説明

自動車のラジエータサポート

【課題】フードを閉じたときにセンタブレースに加えられる衝撃的な外力によりそのセンタブレースが前側に回転する向きに変形する量を少なくする。
【解決手段】センタブレース6は、上下方向に延びているブレース上部39と、同じく上下方向に延びているブレース下部40と、該ブレース下部40の上端部とブレース上部39の下端部とに一体に固定され、かつ水平に延びるブレース中間部41とから構成され、アッパメンバ2の車幅方向中心領域にフードロック16が固定され、ブレース上部39の上端部32はアッパメンバ2の車幅方向中心CLよりも一方の車幅方向端部寄りのアッパメンバ部分に固定され、ブレース下部40の下端部33はロアメンバ3の車幅方向中心よりも他方の車幅方向端部寄りのロアメンバ部分に固定されていて、アッパメンバ2の各端部領域42,43と、サイドメンバ45の各上端部領域44,45とに補強板46,47が固定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体の前部に配置されて、ラジエータを支持する自動車のラジエータサポートに関する。
【背景技術】
【0002】
上述したラジエータサポートは従来より周知である(特許文献1参照)。図8は、従来のこの種のラジエータサポートを簡略化して示した斜視図である。この図における矢印UPは上方を示し、矢印Frは自動車の前進方向を示し、矢印Wは車幅方向を示している。また、符号CLを付した一点鎖線は車幅方向Wの中心を示す。これらは、図1乃至図3、図7及び図9においても同様であり、本明細書及び特許請求の範囲における「前」又は「後」なる文言は、自動車の前進方向Frを基準とした前後を意味する。
【0003】
図8に示した自動車のラジエータサポート1Aは、車体の前部に配置されていて、車幅方向Wに延びるアッパメンバ2Aと、このアッパメンバ2Aよりも下方に配置され、かつ車幅方向Wに延びているロアメンバ3Aと、一対のサイドメンバ4A,5Aとを有している。各サイドメンバ4A,5Aは上下方向に延びていて、その各上端部がアッパメンバ2Aの車幅方向各端部にそれぞれ固定され、各サイドメンバ4A,5Aの下端部は、ロアメンバ3Aの車幅方向各端部にそれぞれ固定されている。このように、各サイドメンバ4A,5Aは、アッパメンバ2Aとロアメンバ3Aを一体に連結する部材である。
【0004】
また、図8のIX−IX線断面図である図9の(a)にも示すように、アッパメンバ2Aの車幅方向中間部には、センタブレース6Aの上端部が固定され、このセンタブレース6Aの下端部はロアメンバ3Aの車幅方向中間部に固定されている。ここに示した例では、アッパメンバ2A、ロアメンバ3A、サイドメンバ4A,5A及びセンタブレース6Aは、全てコの字形の横断面形状を有している。図9の(a)に示すように、センタブレース6Aのコの字形の横断面を構成する底壁7Aの幅方向各端部から立ち上がった一対の側壁8A,9Aのうちの一方の側壁8Aが、アッパメンバ2Aとロアメンバ3Aとに、それぞれワッシャ10Aを備えたボルト11Aと、そのボルト11Aに螺着されて締め付けられたナット12Aとによって固定されている。
【0005】
図示したラジエータサポート1Aのアッパメンバ2A、ロアメンバ3A、サイドメンバ4A,5A及びセンタブレース6Aは、例えば鋼板などの高剛性材料により構成され、かかるラジエータサポート1Aに図示していないラジエータが支持されている。
【0006】
また、図8及び図9の(a)に示すように、センタブレース6Aには、フードロック16Aが固定されている。このフードロック16Aは、図9(a)に明示するように、ワッシャ13Aを備えたボルト14Aと、そのボルト14Aに螺着されて締め付けられたナット15Aとによって、センタブレース6Aの上端部の他方の側壁9Aに固定されている。図8から判るように、フードロック16Aとセンタブレース6Aは、ラジエータサポート1Aの車幅方向中心CLを含む中心領域に配置されている。
【0007】
ラジエータサポート1Aの後方には、エンジンルームが位置していて、そのエンジンルームの上部開口は、車体に回動開閉可能に支持された図示していないフードによって開閉される。このフードを開位置から閉位置に回動させたとき、そのフードに付設された図示していないストライカがフードロック16Aのロック部材(図示せず)に係合して、フードがその閉位置にロックされる。逆にそのフードロック16Aのロック状態を解除することによって、フードを開位置に回動させることができる。
【0008】
上述のようにフードを開位置から閉位置に回動させたとき、図9の(a)に矢印Fで示すように、フードの側からフードロック16Aに対して衝撃的な外力が加えられる。その際、アッパメンバ2Aとロアメンバ3Aには、上下方向に延びたセンタブレース6Aの上端部と下端部がそれぞれ固定されているので、フードロック16Aに加えられた外力Fは、アッパメンバ2Aだけでなく、センタブレース6Aを介して、ロアメンバ3Aにも伝えられ、力が分散される。このため、アッパメンバ2Aが図8に仮想線で示したように大きく曲げ変形することがなくなり、その弾性曲げ変形量が小さく留められる。これによって、フードや図示していないラジエータグリル或いはランプなどの部品に大きな外力が伝えられることがなく、これらの部品の傷付きや破損を防止することができる。
【0009】
ところが、センタブレース6Aはそのフードロック16Aの直下に上下方向に延びているので、図9の(a)に示したように、フードの側から、車幅方向Wの中心領域に配置されたフードロック16Aに対して衝撃的な外力Fが加えられたとき、図9の(b)に示したように、センタブレース6Aが、アッパメンバ2Aとロアメンバ3Aと共に、矢印Aで示した前方側に回転した状態に大きく弾性変形する。これによって、ワッシャ10A,13Aの端部に対応するセンタブレース6Aの部分17A,18A,19Aが折れ曲がった状態に弾性変形する。フードロック16Aとセンタブレース6Aが共にアッパメンバ2Aとロアメンバ3Aの車幅方向の中心領域に配置されているので、フードロック16Aに加えられた衝撃力Fが直にセンタブレース6Aに伝えられ、そのセンタブレース6Aの部分17A,18A,19Aが折れ曲がった状態に弾性変形するのである。かかる変形が繰り返し行われることにより、センタブレース6Aの各部分17A,18A,19Aに亀裂が発生し、センタブレース6Aの機能が失われるおそれがある。
【0010】
上述した欠点を除去するには、アッパメンバ2A,ロアメンバ3A及びセンタブレース6Aの全ての部材の板厚を大きく設定し、その剛性と強度を高めることが考えられる。ところが、これらの部材の板厚を大きくすれば、それだけ車体重量が増大し、そのコストが上昇する欠点を免れない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2003−237626号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、車体重量の増大とコストの上昇を抑えながら、センタブレースに亀裂が発生することを防止できる自動車のラジエータサポートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記目的を達成するため、車幅方向に延びるアッパメンバと、該アッパメンバよりも下方に配置され、かつ車幅方向に延びているロアメンバと、前記アッパメンバの車幅方向各端部と前記ロアメンバの車幅方向各端部とにそれぞれ固定されて該アッパメンバとロアメンバを一体に連結する一対のサイドメンバと、上端部と下端部が前記アッパメンバの車幅方向中間部とロアメンバの車幅方向中間部にそれぞれ固定されたセンタブレースとを具備する自動車のラジエータサポートにおいて、前記アッパメンバの車幅方向中心を含む中心領域に、閉位置を占めたフードをロックするためのフードロックが固定されていて、前記センタブレースは、上端部が前記アッパメンバの車幅方向中心よりも一方の車幅方向端部寄りのアッパメンバ部分に固定され、かつ上下方向に延びているブレース上部と、下端部が前記ロアメンバの車幅方向中心よりも他方の車幅方向端部寄りのロアメンバ部分に固定され、かつ上下方向に延びているブレース下部と、該ブレース下部の上端部と前記ブレース上部の下端部とに一体に固定され、かつ水平に延びるブレース中間部とから構成され、前記ブレース上部の上端部と前記フードロックとの間には、車幅方向における間隔があけられ、前記ブレース下部の下端部と前記フードロックとの間にも、車幅方向における間隔があけられていて、前記アッパメンバの車幅方向各端部を含む該アッパメンバの各端部領域と、該アッパメンバの車幅方向各端部に固定された各サイドメンバの上端部を含む該サイドメンバの各上端部領域とに補強板が固定されていることを特徴とする自動車のラジエータサポートを提案する(請求項1)。
【0014】
また、上記請求項1に記載のラジエータサポートにおいて、前記ブレース上部の上端部と前記フードロックとの間の車幅方向における間隔と、前記ブレース下部の下端部と前記フードロックとの間の車幅方向における間隔は等しく設定されていると有利である(請求項2)。
【0015】
さらに、上記請求項1又は2に記載の自動車のラジエータサポートにおいて、前記センタブレースは、底壁と、該底壁の幅方向各端部から立ち上がった一対の側壁とから成るコの字形の横断面形状を有し、該コの字形横断面の開口部が車幅方向を向いた状態で、そのセンタブレースの横断面を構成する一方の側壁が、前記アッパメンバの前面と、前記ロアメンバの前面とにそれぞれ固定されていると有利である(請求項3)。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、閉位置を占めたフードをロックするためのフードロックがアッパメンバの車幅方向中心を含む中心領域に配置されているのに対し、ブレース上部の上端部は、アッパメンバの車幅方向中心よりも一方の車幅方向端部寄りのアッパメンバ部分に固定されていて、そのブレース上部の上端部とフードロックとの間には車幅方向に間隔があけられているので、フードを閉位置に回動させ、そのフードの側からフードロックに対して衝撃的な外力が加えられたとき、センタブレースには、フードロックから直には外力が加えられない。このため、センタブレースに加えられる外力は従来よりも小さなものとなり、センタブレースに従来のような亀裂が発生することを防止できる。しかも、ブレース下部の下端部は、フードロックに対して車幅方向にブレース上部の上端部とは反対側に間隔をあけて配置されているので、フードからラジエータサポートに対して衝撃的な外力が加えられたとき、ラジエータサポートの全体の変形状態がバランスし、ラジエータサポートが車幅方向の一方の端部側に片寄った状態に変形することはない。
【0017】
ところが、センタブレースの上端部と下端部がアッパメンバとロアメンバに上述のように固定されていると、フードを閉じて、そのフードからフードロックに対して衝撃的な外力が加えられたとき、アッパメンバが比較的大きく曲げ変形するおそれがある。しかし、本発明においては、アッパメンバの車幅方向における各端部領域と、サイドメンバの各上端部領域とに補強板が固定されていて、アッパメンバが強固に補強されているので、フードの側からフードロックに対して衝撃的な外力が加えられたとき、アッパメンバが大きく曲げ変形することを阻止できる。
【0018】
さらに、ブレース下部の上端部とブレース上部の下端部とに一体に固定されたブレース中間部は水平に延びているので、フードの側からフードロックに対して衝撃的な外力が加えられたとき、センタブレースのブレース中間部に生じる応力を小さなものに留めることができ、これによってブレース中間部に亀裂が発生することを阻止できる。
【0019】
上述のようにして、アッパメンバ、ロアメンバ、サイドメンバ及びセンタブレースの板厚を過度に大きく設定することなく、センタブレースに亀裂が発生することを阻止できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係るラジエータサポートを簡略化して示した斜視図である。
【図2】図1のII−II線に沿う拡大断面図であって、サイドメンバやフードロックなどの図示を省略した図である。
【図3】(a)は図1のIIIA−IIIAに沿ってアッパメンバを切断した拡大断面図であり、(b)は図1のIIIB−IIIB線に沿ってロアメンバを切断した拡大断面図であり、(c)は図1のIIIC−IIIC線に沿って一方のサイドメンバを切断した拡大断面図であり、(d)は図1のIIID−IIID線に沿って、他方のサイドメンバを切断した拡大断面図である。
【図4】補強板を設けたことによる利点を説明する図である。
【図5】アッパメンバとサイドメンバの結合部の分解斜視図である。
【図6】センタブレースのブレース中間部が水平に延びていることによる利点を説明する図である。
【図7】センタブレースのコの字形横断面の開口部が車幅方向を向いた状態で、センタブレースがアッパメンバに固定されていることによる利点を説明する平面図である。
【図8】従来のラジエータサポートの一例を示す、図1と同様な斜視図である。
【図9】(a)は図8のIX−IX線に沿う拡大断面図であって、サイドメンバの図示を省略した図であり、(b)はセンタブレースが変形したときの様子を示す、(a)と同様な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態を図面に従って詳細に説明する。
【0022】
図1は本発明に係る自動車のラジエータサポートの一例を示す斜視図である。ここに示したラジエータサポート1の基本構成は、図8に示した従来のラジエータサポート1Aと変わりはない。すなわち、図1に示したラジエータサポート1も、車体の前部に配置されていて、車体前部の構造体を構成しており、車幅方向Wに延びるアッパメンバ2と、このアッパメンバ2よりも下方に配置され、かつ車幅方向Wに延びているロアメンバ3と、アッパメンバ2の車幅方向各端部20,21とロアメンバ3の車幅方向各端部22,23とにそれぞれ固定されてアッパメンバ2とロアメンバ3を一体に連結する一対のサイドメンバ4,5と、センタブレース6とを有していて、各サイドメンバ4,5は上下方向に延びている。
【0023】
図1に一例として示したラジエータサポート1のアッパメンバ2と、ロアメンバ3と、サイドメンバ4,5と、センタブレース6は、図2及び図3に示すように、全てコの字形の横断面形状を有し、しかも高剛性材料、好ましくは鋼板により構成されている。また、図示した例では、アッパメンバ2の各車幅方向端部20,21と、各サイドメンバ4,5の上端部24,25とは、ボルト28,29とこれらに螺着されて締め付けられた図示していないナットとによって固定されている。同様にロアメンバ3の各車幅方向端部22,23と、各サイドメンバ4,5の下端部26,27も、ボルト30,31とこれらに螺着されて締め付けられた図示していないナットとによって固定されている。これとは異なり、アッパメンバ2と各サイドメンバ4,5とを溶接により一体に固定し、同じくロアメンバ3と各サイドメンバ4,5を溶接によって一体に固定することもできる。
【0024】
図1に示すように、センタブレース6の上端部32は、アッパメンバ2の車幅方向中間部、すなわち該アッパメンバ2の両車幅方向端部20,21の間の部分に固定されている。同様にセンタブレース6の下端部33は、ロアメンバ3の車幅方向中間部、すなわちロアメンバ3の両車幅方向端部22,23の間の部分に固定されている。
【0025】
より具体的に示すと、センタブレース6は、図1及び図2に示すように、底壁34と、その底壁34の幅方向各端部から立ち上がった一対の側壁35,36とから成るコの字形の横断面形状を有しており、そのコの字形横断面の開口部が車幅方向Wを向いた状態で、そのセンタブレース6の横断面を構成する一方の側壁35が、アッパメンバ2の前面と、ロアメンバ3の前面とに、ボルト37,38と、これらに螺着されて締め付けられたナット60,61とによって、それぞれ固定されている。センタブレース6とアッパメンバ2を溶接により固定し、同じくセンタブレース6とロアメンバ3を溶接によって固定することもできる。アッパメンバ2に対するセンタブレース6の上端部32の位置関係と、ロアメンバ3に対するセンタブレース6の下端部33の位置関係については後に詳しく説明する。
【0026】
図1に示すように、アッパメンバ2の車幅方向中心CLを含む中心領域には、閉位置を占めたフード(図示せず)をロックするためのフードロック16が固定されている。図示した例では、フードロック16は、図1に示したボルト14とそのボルト14に螺着されて締め付けられたナット(図示せず)とによってアッパメンバ2の中心領域に固定されている。この場合も、フードロック16とアッパメンバ2を溶接により固定することもできる。
【0027】
上述したラジエータサポート1に図示していないラジエータが支持されていて、かかるラジエータサポート1の後方に位置するエンジンルームの上部開口は、車体に回動開閉可能に支持された上述のフードによって開閉される。フードが閉位置を占めているとき、そのフードに付設されたストライカがフードロック16の図示していないロック部材に係合し、これによりフードが閉位置にロックされる。逆にフードロック16のロック状態を解除することによって、フードを開位置に回動させることができる。
【0028】
ここで、図1から判るように、センタブレース6は、上下方向に延びているブレース上部39と、同じく上下方向に延びているブレース下部40と、そのブレース下部40の上端部とブレース上部39の下端部とに一体に固定され、かつ水平に延びるブレース中間部41とから構成されて、センタブレース6の全体がクランク状に形成されている。その際、ブレース上部39の上端部が、センタブレース自体の前述の上端部32であり、ブレース下部40の下端部が、センタブレース自体の前述の下端部33である。
【0029】
図1から明らかなように、ブレース上部39の上端部32は、アッパメンバ2の車幅方向中心CLよりも一方の車幅方向端部寄りのアッパメンバ部分に、前述のボルト37とナット60とにより固定されている。またブレース下部40の下端部33は、ロアメンバ3の車幅方向中心CLよりも他方の車幅方向端部寄りのロアメンバ部分に前述のボルト38とナット61とによって固定されている。これにより、ブレース上部39の上端部33とフードロック16との間には、図1に符号Dで示したように車幅方向Wにおける間隔があけられ、同様にブレース下部40の下端部33とフードロック16との間にも、図1に符号Dで示したように車幅方向Wに間隔があけられている。図示した例では、ブレース上部39の上端部32とフードロック16との間の車幅方向Wにおける間隔Dと、ブレース下部40の下端部33とフードロック16との間の車幅方向Wにおける間隔Dは等しく設定されている(D=D)。
【0030】
ブレース上部39の上端部32とブレース下部40の下端部33を、中心CLに対して、それぞれ図1に示した側と反対の側にずらして配置することもできる。
【0031】
図示していないフードを開位置から閉位置に回動させたとき、フードロック16には、図1に矢印Fで示した衝撃的な外力が加えられ、その外力Fはアッパメンバ2を介してセンタブレース6に伝えられる。このとき、ブレース上部39の上端部32と、フードロック16との間には間隔Dがあけられているので、センタブレース6には、フードロック16から直に外力が加えられることはなく、センタブレース6に作用する外力は小さなものとなり、センタブレース6に生じる応力が小さくなる。このようにセンタブレース16に加えられる衝撃力が小さくなるため、センタブレース16に従来のような亀裂が発生することはない。
【0032】
また、フードからの外力がフードロック16を介してアッパメンバ2に加えられるので、そのアッパメンバ2はわずかに弾性変形する。しかも、その外力がセンタブレース6を介してロアメンバ3に伝えられるので、ロアメンバ3もわずかに弾性的に曲げ変形する。このとき、ブレース上部39の上端部32は、フードロック16に対して、アッパメンバ2の一方の端部側にDだけ離れ、ブレース下部40の下端部33は、フードロック16に対して、ブレース上部39の上端32とは反対側に間隔Dだけ離れているので、アッパメンバ2は車幅方向Wの一方の端部に近い側を中心として曲げ変形し、ロアメンバ3は、車幅方向Wの他方の端部に近い側を中心として曲げ変形する。このため、アッパメンバ2とロアメンバ3を含めたラジエータサポート1の全体の曲げ変形状態がバランスし、ラジエータサポート1が車幅方向のいずれかの端部の側に大きく片寄った状態に曲げ変形することはない。この効果は、本例のラジエータサポート1のように、間隔D,Dが互いに等しく設定されている場合に特に顕著なものとなる。
【0033】
また、ブレース上部39の上端部32が、フードロック16から車幅方向にずれた位置でアッパメンバ2に固定されているので、センタブレース6に締結される部品、例えばホーンや、前方車両との間隔を検知するクリアランスセンサなどを取り付ける際の取り付け位置の自由度が高められる。
【0034】
上述のように、ブレース上部39の上端部32をフードロック16から車幅方向に位置をずらして配置することによって、フードの閉鎖時にセンタブレース6に生じる応力を小さく留め、センタブレース6に亀裂が発生することを防止することができるのであるが、その反面、センタブレース6の上端部32がフードロック16の真下に位置している場合に比べて、フードの閉鎖時に生じるアッパメンバの弾性曲げ変形量が多少大きくなるおそれがある。
【0035】
そこで、本例のラジエータサポートにおいては、図1に示すように、アッパメンバ2の車幅方向各端部20,21を含むアッパメンバ2の各端部領域42,43と、アッパメンバ2の車幅方向各端部20,21に固定された各サイドメンバ4,5の上端部24,25を含むサイドメンバ4,5の各上端部領域44,45とに、補強板46,47が固定され、その各補強板46,47によってアッパメンバ2が補強されている。このため、フードを回動させて閉鎖したときに、そのフードの側からフードロック16に衝撃的な外力Fが加えられ、その外力がアッパメンバ2に作用したとき、アッパメンバ2が大きく曲げ変形することを阻止できる。
【0036】
図4は、上述した補強板46,47を設けたことによる利点を明らかにした図である。図4の(a)は、従来のラジエータサポート1Aを示し、そのラジエータサポート1Aのセンタブレース6Aの上方から衝撃的な外力Fが加えられたとき、アッパメンバ2Aは図の(a)に示したように曲げ変形する。図4の(b)は、クランク状のセンタブレース6を有するラジエータサポート1であるが、補強板46,47は設けられていないラジエータサポート1を示している。このラジエータサポート1のアッパメンバ2に対して、その中心CLに衝撃的な外力Fが加えられると、アッパメンバ2は、この図に示すように変形する。この場合、前述のようにセンタブレース6に生じる応力を小さくして、その亀裂の発生を防止できるが、アッパメンバ2の曲げ変形量は、従来のラジエータサポート1Aの場合よりも大きくなる。これに対し、図4の(c)に示したように、補強板46,47を設けると、アッパメンバ2の中心CLに外力Fが加えられたとき、クランク状のセンタブレース6によって、そのセンタブレース6に亀裂が生じることを防止できると共に、補強板46,47の作用によって、アッパメンバ2の曲げ変形量が、図4の(b)の場合よりも少なくなる。
【0037】
上述のように、本例のラジエータサポート1は、ブレース上部39の上端部32とフードロック16とを、間隔Dをあけて配置することにより、センタブレース6に作用する外力を小さくして、これに亀裂が発生することを阻止し、しかもアッパメンバ2の車幅方向端部領域42,43を補強板46,47によって補強することによって、アッパメンバ2が大きく曲げ変形することを阻止するように構成されているのである。
【0038】
上述した補強板46,47は各種の形態に構成することができ、図5はその具体例を示している。図5の(a)は、アッパメンバ2と一方のサイドメンバ4を分離して示す斜視図であって、この図に示すように、アッパメンバ2の端部領域42には、これと一体に補強板46が形成されている。これらの補強板46の外側からその補強板46を挟むように、コの字形横断面形状のサイドメンバ4を取り付け、アッパメンバ2の車幅方向端部20と、サイドメンバ4の上端部24とを、図1に示したようにボルト28とナットとにより固定すると共に、そのボルト28よりも下方のボルト62と、これに螺着されたナット(図示せず)とによっても、サイドメンバ4をアッパメンバ2に固定する。
【0039】
また、図1に示した一方のサイドメンバ4の下端部26とロアメンバ3の車幅方向端部22とを溶接により固定し、他方のサイドメンバ5の下端部27とロアメンバ3の車幅方向端部23も溶接によって固定して、一対のサイドメンバ4,5とロアメンバ3とから成るアッセンブリを構成した後、図5の(b)に示したように、端部領域42に一体に形成された補強板46が、サイドメンバ4をその外側から挟むようにして、アッパメンバ2とサイドメンバ4を組み付け、図1に示したボルト28,62とナットとによってアッパメンバ2とサイドメンバ4を固定することもできる。他方のサイドメンバ5も全く同様にして、アッパメンバ2に組み付けて固定する。
【0040】
ところで、前述のように、上下方向に延びるブレース上部39の下端部と同じく上下方向に延びるブレース下部40の上端部とに一体に形成されたブレース中間部41は、水平に延びていて、そのブレース中間部41は、ブレース上部39と、ブレース下部40に対して90°の角度をなしている。これにより、フードの側からフードロック16に対して衝撃的な外力Fが加えられたとき、センタブレース6のブレース中間部41に生じる応力を、より一層小さなものに留め、これによってブレース中間部41に亀裂が発生することを阻止できる。以下に、その理由を図6を参照して明らかにする。
【0041】
図6の(a)は、マッチ箱の外装カバーと同様な形に形成された構造体48を示し、図6の(b)は、その構造体48の正面図である。これらの図に示すように、構造体48の上コーナ部に外力Pが加えられ、これによって構造体48が図6の(a)に破線で示したように変形するものとする。
【0042】
これに対し、図6の(c)に示したように、構造体48の内側の対角線上に傾斜した補強部材49を配置して、これを構造体48に固定し、その構造体48に外力Pを加えると、この場合も構造体48は破線で示したように変形する。このとき、補強部材49の働きによって、構造体48の変形量は、図6の(b)の場合に比べて大幅に小さくなる。補強部材49が構造体48の剛性を大幅に高め、その変形量を少なくすることができるのである。ところが、図6の(c)に示したように、構造体48に外力Pが加えられたとき、補強部材49には、大きな引張応力が発生し、このため構造体48に外力Pを繰り返し加えることによって、補強部材49に亀裂が発生するおそれがある。
【0043】
これに対して、図6の(d)に示すように、構造体48の内側に水平に延びる補強部材50を固定し、その構造体48に外力Pを加える。これにより構造体48が図6の(d)に破線で示した状態に変形する。このとき、補強部材50の剛性向上効果は、図6の(c)に示した補強部材49の剛性向上効果よりも小さい。このため、図6の(d)に示した構造体48の変形量は、図6の(c)に示した場合の変形量よりも大きくなるが、補強部材50に生じる引張応力は小さくなり、構造体48に繰り返し外力Pを加えても、補強部材50に早期に亀裂が発生することはない。
【0044】
上述したことは、センタブレース6にも当て嵌めることができ、図6の(e)に示したようにセンタブレース6のブレース中間部41を斜めに配置すると、フードからアッパメンバを介して、センタブレース6に衝撃的な外力が加えられたとき、ブレース中間部41に大きな応力が発生して、ここに亀裂が生じるおそれがある。これに対し、図6の(f)に示したように、センタブレース6のブレース中間部41をブレース上部39とブレース下部40に対して直角をなすように構成すると、フードからアッパメンバを介してセンタブレース6に衝撃的な外力が加えられたとき、ブレース中間部41に生じる応力を小さく留めることができ、そのブレース中間部41に亀裂が発生することを防止できる。
【0045】
ところで、従来のラジエータサポート1Aは、フードからフードロック16Aに衝撃的な外力が加えられたとき、センタブレース6Aが、図9の(b)に示したように前方側に大きく回転した状態に弾性変形していた。これに対し、本例のラジエータサポート1においては、センタブレース6をクランク状に形成し、これを前述のようにアッパメンバ2とロアメンバ3に対して固定することによって、センタブレース6が前方側に回転した状態に変形する量を極めて少なくすることができる。しかも、本例のラジエータサポート1においては、先に図2を参照して説明したように、センタブレース6が、底壁34と、その底壁34の幅方向各端部から立ち上がった一対の側壁35,36とから成るコの字形の横断面形状を有し、そのコの字形横断面の開口部が車幅方向Wを向いた状態で、センタブレース6の横断面を構成する一方の側壁35が、アッパメンバ2の前面と、ロアメンバ3の前面とにそれぞれ固定されており、かかる構成を採用することによって、センタブレース6が前方側に回転した状態に変形する量をより一層少なくすることができる。その理由を以下に図7を参照して明らかにする。
【0046】
図7の(a)は、図1に示したアッパメンバ2と、そのアッパメンバ2に固定されたセンタブレース6を上方から見たときの概略平面図であり、センタブレース6の一方の側壁35がアッパメンバ2の前面に固定され、そのセンタブレース6の横断面の開口部が車幅方向Wを向いている。このように、図7の(a)は、本例のラジエータサポート1の形態を示している。
【0047】
これに対し、図7の(b)は、センタブレース6の底壁34がアッパメンバ2の前面に固定され、そのセンタブレース6の横断面の開口部が前方を向いたラジエータサポートを上方から見たときの概略平面図であって、本例のラジエータサポート1と異なる形態のラジエータサポートを示している。
【0048】
図7の(a),(b)における一点鎖線Lは、フードが閉じられるときに、そのフードからセンタブレース6に外力が加えられ、センタブレース6が前方側に回転する向きに変形したときの回転中心軸線を示している。ここで、図7の(a)の場合には、センタブレース6が回転中心軸線Lから最も大きく離れた位置に、センタブレース6の他方の側壁36が存在する。これに対して、図7の(b)の場合には、センタブレース6が回転中心軸線Lから最も大きく離れた位置は開口部となっていて、この位置には、ほとんどセンタブレース6の部分が存在しない。このため、図7の(a)に示したラジエータサポート1の方が、図7の(b)に示したラジエータサポートよりも、回転中心軸線Lのまわりの断面二次モーメントが大きくなる。このため、フードの側からセンタブレース6に外力が加えられたとき、図7の(a)に示すラジエータサポート1の方が、前方側に回転する向きに変形する量を少なくすることができる。
【0049】
以上、本発明の好ましい実施形態を説明したが、本発明はこの構成に限定されるものではなく、各種改変して構成できるものである。
【符号の説明】
【0050】
1 ラジエータサポート
2 アッパメンバ
3 ロアメンバ
4,5 サイドメンバ
6 センタブレース
16 フードロック
20,21,22,23,24,25,32,33 端部
34 底壁
35,36 側壁
39 ブレース上部
40 ブレース下部
41 ブレース中間部
42,43 端部領域
44,45 上端部領域
46,47 補強板
CL 中心
,D 間隔
W 車幅方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車幅方向に延びるアッパメンバと、該アッパメンバよりも下方に配置され、かつ車幅方向に延びているロアメンバと、前記アッパメンバの車幅方向各端部と前記ロアメンバの車幅方向各端部とにそれぞれ固定されて該アッパメンバとロアメンバを一体に連結する一対のサイドメンバと、上端部と下端部が前記アッパメンバの車幅方向中間部とロアメンバの車幅方向中間部にそれぞれ固定されたセンタブレースとを具備する自動車のラジエータサポートにおいて、
前記アッパメンバの車幅方向中心を含む中心領域に、閉位置を占めたフードをロックするためのフードロックが固定されていて、前記センタブレースは、上端部が前記アッパメンバの車幅方向中心よりも一方の車幅方向端部寄りのアッパメンバ部分に固定され、かつ上下方向に延びているブレース上部と、下端部が前記ロアメンバの車幅方向中心よりも他方の車幅方向端部寄りのロアメンバ部分に固定され、かつ上下方向に延びているブレース下部と、該ブレース下部の上端部と前記ブレース上部の下端部とに一体に固定され、かつ水平に延びるブレース中間部とから構成され、前記ブレース上部の上端部と前記フードロックとの間には、車幅方向における間隔があけられ、前記ブレース下部の下端部と前記フードロックとの間にも、車幅方向における間隔があけられていて、前記アッパメンバの車幅方向各端部を含む該アッパメンバの各端部領域と、該アッパメンバの車幅方向各端部に固定された各サイドメンバの上端部を含む該サイドメンバの各上端部領域とに補強板が固定されていることを特徴とする自動車のラジエータサポート。
【請求項2】
前記ブレース上部の上端部と前記フードロックとの間の車幅方向における間隔と、前記ブレース下部の下端部と前記フードロックとの間の車幅方向における間隔は等しく設定されている請求項1に記載の自動車のラジエータサポート。
【請求項3】
前記センタブレースは、底壁と、該底壁の幅方向各端部から立ち上がった一対の側壁とから成るコの字形の横断面形状を有し、該コの字形横断面の開口部が車幅方向を向いた状態で、そのセンタブレースの横断面を構成する一方の側壁が、前記アッパメンバの前面と、前記ロアメンバの前面とにそれぞれ固定されている請求項1又は2に記載の自動車のラジエータサポート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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