説明

自動車の前部構造

【課題】車室内へのエンジンルームからの騒音の進入を防止すると共に歩行者保護も達成できる自動車の車体前部構造を提供する。
【解決手段】自動車の車体前部構造(1)は、フェンダ(2)と、エンジンルーム(4)と、ボンネット(6)と、エンジンルームと車室の間に縦壁を備え車幅方向に延びるカウルグリル(14)と、を有し、更に、カウルグリルの縦壁の上部に取付けられ、ボンネットとの間を遮蔽する弾性部材からなるセンターシール(20)と、カウルグリルの縦壁の車幅方向側端部とフェンダとの間に形成されたすき間空間(18)を塞ぐようにほぼ車幅方向に延びると共にカウルグリルの縦壁よりも柔軟な材質から作られたサイドシール(22)と、を有し、サイドシールは、閉鎖状態のボンネットと当接するシール部(28)及びこのシール部を下方から支持する縦壁部(30)からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の前部構造に係わり、特に、カウルへの騒音進入を防止した自動車の車体前部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車の車体前部構造において、エンジンルーム内のコーナー部の音圧を低減させて室内を静粛に保つために種々の構造が提案されている。例えば、特許文献1に示された自動車の車体前部構造では、図15に示すように、車室51は、ダッシュパネル52によりエンジンルーム53からの発生音が遮蔽されている。ダッシュパネル52は、ダッシュロアパネル54とダッシュアッパーパネル55を備え、ダッシュロアパネル54にはダッシュ吸音材56が取付けられている。エンジンルーム53の上部には開閉自在なフードパネル57によって遮蔽されており、フードパネル57の先端は、パッキン58に当接し、フードパネル57の内面にはフード吸音材59が取付けられている。さらに、ダッシュ吸音材56の上部には前方斜め上方に立ち上がるカウル側吸音部60が一体的に設けられ、このカウル側吸音部60とカウルボックス61との間には、遮蔽空間62が形成されている。
【0003】
この図15の従来の自動車の車体前部構造では、カウル側吸音部60の上縁部がフード吸音材59に当接しているので、このカウル側吸音部60と遮音空間62とによりエンジンルーム53内のコーナー部の音圧を低減させ、車室51内に騒音が進入せず静粛を保つことができるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平04-349051号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した従来の自動車の車体前部構造のものでは、フードパネル(ボンネット)57の後端のパッキン58よりも前方に遮音空間62が形成されているので、その分、エンジンルーム上部が狭くなり好ましくなく、さらに、このパッキン58とカウル側吸音部60の上端部とがフードパネル57の内面に当接する2重シール構造となるので、無駄である。
【0006】
なお、自動車の車体前部構造の従来例として、その他に、シール部材がカウルグリル上に左右のフェンダ間に掛け渡して設けられたものが知られている。
【0007】
一方、車室内にエンジンルームからの騒音の進入を防止する必要があるが、それに加えて、歩行者衝突時のボンネットと車体表面間の緩衝ストロークを拡大して、歩行者保護を図る必要がある。しかしながら、上述した従来技術では、このような歩行者保護は不十分な構造となっている。
【0008】
そこで、本発明は、従来技術の問題点を解決するためになされたものであり、車室内へのエンジンルームからの騒音の進入を防止すると共に歩行者保護も達成できる自動車の車体前部構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明は、車体前方の両側に配置されたフェンダと、このフェンダ間に配置された駆動源を納める前室と、この前室を上方から開閉自在に覆うボンネットと、前室と車室の間に縦壁を備え車幅方向に延びるカウルグリルと、を有する自動車の車体前部構造であって、カウルグリルの縦壁の上部に取付けられ、閉鎖状態のボンネットとの間を遮蔽する弾性部材からなるセンターシールと、カウルグリルの縦壁の車幅方向側端部とフェンダとの間に縦壁が存在しないすき間空間が形成され、このすき間空間を塞ぐようにほぼ車幅方向に延びると共にカウルグリルの縦壁よりも柔軟な材質から作られたサイドシールと、を有し、サイドシールは、閉鎖状態のボンネットと当接するシール部及びこのシール部を下方から支持する縦壁部からなることを特徴としている。
このように構成された本発明によれば、カウルグリルの縦壁の車幅方向側端部と上記フェンダとの間に縦壁が存在しないすき間空間が形成されたので、カウルグリルの中央領域では縦壁によりカウルグリルの走行時の剛性を確保でき、且つ、車幅方向側端部領域ではすき間空間によりカウルグリルの歩行者衝突時のボンネットと車体表面間に必要な緩衝ストロークを確保することができる。また、このすき間空間はサイドシールにより塞がれているので、緩衝性能を落とさずに前室からカウルグリル内への騒音進入を防止できる。また、サイドシールは、そのシール部が縦壁部により支持され、縦壁部は撓みにくいので、気密性を長期間維持できる。
【0010】
本発明において、好ましくは、サイドシールの縦壁部は、その上縁と下縁に車両前後方向に延びる上壁部と下壁部及びこれらの上壁部と下壁部を接続する上下方向に延びる縦壁が設けられている。
このように構成された本発明によれば、サイドシールの縦壁部がI字状やコ字状の形状となり、それにより、自立安定性や車体表面との間の遮音性を高められ、長期的な形状崩れによる隙発生を防止できる。
【0011】
本発明において、好ましくは、サイドシールの縦壁部は、側面視で前後一方に開放した略コ字状、又は、縦壁部の縦壁が前後方向の一方の側に偏在するI字状に形成され、縦壁部の下壁部に車体取付部が設けられている。
このように構成された本発明によれば、サイドシールの前後方向の厚みを増やすことなくスリムにしつつ、下壁部の上面を広くして、車体取付部を設けることができる。
【0012】
本発明において、好ましくは、サイドシールの縦壁部は、側面視で後方に開放した略コ字状、又は、縦壁部の縦壁が前方に偏在するI字状に形成され、縦壁部の縦壁の後面側に補強部材が設けられている。
このように構成された本発明によれば、サイドシールを型抜きにより形成する場合には、型抜きが容易となり、さらに、ボンネットを開いた際の見栄えと補強を両立することができる。
【0013】
本発明において、好ましくは、サイドシールは、更に、縦壁部から前後方向に延びる脚部を備えている。
このように構成された本発明によれば、サイドシールの自立を更に容易にし、前室からサイドシールの下方に抜ける騒音の漏れを低下させることができる。
【0014】
本発明において、好ましくは、センターシールは、側面視で中空の断面を有し、サイドシールのシール部は、側面視で前方に開放された開放断面を有し、且つ、センターシールの端部と面一に又はセンターシールの後面を後方から覆うように設けられている。
このように構成された本発明においては、サイドシールのシール部が、型成形容易な開放断面とし、センターシールの端部と面一に又はセンターシールの後面を後方から覆うように設けられているので、サイドシールのシール部によりセンターシール内部へ水が浸入することを防止できる。
【0015】
本発明において、好ましくは、サイドシールのシール部は、センターシールと一体的に連結されている。
このように構成された本発明によれば、サイドシールのシール部が、センターシールと一体的に連結されているので、サイドシールのシール部とセンターシールとの隙間からの騒音漏れを確実に防止できると共に、センターシールをサイドシールにより支持することができる。更に、部品単価は上昇するが、生産ラインにおいて、管理工数や部品箱数などを、サイドシールとセンターシールを分割部材とした場合に比して格段(最大1/3)に低減することができる。
【0016】
本発明において、好ましくは、フェンダが車幅方向内側に延びるフェンダ取付部を備え、このフェンダ取付部がその下方の車体表面との間に隙間を形成し、この隙間に上記サイドシールの縦壁部の端部が挿入されるようになっている。
このように構成された本発明においては、フェンダ取付部がその下方の車体表面との間に隙間を形成し、この隙間にサイドシールの縦壁部の端部が挿入されているので、フェンダにおける歩行者保護が可能となり、且つ、フェンダ下の遮音性も確保でき、歩行者保護性能とフェンダ下の遮音性を両立できる。
【0017】
本発明において、好ましくは、サイドシールのシール部は、その車幅方向外側へ延びる延出部を備え、この延出部が、フェンダ取付部を覆うように設けられている。
このように構成された本発明においては、サイドシールのシール部がその車幅方向外側へ延びる延出部を備えフェンダの車幅方向内側上面に設けられているので、シールの連続性を高め、さらに、この延出部がフェンダ取付部を覆っているので、見栄えも向上できる。
【0018】
本発明において、好ましくは、カウルグリルの側部の前方近傍にストラットタワーの締結部が設けられ、カウルグリルの側部の車幅方向外側近傍にボンネットヒンジが設けられており、すき間空間は、ストラットタワーの締結部を避けるよう形成され、サイドシールの縦壁部は、サイドシールが自立できるようセンターシールよりも高剛性とされ、且つ、ストラットタワー後方と上記ボンネットヒンジ前方の間の領域に配置されるように、車幅方向に沿って湾曲または屈曲形成されている。
このように構成された本発明においては、サイドシールの縦壁部の剛性を高めているのでサイドシールの自立性を高めることができ、サイドシールの縦壁部が、ストラットタワーやボンネットヒンジの間の領域に屈曲配置されているので、カウルグリルを取り外すことなくサスペンションの組付や整備を行うことができる。また、サイドシールの縦壁部を湾曲または屈曲形状としたこと自体により、サイドシールの上下方向の剛性も向上させることができる。また、カウルグリルの近傍で比較的強度の高いストラットタワーやボンネットヒンジ近傍に高さと弾性(柔軟性)のあるサイドシールを配置しているので、歩行者等の衝突物への反力(加害性)が過剰とならず衝撃吸収量を増大することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の自動車の車体前部構造によれば、車室内へのエンジンルームからの騒音の進入を防止すると共に歩行者保護も達成できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施形態による自動車の車体前部構造を示す前方斜め上方から見た斜視図である。
【図2】本発明の実施形態による自動車の車体前部構造を示す平面図である。
【図3】本発明の実施形態による自動車の車体前部構造に設けられたセンターシールとサイドシールを取り出して示す正面図である。
【図4】図2のIV−IV線に沿って見た断面図である。
【図5】図2のV−V線に沿って見た断面図である。
【図6】図2のVI−VI線に沿って見た断面図である。
【図7】図1の要部拡大斜視図である。
【図8】本発明の実施形態による自動車の車体前部構造に設けられたサイドシールを取り出して示す前方斜め上方から見た斜視図である。
【図9】本発明の実施形態による自動車の車体前部構造に設けられた車体右側に配置されたサイドシールを取り出して示す図である。ここで、図9(A)は正面図、図9(B)は背面図、図9(C)は平面図、図9(D)は底面図、図9(E)は車幅方向右側から見た側面図、図9(F)は車幅方向左側から見た側面図である。
【図10】図7のX−X線に沿って見た断面図である。
【図11】本発明の実施形態による自動車の車体前部構造のサイドシールの変形例を示す断面図である。
【図12】本発明の実施形態による自動車の車体前部構造のサイドシールの他の変形例を示す断面図である。
【図13】本発明の実施形態による自動車の車体前部構造のサイドシールの他の変形例を示す断面図である。
【図14】本発明の実施形態による自動車の車体前部構造のサイドシールの他の変形例を示す断面図である。
【図15】従来の自動車の車体前部構造の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態による自動車の車体前部構造について説明する。先ず、図1乃至図6により、本発明の実施形態による自動車の車体前部構造の基本構造を説明する。図1は本発明の実施形態による自動車の車体前部構造を示す前方斜め上方から見た斜視図であり、図2は本発明の実施形態による自動車の車体前部構造を示す平面図であり、図3は本発明の実施形態による自動車の車体前部構造に設けられたセンターシールとサイドシールを取り出して示す正面図であり、図4は図2のIV−IV線に沿って見た断面図であり、図5は図2のV−V線に沿って見た断面図であり、図6は図2のVI−VI線に沿って見た断面図である。
【0022】
図1及び図2に示すように、車体前部構造1は、その両側にフェンダ2が配置され、これらのフェンダ2の間にエンジンルーム4が形成され、このエンジンルーム4内には、駆動源であるエンジン(図示せず)が配置されている。ここで、駆動源としては、内燃機関であるエンジン以外に、電気モータや、ハイブリッドシステム等も含まれる。また、このエンジンルーム4を覆うようにボンネット6が設けられている。
【0023】
また、図4に示すように、エンジンルーム4と車室8との間には、カウルフロントパネル10が設けられ、さらに、フロントガラス12の下方前方には、車幅方向の全域に延びるカウルグリル14が設けられている。また、このカウルグリル14の前端側には、前方斜め上方に延びる樹脂製の縦壁16が一体的に設けられている。このカウルグリル14の縦壁16は、詳細は後述するように、車幅方向の中央領域にのみ形成され、カウルグリル14の両端部は、縦壁16が存在しないすき間空間18(図5及び図7参照)が形成されている。
【0024】
図4に示すように、カウルグリル14の縦壁16の上端平面16a上には、車幅方向に延びるセンターシール20が取り付けられている。センターシール20は側面視で中空の断面を有している。このセンターシール20は、閉鎖状態のボンネット6の下面と当接して、エンジンルーム4と車室8とをシールするようになっている。
【0025】
図3に示すように、センターシール20の両端側には、サイドシール22が、連結部21(図7参照)を介して、一体的に形成されている。
ここで、センターシール20は、弾性部材から作られ、サイドシール22は、カウルグリル14の硬質樹脂製の縦壁16よりも柔軟な材質であるゴム材等(例えば、EPDMゴムや熱可塑性エラストマー(TPE))から作られる。しかしながら、このサイドシール22は、後述する自立性を確保するため、センターシール20よりも高剛性となっている。この両部材間に剛性差を出すため、例えば、センターシール20は気泡を含むスポンジ材にして低剛性とし、サイドシール22は気泡を含まないソリッド材にして高剛性にするようにしても良い。
【0026】
次に、図1及び図7により、サイドシール22の取り付け位置について説明する。図7は図1の要部拡大斜視図である。図1及び図7に示すサイドシール22は、車体右側(運転席から見て右側)に配置され、上述したカウルグリル14の縦壁16が存在しないすき間空間18を塞ぐようにほぼ車幅方向に延びるように設けられている。
【0027】
また、カウルグリル14の側部の前方近傍には、ストラットタワーの締結部24が設けられ、また、カウルグリル14の側部の車幅方向外側近傍にはボンネットヒンジ26(図1参照)が設けられている。また、サイドシール22は、ストラットタワーの締結部24を避けるように、且つ、上下方向の支持剛性が大きくなるように、平面視で湾曲した形状に形成され、ストラットタワーの締結部24とボンネットヒンジ26の間の領域(図1参照)に設けられている。
【0028】
次に、図5、図7、図8及び図9により、サイドシール22の形状等について詳細に説明する。図8は本発明の実施形態による自動車の車体前部構造に設けられたサイドシールを取り出して示す前方斜め上方から見た斜視図であり、図9は本発明の実施形態による自動車の車体前部構造に設けられた車体右側に配置されたサイドシールを取り出して示す図である。ここで、図9(A)は正面図、図9(B)は背面図、図9(C)は平面図、図9(D)は底面図、図9(E)は車幅方向右側から見た側面図、図9(F)は車幅方向左側から見た側面図である。なお、ここでは、車体右側に設けられたサイドシール22について説明するが、車体左側に設けられたサイドシール22も、基本構造は同じであり、左右方向(幅方向)に対称な形状となっている。
【0029】
サイドシール22は、閉鎖状態のボンネット6の下面と当接してエンジンルーム4と車室8とをシールするシール部28と、このシール部28を下方から支持する縦壁部30を備え、これらのシール部28と縦壁部30は、型成形等により、一体的に形成されている。
【0030】
図5に示すように、サイドシール22の縦壁部30には、後方に向かって延びる上壁部30aと下壁部30b、及び、これらを接続する縦壁30cが設けられ、縦壁部30の断面が、後方に向かって開口する略コ字状の形状となっている。また、シール部28は前方に向かって開口する略コ次状の形状となっている。サイドシール22は、このような形状とすることにより、それ自体、カウルグリル14上に、自立できるようになっている。
【0031】
縦壁部30の縦壁30cの前面は、見栄えの良い平らな面に形成されている。縦壁部30の後面には、上下方向の支持剛性を高めるための補強部材である補強リブ30dが一体的に形成されている。なお、この補強リブ30dは、格子状に設けられている(図9(B)参照)が垂直方向のリブが必須であり、水平方向のリブは省略しても良い。
また、シール部28の前面28aにも、上下方向の支持剛性を高めるための垂直方向に延びる補強リブ28bが設けられている(図9(A)参照)。
【0032】
サイドシール22の縦壁部30の下壁面30bには、サイドシール22をカウルグリル14にクリップ31(図6参照)により取り付けるための車体取付部32が形成されている。
【0033】
上述したように、本実施形態においては、サイドシール22の縦壁部30は、図5に示すように略コ字状に形成されているが、他の断面形状でもよい。例えば、図11に示すように、サイドシール22の縦壁部30の上壁部30aと下壁部30bにより前方に向かって開放する略コ字状の形状にしても良い。
また、図12に示すように、サイドシール22の縦壁部30がI字状の形状とした場合には、上壁部30aと下壁部30bとにより、自立性を高めることができる。縦壁部30がI字状の形状にした場合には、さらに、図13及び図14にそれぞれ示すように、縦壁30cを前後方向に偏在させるようにしてもよい。なお、サイドシール22が自立できる範囲で、上壁部30aと下壁部30bを前後方向にずらせて設けるようにしても良い。
【0034】
次に、図7、図8、図9(C)、図9(D)等に示すように、サイドシール22には、縦壁部30の前方向の車幅方向端部側には、平面視で略三角形状の脚部34が一体的に設けられている。この脚部34は、後方側に延びるようにしてもよいし、前後の両方向に延びるようにしてもよい。この脚部34により、サイドシール22の自立性が向上する。
【0035】
次に、図6及び図9(F)に示すように、サイドシール22のシール部28の車幅方向内側端は、中空断面のセンターシール20と面一となるように接続(溶着)されている。 ここで、サイドシール22は型成形で形成、センターシール20は押し出し成形により形成され、これらが別々に制作された後、両者は、溶着等により、一体的に連結形成されるようになっている。また、センターシール20の両端末をサイドシール22を成型する金型にセットして、サイドシール22の型成形と同時に一体化してもよい。
【0036】
なお、サイドシール22及びセンターシール20が一体的に形成されず、組付時に別体の場合には、サイドシール22のシール部28の車幅方向内側端は、中空断面のセンターシール20の後面を覆うように設けることが好ましい。
【0037】
次に、図7及び図10に示すように、フェンダ2の内部には、スポンジ状の遮音材36が取付けられている。さらに、フェンダ2には、車幅方向内側に延びるフェンダ取付部であるフェンダ取付ブラケット38が設けられている。このフェンダ取付ブラケット38は、その下方の車体表面40との間に隙間を形成し、この隙間にサイドシール22の縦壁部30の端部30eが挿入されるようになっている。サイドシール22の縦壁部30の端部30eの外側端面と上述したフェンダ2の遮音材36の内側端面とは当接している。
【0038】
さらに、サイドシール22のシール部28は、その車幅方向外側へ延びる延出部28cを備え、この延出部28cが、フェンダ取付ブラケット38を上方から覆うようになっている。
【0039】
次に、上述した本発明の実施形態による自動車の車体前部構造による作用効果を説明する。先ず、カウルグリル14の縦壁16の車幅方向側端部とフェンダ2との間に縦壁16が存在しないすき間空間18が形成されたので、カウルグリル14の中央領域では縦壁16によりカウルグリル14の走行時の剛性が確保できる。さらに、車幅方向側端部領域ではすき間空間18によりカウルグリル14の歩行者衝突時のボンネット6と車体表面40間に必要な緩衝ストロークを確保することができる。また、このすき間空間18はサイドシール22により塞がれているので、緩衝性能を落とさずにエンジンルーム4からカウルグリル14内への騒音進入を防止できる。また、サイドシール22は、そのシール部28が縦壁部30により支持され、縦壁部30は撓みにくいので、気密性を長期間維持できる。なお、サイドシール22の代わりに多孔質のスポンジ状部材を切欠空間内に詰め込むことも考えられるが、本実施形態によるサイドシール22の方がスリムで見栄えが良く、耐久性(耐油、耐水、耐熱)や遮水性も高い。
【0040】
また、サイドシール22の縦壁部30が、その上縁と下縁に車両前後方向に延びる上壁部30aと下壁部30b及びこれらの上壁部30aと下壁部30bを接続する上下方向に延びる縦壁30cが設けられているので、サイドシール22の縦壁部30がI字状やコ字状の形状となり、それにより、サイドシール22の自立安定性や車体表面との間の遮音性を高められ、長期的な形状崩れによる隙発生を防止できる。
【0041】
また、サイドシール22の縦壁部30が、側面視で前後一方に開放した略コ字状、又は、縦壁部30の縦壁が前後方向の一方の側に偏在するI字状に形成され、縦壁部30の下壁部30bに車体取付部32が設けられているので、サイドシール22の前後方向の厚みを増やすことなくスリムにしつつ、下壁部30bの上面を広くして、車体取付部32を設けることができる。
【0042】
また、サイドシール22の縦壁部30が、側面視で後方に開放した略コ字状、又は、縦壁部30の縦壁30cが前方に偏在するI字状に形成され、縦壁部30の縦壁30cの後面側に補強リム30dが設けられているので、サイドシール22を型抜きにより形成する場合には、型抜きが容易となり、さらに、ボンネット6を開いた際の見栄えと補強を両立することができる。
【0043】
また、サイドシール22は、更に、縦壁部30から前方向及び/又は後方向に延びる脚部34を備えているので、サイドシール22の自立が更に容易になり、且つ、エンジンルーム4からサイドシール22の下方に抜ける騒音の漏れを低下させることができる。
【0044】
また、センターシール20は、側面視で中空の断面を有し、サイドシール22のシール部28は、側面視で前方に開放された開放断面を有し、且つ、センターシール20の端部と面一に又はセンターシール20の後面を後方から覆うように設けられているので、サイドシール22のシール部28によりセンターシール内部へ水が浸入することを防止できる。
【0045】
また、サイドシール22のシール部28は、センターシール20と一体的に連結されているので、サイドシール22のシール部28とセンターシール20との隙間からの騒音漏れを確実に防止できると共に、センターシール22をサイドシール20により支持することができる。更に、部品単価は上昇するが、生産ラインにおいて、管理工数や部品箱数などを、サイドシール22とセンターシール20を分割部材とした場合に比して格段(最大1/3)に低減することができる。
【0046】
また、フェンダ2が車幅方向内側に延びるフェンダ取付ブラケット38を備え、このフェンダ取付ブラケット38がその下方の車体表面40との間に隙間を形成し、この隙間にサイドシール22の縦壁部30の端部30eが挿入されるので、フェンダ2における歩行者保護が可能となり、且つ、フェンダ2下の遮音性も確保でき、歩行者保護性能とフェンダ2下の遮音性を両立できる。
【0047】
また、サイドシール22のシール部28は、その車幅方向外側へ延びる延出部28cを備え、この延出部28cが、フェンダ取付ブラケット38を覆うように設けられているので、シールの連続性を高め、さらに、この延出部28cがフェンダ車体ブラケット38を覆っているので、見栄えも向上できる。
【0048】
さらに、カウルグリル14の側部の前方近傍にストラットタワーの締結部24が設けられ、カウルグリル14の側部の車幅方向外側近傍にボンネットヒンジ26が設けられており、すき間空間18が、ストラットタワーの締結部24を避けるよう形成され、サイドシール22の縦壁部30が、サイドシール22が自立できるようセンターシール20よりも高剛性とされ、且つ、ストラットタワー後方とボンネットヒンジ前方の間の領域に配置されるように、車幅方向に沿って湾曲または屈曲形成されているので、カウルグリル14を取り外すことなくサスペンションの組付や整備を行うことができる。また、サイドシール22の縦壁部30を湾曲または屈曲形状としたこと自体により、サイドシール22の上下方向の剛性も向上させることができる。また、カウルグリル14の近傍で比較的強度の高いストラットタワーやボンネットヒンジ近傍に高さと弾性(柔軟性)のあるサイドシール22を配置しているので、歩行者等の衝突物への反力(加害性)が過剰とならず衝撃吸収量を増大することができる。
【符号の説明】
【0049】
1 自動車の車体前部構造
2 フェンダ
4 エンジンルーム(前室)
6 ボンネット
8 車室
14 カウルグリル
16 縦壁
18 すき間空間
20 センターシール
22 サイドシール
24 ストラットタワーの締結部
26 ボンネットヒンジ
28 サイドシールのシール部
30 サイドシールの縦壁部
32 車体取付部
34 脚部
38 フェンダ取付ブラケット(フェンダ取付部)
40 車体表面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体前方の両側に配置されたフェンダと、
このフェンダ間に配置された駆動源を納める前室と、
この前室を上方から開閉自在に覆うボンネットと、
上記前室と車室の間に縦壁を備え車幅方向に延びるカウルグリルと、を有する自動車の車体前部構造であって、
上記カウルグリルの縦壁の上部に取付けられ、上記閉鎖状態のボンネットとの間を遮蔽する弾性部材からなるセンターシールと、
上記カウルグリルの縦壁の車幅方向側端部と上記フェンダとの間に上記縦壁が存在しないすき間空間が形成され、このすき間空間を塞ぐようにほぼ車幅方向に延びると共に上記カウルグリルの縦壁よりも柔軟な材質から作られたサイドシールと、を有し、
上記サイドシールは、閉鎖状態の上記ボンネットと当接するシール部及びこのシール部を下方から支持する縦壁部からなることを特徴とする自動車の車体前部構造。
【請求項2】
上記サイドシールの縦壁部は、その上縁と下縁に車両前後方向に延びる上壁部と下壁部及びこれらの上壁部と下壁部を接続する上下方向に延びる縦壁が設けられている請求項1記載の自動車の前部構造。
【請求項3】
上記サイドシールの縦壁部は、側面視で前後一方に開放した略コ字状、又は、縦壁部の縦壁が前後方向の一方の側に偏在するI字状に形成され、縦壁部の下壁部に車体取付部が設けられている請求項2記載の自動車の前部構造。
【請求項4】
上記サイドシールの縦壁部は、側面視で後方に開放した略コ字状、又は、縦壁部の縦壁が前方に偏在するI字状に形成され、縦壁部の縦壁の後面側に補強部材が設けられている請求項3記載の自動車の前部構造。
【請求項5】
上記サイドシールは、更に、縦壁部から前後方向に延びる脚部を備えている請求項1乃至4の何れか1項に記載の自動車の前部構造。
【請求項6】
上記センターシールは、側面視で中空の断面を有し、上記サイドシールのシール部は、側面視で前方に開放された開放断面を有し、且つ、上記センターシールの端部と面一に又はセンターシールの後面を後方から覆うように設けられている請求項1乃至5の何れか1項に記載自動車の前部構造。
【請求項7】
上記サイドシールのシール部は、上記センターシールと一体的に連結されている請求項1乃至6の何れか1項に記載の自動車の前部構造。
【請求項8】
上記フェンダが車幅方向内側に延びるフェンダ取付部を備え、このフェンダ取付部がその下方の車体表面との間に隙間を形成し、この隙間に上記サイドシールの縦壁部の端部が挿入されるようになっている請求項1乃至7の何れか1項記載の自動車の前部構造。
【請求項9】
上記サイドシールのシール部は、その車幅方向外側へ延びる延出部を備え、この延出部が、上記フェンダ取付部を覆うように設けられている請求項8記載の自動車の前部構造。
【請求項10】
上記カウルグリルの側部の前方近傍にストラットタワーの締結部が設けられ、上記カウルグリルの側部の車幅方向外側近傍にボンネットヒンジが設けられており、上記すき間空間は、上記ストラットタワーの締結部を避けるよう形成され、上記サイドシールの縦壁部は、サイドシールが自立できるようセンターシールよりも高剛性とされ、且つ、上記ストラットタワー後方と上記ボンネットヒンジ前方の間の領域に配置されるように、車幅方向に沿って湾曲または屈曲形成されている請求項1乃至9の何れか1項に記載の自動車の前部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2013−49348(P2013−49348A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−188214(P2011−188214)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【出願人】(000196107)西川ゴム工業株式会社 (454)
【Fターム(参考)】