説明

自動車の前部車体構造

【課題】フードの前部を高所に位置させるようにした意匠の派生車を製造する場合に、大幅な車体変更を回避できる自動車の前部車体構造を提供する。
【解決手段】フード7の前部は、アッパ部材11の上面より高所に位置するよう配置され、左,右のサイド部材9,9には、前記フード7の前部に対向するよう延びる嵩上げ部材20,20が結合され、該左,右の嵩上げ部材20は、上下方向に延びる嵩上げ本体21と、該嵩上げ本体21の上端部21aに結合され、略平坦な上壁22a面が形成されたフード支持部22とを有し、該フード支持部22の上壁22a面には、フードストッパ取付け座面22fが、車両前方からみたとき前記フード支持部22と嵩上げ本体21との結合部を通る上下方向の直線aと重なるように形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、左,右のサイド部材と、該左,右のサイド部材の上端部間に架け渡して結合された車幅方向に延びるアッパ部材と、該アッパ部材及び左,右のサイド部材の上方を覆うように配置されたフードとを備えた自動車の前部車体構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車メーカーにおいては、需要の喚起を図るために、ユーザの好みに対応した意匠の異なる各種の自動車を開発している。この場合、各車種ごとに車体を設計するとなると、強度,振動及び騒音等に対する品質を確保するための検討工数がその都度発生し、生産コストが上昇するという問題が生じる。
【0003】
このようなコストの上昇を抑制するために、既存の車体をそのまま利用して異なる意匠の派生車を製造することが行われている。例えば、特許文献1には、フードの前部を低い位置に保持した状態で、ヘッドライトのみを高所に配置するために、ラジエータサポートのアッパ部材の左,右端部を上方に立ち上げるように折り曲げ形成し、該左,右端部の下方にヘッドライトを配置した構造が提案されている。
【特許文献1】特開平6−211162号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、前記従来構造は、フードの前部を低い位置に保持した状態でヘッドライトのみを高所に配置するための構造である。このため、例えば、フードの前部を高所に位置させる意匠とした派生車を製造する場合には、ラジエータサポートのアッパ部材,左,右のサイド部材全体を大幅に変更する必要があり、コストが上昇するという問題がある。
【0005】
本発明は、前記従来の状況に鑑みてなされたもので、フードの前部を高所に位置させる意匠とした派生車を製造する場合に、大幅な車体変更を回避できる自動車の前部車体構造を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、車両上下方向に延びる左,右一対のサイド部材と、該左,右のサイド材の上端部間に架け渡して結合された車幅方向に延びるアッパ部材と、該アッパ部材及び左,右のサイド部材の上方を覆うように配置されたフードとを備えた自動車の前部車体構造であって、前記フードの前部は、前記アッパ部材の上面より高所に位置するよう配置され、前記左,右のサイド部材には、前記フードの前部に対向するよう延びる嵩上げ部材が結合され、該左,右の嵩上げ部材は、上下方向に延びる嵩上げ本体と、該嵩上げ本体の上端部に結合され、略平坦な上壁面が形成されたフード支持部とを有し、該フード支持部の上壁面には、フードストッパ取付け座面またはフードストッパ当接座面が、車両前方から見たとき前記フード支持部と嵩上げ本体との結合部を通る上下方向の直線と重なるように形成されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0007】
本発明にかかる前部車体構造によれば、左,右のサイド部材にフードに向かって延びる嵩上げ部材を結合し、該嵩上げ部材の上壁面にフードストッパ取付け座面を形成したので、既存の左,右サイド部材に嵩上げ部材を追加するだけで、フードの前部を高所に位置させるようにした意匠の派生車を製造でき、前部車体全体を変更する場合に比べてコストの上昇を抑制できる。
【0008】
本発明では、嵩上げ部材を、嵩上げ本体と該嵩上げ本体の上端部に結合された前記フード支持部とを有するものとし、前記フードストッパ取付け座面を、車両前方からみたとき嵩上げ本体とフード支持部との結合部を通る直線と重なるように形成したので、フードを閉める際に作用する衝撃荷重を、左,右の嵩上げ部材からサイド部材を介して前部車体全体で負担することができ、嵩上げ部材を追加したことによる強度低下を回避できる。
【0009】
また本発明では、左,右のサイド部材にフードに向かって上方に延びる嵩上げ部材を接続したので、フードとアッパ部材との間には空間が形成されることとなる。これによりフードに上方から被衝突物が衝突した場合の衝撃力を、該フードが下方に変形することにより吸収することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0011】
図1ないし図6は、本発明の一実施形態による自動車の前部車体構造を説明するための図であり、図1は自動車の前部車体を構成するラジエータサポートの斜視図、図2はラジエータサポートに配置された嵩上げ部材の斜視図、図3は嵩上げ部材の分解斜視図、図4は嵩上げ部材の断面図(図1のIV-IV線断面図)、図5はラジエータサポートに配置されたフードロックブラケットの断面図(図1のV-V線断面図)、図6は派生車の基本車両となる自動車の側面図である。なお、本実施形態の説明の中で前後,左右という場合は、特記なき限り、車両前方から見た場合の前後,左右を意味する。
【0012】
図において、1は自動車の前部車体を示している。該前部車体1は、車両前端部に配置されたラジエータサポート3と、該ラジエータサポート3の後方に配置された左,右のフロントピラー4,4と、前記ラジエータサポート3とフロントピラー4との間の車幅方向外側を覆うように配置された左,右のフロントフェンダ5,5とを備えている。
【0013】
また前記前部車体1は、前記左,右のフロントピラー4から車両前方に延びるエプロンメンバ(不図示)と、該左,右のエプロンメンバの内側に配置されたサスペンションタワー(不図示)とを備えている。
【0014】
さらにまた前部車体1は、前記ラジエータサポート3、左,右のフロントピラー4及び左,右のフロントフェンダ5で囲まれたエンジン室6の上端開口を覆うように配置されたフード7を備えている。
【0015】
前記前部車体1の下部には、車両前後方向に延びる左,右のサイドメンバ2,2が配設されており、該左,右のサイドメンバ2に前記ラジエータサポート3,左,右のフロントピラー4及びサスペンションタワーの下端部が結合されている。また左,右のサイドメンバ2の前端面2aには、車幅方向に延びるバンパリインホース8がボルト締め固定されている。
【0016】
前記ラジエータサポート3は、車両上下方向に延びる左,右のサイド部材9,9と、該左,右のサイド部材9の下端部間に架け渡して結合された車幅方向に延びるロア部材10と、前記左,右のサイド部材9の上端部間に架け渡して結合された車幅方向に延びるアッパ部材11とを略矩形状をなすよう組み付けた構造を有する。
【0017】
前記ロア部材10は、下向きに開口する断面コ字形状のものである。該ロア部材10の左,右端部10a.10aには、左,右のサイド部材9の下端部9a,9aが溶接により結合されている。
【0018】
前記左,右のサイド部材9は、車幅方向外側に開口する断面コ字形状のものであり、上下方向中間部が前記左,右のサイドメンバ2の前端部内側壁に溶接により結合されている。
【0019】
前記アッパ部材11は、下向きに開口する断面コ字形状のものである。該アッパ部材11の左,右端部11a,11aは、前記左,右のサイド部材9の上端部9bを上方から覆うように配置され、それぞれ一対のボルト12,12により着脱可能に該サイド部材9に締結固定されている。不図示のラジエータを組み付けるには、アッパ部材11を前斜め上方に外した状態で組み付け、この後、アッパ部材11をボルト12により取り付ける。
【0020】
前記フード7は、アウタパネル7aとインナパネル7bとを中空状をなすよう外周縁部7c同士を結合した概略構造を有する。該フード7は、後縁部に取り付けられた左,右のヒンジ部材(不図示)を介して前部車体1に回動可能に支持され、前縁部の車幅方向中央部に取り付けられたストライカ7dが前部車体1にロック可能となっている。
【0021】
前記フード7の前部は、前記アッパ部材11の上面より高所に位置するよう配置されている。即ち、本実施形態の自動車は、前述の前部車体1をそのまま利用して意匠の異なる派生車を製造したものであり、具体的には、図6に示すように、本実施形態のフード7は、これの前縁7fが既存の前部車体1のフード7′の前縁7f′よりhだけ高所に位置するよう配置されている。
【0022】
前記アッパ部材11の車幅方向中央部には、該アッパ部材11からフード7の下面に対向するよう延びるフードロックブラケット15が溶接により結合されている。該フードロックブラケット15には、ロック部材16がボルト締め固定されており、該ロック部材16に前記フード7のストライカ7dが係脱可能に係合している。
【0023】
前記フードロックブラケット15は、該ブラケット15とバンパリインホース8とに架け渡してボルト締め結合されたサポート部材17により支持されている。これによりフード7を閉める際に作用する衝撃荷重に対する強度を高めている。
【0024】
前記ラジエータサポート3の前方のフード7とバンパリインホース8との間には、ラジエータグリル18が配置されている。また前記左,右のサイド部材9の車幅方向外側には、ヘッドライト19,19が配置されている。
【0025】
前記左,右のサイド部材9には、該サイド部材9から前記フード7の下面に対向するよう延びる嵩上げ部材20,20が結合されている。左,右の嵩上げ部材20により、フード7の前部とアッパ部材11との間には空間Aが形成されている(図1参照)。
【0026】
該左,右の嵩上げ部材20は、上下方向に延びる嵩上げ本体21と、該嵩上げ本体21の上端部21aに結合されたフード支持部22とを有する。
【0027】
前記左,右の嵩上げ本体21は、上下方向に延びる帯板部21dの前,後縁に幅方向外側に突出する前,後フランジ部21e,21eを屈曲形成した断面略コ字形状の板金製のものである。
【0028】
該左,右の嵩上げ本体21の下半部21bは、サイド部材9の車幅方向外壁面9cに溶接により結合されている。また上半部21cは、下半部21bの上縁に続いて車両後側に偏位するよう後上方に傾斜して延びている。
【0029】
前記フード支持部22は、略平坦面をなす上壁22aと、該上壁22aの前,後縁から下方に延びる前壁22b,後壁22cとを有する下向きに開口する断面略コ字形状の板金製のものである。
【0030】
前記フード支持部22は、嵩上げ本体21の上端面を上方から覆うように配置され、前壁22b及び後壁22cが上,下一対のスポット溶接により前,後フランジ部21eに結合されている(図2の×印参照)。この前壁22b,後壁22cの各スポット打点は、前後方向に略一致するよう重なっている。
【0031】
前記フード支持部22には、上壁22a,前壁22b及び後壁22cに続いて車幅方向内側に突出する延長部22′が形成されている。該延長部22′の上壁22aには、ラジエータグリル取付け孔22dが形成され、前記延長部22′の前壁22bには、ヘッドライト取付け孔22eが形成されている。
【0032】
該ヘッドライト取付け孔22eには、前記ヘッドライト19の内側上端部に形成された取付け部19aが前方からボルト閉め固定されている(図1参照)。これにより左,右のヘッドライト19は、フード7の高さh位置に応じた高さに配置されている。
【0033】
前記フード支持部22の上壁22aには、フードストッパ取付け座面22fが上方に凸状をなすよう形成されている。該取付け座面22fには、ゴム製のストッパ部材24が上下方向突出量を調整可能に螺着されている。該左,右のストッハ部材24の突出量を調整することにより、フード7と左,右のフロントフェンダ5との合わせ面の調整が可能となっている。
【0034】
前記フード7のインナパネル7bには、該フード7を閉じたときに前記ストッパ部材24に当接する当接座7eが形成されている。該ストッパ部材24により、フード7を閉じた時の衝撃が緩和される。
【0035】
なお、上記ゴム製のストッパ部材24をフード7側に突出量調整可能に取り付け、フード支持部22の上壁22aにフードストッパ部材24が当接するフードストッパ当接面を形成しても良い。
前記フードストッパ取付け座面22fは、車両前方から見たとき、前記嵩上げ本体21とフード支持部22との上,下溶接結合部を通る上下方向の直線aと重なるように配置されている(図1,図2参照)。また前記ラジエータグリル取付け孔22d及びヘッドライト取付け孔22eは、直線aの内側近傍に配置されている。
【0036】
本実施形態によれば、ラジエータサポート3の左,右のサイド部材9,9にフード7に対向するよう延びる嵩上げ部材20を結合し、該嵩上げ部材20にフードストッパ取付け座面22fを形成したので、既存の左,右のサイド部材9に嵩上げ部材20を追加するだけで、フード7の前部をhだけ高所に位置させるようにした意匠の派生車を製造でき、前部車体全体を変更する場合に比べてコストの上昇を抑制できる。
【0037】
本実施形態では、左,右の嵩上げ部材20を、上下方向に延びる嵩上げ本体21と該嵩上げ本体21の上端部21aに結合された平坦面をなす上壁22aを有するフード支持部22とを有するものとし、該上壁22aの前記フードストッパ取付け座面22fを、嵩上げ本体21とフード支持部22とのスポット溶接結合部を通る直線aと重なるように配置したので、フード7を閉める際に作用する衝撃荷重を、左,右の嵩上げ部材20からサイド部材9を介してラジエータサポート3全体で負担することができ、嵩上げ部材20を追加したことによる強度低下を回避できる。
【0038】
本実施形態では、前記左,右のサイド部材9にフード7に向かって上方に延びる嵩上げ部材20を接続したので、フード7とアッパ部材11との間には空間Aが形成されることとなる。これによりフード7に上方から被衝突物が衝突した場合の衝撃力を、該フード7が下方に変形することにより吸収することができ、被衝突物への衝撃力を抑制できる。
【0039】
また、前記左,右の嵩上げ部材20を、左,右のサイド部材9の外壁面9cに結合したので、ラジエータの組み付け作業時に、嵩上げ部材20に干渉することなくアッパ部材11を着脱することができる。
【0040】
なお、前記実施形態では、フード支持部22に、延長部22′を車幅方向内側に突出形成し、該延長部22′にラジエータグリル取付け孔22d及びヘッドライト取付け孔22eを形成したが、本発明は、延長部を車幅方向外側に突出形成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の一実施形態による自動車の前部車体を構成するラジエータサポートの斜視図である。
【図2】前記ラジエータサポートに配設された嵩上げ部材の斜視図である。
【図3】前記嵩上げ部材の分解斜視図である。
【図4】前記嵩上げ部材の断面図(図1のIV-IV線断面図)である。
【図5】前記ラジエータサポートに配設されたフードロックブラケットの断面図(図1のV-V線断面図)である。
【図6】前記自動車の側面図である。
【符号の説明】
【0042】
1 ラジエータサポート(前部車体)
7 フード
9 サイド部材
11 アッパ部材
20 嵩上げ部材
21 嵩上げ本体
21a 上端部
22 フード支持部
22a 上壁
22f フードストッパ取付け座面
a 直線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両上下方向に延びる左,右のサイド部材と、該左,右のサイド材の上端部間に架け渡して結合された車幅方向に延びるアッパ部材と、該アッパ部材及び左,右のサイド部材の上方を覆うように配置されたフードとを備えた自動車の前部車体構造であって、
前記フードの前部は、前記アッパ部材の上面より高所に位置するよう配置され、
前記左,右のサイド部材には、前記フードの前部に対向するよう延びる嵩上げ部材が結合され、
該左,右の嵩上げ部材は、上下方向に延びる嵩上げ本体と、該嵩上げ本体の上端部に結合され、略平坦な上壁面が形成されたフード支持部とを有し、
該フード支持部の上壁面には、フードストッパ取付け座面またはフードストッパ当接座面が、車両前方から見たとき前記フード支持部と嵩上げ本体との結合部を通る上下方向の直線と重なるように形成されていることを特徴とする自動車の前部車体構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−234335(P2009−234335A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−80700(P2008−80700)
【出願日】平成20年3月26日(2008.3.26)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】