説明

自動車のベルトライン部構造

【課題】車両衝突時にドアが外れるのを防止しつつ、衝突後にドアを開くことができる自動車のベルトライン部構造を提供する。
【解決手段】バルクヘッド3のベルトラインリインホース5が対向する部分に、車両衝突時のベルトラインリインホース5のピラー部材2への食い込み量を調整する調整部20を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両前後方向に見たとき、ピラー部材と、該ピラー部材内に配設されたバルクヘッドと、ドア本体内に配置されたベルトラインリインホースとが重なるように配設された自動車のベルトライン部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に自動車においては、車両衝突時の荷重をフロントピラーからドア本体のベルトラインリインホースを介して車体後部に伝達することにより、衝撃荷重を吸収するようにした構造を採用している。この場合、例えば、特許文献1では、フロントピラーのねじれ変形により、ドアがフロントピラーから外れるのを防止するために、フロントピラー内のベルトラインリインホースとの対向部分にバルクヘッドを配置した構造が提案されている。
【特許文献1】特開2003−26041号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、前記従来のベルトライン部構造では、衝突時にドアがピラー部材から外れるのを防止できるものの、衝突荷重の如何によってベルトラインリインホースのピラー部材への食い込み量が大きくなった場合には、衝突後にドアが開かなくなるおそれがある。
【0004】
本発明は、前記従来の状況に鑑みてなされたもので、車両衝突時にドアがピラー部材から外れるのを防止しつつ、衝突後にドアを開くことができる自動車のベルトライン部構造を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、車両前後方向に見たとき、車両上下方向に延びるピラー部材と、該ピラー部材内に配置され、該ピラー部材の外側壁と内側壁とを車幅方向に結合するバルクヘッドと、ドア本体内に車両前後方向に延びるよう配置されたベルトラインリインホースとが重なるよう配設され、車両衝突時に前記ベルトラインリインホースがピラー部材に食い込むことにより、前記衝突荷重を車体後部に伝達するようにした自動車のベルトライン部構造であって、前記バルクヘッドの前記ベルトラインリインホースが対向する部分に、車両衝突時の前記ベルトラインリインホースのピラー部材への食い込み量を調整する調整部を設けたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0006】
本発明に係るベルトライン部構造によれば、ピラー部材内に配置されたバルクヘッドのベルトラインリインホースとの対向部分に、該ベルトラインリインホースのピラー部材への食い込み量を調整する調整部を設けたので、該調整部により食い込み量を加減することにより、ベルトラインリインホースのピラー部材への食い込みを確実に行いつつ、過大な食い込みを防止できる。その結果、車両衝突時にドアがピラー部材から外れるのを防止でき、かつ衝突後にドアを開けることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0008】
図1ないし図9は、本発明の一実施形態による自動車のベルトライン部構造を説明するための図であり、図1は自動車のベルトライン部の側面図、図2はベルトライン部の断面平面図(図1のII-II線断面図)、図3はベルトライン部の側面図、図4〜図6はそれぞれベルトライン部に配置された調整部材の側面図,平面図,背面図、図7は調整部材が配置されたバルクヘッドの断面図(図3のVII-VII線断面図)、図8,図9はベルトラインリインホースの断面図(図3のVIII-VIII,IX-IX線断面図)である。
【0009】
図において、1は自動車の車体側部を構成するベルトライン部を示している。該ベルトライン部1は、車両前後方向に見たとき、車両上下方向に延びる左,右のフロントピラー2,2と、該左,右のフロントピラー2内に配置されたバルクヘッド3,3と、左,右のフロントドア4内に車両前後方向に延びるよう配置されたベルトラインリインホース5,5とが重なるように配設されている。
【0010】
前記ベルトライン部1は、前記左,右のフロントピラー2から車両前方に延びるエプロンメンバ7,7と、前記左,右のフロントドア4の後側に配置されたセンタピラー8,8と、左,右のリヤドア9内に車両前後方向に延びるよう配置されたリヤベルトラインリインホース10とを有する。本実施形態のベルトライン部1は、略左右対称であることから、車幅方向右側のベルトライン部1についてのみ詳細に説明する。
【0011】
前記エプロンメンバ7,センタピラー8及びリヤベルトラインリインホース10は、車両前後方向に見たとき、前記フロントピラー2,バルクヘッド3,ベルトラインリインホース5と重なるように配置されている。
【0012】
また車両側方から見ると、前記エプロンメンバ7,バルクヘッド3,ベルトラインリインホース5及びリヤベルトラインリインホース10は略同じ高さ位置に、かつ車両前後方向に大略直線状をなすように配置されている。
【0013】
これにより車両前面衝突時の荷重Fは、エプロンメンバ7,フロントピラー2,バルクヘッド3を介してベルトラインリインホース5に伝達され、該ベルトラインリインホース15からセンタピラー8,リヤベルトラインリインホース10を介して車体後部に伝達される。
【0014】
前記エプロンメンバ7の内側には、前輪懸架装置(不図示)を支持するサスペンションタワー12と、前輪(不図示)の上方を覆うホイールハウス13とが接続されている。また前記エプロンメンバ7には、該エプロンメンバ7から前方に延びるようラジエータサポート部材14が接続されている。
【0015】
前記フロントピラー2,センタピラー8の上端部及び下端部には、それぞれ車両前後方向に延びるルーフレール15及びロッカパネル16が接続されている。この左,右のルーフレール15にはルーフパネル17が接続され、左,右のロッカパネル16にはフロアパネル(不図示)が接続されている。
【0016】
前記フロントピラー2は、横断面ハット形状のピラーアウタ2aとピラーインナ2bとの間に該ピラーアウタ2aに大略沿うように形成された横断面ハット形状のピラーリインホース2cを配置し、これらを溶接により一体に結合した角筒状の閉断面構造を有する。
【0017】
前記フロントピラー2は、車両側方から見ると、略鉛直方向に延びる下半部2dと、該下半部2dに続いて略上方に延びる上半部2eとを有する。より詳細には、上半部2eは下半部2dから若干後斜め上方に起立して延びている。
【0018】
該下半部2dのピラーアウタ2aには、前記フロントドア4を開閉可能に支持するヒンジ部材(不図示)を取り付けるための上,下ヒンジ取付け座2f,2gが形成されている。該上ヒンジ取付け座2fに前記バルクヘッド3が車幅方向に重なるよう配置されている。
【0019】
前記バルクヘッド3は、前記フロントピラー2のピラーインナ2bとピラーリインホース2cとを車幅方向に結合するよう配置されている。詳細には、図7に示すように、ピラーリインホース2cの外側壁2c′とピラーインナ2bの内側壁2b′との間を車幅方向に延びる第1〜第4横壁3a〜3dと、該第1,第2横壁3a,3bの内縁同士を接続する第1内縦壁3eと、第2,第3横壁3b,3cの外縁同士を接続する第2外縦壁3fと、第3,第4横壁3c,3dの内縁同士を接続する第3内縦壁3gとを一体に屈曲形成した構造を有する。
【0020】
前記第1,第4横壁3a,3dに屈曲形成された各フランジ部3h,3h及び前記第2外縦壁3fが前記ピラーリインホース2cと共にピラーアウタ2aに溶接により結合され、前記第1,第3内縦壁3e,3gがピラーインナ2bにボルト締め固定されている。
【0021】
これによりフロントピラー2内には、該フロントピラー2とバルクヘッド3により前後方向に延びる3つの角筒状の閉断面部b1,b2,b3が形成されている。
【0022】
前記バルクヘッド3の第2外縦壁3fと、ピラーリインホース2c及びピラーアウタ2aとの重ね合わせ部分が前記上ヒンジ取付け座2fとなっている。
【0023】
前記フロントドア4は、ドアアウタ4aとドアインナ4bとの間にドアリインホース4cを配置して一体に結合したドア本体4dと、ウィンド開口4fが形成されたウィンドフレーム4eとを一体的に形成した構造を有する。前記ドア本体4dには、前記ウィンド開口4fを開閉するウインドガラス4gが昇降可能に収容されている。
【0024】
前記ドア本体4d内のベルトラインリインホース5の下方には、インパクトビーム11が車両前後方向に向けて配置されている。
【0025】
前記ベルトラインリインホース5は、前記ドア本体4d内のベルトラインLに沿って配置されており、該ドア本体4bの前後方向長さと略同じ長さのパイプ部材5aと、該パイプ部材5aの前端部,中間部及び後端部に溶接により結合された3つのプレート部材5bとを有する。この各プレート部材5bが前記ドアインナ4bに溶接により結合されている。
【0026】
前記パイプ部材5aの前端部は、車幅方向に押しつぶすことにより形成された縦長の偏平部5cを有する。該偏平部5cには、厚肉のチップ板19が前方に突出するよう溶接により結合されている。
【0027】
前記偏平部5c及びチップ板19は、前記バルクヘッド3の第1横壁3aに対向する位置に配置されている。また前記ピラーリインホース2cの前記偏平部5c及びチップ板19が対向する部分には、逃げ孔2iが形成されている(図2参照)。これにより車両衝突時に、ベルトラインリインホース5がフロントピラー2のピラーアウタ2aに瞬時に食い込んでバルクヘッド3に突き当たるようになっている。
【0028】
そして、前記バルクヘッド3のベルトラインリインホース5が対向する部分には、車両衝突時のベルトラインリインホース5のフロントピラー2への食い込み量を調整する調整部材20が設けられている。
【0029】
該調整部材20は、板金製のもので、前記バルクヘッド3の第1内縦壁3eに当接する縦辺部20aと、該縦辺部20aの上縁に続いて第1横壁3aに当接するよう屈曲して延びる横辺部20bとを有する。該縦辺部20a及び横辺部20bが、スポット溶接(図4,図5の×印参照)によりバルクヘッド3に結合されている。
【0030】
また前記調整部材20は、前記横辺部20bの外縁から下方に屈曲して延びる外フランジ部20cと、前記横辺部20bの後縁から下方に屈曲して延びる後フランジ部20dとを有する。該後フランジ部20dは、バルクヘッド3より後方に位置するよう若干突出しており、前記後フランジ部20dに前記ベルトラインリインホース5の偏平部5c及びチップ板19が突き当たることとなる。
【0031】
車両の前面衝突による荷重Fは、前述ように、エプロンメンバ7からフロントピラー2を介してベルトラインリインホース5に伝達される。この場合、フロントドア2の前後方向相対移動に伴ってベルトラインリインホース5がフロントピラー2に食い込むと同時にバルクヘッド3の調整部材20に突き当たり、ベルトラインリインホース5の食い込みが規制される。その結果、ベルトラインリインホース5の車幅方向外側への移動が規制され、該ベルトラインリインホース5がフロントピラー2とセンタピラー8との間で突っ張ることにより、前記荷重Fをリヤドア9のリヤベルトラインリインホース10に伝える。このリヤベルトラインリインホース10が前記同様にセンタピラー8に食い込み、荷重Fを車体後方に逃がすこととなる。そして衝突後の車体のスプリングバックによってベルトラインリインホース5の食い込みが外れ、フロントドア4の開操作によりドア開が可能となる。
【0032】
このように本実施形態によれば、フロントピラー2内に配置されたバルクヘッド3のベルトラインリインホース5との対向部分に、該ベルトラインリインホース5のフロントピラー2への食い込み量を調整する調整部材20を設けたので、該調整部材20により食い込み量を制限することにより、ベルトラインリインホース5のフロントピラー2への食い込みを確実に行いつつ、過大な食い込みを防止できる。その結果、車両衝突時にフロントドア4がフロントピラー2から車体外側に外れるのを防止でき、かつ衝突後にフロントドア4を開けることが可能となる。
【0033】
また前記バルクヘッド3がフロントピラー2の車内側へのねじれによる変形を抑制することとなり、この点からもフロントドア4の外れを防止できる。
【0034】
本実施形態のフロントピラー2は、上半部2eが下半部2dに続いて略起立して延びる意匠となっている。このため荷重Fを上半部2e側へ分散させる量が少なくなり、ベルトラインリインホース5の荷重負担の割合が大きくなる。このためベルトラインリインホース5のフロントピラー2への食い込み量が大きくなり、衝突後にフロントドア4が開かなくなるおそれがある。本実施形態では、ベルトラインリインホース5の食い込み量を調整できるので、フロントピラー2の上半部2eがへの分散量が少なく場合にも、ドア開が可能となる。ちなみに、フロントピラーの上半部が後方に大きく傾斜している意匠の場合には、荷重が上半部にも分散されることから、ベルトライン部での負担の割合は軽減できる。
【0035】
なお、前記実施形態では、バルクヘッド3に調整部材20を配置することにより食い込み量を調整したが、本発明の調整部はこれに限られるものではない。例えば、バルクヘッドのベルトラインリインホースの対向部分を、他の部分より厚板化にしたり、衝撃強度の高い差厚結合鋼板等を用いたりすることも可能である。このようにした場合には、部品点数が増えるのを防止できる。
【0036】
また前記実施形態では、フロントピラーに配置されたバルクヘッドに調整部材を設けた場合を説明したが、本発明は、センタピラーにバルクヘッドを配設し、該バルクヘッドに調整部を設けてもよい。この場合には、リヤベルトラインリインホースのセンタピラーへの食い込み量の調整が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の一実施形態による自動車のベルトライン部の側面図である。
【図2】前記ベルトライン部の断面平面図(図1のII-II線断面図)である。
【図3】前記ベルトライン部を構成するフロントピラー及びベルトラインリインホースの側面図である。
【図4】前記ベルトライン部に配置された調整部材の側面図である。
【図5】前記調整部材の平面図である。
【図6】前記調整部材の背面図である。
【図7】前記調整部材が配置されたバルクヘッドの断面図(図3のVII-VII線断面図)である。
【図8】前記ベルトラインリインホースの断面図(図3のVIII-VIII線断面図)である。
【図9】前記ベルトラインリインホースの断面図(図3のIX-IX線断面図)である。
【符号の説明】
【0038】
1 自動車のベルトライン部
2 フロントピラー(ピラー部材)
3 バルクヘッド
4 フロントドア
4d ドア本体
5 ベルトラインリインホース
20 調整部材(調整部)
F 衝突荷重

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両前後方向に見たとき、車両上下方向に延びるピラー部材と、該ピラー部材内に配置され、該ピラー部材の外側壁と内側壁とを車幅方向に結合するバルクヘッドと、ドア本体内に車両前後方向に延びるよう配置されたベルトラインリインホースとが重なるよう配設され、車両衝突時に前記ベルトラインリインホースがピラー部材に食い込むことにより、前記衝突荷重を車体後部に伝達するようにした自動車のベルトライン部構造であって、
前記バルクヘッドの前記ベルトラインリインホースが対向する部分に、車両衝突時の前記ベルトラインリインホースのピラー部材への食い込み量を調整する調整部を設けたことを特徴とする自動車のベルトライン部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−47188(P2010−47188A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−214541(P2008−214541)
【出願日】平成20年8月22日(2008.8.22)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】