説明

自動車の前部車体構造

【課題】 軽衝突時におけるヘッドライトの破損や歩行者等への衝撃を抑制した自動車の前部車体構造を提供する。
【解決手段】 ヘッドライト9は、その下部中央寄りがビームブラケット16を介してフロントバルクヘッド11に締結されている。ライトベース22には、その下面にビームブラケット側ステー41が形成されている。ビームブラケット側ステー41は、取付面部41aと側壁部41bとからなるL字形状を呈しており、取付面部41aは、側壁部41bだけでなく、補修用ステー取付ボス42によってもライトベース22に連結されている。側壁部41bおよび補修用ステー取付ボス42には、取付面部41aとの間に脆弱部であるノッチ41c,42aがそれぞれ形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の前部車体構造に係り、軽衝突時におけるヘッドライトの破損や歩行者等への衝撃を抑制する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、4輪自動車のフロントバンパは、ボディパネルと同色に塗装して、フロントフェンダやフロントガーニッシュ、ヘッドライト等に滑らかに連続させたものが主流となっている。この種のフロントバンパが装着された自動車では、フロントバンパとヘッドライトとの間で前後方向の段差が少なく、軽衝突時において、ヘッドライトが他の車両や歩行者と直接衝突することがある。ヘッドライトは、光軸のぶれ等を防ぐべく後方の車体骨格部材(フロントバルクヘッド等)に確実かつ強固に締結されているため、衝突時におけるその破損や歩行者等への衝撃を抑制することが難しかった。このような問題を解決する方法として、脆弱部を備えたステーを介してヘッドライトを車体骨格部材に固定し、衝突時に脆弱部を破断させることにより衝突エネルギの吸収を行わせるものが公知となっている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2004−115007号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
乗用車等のボディでは、見栄えの向上や空気抵抗の低減を図るため、フロントバンパとヘッドライトと間のチリ(隙間)をごく小さく設定する傾向がある。そのため、特許文献1のようにヘッドライトを車体骨格部材に固定した場合、製造誤差や組付誤差により上述したチリを一定にすることが難しくなり、見栄えが悪くなる他、走行時の振動によってヘッドライトとフロントバンパとが接触して異音が発生する虞もあった。また、ヘッドライトの直後に車体骨格部材が位置していた場合、衝突時においてヘッドライトがあまり後退できず、ヘッドライトの破損や歩行者等への衝撃を抑制することが難しかった。
【0004】
本発明は、このような背景に鑑みなされたもので、軽衝突時におけるヘッドライトの破損や歩行者等への衝撃を抑制した自動車の前部車体構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1の発明は、フロントバンパの直上に設置されたヘッドライトと、当該ヘッドライトの後方に位置する車体骨格部材とを有する自動車の前部車体構造であって、前記フロントバンパの上部内側に設けられ、車体前後方向に対して傾斜した傾斜部を有するアッパビームブラケットを介して前記車体骨格部材に連結されたバンパアッパビームを備え、前記ヘッドライトは、その上部が脆弱部を有する第1のステーを介して前記車体骨格部材に固定され、その下部が脆弱部を有する第2のステーを介して前記アッパビームブラケットに固定されたことを特徴とする。
【0006】
また、請求項2の発明は、請求項1に記載の自動車の前部車体構造において、前記ヘッドライトが、前記車体骨格部材との間に所定の空隙を形成する凹部をその後面に有することを特徴とする。
【0007】
また、請求項3の発明は、請求項1または請求項2に記載の自動車の前部車体構造において、前記脆弱部が所定の荷重が加わることによって破断し、前記ヘッドライトが補修用ステーの締結に供される補修用ステー取付ボスを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
請求項1の発明によれば、フロントバンパとヘッドライトと間のチリがごく小さく設定されていても、製造誤差や組付誤差に起因するチリの不均一が起こり難くなり、見栄えの向上や異音の防止が実現される。また、請求項2の発明によれば、軽衝突時におけるヘッドライトの損傷が抑制される。また、請求項3の発明によれば、第1のステーや第2のステーの折損時において、ヘッドライトに補修用ステーを取り付けることにより、ヘッドライトの再使用が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、図面を参照して、本発明を適用した自動車の前部車体構造の一実施形態を詳細に説明する。
図1は実施形態に係る自動車の斜視図であり、図2は図1中II部の展開斜視図である。図3はヘッドライトの取付部位を示す側面図であり、図4はヘッドライトの取付部位を示す平面図であり、図5はヘッドライトの取付部位を示す下面図である。図6は図2中のVI−VI断面図であり、図7はヘッドライトの車両内側の取付部位を斜め上方から視た斜視図であり、図8は図7中のVIII部を図7とは異なる角度から視た拡大斜視図である。図9はヘッドライトの車両内側の取付部位を斜め下方から視た斜視図であり、図10はヘッドライトの車両外側の取付部位を斜め後方から視た斜視図である。図11は実施形態の作用説明図である。
【0010】
≪実施形態の構成≫
<全体構成>
図1に示すように、本実施形態は、4ドア乗用車(以下、自動車と記す)に本発明を適用したものである。本実施形態の自動車のボディ1は、鋼板パネル溶接組立によるモノコック構造を採用しており、その前部がフロントバンパ2や左右のフェンダパネル3,4、ボンネット5等により覆われている。フロントバンパ2は、その左右端がホイールアーチ6にまで回り込む形状を呈するとともに、前面下部にエンジンルームに走行風を導入するためのグリル7を備えている。フロントバンパ2の上方には、ボンネット5との間にフロントガーニッシュ8が設置され、フェンダパネル3,4およびボンネット5との間に左右のヘッドライト9,10が設置されている。
【0011】
図2に示すように、ボディ1の前部には車体骨格部材として、フロントバルクヘッド11やホイールハウスメンバ12、バルクヘッドサイドフレーム13等が存在しており、フロントバンパ2や左右のヘッドライト9,10はこれら車体骨格部材に直接あるいは間接的に固定される。また、フロントバルクヘッド11およびホイールハウスメンバ12にはバンパアッパビーム(以下、単にアッパビームと記す)14が固定され、このアッパビーム14によってフロントバンパ2の上端が保持される。図2中に符号15で示す部材は、アッパビーム14の端部をホイールハウスメンバ12に連結するサポートブラケットである。
【0012】
<ヘッドライト>
図3,図4に示すように、ヘッドライト9は、透明樹脂(ポリカーボネイト等)を素材とする射出成形品のレンズ21と、レンズ21の後部に係合/一体化された樹脂射出成形品のライトベース22とを外殻としている。ヘッドライト9には図示しないバルブや光軸調整機構が収納されており、ヘッドライト9の内部に水や塵埃が入り込むことを防ぐべく、レンズ21とライトベース22との嵌合部位はシールされている。
【0013】
〔ヘッドライトの取付状態〕
以下、ヘッドライト9,10の取付状態を説明するが、左右のヘッドライト9,10の形状やその取付形態が対称であるため、本実施形態では左側のヘッドライト9についてのみ説明する。
【0014】
<上部の取付状態>
図4,図7に示すように、ヘッドライト9の上部には、第1のステーとして、バルクヘッド側ステー23とフェンダ側ステー24とが一体に形成されている。バルクヘッド側ステー23は、ライトベース22の上面から立ち上がって斜め内後方に向かうL字形状を呈しており、ボルト25によってバルクヘッドサイドフレーム13の上面に締結されている。また、フェンダ側ステー24は、ライトベース22の上面におけるバルクヘッド側ステー23の若干外側から立ち上がって斜め外後方に向かう略L字形状を呈しており、ボルト26によってフェンダパネル3の内側前端に締結されている。本実施形態の場合、バルクヘッド側ステー23およびフェンダ側ステー24は、どちらもその基端23a,24aが断面の急変する脆弱部となっている。なお、バルクヘッド側ステー23の基部には補修用ステー取付ボス27が形成されている。
【0015】
<内側端の取付状態>
図4,図7に示すように、ヘッドライト9の内側端には、上部ガーニッシュ側ステー31と下部ガーニッシュ側ステー32とが一体に形成されている。上部ガーニッシュ側ステー31は、ライトベース22の内側上端から車両中心側に向けて突設されており、フロントガーニッシュ8に一体化された樹脂クリップ(図示せず)が係合する矩形孔31aを有している。なお、図8に示すように、上部ガーニッシュ側ステー31には、その後面にバルクヘッドサイドフレーム13前面の係止孔に嵌入するピン31bが突設されるとともに、脆弱部として段部31cが形成されている。一方、下部ガーニッシュ側ステー32は、ライトベース22の内側下端から車両中心側に向けて斜め下方に突設されており、図示はしないが上部ガーニッシュ側ステー31と同様の脆弱部を有している。
【0016】
<下部の取付状態>
図5に示すように、ヘッドライト9は、その下部中央寄りがビームブラケット16を介してフロントバルクヘッド11に締結され、その下部外端が前述したサポートブラケット15を介してホイールハウスメンバ12に締結されている。ビームブラケット16は、図5,図9に示すように、アッパビーム14の下面に溶接一体化された薄鋼板のプレス成形品であり、コ字断面形状を呈するとともに、車体前後方向に対して傾斜した傾斜部16aを有している。また、サポートブラケット15は、図5,図10に示すように、略Z字形状を呈する薄鋼板のプレス成形品であり、車体前後方向に対して傾斜した傾斜部15aを有している。
【0017】
図9に示すように、ライトベース22には、その下面にビームブラケット側ステー(第2のステー)41と、2つの補修用ステー取付ボス42,43とが形成されている。ビームブラケット側ステー41は、取付面部41aと側壁部41bとからなるL字形状を呈しており、取付面部41aは、側壁部41bだけでなく、補修用ステー取付ボス42によってもライトベース22に連結されている。側壁部41bおよび補修用ステー取付ボス42には、取付面部41aとの間に脆弱部であるノッチ41c,42aがそれぞれ形成されている。また、取付面部41aには、ボルト44の締結に供されるクリップナット45が装着されるとともに、ビームブラケット16の係止孔に嵌入するピン41dが突設されている。
【0018】
一方、図10に示すように、ライトベース22には、その側端にサポートブラケット側ステー(第2のステー)51と、補修用ステー取付ボス52とが形成されている。サポートブラケット側ステー51は、略鉛直に垂下された矩形を呈しており、アッパビーム14とサポートブラケット15とに挟まれた状態でボルト53によって締結されている。サポートブラケット側ステー51には、脆弱部であるノッチ51aが補修用ステー取付ボス52の直下に形成されるとともに、サポートブラケット15の係止孔に嵌入する一対のピン51bが突設されている。
【0019】
本実施形態の場合、ヘッドライト9の下部がアッパビーム14を支持するビームブラケット16やサポートブラケット15に取り付けられているため、アッパビーム14に上部を保持されるフロントバンパ2との間のチリがごく小さく設定されていても、製造誤差や組付誤差に起因するチリの不均一やヘッドライト9とフロントバンパ2との相対動が生じ難くなる。
【0020】
<ヘッドライトと車体骨格部材との隙間>
図6に示すように、ヘッドライト9の後部にはホイールハウスメンバ12に対応する位置に凹部9aが設けられおり、この凹部9aの前端とホイールハウスメンバ12の先端との間に前後方向で所定の空隙Lが形成されている。また、ヘッドライト9の内側面9bとフロントバルクヘッド11との間にも、前後方向で同様の空隙Lが形成されている。
【0021】
≪実施形態の作用≫
自動車が走行時に他の車両や歩行者と衝突すると、ヘッドライト9やフロントバンパ2には、衝突対象物や衝突部位等に応じて方向や大きさの異なる衝突荷重が作用する。例えば、図11に示す例では、ヘッドライト9は略水平に後退し、ビームブラケット16およびサポートブラケット15が変形することによってフロントバンパ2が斜め下方に後退する。この場合、本実施形態では、バルクヘッド側ステー23およびフェンダ側ステー24がそれぞれの基端23a,24aで破断し、ビームブラケット側ステー41およびサポートブラケット側ステー51がノッチ41c,42a,51aで破断する。また、ヘッドライト9とフロントガーニッシュ8とが相対動した場合には、上部ガーニッシュ側ステー31および下部ガーニッシュ側ステー32も段部31c等で破断する。
【0022】
これにより、ヘッドライト9は、車体骨格部材であるフロントバルクヘッド11やホイールハウスメンバ12、バルクヘッドサイドフレーム13をはじめ、アッパビーム14やフロントガーニッシュ8等から離脱し、衝突エネルギに応じて後退する。そして、フロントバルクヘッド11やホイールハウスメンバ12との間に空隙Lが存在するため、軽衝突時においてはヘッドライト9が殆ど抵抗無く後退し、ヘッドライト9の破損や歩行者等への衝撃が有意に抑制されるようになった。なお、本実施形態では、ヘッドライト9の各部に補修用ステー取付ボス27,42,43,52が形成されているため、各ステー23,24,31,32,41,52の代わりに補修用ステー(図示せず)を装着することにより、ヘッドライト9を再使用することができる。
【0023】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されることなく幅広く変形実施することができる。例えば、上記実施形態では、ライトベースとステーとを一体に形成するようにしたが、スクリュー等によってライトベースにステーを締結するようにしてもよい。また、ヘッドライトやアッパビームをはじめ、車体骨格部材等の具体的形状等についても、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】実施形態に係る自動車の斜視図である。
【図2】図1中II部の展開斜視図である。
【図3】ヘッドライトの取付部位を示す側面図である。
【図4】ヘッドライトの取付部位を示す平面図である。
【図5】ヘッドライトの取付部位を示す下面図である。
【図6】図2中のVI−VI断面図である。
【図7】ヘッドライトの車両内側の取付部位を斜め上方から視た斜視図である。
【図8】図7中のVIII部を図7とは異なる角度から視た拡大斜視図である。
【図9】ヘッドライトの車両内側の取付部位を斜め下方から視た斜視図である。
【図10】ヘッドライトの車両外側の取付部位を斜め後方から視た斜視図である。
【図11】実施形態の作用説明図である。
【符号の説明】
【0025】
2 フロントバンパ
9 ヘッドライト
9a 凹部
11 フロントバルクヘッド(車体骨格部材)
12 ホイールハウスメンバ(車体骨格部材)
13 バルクヘッドサイドフレーム(車体骨格部材)
14 バンパアッパビーム
15 サポートブラケット(ブラケット)
15a 傾斜部
16 ビームブラケット(ブラケット)
16a 傾斜部
23 バルクヘッド側ステー(第1のステー)
23a 基端(脆弱部)
24 フェンダ側ステー(第1のステー)
24a 基端(脆弱部)
27 補修用ステー取付ボス
31 上部ガーニッシュ側ステー
31c 段部(脆弱部)
32 下部ガーニッシュ側ステー
41 ビームブラケット側ステー(第2のステー)
41c ノッチ(脆弱部)
42 補修用ステー取付ボス
43 補修用ステー取付ボス
51 サポートブラケット側ステー(第2のステー)
51a ノッチ(脆弱部)
52 補修用ステー取付ボス
L 空隙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フロントバンパの直上に設置されたヘッドライトと、当該ヘッドライトの後方に位置する車体骨格部材とを有する自動車の前部車体構造であって、
前記フロントバンパの上部内側に設けられ、車体前後方向に対して傾斜した傾斜部を有するアッパビームブラケットを介して前記車体骨格部材に連結されたバンパアッパビームを備え、
前記ヘッドライトは、その上部が脆弱部を有する第1のステーを介して前記車体骨格部材に固定され、その下部が脆弱部を有する第2のステーを介して前記アッパビームブラケットに固定されたことを特徴とする自動車の前部車体構造。
【請求項2】
前記ヘッドライトが、前記車体骨格部材との間に所定の空隙を形成する凹部をその後面に有することを特徴とする、請求項1に記載の自動車の前部車体構造。
【請求項3】
前記脆弱部が所定の荷重が加わることによって破断し、
前記ヘッドライトが補修用ステーの締結に供される補修用ステー取付ボスを備えたことを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の自動車の前部車体構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−90916(P2007−90916A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−279029(P2005−279029)
【出願日】平成17年9月27日(2005.9.27)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】