説明

自動車の前部車体構造

【課題】車室スペースを犠牲にすることなく、衝撃吸収部材の荷重特性を高めることができる自動車の前部車体構造を提供する。
【解決手段】左,右のサイドメンバ2間に延びるロアサポート部材(クロスメンバ)10の前方には、フロントバンパ13が設けられ、また該フロントバンパ13の下縁部13aに近接するようロアサポート部材10には車幅方向に延びる下部衝撃吸収部材15が設けられ、該衝撃吸収部材15には底壁15eが設けられ、底壁15には開口が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バンパと、該バンパの後方に配置されたクロスメンバとの間に、車幅方向に延びる衝撃吸収部材を配置した自動車の前部車体構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の前部車体構造として、左,右のサイドメンバの前端部にクロスメンバを架け渡して結合するとともに、該クロスメンバとバンパとの間に車幅方向に延びる衝撃吸収部材を配置したものがある。
【0003】
前記前部車体構造においては、被衝突物に衝突した際の衝撃吸収性能を向上させるための構造が採用されている。例えば、特許文献1には、バンパの下端とクロスメンバとの間に衝撃吸収部材を取り付けるとともに、該衝撃吸収部材を車両前後方向に延びる垂直壁を有するものとすることにより、衝撃吸収性能を向上させる構造が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−6739号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、前記従来の衝撃吸収構造では、垂直壁が衝撃吸収部材の長手方向全体に渡って一様に設けられており、荷重特性を、サイドメンバ部以外の部分が目標値を満足するように設定した場合、サイドメンバ部付近において、衝突時に底突き荷重が発生し、衝撃吸収性能が低下する恐れがある。
【0006】
特に、衝撃吸収ストロークが短い小型車の場合は、荷重特性カーブを表す図7に破線で示すように、サイドメンバ部付近において、衝撃吸収ストロークの途中で荷重特性が低下し(同図G1参照)、底突き荷重(同図G2参照)が発生する恐れがある。
【0007】
なお、図7において、下肢Gとは、衝突時に歩行者の下肢に作用するGを意味する。この場合、衝撃をほとんど吸収しない、いわゆる底突きが発生すると、前記下肢Gが目標値を超える恐れがある。衝撃吸収性能は図7の荷重特性カーブで囲まれた面積で表され、下肢Gが目標値を超えることなく所定の面積を確保することが必要とされる。
【0008】
このようなサイドメンバ前方部分での衝撃吸収部材の荷重特性を高めるには、前記衝撃吸収部材の垂直壁の肉厚を増加させることや、前後方向寸法を長くすることが考えられる。しかしながら、垂直壁の肉厚を増加させると、車両重量が増加し、また、前後方向寸法を長くすると、特に小型車の場合には室内スペースが犠牲となり、商品性が低下するという問題が生じる。
【0009】
本発明は、前記従来の状況に鑑みてなされたもので、車両重量の増加を抑え、かつ、室内スペースを縮小することなく、衝撃吸収部材の荷重特性を高めることができる自動車の前部車体構造を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1の発明は、バンパと、該バンパの後方に配置されたクロスメンバと、該クロスメンバに結合され、車両後方に延びる左,右のサイドメンバと、前記バンパの下部と前記クロスメンバとの間に配置され、車幅方向に延びる衝撃吸収部材とを備えた自動車の前部車体構造であって、前記衝撃吸収部材は、車両前後方向に延び、車幅方向に間隔をあけて配置されたる複数の縦壁と、車幅方向に延び、前記縦壁の下端に当接する底壁とを有し、該底壁の、前記左,右のサイドメンバの間に位置する部分に開口が形成されていることを特徴としている。
【0011】
請求項2の発明は、請求項1に記載の自動車の前部車体構造において、前記クロスメンバには、車両前後方向に延びるクレードルを介してサスペンションメンバが結合され、該サスペンションメンバに前記左,右のサイドメンバが結合されており、前記衝撃吸収部材の底壁と、前記クロスメンバ,クレードル,及びサスペンションメンバの高剛性部とが車両前後方向に延びる略直線をなしていることを特徴としている。
【0012】
請求項3の発明は、請求項1又は2に記載の自動車の前部車体構造において、前記左,右のサイドメンバ間に位置する前記縦壁は、隣接する縦壁との間隔が前後方向中央部ほど狭くなる湾曲形状に形成されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に係る発明によれば、車幅方向に延びる底壁を設けるとともに、該底壁の、底突き荷重が発生し易い左,右のサイドメンバに対応する部分には開口を形成せずに、左,右のサイドメンバ間部分のみに開口を形成したので、サイドメンバに対応する部分における荷重特性の落ち込みを抑制できる。その結果、底突き荷重の発生を防止して衝撃吸収性能を向上でき、万一車両が歩行者に衝突した場合にも、下肢へのダメージを軽減することができる。
【0014】
請求項2に係る発明によれば、前記衝撃吸収部材の底壁と、前記クロスメンバ、クレードル、及びサスペンションメンバの高剛性部とを車両前後方向に延びる略直線をなすように配置したので、前方からの荷重を、前記直線に沿ってサイドメンバに伝達でき、この点からも衝撃吸収性能を向上できる。
【0015】
請求項3に係る発明によれば、サイドメンバ間に位置する縦壁を、その中央部ほど隣接する縦壁に近づく湾曲形状としたので、荷重入力により隣接する縦壁同士が摩擦力をもって当接することで、荷重持続性が向上し、更に衝撃吸収性能を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施例1による自動車の前部構造を示す斜視図である。
【図2】前記前部構造のサイドメンバ部分の断面側面図(図1のII-II線;断面図)である。
【図3】前記前部構造の車幅方向中央部の断面側面図(図1のIII-III線断面図)である。
【図4】前記前部構造の平面図である。
【図5】前記衝撃吸収部材の斜視図である。
【図6】前記衝撃吸収部材の平面図である。
【図7】衝撃吸収部材のサイドメンバに対応する部分の衝撃吸収ストローク―下肢G特性図である。
【図8】衝撃吸収部材の左,右のサイドメンバ間部分の衝撃吸収ストローク―荷重特性図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0017】
図1ないし図8は、本発明の実施例1による自動車の前部車体構造を説明するための図である。なお、本実施例において、前後,左右という場合は、特記なき限り、車両の前進方向に向かって見た場合の前後,左右を意味する。
【0018】
図において、1は自動車の前部車体を示しており、これは車両前後方向に延び、途中で下方に屈曲された左,右のサイドメンバ2,2と、該左,右のサイドメンバ2の前端面2aに車幅方向に跨がるように結合されたアッパクロスメンバ3と、前記左,右のサイドメンバ2の前端部間に配設された略短形枠状のラジエータサポート4とを備えている。
【0019】
前記左,右のサイドメンバ2は、車幅方向外方に開口する横断面ハット形状のメンバ本体5と、該メンバ本体5に開口を閉塞するように結合された帯板状の板部材6とで閉断面を形成した構造を有する(図1参照)。
【0020】
前記左,右のサイドメンバ2の前端部には、前端開口を閉塞する蓋部材7が結合されており、該蓋部材7の前端面2aに前記アッパクロスメンバ3が結合されている(図2参照)。
【0021】
前記ラジエータサポート4は、金属製であり、正面視で略矩形枠状をなしている。前記ラジエータサポート14は、車両上下方向に延びる左,右サポート部材8,8と、車幅方向に延び、左,右サポート部材8,8の上端部8a,8a間に架け渡して配置されたアッパサポート部材9と、車幅方向に延び、左,右サポート部材8,8の下端部8c,8c間に架け渡して配置されたロアサポート部材10とを有する。
【0022】
前記ロアサポート部材10は、下方に開口した横断面ハット状のロアサポート本体10aと、該ロアサポート本体10aの開口を閉塞するように固定された補強板10bとを有し、車幅方向に延びる閉断面を形成している。このロアサポート部材10は、本発明におけるクロスメンバとなっている。
【0023】
前記左,右のサポート部材8,8は、前記クロスメンバ3より少し後方に位置するよう配置されており、これの上下方向略中央部8bが前記サイドメンバ2の前端部内側壁2bに溶接により結合されている。
【0024】
前記ラジエータサポート4の車幅方向外方には左,右のヘッドランプ11が配設され、上方にはフード12が配設されている。また前記ラジエータサポート4の前方には、該ラジエータサポート4の前方を覆うようにフロントバンパ13が配設されている。
【0025】
前記前部車体1のアッパクロスメンバ3の前面には、左,右のサイドメンバ2の前方を覆うように車幅方向に延びる上部衝撃吸収部材14が配設されている。
【0026】
該上部衝撃吸収部材14は、前記アッパクロスメンバ3からフロントバンパ13に近接するよう前方に膨出形成された横断面ハット形状を有し、外周縁に形成された外周フランジ14aが前記アッパクロスメンバ3に結合されている。前記上部衝撃吸収部材14の左,右端部は、左,右のサイドメンバ2前端部を前方から覆う寸法,形状を有する。
【0027】
前記ロアサポート部材10の前縁10cと前記フロントバンパ13の下縁部13aとの間には金属板からなる下部衝撃吸収部材15が配設されている。この下部衝撃吸収部材15は、ロアサポート部材10に沿って車幅方向に延びており、本実施例では、前記ロアサポート部材10のロアサポート本体10aの前縁10cに一体的に形成されている。勿論、下部衝撃吸収部材15をロアサポート部材10と別体に形成し、これをロアサポート部材10に溶接またはボルト締めにより固定しても良い。
【0028】
前記下部衝撃部材15は、前記ロアサポート部材10に沿って車幅方向に延びる底壁15aと、該側壁15aの前縁から上方に起立するように屈曲され、かつ車幅方向に延びる前壁15bと、車幅方向両側部に配置された複数のサイドリブ15cと、該左,右のサイドリブ15cの間に配置された複数のセンタリブ15dとを有する。このセンタリブ15d及びサイドリブ15cは車幅方向に適宜間隔を明けて配置されており、またこれらのリブ15c,15dの下端は前記底壁15aに当接している。なおこれらのリブ15c,15dの下端を前記底壁15aに固定しても良い。
【0029】
前記サイドリブ15cは、前記サイドメンバ2に対応する位置に、つまり車幅方向位置がサイドメンバ2と概ね同じとなる位置に配置され、かつサイドメンバ2は左,右のサポート部材8,8を介して前記下部衝撃吸収部材15の前記サイドリブ15cが形成された部分と結合されている。また前記サイドリブ15cは車両前後方向に直線状に延びている。
【0030】
一方、前記センタリブ15dは、前記左,右のサイドメンバ2,2の間に位置しており、かつ隣接するセンタリブ15dとの間隔が車両前後方向中央部ほど狭くなる湾曲形状に形成されている。
【0031】
また前記センタリブ15d及びサイドリブ15cの前,後端部には前フランジ部15e,後フランジ部15fが折り曲げ形成されている。前フランジ部15eは前記前壁15bにスポット溶接され、後フランジ部15fは前記ロアサポート本体10aの前縁15cにスポット溶接されている。
【0032】
さらにまた、前記底壁15aの前記左,右のサイドメンバ2,2の間に位置する部分には、開口15gが形成されている。本実施例では、前記開口15gは、一対の前記センタリブ15d,15d間に位置している。なお、前記底壁15aの、前記サイドリブ15cが形成されている部分には前記開口は形成されていない。
【0033】
また、前記ロアサポート部材10の後縁10dには車両前後方向に延びる棒状のクレードル16の前端部16aが結合され、該クレードル16の後端部16bは、前記サイドメンバ2に結合されたサスペンションメンバ17に接続されている。ここで、前記下部衝撃吸収部材15の底壁15aと、ロアサポート部材10の補強板10b,クレードル16及びサスペンションメンバ17の高剛性部17aとは、車両側方から見たとき及び上方から見たときの何れにおいても、直線A上に位置している。
【0034】
本実施例構造では、下部衝撃吸収部材15を、車幅方向に延びる底壁15aを有し、かつ該底壁15aの左,右のサイドメンバ2,2に対応する部分には開口15gを形成せずに、左,右のサイドメンバ2,2間部分のみに開口15gを形成した。そのため、図7に、下部衝撃吸収部材15の、サイドメンバ2,2に対応する部分における衝撃吸収ストロークと下肢G(荷重)特性を示すように、衝撃吸収部材15の、底突き荷重が発生し易いサイドメンバ2,2に対応する部分における荷重特性の落ち込み(同図破線のG1参照)を実線のG1′で示すように抑制できるとともに、同図に実線G2′で示すように、下肢Gが目標値以下に抑えられる。その結果、底突き荷重の発生を防止しつつ、面積Bで示すように、衝撃吸収性能を向上できる。従って、万一車両が歩行者に衝突した場合にも、下肢へのダメージを軽減することができる。
【0035】
また前記下部衝撃吸収部材15の、左,右のサイドメンバ2,2間においては、底壁15aに開口15gを形成するとともに、センタリブ15dを、隣接するセンタリブ15dとの間隔が車両前後方向中央部ほど狭くなる湾曲形状に形成した。そのため、車両が被衝突物に衝突すると、荷重入力によって、センタリブ15dは、図6の二点鎖線で示すセンタリブ15d′のように変形し、その変形部f同士が互いに変形を抑制しあって当接する。このように変形部fでリブ同士が変形を抑制しあうことにより、図8に斜線領域Cで示すように、荷重の持続性が向上し、センタリブ15dを厚肉にしたり、あるいは大型にすることなく、ひいては重量増加や車室スペースの犠牲をまねくことなく衝撃吸収性能を向上できる。
【0036】
また、前記下部衝撃吸収部材15、前記クロスメンバとしてのロアサポート部材10、クレードル16、及びサイドメンバ2に結合されたサスペンションメンバ17を車両前後方向に延びる直線A上に位置するように配置したので、車両前方からの荷重を、前記直線Aに沿ってサイドメンバ2に伝達でき、この点からも衝撃吸収性能を向上できる。特に、高剛性部として機能する前記衝撃吸収部材15の底壁15aと、ロアサポート部材10の補強板10b,クレードル16及びサスペンションメンバ17の高剛性部17aとを前記直線A上に位置するように配置したので、車両前方からの荷重をサイドメンバ2により一層確実に伝達できる。
【0037】
なお、前記実施例では、下部衝撃吸収部材15を、金属板製としたが、本発明の下部衝撃吸収部材15の材質は金属に限定されるものではなく、他の材質、製造方法によるもので構成しても良い。
【符号の説明】
【0038】
1 前部車体
2 サイドメンバ
10 ロアサポート部材(クロスメンバ)
13 フロントバンパ
13a バンパの下部
15 下部衝撃吸収部材
15a 底壁
15c サイドリブ(縦壁)
15d センタリブ(サイドメンバ間に位置する縦壁)
15g 開口
16 クレードル
17 サスペンションメンバ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バンパと、該バンパの後方に配置されたクロスメンバと、該クロスメンバに結合され、車両後方に延びる左,右のサイドメンバと、前記バンパの下部と前記クロスメンバとの間に配置され、車幅方向に延びる衝撃吸収部材とを備えた自動車の前部車体構造であって、
前記衝撃吸収部材は、車両前後方向に延び、車幅方向に間隔をあけて配置されたる複数の縦壁と、車幅方向に延び、前記縦壁の下端に当接する底壁とを有し、該底壁の、前記左,右のサイドメンバの間に位置する部分に開口が形成されている
ことを特徴とする自動車の前部車体構造。
【請求項2】
請求項1に記載の自動車の前部車体構造において、
前記クロスメンバには、車両前後方向に延びるクレードルを介してサスペンションメンバが結合され、該サスペンションメンバに前記左,右のサイドメンバが結合されており、
前記衝撃吸収部材の底壁と、前記クロスメンバ,クレードル,及びサスペンションメンバの高剛性部とが車両前後方向に延びる略直線をなしている
ことを特徴とする自動車の前部車体構造。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の自動車の前部車体構造において、
前記左,右のサイドメンバ間に位置する前記縦壁は、隣接する縦壁との間隔が前後方向中央部ほど狭くなる湾曲形状に形成されている
ことを特徴とする自動車の前部車体構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−20549(P2011−20549A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−166861(P2009−166861)
【出願日】平成21年7月15日(2009.7.15)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】