説明

自動車の前部車体構造

【課題】 衝突時における外装部材の破損や、中空フロントガーニッシュの内部への雨水の侵入等を抑制した自動車の前部車体構造を提供する。
【解決手段】 サイドブラケット14では、ラジエタアッパマウント側係止部42の基部にノッチ(脆弱部)51が形成されている。また、上部のクリップ44の取付部位およびカバー側係止部43の下方には、3つのノッチ(脆弱部)52〜54と2つの貫通孔(脆弱部)55,56とが形成されている。更に、下部のクリップ44の取付部位の直上では、貫通孔(脆弱部)57が穿設されるとともに、左右のフランジ45,46にそれぞれノッチ(脆弱部)58,59が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の前部車体構造に係り、衝突時における外装部材の破損等を抑制する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
4輪自動車では、フロントバンパの上方中央にフロントガーニッシュを備えたものが一般的である(例えば、特許文献1,2参照)。フロントガーニッシュは、走行風をエンジンルームに導入するためのグリルを兼ねることが多いが、意匠性の向上等を図るべく、ボンネットやヘッドランプに連続する平滑な曲面を有するものもある。後者のフロントガーニッシュには、例えば、透明な樹脂を素材とするアウタパネル(アウタレンズ)と、前面がメッキされたインナパネルとからなる中空品が存在する。中空のフロントガーニッシュは、ポリカーボネートやガラスのレンズを有する左右ヘッドランプとの連続性や、インナパネルの前面に装着されたエンブレムがアウタレンズを透過して見えることによる高級感等を有している。この種のフロントガーニッシュでは、アウタレンズの外縁から後方にステーが延設され、このステーの端部が車体骨格部材(フロントバルクヘッド等)に固定される。なお、中空のフロントガーニッシュでは、中空部に雨水や塵埃が侵入することを防ぐ必要があるため、アウタレンズとインナパネルとの接合部がブチルゴム等のシール材によってシールされている。
【特許文献1】特開平10−230798号公報
【特許文献2】特開平11−263246号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述した中空のフロントガーニッシュでは、アウタレンズの外周縁に一体成形されたステーによって車体骨格部材に固定されているが、このことに起因する以下のような問題があった。例えば、自動車が他の車両や建造物等に軽衝突してステーが破損した場合、中空フロントガーニッシュ全体を交換しなければならず、修理時の部品コストが高額になる。また、例えば、アウタレンズ側の上下ステー間の距離に対して車体骨格部材側の上下取付部間の距離が小さかった場合、シール材に大きなストレスが掛かってアウタレンズとインナパネルとの間に隙間が生じてしまい、フロントガーニッシュの中空部に雨水や塵埃が侵入する虞があった。更に、射出成形型の構成上、ステーの断面寸法をいたずらに大きくすることができないため、フロントガーニッシュの取付剛性を十分に高くすることが難しかった。
【0004】
本発明は、このような背景に鑑みなされたもので、軽衝突時における外装部材の破損や、中空フロントガーニッシュの内部への雨水の侵入等を抑制した自動車の前部車体構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1の発明は、フロントバンパ上方中央に設置された外装部材と、この外装部材を車体に固定するための樹脂製ブラケットとを備えた自動車の前部車体構造であって、前記樹脂製ブラケットが、所定の荷重が加わることによって破断する脆弱部を有することを特徴とする。
【0006】
また、請求項2の発明は、請求項1に記載の自動車の前部車体構造において、前記外装部材がアウタパネルとインナパネルとをシール部を介して接合してなる中空のフロントガーニッシュであり、前記樹脂製ブラケットが、前記シール部の内側で前記インナパネルに取り外し可能に固着されることを特徴とする。
【0007】
また、請求項3の発明は、請求項1または請求項2に記載の自動車の前部車体構造において、前記外装部材を他の部材に固定するための金属製ブラケットを更に備え、前記金属製ブラケットが、所定の荷重が加わることによって容易に変形することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
請求項1の自動車の前部車体構造によれば、衝突時において外装部材が前方から押されても、樹脂製ブラケットが破断することにより外装部材の破損が起こり難くなり、修理コストの低減が実現される。また、請求項2の自動車の前部車体構造によれば、アウタパネルとインナパネルとの間に隙間が生じ難くなり、フロントガーニッシュの中空部への雨水や塵埃の侵入が抑制される。また、請求項3の自動車の前部車体構造によれば、外装部材の破損を防止しながら、他部材との連結を比較的低コストで行える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、図面を参照して、本発明を適用した自動車の前部車体構造の一実施形態を詳細に説明する。
図1は実施形態に係る自動車の斜視図であり、図2は図1中II部の展開斜視図であり、図3はフロントガーニッシュ装着部の車両中心における縦断面図であり、図4はサイドブラケットの取付状態を示す斜視図であり、図5はサイドブラケットの取付状態を示す縦断面図であり、図6および図7は実施形態の作用説明図である。
【0010】
《実施形態の構成》
<全体構成>
図1に示すように、本実施形態は、4ドア乗用車(以下、自動車と記す)に本発明を適用したものである。本実施形態の自動車のボディ1は、鋼板パネル溶接組立によるモノコック構造を採用しており、その前部がフロントバンパ2や左右のフェンダパネル3,4、ボンネット5等により覆われている。フロントバンパ2は、その左右端がホイールアーチ6にまで回り込む形状を呈するとともに、前面下部にエンジンルームに走行風を導入するためのグリル7を備えている。フロントバンパ2の上方には、ボンネット4との間にフロントガーニッシュ8が設置され、フェンダパネル3,4との間に左右のヘッドランプユニット9,10が設置されている。
【0011】
図2に示すように、ボディ1の前部には車体骨格部材であるフロントバルクヘッド11が存在しており、フロントバンパ2や左右のヘッドランプユニット9,10がこのフロントバルクヘッド11に固定されている。フロントバルクヘッド11の前面には左右一対のラジエタアッパマウントブラケット12,13が装着されており、フロントガーニッシュ8は、後面に装着された左右一対のサイドブラケット(樹脂製ブラケット)14,15を介して、これらラジエタアッパマウントブラケット12,13や左右のヘッドランプユニット9,10に固定される。また、フロントガーニッシュ8には、その上部中央寄りにフロントアッパカバー(図2には示さない)を支持する左右一対のアッパブラケット(金属製ブラケット)16が取り付けられ、下部中央にフロントバンパ2のバンパビームを支持するロアブラケット(金属製ブラケット)17が取り付けられる。
【0012】
<フロントガーニッシュ>
図3に示すように、フロントガーニッシュ8は、透明なポリカーボネートを素材とするアウタレンズ21と、前面が蒸着メッキされたポリプロピレンを素材とするインナパネル22とからなる中空品であり、図1に示すように、左右のヘッドランプユニット9,10とのとの連続性を有している。インナパネル22の前面中央部にはエンブレム23が取り付けられており、車両前方からはアウタレンズ21を透過してこのエンブレム23を見ることができる。アウタレンズ21とインナパネル22とは嵌め込みによって組み立てられており、その接合部がブチルゴム等のシール材(図3中に黒塗りで示す)24によってシールされている。
【0013】
アッパブラケット16は、外力が加わることによって容易に変形する薄鋼板のプレス成型品であり、タッピングスクリュー31によってインナパネル22の上部後面に締結されている。アッパブラケット16は、略L字断面形状を呈しており、その上面にフロントアッパカバー32がタッピングスクリュー31によって締結されている。また、ロアブラケット17も、外力が加わることによって容易に変形する薄鋼板のプレス成型品であり、タッピングスクリュー31によってインナパネル22の下部に締結されている。ロアブラケット17は、略Z字断面形状を呈しており、その下部にフロントバンパ2が締結されることにより、フロントガーニッシュ8とフロントバンパ2との間の間隙を一定に保持する。なお、フロントガーニッシュ8とフロントバルクヘッド11の間には、コンデンサ33とラジエタ34とが設置されている。
【0014】
<サイドブラケット>
図4,図5に示すように、左側のサイドブラケット14は、樹脂(例えば、ポリプロピレン)を素材とする上下方向に長い射出成型品であり、5本のスクリュー41によってインナパネル22の後面に締結されている。サイドブラケット14の上部には、右側に比較的厚肉のラジエタアッパマウント側係止部42が後方に突設され、中央に比較的薄肉のカバー側係止部43が後方に向けて突設されている。また、サイドブラケット14の左端には、その上部および下部に樹脂製のクリップ44が取り付けられている。サイドブラケット14の左右端には、後方に向けてフランジ45,46がそれぞれ突設されている。なお、右側のサイドブラケット15と左側のサイドブラケット14とは、その形状や取付形態が全く対称となっている。
【0015】
ラジエタアッパマウント側係止部42には、その先端側にボルト孔47が穿設されており、ボルト48によってラジエタアッパマウントブラケット12に締結されている。また、カバー側係止部43の先端側には、その先端側にボルト孔49が穿設されており、タッピングスクリュー31によってフロントアッパカバー32が締結されている。そして、上部および下部のクリップ44には、ヘッドランプユニット9側のステー9a,9bがそれぞれ嵌着されている。
【0016】
本実施形態のサイドブラケット14では、ラジエタアッパマウント側係止部42の基部にノッチ(脆弱部)51が形成されている。また、上部のクリップ44の取付部位およびカバー側係止部43の下方には、3つのノッチ(脆弱部)52〜54と2つの貫通孔(脆弱部)55,56とが形成されている。更に、下部のクリップ44の取付部位の直上では、貫通孔(脆弱部)57が穿設されるとともに、左右のフランジ45,46にそれぞれノッチ(脆弱部)58,59が形成されている。
【0017】
《実施形態の作用》
自動車は、走行時あるいは停車時に他の車両や路上の障害物等と衝突することがある。衝突時において、フロントバンパ2やフロントガーニッシュ8には、衝突対象物や衝突部位等に応じて、方向や大きさの異なる様々な衝突荷重が作用する。
【0018】
図6は、他の車両との軽衝突により、フロントバンパ2がフロントガーニッシュ8に対して後退し、フロントガーニッシュ8がフロントアッパカバー32に対して斜め下方に移動した状態を示している。この場合、アッパブラケット16およびロアブラケット17は、共に薄鋼板を素材としているために衝突荷重により容易に変形し、これにより、フロントガーニッシュ8の破損が防止される。また、図7は、衝突により、フロントガーニッシュ8がヘッドランプユニット9およびフロントアッパカバー32に対して斜め下方に移動した状態を示している。この場合、サイドブラケット14が、上部においてはノッチ51〜54で破断し、下部においてはノッチ58,59で破断し、これにより、フロントガーニッシュ8の破損が防止される。
【0019】
本実施形態では、このような構成を採ったことにより、破損したサイドブラケット14,15や、アッパブラケット16、ロアブラケット17を交換するだけで、フロントガーニッシュ8をそのまま使用することが可能となり、修理時の部品コストを低く抑えることが可能となった。
【0020】
一方、本実施形態では、インナパネル22側にサイドブラケット14,15や、アッパブラケット16、ロアブラケット17が取り付けられているため、従来装置のようなシール材24へのストレスが生じなくなり、フロントガーニッシュ8の中空部への雨水や塵埃の侵入が抑制された。また、サイドブラケット14,15や、アッパブラケット16、ロアブラケット17は、アウタレンズ21やインナパネル22と別部品であるため、それらの設計自由度が高くなり、フロントガーニッシュ8の取付剛性の向上を図ることができた。
【0021】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されることなく幅広く変形実施することができる。例えば、上記実施形態は中空のフロントガーニッシュを備えた自動車に本発明を適用したものであるが、中実のフロントガーニッシュを備えた自動車や、グリルを有するフロントガーニッシュを備えた自動車にも当然に適用できる。また、上記実施形態ではアッパブラケットやロアブラケット17を薄鋼板製としたが、これらを樹脂製としてもよい。更に、サイドブラケットの具体的形状や他部品との締結形態等についても、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】実施形態に係る自動車の斜視図である。
【図2】図1中II部の展開斜視図である。
【図3】フロントガーニッシュ装着部の車両中心における縦断面図である。
【図4】サイドブラケットの取付状態を示す斜視図である。
【図5】サイドブラケットの取付状態を示す縦断面図である。
【図6】実施形態の作用説明図である。
【図7】実施形態の作用説明図である。
【符号の説明】
【0023】
8 フロントガーニッシュ
14,15 サイドブラケット(樹脂製ブラケット)
16 アッパブラケット(金属製ブラケット)
17 ロアブラケット(金属製ブラケット)
21 アウタレンズ
22 インナパネル
24 シール材
42 ラジエタアッパマウント側係止部
43 カバー側係止部
51〜54 ノッチ(脆弱部)
55〜57 貫通孔(脆弱部)
58,59 ノッチ(脆弱部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フロントバンパ上方中央に設置された外装部材と、この外装部材を車体に固定するための樹脂製ブラケットとを備えた自動車の前部車体構造であって、
前記樹脂製ブラケットが、所定の荷重が加わることによって破断する脆弱部を有することを特徴とする自動車の前部車体構造。
【請求項2】
前記外装部材がアウタパネルとインナパネルとをシール部を介して接合してなる中空のフロントガーニッシュであり、
前記樹脂製ブラケットが、前記シール部の内側で前記インナパネルに取り外し可能に固着されることを特徴とする、請求項1に記載の自動車の前部車体構造。
【請求項3】
前記外装部材を他の部材に固定するための金属製ブラケットを更に備え、
前記金属製ブラケットが、所定の荷重が加わることによって容易に変形することを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の自動車の前部車体構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−347372(P2006−347372A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−176333(P2005−176333)
【出願日】平成17年6月16日(2005.6.16)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】