説明

自動車の前部構造

【課題】この発明は、熱交換器の冷媒注入口の突出量を抑えつつ、車両製造時の冷媒注入作業が可能になるとともに、シュラウドのアッパ部とボンネットとの間のシール性能を維持できる自動車の前部構造を提供することを目的とする。
【解決手段】シュラウド2のアッパ部23には、冷媒注入口1aが配設される位置において他の位置より高さ方向に凹む凹部23aを形成するとともに、冷媒注入口1aを、ラジエータ1の本体1bから凹部23aの上面位置まで上方に延びるように設けた。さらに、シュラウド2は、上記凹部23aを覆うカバー4を備えており、シュラウド2とボンネット11との隙間にシール部材5を配設し、該シール部材5をカバー4上に沿うように設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動車の前部構造に関し、特に、樹脂製のシュラウドと、エンジンルームの上方を覆うボンネットと、冷媒注入口を有し、上記シュラウドに支持される熱交換器とを備えたものに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、自動車の前部構造として、ボンネットのインナパネルと、熱交換器を支持するシュラウドのアッパ部との間をシールするシール部材を設けたものが知られている。このシール部材により、エンジンルームの熱気が熱交換器より前方へ流れ込んだり、雨等がエンジンルームへ侵入したりすることが防止されるようになっている(特許文献1参照)。
【0003】
ところで、一般的に自動車の製造時においては、図14に示すように、所定の冷媒注入機(不図示)を用いて前記熱交換器の一つであるラジエータ301、401に対して冷媒注入口301a、401aを通じて冷媒が注入される。
【0004】
ここで、図14の(a)、(b)に示すように、ディーゼルエンジン、ガソリンエンジン等、エンジンの種類に応じてラジエータ301、401の大きさ(ラジエータ301、401の本体301b、401bの高さ)が異なる場合がある。
【0005】
しかしながら、シュラウド302の生産性の観点から、上述したエンジンの種類(ラジエータ本体の高さの違い)に応じてシュラウドを複数種製造することは行われず、いずれも大型のラジエータ301に合わせた共通のものが使用されている。そして、ラジエータ301、401の下部は、いずれもラジエータ301、401を支持するシュラウド302のロア部321に位置合わせされて取付けられる。
【0006】
また、前記冷媒注入口301a、401aについても、ラジエータ301、401の大きさに関わらず、ラジエータ301、401の本体301b、401bから延びる長さ(突出量)Lは可及的に短いものに統一されている。仮に、長さLにばらつきがあると、冷媒注入口301a、401aを構成する部品の搬送時等において、長いものに対しては大容量の梱包材が必要となる。この結果、搬送手段に積載できる数が減少し、搬送効率の低下につながる。
【0007】
従って、大きさの異なるラジエータ301、401を同型のシュラウド302に取付けた場合、冷媒注入口301a、401aの高さ位置(突出量)は図示のようにΔLだけ差が生じることとなる。
【0008】
ところで、前記冷媒注入機は、冷媒注入口301a、401aに対してこれらの先端を把持することにより接続が可能となっている。そして、二点鎖線で示すワークエリアWAの範囲内での動作により、冷媒注入機は確実に冷媒を供給できるようになっている。
【特許文献1】実開平6−73272号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ここで、大型のラジエータ401を示す図14(b)の場合、冷媒注入口401aの高さ位置は、シュラウド302のアッパ部323の上端と同じか若干高く設定されており、前記ワークエリアWAとアッパ部323とは重複しないため、冷媒注入機と冷媒注入口401aとの接続は可能である。
【0010】
しかしながら、他方の小型のラジエータ301を示す図14(a)の場合、冷媒注入口301aがシュラウド302のアッパ部323の上端よりも下方に位置してしまうため、冷媒注入機と冷媒注入口301aとの接続を可能にするためにはアッパ部323に工夫を施す必要がある。
【0011】
そこで、図14(a)の二点鎖線で示すように、前記ワークエリアWAの範囲を考慮して、シュラウド302のアッパ部323に、冷媒注入口301aが配設される位置において他の位置よりも下方に凹む凹部323aを形成し、冷媒注入機の冷媒注入口301aへの接続を可能にすることが考えられる。
【0012】
ここで、前記凹部323aを形成した場合、ボンネットと、アッパ部323との間をシールするには、図14(c)に示すような、凹部323aの形状に合わせた凹凸形状のシール部材305が必要になる。しかしながら、このような凹凸形状を有するシール部材305は、シール性能という観点からすれば不利なものとなってしまう。
【0013】
この発明は、熱交換器の冷媒注入口の突出量を抑えつつ、車両製造時の冷媒注入作業が可能になるとともに、シュラウドのアッパ部とボンネットとの間のシール性能を維持できる自動車の前部構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この発明の自動車の前部構造は、アッパ部、両側部、ロア部から構成される樹脂製のシュラウドと、エンジンルームの上方を覆うボンネットと、冷媒注入口を有し、上記シュラウドに支持される熱交換器とを備え、上記シュラウドのアッパ部には、上記冷媒注入口が配設される位置において他の位置よりも下方に凹む凹部を形成するとともに、上記冷媒注入口を、熱交換器本体から上記凹部の上面位置まで上方に延びるように設け、上記シュラウドは、上記凹部を覆うカバー部材を備え、上記シュラウドと上記ボンネットとの隙間にシール部材を配設し、該シール部材をカバー部材上に沿うように設けたことを特徴とする。
【0015】
この構成によれば、熱交換器が小型であっても、アッパ部の凹部により、熱交換器の冷媒注入口の突出量を抑えつつ、車両製造時における冷媒注入作業が可能になる。さらに、カバー部材により、凹凸の小さいシール部材を設けることができる。
【0016】
この発明の一実施態様においては、前記熱交換器本体の上面を、前記冷媒注入口の部位が最も高くなるように形成し、上記冷媒注入口から離れて低くなされた部位の近傍において、前記シュラウドのアッパ部にダクト開口部を形成したことを特徴とする。
【0017】
この構成によれば、熱交換器の上面の低い部位により上下方向に形成された空きスペースを利用してダクトを配設することができるとともに、ダクト開口部の開口面積を大きく確保することができる。
【0018】
さらに、冷媒注入口が熱交換器の上面の他の部位よりも相対的に高い位置に配設されるため、アッパ部の凹部の凹み量を極力抑えることができる。
【0019】
この発明の一実施態様においては、前記カバー部材は、前記凹部とにより開口部を形成することを特徴とする。
【0020】
この構成によれば、シュラウドに開口を穿設することなく、吸気用のダクト部材の開口部やケーブルを通す通し孔等を形成できるため、シュラウドの成形性を向上させることができる。
【0021】
この発明の一実施態様においては、前記シュラウドのアッパ部は、前記カバー部材のうち、前記シール部材より前方の空気を取入れるダクト部材が接続される吸気導入開口部を前記凹部とにより形成する第1のカバー部材、上記吸気導入開口部を形成しない第2のカバー部材のいずれかを、前記凹部へ択一的に取付け可能としたことを特徴とする。
【0022】
この構成によれば、ダクト部材有無に関わらず、シュラウドの共通化を図ることができるため、シュラウドの生産性を向上させることができる。
【0023】
この発明の一実施態様においては、前記ボンネットを閉状態でロックするロック装置を備えるとともに、該ロック装置に関するケーブルを前記エンジンルーム内に通すための開口部を、前記ダクト部材の吸気導入開口部と一体的に形成することを特徴とする。
【0024】
この構成によれば、シュラウドに開口を穿設することなく、前記ケーブルを通す通し孔を形成できるため、シュラウドの成形性を向上させることができる。さらに、前記ダクト部材の吸気導入部と、前記ケーブルの通し孔とが吸気導入開口部により共通化されているため、カバーに形成する加工部位の数を低減でき、カバー部材自体の成形性を向上させることができる。
【0025】
この発明の一実施態様においては、前記カバー部材は、前記シュラウドに対して着脱自在であることを特徴とする。
【0026】
この構成によれば、カバー部材自体のメインテナンスまたは、該カバー部材周辺の部材のメインテナンス等を容易に行うことができる。
【発明の効果】
【0027】
この発明によれば、熱交換器が小型であっても、アッパ部の凹部により、熱交換器の冷媒注入口の突出量を抑えつつ、車両製造時における冷媒注入作業が可能になる。さらに、カバー部材により、凹凸の小さいシール部材を設けることができるため、シュラウドのアッパ部とボンネットとの間のシール性能を維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態を詳述する。
(第1実施形態)
まず、図1〜図9に示す第1実施形態について説明する。図1は自動車の前部構造のうち、ラジエータ、シュラウドの構成を前方からみた斜視図であり、図2は、図1の要部拡大図である。なお、図中において矢印(F)は車両前方を示し、矢印(R)は車両後方を示す。
【0029】
図1において、1はラジエータであり、主に、冷却水等の冷媒が流通する複数本のラジエータチューブ(不図示)からなるラジエータコア(不図示)、およびラジエータチューブの長手方向両端側に配設されて各ラジエータチューブに連通するラジエータタンク(不図示)から構成される周知の熱交換器である。なお、1aは、自動車の製造工程において、冷媒をラジエータ1に注入するための冷媒注入口1aであり、ラジエータ1の本体1bに接続されている。
【0030】
ラジエータ1は、略矩形枠形状の樹脂製のシュラウド2により支持されている。シュラウド2は、主にロア部21、両側部22、アッパ部23から構成され、アッパ部23には、冷媒注入口1aが配設される位置において他の位置より下方に凹む凹部23aが形成されている。
【0031】
また、アッパ部23上端面の高さが高い部位には、第1ダクト3の先端開口が接続されたダクト開口部24が形成されている。この第1ダクト3は、ラジエータ1より後方に位置するエンジン(不図示)を作動させるために吸気を行うものである。
【0032】
また、シュラウド2には、凹部23aの前部を覆う着脱自在のカバー4が備えられており、このカバー4の上面の高さは、シュラウド2の凹部23a以外の他の部位の高さと略同じとされている。
【0033】
5は、シール部材であり、上述したように高さが略同じとなった、シュラウド2のアッパ部23の上面の一部、カバー4の上面に沿うように車幅方向に延びて設けられている。
【0034】
また、本実施形態においては、図2に示すように、カバー4に開口縁部41が形成されており、カバー4をアッパ部23へ取付けた時には、上記開口縁部41と、アッパ部23の凹部23aにおいてさらに凹形状をなす取付け部23bとにより開口部6が形成される。そして、この開口部6には、シール部材5より前方の空気を取入れることができるように、第2ダクト7の先端開口部7aが接続されている。第2ダクト7は、その底面が取付け部23bの面に合わされ固着されている。
【0035】
第2ダクト7は、車両のコントロールユニット(不図示)を構成する中央制御装置(CPU)の冷却等、エンジンを作動させるための吸気とは目的の異なる吸気を行う必要がある場合に適宜設けられるものである。例えば、エンジンの種類等によっては、上記コントロールユニットがエンジンからの発熱の影響を受け易い位置にレイアウトされる場合があり、このような場合、コントロールユニットの冷却手段が必要となる。そこで、第2ダクト7を設け、ラジエータ1よりも前方で吸入された空気を上記コントロールユニット近傍に送風することにより、CPUを冷却することができる。
【0036】
また、アッパ部23において、カバー4の前方には、ボンネットロック装置8が位置している。ボンネットロック装置8は、カバー4の前方に形成されたアッパ部23のポケット部25内に収納されるように配設されている。
【0037】
ここで、ボンネットロック装置8から延びる部材9、10は、それぞれ後に詳述するラッチリリースワイヤ、ラッチハーネスである。ラッチリリースワイヤ9は、その先端が車室内の運転席(不図示)に接続されている。他方、ラッチハーネス10は、前記開口部6の、第2ダクト7の先端開口部7a以外の空間6aの部分を通り、ラジエータ1より後方に通され、最終的には、車両のコントロールユニットに接続されている。つまり、第2ダクト7の先端開口部7aのための開口と、ラッチハーネス10の通し孔としての開口とが、開口縁部41により一体的に形成されている。
【0038】
ここで、本実施形態に係る自動車の前部構造の製造工程を図3乃至図6に基づいて説明する。
【0039】
図3、図4は、それぞれ、ラジエータ1に対する冷媒注入作業を示す正面図、背面図である。図中二点鎖線で図示されたWAは、この冷媒注入作業において冷媒をラジエータ1に供給する冷媒注入機のワークエリアである。自動車の前部構造の製造工程においては、ラジエータ1に対し、図中二点鎖線で示すワークエリアWAを要する不図示の冷媒注入機の先端を冷媒注入口1aに接続して冷媒を供給する。
【0040】
冷媒注入口1aは、図4に示すように、ラジエータ本体1bの背面側上部から上向きに突出する管状体の先端部分に形成され、図示のようにラジエータ1がシュラウド2に支持されている状態において、アッパ部23の上面よりも正面視で若干突出する高さ位置になるように設定されている。
【0041】
ここで、本実施形態におけるラジエータ1は本体1bとして小型のものを使用し、冷媒注入口1aが、アッパ部23の上面より下方に位置する場合を示しているが、上述したように、シュラウド2のアッパ部23の、冷媒注入口1aが配設される位置において他より凹む凹部23aを形成していることにより、冷媒注入口1aが凹部23aの上面より下方に位置するものであっても、冷媒注入作業時において冷媒注入機の先端と冷媒注入口1aとを接続することができ、冷媒を確実にラジエータ1に供給することができる。
【0042】
なお、使用するラジエータ1の本体1bが大型であっても、アッパ部23に凹部23aが形成されたシュラウド2を使用することは可能であり、冷媒注入口1aの高さ位置が若干高くなる以外に異なる点はない。従って、冷媒注入作業時において、この凹部23が支障をきたすものではない。つまり、使用するラジエータ1(本体1b)の大小に関わらず、シュラウド2の共通化を図ることができる。これにより、シュラウド2の生産性が向上することになる。
【0043】
ところで、ラジエータ1背面側の上面は、図4に示すように、冷媒注入口1aの部分が最も高く、距離が離れるほど低くなるように傾斜をなして形成されている。さらに、冷媒注入口1aが配設される部位から離れた位置においては、シュラウド2のアッパ部23に上述したダクト開口部24が形成されている。
【0044】
このように、ラジエータ1の上面が低くなされた部位の近傍において、アッパ部23にダクト開口部24を形成することにより、ラジエータ1の上面の低い部位により上下方向に形成された空きスペースを利用して第1ダクト3を配設することを可能にしており、且つダクト開口部24の開口面積を大きく確保することができる。
【0045】
換言すれば、冷媒注入口1aがラジエータ1の上面の他の部位よりも相対的に高くされた構成とも言える。従って、結果的にはシュラウド2のアッパ部23の凹部23aの凹み量が極力抑えられた構成にもなっている。
【0046】
ところで、図1、図2に示すカバー4の取付け工程では、図5に示す略L字状の部材を凹部23aに取付けられる。カバー4の一端側には、図5(a)、(b)に示すように、略L字状の係合部42が一体的に形成され、他端側の内側面には、図5(b)に示すように、カバー4の内側面から突出するクリップ43が一体的に形成されている。なお、図中における44は、適宜の信号線(いわゆるハーネス)や動力伝達ケーブル等を通すために予備的に形成された小型の第2開口縁部であり、45は、カバー4の内側において立設された補強パネル部である。
【0047】
図5に示すカバー4は、先ず、図6(図2におけるA−A線矢視断面図)に示すシュラウド2の被係合部26にカバー4の係合部42を係合させて位置決めをした後、他端側のクリップ43をシュラウド2の嵌合孔27に嵌め込むことによりカバー4の取付けが行えるようになっている。このため、クリップ43と嵌合孔27との嵌合、離脱は容易に行えるようになっており、カバー4の着脱を容易に行えるようになっている。カバー4の着脱が容易に行えるため、カバー4自体のメインテナンスが可能となる。また、第1ダクト3、ラッチリリースワイヤ9、ラッチハーネス10等のカバー4の周辺部材のメインテナンスも容易に行うことができる。
【0048】
このようにカバー4が取付けられた後には、上述したように、高さが略同じとなった、シュラウド2のアッパ部23の上面の一部と、カバー4の上面とにはこれらの面上に沿うように長尺のシール部材5が取付けられる。この、カバー4、シール部材5により、図7(ボンネット11を閉じた状態における、図2のB−B線矢視断面図)に示すように、ボンネット11を閉じた時には、シュラウド2のアッパ部23と、ボンネット11との間がシールされた状態となる。
【0049】
上述したような、シュラウド2のアッパ部23の凹部23a、カバー4、シール部材5の構成により、ラジエータ1が小型であっても、冷媒注入口1aの突出量を抑えつつ、車両製造時における冷媒注入口1aへの冷媒注入作業が可能になるとともに、カバー4により、凹凸の小さいシール部材5を設けることができたため、ボンネット11を閉じた状態においては、アッパ部23とボンネット11との間のシール性能を維持することができる。
【0050】
ところで、図7に示すように、ボンネット11は主に、アウタパネル11aと、インナパネル11bとから構成されている。インナパネル11bの先端近傍には、シュラウド2側のボンネットロック装置8と係合して、ボンネット11の閉状態をロックするストライカ12が取付けられている。なお、図7において、ラジエータ1よりも後方の空間Enはエンジンルームを表している。
【0051】
ここで、図8、図9に基づいて、本実施形態におけるボンネットロック装置8の構成、作用を説明する。図8、図9は、それぞれボンネットロック装置8の正面図、背面図であり、このボンネットロック装置8は主に、ベース81、82、枢軸83に枢着された第1ラッチ84、スプリング85、枢軸86、87に枢着された第2ラッチ88、ロックプレート89、ラッチリリースワイヤ9、スプリング91、92により構成されている。
【0052】
ここで、ボンネット11(図7参照)を開く場合は、ラッチリリースワイヤ9が車室内の不図示のボンネットロック解除レバーに接続されているため、このレバーを乗員が引張ることにより、ラッチリリースワイヤ9を介してストッパ90に係合されたロックプレート89を図9において、スプリング91の引張力に抗して時計方向に回動させる。これにより、ロックプレート89の係合爪89aと第2ラッチ88の係合爪88aとの係合が解除されるため、第2ラッチ88はスプリング92の引張力により枢軸86を中心に反時計方向に回動する。これにより、ベース81、82の係合溝81a、82aの開口側が開放され、ストライカ12がアンロック状態となって、ボンネット11が開かれる。
【0053】
この時点では、ボンネット11は半開きの状態であるため、図8に示す第1ラッチ84の操作片84aをスプリング85の引張力に抗して反時計方向に回動させることにより、第1ラッチ84を完全に係合溝81a、82aから退避させた状態にすればボンネット11を全開にすることができる。
【0054】
なお、図8、図9における13は、第2ラッチの位置を検出するための検出部であり、第2ラッチ88と当接可能な検出レバー13aと、該検出レバー13aが二点鎖線の位置に変位した時に検出信号を出力する信号出力部13bとからなる。
【0055】
検出部13はラッチハーネス10を介して、車両のコントロールユニットに接続されており、第2ラッチ88が図9において反時計方向に回動され、検出レバー13aが第2ラッチ88に押されて、検出レバー13aが二点鎖線の位置に変位すると、例えばリミットスイッチからなる信号出力部13bの押しボタン(不図示)等を押すことによって前記検出信号が出力されるようになっている。
【0056】
従って、第2ラッチ88の状態を検出部13で監視することで、不正にボンネット11が開けられたか否かを検出することができ、その検出結果をラッチハーネス10を介して上記コントロールユニットへ出力することができるようになっている。
【0057】
ここで、ラッチハーネス10は、図1に示すように、前記開口部6の、第2ダクト7の先端開口部7a以外の空間6aの部分を通され、エンジンルームEn(図7参照)内に通されている。このように、カバー4に開口縁部41を形成して、凹部23aとで開口部6を形成していることにより、第2ダクト7を取付けたり、ケーブル類を通したりするにあたってシュラウド2に開口を穿設する必要がなくなるため、シュラウド2の成形性を向上させることができる。
【0058】
特に、本実施形態の場合、第2ダクト7の吸気導入部と、ラッチハーネス10の通し孔とが開口部6により共通化されている。このため、カバー4に形成される凹部の数は低減され、カバー4自体の成形性を向上させるものとなっている。また、カバー4に形成される凹部の数を減らすことにより、凹部間の間隔を広げることができるため、凹部間の脆弱となる部分を減らすことができる。
【0059】
(第2実施形態)
次に、図10、図11に示す第2実施形態について説明する。図10は、カバー104を示す図であり、それぞれ(a)外側面、(b)内側面を示す斜視図である。図11は、自動車の前部構造のうち、図10に示すカバー104を取付けた部分を示す要部斜視図である。なお、第1実施形態と同様の構成要素については同一の符号を付して、その説明を省略する。
【0060】
上述した第1実施形態では、不図示のコントロールユニットの冷却等、エンジンを作動させるための吸気とは目的の異なる吸気を行う第2ダクト7を設ける場合、シュラウド2とカバー4とにより開口部6を形成するものとしていたが、エンジンの種類等、車両の仕様によっては上述した冷却作用を必要としないものもある。そこで、本実施形態のカバー104では、第1実施形態において形成されていた開口縁部41の代わりに、図11に示すラッチハーネス10を通せる程度の大きさを確保できる、小さく切り欠かれた開口縁部141が形成されている。即ち、第1実施形態における開口縁部41の第2ダクト7が取付けられる部分をもカバー面とされ、このカバー面がシュラウド2の取付け部23bに合うように取付けられる構成となっている。
【0061】
開口縁部141により、ラッチハーネス10を通せる程度の最低限の大きさの開口とすることができるため、無駄な開口部が存在しない。従って、エンジンルームEn側の熱気がシュラウド2の取付け部23bとカバー104の開口縁部141との間から前方に漏れることを防止できる。
【0062】
なお、第2実施形態のカバー104においても、第1実施形態と同様に、カバー104の一端側には、略L字状の係合部142が形成され、他端側の内側面には、カバー104の内側面からクリップ143が突出しており、さらには、小型の第2開口縁部144、補強パネル部145も形成されている。
【0063】
以上より、予めシュラウド2のアッパ部23に、凹形状をなす取付け部23bが形成されていることにより、第2ダクト7の有無(エンジンの仕様等)の違いに関わらず、第2ダクト7とともに取付けられるカバー4、第2ダクト7が存在しない場合のカバー104のいずれかを択一的にシュラウド2のアッパ部23に取付けることを可能にしている。このように、カバー4、104の択一的な取付けを可能にすることにより、シュラウド2の共通化を図ることができるため、シュラウド2の生産性を向上させることができる。
【0064】
(第3実施形態)
次に、図12、図13に示す第3実施形態について説明する。図12は、ボンネットロック装置208の正面図であり、図13は、自動車の前部構造のうち、図12に示すボンネットロック装置208を取付けた部分を示す要部拡大図である。なお、第1実施形態と同様の構成要素については同一の符号を付して、その説明を省略する。
【0065】
前記ボンネットロック装置のレイアウトは、車両のレイアウト、予め定められた規格等との関係により、配線のし易さ等を考慮して、複数のパターンが考えられる。
【0066】
即ち、車両のレイアウト、規格次第で、図12に示すように、第1実施形態のボンネットロック装置8とは左右対称の構成とされるボンネットロック装置208が取付けられることもある。
【0067】
この場合、ボンネットロック装置208は、第1実施形態のボンネットロック装置8と同様に、ラッチリリースワイヤ209、検出部213、ベース281、枢軸283、286、287、第1、第2ラッチ284、288、スプリング285、ロックプレート289、ストッパ290を備えるものの、ラッチリリースワイヤ209、検出部213、第1、第2ラッチ284等の車両左右の配置がボンネットロック装置8とは車幅方向において逆の位置関係になる。
【0068】
従って、図13に示すように、ラッチリリースワイヤ209、ラッチハーネス210の配線においても、図1に示す第1実施形態の場合に対してそれぞれ車幅方向において逆方向へ通すことができる。
【0069】
本実施形態においては、不正にボンネット11が開けられたか否かを検出する検出部213に接続されたラッチハーネス210が、車幅方向において、カバー4の第2開口縁部44側へ延びるため、ここで予備的に成形された第2開口縁部44とシュラウド2とから形成される開口部を通して後方のエンジンルームEn内に通すことができる。
【0070】
他方、ラッチリリースワイヤ209は、車幅方向において開口部6側へ延びるため、このラッチリリースワイヤ209を、開口部6の空間6aの部分に通して後方のエンジンルームEn内に通すことができる。
【0071】
従って、開口部6は、ラッチハーネス10の他、ラッチリリースワイヤ209を通す役割も有しており、ボンネットロック装置に関するあらゆるケーブルを通す通し孔となり得る。
【0072】
(第4実施形態)
上述した第3実施形態においては、ラッチリリースワイヤ209は、第2ダクト7の先端開口部7aと共通の開口部6を通されたものとしているが、例えば、第2ダクト7を必要としない仕様のものである場合は、第2実施形態で述べた開口縁部144(図10、図11参照)を形成したカバー104が使用される。この場合は、ラッチリリースワイヤ209を、小さく切り欠かれた開口縁部141とシュラウド2とにより形成された開口を通すことで後方のエンジンルームEn内に通すことができる。
【0073】
(その他の実施形態)
また、上述した実施形態においては、ボンネットロック装置に関するケーブルとして、ラッチリリースワイヤ9、209、ラッチハーネス10、210を挙げているが、必ずしもこれに限定されるものではない。例えば、ボンネットロック解除レバーの代わりにスイッチ手段を運転席に設け、乗員がそのスイッチ手段を操作すると電気信号がハーネスによってボンネットロック装置に出力され、適宜のアクチュエータの駆動によりストライカ12がアンロック状態とされるものであってもよい。
【0074】
また、本発明においては、上述した実施形態に示す検出部13、213を備えていないものであっても適用することができる。
【0075】
この発明の構成と、上述の実施形態との対応において、
この発明の熱交換器は、ラジエータ1に対応し、
以下同様に、
第1カバーは、カバー4に対応し、
第2カバーは、カバー104に対応し、
ロック装置は、ボンネットロック装置8、208に対応し、
ケーブルは、ラッチリリースワイヤ9、209、ラッチハーネス10、210に対応するも、
この発明は、上述の実施形態の構成のみに限定されるものではなく、多くの実施の形態を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明の第1実施形態に係る自動車の前部構造のうち、ラジエータ、シュラウドの構成を前方からみた斜視図。
【図2】図1の要部拡大図。
【図3】ラジエータに対する冷媒注入作業を示す正面図。
【図4】ラジエータに対する冷媒注入作業を示す背面図。
【図5】本発明の第1実施形態に係るカバーの(a)外側面、(b)内側面を示す斜視図。
【図6】図2におけるA−A線矢視断面図。
【図7】ボンネットを閉じた状態における、図2のB−B線矢視断面図。
【図8】本発明の第1実施形態に係るボンネットロック装置を示す正面図。
【図9】本発明の第1実施形態に係るボンネットロック装置を示す背面図。
【図10】本発明の第2実施形態に係るカバーの(a)外側面、(b)内側面を示す斜視図。
【図11】自動車の前部構造のうち、図10に示すカバーを取付けた部分を示す要部斜視図。
【図12】本発明の第3実施形態に係るボンネットロック装置を示す正面図。
【図13】自動車の前部構造のうち、図12に示すボンネットロック装置を取付けた部分を示す要部拡大図。
【図14】従来における、(a)小型のラジエータに対する冷媒注入作業、(b)大型のラジエータに対する冷媒注入作業を示す正面図。
【符号の説明】
【0077】
1…ラジエータ
1a…冷媒注入口
2…シュラウド
3…第1ダクト
4、104…カバー
5…シール部材
6…開口部
7…第2ダクト
8、208…ボンネットロック装置
9、209…ラッチリリースワイヤ
10、210…ラッチハーネス
11…ボンネット
23a…凹部
24…ダクト開口部
41、141…開口縁部
En…エンジンルーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車の前部構造であって、
アッパ部、両側部、ロア部から構成される樹脂製のシュラウドと、
エンジンルームの上方を覆うボンネットと、
冷媒注入口を有し、上記シュラウドに支持される熱交換器とを備え、
上記シュラウドのアッパ部には、上記冷媒注入口が配設される位置において他の位置よりも下方に凹む凹部を形成するとともに、
上記冷媒注入口を、熱交換器本体から上記凹部の上面位置まで上方に延びるように設け、
上記シュラウドは、上記凹部を覆うカバー部材を備え、
上記シュラウドと上記ボンネットとの隙間にシール部材を配設し、
該シール部材をカバー部材上に沿うように設けた
自動車の前部構造。
【請求項2】
前記熱交換器本体の上面を、前記冷媒注入口の部位が最も高くなるように形成し、
上記冷媒注入口から離れて低くなされた部位の近傍において、前記シュラウドのアッパ部にダクト開口部を形成した
請求項1記載の自動車の前部構造。
【請求項3】
前記カバー部材は、前記凹部とにより開口部を形成する
請求項1記載の自動車の前部構造。
【請求項4】
前記シュラウドのアッパ部は、前記カバー部材のうち、
前記シール部材より前方の空気を取入れるダクト部材が接続される吸気導入開口部を前記凹部とにより形成する第1のカバー部材、
上記吸気導入開口部を形成しない第2のカバー部材のいずれかを、前記凹部へ択一的に取付け可能とした
請求項1記載の自動車の前部構造。
【請求項5】
前記ボンネットを閉状態でロックするロック装置を備えるとともに、
該ロック装置に関するケーブルを前記エンジンルーム内に通すための開口部を、前記ダクト部材の吸気導入開口部と一体的に形成する
請求項4記載の自動車の前部構造。
【請求項6】
前記カバー部材は、前記シュラウドに対して着脱自在である
請求項1乃至5のうちいずれか一項記載の自動車の前部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2007−137097(P2007−137097A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−329572(P2005−329572)
【出願日】平成17年11月15日(2005.11.15)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】