説明

自動車のロッカ部構造

【課題】コスト及び車体重量を増やすことなく、かつ折れ変形を生じることなく、車両衝突時の入力を車体後部に確実に伝達できる自動車のロッカ部構造を提供する。
【解決手段】ロッカパネル2を、前側ロッカ部材2Aと後側ロッカ部材2Bとを結合したもので、かつ前端部の断面積aが後端部の断面積bより大きいものとし、ロッカインナ14又はロッカアウタ15の少なくとも一方の上側稜線19を、前端部から後端部に向かって略水平の直線状をなすよう形成するとともに、下側稜線20を、前端部から後端部に向かって斜め上向きの直線状をなすよう形成し、ロッカパネル2の前側,後側ロッカ部材2A,2Bの結合部2Cに後ピラー4を結合した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、閉断面をなし、車両前後方向に延びるロッカパネルと、該ロッカパネルの前部,後部に結合された前ピラー,後ピラーとを備えた自動車のロッカ部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車においては、前面衝突時のタイヤからの入力をロッカパネルにより効果的に受け止めて車体後部に伝達するようにした構造を採用している。例えば、特許文献1では、ロッカパネルの前端部のフロントピラーとの結合部に補強部材を配設して入力に対する剛性を高めるようにしている。また前記ロッカパネルを前端から後端まで略一定の閉断面をなすよう形成することにより、後方への荷重伝達を効果的に行えるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−255451号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、前記従来公報のようにロッカパネルに補強部材を配置する構造では、組み付け工数及び部品点数が増える分だけコストが上昇するとともに、車体重量が増えるという問題がある。
【0005】
また前記従来公報のロッカパネルは、これの前部の断面積が後部より小さくなるよう途中に段差を設けて後部を高くしている。このため、前記タイヤからの入力を効果的に受け止めることができず、段差部が断点となって折れ変形し易く、入力を効率よく後方に伝達できなくなるおそれがある。
【0006】
ここで、ロッカパネルに作用する曲げモーメントは、ロッカ前端部が大きく、後部にいくほど小さくなることから、衝突時の入力を効果的に受け止めるには、ロッカパネルの前端部の断面積を大きくすることが考えられる。しかしながら、ロッカパネルの前端部だけ大きくすると、後側部分との間に段差が生じることから、該段差部が前記同様に断点となって折れ変形するという懸念がある。
【0007】
本発明は、前記従来の状況に鑑みてなされたもので、コスト及び車体重量を増やすことなく、かつ折れ変形を生じることなく、車両衝突時の入力を車体後部に確実に伝達できる自動車のロッカ部構造を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、車体下側部に車両前後方向に延びるよう配設され、断面略ハット形状のロッカインナとロッカアウタとを閉断面をなすよう結合してなるロッカパネルと、該ロッカパネルの前部及び後部に結合された車両上下方向に延びる前ピラー及び後ピラーとを備えた自動車のロッカ部構造において、前記ロッカパネルを、前側ロッカ部材と後側ロッカ部材とを結合したもので、かつ前端部の断面積が後端部の断面積より大きいものとし、前記ロッカインナ又はロッカアウタの少なくとも一方の上側稜線を、前端部から後端部に向かって略水平の直線状をなすよう形成するとともに、下側稜線を、前端部から後端部に向かって斜め上向きの直線状をなすよう形成し、前記ロッカパネルの前側ロッカ部材と後側ロッカ部材との結合部に前記後ピラーを結合したことを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係るロッカ部構造によれば、ロッカパネルの前端部の断面積を後端部の断面積より大きくしたので、タイヤからの入力をロッカパネルにより効果的に安定して受け止めることができ、入力を車体後部に効率よく伝達することができる。
【0010】
また曲げモーメントの最も大きいロッカパネルの前端部の断面積を後端部より大きくするだけの構造を採用しているので、従来の補強部材を不要にでき、コスト上昇及び車体重量増といった問題を回避できる。
【0011】
本発明では、ロッカパネルの上側稜線を略水平の直線状なすように形成するとともに、下側稜線を斜め上向きの直線状をなすように形成したので、ロッカパネルを段差のない連続した形状とすることができ、断点をなくすことができる。これにより、ロッカパネルが折れ変形するのを防止でき、入力を効率よく車体後部に伝達することができる。
【0012】
前記ロッカパネルの上側稜線を略水平の直線状としたので、タイヤからの突入入力を上側稜線により受け止めることができ、この点からも入力を効率よく車体後部に伝達することができる。
【0013】
また前記ロッカパネルの上側稜線が略水平の直線状をなし、下側稜線が直線状の傾斜面をなすよう形成するだけの簡単な構造で上記作用効果を実現できるので、従来の補強部材を不要でき、この点からもコスト上昇及び車体重量増を回避できる。
【0014】
本発明では、前側ロッカ部材と後側ロッカ部材の結合部に後ピラーを結合したので、ロッカパネルの結合部を後ピラーにより補強することができ、この点からも入力により結合部が折れ変形するのを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施例1による自動車のロッカ部の側面図である。
【図2】前記ロッカ部の断面図(図1のII-II線断面図)である。
【図3】前記ロッカ部の断面図(図1のIII-III線断面図)である。
【図4】前記ロッカ部の断面図(図1のIV-IV線断面図)である。
【図5】本発明の実施例2による自動車のロッカ部の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0017】
図1ないし図4は、本発明の実施例1による自動車のロッカ部構造を説明するための図である。なお、本実施例の説明の中で、前後,左右という場合は、シートに着座した状態で車両前進方向に見た場合の前後,左右を意味する。
【0018】
図において、1はオープンカー(自動車)のロッカ部を示している。このロッカ部1は、車体下側部に車両前後方向に延びるよう配設された左,右のロッカパネル2,2と、該左,右のロッカパネル2の前端部2aに結合されたフロントピラー(前ピラー)3,3と、前記ロッカパネル2の後端部2bに結合されたセンターピラー(後ピラー)4,4とを備えている。
【0019】
前記ロッカパネル2,フロントピラー3及びセンターピラー4によりフロントドア開口1aが形成され、該ドア開口1aにはフロントピラー3により回動可能に支持された不図示のドアが配設されている。
【0020】
前記左,右のフロントピラー3の上下方向中途部には、車両前後方向に延びるアッパメンバ7の後端部が結合されている。また前記左,右のロッカパネル2の車幅方向内側には、車両前後方向に延びるサイドメンバ8が配設されており、該左,右のサイドメンバ8の前端部と前記アッパメンバ7の前端部とは連結部材9より連結されている。
【0021】
車両前面衝突時の入力は、その一部がサイドメンバ8から連結部材9を介してアッパメンバ7に伝達され、該アッパメンバ7からフロントピラー3を介して前述したドア内のベルトライン部に伝達され、該ベルトライン部からセンターピラー4を介してクォータパネル11に伝達される。
【0022】
また前記入力の残りの部分は、前輪10のタイヤからロッカパネル2に伝達され、該ロッカパネル2から前記センターピラー4を介してクォータパネル11に伝達される。
【0023】
前記左,右のロッカパネル2は、横断面略ハット形状のロッカインナ14とロッカアウタ15とを大略矩形筒状の閉断面をなすよう結合した構造を有し、詳細に以下の構造となっている。
【0024】
前記ロッカインナ14は、上,下フランジ部14a,14bと、該上,下フランジ部14a,14bに続いて車内側に屈曲する上,下壁部14c,14dと,該上,下壁部14c,14dの内縁同士を上下方向に接続する底壁部14eとを有し、上,下の屈曲部が上側稜線19,下側稜線20となっている。前記左,右の底壁部14eには、車室を構成するフロアパネル16の外側フランジ部16aが結合されている(図2参照)。
【0025】
前記ロッカアウタ15は、上,下フランジ部15a,15bと、該上,下フランジ部15a,15bに続いて車外側に屈曲して延びる上,下壁部15c,15dと、該上,下壁部15c,15dの外縁同士を上下方向に接続する底壁部15eとを有し、上,下の屈曲部が上側稜線19′,下側稜線20′となっている。前記底壁部15eには、車外側に突出する段部15fが屈曲形成されている。また前記ロッカアウタ15の車外側には、これの前後方向全長に渡って延びる樹脂製のストーンガード17が配設されている。
【0026】
図2に示すように、前記ロッカパネル2の前端部2aにおけるロッカインナ14とロッカアウタ15との間には、前記フロントピラー3のピラーインナ3aの下端部3a′が挿入され、該下端部3a′は、上フランジ部14a,15a及び下フランジ部14b,15bに挟持され、一体的に結合されている。また前記ロッカパネル2の前端部2aにおけるロッカアウタ15の底壁部15eには、前記フロントピラー3のサイドアウタパネル3b及びピラーリインホース3cの下端部3b′,3c′が一体に結合されている。
【0027】
図4に示すように、前記ロッカパネル2の後端部2bにおけるロッカインナ14とロッカアウタ15との間には、前記センターピラー4のピラーインナ4aの下端部4a′が挿入され、該下端部4a′は、上フランジ部14a,15a及び下フランジ部14b,15bに挟持され、一体的に結合されている。また前記ロッカパネル2の後端部2bにおけるロッカアウタ15の底壁部15eには、前記センターピラー4のピラーアウタ4bの下端部4b′が一体に結合されている。
【0028】
前記左,右のロッカパネル2,2は、前側ロッカ部材2Aと後側ロッカ部材2Bとの2部材により構成されている(図1参照)。この前側,後側ロッカ部材2A,2Bの結合部2Cは、略同じ断面形状を有し、前側ロッカ部材の後縁部,後側ロッカ部材の前縁部同士を重ね合わせて溶接することにより一体に結合されている。この前側,後側ロッカ部材2A,2Bの結合部2Cを跨ぐように前記センターピラー4が結合されている。
【0029】
そして前記ロッカインナ14の上側稜線19は、前端部から後端部に向かって略水平の直線状をなすよう形成され、下側稜線20は、前端部から後端部に向かって斜め上向きの直線状をなすよう形成されている。
【0030】
詳細には、車両側方から見ると、ロッカインナ14の上壁部14cは、該上壁部14cと底壁部14eとの角縁である上側稜線19が全長に渡って水平となるよう連続した平坦面をなすように形成されている。またロッカインナ14の下壁部14dは、該下壁部14dと底壁部14eとの角縁である下側稜線20が前端部から後端部にいくほど徐々に高所となるよう連続した傾斜面をなすように形成されている。
【0031】
一方、ロッカアウタ15の上側稜線19′,下側稜線20′は、いずれも前端部から後端部に向かって略水平の直線状をなすように形成されている。
【0032】
このようにして前記左,右のロッカパネル2は、前端部の断面積aが後端部の断面積bより大きくなっており、かつロッカパネル2の前端部から後端部にいくほど断面積が徐々に小さくなっている。
【0033】
本実施例によれば、左,右のロッカパネル2の前端部の断面積aを後端部の断面積bより大きく、かつ前端部から後端部にいくほど徐々に小さくなるよう形成したので、前輪10のタイヤからの入力を効果的に安定してロッカパネル2により受け止めることができ、入力を車体後部のセンターピラー4,クォータパネル11に効率よく伝達することができる。
【0034】
また前記ロッカパネル2の断面積を後側ほど小さくしたので、入力伝達機能を損なうことなく小型化が可能となり、かつ断面積を減らせる分だけスペース的に有利にできる。
【0035】
本実施例では、曲げモーメントの最も大きいロッカパネル2の前端部の断面積aを後端部より大きくするだけの構造を採用しているので、従来の補強部材を不要にでき、コスト上昇及び車体重量増といった問題を回避できる。
【0036】
また前記ロッカインナ14の断面形状を後側ほど徐々に小さくするだけの簡単な構造で済み、曲げによる加工が可能となり、深絞り成形を不要にできることから、生産性を向上でき、コストを低減できる。
【0037】
本実施例では、前記ロッカパネル2の上側稜線19を略水平の直線状なすように形成するとともに、下側稜線20を斜め上向きの直線状をなすように形成したので、ロッカパネル2を全長に渡って段差のない連続した直線形状とすることができ、断点をなくすことができる。これにより、ロッカパネル2が折れ変形するのを防止でき、入力を効率よく車体後部に伝達することができる。
【0038】
また前記ロッカパネル2の上側稜線19を水平な直線としたので、タイヤからの突入入力を上側稜線19により受け止めることができ、この点からも入力を効率よく車体後部に伝達することができる。
【0039】
本実施例では、ロッカパネル2を前側ロッカ部材2A,後側ロッカ部材2Bの2部材で構成し、該前側,後側ロッカ部材2A,2Bの結合部2Cを跨ぐようにセンターピラー4を結合したので、ロッカパネル2の結合部2Cをセンターピラー4により補強することができ、入力により結合部が折れ変形するのを防止することができる。
【実施例2】
【0040】
図5は、本発明の実施例2によるロッカ部の変形例を示す図である。図中、図1と同一符号は同一又は相当部分を示す。
【0041】
本実施例2のロッカ部は、ロッカパネル2を構成するロッカインナ14及びロッカアウタ15の両方の上側稜線19,19′を、前端部から後端部に向かって略水平の直線状をなすよう形成するとともに、下側稜線20,20′を、前端部から後端部に向かって斜め上向きの直線状をなすよう形成した例である。
【0042】
本実施例では、ロッカパネル2の断点を全長に渡ってなくすことができ、折れ変形するのを防止でき、実施例1と同様の効果が得られる。
【0043】
また本実施例では、ロッカインナ14とロッカアウタ15の両方の上側稜線19,19′及び下側稜線20,20′を直線状に形成したので、ロッカパネル2の折れ変形をより一層確実に防止できるとともに、軽量化を図ることができる。
【0044】
なお、前記実施例では、下側稜線20をロッカパネル2の前後方向全長に渡って形成したが、本発明では、下側稜線を前側ロッカ部材2Aのみに形成してもよい。
【符号の説明】
【0045】
1 ロッカ部
2 ロッカパネル
2A 前側ロッカ部材
2B 後側ロッカ部材
2C 結合部
2a 前端部
2b 後端部
3 フロントピラー(前ピラー)
4 センターピラー(後ピラー)
14 ロッカインナ
15 ロッカアウタ
19 上側稜線
20 下側稜線
a 前端部の断面積
b 後端部の断面積

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体下側部に車両前後方向に延びるよう配設され、断面略ハット形状のロッカインナとロッカアウタとを閉断面をなすよう結合してなるロッカパネルと、該ロッカパネルの前部及び後部に結合された車両上下方向に延びる前ピラー及び後ピラーとを備えた自動車のロッカ部構造において、
前記ロッカパネルを、前側ロッカ部材と後側ロッカ部材とを結合したもので、かつ前端部の断面積が後端部の断面積より大きいものとし、
前記ロッカインナ又はロッカアウタの少なくとも一方の上側稜線を、前端部から後端部に向かって略水平の直線状をなすよう形成するとともに、下側稜線を、前端部から後端部に向かって斜め上向きの直線状をなすよう形成し、
前記ロッカパネルの前側ロッカ部材と後側ロッカ部材との結合部に前記後ピラーを結合した
ことを特徴とする自動車のロッカ部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−35298(P2013−35298A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−170202(P2011−170202)
【出願日】平成23年8月3日(2011.8.3)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】