説明

自動車の前部車体構造

【課題】走行中でのシュラウドの振動を利用してステアリングハンドルを振動させるようにしつつ、シュラウドの保持剛性が大きくなりすぎるのを防止する。
【解決手段】ステアリングホイール4を支持するフロントピラー1から前輪8の上方を超えて前方へ伸びる骨格部材20を有すると共に、車室前方にシュラウド40が配設される。シュラウド40は、前輪8よりも前方に位置される。骨格部材20とシュラウド40の一部を構成するシュラウドアッパ42とが、連結機構50,51、52(60,61)によって連結される。連結機構50,51、52(60,61)は、シュラウド40の骨格部材20に対する上下方向の相対変位を許容しつつ、シュラウド40の上下方向振動を骨格部材20に伝達する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の前部車体構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車においては、車室前部のフロントピラーから前輪の上方を超えて前方へ伸びる骨格部材を有すると共に、車室前部から前輪の車幅方向内方側を通って前方へ伸びるフロントサイドフレームを有する構造が採択されることが多い。また、この骨格部材とフロントサイドフレームとは、前輪を収納するホイールハウジングによって連結されることも一般的に行われている。そして、左右のフロントピラー(フロントピラーの下端部を構成するヒンジピラーと呼称されることもある部分)間には、剛性に優れたステアリング支持部材が架設されて、このステアリング支持部材にステアリングホイールが支持されている。つまり、ステアリングホイールは、ステアリング支持部材を介してフロントピラーに支持されることになり、このため、フロントピラーに連なる骨格部材からの振動を受けやすい構造となる。そして、フロントサイドフレームにサブフレーム等を介して取付けられるエンジンの振動、特にアイドル振動が、ホイールハウジング、骨格部材を経て、ステアリングホイールへ伝達され易いものとなる。
【0003】
一方、前輪よりもさらに前方には、シュラウドが配設されるのが一般的であり、このシュラウドにラジエタやその冷却ファンが保持されることになる。特許文献1には、シュラウドを、左右一対のフロントサイドフレームの前端部と左右一対の骨格部材の前端部とに剛体的に連結して、シュラウドの保持合成を高めた構造が提案されている。また、特許文献2には、ラジエタの冷却ファンが発生する振動をダンパを利用して低減することが開示されている。
【特許文献1】特開2005−047324号公報
【特許文献2】特開2003−291638号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ステアリングホイールには、特に高速走行時での安定性確保等の観点から、ニュートラル位置においてある程度の遊びつまり不感帯を有するように設定することが一般的である。しかしながら、ベテランドライバー等の運転者にとっては、不感帯の設定がダイレクト感(リジット感と称することもある)を阻害していると感じることが多々あり、この点の対策が望まれることになる。
【0005】
不感帯を設定しても、走行中にハンドルが低周波で微妙に振動していると、ハンドルと前輪(操舵輪)とが一体になっているという感覚が強まって、ダイレクト感を満足させるということが知られている。特に、走行中に生じる路面からの振動がハンドルに伝達されることは、ダイレクト感を高めることになる。
【0006】
ダイレクト感を得るためにハンドルを低周波で振動させるには、種々の手法が考えられるが、電動式で振動させることはコストアップになり、またダイナミックダンパによって低周波域で共振させることは、アイドル時のエンジン振動が不必要に増大されて好ましくないものとなる。
【0007】
シュラウドは、重量物となるため、走行中に車体との間で相対的な上下方向の振動を生じやすいものとなる。したがって、特許文献1に記載のようにシュラウドと骨格部材とを強固に結合することによって、走行中に生じるシュラウドの振動を骨格部材を介してステアリングハンドルに伝達することができる。しかしながら、シュラウドを骨格部材に強固に結合した場合は、前方衝突時におけるシュラウドや衝突物体への損傷抑制の上では好ましくないものとなる。また、特許文献2に記載のものでは、振動抑制のダンパによって、走行中に生じるシュラウドそのものの振動を低減してしまって、ステアリングハンドルに走行中の振動を与えることが事実上不可能となる。
【0008】
本発明は以上のような事情を勘案してなされたもので、その目的は、走行中でのシュラウドの振動を利用してステアリングハンドルを振動させるようにしつつ、シュラウドの保持剛性が不必要に大きくなりすぎてしまうことを防止できるようにした自動車の前部車体構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するため、本発明にあっては次のような解決手法を採択してある。すなわち、特許請求の範囲における請求項1に記載のように、
車室前方の左右に配設された前輪を操舵するステアリングホイールが車室の左右前部に位置されるフロントピラーに支持され、前記フロントピラーから前記前輪の上方を超えて前方へ伸びる骨格部材を有すると共に、車室前方にシュラウドが配設された自動車の前部車体構造において、
前記シュラウドは、前記前輪よりも前方に位置され、
前記骨格部材と前記シュラウドの一部を構成するシュラウドアッパとが、連結機構によって連結され、
前記連結機構は、前記シュラウドの前記骨格部材に対する上下方向の相対変位を許容しつつ、前記シュラウドの上下方向振動を前記骨格部材に伝達するように設定されている、
ようにしてある。
【0010】
上記解決手法によれば、走行中に生じるシュラウドの上下方向振動が、連結機構、骨格部材、フロントピラーを介してステアリングホイールに伝達されることになり、ニュートラル位置で不感帯を設定したにもかかわらず、ステアリングハンドルのダイレクト感を向上させることができる。特に、シュラウドは、前輪よりも前方にあり、しかも走行中での上下方向振動が生じ易いので、走行中にステアリングハンドルを効果的に振動させる上で極めて好ましいものとなる。また、前突時には、シュラウドが骨格部材に対して上下方向に揺動つまり相対変位して、この揺動可能な分だけシュラウドやシュラウドからの反力を受ける衝突物体への損傷を抑制することができる。
【0011】
上記解決手法を前提とした好ましい態様は、特許請求の範囲における請求項2以下に記載のとおりである。すなわち、
前記連結機構は、
前記骨格部材とシュラウドアッパとを上下方向に揺動可能に連結する連結部材と、
前記シュラウドの上下方向振動によって生じる前記連結部材の揺動を、前記骨格部材の上下方向振動として伝達するための振動伝達手段と、
を備えているようにしてある(請求項2対応)。この場合、連結機構のより具体的な構成が提供される。特に、上下方向に揺動可能に連結する連結部材と、振動伝達手段とに機能分けして構成できるので、前突時における上下方向の揺動確保と走行中の上下方向の振動伝達とを共に高い次元で満足させることができる。
【0012】
前記振動伝達手段は、前記連結部材の中間部を上下方向に揺動可能として前記骨格部材に支持させる支持部と、前記連結部の先端部に形成されて前記骨格部材に上下方向から当接される当接部と、を有している、ようにしてある(請求項3対応)。この場合、上下方向に揺動する連結部材から骨格部材へ振動を効果的に伝達することができる。
【0013】
前記連結部材の前記当接部と前記骨格部材との間に、所定の低周波振動以外の振動の伝達を抑制するダンパが設けられている、ようにしてある(請求項4対応)。この場合、走行中にステアリングハンドルが不必要に振動されてしまう事態をダンパによって防止あるいは抑制することができる。
【0014】
前記連結部材の前記当接部が、前記骨格部材の上面および下面に当接可能とされ、
前記ダンパが、前記骨格部材の上面側と下面側とに配設されたシート状とされている、
ようにしてある(請求項5対応)。この場合、ダンパとしてシート状の簡単な構成とすることができる。
【0015】
前記連結部材は、上下方向に撓み変形可能として前記骨格部材と前記シュラウドアッパとの間に略水平に張設されている、ようにしてある(請求項6対応)。この場合、上下方向の揺動を十分に確保して前突時のシュラウドや衝突物体への損傷抑制の上で極めて好ましいものとなる。また、連結部材による振動伝達を、上下動するシュラウドによる連結部材の引張を利用して確実に行って、ステアリングハンドルを十分に振動させる上でも好ましいものとなる。
【0016】
前記振動伝達手段は、前記連結部材を前記骨格部材に対して上下方向に揺動可能に軸支する軸支構造とされている、ようにしてある(請求項7対応)。この場合、骨格部材が連結部材によって不必要にねじられる等のことがなく、骨格部材の疲労軽減等の上で好ましいものとなる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、前突時におけるシュラウドや衝突物体への損傷を抑制しつつ、走行中に生じるシュラウドの上下方向振動を有効に利用してステアリングハンドルのダイレクト感を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図1〜図6は、本発明の第1の実施形態を示すもので、図1は車体前部の斜視図、図2は車体前部の平面図、図3は車体前部の側面図、図4は車体前部を前方から見た図、図5はシュラウドと骨格部材との連結関係を示す要部斜視図。図6はシュラウドと骨格部材との連結関係を示す要部断面図である。まず、図1〜図4において、1は車室の左右前部に配設されたフロントピラーである。このフロントピラー1は、その下端部が前後方向に伸びるサイドシル2の前端部に連結されている。左右一対のフロントピラー1の間には、ベルトラインよりも若干低い位置において、車幅方向に伸びる強度部材としてのステアリング支持部材3が架設されている。そして、ステアリング支持部材3には、ステアリングハンドル4を保持した保持部材5が支持されている。ステアリングハンドル4を回動操作することにより、ステアリングシャフト6A、6Bを介して、ラック機構7におけるラックシャフト7aが車幅方向に変位される。このラックシャフト7aは、後述する操舵輪としての前輪8に連結されて、ステアリングハンドル4を回動することにより前輪が操舵される。ステアリングハンドル4から前輪に至るまでの操舵系には、ニュートラル位置にあるときにステアリングハンドル4を回動操作してもその操作量が前輪に伝達されないように、遊び(不感帯)が設定されている。
【0019】
左右一対のサイドシル2間には、フロアパネル10が配設されている。このフロアパネル10の前端部は、上方へ立ち上がって、車室とその前方のエンジンルームとを仕切るダッシュパネル11とされている。このダッシュパネル11は、ステアリングハンドル支持部材3の直前方において上下方向および車幅方向に伸びて、その左右端部は、左右一対のフロントピラー1の前端部に連なっている。また、フロアパネル1の下面には、サイドシル2と図示を略すトンネル部との間において、前後方向にのびる閉断面状フロアフレーム12が接合されている。なお、前輪8は、ダッシュパネル11の前方において、左右に配設されている。
【0020】
フロントピラー1の前端部からは、骨格部材としてのエプロンレインフォースメント20が前方へ延設されている。このエプロンレインフォースメント20は、フロントピラー前端部のうちベルトライン付近の高さ位置、つまり前輪8の上端よりも高い位置から延設されて、前輪11の上方を通って、前輪11よりも前方へ伸びている。
【0021】
エプロンレインフォースメント20の下方において、前後方向に伸びる左右一対のフロントサイドフレーム30が設けられている。このフロントサイドフレーム30は、フロントピラー1の下端部付近から前方へ伸びて、その前端位置は、エプロンレインフォースメント20の前端位置よりもさらに前方に位置するように設定されている。また、フロントサイドフレーム30の後端部は、ダッシュパネル11に沿って下方へ伸びた後、フロアフレーム12の前端部に連結されている。また、フロントサイドフレーム30の後端部は、フロントピラー1の下端部に対しても、トルクボックス等を介して連結されている。
【0022】
フロントサイドフレーム30は、エプロンレインフォースメント20よりも車幅方向内方側に位置されて、前輪8の車幅方向内方側を通るように配設されている。そして、このフロントサイドフレーム30とエプロンレインフォースメント20とは、フロントピラー1の近傍において、ホイールハウジング21によって連結されている。ホイールハウジング21は、前輪8を収納するもので、その上端部は、前輪8用のサスペンションダンパ22が取付けられるサスペンション支持部21aとされている。フロントサイドフレーム30とエプロンレインフォースメント20とは、ホイールハウジング21の直前方位置において、補強板23によって連結されている。
【0023】
左右一対のフロントサイドフレーム30の前端には、クラッシュカン31を介して、車幅方向に伸びるバンパレインフォースメント32が取付けられている。実施形態では、フロントサイドフレーム30は、薄肉の高張力鋼板によって閉断面状に形成されている。
【0024】
ダッシュパネル11とバンパレインフォースメント32との間に構成されるエンジンルームには、エンジン36が配設されると共に、エンジン36の前方においてシュラウド40が配設されている。シュラウド40は、前輪8よりも前方に位置されて、バンパレインフォースメント32の直後方に位置されている。このシュラウド40には、重量物となるラジエタやその冷却ファンが取付けられる。
【0025】
シュラウド40は、前後方向に開口された方形の枠状とされた本体41と、本体41の上面に一体化されたシュラウドアッパ42とを有している。本体41は、その左右の上下方向中間部が、クラッシュカン31の前端部に対して、直接的にあるいはブラケットを介して連結されている(通常のしっかりとした取付態様である)。したがって、シュラウド40は、フロントサイドフレーム30の前端よりも前方に位置して、衝突時にクラッシュカン31が変形するのにしたがって後退して、損傷が抑制される。なお、図2中、37はバッテリ置き台である。
【0026】
シュラウドアッパ42は、車幅方向に長く伸びて、その車幅方向端部は、本体41からさらに車幅方向外方側に伸びる連結部材50とされている。そして、連結部材50の先端部(車幅方向端部)が、後述するように、エプロンレインフォースメント20に連結されている。この連結部材50は、左右一対設けられて、左右一対のエプロンレインフォースメント20に連結されているものである。なお、実施形態では、連結部材50は、合成樹脂によって、シュラウドアッパ42と一体成形されているが、別体に形成した後に一体化した構成としてもよい。
【0027】
連結部材50とエプロンレインフォースメント20との連結部位について、図5,図6を参照しつつ詳細に説明する。まず、連結部材50の先端部(車幅方向外側端部)には、断面コ字状の当接部(先端部)51が一体に形成されている。この当接部51は、エプロンレインフォースメント20の上面に位置する上面部51aと、上面部51aの先端部からエプロンレインフォースメント20の車幅方向外側面に沿って下方へ伸びる縦面部51bと、縦面部51bの下端からエプロンレインフォースメント20の下面に沿って車幅方向内方側に向けて伸びる下面部51cとを有する。上面部51aと下面部51cとによって、エプロンレインフォースメント20が上下方向から挟まれる構造となるが、上面部51aと下面部51cの間隔は、エプロンレインフォースメント20の上下方向寸法よりも大きく設定されている。
【0028】
連結部材50は、その中間部(エプロンレインフォースメント20の上面のうち車幅方向内方側端部)において、骨格部材20に固定された支持部材52によって、エプロンレインフォースメント20から上方へ離間しないように規制されている。ただし、支持部材52は、連結部材50(の当接部51)が、エプロンレインフォースメント20に対して、前後方向には若干動き得るように設定されている。このような連結部材50は、上下方向には容易に撓み変形可能で、シュラウド40が、エプロンレインフォースメント20に対して上下方向に相対変位する(揺動する)ことを許容するようになっている。なお、当接部51は、その断面コ字状の形状設定からして、剛性が比較的高いものとなっている。
【0029】
上面部51aとエプロンレインフォースメント20の上面との間には、弾性部材からなるシート状の第1ダンパ55が介在されている。また、下面部51cとエプロンレインフォースメント20の下面との間には、弾性部材からなるシート状の第2ダンパ56が介在されている。各ダンパ55,56は、所定の低周波(例えば50HZ以下)よりも大きい高周波成分を減衰するように設定されている。より、具体的には、ラジエタ冷却ファンの作動によって生じる振動を減衰するように設定されている。なお、各ダンパ55、56は、当接部51側に固定してもよく、あるいはエプロンレインフォースメント20側に固定してもよい(固定は例えば接着材によって行うことができる)。
【0030】
図6から明かなように、上面部51aが第1ダンパ55を介してエプロンレインフォースメント20の上面に当接している状態において、第2ダンパ56とエプロンレインフォースメント20の下面との間には、所定の隙間αが形成される。これにより、シュラウド40が上下方向に振動されると、図6中2点鎖線で示すように、支持部材52を境にして、当接部51がシュラウド40(の本体41)とは上下方向反対側に変位されることになる。より具体的には、シュラウド40が下方へ変位すると、当接部51における上面部51aがエプロンレインフォースメント20を下方へ押圧し、シュラウド40が上方へ変位すると、当接部51の下面部51cがエプロンレインフォースメント20を上方へ押圧する。このようにして、シュラウド30の上下方向振動により、エプロンレインフォースメント20が上下方向に振動されることになる(上面部51aと下面部51cとによってエプロンレインフォースメント20を交互に上下方向から叩いて振動伝達する)。このように、本実施形態では、連結部材50と当接部51と支持部材52とによって、連結機構が構成される(当接部51と支持部材52とが振動伝達手段を構成する)。
【0031】
次に、以上のような構成の作用について説明する。まず、走行中にあっては、シュラウド40が上下方向に振動されることになる。特に、走行中の振動の入力源となる前輪8に対して、シュラウド40は大きく前方へ離間しているので、シュラウド30の振動はかなり大きいものとなる(フロントサイドフレーム30の前端部の振動も大きい)。シュラウド40の上下方向振動は、連結部材50を介して、エプロンレインフォースメント20に効果的に入力されて、フロントピラー1、ステアリング支持部材3を介してステアリングハンドル4に入力され、最終的にステアリングハンドル4が上下方向に振動されることになる。この振動は、走行により生じる低周波振動であり、ステアリングハンドル4に不感帯を設定しても、運転者はダイレクト感を十分に感じることになる。また、ラジエタ冷却ファンの作動時における振動は、ダンパ55,56によって減衰されることとなって、ステアリングハンドル4に不快な振動として伝達されることが防止あるいは低減される。
【0032】
車両が停止したアイドル運転時には、エンジン36の振動が、フロントサイドフレーム30から、ホイールハウジング21,エプロンレインフォースメント20,フロントピラー1,ステアリング支持部材3を介してステアリングハンドル4に入力されるが、このような振動の伝達経路は、ステアリングハンドル4のダイレクト感向上のためには特に補強されていないので、従来同様に不快とならないレベルに抑制されることになる。ちなみに、本発明では、アイドル運転時におけるステアリングハンドル4の振動(振動レベル)を基準としたとき(0dbとしたとき)、高速走行中(例えば100km/h)でのステアリングハンドル4の振動(振動レベル)を1db以上大きくすることができる。
【0033】
前方衝突時には、フロントサイドフレーム30に対して、バンパレイン32からクラッシュカン31を介して、後方への荷重が入力される。入力される荷重は、クラッシュカン31が前後方向につぶれ変形することにより吸収され、クラッシュカン31で吸収できない大きな荷重は、フロントサイドフレーム30によって荷重吸収することになる。この前方衝突時において、自動車に衝突する物体によって、シュラウド40には大きな荷重が作用するが、シュラウド40はエプロンレインフォースメント20に対しては上下方向には剛体結合されていないために、外力を受けて下方へ変位可能であり、この分、シュラウド40(やこれに取付けられるラジエタ)や、シュラウド40からの反力を受ける衝突物体への損傷が抑制されることになる。なお、連結部材50がエプロンレインフォースメント20に対して前後方向に若干変位可能な設定であると共に、従来構造に対して前後剛性を特に高めていないことによって(通常使用状態では、後方への変位が可能なように支持部材52による支持が行われている)、前方衝突時においてクラッシュウカン31の変形に伴うシュラウド40の後方への変位によって、シュラウド40や衝突物体への損傷をより一層抑制することが可能となる。
【0034】
図7〜図10は、本発明の第2の実施形態を示すもので、図7車体前部の平面図、図8は車体前部の正面図、図9はシュラウドアッパとエプロンレインフォースメントとの連結部位を示す要部斜視図、図10はシュラウドアッパとエプロンレインフォースメントとの連結部位の作用を示す説明図である。本実施形態では、前記実施形態における連結部材50に代えて、連結部材60を用いてある。この連結部材60は、シート材を無端環状に構成して車幅方向に伸ばした構成とされている。連結部材60は、例えば薄肉鋼板や、繊維強化プラスチック等によってシート状とされたものを無端環状に形成することによって、引張強度が強いものとして形成されている。
【0035】
上記連結部材60の車幅方向内方側端部は、シュラウドアッパ42に前後方向に伸ばして一体的に保持された第1支持ピン61に巻回されている。また、連結部材60の車幅方向外側端部は、エプロンレインフォースメント20に前後方向に伸ばして一体的に保持された第2支持ピン62に巻回されている。そして、両支持ピン61と62との間で、連結部材60はぴんと張った状態とされている。なお、支持ピン62,62の前後方向長さよりも、連結部材60の前後方向長さが短くされて、この長さの相違分だけ、連結部材60がシュラウド40あるいはエプロンレインフォースメント20に対して前後方向に相対変位できるようになっている。
【0036】
連結部材60は、上下方向に容易に撓み変形可能で、シュラウドアッパ42をエプロンレインフォースメント20に対して上下方向に揺動可能に連結するものとなっている。そして、シュラウド40が上下方向に変位したとき、連結部材60に作用する引張力によって、エプロンレインフォースメント20が上下方向に変位されることになる。つまり、図10に示すように、連結部材60の引張作用を利用して、シュラウド40の上下方向振動が、エプロンレインフォースメント20に対する上下方向振動として効果的に伝達されることになる(走行中におけるステアリングハンドル4のダイレクト感向上の効果)。このように、本実施形態では、連結部材60とピン部材62とによって連結機構が構成される。なお、連結部材60とエプロンレインフォースメント20との連結構造として、第2ピン部材62を用いた軸支構造を採択してあるので、連結部材60とエプロンレインフォースメント20との間で不必要なねじり力が発生することが防止されて、エプロンレインフォースメント20の疲労軽減の上で好ましいものとなっている。
【0037】
以上実施形態について説明したが、本発明は、実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載された範囲において適宜の変更が可能であり、例えば次のような場合をも含むものである。連結部材50、60に相当する連結部材を含む連結機構は、シュラウド40のエプロンレインフォースメント20に対する上下方向の揺動を許容しつつ上下方向振動を伝達するものであれば、適宜の構造を採択できる。例えば、図7〜図10に示す連結部材60においては、ピン部材を利用した軸支構造は、連結部材60とエプロンレインフォースメント20との間にのみ設定して、シュラウド40との間には設定しないようにすることもできる。また、連結部材60を、ピン部材61,62を用いないで、例えばねじ固定する等軸支以外の取付構造を採択してもよい。勿論、本発明の目的は、明記されたものに限らず、実質的に好ましいあるいは利点として表現されたものを提供することをも暗黙的に含むものである。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の一実施形態を示す車体前部の斜視図。
【図2】図1に示す車体前部の平面図。
【図3】図1に示す車体前部の側面図。
【図4】図1に示す車体前部の正面図。
【図5】図1での連結部材の詳細を示す要部斜視図図。
【図6】図1での連結部材の詳細を示す一部断面正面図。
【図7】本発明の第2の実施形態を示す車体前部の平面図。
【図8】図7に示す車体前部の正面図。
【図9】図7に示す連結部材部分の要部斜視図。
【図10】図7に示す連結部材の作用を示す説明図。
【符号の説明】
【0039】
1:フロントピラー
2:サイドシル
3:ステアリング支持部材
4:ステアリングハンドル
8:前輪
10:フロアパネル
11:ダッシュパネル
12:フロアフレーム
20:エプロンレインフォースメント(骨格部材)
21:ホイールハウジング
30:フロントサイドフレーム
36:エンジン
40:シュラウド
41:本体
42:シュラウドアッパ
50:連結部材
51:当接部
51a:上面部
51b:縦面部
51c:下面部
55:第1ダンパ
56:第2ダンパ
60:連結部材
61:第1ピン部材
62:第2ピン部材


【特許請求の範囲】
【請求項1】
車室前方の左右に配設された前輪を操舵するステアリングホイールが車室の左右前部に位置されるフロントピラーに支持され、前記フロントピラーから前記前輪の上方を超えて前方へ伸びる骨格部材を有すると共に、車室前方にシュラウドが配設された自動車の前部車体構造において、
前記シュラウドは、前記前輪よりも前方に位置され、
前記骨格部材と前記シュラウドの一部を構成するシュラウドアッパとが、連結機構によって連結され、
前記連結機構は、前記シュラウドの前記骨格部材に対する上下方向の相対変位を許容しつつ、前記シュラウドの上下方向振動を前記骨格部材に伝達するように設定されている、
ことを特徴とする自動車の前部車体構造。
【請求項2】
請求項1において、
前記連結機構は、
前記骨格部材とシュラウドアッパとを上下方向に揺動可能に連結する連結部材と、
前記シュラウドの上下方向振動によって生じる前記連結部材の揺動を、前記骨格部材の上下方向振動として伝達するための振動伝達手段と、
を備えていることを特徴とする自動車の前部車体構造。
【請求項3】
請求項2において、
前記振動伝達手段は、前記連結部材の中間部を上下方向に揺動可能として前記骨格部材に支持させる支持部と、前記連結部の先端部に形成されて前記骨格部材に上下方向から当接される当接部と、を有していることを特徴とする自動車の前部車体構造。
【請求項4】
請求項3において、
前記連結部材の前記当接部と前記骨格部材との間に、所定の低周波振動以外の振動の伝達を抑制するダンパが設けられている、ことを特徴とする自動車の前部車体構造。
【請求項5】
請求項4において、
前記連結部材の前記当接部が、前記骨格部材の上面および下面に当接可能とされ、
前記ダンパが、前記骨格部材の上面側と下面側とに配設されたシート状とされている、
ことを特徴とする自動車の前部車体構造。
【請求項6】
請求項2において、
前記連結部材は、上下方向に撓み変形可能として前記骨格部材と前記シュラウドアッパとの間に略水平に張設されている、ことを特徴とする自動車の前部車体構造。
【請求項7】
請求項6において、
前記振動伝達手段は、前記連結部材を前記骨格部材に対して上下方向に揺動可能に軸支する軸支構造とされている、ことを特徴とする自動車の前部車体構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−6308(P2010−6308A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−170474(P2008−170474)
【出願日】平成20年6月30日(2008.6.30)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】