説明

自動車のルーフ補強部材およびその設計方法

【課題】軸方向に亙るアーチ状の湾曲形状をしたアルミニウム合金押出形材製の自動車ルーフ補強部材において、重量増加を最小限に抑えた上で、弾性座屈を抑制して高い軸方向の最大荷重(軸圧縮強度)を得ることを目的とする。
【解決手段】アーチ状の湾曲形状をしたルーフ補強部材を、幅広薄肉形状の矩形閉断面部を有する高強度なアルミニウム合金押出中空形材から構成し、前記矩形閉断面部の全幅Bを無次元幅厚比パラメータRfで1.00以上と大きくした上で、更に、中リブによって分割された個々の矩形閉断面部の幅B1、B2、B3を前記Rfで1.00未満と小さくする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動車のルーフ補強部材およびその設計方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車などの車体には、ルーフパネルを下側から支持するルーフ補強部材(ルーフリーンフォースメント)などの、車幅方向(車体幅方向)への剛性及び強度を確保するために、車幅方向に延在するフレーム部品が設けられている。
【0003】
このようなルーフ補強部材は、周知の通り、ルーフパネルの下側に近接し、車体に対しては水平方向で、車幅方向に対しては平行に延在するように配置される。そして、直接あるいは車幅方向の端部などに設けられたブラケットを介して、ルーフパネルやルーフサイドレールと接合される。
【0004】
また、ルーフ補強部材は、ルーフパネルの張り剛性を確保するために、前記ルーフパネルとマスチックなどの接着剤を介して接着接合されることが多い。また、必要に応じて、ルーフ補強部材の途中や端部には、前記ルーフパネルやフレーム部品と接合するための接合穴や座面などが形成される。そして、ルーフ補強部材は、必要とされる強度や形状の制約により、種々の断面形状が選択される。
【0005】
従来、このようなルーフ補強部材としては、鋼板のプレス成形品で、断面をハット型(帽子型)に成形したものが用いられてきた。しかし、近年、自動車車体の側面衝突基準の強化にともない、車体側面からの車幅方向への圧縮荷重に対して、高い変形強度が求められるようになり、その対策が必要になってきている。また、周知のように、これらの安全性能向上とともに、さらなる軽量化、低コスト化も要求されており、ルーフ補強部材についても、軽量、低コスト、かつ、軸方向圧縮に対する変形強度に優れることが望まれている。
【0006】
これに対して、鋼板製ルーフ補強部材の場合には、前記した軸方向圧縮に対する強度を向上させる対策として、ハット型部品のプレス成形品同士を合わせて一体に溶接して、閉断面化することが一般的に行われている。しかし、このようなやり方では、部品重量の増加、部品点数、溶接点数の増加によるコストアップが常に問題となる。また、部品重量増加への対策として、従来の軟鋼板から強度の高い60キロ級などの高張力鋼板への材料置換が行われているが、弾性座屈の発生という新たな問題により、やはり、極端な薄肉化は困難であり、重量増加は不可避となっている。また、80キロあるいは100キロ級超高張力鋼板を用いた場合には、この弾性座屈の問題に加えて、溶接部の軟化による強度低下などの問題も懸念される。
【0007】
ルーフ補強部材にアルミニウム合金押出形材を用いた場合には、前記鋼板のような成形品同士の一体化のための接合は不要で、押出加工によって矩形中空材として予め一体に閉断面化させることが可能である。また、アルミニウム合金は、鋼板に比べて密度が低く、断面形状内で各部位(辺)の肉厚を変更することも容易である。
【0008】
一方、ルーフ補強部材では、一般に、室内空間あるいは車高方向のスペースを確保するために、車体上下方向の高さが大幅に制限される。このため、ルーフ補強部材の断面形状は、特許文献1に示すように、前記した軸方向の強度や剛性を向上させるために、アルミニウム合金材や鋼板などの用いる材料によらず、車体の上下方向ではなく、車体の前後方向に幅広の矩形形状に閉断面化させることが多い。
【0009】
特許文献2では、このように、幅広の矩形形状に閉断面化させたアルミニウム合金押出形材製のルーフ補強部材において、重量増加を最小限に抑え、かつ高い軸圧縮強度が得られる断面形状を提供することを提案している。すなわち、前記矩形の閉断面部を構成するフランジの肉厚Tとそのフランジの端部に形成した突出フランジの肉厚tとを一定の関係とし、かつ前記矩形の閉断面部を構成するフランジの幅厚比と、前記突出フランジの幅厚比を規定している。
【0010】
この特許文献2では、前記した突出フランジによって、限られた車体上下方向スペースの範囲内で、最も車体上下方向に位置する部分に多くの面積を持つ断面とし、重量増加を最小限に抑え、曲げ強度の高いルーフ補強部材を得ている。すなわち、車体上下方向への曲げ強度を高くするために、前記した突出フランジによって、中立軸近傍の面積を最小限にとどめ、中立軸からできるだけ遠い位置に多くの面積を配した断面形状としている。また、前記矩形の閉断面部を構成するフランジや突出フランジの幅厚比を各々満たすことで、閉断面部を構成するフランジの座屈限界応力の低下を抑制可能とし、重量増加を最小限に抑え、かつ高い軸圧縮荷重を得ている。
【0011】
このような、アルミニウム合金押出中空形材における、前記矩形の閉断面部を構成するフランジの幅厚比は、この他、バンパ補強材、サイドメンバ、サイドシェル等の構造部材として、座屈強度を高めて、衝突エネルギ吸収性能を高めるために規定されることも公知である(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2003−112656号公報
【特許文献2】特開2006−240543号公報
【特許文献3】特許第2672753号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかし、これらの従来技術では、ルーフ補強部材が、車体のデザインによっては、車幅方向(軸方向)に亙って、直線状ではなく、アーチ状に湾曲している場合の、特異な衝突荷重変形挙動には注目していない。すなわち、ルーフ補強部材が車幅方向(軸方向)に亙ってアーチ状に湾曲している場合には、車幅方向(軸方向)に亙って直線状の場合には無い、特異な衝突荷重変形挙動を示す。
【0014】
ルーフ(ルーフパネル)が車幅方向に亙ってアーチ状に湾曲している場合には、このような曲線状のルーフ形状に応じて、これを支持するルーフ補強部材も、車幅方向(軸方向)に亙ってアーチ状に湾曲した曲線状を有している。したがって、車体のデザインに応じて、ルーフ補強部材を前記矩形の閉断面部を有するアルミニウム合金押出中空形材製とする場合でも、この形材を曲げ加工し、その軸方向である車幅方向に亙って、アーチ状に湾曲させて延在させる場合が多々ある。
【0015】
ここで、設計目標の軸圧縮強度に対し、前記アーチ高さ(前記アーチ状の高さ、湾曲高さあるいは湾曲度)が変われば、必要なルーフ補強材の断面強度も変わってくる。例えば、このアーチ高さがほぼゼロである、前記した直線のルーフ補強材であれば、軸圧縮強度(軸圧縮最大荷重)は断面強度と等しくなる。しかし、このアーチ高さが大きくなると、軸圧縮の作用に伴い,ルーフ補強材中央部分が車体上方向に変形しやすくなるため、所定の軸圧縮強度を得るには、ルーフ補強材の断面強度をより大きくする必要がある。
【0016】
また、ルーフ補強材の断面強度を大きくする場合、前記した通り、ルーフの高さ方向の制約(車体上下方向の高さの制限)のため、補強材断面を幅広く取ることが多い。また、高強度材適用による薄肉化、軽量化が図られる。しかしながら、前記アーチ高さが大きくなると、これらの断面の幅広化や高強度材による薄肉化した場合には、ルーフ補強材断面の弾性座屈が起こりやすくなり、所定の断面強度が得られないことが多々ある。
【0017】
この点、前記特許文献2でも、フランジ幅を広く設計しすぎると逆に軸圧縮強度が低下するという現象が生じ、これは、断面を構成する板が座屈するためであることが指摘されている。また、曲げ強度向上のためにフランジ幅を広く設定するとともに、断面を構成する板の座屈を防止するために、中リブと呼ばれる車体上下方向の補強リブを設定することで「フランジ幅を減少させる」ことも前記特許文献2で指摘されている。
【0018】
そして、前記特許文献1でも、ルーフ補強部材の断面形状例として、前記矩形閉断面部におけるフランジ幅を、車体上下方向に延在する2本の中リブで分割、補強した、目型断面形状を持つ押出中空形材を実施例として挙げている。
【0019】
ただ、特許文献2では、突出フランジ部の幅厚比を本体のフランジの幅厚比よりも小さくして、突出フランジ部の弾性座屈を防止することで、部材全体の強度向上を狙っている。しかし、この方法は、軸方向に亙るアーチ状の湾曲形状をしたルーフ補強部材においては、必ずしも効率的ではなく、所定の軸圧縮強度を達成するためには、後述する通り、ルーフ補強材の閉断面部分(特にフランジ部分)の弾性座屈を防止する方が、剛性、強度面に加え、重量面からも非常に効率的である。
【0020】
本発明の目的は、軸方向に亙るアーチ状の湾曲形状をしたアルミニウム合金押出形材製の自動車ルーフ補強部材において、弾性座屈を抑制して、軽量かつ高い軸圧縮強度が得られるルーフ補強材およびその設計方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記目的を達成するための本発明のルーフ補強部材の要旨は、自動車のルーフパネルを支持し、車幅方向にアーチ状に湾曲して延在するルーフ補強部材であって、矩形閉断面部を有するアルミニウム合金押出中空形材からなり、このアルミニウム合金押出中空形材の0.2%耐力σyが200MPa以上であるとともに、前記矩形閉断面部の最大厚みが3mm以下、前記矩形閉断面部の全幅Bが下記式で定義される無次元幅厚比パラメータRfで1.00以上である幅広薄肉形状を有しており、更に、前記矩形閉断面部が中リブによって分割されているとともに、この分割された個々の矩形閉断面部の幅が前記無次元幅厚比パラメータRfで1.00未満であり、15kN以上の軸方向の最大荷重を有することである。
但し、無次元幅厚比パラメータRf={(σy/E)×[12(1−ν2 )/π2 k]}1/2×(B/tf)とする。この式で、Eは前記アルミニウム合金のヤング率(MPa)、Bは前記矩形閉断面部の全幅(mm)、tfは前記矩形閉断面部のフランジ側厚み(mm)、νはポアソン比、kは座屈係数(k=4)である。
【0022】
また、上記目的を達成するための本発明のルーフ補強部材の設計方法の要旨は、自動車のルーフパネルを支持し、車幅方向にアーチ状に湾曲して延在するルーフ補強部材の設計方法であって、このルーフ補強部材を、矩形閉断面部を有するアルミニウム合金押出中空形材とし、このアルミニウム合金押出中空形材の0.2%耐力σyを200MPa以上とするとともに、前記矩形閉断面部を、最大厚みが3mm以下、前記矩形閉断面部の全幅Bが下記式で定義される無次元幅厚比パラメータRfで1.00以上の幅広薄肉形状とし、その上で、前記矩形閉断面部を中リブによって分割するとともに、この分割された個々の矩形閉断面部の幅を前記無次元幅厚比パラメータRfで1.00未満とすることによって、このルーフ補強部材の軸方向の最大荷重を15kN以上としたことである。
但し、無次元幅厚比パラメータRf={(σy/E)×[12(1−ν2 )/π2 k]}1/2×(B/tf)とする。この式で、σyは前記アルミニウム合金押出中空形材の0.2%耐力(MPa)、Eは前記アルミニウム合金のヤング率(MPa)、Bは前記矩形閉断面部の全幅(mm)、tfは前記矩形閉断面部のフランジ側厚み(mm)、νはポアソン比、kは座屈係数(k=4)である。
【発明の効果】
【0023】
本発明では、前記側突により負荷される軸方向圧縮に対する変形強度を高めるために、前提として、最大荷重(軸方向圧縮に対して車体上下方向への曲げ変形が発生する最大曲げ強度あるいは最大変形強度)を高くする。このために、本発明では、前記矩形閉断面部の幅(車体前後方向、軸の方向と水平方向に直角の方向)の全体の長さである、全幅B(前記フランジ幅)を幅広く設定する。ここまでは、前記特許文献2と同様である。
【0024】
但し、本発明では、この際に、前記矩形閉断面部を構成するアルミニウム合金押出中空形材の0.2%耐力σyを200MPa以上とするとともに、前記矩形閉断面部の最大厚みを3mm以下として、ルーフ補強部材の重量増加を最小限に抑える。
【0025】
特徴的には、本発明では、更に、前記矩形閉断面部を中リブによって分割し、この分割された個々の矩形閉断面部の幅を、前記無次元幅厚比パラメータRfで1.00未満とする。これによって、本発明では、アルミニウム合金押出中空形材からなるルーフ補強部材が、弾性座屈を実際に抑制することができる。そして、この軸方向に亙るアーチ状の湾曲形状をしているルーフ補強部材であっても、前記側突に対する軸方向の最大荷重を、例えば15kN以上に高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】アーチ状のルーフ補強部材の梁モデルを示す模式図である。
【図2】図1の梁モデルのFEMと理論式との解析結果を示す説明図である。
【図3】図2の解析結果を、荷重効率と無次元幅厚比パラメータRfとで整理した結果を示す説明図である。
【図4】ルーフ補強部材の断面図を示し、図4(a)が原型となる従来の矩形閉断面、(b)と(c)とが本発明の矩形閉断面を示す。
【図5】ルーフ補強部材の断面図を示し、図5(a)が原型となる従来の矩形閉断面、(b)と(c)とが本発明の矩形閉断面を示す。
【図6】図5(a)の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に、本発明ルーフ補強部材の実施の形態につき、図面を用いて説明する。
【0028】
(ルーフ補強部材の変形挙動)
アーチ状のルーフ補強部材の最大荷重を向上させるためには、このアーチ状衝突荷重変形挙動を知る必要がある。この解明のために、先ず、図1のような梁モデルによって、形状条件や強度条件を種々変えた矩形閉断面部を有するルーフ補強部材を、FEMと理論式との両方によって、解析した。
【0029】
この結果、軸方向に亙るアーチ状の湾曲形状をして、しかも矩形閉断面部を有するルーフ補強部材では、FEMと理論式との解析結果が異なることを知見した。すなわち、実際のルーフ補強部材の最大荷重(FEM解析)と、理論式による予め予測される(設計される)ルーフ補強部材の最大荷重とが大きく異なる、特定領域があることを知見した。この点を以下に順を追って説明する。
【0030】
(図1の梁モデル)
先ず、前記図1について説明する。図1のアーチ状のルーフ補強部材の梁モデルにおいて、Pは軸方向の圧縮荷重、δ0 は初期たわみとしての車体上下方向のアーチ高さ、Lはルーフ補強部材の長さである。なお、ルーフ補強部材の最大荷重Pmax とは、軸方向の最大圧縮荷重(最大軸圧縮荷重)のことである。
【0031】
(理論式)
この図1における、ルーフ補強部材の最大荷重Pmax を求めるための理論式は以下の公知の式1で表される。この式1は、例えば、構造力学公式集、土木学会、1986、P.314などに記載されている。
【0032】
1/Pmax =1/PE +δ0 /MP ・・・(1)
ここで、PE :曲げ座屈荷重、δ0 :アーチ高さ(アーチ円弧の最大高さ)、MP :全塑性曲げモーメントである。
【0033】
つまり、上記式1において、アーチを有する梁の最大荷重Pmax の逆数は、曲げ座屈強度PE の逆数と、全塑性曲げモーメントMP をアーチ高さδ0 で割った逆数δ0 /MP との和である。
【0034】
(図2)
図1の梁モデルを用い、前記理論式1とFEM解析との両方の解析によって、前記形状条件や強度条件を種々変えた矩形閉断面部を有するルーフ補強部材の最大荷重Pmax を各々解析した結果を図2に各々示す。
【0035】
この図2には、ルーフ補強部材の前記矩形閉断面部の形状条件や強度条件も各々示す。ここで、両方の解析には、後述する図5(a)の、側方へ張出したフランジを両側面に有する、矩形閉断面部のルーフ補強部材を共通して用いた。そして、ルーフ補強部材のアーチ高さδ0 は30mm、直線部の長さLは990mmと、全て同じ条件とした。なお,FEM解析には汎用コードであるABAQUSを使用している。
【0036】
この図5(a)を含めた、図4と図5において、共通して、Sは矩形閉断面部から横方向(車体前後方向)に伸びたフランジ幅(mm)、Hは矩形閉断面部の車体上下方向の高さ(mm)、tfあるいはtf1は矩形閉断面部の厚み(mm)、tf2は前記張出フランジの厚み(mm)である。Bは矩形閉断面部の車体前後方向の全幅(mm)、B1、B2、B3は、各々前記中リブで仕切られた各矩形閉断面部の車体前後方向の各幅(mm)である。また、矩形閉断面部の厚みtfあるいはtf1や、前記張出フランジの厚みtf2は、これらの解析では、矩形閉断面部の全ての箇所で同じとした。
【0037】
(図3)
前記図2の解析結果を、縦軸に荷重効率、横軸に無次元幅厚比パラメータRfとで改めた整理した結果を図3に示す。
【0038】
ここで、図3の縦軸の荷重効率とは、前記理論式1による最大軸圧縮荷重Pmax (理論解:Pmax ,theory)と、FEM解析による最大軸圧縮荷重Pmax (FEM解:Pmax ,FEM )との比、Pmax ,theory/Pmax である。
【0039】
また、図3の横軸の無次元幅厚比パラメータRfは、Rf={(σy/E)×[12(1−ν2 )/π2 k]}1/2×(B/tf)・・・(式2)で表される。この式で、σyは前記アルミニウム合金押出中空形材の0.2%耐力(MPa)、Eは前記アルミニウム合金のヤング率(MPa)、Bは前記矩形閉断面部の全幅(mm)、tfは前記矩形閉断面部のフランジ側厚み(フランジの厚み:mm)、νはポアソン比、kは座屈係数(k=4)である。因みに、この式2を√記号を用いて示すと、以下のように表される。
【0040】
【数1】

【0041】
因みに、この無次元幅厚比パラメータRfは、前記特許文献3に、自動車のボディ、シャーシ等に適用され、荷重を受けるフランジを有する構造部材としての、フランジの幅厚比Rfとして開示されている。すなわち、前記特許文献3では、垂直パネルにて形成され、該垂直パネルに対し直角方向の荷重を受けるフランジと、上記フランジの所定位置に固着された水平パネルにて形成され、該フランジを支持するウエブとからなる構造部材の構造が前提となっている。
【0042】
そして、この構造において、上記フランジの幅厚比Rfが、Rf={12(1−ν2 )/4π2 1/2 ×(σy/E)1/2 ×(bf/tf)で表されることが記載されている。ここで、bfはフランジの高さ、tfはフランジの厚さ、νはポアソン比、Eは弾性率、σyは降状応力を表している。本発明の幅厚比Rfは、このパネル構造の幅厚比Rfを基に、矩形閉断面部を有するルーフ補強部材としての幅厚比に適合するように、前記式2に変更したものである。
【0043】
前記した、アーチ状で矩形閉断面部を有するルーフ補強部材では、FEM解析と理論式解析との最大荷重が大きく異なる特定領域がある点につき、この図3を用いて説明する。
【0044】
図3から分かる通り、横軸のRfが1.0までの小さい範囲までは、縦軸の荷重効率は概ね100%であり、理論解Pmax ,theoryと、FEM解Pmax ,FEM とが良く一致している。すなわち、図1の梁モデルによって、前記理論式1を用いて、ルーフ補強部材の最大荷重を大きくすべく、矩形閉断面部の全幅Bを大きく設計する場合、横軸のRfが1.0以下であれば、ルーフ補強部材の最大荷重における、予測値(設計値)と実際の値とが良く一致することを意味する。
【0045】
これに対して、横軸のRfが1.0を超えて大きくなると、縦軸の荷重効率は100%を下回り、理論解Pmax ,theoryに対して、FEM解Pmax ,FEM の方が小さくなる。言い換えると、矩形閉断面部の全幅Bが大きくなると、理論解Pmax ,theoryよりも、FEM解Pmax ,FEM による、実際のルーフ補強部材の最大荷重が小さくなる。これは、図1の梁モデルによって、前記理論式を用いて、ルーフ補強部材の最大荷重を大きくすべく、横軸のRfを1.0を超えて矩形閉断面部の全幅Bを大きく設計した場合には、ルーフ補強部材の実際の最大荷重値が、設計値(予測値)よりも、小さくなってしまうことを意味する。
【0046】
例えば、図3において、矩形閉断面部の全幅Bのみが相違する(他の条件が同じ)case2−2、case4−2、case6−2,case8−2の4例を比較する。Rfが1.0のcase2−2の荷重効率は100%で、理論解Pmax ,theoryと、FEM解Pmax ,FEM とが良く一致している。しかし、Rfが1.61のcase4−2の荷重効率は82%、Rfが2.01のcase6−2の荷重効率は73%、Rfが2.61のcase8−2の荷重効率は62%と、各々大幅に低下している。
【0047】
このように、横軸のRfが1.0を超えて大きい場合には、ルーフ補強部材の最大荷重値を上げるための最適矩形閉断面形状を設計することが、困難となることを意味する。これは、ルーフ補強部材の前記矩形閉断面部が、幅広薄肉形状を有しているために、横軸のRfが1.0を超えて大きい場合には、却って弾性座屈しやすくなったからである。
【0048】
(弾性座屈対策)
このように、弾性的に座屈しやすくなったルーフ補強部材の最大荷重値を上げるためには、通常は、前記した通り、前記矩形閉断面部の肉厚(フランジの肉厚)を厚くする。しかし、前記弾性座屈に対して有効なだけの肉厚の増加は、ルーフ補強部材の軽量化が犠牲となり、アルミニウム合金押出形材を使用する意味がなくなる。
【0049】
このため、本発明では、先ず前提として、軽量化を阻害せずに、最大荷重値を上げるために、ルーフ補強部材を、矩形閉断面部を有する、高強度なアルミニウム合金押出中空形材から構成し、この矩形閉断面部を幅広薄肉形状とする。すなわち、アルミニウム合金押出中空形材の0.2%耐力σyを200MPa以上とするとともに、前記矩形閉断面部の最大厚みtfを3mm以下とした上で、前記矩形閉断面部の全幅Bを無次元幅厚比パラメータRfで1.00以上と大きく(広く)する。
【0050】
但し、これだけでは、却って、弾性座屈が起こりやすくなって、実質的に最大荷重値を上げることができない。このため、本発明では、特徴的には、弾性座屈を防止して、ルーフ補強部材の最大荷重値を上げるために、更に、前記矩形閉断面部を中リブによって分割するとともに、この分割された個々の矩形閉断面部の幅を前記無次元幅厚比パラメータRfで1.00未満と小さく(狭く)する。
【0051】
(中リブによる矩形閉断面部の分割)
具体的には、前記図4、図5の矩形閉断面において、図4(a)、図5(a)の中リブを有さない、原型となる口型の従来の矩形閉断面に対して、図4(b)、図5(b)や図4(c)、図5(c)のように、矩形閉断面部内に中リブを1本以上設けて、矩形閉断面部を分割する。
【0052】
ここで、図4、図5の矩形閉断面構造(形状)を以下に具体的に説明する。先ず、図4(a)、図5(a)は、前記した通り、車体上下方向の中リブを有さない、原型となる口型の従来の矩形閉断面である。図4(b)、図5(b)は、矩形閉断面部の中央に、車体上下方向の中リブを1本有して、矩形閉断面部を2分割する、日型の矩形閉断面である。図4(c)、図5(c)は、矩形閉断面部に、車体上下方向の中リブを2本、車体の前後方向に間隔を開けて有して、矩形閉断面部を3分割する、目型の矩形閉断面である。
【0053】
図4、図5の矩形閉断面部において、1、2は、車体上下方向(図の上下方向)に間隔を開けて、車体前後方向(図の左右方向)に延在する2本のフランジ(横壁)である。3、4は、これら2本のフランジ1、2を互いにつなぎ、車体前後方向(図の左右方向)に間隔を開けて、車体上下方向(図の上下方向)に延在する2本のウエブ(縦壁)である。5、6、7、8は、これらフランジ1、2の両端部から、両側方(車体前後方向)に各々伸びた、合計4本の張出フランジである。
【0054】
図5の矩形閉断面部では、(a)、(b)、(c)のいずれも4本の張出フランジ5、6、7、8を有している。これに対して、図4の矩形閉断面部は、(a)、(b)、(c)のいずれも、これら張出フランジを有さない矩形断面形状を有している。
【0055】
なお、このような中リブを有する、口型、目型などの矩形閉断面部自体は周知であり、前記した従来のアルミニウム合金押出中空形材を用いたルーフ補強部材としても公知である。言い換えると、本発明は、口型、目型などの矩形閉断面部の単に断面形状の点だけでは、従来の前記ルーフ補強部材と区別できない。
【0056】
本発明を、従来の前記ルーフ補強部材と区別するのは、前記弾性座屈が起こりやすくなっている、全幅Bを無次元幅厚比パラメータRfで1.00以上と大きくされた幅広で、かつ前記高強度で薄肉な矩形閉断面部と、アーチ状に湾曲した軸を有する点である。このような技術分野では、前記した通り、前記弾性座屈の発生自体が、そして、前記弾性座屈を防止した上で最大荷重値を上げること自体が、決して公知では無かった。したがって、このような技術分野では、全幅Bを無次元幅厚比パラメータRfで1.00以上と大きくした上で、中リブを設けて分割されたような、矩形閉断面部を有するルーフ補強部材は存在しなかった。
【0057】
(矩形閉断面部の全幅)
このように、本発明ルーフ補強部材の矩形閉断面部の全幅(幅方向の全長さ)Bは、最大荷重値を上げるために、無次元幅厚比パラメータRfで1.00以上、好ましくは1.38以上、より好ましくは1.61以上と、更に好ましくは1.72以上として、できるだけ大きく(広く)する。
【0058】
(中リブにより分割された矩形閉断面部の幅)
また、中リブによる矩形閉断面部の分割は、図4(b)、図5(b)や図4(c)、図5(c)における、中リブによって分割された(仕切られた)矩形閉断面部(フランジ1、2)の、分割された個々の矩形閉断面部の幅B1、B2、B3が、無次元幅厚比パラメータRfで1.00未満のできるだけ小さい値となるように行う。これらの幅B1、B2、B3が、無次元幅厚比パラメータRfで1.00以上と大きくなっては、矩形閉断面部の全幅Bを前記の通り大きくした際に発生しやすくなる弾性座屈を防止できず、アーチ状のルーフ補強部材の最大荷重値を上げることができない。
【0059】
この点、これらの幅B1、B2、B3は、無次元幅厚比パラメータRfを好ましくは0.7以下、より好ましくは0.5以下、更に好ましくは0.3以下として、できるだけ小さく(狭く)する。但し、これら中リブによって分割される矩形閉断面部の幅B1、B2、B3は、全て同じRfや幅とする必要はなく、必要に応じて変えても良い。
【0060】
(矩形閉断面部の設計)
本発明ルーフ補強部材の矩形閉断面部の全幅Bの、無次元幅厚比パラメータRfを大きくするための、ルーフ補強部材の矩形閉断面部の設計方法を、図4と図5とを例として、以下に具体的に説明する。
【0061】
強度:
本発明において使用するアルミニウム合金押出中空形材は、前記矩形閉断面部の最大厚みtfを3mm以下とした上で、前記最大荷重値を上げ、弾性座屈を防止するためには、0.2%耐力σyが200MPa以上のできるだけ高強度なものが必要である。このような前記必要な強度を満たすためには、高強度なA6000系かA7000系の調質(熱処理)されたアルミニウム合金押出中空形材が好ましい。なお、このようなアルミニウム合金押出中空形材は、熱間押出と、溶体化焼入れ処理、人工時効処理などの調質(熱処理)を組み合わせた常法にて製造できる。
【0062】
矩形閉断面部の厚み:
矩形閉断面部のフランジ1、2やウエブ3、4の厚みtfあるいはtf1は、軽量化を阻害しないために、最大でも3mm以下とする。但し、好ましい最小の厚みは1.5mmであり、矩形閉断面部の厚みtfあるいはtf1は、好ましくは1.5〜3mmの範囲とする。前記張出フランジ5、6、7、8の厚みtf2もこれに準じる。
【0063】
なお、実際のルーフ補強部材設計にあっては、矩形閉断面部の厚みtfあるいはtf1や、前記張出フランジの厚みtf2は、矩形閉断面部の全ての箇所で同じで良い。しかし、強度がより必要で肉厚がより必要な部分を厚くし、それ以外の部分を薄くするなど、フランジやウエブに応じて、あるいは同じフランジや同じウエブでの部位に応じて、部位や部分的に厚みを変えても良い。したがって、無次元幅厚比パラメータRfの前記式2におけるtfは前記矩形閉断面部のフランジ側(フランジ)の平均厚み(mm)とした。
【0064】
車体上下方向の高さH:
矩形閉断面部の車体上下方向の高さHは、大きい(高い)方が最大荷重値を上げ、弾性座屈を防止できる。しかし、前記した通り、ルーフ補強部材として、自動車の室内空間あるいは車高方向のスペースを確保するために、大幅に制限される。また、軽量化の点からも大幅に制限される。このため、最大でも30mm、通常は10〜25mmの範囲とすることが好ましい。
【0065】
全幅B:
矩形閉断面部の全幅(幅方向の全長さ)Bは、無次元幅厚比パラメータRfを前記した通り大きくし、最大荷重値を上げるために、できるだけ大きく(広く)する。このためには、無次元幅厚比パラメータRfの式を構成する前記した他の因子との関係で、矩形閉断面部の全幅(幅方向の全長さ)Bの絶対値は、最低でも50mmを超えてできるだけ大きい方が好ましく、好ましくは80mm以上、より好ましくは150mmとする。
【0066】
中リブで仕切られた幅B1、B2、B3:
中リブによって分割された(仕切られた)矩形閉断面部(フランジ1、2)の、分割された個々の矩形閉断面部の幅B1、B2、B3は、弾性座屈を防止するために、Rfで1.00未満とする。このためには、前記無次元幅厚比パラメータRfの式を構成する他の因子を、前記した範囲とすると、分割された個々の矩形閉断面部の幅B1、B2、B3は、車体前後方向の各幅として、最大でも50mm以下とする。但し、これら中リブによって分割される矩形閉断面部の幅B1、B2、B3は、全て同じ幅とする必要はなく、必要に応じて変えても良い。
【0067】
張出フランジ:
張出フランジ5、6、7、8は、ルーフ補強部材として、矩形閉断面部を、前記ルーフパネルやルーフサイドレールと接合するために必要であって、弾性座屈を防止するためや、最大荷重値を上げるためには必要ない。
【実施例】
【0068】
図5(a)の矩形閉断面部を有し、図6に斜視図で示す、ルーフ補強部材について、中リブ9、10による分割の、最大荷重や荷重効率への影響を解析した。この結果を表1に示す。
【0069】
具体的には、前記図3において、前記矩形閉断面部の全幅Bのみが相違し(他の条件が同じ)、前記無次元幅厚比パラメータRfが1.0を超える口型断面例、case4−2、case6−2、case6−2の3例(図4(a)相当)につき、中リブ9、10によって、断面を日型、目型に各々分割し、かつ分割された個々の矩形閉断面部の幅B1、B2、B3の前記Rfを種々変えた。そして、前記図2と同じく、最大荷重(理論解Pmax ,theoryとFEM解Pmax ,FEM )や荷重効率を求めた。表1において、括弧内に日とあるのは図4(b)の日型断面、目とあるのは図4(b)の目型断面を各々示す。
【0070】
表1から分かる通り、分割された幅B1、B2、B3の前記Rfを各々1.00未満とした例では、Rfが1.61のcase4−2の荷重効率は98%と元の82%から大幅に向上し、Rfが2.01のcase6−2の荷重効率は98%と元の73%から大幅に向上し、Rfが2.61のcase8−2の荷重効率は100%と元の62%から大幅に向上している。
【0071】
その反対に、中リブ9、10によって分割しても、幅B1、B2、B3の前記Rfが1.00以上である他の比較例は、荷重効率があまり大きくは向上せず、依然、最大荷重の理論解Pmax ,theoryとFEM解Pmax ,FEM との乖離が大きく、実際の最大荷重が増加していない。
【0072】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明によれば、軸方向に亙るアーチ状の湾曲形状をしたアルミニウム合金押出形材製の自動車ルーフ補強部材において、重量増加を最小限に抑えた上で、弾性座屈を抑制して高い軸方向の最大荷重(軸圧縮強度)が得られる。このため、軽量化と最大荷重とがともに要求される、軸方向に亙るアーチ状の湾曲形状をした自動車ルーフ補強部材に好適である。
【符号の説明】
【0074】
1、2、:フランジ、3、4:ウエブ、5、6、7、8:張出フランジ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車のルーフパネルを支持し、車幅方向にアーチ状に湾曲して延在するルーフ補強部材であって、矩形閉断面部を有するアルミニウム合金押出中空形材からなり、このアルミニウム合金押出中空形材の0.2%耐力σyが200MPa以上であるとともに、前記矩形閉断面部の最大厚みが3mm以下、前記矩形閉断面部の全幅Bが下記式で定義される無次元幅厚比パラメータRfで1.00以上である幅広薄肉形状を有しており、更に、前記矩形閉断面部が中リブによって分割されているとともに、この分割された個々の矩形閉断面部の幅が前記無次元幅厚比パラメータRfで1.00未満であり、15kN以上の軸方向の最大荷重を有することを特徴とするルーフ補強部材。
但し、無次元幅厚比パラメータRf={(σy/E)×[12(1−ν2 )/π2 k]}1/2×(B/tf)とする。この式で、Eは前記アルミニウム合金のヤング率(MPa)、Bは前記矩形閉断面部の全幅(mm)、tfは前記矩形閉断面部のフランジ側厚み(mm)、νはポアソン比、kは座屈係数(k=4)である。
【請求項2】
自動車のルーフパネルを支持し、車幅方向にアーチ状に湾曲して延在するルーフ補強部材の設計方法であって、このルーフ補強部材を、矩形閉断面部を有するアルミニウム合金押出中空形材とし、このアルミニウム合金押出中空形材の0.2%耐力σyを200MPa以上とするとともに、前記矩形閉断面部を、最大厚みが3mm以下、前記矩形閉断面部の全幅Bが下記式で定義される無次元幅厚比パラメータRfで1.00以上の幅広薄肉形状とし、その上で、前記矩形閉断面部を中リブによって分割するとともに、この分割された個々の矩形閉断面部の幅を前記無次元幅厚比パラメータRfで1.00未満とすることによって、このルーフ補強部材の軸方向の最大荷重を15kN以上としたことを特徴とするルーフ補強部材の設計方法。
但し、無次元幅厚比パラメータRf={(σy/E)×[12(1−ν2 )/π2 k]}1/2×(B/tf)とする。この式で、Eは前記アルミニウム合金のヤング率(MPa)、Bは前記矩形閉断面部の全幅(mm)、tfは前記矩形閉断面部のフランジ側厚み(mm)、νはポアソン比、kは座屈係数(k=4)である。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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