説明

自動車の前部車体構造

【課題】重量及びコストの上昇を招くことなく、突き上げ荷重に対する剛性及びカウルパネル周辺全体の剛性を高めることができる自動車の前部車体構造を提供する。
【解決手段】カウルパネル4は、前斜め上向きに延び、左,右のストラットタワー3の上壁部3aに結合される前壁部4aと、該前壁部4aの下縁に続いて後方に屈曲して延びる底壁部4bと、該底壁部4bの後縁に続いて後斜め上方に屈曲して延びる後壁部4cとを有し、カウルパネル4の前壁部4aには、該前壁部4aとで車幅方向に延びる閉断面21を形成するリインホース部材20が結合され、閉断面21を形成するカウルパネル4の前壁部4aの下面には、ダッシュパネル5の上縁部5aが結合されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ショックアブソーバを支持する左,右のストラットタワーと、該左,右のストラットタワーの後側に配設されたカウルパネルと、該カウルパネルとフロアパネルとの間に配設されたダッシュパネルとを備えた自動車の前部車体構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車においては、ショックアブソーバからの突き上げ荷重に対するストラットタワーの強度,剛性を高める構造を採用している。例えば、特許文献1には、左,右のストラットタワーの上壁部にカウルパネルの前部を結合し、該前部に補強ビーム部材を結合することにより車幅方向に延びる閉断面を形成した構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4121529号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、前記従来構造では、左,右のストラットタワー間の突き上げ荷重に対する強度,剛性は高めることができるものの、カウルパネル周辺全体の剛性を高める観点から見れば不十分である。即ち、上方に開放されたカウルパネルの前部に補強ビーム部材を接続し、カウルパネルの下面後部にダッシュパネルを接続する構造であることから、剛性部材が前,後に離れた位置に配置されることとなる。このため、左,右の突き上げ荷重によるカウルパネルの捩じれ変形に対する剛性が低いという懸念がある。このような捩じれ変形を抑えるには、新たに補強部材をカウルパネルの前,後壁間に架け渡して結合する必要があり、重量及びコストが上昇するという問題が生じる。
【0005】
本発明は、前記従来の状況に鑑みてなされたもので、重量及びコストの上昇を招くことなく、突き上げ荷重に対する剛性及びカウルパネル周辺全体の剛性を高めることができる自動車の前部車体構造を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、車幅方向左,右外側に車両前後方向に延びるよう配設された車体骨格部材と、該左,右の車体骨格部材の車内側に配設され、前輪懸架装置のショックアブソーバを支持するストラットタワーと、該左,右のストラットタワーの後側に前記左,右の車体骨格部材同士を連結するよう配設されたカウルパネルと、該カウルパネルとフロアパネルとの間を覆うように配設されたダッシュパネルとを備えた自動車の前部車体構造であって、前記カウルパネルは、前斜め上向きに延び、前記左,右のストラットタワーの上壁部に結合される前壁部と、該前壁部の下縁に続いて後方に屈曲して延びる底壁部と、該底壁部の後縁に続いて後斜め上方に屈曲して延びる後壁部とを有し、前記カウルパネルの前壁部には、該前壁部とで車幅方向に延びる閉断面を形成するリインホース部材が結合され、前記閉断面を形成する前記カウルパネルの前壁部の下面には、前記ダッシュパネルの上縁部が結合されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る前部車体構造によれば、カウルパネルの前壁部を左,右のストラットタワーの上壁部に結合し、該前壁部にリインホース部材を結合して車幅方向に延びる閉断面を形成し、該閉断面を形成するカウルパネルの前壁部の下面にダッシュパネルの上縁部を結合した。
【0008】
このように構成したので、カウルパネルの前壁部の閉断面とダッシュパネルとを一体に結合した構造となり、突き上げ荷重に対する左,右のストラットタワー間の強度,剛性を高めることができるとともに、カウルパネルの捩じれ剛性を高めることができ、ひいては前部車体全体の剛性を高めることができる。即ち、カウルパネルとリインホース部材とで形成した閉断面構造が、左,右のストラットタワー間の強度,剛性を高めるとともに、ダッシュパネルと一体にカウルパネル周り全体の剛性アップに寄与することとなる。
【0009】
このように本発明では、カウルパネルとリインホース部材とで形成した閉断面とダッシュパネルとの双方で突き上げ荷重及び捩じれ変形に対する必要剛性を確保することができるので、新たに補強部材を追加する必要はなく、重量及びコストの上昇を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施例1による自動車の前部車体の斜視図である。
【図2】前記前部車体の斜視図である。
【図3】前記前部車体のカウルパネルの斜視図である。
【図4】前記カウルパネルの断面図(図2のIV-IV線断面図)である。
【図5】前記カウルパネルの断面図(図2のV-V線断面図)である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0012】
図1ないし図5は、本発明の実施例1による自動車の前部車体構造を説明するための図である。なお、本実施例の説明の中で前後,左右という場合は、特記なき限り、シートに着座した状態で車両前進方向に見たときの前後,左右を意味する。
【0013】
図において、1はルーフのないオープンカーの前部車体を示している。この前部車体1は、車幅方向左,右外側に車両前後方向に延びるよう配設されたアッパメンバ(車体骨格部材)2,2と、該左,右のアッパメンバ2の車内側に配設され、前輪(不図示)に連結されたショックアブソーバ6の上端部6aが固定されたストラットタワー3,3と、該左,右のストラットタワー3の後側に前記左,右のアッパメンバ2同士を車幅方向に連結するよう配設されたカウルパネル4と、該カウルパネル4とフロアパネル11との間を覆うように配設され、前部車体1をエンジンルームEと車室Rとに画成するダッシュパネル5とを備えている。
【0014】
前記左,右のアッパメンバ2の後端部には、上下方向に延びるフロントピラー9,9の上端部が結合され、該左,右のフロントピラー9の下端部には前後方向に延びるロッカパネル10,10の前端部が結合されている。
【0015】
前記左,右のフロントピラー9には、大略門型のフロントフレーム部9aが結合され、該フロントフレーム部9aと前記カウルパネル4とで囲まれた開口にはフロントガラス8が配設されている。
【0016】
前記左,右のロッカパネル10の間には、前記フロアパネル11が結合され、該フロアパネル11の前縁部は前記ダッシュパネル5の下縁部に結合されている。
【0017】
前記左,右のアッパメンバ2の下方には、前後方向に延びるサイドメンバ12,12が配設され、該左,右のサイドメンバ12の前端面には、車幅方向に延びるクロスメンバ13が配設されている。
【0018】
前記左,右のアッパメンバ2の前端部と、前記サイドメンバ12の前後方向中途部とは結合部材14,14により結合されている。
【0019】
前記左,右のストラットタワー3は、前記アッパメンバ2,サイドメンバ12及び結合部材14に結合されている。
【0020】
前記カウルパネル4は、前斜め上向きに延びる前壁部4aと、該前壁部4aの下縁に続いて後方に屈曲して延びる底壁部4bと、該底壁部4bの後縁に続いて後斜め上方に屈曲して延びる後壁部4cとを有する上方に開放された大略断面ハット形状をなしている。
【0021】
この後壁部4cの上縁部4dにより、不図示のシール部材を介して前記フロントガラス8の下縁部が支持されている。また前記後壁部4cには、カウルアウタ15が結合されている(図3参照)。
【0022】
前記カウルパネル4の前壁部4aは、前記底壁部4bから上向きに延びる下側傾斜部4eと、該下側傾斜部4eから前方に略水平に延びる下側フランジ部4fと、該下側フランジ部4fから上向きに延びる上側傾斜部4gと、該上側傾斜部4gから前方に略水平に延びる上側フランジ部4hとを有する。
【0023】
前記カウルパネル4の下側フランジ部4fの左,右側端部は、前記左,右のストラットタワー3の上壁部3aの後側部分に溶接により結合されている。
【0024】
前記カウルパネル4の前壁部4aには、これの車幅方向略全長に渡る長さを有するリインホース部材20が配設されている。なお、リインホース部材20は図1,図2には図示されていない。
【0025】
前記リインホース部材20は、図3〜図5に示すように、前記カウルパネル4の下側フランジ部4fに当接する下フランジ部20aと、該下フランジ部20aに続いて前斜め上方に起立して延びる縦壁部20bと、該縦壁部20bに続いて前記上側フランジ部4hに当接するよう前方に延びる上フランジ部20cとを有する。
【0026】
前記カウルパネル4の下側フランジ部4fの下面には、前記ダッシュパネル5の上縁部5aが該下側フランジ部4fを挟んで前記リインホース部材20の下フランジ部20aと対向するように配置されている。
【0027】
そして前記リインホース部材20の上フランジ部20cは、前記カウルパネル4の上側フランジ部4hに溶接により結合されており、下フランジ部20aは、前記カウルパネル4の下側フランジ部4fとともに、前記ダッシュパネル5の上縁部5aに3枚重ねて溶接により結合されている。なお、溶接に替えてボルトにより、リインホース部材20を締結固定してもよい。
【0028】
また前記リインホース部材20の下フランジ部20aの左,右側端部は、カウルパネル4の下側フランジ部4f,ストラットタワー3の上壁部3a及びダッシュパネル5の上縁部5aに4枚重ねて溶接により結合されている。
【0029】
また、前記リインホース部材20の左,右端部20dは左,右のアッパメンバ2に溶接で結合され、さらにまた前記リインホース部材20に形成されたフランジ部20eはアッパメンバ20のカウルサイド部2aに溶接で結合されている。なお、前記左,右端部20d,フランジ部20eはボルトにより結合しても良い。
【0030】
このようにしてカウルパネル4の前壁部4aとリインホース部材20とで車幅方向に延びる筒状の閉断面部21が形成されており、該閉断面部21に左,右のストラットタワー3の上壁部3aが結合され、かつダッシュパネル3の上縁部5aが一体に結合されている。
【0031】
本実施例によれば、上方に開放されたカウルパネル4の前壁部4aを左,右のストラットタワー3の上壁部3aに結合し、該前壁部4aにリインホース部材20を結合して車幅方向に延びる筒状の閉断面部21を形成し、該閉断面部21を形成するカウルパネル4の前壁部4aの下面にダッシュパネル5の上縁部5aを結合する構成とした。
【0032】
このように構成したので、カウルパネル4の前壁部4aの閉断面部21とダッシュパネル5とを一体に結合した構造となり、左,右のストラットタワー3間の強度,剛性を高めることができるとともに、カウルパネル4の捩じれ剛性を高めることができ、ひいては車体全体の剛性を高めることができる。即ち、カウルパネル4とリインホース部材20とで形成した筒状の閉断面部21が、左,右のストラットタワー3間の強度,剛性を高めるとともに、ダッシュパネル5と一体にカウルパネル全体の剛性アップに寄与することとなる。これにより、左,右のストラットタワー3に加わる突き上げ荷重は、カウルパネル4の閉断面部21からダッシュパネル5に直接伝達されることとなり、カウルパネル4の捩じれ変形を抑制できる。
【0033】
このように本実施例では、前記カウルパネル4とリインホース部材20とで形成した閉断面部21と、該閉断面部21に接続されたダッシュパネル5との双方で突き上げ荷重及び捩じれ変形に対する必要剛性を確保することができ、新たに補強部材を追加する必要はなく、重量及びコストの上昇を抑えることができる。
【0034】
特に、ルーフがないオープンカーの場合には、突き上げ荷重に対する車体剛性を確保し難く、車体全体に捩じれ変形が生じ易い。このため補強部材を追加して捩じれ変形を抑制することとなるが、このようにすると車体重量,コストが上昇する。本実施例では、このようなオープンカーにおいても車体重量,コストアップを招くことなく、車体全体の捩じれ変形を抑制することができる。
【0035】
なお、前記実施例では、車体骨格部材としてアッパメンバを例に説明したが、本発明の車体骨格部材には、エプロンメンバ,フロントピラー等が含まれる。
【符号の説明】
【0036】
1 前部車体
2 アッパメンバ(車体骨格部材)
3 ストラットタワー
4 カウルパネル
4a 前壁部
4b 底壁部
4c 後壁部
5 ダッシュパネル
5a 上縁部
6 ショックアブソーバ
11 フロアパネル
20 リインホース部材
21 閉断面部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車幅方向左,右外側に車両前後方向に延びるよう配設された車体骨格部材と、
該左,右の車体骨格部材の車内側に配設され、前輪懸架装置のショックアブソーバを支持するストラットタワーと、
該左,右のストラットタワーの後側に前記左,右の車体骨格部材同士を連結するよう配設されたカウルパネルと、
該カウルパネルとフロアパネルとの間に配設されたダッシュパネルと
を備えた自動車の前部車体構造であって、
前記カウルパネルは、前斜め上向きに延び、前記左,右のストラットタワーの上壁部に結合される前壁部と、該前壁部の下縁に続いて後方に屈曲して延びる底壁部と、該底壁部の後縁に続いて後斜め上方に屈曲して延びる後壁部とを有し、
前記カウルパネルの前壁部には、該前壁部とで車幅方向に延びる閉断面を形成するリインホース部材が結合され、
前記閉断面を形成する前記カウルパネルの前壁部の下面には、前記ダッシュパネルの上縁部が結合されている
ことを特徴とする自動車の前部車体構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−201300(P2012−201300A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−69626(P2011−69626)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】