自動車のルーフ部構造
【課題】ルーフパネルとルーフサイドレール等との間に生じる低周波振動を簡単な構成で効果的に低減して乗り心地を向上できるようにする。
【解決手段】ルーフパネル8の左右両側辺部13がルーフサイドレール5の車幅方向中央部側に設けられたフランジ部12に重ね合わされて固着されたルーフサイド結合部14を有する自動車のルーフ部構造であって、上記ルーフサイド結合部14には、温度20°Cにおけるヤング率が500MPa以下の特性を有する弾性変形可能な接着剤17によりルーフパネル8の左右両側辺部13と上記ルーフサイドレール5のフランジ部12とが接合された弾性接着部が設けられるとともに、上記ルーフサイド結合部14の前後両端部分がその前後方向中央部分に比べて剪断方向に相対変位し易くなる態様で上記接着剤17が塗布された。
【解決手段】ルーフパネル8の左右両側辺部13がルーフサイドレール5の車幅方向中央部側に設けられたフランジ部12に重ね合わされて固着されたルーフサイド結合部14を有する自動車のルーフ部構造であって、上記ルーフサイド結合部14には、温度20°Cにおけるヤング率が500MPa以下の特性を有する弾性変形可能な接着剤17によりルーフパネル8の左右両側辺部13と上記ルーフサイドレール5のフランジ部12とが接合された弾性接着部が設けられるとともに、上記ルーフサイド結合部14の前後両端部分がその前後方向中央部分に比べて剪断方向に相対変位し易くなる態様で上記接着剤17が塗布された。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、左右両ルーフサイドレール、フロントヘッダおよびリヤヘッダにより外周部が区画された矩形領域の上面がルーフパネルで覆われた自動車のルーフ部構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、下記特許文献1に示されるように、細長い形状に形成されかつその長手方向の変形に対して減衰力を発生する油圧式減衰力発生手段と、この油圧式減衰力発生手段の両端部を車体フレームに取り付ける取付手段とによって棒状に形成された複数の補強装置本体を備えた車両の車体用補強装置であって、前記複数の補強装置本体は、前記車体フレームの車体前側において略左右対称となるように位置する左前側取付部および右前側取付部と、前記車体フレームの車体後側において略左右対称となるように位置する左後側取付部および右後側取付部からなる4個所の取付部の間に平面視においてX字状に並べられ、前記車体フレームにおける車体下部で車室外に露出する位置に下側から着脱自在に取付けられた車両の車体用補強装置が知られている。
【0003】
また、下記特許文献2に示されるように、自動車車両のルーフパネルであって、該ルーフパネルから角度をなして延在して取付面を提供するフランジを有するルーフパネルと、自動車車両のサイドボディパネルであって、該サイドボディパネルから角度をなして延在して取付面を提供するフランジを有するサイドボディパネルと、前記ルーフパネルの取付面と前記サイドパネルの取付面とに接着され、エポキシ系構造用フォームである構造用接着剤材料と、前記ルーフパネルと前記サイドパネルとの間のギャップを封止するシーラント材料とを備え、前記ボディパネルの取付面が前記サイドパネルの取付面と対向し、前記シーラント材料が自動車車両周囲の環境から見えないように前記構造用接着剤材料を隠し、前記シーラント材料、前記接着剤材料またはその両方が、取付面同士の溶接部による補助なしで前記ルーフパネルの取付面と前記サイドパネルの取付面との間の実質的に唯一の取付部となるように構成された自動車車両用の取付機構が知られている。
【特許文献1】特開2007−203896号公報
【特許文献2】特開2004−131062号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に開示された車両の車体用補強装置では、車両の加減速、旋回、突起乗り越しなどに起因して車体が弾性変形した後に生じる車体の振動が、上記油圧式減衰力発生手段によって減衰されるため、車体が弾性変形するときの変形の速度を低減することができるとともに、車体の弾性変形時にオーバーシュートが発生するのを防ぐことができ、しかも車体に衝撃荷重が加えられたときの乗り心地を向上できるという利点がある。しかし、シリンダチューブ内にガスやオイルが封入された高価なダンパからなる上記油圧式減衰力発生手段を設ける必要があるため、製造コストが高くなるとともに車体重量が増大することが避けられないという問題がある。
【0005】
また、上記特許文献2に開示された自動車車両用の取付機構では、エポキシ系構造用フォームである構造用接着剤により自動車車両のルーフを車両の一枚またはそれ以上のボディパネルに接合した安価な取付機構が得られるという利点がある。しかし、この取付機構では、車両の走行時に車体が捩れるように変形することに起因してルーフパネルとルーフサイドレール等との間に生じる低周波振動等を低減することができないため、車両の乗り心地を効果的に改善することができないという問題があった。
【0006】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、ルーフパネルとルーフサイドレール等との間に生じる低周波振動を簡単な構成で効果的に低減して乗り心地を向上できる自動車のルーフ部構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係る発明は、車体前部ウエストラインからルーフに向けて延びる左右一対のフロントピラーと、車体後部ウエストラインからルーフに向けて延びる左右一対のリヤピラーと、ルーフの左右両側辺部に沿って車体の前後方向に延びる左右一対のルーフサイドレールと、左右両ルーフサイドレールの前端部同士を連結するように車幅方向に延びるフロントヘッダメンバと、左右両ルーフサイドレールの後端部同士を連結するように車幅方向に延びるリヤヘッダメンバと、上記左右両ルーフサイドレール、フロントヘッダおよびリヤヘッダにより四辺部が区画された矩形領域の上面を覆うルーフパネルとを含み、このルーフパネルの左右両側辺部が上記ルーフサイドレールの車幅方向中央部側に設けられたフランジ部に重ね合わされて固着されたルーフサイド結合部を有する自動車のルーフ部構造であって、上記ルーフサイド結合部には、温度20°Cにおけるヤング率が500MPa以下の特性を有する弾性変形可能な接着剤によりルーフパネルの左右両側辺部と上記ルーフサイドレールのフランジ部とが接合された弾性接着部が設けられるとともに、上記ルーフサイド結合部の前後両端部分がその前後方向中央部分に比べて剪断方向に相対変位し易くなる態様で上記接着剤が塗布されたものである。
【0008】
請求項2に係る発明は、上記請求項1に記載の自動車のルーフ部構造において、上記ルーフサイド結合部の前後両端部分のみに上記弾性接着部が配設されるとともに、ルーフサイド結合部の前後方向中央部分に上記ルーフパネルの左右両側辺部と上記ルーフサイドレールのフランジ部とが所定間隔でスポット溶接されたスポット溶接部が設けられたものである。
【0009】
請求項3に係る発明は、上記請求項1または2に記載の自動車のルーフ部構造において、上記ルーフサイド結合部の前後両端部分における上記接着剤の厚みが、ルーフサイド結合部の前後方向中央部分に比べて大きくなる態様で上記接着剤が塗布されたものである。
【0010】
請求項4に係る発明は、上記請求項1〜3の何れか1項に記載の自動車のルーフ部構造において、上記ルーフサイド結合部の前後両端部分における上記接着剤の面積が、ルーフサイド結合部の前後方向中央部分に比べて狭くなる態様で上記接着剤が塗布されたものである。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に係る発明では、上記ルーフサイド結合部の弾性接着部に、温度20°Cにおけるヤング率が500MPa以下の特性を有する接着剤を、上記ルーフサイド結合部の前後両端部分がその前後方向中央部分に比べて剪断方向に相対変位し易い態様で塗布したため、例えば車両の重心を通って前後方向に延びるセンターラインを支点として車体を交互に捩り変位させるように捩り振動力に応じ、上記フロントピラーおよびリヤピラーにより支持されたルーフパネルのコーナー部を車体の中心側および外方側に向けて交互に移動させる方向に変位させる方向に荷重が作用した場合に、上記接着剤を弾性変形させて上記振動変位のエネルギーを吸収しつつ、所定の位相遅れをもってルーフパネルに荷重を伝達することにより、簡単な構成で上記低周波振動を効率よく減衰して車両の乗り心地を効果的に向上させることができる。
【0012】
請求項2に係る発明では、上記ルーフサイド結合部の前後両端部分のみに上記弾性接着部を配設するとともに、ルーフサイド結合部の前後方向中央部分に上記ルーフパネルの左右両側辺部と上記ルーフサイドレールのフランジ部とを所定間隔でスポット溶接してなるスポット溶接部を設けたため、このスポット溶接部において上記ルーフパネルとルーフサイドレールとの接合強度を充分に維持しつつ、フロントピラーおよびリヤピラー等を介してルーフパネルに伝達される走行振動等を効果的に減衰できるという利点がある。
【0013】
請求項3に係る発明では、上記ルーフサイド結合部の前後両端部分における上記接着剤の厚みを、ルーフサイド結合部の前後方向中央部分に比べて大きくする態様で上記接着剤を塗布したため、車両の重心を通って前後方向に延びるセンターラインを支点として車体を交互に捩り変位させるように作用する捩り振動力に応じ、上記フロントピラーおよびリヤピラーにより支持されたルーフパネルのコーナー部に生じる振動変位を効率よく減衰して車両の乗り心地を効果的に向上できるという利点がある。
【0014】
請求項4に係る発明では、上記ルーフサイド結合部の前後両端部分における上記接着剤の面積を、ルーフサイド結合部の前後方向中央部分に比べて狭くする態様で上記接着剤を塗布したため、車両の重心を通って前後方向に延びるセンターラインを支点として車体を交互に捩り変位させるように作用する捩り振動力に応じ、上記フロントピラーおよびリヤピラーにより支持されたルーフパネルのコーナー部に生じる振動変位を効率よく減衰して車両の乗り心地を効果的に向上できるという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1および図2は、本発明の第1実施形態に係る自動車のルーフ構造を備えた車体の概略構成を示している。この自動車には、車体のウエストライン前部からルーフに向けて斜め後ろ側に延びる左右一対のフロントピラー1と、左右のフロントピラー1に左右両側辺部が支持されたフロントウインドガラス2と、車体のウエストライン後部からルーフに向けて延びる左右一対のリヤピラー3と、左右のリヤピラー3に左右両側辺部が支持されたリヤウインドガラス4またはバックドアと、ルーフの左右両側辺部に沿って車体の前後方向に延びる左右一対のルーフサイドレール5と、左右両ルーフサイドレール5の前端部同士を連結するように車幅方向に延びるフロントヘッダメンバ6と、左右両ルーフサイドレール5の後端部同士を連結するように車幅方向に延びるリヤヘッダメンバ7と、上記左右両ルーフサイドレール5、フロントヘッダメンバ6およびリヤヘッダメンバ7により外周部が区画された矩形領域の上面を覆うルーフパネル8とを有している。
【0016】
上記ルーフサイドレール5は、図3に示すように、レールアウタパネル9およびレールインナパネル10と、両パネル9,10の間に配設されたレールレインフォースメント11とを有している。そして、上記ルーフサイドレール5の車幅方向中央部側には、車体の内方側に向けてフランジ部12が略水平に突設され、このフランジ部12に、上記ルーフパネル8の左右両側辺部13が重ね合わされて固着されることによりルーフサイド結合部14が構成されている。
【0017】
上記ルーフサイド結合部14は、図4に示すように、その前後両端部分に設けられた弾性接着部15と、この弾性接着部15,15の間であって上記ルーフサイド結合部14の前後方向中央部分に配設されたスポット溶接部16とからなっている。上記弾性接着部15には、ルーフサイド結合部14の前後両端部分が、前後方向中央部分に比べて剪断方向に相対変位し易い態様で、つまり上記ルーフパネル8に沿ってフランジ部12を変位させる方向に作用する荷重が同じであっても、上記ルーフサイド結合部14の前後両端部分が、前後方向中央部分に比べて顕著に相対変位するような態様で、下記の接着剤が塗布されている。
【0018】
すなわち、上記弾性接着部15は、ルーフパネル8の左右両側辺部13と上記ルーフサイドレール5のフランジ部12とを、温度20°Cにおけるヤング率が500MPa以下で損失係数が0.1以上の特性を有する弾性変形可能な接着剤17で接合することにより形成されている。そして、上記ルーフサイド結合部14の前後両端部分側のみに、上記接着剤17が塗布された弾性接着部15が配設されるとともに、ルーフサイド結合部14の前後方向中央部分には、上記ルーフパネル8の左右両側辺部13とルーフサイドレール5のフランジ部12とが所定間隔でスポット溶接されたスポット溶接部16、つまり上記弾性接着部15よりも接合強度の大きい接合部が設けられている。このように上記スポット溶接部16に比べて接合強度の小さい弾性接着部15が、ルーフサイド結合部14の前後両端部分のみに配設されることにより、上記ルーフサイド結合部14の前後両端部分がその前後方向中央部分に比べて剪断方向に相対変位し易くなるように上記接着剤17の塗布領域が設定されている。
【0019】
各種接着剤の温度20°Cにおけるヤング率を実験により測定したところ、図5に示すようなデータが得られた。このデータから、エポキシ樹脂系準構造用の接着剤、例えばサンスター技研株式会社製の商品名「ADシーラー」もしくはセメダイン株式会社製の商品名「EP001」、またはエラストマー系(ゴム系)接着剤、例えばサンスター技研株式会社製の商品名「ペンギンシール」は、その温度20°Cにおけるヤング率500MPa以下であって、エポキシ樹脂系構造用の接着剤、例えばサンスター技研株式会社製の商品名「ペンギンセメント」、またはセメダイン株式会社製の商品名「EP008」もしくは「EP330」からなる比較例に比べてヤング率が小さいため、軽い荷重でも大きく弾性変形する特性を有していることが解る。
【0020】
また、各種接着剤の温度20°Cにおける損失係数を、動的粘弾性測定装置により測定したところ、上記サンスター技研株式会社製の商品名「ADシーラー」からなるエポキシ樹脂系準構造用の接着剤は、他の接着剤に比べて損失係数が極めて大きいことが確認された。上記損失係数とは、図6に示す動粘性特性図における貯蔵弾性率K′に対する損失弾性率K′′の比率(K′′/K′)で表される値であり、上記損失係数が大きい程、振動エネルギーを充分に吸収する機能、つまり減衰機能が大きくなる特性がある。
【0021】
したがって、上記サンスター技研株式会社製の商品名「ADシーラー」からなるエポキシ樹脂系準構造用の接着剤であって、温度20°Cにおけるヤング率が500MPa以下で損失係数が0.1以上の特性を有する弾性変形可能な接着剤17を、上記弾性接着部15に使用することにより、上記ルーフサイド結合部14に入力された荷重に応じて上記ルーフパネル8の左右両側辺部13と上記ルーフサイドレール5のフランジ部12とを大きく相対変位させるとともに、その際に減衰作用を充分に発揮させて上記振動を効果的に減衰できることが解る。
【0022】
ここで、上記ヤング率、損失係数は、接着剤の温度や、これに作用する周波数、振幅に依存する特性であるが、本実施例においては、自動車使用時の代表値として、温度20°C、周波数15Hz、振幅0.1mmを設定している。なお、使用中の自動車において、接着剤の温度が20°Cから離れた場合であっても、接着剤性質、一般に損失係数等が急激に低下するわけではなく、減衰作用が直ちに失われるわけではない。
【0023】
上記フロントヘッダメンバ6は、図7に示すように、ルーフパネル8の下面に接合される前側フランジ部18および後側フランジ部19を有する断面ハット型部材からなり、上記前側フランジ部18にルーフパネル8の前端部20が重ね合わされて固着されることによりフロント結合部21が構成されている。また、上記リヤヘッダメンバ7は、図8に示すように、ルーフパネル8の下面に接合される前側フランジ部22および後側フランジ部23を有する断面ハット型部材からなり、上記後側フランジ部23にルーフパネル8の後端部24が重ね合わされて固着されることによりリヤ結合部25が構成されている。
【0024】
なお、上記フロントヘッダメンバ6の後側フランジ部19およびリヤヘッダメンバ7の前側フランジ部22と、上記ルーフパネル8とは、エポキシ樹脂系構造用の接着剤27で接着される等により固定されている。また、上記フロント結合部21およびリヤ結合部25は、図4に示すように、その左右両端部分に設けられた弾性接着部28と、この弾性接着部28,28の間、つまりフロント結合部21およびリヤ結合部25の車幅方向中央部分に配設されたスポット溶接部29とからなっている。
【0025】
そして、上記フロントヘッダメンバ6の前側フランジ部18およびリヤヘッダメンバ7の後側フランジ部23と、ルーフパネル8の前端部20および後端部24とが、温度20°Cにおけるヤング率が500MPa以下で損失係数が0.1以上の特性を有する弾性変形可能な接着剤、例えば上記サンスター技研株式会社製の商品名「ADシーラー」からなるエポキシ樹脂系準構造用の接着剤26で接合されることにより形成された上記弾性接着部28がフロント結合部21およびリヤ結合部25の左右両端部分のみに設けられるとともに、ルーフパネル8の前後両端部20,24と上記フロントヘッダメンバ6の前側フランジ部18およびリヤヘッダメンバ7の後側フランジ部23とを所定間隔でスポット溶接された上記スポット溶接部29がフロント結合部21およびリヤ結合部25の車幅方向中央部分に設けられている。これにより、上記フロント結合部21およびリヤ結合部25の左右両端部分がその車幅方向中央部分に比べて剪断方向に相対変位し易くなるように上記接着剤26の塗布領域が設定されている。
【0026】
上記のように車体のウエストライン前部からルーフに向けて延びる左右一対のフロントピラー1と、車体のウエストライン後部からルーフに向けて延びる左右一対のリヤピラー3と、ルーフの左右両側辺部に沿って車体の前後方向に延びる左右一対のルーフサイドレール5と、左右両ルーフサイドレール5の前端部同士を連結するように車幅方向に延びるフロントヘッダメンバ6と、左右両ルーフサイドレール5の後端部同士を連結するように車幅方向に延びるリヤヘッダメンバ7と、上記左右両ルーフサイドレール5、フロントヘッダメンバ6およびリヤヘッダメンバ7により外周部が区画された矩形領域の上面を覆うルーフパネル8とを含み、このルーフパネル8の左右両側辺部13が上記ルーフサイドレール5の車幅方向中央部側に設けられたフランジ部12に重ね合わされて固着されたルーフサイド結合部14を有する自動車のルーフ部構造において、このルーフサイド結合部14に、温度20°Cにおけるヤング率が500MPa以下の特性を有する弾性変形可能な接着剤17によりルーフパネル8の左右両側辺部13と上記ルーフサイドレール5のフランジ部12とが接着された弾性接着部15を設けるとともに、上記ルーフサイド結合部14の前後両端部分がその前後方向中央部分に比べて剪断方向に相対変位し易くなる態様で上記接着剤26を塗布したため、上記ルーフパネル8とルーフサイドレール5との間に生じる振動、特に20〜30Hz程度の周波数を有する低周波振動を簡単な構成で効果的に低減して、車両の乗り心地を向上できるという利点がある。
【0027】
すなわち、車両の走行時には、サスペンションから伝達される走行振動等がフロントピラー1およびリヤピラー3等を介してルーフパネル8に伝達され、これらが一定周期で振動すると、乗員が不快感を受けて乗り心地が悪くなることが避けられない。しかし、上記のようにルーフサイド結合部14の弾性接着部15に弾性変形可能な接着剤、つまり温度20°Cにおけるヤング率が500MPa以下の特性を有する接着剤17を設けた場合には、例えば図9に示すように、上記ルーフサイドレール5を車体の中心側および外方側に振動変位させる方向に作用する荷重に応じ、上記接着剤17を弾性変形させる上記振動変位のエネルギーを吸収しつつ、所定の位相遅れをもって上記ルーフパネル8に荷重を伝達することにより、簡単な構成で上記低周波振動を効率よく減衰して車両の乗り心地を効果的に向上させることができる。
【0028】
上記弾性接着部15に接着力が過度に強い接着剤を設けた場合には、ルーフパネル8の左右両側辺部13とルーフサイドレール5のフランジ部12との間に大きな相対変位を生じさせることができないことに起因して充分な減衰作用が得られないため、上記接着剤17として、温度20°Cにおけるヤング率が500MPaよりも小さいものを使用する必要がある。特に、上記第1実施形態では、上記接着剤17として、温度20°Cにおける損失係数が0.1以上のものを使用したため、上記弾性接着部15に設けられた接着剤の損失係数が小さすぎることに起因して、ルーフサイドレール5のフランジ部12との間に生じた振動の減衰作用を充分に得られなくなるという事態の発生を効果的に防止し、簡単な構成で上記低周波振動を、より効率よく減衰することができるという利点がある。
【0029】
なお、上記接着剤17のヤング率を低くすればする程、上記低周波振動をより効果的に低減することが可能であるが、上記ヤング率が過度に低い接着剤を使用した場合には、充分な接着力が得られないことに起因して、上記弾性接着部15の形状を維持することができないという問題がある。このため、上記接着剤17として、例えば温度20°Cにおけるヤング率が50MPa以上のものを使用することが望ましい。
【0030】
そして、上記第1実施形態では、ルーフサイド結合部14の前後両端部分のみに上記接着剤17が塗布された弾性接着部15を配設するとともに、ルーフサイド結合部14の前後方向中央部分に上記ルーフパネル8の左右両側辺部13と上記ルーフサイドレール5のフランジ部12とを所定間隔でスポット溶接してなるスポット溶接部16を設けた構造としたため、このスポット溶接部16において上記ルーフパネル8とルーフサイドレール5との接合強度を充分に維持しつつ、フロントピラー1およびリヤピラー3等を介してルーフパネル8に伝達される走行振動等を効果的に減衰できるという利点がある。
【0031】
すなわち、図11および図12に示すように、車両の重心を通って前後方向に延びるセンターラインを支点として車体を交互に捩り変位させるように捩り振動力Mが作用した場合には、この捩り振動力Mが、上記フロントピラー1およびリヤピラー3により支持されたルーフパネル8のコーナー部を、車体の中心側および外方側に向けて交互に移動させる方向に変位させる方向に作用するのに対し、ルーフパネル8の前後方向中央部分には、上記捩り振動力Mに応じた変位荷重がほとんど作用することがない。したがって、上記ルーフサイド結合部14の前後方向中央部分に配設されたスポット溶接部16においてルーフパネル8とルーフサイドレール5との接合強度を充分に維持しつつ、上記弾性接着部15において接着剤17を弾性変性させることにより上記捩り振動力Mを効果的に低減することができる。
【0032】
なお、上記ルーフサイド結合部14の前後両端部分のみに上記接着剤17が塗布された弾性接着部15を配設した上記実施形態に代え、あるいは上記ルーフサイド結合部14の前後両端部分のみに上記接着剤17が塗布された弾性接着部15を配設した上記構成に加えて、図13に示すように、上記ルーフサイド結合部14に設けられた弾性接着部15において、ルーフパネル8の左右両側辺部13と上記ルーフサイドレール5のフランジ部12との間隔を、ルーフサイド結合部14の前後両端部側に至る程大きくなるように先拡がり形状に形成するとともに、上記ルーフサイド結合部14の前後両端部分における接着剤17の塗布厚さをルーフサイド結合部14の前後方向中央部分に比べて大きくする態様で上記接着剤17を塗布することにより、上記ルーフサイド結合部14の前後両端部分が、その前後方向中央部分に比べて剪断方向に相対変位し易くなるように構成してもよい。
【0033】
すなわち、温度20°Cにおけるヤング率が500MPa以下で損失係数が0.1以上の特性を有する上記接着剤17により接着されたルーフパネル8およびルーフサイドレール5の剪断方向における相対変位量と、接着剤17の塗布厚さとの関係を調べる実験を行ったところ、図14に示すようなデータが得られた。このデータから接着剤17の塗布厚さが大きい程、上記相対変位量が大きくなる傾向があるため、上記ルーフサイド結合部14の前後両端部分における接着剤17の塗布厚さを、ルーフサイド結合部14の前後方向中央部分に比べて大きくするように接着剤17の塗布量を変化させることにより、上記ルーフサイド結合部14の前後両端部分を、その前後方向中央部分に比べて剪断方向に相対変位し易くした構造とすることができることが解る。
【0034】
上記のようにルーフサイド結合部14の前後両端部分における接着剤17の塗布厚さをルーフサイド結合部14の前後方向中央部分に比べて大きくする態様で上記接着剤17を塗布することにより、上記ルーフサイド結合部14の前後両端部分を、その前後方向中央部分に比べて剪断方向に相対変位し易く構成した場合には、上記捩り振動力Mに応じてルーフサイド結合部14の前後両端部分を大きく変位させることができる。したがって、上記ルーフサイド結合部14の前後両端部分に塗布された接着剤17を弾性変性させることによる振動抑制効果が顕著に得られることとなって、上記捩り振動力Mを、より効果的に低減できるという利点がある。
【0035】
また、図15に示すように、上記ルーフサイド結合部14に設けられた弾性接着部15おいて、ルーフサイド結合部14の前後両端部分における接着剤の塗布面積を、ルーフサイド結合部14の前後方向中央部分に比べて狭くする態様で上記接着剤を塗布することにより、上記ルーフサイド結合部14の前後両端部分が、その前後方向中央部分に比べて剪断方向に相対変位し易くなるように構成してもよい。このように構成した場合には、上記捩り振動力Mを、より効果的に低減できるという利点がある。
【0036】
すなわち、温度20°Cにおけるヤング率が500MPa以下で損失係数が0.1以上の特性を有する上記接着剤17により接着されたルーフパネル8およびルーフサイドレール5のフランジ部12の剪断方向における相対変位量と、接着剤17の塗布面積との関係を調べる実験を行ったところ、図16に示すようなデータが得られた。このデータから接着剤17の塗布面積が大きい程、上記相対変位量が小さくなる傾向があるため、上記ルーフサイド結合部14の前後両端部分における接着剤17の塗布幅(塗布面積)を、ルーフサイド結合部14の前後方向中央部分側に比べて小さくするように接着剤17の塗布領域を変化させることにより、上記ルーフサイド結合部14の前後両端部分を、その前後方向中央部分に比べて剪断方向に相対変位し易くした構造とすることができることが解る。
【0037】
したがって、上記のようにルーフサイド結合部14の前後両端部分における接着剤17の塗布幅をルーフサイド結合部14の前後方向中央部分に比べて小さくする態様で上記接着剤17を塗布することにより、上記ルーフサイド結合部14の前後両端部分を、その前後方向中央部分に比べて剪断方向に相対変位し易く構成した場合には、ルーフサイド結合部14の前後両端部分に塗布された上記接着剤17を弾性変性させることによる振動抑制効果が顕著に得られることとなって、上記捩り振動力Mを、より効果的に低減できるという利点がある。
【0038】
また、上記第1実施形態では、ルーフパネル8の前後両端部20,24が上記フロントヘッダメンバ6およびリヤヘッダメンバ7に設けられたフランジ部18,23にそれぞれ重ね合わされて固着されたフロント結合部21およびリヤ結合部25を有する自動車のルーフ部構造において、上記フロント結合部21およびリヤ結合部25に、温度20°Cにおけるヤング率が500MPa以下で損失係数が0.1以上の特性を有する弾性変形可能な接着剤26によりルーフパネル8の前後両端部20,24と上記フロントヘッダメンバ6およびリヤヘッダメンバ7のフランジ部18,23とが接着された弾性接着部21,25を設けたため、上記フロントヘッダメンバ6およびリヤヘッダメンバ7を車体の中心側および外方側に振動変位させる方向の荷重が作用した場合等には、例えば図10に示すように、上記フロント結合部21に設けられた接着剤26を弾性変形させて上記振動変位のエネルギーを吸収しつつ、所定の位相遅れをもって上記フロントヘッダメンバ6からルーフパネル8に荷重を伝達することにより、簡単な構成で優れた減衰作用が得られるという利点がある。
【0039】
さらに、上記第1実施形態に示すように、フロント結合部21およびリヤ結合部25の左右両端部分のみに上記接着剤26が塗布された弾性接着部28を配設するとともに、フロント結合部21およびリヤ結合部25の車幅方向中央部分に上記ルーフパネル8の左右両側辺部13と上記ルーフサイドレール5のフランジ部12とを所定間隔でスポット溶接してなるスポット溶接部29を設けた構造とした場合には、このスポット溶接部29においてルーフパネル8とフロントヘッダメンバ6およびリヤヘッダメンバ7との接合強度を充分に維持しつつ、上記弾性接着部28において接着剤26を弾性変性させることにより上記捩り振動力Mを、さらに効果的に低減できるという利点がある。
【0040】
また、上記フロントピラー1およびリヤピラー3等を介してルーフパネル8に伝達される振動を効果的に減衰できるようにするためには、上記フロント結合部21およびリヤ結合部25の左右両端部分に設けられた弾性接着部28において、上記接着剤26の塗布厚さが、車幅方向中央部分に比べて左右両端部分が大きくなる態様で、温度20°Cにおけるヤング率が500MPa以下で損失係数が0.1以上の特性を有する上記接着剤26を塗布することにより、上記フロント結合部21およびリヤ結合部25の左右両端部分を、その車幅方向中央部分に比べて剪断方向に相対変位させ易いように構成することが好ましい。
【0041】
さらに、上記フロント結合部21およびリヤ結合部25の左右両端部分に設けられた弾性接着部28において、フロント結合部21およびリヤ結合部25の左右両端部分における接着剤の塗布面積を、その車幅方向中央部分に比べて狭くする態様で上記接着剤26を塗布することにより、上記フロント結合部21およびリヤ結合部25の左右両端部分が、その車幅方向中央部分に比べて剪断方向に相対変位し易い構造とし、これによって上記フロントピラー1およびリヤピラー3等からルーフパネル8に伝達される振動を効果的に減衰し得るように構成してもよい。
【0042】
図17は、本発明に係る本発明に係る自動車のルーフ構造の第2実施形態を示している。この第2実施形態に係る自動車のルーフ構造では、上記ルーフサイド結合部14が、ルーフパネル8の左右両側辺部13およびルーフサイドレール5のフランジ部12により形成されて車幅方向に延びる水平部30と、この水平部30に連設されて上下方向に延びる縦壁部31とを有する略断面略L状に形成され、上記縦壁部31に、温度20°Cにおけるヤング率が500MPa以下で損失係数が0.1以上の特性を有する接着剤17が塗布された弾性接着部が設けられるとともに、上記水平部30にルーフパネル8の側辺部13とルーフサイドレール5のフランジ部12とがスポット溶接されたスポット溶接部が設けられている。
【0043】
上記構成によれば、フロントピラー1およびリヤピラー3等からルーフサイド結合部14を介してルーフパネル8に伝達される上下振動を、上記縦壁部31に塗布された接着剤17を弾性変形させることにより効果的に減衰することができるとともに、ルーフパネル8とルーフサイドレール5との接合強度を上記水平部30のスポット溶接部において充分に維持することができる。しかも、上記スポット溶接部とは独立した位置に上記接着剤17を塗布することができるため、その塗布作業を容易かつ適正に行い得るとともに、接着剤17の塗布厚さ等を正確に管理できる等の利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の第1実施形態に係る自動車のルーフ構造を備えた車体の概略構成を示す説明図である。
【図2】上記車体の平面図である。
【図3】図2のIII−III線断面図である。
【図4】ルーフパネルの構成を示す斜視図である。
【図5】接着剤の特性を示す特性図である。
【図6】接着剤の動粘性特性図である。
【図7】図2のVII−VII線断面図である。
【図8】図2のVIII−VIII線断面図である。
【図9】ルーフサイド結合部における接着剤の弾性変形状態を示す説明図である。
【図10】フロント結合部における接着剤の弾性変形状態を示す説明図である。
【図11】ルーフの変形状態を示す説明図である。
【図12】ルーフの変形状態を示す説明図である。
【図13】ルーフサイド結合部の変形例を示す側面断面図である。
【図14】接着剤の塗布厚さと結合部の相対変位との関係を示すグラフである。
【図15】ルーフサイド結合部の変形例を示す平面図である。
【図16】接着剤の塗布面積と結合部の相対変位との関係を示すグラフである。
【図17】本発明に係る自動車のルーフ構造の第2実施形態を示す図3相当図である。
【符号の説明】
【0045】
1 フロントピラー
3 リヤピラー
5 ルーフサイドレール
6 フロントヘッダ
7 リヤヘッダ
8 ルーフパネル
12 ルーフサイドレールのフランジ部
13 ルーフパネルの側辺部
15 弾性接着部
17 接着剤
【技術分野】
【0001】
本発明は、左右両ルーフサイドレール、フロントヘッダおよびリヤヘッダにより外周部が区画された矩形領域の上面がルーフパネルで覆われた自動車のルーフ部構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、下記特許文献1に示されるように、細長い形状に形成されかつその長手方向の変形に対して減衰力を発生する油圧式減衰力発生手段と、この油圧式減衰力発生手段の両端部を車体フレームに取り付ける取付手段とによって棒状に形成された複数の補強装置本体を備えた車両の車体用補強装置であって、前記複数の補強装置本体は、前記車体フレームの車体前側において略左右対称となるように位置する左前側取付部および右前側取付部と、前記車体フレームの車体後側において略左右対称となるように位置する左後側取付部および右後側取付部からなる4個所の取付部の間に平面視においてX字状に並べられ、前記車体フレームにおける車体下部で車室外に露出する位置に下側から着脱自在に取付けられた車両の車体用補強装置が知られている。
【0003】
また、下記特許文献2に示されるように、自動車車両のルーフパネルであって、該ルーフパネルから角度をなして延在して取付面を提供するフランジを有するルーフパネルと、自動車車両のサイドボディパネルであって、該サイドボディパネルから角度をなして延在して取付面を提供するフランジを有するサイドボディパネルと、前記ルーフパネルの取付面と前記サイドパネルの取付面とに接着され、エポキシ系構造用フォームである構造用接着剤材料と、前記ルーフパネルと前記サイドパネルとの間のギャップを封止するシーラント材料とを備え、前記ボディパネルの取付面が前記サイドパネルの取付面と対向し、前記シーラント材料が自動車車両周囲の環境から見えないように前記構造用接着剤材料を隠し、前記シーラント材料、前記接着剤材料またはその両方が、取付面同士の溶接部による補助なしで前記ルーフパネルの取付面と前記サイドパネルの取付面との間の実質的に唯一の取付部となるように構成された自動車車両用の取付機構が知られている。
【特許文献1】特開2007−203896号公報
【特許文献2】特開2004−131062号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に開示された車両の車体用補強装置では、車両の加減速、旋回、突起乗り越しなどに起因して車体が弾性変形した後に生じる車体の振動が、上記油圧式減衰力発生手段によって減衰されるため、車体が弾性変形するときの変形の速度を低減することができるとともに、車体の弾性変形時にオーバーシュートが発生するのを防ぐことができ、しかも車体に衝撃荷重が加えられたときの乗り心地を向上できるという利点がある。しかし、シリンダチューブ内にガスやオイルが封入された高価なダンパからなる上記油圧式減衰力発生手段を設ける必要があるため、製造コストが高くなるとともに車体重量が増大することが避けられないという問題がある。
【0005】
また、上記特許文献2に開示された自動車車両用の取付機構では、エポキシ系構造用フォームである構造用接着剤により自動車車両のルーフを車両の一枚またはそれ以上のボディパネルに接合した安価な取付機構が得られるという利点がある。しかし、この取付機構では、車両の走行時に車体が捩れるように変形することに起因してルーフパネルとルーフサイドレール等との間に生じる低周波振動等を低減することができないため、車両の乗り心地を効果的に改善することができないという問題があった。
【0006】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、ルーフパネルとルーフサイドレール等との間に生じる低周波振動を簡単な構成で効果的に低減して乗り心地を向上できる自動車のルーフ部構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係る発明は、車体前部ウエストラインからルーフに向けて延びる左右一対のフロントピラーと、車体後部ウエストラインからルーフに向けて延びる左右一対のリヤピラーと、ルーフの左右両側辺部に沿って車体の前後方向に延びる左右一対のルーフサイドレールと、左右両ルーフサイドレールの前端部同士を連結するように車幅方向に延びるフロントヘッダメンバと、左右両ルーフサイドレールの後端部同士を連結するように車幅方向に延びるリヤヘッダメンバと、上記左右両ルーフサイドレール、フロントヘッダおよびリヤヘッダにより四辺部が区画された矩形領域の上面を覆うルーフパネルとを含み、このルーフパネルの左右両側辺部が上記ルーフサイドレールの車幅方向中央部側に設けられたフランジ部に重ね合わされて固着されたルーフサイド結合部を有する自動車のルーフ部構造であって、上記ルーフサイド結合部には、温度20°Cにおけるヤング率が500MPa以下の特性を有する弾性変形可能な接着剤によりルーフパネルの左右両側辺部と上記ルーフサイドレールのフランジ部とが接合された弾性接着部が設けられるとともに、上記ルーフサイド結合部の前後両端部分がその前後方向中央部分に比べて剪断方向に相対変位し易くなる態様で上記接着剤が塗布されたものである。
【0008】
請求項2に係る発明は、上記請求項1に記載の自動車のルーフ部構造において、上記ルーフサイド結合部の前後両端部分のみに上記弾性接着部が配設されるとともに、ルーフサイド結合部の前後方向中央部分に上記ルーフパネルの左右両側辺部と上記ルーフサイドレールのフランジ部とが所定間隔でスポット溶接されたスポット溶接部が設けられたものである。
【0009】
請求項3に係る発明は、上記請求項1または2に記載の自動車のルーフ部構造において、上記ルーフサイド結合部の前後両端部分における上記接着剤の厚みが、ルーフサイド結合部の前後方向中央部分に比べて大きくなる態様で上記接着剤が塗布されたものである。
【0010】
請求項4に係る発明は、上記請求項1〜3の何れか1項に記載の自動車のルーフ部構造において、上記ルーフサイド結合部の前後両端部分における上記接着剤の面積が、ルーフサイド結合部の前後方向中央部分に比べて狭くなる態様で上記接着剤が塗布されたものである。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に係る発明では、上記ルーフサイド結合部の弾性接着部に、温度20°Cにおけるヤング率が500MPa以下の特性を有する接着剤を、上記ルーフサイド結合部の前後両端部分がその前後方向中央部分に比べて剪断方向に相対変位し易い態様で塗布したため、例えば車両の重心を通って前後方向に延びるセンターラインを支点として車体を交互に捩り変位させるように捩り振動力に応じ、上記フロントピラーおよびリヤピラーにより支持されたルーフパネルのコーナー部を車体の中心側および外方側に向けて交互に移動させる方向に変位させる方向に荷重が作用した場合に、上記接着剤を弾性変形させて上記振動変位のエネルギーを吸収しつつ、所定の位相遅れをもってルーフパネルに荷重を伝達することにより、簡単な構成で上記低周波振動を効率よく減衰して車両の乗り心地を効果的に向上させることができる。
【0012】
請求項2に係る発明では、上記ルーフサイド結合部の前後両端部分のみに上記弾性接着部を配設するとともに、ルーフサイド結合部の前後方向中央部分に上記ルーフパネルの左右両側辺部と上記ルーフサイドレールのフランジ部とを所定間隔でスポット溶接してなるスポット溶接部を設けたため、このスポット溶接部において上記ルーフパネルとルーフサイドレールとの接合強度を充分に維持しつつ、フロントピラーおよびリヤピラー等を介してルーフパネルに伝達される走行振動等を効果的に減衰できるという利点がある。
【0013】
請求項3に係る発明では、上記ルーフサイド結合部の前後両端部分における上記接着剤の厚みを、ルーフサイド結合部の前後方向中央部分に比べて大きくする態様で上記接着剤を塗布したため、車両の重心を通って前後方向に延びるセンターラインを支点として車体を交互に捩り変位させるように作用する捩り振動力に応じ、上記フロントピラーおよびリヤピラーにより支持されたルーフパネルのコーナー部に生じる振動変位を効率よく減衰して車両の乗り心地を効果的に向上できるという利点がある。
【0014】
請求項4に係る発明では、上記ルーフサイド結合部の前後両端部分における上記接着剤の面積を、ルーフサイド結合部の前後方向中央部分に比べて狭くする態様で上記接着剤を塗布したため、車両の重心を通って前後方向に延びるセンターラインを支点として車体を交互に捩り変位させるように作用する捩り振動力に応じ、上記フロントピラーおよびリヤピラーにより支持されたルーフパネルのコーナー部に生じる振動変位を効率よく減衰して車両の乗り心地を効果的に向上できるという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1および図2は、本発明の第1実施形態に係る自動車のルーフ構造を備えた車体の概略構成を示している。この自動車には、車体のウエストライン前部からルーフに向けて斜め後ろ側に延びる左右一対のフロントピラー1と、左右のフロントピラー1に左右両側辺部が支持されたフロントウインドガラス2と、車体のウエストライン後部からルーフに向けて延びる左右一対のリヤピラー3と、左右のリヤピラー3に左右両側辺部が支持されたリヤウインドガラス4またはバックドアと、ルーフの左右両側辺部に沿って車体の前後方向に延びる左右一対のルーフサイドレール5と、左右両ルーフサイドレール5の前端部同士を連結するように車幅方向に延びるフロントヘッダメンバ6と、左右両ルーフサイドレール5の後端部同士を連結するように車幅方向に延びるリヤヘッダメンバ7と、上記左右両ルーフサイドレール5、フロントヘッダメンバ6およびリヤヘッダメンバ7により外周部が区画された矩形領域の上面を覆うルーフパネル8とを有している。
【0016】
上記ルーフサイドレール5は、図3に示すように、レールアウタパネル9およびレールインナパネル10と、両パネル9,10の間に配設されたレールレインフォースメント11とを有している。そして、上記ルーフサイドレール5の車幅方向中央部側には、車体の内方側に向けてフランジ部12が略水平に突設され、このフランジ部12に、上記ルーフパネル8の左右両側辺部13が重ね合わされて固着されることによりルーフサイド結合部14が構成されている。
【0017】
上記ルーフサイド結合部14は、図4に示すように、その前後両端部分に設けられた弾性接着部15と、この弾性接着部15,15の間であって上記ルーフサイド結合部14の前後方向中央部分に配設されたスポット溶接部16とからなっている。上記弾性接着部15には、ルーフサイド結合部14の前後両端部分が、前後方向中央部分に比べて剪断方向に相対変位し易い態様で、つまり上記ルーフパネル8に沿ってフランジ部12を変位させる方向に作用する荷重が同じであっても、上記ルーフサイド結合部14の前後両端部分が、前後方向中央部分に比べて顕著に相対変位するような態様で、下記の接着剤が塗布されている。
【0018】
すなわち、上記弾性接着部15は、ルーフパネル8の左右両側辺部13と上記ルーフサイドレール5のフランジ部12とを、温度20°Cにおけるヤング率が500MPa以下で損失係数が0.1以上の特性を有する弾性変形可能な接着剤17で接合することにより形成されている。そして、上記ルーフサイド結合部14の前後両端部分側のみに、上記接着剤17が塗布された弾性接着部15が配設されるとともに、ルーフサイド結合部14の前後方向中央部分には、上記ルーフパネル8の左右両側辺部13とルーフサイドレール5のフランジ部12とが所定間隔でスポット溶接されたスポット溶接部16、つまり上記弾性接着部15よりも接合強度の大きい接合部が設けられている。このように上記スポット溶接部16に比べて接合強度の小さい弾性接着部15が、ルーフサイド結合部14の前後両端部分のみに配設されることにより、上記ルーフサイド結合部14の前後両端部分がその前後方向中央部分に比べて剪断方向に相対変位し易くなるように上記接着剤17の塗布領域が設定されている。
【0019】
各種接着剤の温度20°Cにおけるヤング率を実験により測定したところ、図5に示すようなデータが得られた。このデータから、エポキシ樹脂系準構造用の接着剤、例えばサンスター技研株式会社製の商品名「ADシーラー」もしくはセメダイン株式会社製の商品名「EP001」、またはエラストマー系(ゴム系)接着剤、例えばサンスター技研株式会社製の商品名「ペンギンシール」は、その温度20°Cにおけるヤング率500MPa以下であって、エポキシ樹脂系構造用の接着剤、例えばサンスター技研株式会社製の商品名「ペンギンセメント」、またはセメダイン株式会社製の商品名「EP008」もしくは「EP330」からなる比較例に比べてヤング率が小さいため、軽い荷重でも大きく弾性変形する特性を有していることが解る。
【0020】
また、各種接着剤の温度20°Cにおける損失係数を、動的粘弾性測定装置により測定したところ、上記サンスター技研株式会社製の商品名「ADシーラー」からなるエポキシ樹脂系準構造用の接着剤は、他の接着剤に比べて損失係数が極めて大きいことが確認された。上記損失係数とは、図6に示す動粘性特性図における貯蔵弾性率K′に対する損失弾性率K′′の比率(K′′/K′)で表される値であり、上記損失係数が大きい程、振動エネルギーを充分に吸収する機能、つまり減衰機能が大きくなる特性がある。
【0021】
したがって、上記サンスター技研株式会社製の商品名「ADシーラー」からなるエポキシ樹脂系準構造用の接着剤であって、温度20°Cにおけるヤング率が500MPa以下で損失係数が0.1以上の特性を有する弾性変形可能な接着剤17を、上記弾性接着部15に使用することにより、上記ルーフサイド結合部14に入力された荷重に応じて上記ルーフパネル8の左右両側辺部13と上記ルーフサイドレール5のフランジ部12とを大きく相対変位させるとともに、その際に減衰作用を充分に発揮させて上記振動を効果的に減衰できることが解る。
【0022】
ここで、上記ヤング率、損失係数は、接着剤の温度や、これに作用する周波数、振幅に依存する特性であるが、本実施例においては、自動車使用時の代表値として、温度20°C、周波数15Hz、振幅0.1mmを設定している。なお、使用中の自動車において、接着剤の温度が20°Cから離れた場合であっても、接着剤性質、一般に損失係数等が急激に低下するわけではなく、減衰作用が直ちに失われるわけではない。
【0023】
上記フロントヘッダメンバ6は、図7に示すように、ルーフパネル8の下面に接合される前側フランジ部18および後側フランジ部19を有する断面ハット型部材からなり、上記前側フランジ部18にルーフパネル8の前端部20が重ね合わされて固着されることによりフロント結合部21が構成されている。また、上記リヤヘッダメンバ7は、図8に示すように、ルーフパネル8の下面に接合される前側フランジ部22および後側フランジ部23を有する断面ハット型部材からなり、上記後側フランジ部23にルーフパネル8の後端部24が重ね合わされて固着されることによりリヤ結合部25が構成されている。
【0024】
なお、上記フロントヘッダメンバ6の後側フランジ部19およびリヤヘッダメンバ7の前側フランジ部22と、上記ルーフパネル8とは、エポキシ樹脂系構造用の接着剤27で接着される等により固定されている。また、上記フロント結合部21およびリヤ結合部25は、図4に示すように、その左右両端部分に設けられた弾性接着部28と、この弾性接着部28,28の間、つまりフロント結合部21およびリヤ結合部25の車幅方向中央部分に配設されたスポット溶接部29とからなっている。
【0025】
そして、上記フロントヘッダメンバ6の前側フランジ部18およびリヤヘッダメンバ7の後側フランジ部23と、ルーフパネル8の前端部20および後端部24とが、温度20°Cにおけるヤング率が500MPa以下で損失係数が0.1以上の特性を有する弾性変形可能な接着剤、例えば上記サンスター技研株式会社製の商品名「ADシーラー」からなるエポキシ樹脂系準構造用の接着剤26で接合されることにより形成された上記弾性接着部28がフロント結合部21およびリヤ結合部25の左右両端部分のみに設けられるとともに、ルーフパネル8の前後両端部20,24と上記フロントヘッダメンバ6の前側フランジ部18およびリヤヘッダメンバ7の後側フランジ部23とを所定間隔でスポット溶接された上記スポット溶接部29がフロント結合部21およびリヤ結合部25の車幅方向中央部分に設けられている。これにより、上記フロント結合部21およびリヤ結合部25の左右両端部分がその車幅方向中央部分に比べて剪断方向に相対変位し易くなるように上記接着剤26の塗布領域が設定されている。
【0026】
上記のように車体のウエストライン前部からルーフに向けて延びる左右一対のフロントピラー1と、車体のウエストライン後部からルーフに向けて延びる左右一対のリヤピラー3と、ルーフの左右両側辺部に沿って車体の前後方向に延びる左右一対のルーフサイドレール5と、左右両ルーフサイドレール5の前端部同士を連結するように車幅方向に延びるフロントヘッダメンバ6と、左右両ルーフサイドレール5の後端部同士を連結するように車幅方向に延びるリヤヘッダメンバ7と、上記左右両ルーフサイドレール5、フロントヘッダメンバ6およびリヤヘッダメンバ7により外周部が区画された矩形領域の上面を覆うルーフパネル8とを含み、このルーフパネル8の左右両側辺部13が上記ルーフサイドレール5の車幅方向中央部側に設けられたフランジ部12に重ね合わされて固着されたルーフサイド結合部14を有する自動車のルーフ部構造において、このルーフサイド結合部14に、温度20°Cにおけるヤング率が500MPa以下の特性を有する弾性変形可能な接着剤17によりルーフパネル8の左右両側辺部13と上記ルーフサイドレール5のフランジ部12とが接着された弾性接着部15を設けるとともに、上記ルーフサイド結合部14の前後両端部分がその前後方向中央部分に比べて剪断方向に相対変位し易くなる態様で上記接着剤26を塗布したため、上記ルーフパネル8とルーフサイドレール5との間に生じる振動、特に20〜30Hz程度の周波数を有する低周波振動を簡単な構成で効果的に低減して、車両の乗り心地を向上できるという利点がある。
【0027】
すなわち、車両の走行時には、サスペンションから伝達される走行振動等がフロントピラー1およびリヤピラー3等を介してルーフパネル8に伝達され、これらが一定周期で振動すると、乗員が不快感を受けて乗り心地が悪くなることが避けられない。しかし、上記のようにルーフサイド結合部14の弾性接着部15に弾性変形可能な接着剤、つまり温度20°Cにおけるヤング率が500MPa以下の特性を有する接着剤17を設けた場合には、例えば図9に示すように、上記ルーフサイドレール5を車体の中心側および外方側に振動変位させる方向に作用する荷重に応じ、上記接着剤17を弾性変形させる上記振動変位のエネルギーを吸収しつつ、所定の位相遅れをもって上記ルーフパネル8に荷重を伝達することにより、簡単な構成で上記低周波振動を効率よく減衰して車両の乗り心地を効果的に向上させることができる。
【0028】
上記弾性接着部15に接着力が過度に強い接着剤を設けた場合には、ルーフパネル8の左右両側辺部13とルーフサイドレール5のフランジ部12との間に大きな相対変位を生じさせることができないことに起因して充分な減衰作用が得られないため、上記接着剤17として、温度20°Cにおけるヤング率が500MPaよりも小さいものを使用する必要がある。特に、上記第1実施形態では、上記接着剤17として、温度20°Cにおける損失係数が0.1以上のものを使用したため、上記弾性接着部15に設けられた接着剤の損失係数が小さすぎることに起因して、ルーフサイドレール5のフランジ部12との間に生じた振動の減衰作用を充分に得られなくなるという事態の発生を効果的に防止し、簡単な構成で上記低周波振動を、より効率よく減衰することができるという利点がある。
【0029】
なお、上記接着剤17のヤング率を低くすればする程、上記低周波振動をより効果的に低減することが可能であるが、上記ヤング率が過度に低い接着剤を使用した場合には、充分な接着力が得られないことに起因して、上記弾性接着部15の形状を維持することができないという問題がある。このため、上記接着剤17として、例えば温度20°Cにおけるヤング率が50MPa以上のものを使用することが望ましい。
【0030】
そして、上記第1実施形態では、ルーフサイド結合部14の前後両端部分のみに上記接着剤17が塗布された弾性接着部15を配設するとともに、ルーフサイド結合部14の前後方向中央部分に上記ルーフパネル8の左右両側辺部13と上記ルーフサイドレール5のフランジ部12とを所定間隔でスポット溶接してなるスポット溶接部16を設けた構造としたため、このスポット溶接部16において上記ルーフパネル8とルーフサイドレール5との接合強度を充分に維持しつつ、フロントピラー1およびリヤピラー3等を介してルーフパネル8に伝達される走行振動等を効果的に減衰できるという利点がある。
【0031】
すなわち、図11および図12に示すように、車両の重心を通って前後方向に延びるセンターラインを支点として車体を交互に捩り変位させるように捩り振動力Mが作用した場合には、この捩り振動力Mが、上記フロントピラー1およびリヤピラー3により支持されたルーフパネル8のコーナー部を、車体の中心側および外方側に向けて交互に移動させる方向に変位させる方向に作用するのに対し、ルーフパネル8の前後方向中央部分には、上記捩り振動力Mに応じた変位荷重がほとんど作用することがない。したがって、上記ルーフサイド結合部14の前後方向中央部分に配設されたスポット溶接部16においてルーフパネル8とルーフサイドレール5との接合強度を充分に維持しつつ、上記弾性接着部15において接着剤17を弾性変性させることにより上記捩り振動力Mを効果的に低減することができる。
【0032】
なお、上記ルーフサイド結合部14の前後両端部分のみに上記接着剤17が塗布された弾性接着部15を配設した上記実施形態に代え、あるいは上記ルーフサイド結合部14の前後両端部分のみに上記接着剤17が塗布された弾性接着部15を配設した上記構成に加えて、図13に示すように、上記ルーフサイド結合部14に設けられた弾性接着部15において、ルーフパネル8の左右両側辺部13と上記ルーフサイドレール5のフランジ部12との間隔を、ルーフサイド結合部14の前後両端部側に至る程大きくなるように先拡がり形状に形成するとともに、上記ルーフサイド結合部14の前後両端部分における接着剤17の塗布厚さをルーフサイド結合部14の前後方向中央部分に比べて大きくする態様で上記接着剤17を塗布することにより、上記ルーフサイド結合部14の前後両端部分が、その前後方向中央部分に比べて剪断方向に相対変位し易くなるように構成してもよい。
【0033】
すなわち、温度20°Cにおけるヤング率が500MPa以下で損失係数が0.1以上の特性を有する上記接着剤17により接着されたルーフパネル8およびルーフサイドレール5の剪断方向における相対変位量と、接着剤17の塗布厚さとの関係を調べる実験を行ったところ、図14に示すようなデータが得られた。このデータから接着剤17の塗布厚さが大きい程、上記相対変位量が大きくなる傾向があるため、上記ルーフサイド結合部14の前後両端部分における接着剤17の塗布厚さを、ルーフサイド結合部14の前後方向中央部分に比べて大きくするように接着剤17の塗布量を変化させることにより、上記ルーフサイド結合部14の前後両端部分を、その前後方向中央部分に比べて剪断方向に相対変位し易くした構造とすることができることが解る。
【0034】
上記のようにルーフサイド結合部14の前後両端部分における接着剤17の塗布厚さをルーフサイド結合部14の前後方向中央部分に比べて大きくする態様で上記接着剤17を塗布することにより、上記ルーフサイド結合部14の前後両端部分を、その前後方向中央部分に比べて剪断方向に相対変位し易く構成した場合には、上記捩り振動力Mに応じてルーフサイド結合部14の前後両端部分を大きく変位させることができる。したがって、上記ルーフサイド結合部14の前後両端部分に塗布された接着剤17を弾性変性させることによる振動抑制効果が顕著に得られることとなって、上記捩り振動力Mを、より効果的に低減できるという利点がある。
【0035】
また、図15に示すように、上記ルーフサイド結合部14に設けられた弾性接着部15おいて、ルーフサイド結合部14の前後両端部分における接着剤の塗布面積を、ルーフサイド結合部14の前後方向中央部分に比べて狭くする態様で上記接着剤を塗布することにより、上記ルーフサイド結合部14の前後両端部分が、その前後方向中央部分に比べて剪断方向に相対変位し易くなるように構成してもよい。このように構成した場合には、上記捩り振動力Mを、より効果的に低減できるという利点がある。
【0036】
すなわち、温度20°Cにおけるヤング率が500MPa以下で損失係数が0.1以上の特性を有する上記接着剤17により接着されたルーフパネル8およびルーフサイドレール5のフランジ部12の剪断方向における相対変位量と、接着剤17の塗布面積との関係を調べる実験を行ったところ、図16に示すようなデータが得られた。このデータから接着剤17の塗布面積が大きい程、上記相対変位量が小さくなる傾向があるため、上記ルーフサイド結合部14の前後両端部分における接着剤17の塗布幅(塗布面積)を、ルーフサイド結合部14の前後方向中央部分側に比べて小さくするように接着剤17の塗布領域を変化させることにより、上記ルーフサイド結合部14の前後両端部分を、その前後方向中央部分に比べて剪断方向に相対変位し易くした構造とすることができることが解る。
【0037】
したがって、上記のようにルーフサイド結合部14の前後両端部分における接着剤17の塗布幅をルーフサイド結合部14の前後方向中央部分に比べて小さくする態様で上記接着剤17を塗布することにより、上記ルーフサイド結合部14の前後両端部分を、その前後方向中央部分に比べて剪断方向に相対変位し易く構成した場合には、ルーフサイド結合部14の前後両端部分に塗布された上記接着剤17を弾性変性させることによる振動抑制効果が顕著に得られることとなって、上記捩り振動力Mを、より効果的に低減できるという利点がある。
【0038】
また、上記第1実施形態では、ルーフパネル8の前後両端部20,24が上記フロントヘッダメンバ6およびリヤヘッダメンバ7に設けられたフランジ部18,23にそれぞれ重ね合わされて固着されたフロント結合部21およびリヤ結合部25を有する自動車のルーフ部構造において、上記フロント結合部21およびリヤ結合部25に、温度20°Cにおけるヤング率が500MPa以下で損失係数が0.1以上の特性を有する弾性変形可能な接着剤26によりルーフパネル8の前後両端部20,24と上記フロントヘッダメンバ6およびリヤヘッダメンバ7のフランジ部18,23とが接着された弾性接着部21,25を設けたため、上記フロントヘッダメンバ6およびリヤヘッダメンバ7を車体の中心側および外方側に振動変位させる方向の荷重が作用した場合等には、例えば図10に示すように、上記フロント結合部21に設けられた接着剤26を弾性変形させて上記振動変位のエネルギーを吸収しつつ、所定の位相遅れをもって上記フロントヘッダメンバ6からルーフパネル8に荷重を伝達することにより、簡単な構成で優れた減衰作用が得られるという利点がある。
【0039】
さらに、上記第1実施形態に示すように、フロント結合部21およびリヤ結合部25の左右両端部分のみに上記接着剤26が塗布された弾性接着部28を配設するとともに、フロント結合部21およびリヤ結合部25の車幅方向中央部分に上記ルーフパネル8の左右両側辺部13と上記ルーフサイドレール5のフランジ部12とを所定間隔でスポット溶接してなるスポット溶接部29を設けた構造とした場合には、このスポット溶接部29においてルーフパネル8とフロントヘッダメンバ6およびリヤヘッダメンバ7との接合強度を充分に維持しつつ、上記弾性接着部28において接着剤26を弾性変性させることにより上記捩り振動力Mを、さらに効果的に低減できるという利点がある。
【0040】
また、上記フロントピラー1およびリヤピラー3等を介してルーフパネル8に伝達される振動を効果的に減衰できるようにするためには、上記フロント結合部21およびリヤ結合部25の左右両端部分に設けられた弾性接着部28において、上記接着剤26の塗布厚さが、車幅方向中央部分に比べて左右両端部分が大きくなる態様で、温度20°Cにおけるヤング率が500MPa以下で損失係数が0.1以上の特性を有する上記接着剤26を塗布することにより、上記フロント結合部21およびリヤ結合部25の左右両端部分を、その車幅方向中央部分に比べて剪断方向に相対変位させ易いように構成することが好ましい。
【0041】
さらに、上記フロント結合部21およびリヤ結合部25の左右両端部分に設けられた弾性接着部28において、フロント結合部21およびリヤ結合部25の左右両端部分における接着剤の塗布面積を、その車幅方向中央部分に比べて狭くする態様で上記接着剤26を塗布することにより、上記フロント結合部21およびリヤ結合部25の左右両端部分が、その車幅方向中央部分に比べて剪断方向に相対変位し易い構造とし、これによって上記フロントピラー1およびリヤピラー3等からルーフパネル8に伝達される振動を効果的に減衰し得るように構成してもよい。
【0042】
図17は、本発明に係る本発明に係る自動車のルーフ構造の第2実施形態を示している。この第2実施形態に係る自動車のルーフ構造では、上記ルーフサイド結合部14が、ルーフパネル8の左右両側辺部13およびルーフサイドレール5のフランジ部12により形成されて車幅方向に延びる水平部30と、この水平部30に連設されて上下方向に延びる縦壁部31とを有する略断面略L状に形成され、上記縦壁部31に、温度20°Cにおけるヤング率が500MPa以下で損失係数が0.1以上の特性を有する接着剤17が塗布された弾性接着部が設けられるとともに、上記水平部30にルーフパネル8の側辺部13とルーフサイドレール5のフランジ部12とがスポット溶接されたスポット溶接部が設けられている。
【0043】
上記構成によれば、フロントピラー1およびリヤピラー3等からルーフサイド結合部14を介してルーフパネル8に伝達される上下振動を、上記縦壁部31に塗布された接着剤17を弾性変形させることにより効果的に減衰することができるとともに、ルーフパネル8とルーフサイドレール5との接合強度を上記水平部30のスポット溶接部において充分に維持することができる。しかも、上記スポット溶接部とは独立した位置に上記接着剤17を塗布することができるため、その塗布作業を容易かつ適正に行い得るとともに、接着剤17の塗布厚さ等を正確に管理できる等の利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の第1実施形態に係る自動車のルーフ構造を備えた車体の概略構成を示す説明図である。
【図2】上記車体の平面図である。
【図3】図2のIII−III線断面図である。
【図4】ルーフパネルの構成を示す斜視図である。
【図5】接着剤の特性を示す特性図である。
【図6】接着剤の動粘性特性図である。
【図7】図2のVII−VII線断面図である。
【図8】図2のVIII−VIII線断面図である。
【図9】ルーフサイド結合部における接着剤の弾性変形状態を示す説明図である。
【図10】フロント結合部における接着剤の弾性変形状態を示す説明図である。
【図11】ルーフの変形状態を示す説明図である。
【図12】ルーフの変形状態を示す説明図である。
【図13】ルーフサイド結合部の変形例を示す側面断面図である。
【図14】接着剤の塗布厚さと結合部の相対変位との関係を示すグラフである。
【図15】ルーフサイド結合部の変形例を示す平面図である。
【図16】接着剤の塗布面積と結合部の相対変位との関係を示すグラフである。
【図17】本発明に係る自動車のルーフ構造の第2実施形態を示す図3相当図である。
【符号の説明】
【0045】
1 フロントピラー
3 リヤピラー
5 ルーフサイドレール
6 フロントヘッダ
7 リヤヘッダ
8 ルーフパネル
12 ルーフサイドレールのフランジ部
13 ルーフパネルの側辺部
15 弾性接着部
17 接着剤
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体前部ウエストラインからルーフに向けて延びる左右一対のフロントピラーと、車体後部ウエストラインからルーフに向けて延びる左右一対のリヤピラーと、ルーフの左右両側辺部に沿って車体の前後方向に延びる左右一対のルーフサイドレールと、左右両ルーフサイドレールの前端部同士を連結するように車幅方向に延びるフロントヘッダメンバと、左右両ルーフサイドレールの後端部同士を連結するように車幅方向に延びるリヤヘッダメンバと、上記左右両ルーフサイドレール、フロントヘッダおよびリヤヘッダにより四辺部が区画された矩形領域の上面を覆うルーフパネルとを含み、このルーフパネルの左右両側辺部が上記ルーフサイドレールの車幅方向中央部側に設けられたフランジ部に重ね合わされて固着されたルーフサイド結合部を有する自動車のルーフ部構造であって、上記ルーフサイド結合部には、温度20°Cにおけるヤング率が500MPa以下の特性を有する弾性変形可能な接着剤によりルーフパネルの左右両側辺部と上記ルーフサイドレールのフランジ部とが接合された弾性接着部が設けられるとともに、上記ルーフサイド結合部の前後両端部分がその前後方向中央部分に比べて剪断方向に相対変位し易くなる態様で上記接着剤が塗布されたことを特徴とする自動車のルーフ部構造。
【請求項2】
上記ルーフサイド結合部の前後両端部分のみに上記弾性接着部が配設されるとともに、ルーフサイド結合部の前後方向中央部分に上記ルーフパネルの左右両側辺部と上記ルーフサイドレールのフランジ部とが所定間隔でスポット溶接されたスポット溶接部が設けられたことを特徴とする請求項1に記載の自動車のルーフ部構造。
【請求項3】
上記ルーフサイド結合部の前後両端部分における上記接着剤の厚みが、ルーフサイド結合部の前後方向中央部分に比べて大きくなる態様で上記接着剤が塗布されたことを特徴とする請求項1または2に記載の自動車のルーフ部構造。
【請求項4】
上記ルーフサイド結合部の前後両端部分における上記接着剤の面積が、ルーフサイド結合部の前後方向中央部分に比べて狭くなる態様で上記接着剤が塗布されたことを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の自動車のルーフ部構造。
【請求項1】
車体前部ウエストラインからルーフに向けて延びる左右一対のフロントピラーと、車体後部ウエストラインからルーフに向けて延びる左右一対のリヤピラーと、ルーフの左右両側辺部に沿って車体の前後方向に延びる左右一対のルーフサイドレールと、左右両ルーフサイドレールの前端部同士を連結するように車幅方向に延びるフロントヘッダメンバと、左右両ルーフサイドレールの後端部同士を連結するように車幅方向に延びるリヤヘッダメンバと、上記左右両ルーフサイドレール、フロントヘッダおよびリヤヘッダにより四辺部が区画された矩形領域の上面を覆うルーフパネルとを含み、このルーフパネルの左右両側辺部が上記ルーフサイドレールの車幅方向中央部側に設けられたフランジ部に重ね合わされて固着されたルーフサイド結合部を有する自動車のルーフ部構造であって、上記ルーフサイド結合部には、温度20°Cにおけるヤング率が500MPa以下の特性を有する弾性変形可能な接着剤によりルーフパネルの左右両側辺部と上記ルーフサイドレールのフランジ部とが接合された弾性接着部が設けられるとともに、上記ルーフサイド結合部の前後両端部分がその前後方向中央部分に比べて剪断方向に相対変位し易くなる態様で上記接着剤が塗布されたことを特徴とする自動車のルーフ部構造。
【請求項2】
上記ルーフサイド結合部の前後両端部分のみに上記弾性接着部が配設されるとともに、ルーフサイド結合部の前後方向中央部分に上記ルーフパネルの左右両側辺部と上記ルーフサイドレールのフランジ部とが所定間隔でスポット溶接されたスポット溶接部が設けられたことを特徴とする請求項1に記載の自動車のルーフ部構造。
【請求項3】
上記ルーフサイド結合部の前後両端部分における上記接着剤の厚みが、ルーフサイド結合部の前後方向中央部分に比べて大きくなる態様で上記接着剤が塗布されたことを特徴とする請求項1または2に記載の自動車のルーフ部構造。
【請求項4】
上記ルーフサイド結合部の前後両端部分における上記接着剤の面積が、ルーフサイド結合部の前後方向中央部分に比べて狭くなる態様で上記接着剤が塗布されたことを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の自動車のルーフ部構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2010−83355(P2010−83355A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−255225(P2008−255225)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】
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