説明

自動車の前部車体構造

【課題】軽量化,低コスト化を図りつつ、衝突エネルギーの吸収機能と車体後方への伝達機能とを両立できる自動車の前部車体構造を提供する。
【解決手段】フロントピラー2内には、少なくともバルクヘッド15の車両後側の領域を覆う後側壁部16bと、該後側壁部16bに続いてバルクヘッド15の車両外側に屈曲して延び、該バルクヘッドの前後方向中途部までの領域を覆う外側壁部16cとを有するピラーリインホース16が配設されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両衝突時の入力をアッパメンバからフロントピラー内に配設されたバルクヘッドを介して車体後方に伝達するようにした自動車の前部車体構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車においては、車両衝突時の衝撃力により車室が大きく変形するのを回避する構造を採用している。例えば、特許文献1では、フロントピラー内にバルクヘッドを配置するとともに、該バルクヘッドの前側,外側及び後側を囲むようにハット形状のリインホースを配置することにより、衝突エネルギーに対するフロントピラー全体の変形を防止するようにしている。また、特許文献2では、フロントピラー内の後側部分にハット形状のリインホースを配置し、該フロントピラーの前側部分を圧縮変形させることで衝突エネルギーを吸収するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4459675号公報
【特許文献2】特許第3228124号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、前記特許文献1のように、バルクヘッドとこれを囲むように配置されたリインホースとでフロントピラーの剛性を高める構造とした場合には、フロントピラー全体の重量及びコストアップにつながることから、軽量化,低コストが望まれる小型車には採用し難い構造である。
【0005】
また、前記特許文献2のように、フロントピラーの前側部分を圧縮変形させることで衝突エネルギーを吸収する構造とした場合には、フロントピラーの前側部分にエネルギー吸収スペースを設ける必要があり、フロントピラー内のスペースに制約がある小型車には採用し難い構造である。また吸収できなかった衝突エネルギーを車体後方に伝達するコントロールができないという懸念がある。そこで、スペースの制約を受けることなく、かつ軽量化,低コスト化を図りつつ、衝突エネルギーの吸収及び車体後方への伝達の両方を確実に行なえる最適な構造の検討が要請されている。
【0006】
本発明は、前記従来の実情に鑑みてなされたもので、軽量化,低コスト化を図りつつ、衝突エネルギーの吸収機能と車体後方への伝達機能とを両立できる自動車の前部車体構造を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の発明は、車両上下方向に延びるフロントピラーと、該フロントピラーに車両前方に延びるように配設されたアッパメンバと、該アッパメンバにその少なくとも一部が車両前後方向に重なるよう前記フロントピラー内に配設されたバルクヘッドとを備え、車両衝突時の入力を前記アッパメンバからバルクヘッドを介して車体後方に伝達するようにした自動車の前部車体構造であって、前記フロントピラー内には、少なくとも前記バルクヘッドの車両後側の領域を覆う後側壁部と、該後側壁部に続いて前記バルクヘッドの車両外側に屈曲して延び、該バルクヘッドの前後方向中途部までの領域を覆う外側壁部とを有するピラーリインホースが配設されていることを特徴としている。
【0008】
請求項2の発明は、請求項1に記載の自動車の前部車体構造において、前記フロントピラーは、ピラーインナパネルとピラーアウタパネルとの前フランジ部同士及び後フランジ部同士を結合してなる閉断面構造を有し、前記フロントピラーの前フランジ部には、車幅方向に延びるカウルパネルの外フランジ部が結合され、前記カウルパネル内には、前記外フランジ部の近傍に位置し、かつ該カウルパネルの前壁及び後壁に架け渡して結合されたカウルバルクヘッドが設けられていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
請求項1の発明に係る前部車体構造によれば、フロントピラー内に、バルクヘッドの車両後側の領域を覆う後側壁部と、該後側壁部に続いてバルクヘッドの車両外側の前後方向中途部まで覆う外側壁部とを有するピラーリインホースを配設したので、該ピラーリインホースによりフロントピラー内には、バルクヘッドの前側領域の剛性が後側領域の剛性より低くなるという剛性差が生じることとなる。その結果、車両衝突時の入力によりバルクヘッドとともにフロントピラー全体がねじり変形を起こし、このねじり変形によって衝突エネルギーが吸収される。このねじり変形により吸収されなかった衝突エネルギーは、バルクヘッドからピラーリインホースを介して車体後方に伝達される。これによりエネルギー吸収機能と、荷重伝達機能とを両立させることができる。
【0010】
このように本発明では、バルクヘッドの後側と車外後側部分とを覆うピラーリインホースを配設するという必要最小限の補強でもって、前記エネルギー吸収機能と荷重伝達機能を両立させることができる。これにより、フロントピラーの前部にエネルギー吸収スペースを設ける必要がなく、フロントピラー内のスペースに制約がある小型車への採用が可能となる。またフロントピラーの重量,コストの低減が可能となり、ひいては小型車における軽量化,低コスト化の要請に応えることができる。
【0011】
請求項2の発明では、フロントピラーの前フランジ部にカウルパネルの外フランジ部を結合し、該カウルパネル内に外フランジ部の近傍に位置するようカウルバルクヘッドを配設したので、車両衝突時の入力をカウルバルクヘッドからフロントピラーのバルクヘッドを介して車体後方に効率よく伝達することができ、エネルギー吸収機能及び荷重伝達機能の両方をより高めることができる。即ち、前記フロントピラーが車内側にねじり変形するとともに、前,外フランジ部が折れ変形することにより、カウルバルクヘッドとフロントピラーのバルクヘッドとが車両前後方向にラップすることとなる。これにより、入力がカウルバルクヘッドを介してフロントピラーに伝達されるという、新たな荷重伝達経路が形成されることとなり、衝突エネルギーの吸収,伝達効率をより一層高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施例1による自動車の前部車体の側面図である。
【図2】前記前部車体の断面図(図1のII-II線断面図)である。
【図3】前記前部車体の断面図(図1のIII-III線断面図)である。
【図4】前記前部車体の分解斜視図である。
【図5】前記前部車体の変形モードの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態を添付図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0014】
図1ないし図4は、本発明の実施例1による自動車の前部車体構造を説明するための図である。
【0015】
図において、1は自動車の前部車体を示している。この前部車体1は、車両上下方向に延びる左,右のフロントピラー2,2と、該左,右のフロントピラー2に車両前方に延びるよう配設されたアッパメンバ3,3と、該左,右のアッパメンバ3の間に配設された車幅方向に延びるカウルパネル4とを備えている。
【0016】
前記左,右のフロントピラー2の上端部,下端部には、それぞれ車両前後方向に延びるルーフレール7,ロッカパネル8の前端部が結合されている。このフロントピラー2,ルーフレール7,ロッカパネル8によりフロントドア開口1aが形成されており、該フロンドドア開口1aには不図示のフロントドアが配設されている。
【0017】
前記フロントドア内には、ベルトラインに沿って車両前後方向に延びるベルトラインリインホース10が配設されている(図1)。このベルトラインリインホース10は、荷重伝達部材として機能し、車両前後方向に見たとき、前記アッパメンバ3にフロントピラー2を挟んで対向するように配置されている。
【0018】
前記左,右のフロントピラー2は、断面ハット形状のピラーアウタパネル2aと、略平板状のピラーインナパネル2bとの前フランジ部2c同士及び後フランジ部2d同士を結合することにより角筒状の閉断面を形成した構造を有する。
【0019】
前記フロントピラー2は、車両側方から見ると、下側から上側にいくほど前後に拡開するように形成され、詳細には、上側ほど前フランジ部2cが前方に拡がるよう傾斜している。前記フロントピラー2の前後幅の最も広い上部には三角窓2eが形成されている。
【0020】
前記左,右のアッパメンバ3は、アウタパネル3aとインナパネル3bとを中空状をなすよう結合した構造を有する。このアウタパネル3aの後端部3cは、前記ピラーアウタパネル2aの外側面に結合されている。前記アッパメンバ3の前端部3fには、不図示のサイドメンバに結合されたロアメンバの上端部が結合されている。
【0021】
前記カウルパネル4は、底壁4aと、該底壁4aの前,後縁に続いて上方に拡開して延びる前壁4b及び後壁4cとを有する大略断面ハット形状をなしており、該底壁4aの下面に結合された不図示のダッシュパネルとで前部車体1をエンジン室11と車室12とに画成している。
【0022】
前記カウルパネル4の前壁4bの車幅方向外縁には、前方に屈曲する前フランジ部4dが形成され、後壁4cの車幅方向外縁には、車外側方に突出する外フランジ部4eが形成されている。前記前フランジ部4dは、アッパメンバ3のインナパネル3bに結合され、前記外フランジ部4eは、前記インナパネル3bの後縁に車外側方に屈曲形成された屈曲部3dに結合されている。
【0023】
前記フロントピラー2の前フランジ部2cと前記カウルパネル4の外フランジ部4eとは、結合部材13を介して一体に結合されている(図2参照)。ここで、外フランジ部4e及び屈曲部3dを後方に屈曲形成することにより、フロントピラー2の前フランジ部2cに直接結合してもよい。このようにした場合には、結合部材13を不要にできる。
【0024】
前記左,右のフロントピラー2内には、バルクヘッド15が配設されている。このバルクヘッド15は、車両前後方向に見たとき、前記アッパメンバ3とベルトラインリインホース10とに重なるように配置されている。
【0025】
前記バルクヘッド15は、フロントピラー2の前フランジ部2cと後フランジ部2dとに渡る前後長さを有し、かつ三角窓2eの下縁からカウルパネル4より下方に渡る上下長さを有する。
【0026】
前記バルクヘッド15は、前記フロントピラー2のピラーアウタパネル2aとピラーインナパネル2bとに架け渡して結合されており、平面視でフロントピラー2内を略閉塞する大きさの第1〜第4横板部15a〜15dと、該第1,第2横板部15a,15bの内縁同士を結合する第1縦板部15e,第2,第3横板部15b,15cの外縁同士を結合する第2縦板部15f,第3,第4横板部15c,15dの内縁同士を結合する第3縦板部15gとを有する。
【0027】
また前記バルクヘッド15は、第1,第4横辺部15a,15dの外縁に屈曲形成され、ピラーアウタパネル2aに結合された上,下フランジ部15h,15iと、前記第1,第3縦板部15e,15gに前,後に突出形成され、フロントピラー2の前,後フランジ部2c,2dに結合された前,後結合片15j,15kとを有する。
【0028】
前記フロントピラー2内には、ピラーリインホース16が配設されている。このピラーリインホース16は、フロントピラー2と略同じ上下長さを有し、該フロントピラー2の後フランジ部2dに沿って延びている。
【0029】
前記ピラーリインホース16は、前記フロントピラー2の後フランジ部2dに一体に結合された結合フランジ部16aと、該結合フランジ部16aに続いて車外側に屈曲して延び、前記バルクヘッド15の車両後側の領域を覆う後側壁部16bと、該後側壁部16bに続いて前記バルクヘッド15の車両外側に屈曲して延び、該バルクヘッド15の前後方向中間部までの領域を覆う外側壁部16cとを有する。この外側壁部16cの前縁部16dは、ピラーアウタパネル2aの前後方向中央部に結合されている。前記ピラーリインホース16によりバルクヘッド15の後方及び車外側方の後半部が覆われている。
【0030】
前記カウルパネル4内の車幅方向端部には、カウルバルクヘッド18が配設されている。このカウルバルクヘッド18は、前記カウルパネル4の外フランジ部4eの近傍に位置し、かつ該カウルパネル4の前壁4b,後壁4cに架け渡して結合されており、詳細には以下の構造を有する。
【0031】
前記カウルバルクヘッド18は、カウルパネル4の前壁4bと後壁4cとを連結するように延びる平板部18aと、該平板部18aに続いて車内側に斜め下方に屈曲して延びる第1傾斜板部18bと、該第1傾斜板部18bに続いて車内側に斜め下方に屈曲して延びる第2傾斜板部18cとを有する。
【0032】
また前記カウルバルクヘッド18は、前記平板部18aの外縁に続いて起立するよう屈曲形成された平面視コ字形状の縦板部18dと、前記第2傾斜板部18cの下端部に前,後に突出形成された前,後突出部18e,18fとを有する。
【0033】
前記縦板部18dは、これの外板部18d′が前記アッパメンバ3のインナパネル3bに結合され、前,後板部18d′′がそれぞれカウルパネル4の前壁4b,後壁4cの上端部に結合されている。
【0034】
また前記前,後突出部18e,18fは、それぞれカウルパネル4の前壁4b及び後壁4cの下端部に結合されている。
【0035】
本実施例によれば、前記フロントピラー2内に、バルクヘッド15の車両後方を覆う後側壁部16bと、該後側壁部16bに続いてバルクヘッドの車両外側方の後側部分を覆う外側壁部16cとを有するピラーリインホース16を配設したので、該ピラーリインホース16によりフロントピラー2内には、バルクヘッド15の前側領域の剛性が後側領域の剛性より低くなるという剛性差が生じることとなる。
【0036】
その結果、図5(a),(b)に示すように、車両衝突時の入力Fによりバルクヘッド15とともにフロントピラー2全体が車内側にねじり変形を起こし、このねじり変形によって衝突エネルギーが吸収されることとなる。またねじり変形により吸収されなかった衝突エネルギーは、バルクヘッド15から剛性の高いピラーリインホース16を介して車体後方のベルトラインリインホース10に伝達されることとなり、エネルギー吸収機能と荷重伝達機能との両立が可能となる。
【0037】
本実施例では、前記バルクヘッド15の後方と車外側方の後側部分とを覆うピラーリインホース16を配置するという必要最小限の補強でもって、前記エネルギー吸収機能と荷重伝達機能を両立させることができる。これにより、フロントピラーの前部にエネルギー吸収スペースを設ける必要がなく、フロントピラー内のスペースに制約がある小型車への採用が可能となる。またフロントピラーの重量,コストの低減が可能となり、ひいては小型車における軽量化,低コスト化の要請に応えることができる。
【0038】
本実施例では、前記フロントピラー2の前フランジ部2cに結合部材13を介してカウルパネル4の外フランジ部4eを結合し、該カウルパネル4内に外フランジ部4eの近傍に位置するようカウルバルクヘッド18を結合したので、車両衝突時の入力Fをカウルバルクヘッド18からフロントピラー2のバルクヘッド15を介して車体後方のベルトラインリインホース10に効率よく伝達することができ、エネルギー吸収機能及び荷重伝達機能の両方をより確実に高めることができる。
【0039】
即ち、フロントピラー2が車内側にねじり変形するとともに、前フランジ部2cが折れ変形することにより、カウルバルクヘッド18とフロントピラー2のバルクヘッド15とが車両前後方向にwだけラップすることとなる(図5(b)参照)。その結果、入力Fがカウルバルクヘッド18を介してフロントピラー2に伝達されるという、新たな荷重伝達経路が形成されることとなり、衝突エネルギーの吸収,伝達効率をより一層高めることができる。また前記入力の一部は、カウルバルクヘッド18からカウルパネル4にも伝達されることから、入力の分散が可能となる。
【符号の説明】
【0040】
1 前部車体
2 フロントピラー
2a ピラーアウタパネル
2b ピラーインナパネル
2c 前フランジ部
2d 後フランジ部
3 アッパメンバ
4 カウルパネル
4b 前壁
4c 後壁
4e 外フランジ部
15 バルクヘッド
16 ピラーリインホース
16b 後側壁部
16c 外側壁部
18 カウルバルクヘッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両上下方向に延びるフロントピラーと、
該フロントピラーに車両前方に延びるよう配設されたアッパメンバと、
該アッパメンバにその少なくとも一部が車両前後方向に重なるように前記フロントピラー内に配設されたバルクヘッドとを備え、
車両衝突時の入力を前記アッパメンバからバルクヘッドを介して車体後方に伝達するようにした自動車の前部車体構造であって。
前記フロントピラー内には、少なくとも前記バルクヘッドの車両後側の領域を覆う後側壁部と、
該後側壁部に続いて前記バルクヘッドの車両外側に屈曲して延び、該バルクヘッドの前後方向中途部までの領域を覆う外側壁部とを有するピラーリインホースが配設されている
ことを特徴とする自動車の前部車体構造。
【請求項2】
請求項1に記載の自動車の前部車体構造において、
前記フロントピラーは、ピラーインナパネルとピラーアウタパネルとの前フランジ部同士及び後フランジ部同士を結合してなる閉断面構造を有し、
前記フロントピラーの前フランジ部には、車幅方向に延びるカウルパネルの外フランジ部が結合され、
前記カウルパネル内には、前記外フランジ部の近傍に位置し、かつ該カウルパネルの前壁及び後壁に架け渡して結合されたカウルバルクヘッドが設けられている
ことを特徴とする自動車の前部車体構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−121469(P2012−121469A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−274214(P2010−274214)
【出願日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】