量%以上含有する基油に、リチウム石けんを配合したグリースを封入したことを特徴とする自動車のブロワーモータ用転がり軸受により達成される。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、低温から高温までの広い温度範囲における音響特性に優れ、かつ高温耐久性に優れた自動車のブロワーモータ用転がり軸受が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明に関して図面を参照して詳細に説明する。
【0008】
本発明において、軸受構造自体は特に制限ものではなく、従来より自動車のブロワーモータに使用されている転がり軸受とすることができる。例えば、図1に断面図として示すような、外周面に内輪軌道1を有する内輪2と、内周面に外輪軌道3を有する外輪4との間に、複数の転動体である玉5を保持器7により転動自在に保持し、更に後述されるグリース(図示せず)をシール装置6で封止した玉軸受を例示することができる。以下に、封入グリースに関して説明する。
【0009】
[基油]
使用される基油は、40℃における動粘度が90〜150mm2/secであり、ペンタエリスリトールエステルとジペンタエリスリトールエステルとを混合したエステル系合成油を必須成分として含有する。動粘度が90mm/sec未満では、低温での流動性に劣るようになり、異音の発生が起こりやすくなる。また、動粘度が150mm/secよりも大きくなると、高温で油膜が形成され難くなり、焼付きを起こしやすくなる。
【0010】
基油におけるエステル系合成油の含有量は、基油全体の50質量%以上とすることが好ましく、50質量%未満では音響特性に劣るようになる。エステル系合成油以外には、合成炭化水素油やエーテル系合成油を好適に使用できる。以下に、特に好ましい合成炭化水素油、エーテル系合成油を例示するが、これに限定されるものではない。
【0011】
合成炭化水素油としては、例えば、ノルマルパラフィン、イソパラフィン、ポリブテン、ポリイソブチレン、1−デセンオリゴマー、1−デセン・エチレンコオリゴマー等のポリ−α−オレフィンまたはこれらの水素化物、あるいはモノアルキルベンゼン、ジアルキルベンゼン等のアルキルベンゼン、更にはモノアルキルナフタレン、ジアルキルナフタレン、ポリアルキルナフタレン等のアルキルナフタレン等が挙げられる。
【0012】
エーテル系合成油としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコールモノエーテル、ポリプロピレングリコールモノエーテル等のポリグリコール油、あるいはモノアルキルトリフェニルエーテル、アルキルジフェニルエーテル、ジアルキルジフェニルエーテル、ペンタフェニルエーテル、テトラフェニルエーテル、モノアルキルテトラフェニルエーテル、ジアルキルテトラフェニルエーテル等のフェニルエーテル油等が挙げられる。
【0013】
基油は、エステル系合成油を必須成分とし、合成炭化水素油やエーテル系合成油を適宜併用して上記動粘度の範囲に調整して使用される。また、基油は、エステル系合成油同士を混合して上記動粘度の範囲とし、エステル系合成油単独とすることもできる。
【0014】
[増ちょう剤]
上記基油に配合される増ちょう剤は、リチウム石けんである。中でも、ステアリン酸リチウムや12−ヒドロキシステアリン酸リチウム等が好ましい。本発明においては、目的とする音響特性や高温耐久性を得るために、グリースの混和ちょう度はNLGINo.1〜No.3の範囲が好ましく、そのためにはリチウム石けんをグリース全量の5〜20質量%の割合で配合することが好ましい。
【0015】
[添加剤]
グリースには、更に優れた性能を付与するために、必要に応じて公知の添加剤を添加してもよい。例えば、リチウム石けん以外の金属石けん、ベントン、シリカゲル等のゲル化剤;アミン系、フェノール系、イオウ系、ジチオリン酸亜鉛等の酸化防止剤;塩素系、イオウ系、リン系、ジチオリン酸亜鉛、有機モリブデン等の極圧剤;脂肪酸、動植物油等の油性剤;石油スルフォネート、ジノニルナフタレンスルフォネート、ソルビタンエステル等の錆止め剤;ベンゾトリアゾール、亜硝酸ソーダ等の金属不活性剤;ポリメタクリレート、ポリイソブチレン、ポリスチレン等の粘度指数向上剤等を単独で、または適宜組み合わせて添加することができる。その添加量は、本発明の目的を達成できれば特に制限されるものではないが、グリース全量の20質量%以下の割合とする。これよりも多くなると相対的に基油や増ちょう剤の含有量が低下するため、目的とする音響特性や高温耐久性が得られない。
【0016】
[製法]
グリースの製造方法は特に制限されるものではないが、一般的には、基油中でリチウム石けんを反応させることにより得ることができる。そのときの加熱温度や攪拌・混合時間等の製造条件は、使用する基油やリチウム石けん、添加剤の種類や配合により適宜設定される。
【実施例】
【0017】
以下に実施例を挙げて本発明を更に説明する。
【0018】
(グリースの調製)
表1に示す配合にて、グリースA〜Dを調製した。尚、リチウム石けんとして12−ヒドロキシステアリン酸リチウム、ウレア化合物としてジウレア化合物、エステル系合成油としてペンタエリスリトールエステルとジペンタエリスリトールエステルとの混合油、合成炭化水素油としてポリα−オレフィン油をそれぞれ用いた。グリースAでは基油の動粘度を25〜250mm2/secの範囲、グリースCでは増ちょう剤量を3〜25質量%の範囲でそれぞれ変えて調製した。また、グリースDは増ちょう剤をウレア化合物とした比較用である。
【0019】
【表1】

【0020】
(軸受音響耐久試験)
図2に示す試験装置10を用いて、軸受音響耐久試験を行った。この試験装置10は、複数個の試験軸受20を回転軸11に装着してハウジング12に収容し、皿ばね13で弾性的に支持してモータ14により回転軸11を所定の回転速度で回転させる構成となっている。尚、図示される試験装置10では、3本の回転軸11を備えており、それぞれの回転軸11はジョイント15を介してモータ14により駆動されるプーリ17に連結しており、同時に回転する構成となっている。また、符号16はサポートベアリングである。
【0021】
試験軸受20として、内径6mm、外径15mm、幅5mmの非接触金属板付き小径深溝玉軸受にグリースを50mg封入したものを用い、雰囲気温度120℃、内輪回転速度3600min‐1、アキシャル荷重19.6Nで2000時間連続回転させた後のアンデロン値(1800〜10000Hzの振動速度)を測定した。封入グリースとして、表1に示したグリースAとグリースDとを用い、基油動粘度の違いによるアンデロン値の変化を求めた。結果を図3に示す。尚、測定値は試験軸受16個の平均値であり、3アンデロン以下を合格とした。
【0022】
(軸受保持器音測定)
内径15mm、外径35mm、幅11mmの非接触ゴムシール付き深溝玉軸受にグリースを0.7g封入した試験軸受を、軸受温度0℃、内輪回転速度1800min‐1、アキシャル荷重39.2Nで回転させ、周波数分析器を用いて保持器音を測定した。封入グリースとして、表1に示したグリースAとグリースDとを用い、基油動粘度の違いによる保持器音の変化を求めた。下記の評価点により、結果を図3に示す。
保持器音の発生なし:1 保持器音ややあり:2 保持器音大:3
【0023】
図3に示すように、グリースAを封入した試験軸受では、動粘度が90mm2/sec(40℃)未満の基油を用いると合格基準の3アンデロンを上回るものの、90mm2/sec(40℃)以上の動粘度の基油を用いることによりアンデロン値を3アンデロン以下に抑えることができ、動粘度150mm2/sec(40℃)までは良好な結果を示す。また、保持器音についても、動粘度150mm2/sec(40℃)以下の基油を用いることにより良好な結果が得られる。このことから、用いる基油の40℃における動粘度を90〜150mm2/secとすることが好ましいことがわかる。
【0024】
(基油におけるエステル系合成油の配合量)
図2に示す試験装置10を用い、試験軸受20として、内径6mm、外径15mm、幅5mmの非接触金属板付き小径深溝玉軸受に、表1に示したグリースBを50mg封入したものを用い、雰囲気温度120℃、内輪回転速度3600min‐1、アキシャル荷重19.6Nで2000時間連続回転させた後のアンデロン値(1800〜10000Hzの振動速度)を測定した。
【0025】
結果を図4に示すが、基油中にエステル系合成油を50質量%以上配合させることにより、良好な音響特性が得られることがわかる。
【0026】
(グリースにおけるリチウム石けんの配合量)
図2に示す試験装置10を用い、試験軸受20として、内径6mm、外径15mm、幅5mmの非接触金属板付き小径深溝玉軸受に、表1に示したグリースCを50mg封入したものを用い、雰囲気温度120℃、内輪回転速度3600min‐1、アキシャル荷重19.6Nで2000時間連続回転させた後のアンデロン値(1800〜10000Hzの振動速度)を測定した。
【0027】
結果を図5に示すが、グリース中にリチウム石けんを5質量%以上20質量%配合させることにより、良好な音響特性が得られることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明のモータ用転がり軸受の一例(玉軸受)を示す断面図である。
【図2】実施例で用いた軸受音響耐久試験装置の構成を示す概略断面図である。
【図3】実施例で得られた、基油の動粘度(40℃)と、アンデロン値及び保持器音との関係を示すグラフである。
【図4】実施例で得られた、基油中のエステル系合成油の配合率とアンデロン値との関係を示すグラフである。
【図5】実施例で得られた、グリース中のリチウム石けんの含有量とアンデロン値との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0029】
2 内輪
4 外輪
5 転動体
6 シール装置
7 保持器
10 軸受音響耐久試験装置
20 試験軸受

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内輪と外輪との間に保持器により複数の転動体を回動自在に保持してなり、40℃における動粘度が90〜150mm2/secで、ペンタエリスリトールとジペンタエリスリトールとを混合したエステル系合成油を基油全量の50質量%以上含有とする基油に、リチウム石けんを配合したグリースを封入したことを特徴とする自動車のブロワーモータ用転がり軸受。
【請求項2】
前記グリースにおいて、リチウム石けんが該グリース全量の5〜20質量%配合されていることを特徴とする請求項1記載のブロワーモータ用転がり軸受。
【請求項3】
前記グリースにおいて、リチウム石けんが12−ヒドロキシステアリン酸リチウムであることを特徴とする請求項1または2記載のブロワーモータ用転がり軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−286400(P2008−286400A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−163167(P2008−163167)
【出願日】平成20年6月23日(2008.6.23)
【分割の表示】特願2002−150485(P2002−150485)の分割
【原出願日】平成14年5月24日(2002.5.24)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】