説明

自動車の前部車体構造

【課題】自車よりも車高が大きな車両とフルラップ衝突した際に、相手車両が簡単に自車に乗り上げてこないように改良された自動車の前部車体構造を提供する。
【解決手段】車体の前後方向に延在する左右のフロントサイドフレーム2と、フロントサイドフレームの後端部の側方に立設した左右のフロントピラー5と、フロントピラーにその後端を結合して前下がりに延在する左右のアッパメンバ3とを有し、アッパメンバの前端をフロントサイドフレームの前端近傍の左右外側に結合してなる自動車の前部車体構造において、アッパメンバの前後方向中間部同士を繋ぐ横方向連結メンバ13と、フロントサイドフレームの前端部近傍の内側に結合された垂直部14aおよび該垂直部の上端から後方へ折り曲げられてその後端を横方向連結メンバに結合された水平部14bからなるラジエータサポートサイドメンバ14とを有するものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の前部車体構造に関し、特に、自車より車高の大きな車両と前面衝突した際の衝撃吸収性のより一層の向上を達成し得る自動車の前部車体構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フロントサイドフレームを車体の前後方向に概ね水平に延設し、このフロントサイドフレームの後端部の側方にフロントピラーを設け、このフロントピラーから前方へ斜め下向きにアッパメンバを延出すると共に、このアッパメンバの前端をフロントサイドフレームの前端近傍の外側に結合させた自動車の前部車体構造を、本発明の出願人は提案している(特許文献1を参照されたい)。
【0003】
これによると、衝突時にフロントサイドフレームの前端に加わった衝撃荷重が、アッパメンバを経てフロントピラーへと分散して伝達されて吸収されるため、車室の変形を抑えることに有効である。
【特許文献1】特開2005−112173号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかるに、この先行技術によると、自動車同士のオフセット衝突(車幅方向の片側同士が対向する)においては、フロントサイドフレームの前端部の外側に結合したアッパメンバが効果的に衝撃荷重を吸収し得るが、自車よりも車高の大きな車両とのフルラップ衝突(前面同士が全て対向する)においては、アッパメンバが前下がりに傾斜しているため、相手車両が自車に乗り上げてくる(相手車両の下側に自車が潜り込む)現象を生じ、その乗り上げ量(潜り込み量)が過大になると、相手車両のバンパビームなどが自車の車室内に侵入してくるおそれがある。
【0005】
この特許文献1に記載の車体構造においては、アッパメンバの前後方向中間位置に前方に向けて凸となるアーチ状のバルクヘッドアッパフレームを結合して前面からの衝突荷重を受け止めるようにしているが、これは主に曲げ変形で衝突荷重を吸収する構造体であるため、車高の大きな車両のバンパビームから直接的に加わる衝撃荷重を受け止めて相手車両の乗り上げ現象を抑止することを期待できるものではない。
【0006】
バルクヘッドアッパフレームの断面積を大きくして吸収荷重を高めることも考えられるが、このようにすると、バルクヘッドアッパフレームがヘッドライトの収納空間に干渉するので、ヘッドライトを小さくしなければならなくなるなど、ヘッドライトデザインの自由度が阻害される。
【0007】
本発明はこのような先行技術の不都合を解消すべく案出されたものであり、その主な目的は、自車よりも車高が大きな車両とフルラップ衝突した際に、相手車両が簡単に自車に乗り上げてこないように改良された自動車の前部車体構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような課題を解決するために本発明は、車体の前後方向に延在する左右一対のフロントサイドフレーム2と、該フロントサイドフレームの後端部の側方に立設した左右一対のフロントピラー5と、該フロントピラーにその後端を結合して前下がりに延在する左右一対のアッパメンバ3とを有し、該アッパメンバの前端をフロントサイドフレームの前端近傍の左右外側に結合してなる自動車の前部車体構造において、左右のアッパメンバの前後方向中間部同士を繋いで左右方向に延在する横方向連結メンバ13と、フロントサイドフレームの前端部近傍の内側に結合されて略垂直に延在する垂直部14aおよび該垂直部の上端から後方へ折り曲げられて略水平に延在し且つその後端を横方向連結メンバに結合された水平部14bからなるラジエータサポートサイドメンバ14とを有することを特徴とする自動車の前部車体構造を提供することとした。
【発明の効果】
【0009】
このような本発明によれば、衝突時に相手車両のバンパビームをラジエータサポートサイドメンバの垂直部が受け止め、その荷重をラジエータサポートサイドメンバの水平部から横方向連結メンバ、アッパメンバ、及びフロントピラーへと伝達しつつ荷重を分散して吸収し、相手車両の自車への乗り上げを抑制する。この際、ラジエータサポートサイドメンバの水平部の座屈変形により衝突エネルギを吸収する。また、この構成によれば、ヘッドライトの上方には骨格部材を置かないので、ヘッドライトのデザイン上の制約がなくなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に添付の図面を参照して本発明について詳細に説明する。なお、以下の説明中の前後左右は、運転席から見ての方向である。また本実施形態に係る車体構造は左右対称形をなしているので、以下、左右の部材については格別のことがない限り左右の区別をせずに説明する。
【0011】
図1〜3に示すように、この前部車体構造は、ホイールハウス1の内側にて前後方向に略水平に延設された左右一対のフロントサイドフレーム2と、ホイールハウス1の上方で且つ両フロントサイドフレーム2の外側にて前後方向に延設された左右一対のアッパメンバ3とにより、エンジンルームの主骨格を形成している。
【0012】
フロントサイドフレーム2の後端は、フロントダッシュボード4の前面に結合され、アッパメンバ3の後端は、フロントドアピラー5に結合されている。また、アッパメンバ3のフロントドアピラー5との結合部の外側壁には、剛性の増強を企図すべく前後方向のビード部6が膨出形成されている。
【0013】
両アッパメンバ3の後端部から、後傾するフロントウィンドウピラー7が延出されている。そして両アッパメンバ3は、両フロントウィンドウピラー7の下端部から前方に且つ斜め下向きに延出されると共に、その前端を、各フロントサイドフレーム2の前端部近傍の外側に連結部材8を介して結合されている。
【0014】
両フロントサイドフレーム2の前端部近傍の内側同士間には、左右方向に延在するフロントバンパビーム9が架設されている。つまり左右のアッパメンバ3の前端部は、フロントバンパビーム9を介して互いに連結されている。
【0015】
フロントバンパービーム9の中央には、前方へ伸ばされたセンタエクステンション部材10が固設され、両フロントサイドフレーム2の前端には、前方へ伸ばされたサイドエクステンション部材11が固設されている。これらセンタエクステンション部材10および両サイドエクステンション部材11の各前面にフロントバンパスキン12が結合される。
【0016】
両アッパメンバ3は、側方から見ると(図2)、前半部を僅かに下向きに湾曲させ、後半部を僅かに上向きに湾曲させ、フロントドアピラー5との結合部からフロントサイドフレーム2との結合部へ向けて斜め下向きに略一直線に延在している。このようにすることにより、フロントバンパビーム9に衝突時に加わった荷重F1は、水平方向に延在するフロントサイドフレーム2と後上がりに傾斜したアッパメンバ3とに分散されてフロントダッシュボード4及びフロントドアピラー5に伝わる際に、フロントサイドフレーム2及びアッパメンバ3の座屈変形で吸収される。これにより、変形が車室にまで及ぶことが抑制される。
【0017】
なお、アッパメンバ3の前半部を僅かに下向きに湾曲させた理由は、ここにヘッドライト(図示せず)などを収容するための空間を確保するためである。また、アッパメンバ3の後半部を僅かに上向きに湾曲させた理由は、ここに前輪懸架装置(図示せず)を収容するための空間を確保するためである。
【0018】
左右のアッパメンバ3の前後方向中間部同士には、左右方向に延在する横方向連結メンバ13が架設されている。これにより、左右両アッパメンバ3の前後方向中間部が互いに連結されている。
【0019】
フロントサイドフレーム2の前端部近傍のフロントバンパビーム9の結合部と、横方向連結メンバ13との間に、逆L字形に折り曲げ形成された左右一対のラジエータサポートサイドメンバ14が設けられている。このラジエータサポートサイドメンバ14は、フロントサイドフレーム2の内面であり且つフロントバンパビーム9の後面から垂直に立ち上げられた垂直部14aと、垂直部14aの上端から後方へ折り曲げて水平に延在させ且つその後端を横方向連結メンバ13の前面に結合させた水平部14bとからなっている。
【0020】
これらの左右両ラジエータサポートサイドメンバ14の垂直部14aの下端はフロントバンパビーム9の下方へ延出され、その下端はラジエータサポートロアメンバ15で互いに連結されている。また左右両ラジエータサポートサイドメンバ14の垂直部14aと屈曲部14cとの境界部分は、ラジエータサポートアッパメンバ16で互いに連結されている。
【0021】
このように構成された本発明による自動車の前部車体構造によると、自車よりも車高が大きくフロントバンパビームの位置が高い車両とフルラップ衝突した場合、ラジエータサポートサイドメンバ14の屈曲部14cから下の垂直部14aで相手車両のバンパビームを受け止めることができる。この時に自車に加わる後向きの力F2は、ラジエータサポートサイドメンバ14の水平部14cの座屈変形で吸収されると共に、横方向連結メンバ13からアッパメンバ3の後半部を経てフロントドアピラー5に伝達される。この力は、主にアッパメンバ3の後半部の座屈変形にて吸収される。
【0022】
ラジエータサポートサイドメンバ14が大きく変形しても衝突荷重を吸収しきれずに相手車両が乗り上げてきた場合に備え、相手車両のラジエータサポートや懸架装置のサブフレームなどが横方向連結メンバ13に引っ掛かることを企図している。これにより、最悪の場合でも、相手車両が車室に侵入することを防止している。
【0023】
左右両ラジエータサポートサイドメンバ14の垂直部14aは、フロントバンパビーム9の下方へ延出しており、これにより、自車よりも低い車両と前面衝突した際に、相手車両に乗り上げることの防止を図っている。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係る自動車の前部車体構造を示す斜視図である。
【図2】本発明に係る自動車の前部車体構造を示す側面図である。
【図3】本発明に係る自動車の前部車体構造を示す平面図である。
【符号の説明】
【0025】
2 フロントサイドフレーム
3 アッパメンバ
5 フロントドアピラー
13 横方向連結メンバ
14 ラジエータサポートサイドメンバ
14a 垂直部
14b 水平部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体の前後方向に延在する左右一対のフロントサイドフレームと、該フロントサイドフレームの後端部の側方に立設した左右一対のフロントピラーと、該フロントピラーにその後端を接続して前下がりに延在する左右一対のアッパメンバとを有し、該アッパメンバの前端を前記フロントサイドフレームの前端近傍の左右外側に結合してなる自動車の前部車体構造において、
前記左右のアッパメンバの前後方向中間部同士を繋いで左右方向に延在する横方向連結メンバと、
前記フロントサイドフレームの前端部近傍の内側に結合されて略垂直に延在する垂直部および該垂直部の上端から後方へ折り曲げられて略水平に延在し且つその後端を前記横方向連結メンバに結合された水平部からなるラジエータサポートサイドメンバとを有することを特徴とする自動車の前部車体構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−201392(P2008−201392A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−43062(P2007−43062)
【出願日】平成19年2月23日(2007.2.23)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】