説明

自動車の前部車体構造

【課題】 バンパービームに入力された衝突荷重をフロントサイドフレームにより多く配分してフロントピラーに加わる荷重を低減する。
【解決手段】 オフセット前面衝突により左右一方のフロントサイドフレーム11よりも車幅方向外側のバンパービーム16に衝突荷重が入力した場合には、バンパービーム16は左右他端側を支点Pとして左右一端側が後方に回動するが、このとき前記支点Pに近い左右一端側のフロントサイドフレーム11に入力する荷重F1は、前記支点Pから遠い左右一端側のロアメンバ14に入力する荷重F2よりも大きくなる。これにより、衝突荷重の多くの部分をフロントサイドフレーム11に優先的に配分し、ロアメンバ14からアッパーメンバ13を介してフロントピラー12に伝達される荷重を最小限に抑えることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、前後方向に延びる左右一対のフロントサイドフレームの前端と車幅方向に延びるバンパービームとの間に衝撃吸収部材を配置した自動車の車体前部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車幅方向に延びるバンパー20と、前後方向に延びるサポーティングストラクチャ22(フロントサイドフレーム)との間にマウンティングブラケット24(バンパービームエクステンション)およびクラッシュカン30を配置し、前記マウンティングブラケット24および前記クラッシュカン30を繊維強化した熱可塑性樹脂で構成して衝突エネルギーの吸収性能を向上させたものが、下記特許文献1により公知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】GB 2422136 A
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、車両がオフセット前面衝突してバンパービームの車幅方向一端側だけに衝突荷重が入力したような場合に、特に衝突荷重がフロントサイドフレームの前端よりも車幅方向外側に入力したような場合に、その衝突荷重がバンパービームから直列に連結されたロアメンバおよびアッパーメンバを介してフロントピラーの前端に伝達されてしまい、フロントピラーおよびセンターピラー間にフロントドアが強く挟まれて開き難くなってしまう問題があった。
【0005】
本発明は前述の事情に鑑みてなされたもので、バンパービームに入力された衝突荷重をフロントサイドフレームにより多く配分してフロントピラーに加わる荷重を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1に記載された発明によれば、車体前後方向に延びる左右のフロントサイドフレームの前端と、左右のフロントピラーの前端から前下方に延びる左右のアッパーメンバと、前記左右のフロントサイドフレームの車幅方向外側で前記左右のアッパーメンバの先端から前下方に延びる左右のロアメンバと、前記フロントサイドフレームの前端および前記ロアメンバの前端間を接続する左右の衝撃吸収部材と、車幅方向に延びて前記左右のロアメンバの前端間を接続するとともに前記左右の衝撃吸収部材の前面に接続されるバンパービームとを備えることを特徴とする自動車の車体前部構造が提案される。
【0007】
また請求項2に記載された発明によれば、請求項1の構成に加えて、前記衝撃吸収部材は前後方向視で角張った屈曲断面を有するとともに、前記ロアメンバは車幅方向内側に開放するハット状断面を有しており、前記ロアメンバは前記衝撃吸収部材の車幅方向外側に開放する開放部を閉塞するように結合されることを特徴とする自動車の車体前部構造が提案される。
【0008】
また請求項3に記載された発明によれば、請求項2の構成に加えて、前記ロアメンバは、その上下の開口縁のうちの一方の開口縁だけが前記衝撃吸収部材の開放部に結合されることを特徴とする自動車の車体前部構造が提案される。
【0009】
また請求項4に記載された発明によれば、請求項1〜請求項3の何れか1項の構成に加えて、前記バンパービームは前方に開放するハット状断面を有しており、その開口縁にバンパーフェイスの後面が結合されることを特徴とする自動車の車体前部構造が提案される。
【0010】
また請求項5に記載された発明によれば、請求項1〜請求項4の何れか1項の構成に加えて、少なくとも前記衝撃吸収部材および前記ロアメンバは繊維強化樹脂製であって溶着により一体化されることを特徴とする自動車の車体前部構造が提案される。
【0011】
また請求項6に記載された発明によれば、請求項1〜請求項5の何れか1項の構成に加えて、前記衝撃吸収部材は着脱自在な結合手段により前記フロントサイドフレームに着脱自在に結合され、前記ロアメンバは着脱自在な結合手段により前記アッパーメンバに着脱自在に結合されることを特徴とする自動車の車体前部構造が提案される。
【0012】
また請求項7に記載された発明によれば、請求項1〜請求項6の何れか1項の構成に加えて、前記バンパービームは繊維強化樹脂製であって前記左右の衝撃吸収部材に結合され、前記バンパービームの前記左右の衝撃吸収部材の前方部分から車幅方向外側部分の肉厚は、前記左右の衝撃吸収部材よりも車幅方向内側部分の肉厚よりも小さいことを特徴とする自動車の車体前部構造が提案される。
【0013】
また請求項8に記載された発明によれば、請求項1〜請求項7の何れか1項の構成に加えて、前記バンパービーム、前記衝撃吸収部材および前記ロアメンバは繊維強化樹脂製であって溶着により一体化されることを特徴とする自動車の車体前部構造が提案される。
【0014】
また請求項9に記載された発明によれば、請求項1の構成に加えて、前記左右のロアメンバは、連続繊維の繊維強化樹脂製の本体部と、前記本体部の屈曲部に積層される不連続繊維の繊維強化樹脂製の補強部とから構成されることを特徴とする自動車の車体前部構造が提案される。
【0015】
尚、実施の形態の上部および下部フランジ14d,14eおよび上部および下部フランジ16d,16eは本発明の開口縁に対応する。
【発明の効果】
【0016】
請求項1の構成によれば、前面衝突によりバンパービームの車幅方向中央部に入力した衝突荷重は、衝撃吸収部材の圧壊により一部を吸収された後に、左右のフロントサイドフレームの前端および左右のロアメンバの前端に伝達される。またオフセット前面衝突により左右一方のフロントサイドフレームよりも車幅方向外側のバンパービームに衝突荷重が入力した場合には、バンパービームは左右他端側を支点として左右一端側が後方に回動するが、このとき前記支点に近い左右一方のフロントサイドフレームに入力する荷重は、前記支点から遠い左右一方のロアメンバに入力する荷重よりも大きくなる。これにより、衝突荷重の多くの部分をフロントサイドフレームに優先的に配分してロアメンバに配分される衝突荷重を減少させ、ロアメンバからアッパーメンバを介してフロントピラーに伝達される荷重を最小限に抑えることができる。しかもフロントサイドフレームの前端およびロアメンバの前端間を接続する左右の衝撃吸収部材と、車幅方向に延びて左右のロアメンバの前端間を接続するとともに左右の衝撃吸収部材の前面に接続されるバンパービームとを備えるので、左右の衝撃吸収部材の車幅方向の断面を拡大して圧壊による衝撃エネルギーの吸収量を増加させることができる。
【0017】
また請求項2の構成によれば、衝撃吸収部材は前後方向視で角張った屈曲断面を有するとともにロアメンバは車幅方向内側に開放するハット状断面を有し、ロアメンバは衝撃吸収部材の車幅方向外側に開放する開放部を閉塞するように結合されるので、前面衝突の衝突荷重で衝撃吸収部材およびロアメンバを上下方向に拡開するように圧壊して好適な衝撃吸収を行うことができる。特に、衝撃吸収部材は角張った屈曲断面を有するため、衝撃吸収部材の角陵(屈曲部)が増加して衝撃に対する反力が増加し、衝撃エネルギーの吸収量を一層増加させることができる。
【0018】
また請求項3の構成によれば、ハット状断面のロアメンバの上下の開口縁のうちの一方の開口縁だけを衝撃吸収部材の開放部に結合したので、前面衝突の衝突荷重で衝撃吸収部材およびロアメンバを上下方向に一層容易に拡開して確実に圧壊することができる。
【0019】
また請求項4の構成によれば、バンパービームは前方に開放するハット状断面を有しており、その開口縁にバンパーフェイスの後面が結合されるので、特別の部材を付加することなくバンパーフェイスを利用してバンパービームを閉断面に構成し、前面衝突の衝突荷重をフロントサイドフレームに効率的に伝達することができる。
【0020】
また請求項5の構成によれば、少なくとも衝撃吸収部材およびロアメンバは繊維強化樹脂製であって溶着により一体化されるので、それらの部材を結合するためのブラケットやボルトが不要になって部品点数の削減や軽量化が可能になるだけでなく、衝突荷重により溶着部が剥がれる際に衝突エネルギーを吸収することができる。また衝撃吸収部材およびロアメンバを繊維強化樹脂製としたことで、それらを金属製とする場合に比べて車体前部を軽量化して旋回性能を高めることができるだけでなく、任意の断面形状に成形することが容易になり、しかも軽衝突時に自己の弾性で形状が復元するために交換の必要がなくなる。
【0021】
また請求項6の構成によれば、衝撃吸収部材は着脱自在な結合手段によりフロントサイドフレームに着脱自在に結合され、ロアメンバは着脱自在な結合手段によりアッパーメンバに着脱自在に結合されるので、衝撃吸収部材およびロアメンバの組付性が向上する。
【0022】
また請求項7の構成によれば、バンパービームの左右の衝撃吸収部材の前方部分から車幅方向外側部分の肉厚が、左右の衝撃吸収部材よりも車幅方向内側部分の肉厚よりも小さいので、左右の衝撃吸収部材の間に入力した衝突荷重をできるだけ多く左右のフロントサイドフレームに配分することができる。
【0023】
また請求項8の構成によれば、バンパービーム、衝撃吸収部材およびロアメンバは繊維強化樹脂であって溶着により一体化されるので、それらの部材を結合するためのブラケットやボルトが不要になって部品点数の削減や軽量化が可能になるだけでなく、衝突荷重により溶着部が剥がれる際に衝突エネルギーを吸収することができる。
【0024】
また請求項9の構成によれば、左右のロアメンバを、連続繊維の繊維強化樹脂製の本体部と、本体部の屈曲部に積層される不連続繊維の繊維強化樹脂製の補強部とから構成したので、ロアメンバの金型成型時に屈曲部の稜線部分で繊維強化樹脂の連続繊維が引っ張れて破断しても、その部分を破断し難い補強部の繊維強化樹脂の不連続繊維で補強することで、ロアメンバの屈曲部の強度低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】自動車の車体前部のフレーム構造を示す斜視図。(第1の実施の形態)
【図2】図1の2−2線断面図。(第1の実施の形態)
【図3】図1の3−3線断面図。(第1の実施の形態)
【図4】図3の4−4線断面図。(第1の実施の形態)
【図5】図3の5部拡大図。(第1の実施の形態)
【図6】図5の6−6線断面図。(第1の実施の形態)
【図7】図5の7−7線展開図。(第1の実施の形態)
【図8】図5に対応する作用説明図。(第1の実施の形態)
【図9】図1の9−9線断面図。(第1の実施の形態)
【図10】前面衝突時の作用説明図。(第1の実施の形態)
【図11】図1の要部拡大図。(第2の実施の形態)
【図12】補強部の作用を説明する模式図。(第2の実施の形態)
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図1〜図10に基づいて本発明の第1の実施の形態を説明する。
【0027】
先ず、本明細書における前後方向、左右方向(車幅方向)および上下方向は、運転席に着座した乗員を基準として定義される。また本明細書におけるT面、B面およびH面は、以下のように定義される。図1に示すように、T面とは、前後方向軸に直交する面であり、例えば車体前面あるいは車体後面がこれに対応する。B面とは、左右方向軸に直交する面であり、例えば車体左側面あるいは車体右側面がこれに対応する。H面とは、上下方向軸に直交する面であり、例えば車体天井面あるいは車体床面がこれに対応する。但し、T面には、前後方向軸に直交する面に対して45°未満の角度で傾斜する面が含まれ、B面には、左右方向軸に直交する面に対して45°未満の角度で傾斜する面が含まれ、H面には、上下方向軸に直交する面に対して45°未満の角度で傾斜する面が含まれるものとする。
【0028】
図1に示すように、自動車の車体前部には前後方向に延びる左右一対のフロントサイドフレーム11,11が配置される。またフロントサイドフレーム11,11の車幅方向外側において、左右一対のフロントピラー12,12の前端から左右一対のアッパーメンバ13,13が前下方に延びており、左右一対のアッパーメンバ13,13の前端から左右一対のロアメンバ14,14が前下方に延びている。従って、ロアメンバ14,14、アッパーメンバ13,13およびフロントピラー12,12は、前下方から後上方に向かって直列に接続される。
【0029】
各フロントサイドフレーム11の前端に箱状の衝撃吸収部材15が接続されており、この衝撃吸収部材15の車幅方向外面にロアメンバ14の前半部の車幅方向内面が接続される。車幅方向中央部が前方に向かって弧状に湾曲するバンパービーム16の車幅方向両端部が、衝撃吸収部材15の前面とロアメンバ14の前端部の車幅方向内面とに接続される。
【0030】
車幅方向に延びるアッパービーム17と、車幅方向に延びるロアビーム18と、上下方向に延びる左右一対のサイドメンバ19,19とで構成される枠状のフロントバルクヘッド20が、そのサイドメンバ19,19の上下方向中間部を衝撃吸収部材15,15の車幅方向内面に接続することで、バンパービーム16の後方に支持される。
【0031】
フロントサイドフレーム11,11、フロントピラー12,12およびアッパーメンバ13,13は金属製の部材であるが、ロアメンバ14,14、衝撃吸収部材15,15、バンパービーム16およびフロントバルクヘッド20は繊維強化合成樹脂製の部材であり、レーザー溶着により連続接合されて一体化されている。これにより、繊維強化合成樹脂製の各部材を結合するためのブラケットやボルトが不要になって部品点数の削減や軽量化が可能になるだけでなく、自動車の前面衝突による衝突荷重で溶着部が剥がれる際に衝突エネルギーの吸収効果を発揮させることができる。尚、前記連続接合を部分的に不連続接合とすれば、衝撃エネルギーの吸収量を任意に制御することができる。
【0032】
図4に示すように、ロアメンバ14は車幅方向内側に向かって開放するハット状断面の部材であり、B面内に位置する底壁14aと、H面内に位置する上部および下部側壁14b,14cと、B面内に位置する上部および下部フランジ14d,14eとを備える。衝撃吸収部材15は正面視で角張った開断面の屈曲形状であるS字状断面の部材であり、H面内に位置して上下方向に重なり合う上壁15a、中壁15bおよび下壁15cと、B面内に位置して上壁15aおよび中壁15bの車幅方向内端間を接続する内側側壁15dと、B面内に位置して中壁15Bおよび下壁15cの車幅方向外端間を接続する外側側壁15eと、B面内に位置して上壁15aの車幅方向外端から上方に延びるフランジ15fとを備える。
【0033】
衝撃吸収部材15の上側の開放部15gをロアメンバ14で閉塞するとき、衝撃吸収部材15のフランジ15fはロアメンバ14の上部フランジ14dに重ね合わされて同様にレーザー溶着W1されるが、相互に重ね合わされる衝撃吸収部材15の外側側壁15eとロアメンバ14の下部フランジ14eとは溶着されずに単に接触している(図4のX部参照)。また衝撃吸収部材15の内側側壁15dにフロントバルクヘッド20のサイドメンバ19の車幅方向外面が同様にレーザー溶着W2される。
【0034】
図2および図3に示すように、バンパービーム16は前方に向かって開放するハット状断面の部材であり、T面内に位置する底壁16aと、H面内に位置する上部および下部側壁16b,16cと、T面内に位置する上部および下部フランジ16d,16eとを備える。底壁16aは車幅方向の全域に亙って軽量化のために薄肉に形成されているが、上部および下部側壁16b,16cおよび上部および下部フランジ16d,16eは、左右の衝撃吸収部材15,15の車幅方向内端よりも車幅方向内側では厚肉に形成されるとともに(図1の領域A参照)、それよりも車幅方向外側部分は底壁16aと同様に全体が薄肉に形成されている(図1の領域B参照)。尚、前後方向の耐力向上のため、バンパービーム16には連続繊維を車幅方向に配向することが望ましい。
【0035】
後方に向かって開放するコ字状断面のバンパーフェイス21の後面に、バンパービーム16の上部および下部フランジ16d,16eが同様にレーザー溶着W3される。これにより、特別の部材を付加することなくバンパーフェイス21を利用してバンパービーム16を閉断面に構成し、前面衝突の衝突荷重をバンパービーム16からフロントサイドフレーム11,11に確実に伝達することができる。そしてバンパービーム16の底壁16aが、衝撃吸収部材15の上壁15a、中壁15bおよび内側側壁15dにレーザー溶着W4されるとともに、バンパービーム16の車幅方向外端面がロアメンバ14,14の上部および下部フランジ14d,14eにレーザー溶着される。
【0036】
上述したように、繊維強化合成樹脂製のロアメンバ14,14、衝撃吸収部材15,15、バンパービーム16およびフロントバルクヘッド20は予めレーザー溶着で一体化されてサブアセンブリを構成しており、図1に示すように、左右の衝撃吸収部材15,15と左右のフロントサイドフレーム11,11とを着脱自在な結合手段22,22で結合し、左右のロアメンバ14,14と左右のアッパーメンバ13,13とを着脱自在な結合手段22,22で結合することで、前記サブアセンブリが車体フレームに対して容易に着脱できるようになっている。
【0037】
上記4個の着脱自在な結合手段22…の構造は同じであるため、以下、衝撃吸収部材15側の着脱自在な結合手段22の構造を代表として説明する。
【0038】
図5〜図7に示すように、衝撃吸収部材15の後端の上壁15a、中壁15bおよび内側側壁15dに固定された支持板23に、後端に頭部24aを有するピン24の軸部24bが前後摺動自在に支持されており、軸部24bの前端と支持板23の前面との間にコイルスプリング25が縮設される。ボックス状閉断面のフロントサイドフレーム11の一つの側面の前部に円形の支持孔11aが形成されており、支持孔11aにカム部材26が回転自在かつ軸方向移動不能に支持される。
【0039】
フロントサイドフレーム11の内部に延びるカム部材26の先端の筒状部26aには、円形の開口26bおよび細長いカム溝26cが円周方向に連設される。開口26bの直径はピン24の頭部24aの直径よりも僅かに大きく、カム溝26cの幅はピン24の頭部24aの直径よりも小さく、かつピン24の軸部24bの直径よりも僅かに大きく形成される。カム部材26の筒状部26aの肉厚は、カム溝26cの入口側から奥部に向かって次第に増加し、最大肉厚部26dで最大値になった後に減少する。
【0040】
従って、図8(A)および図8(B)に示すように、着脱自在な結合手段22のカム部材26の筒状部26aの開口26bを前方に向けた状態でフロントサイドフレーム11の前端に衝撃吸収部材15の後端を当接させると、衝撃吸収部材15側に設けたピン24の頭部24aがカム部材26の筒状部26aの開口26bに嵌合する。この状態から工具でカム部材26を図8(C)の矢印方向に回転させると、ピン24の軸部24bがカム溝26cに嵌合する。カム部材26を更に回転させると、筒状部26aの最大肉厚部26dがピン24の頭部24aを乗り越えることでロック状態になり、コイルスプリング25の弾発力で衝撃吸収部材15が後方に付勢されてフロントサイドフレーム11の前端に密着し、フロントサイドフレーム11および衝撃吸収部材15が一体に結合される。
【0041】
フロントサイドフレーム11および衝撃吸収部材15の結合を解除するには、上記手順を逆に行えば良い。
【0042】
図9に示すように、ロアメンバ14側の着脱自在な結合手段22の構造は、上述した衝撃吸収部材15側のものと実質的に同一の構造である。
【0043】
さて、自動車が前面衝突すると、バンパービーム16に入力した衝突荷重が左右の衝撃吸収部材15,15に伝達され、繊維強化樹脂製の衝撃吸収部材15,15が脆性破壊である圧壊をすることで衝突荷重を吸収する。このとき、衝撃吸収部材15,15は前後方向視で複数の角陵のあるS字状断面を有するとともに、ロアメンバ14,14は前後方向視で車幅方向内側に開放するハット状断面を有し、ロアメンバ14,14は衝撃吸収部材15,15の車幅方向外側に開放する開放部15g(図4参照)を閉塞するように結合されるので、前後方向の角陵が高い荷重を支持しながら前面衝突の衝突荷重で衝撃吸収部材15,15およびロアメンバ14,14を上下方向に拡開するように圧壊して高い衝撃吸収を行うことができる。特に、衝撃吸収部材15,15の外側側壁15e,15eとロアメンバ14,14の下部フランジ14e,14eとは溶着されずに単に接触しているだけなので(図4のX部参照)、衝突荷重で衝撃吸収部材15,15およびロアメンバ14,14は上下方向に一層容易に拡開し、確実に圧壊して衝撃吸収効果が更に高められる(図10(B)参照)。
【0044】
またバンパービーム16の車幅方向中央部、つまり左右の衝撃吸収部材15,15間に挟まれた部分(図1の領域Aおよび図2参照)は、その上部および下部側壁16b,16cおよび上部および下部フランジ16d,16eが厚肉に形成されているため、バンパービーム16の車幅方向中央部に入力した衝突荷重を左右のフロントサイドフレーム11,11に効果的に伝達することができる。そしてバンパービーム16の車幅方向外側部、つまり左右の衝撃吸収部材15,15よりも外側部分(図1の領域Bおよび図3参照)は、その上部および下部側壁16b,16cおよび上部および下部フランジ16d,16eが薄肉に形成されているため、前記衝突荷重が左右のロアメンバ14,14に伝達されるのを防止することができるだけでなく、フロントサイドフレーム11,11への入力荷重を増加させることができる。
【0045】
ところで、自動車がオフセット前面衝突して左右一方のフロントサイドフレーム11よりも車幅方向外側位置に衝突荷重が入力した場合、その衝突荷重の多くが左右一方のロアメンバ14に伝達されることになる。この場合、一方のロアメンバ14に入力した大きな衝突荷重がアッパーメンバ13を介してフロントピラー12の前端に伝達され、フロントピラー12およびセンターピラー間にフロントドアが強く挟まれて開かなくなる可能性がある。
【0046】
しかしながら本実施の形態によれば、フロントサイドフレーム11,11の前端およびロアメンバ14,14の前端間を接続する左右の衝撃吸収部材15,15と、車幅方向に延びて左右のロアメンバ14,14の前端間を接続するとともに左右の衝撃吸収部材15,15の前面に接続されるバンパービーム16とを備えるので、左右の衝撃吸収部材15,15の車幅方向の断面が拡大されることで、図10(A)に示すように、自動車がオフセット前面衝突し、例えば左側のフロントサイドフレーム11よりも車幅方向外側位置に衝突荷重が入力した場合、左側の衝撃吸収部材15が圧壊することで右側の衝撃吸収部材15との連結部を支点Pとしてバンパービーム16の左側が後方に移動する。このとき、支点Pから左側のフロントサイドフレーム11までの距離L1に対して左側のロアメンバ14までの距離L2は大きいため、バンパービーム16から左側のロアメンバ14に入力する荷重F2よりも、バンパービーム16から左側のフロントサイドフレーム11に入力する荷重F1の方が大きくなり、かつ衝撃吸収部材15のフロントサイドフレーム11側がロアメンバ14側よりも前後方向長さが長いので、圧壊による衝撃エネルギーの吸収量が増加する。
【0047】
このように、オフセット前面衝突時に、ロアメンバ14に入力する荷重F2を小さくしてフロントサイドフレーム11に入力する荷重F1を大きくすることで、ロアメンバ14からアッパーメンバ13を介してフロントピラー12の前端に伝達される荷重を最小限に抑え、フロントピラー12およびセンターピラー間にフロントドアが強く挟まれて開かなくなるのを防止することができる。
【0048】
次に、図11および図12に基づいて本発明の第2の実施の形態を説明する。
【0049】
図11に示すように、ロアメンバ14はS字状に屈曲する繊維強化樹脂製の本体部14fを有する部材であり、その二つの屈曲部に繊維強化樹脂製の補強部14g,14gが積層される。
【0050】
ロアメンバ14は、プリプレグを金型でプレス成形することで製造される。プリプレグは、カーボンファイバー、グラスファイバー、アラミドファイバー等の繊維よりなる織布やUD(繊維を一方向に引き揃えたシート)に半硬化の熱硬化性樹脂(エポキシ樹脂やポリエステル樹脂等)、もしくは熱可塑性樹脂(ナイロン6やポリプロピレン等の)を含浸させたもので、表面のベタつきはないが金型の形状になじむ柔軟性を有している。熱硬化性樹脂の場合、複数枚のプリプレグを積層状態で金型内に挿入して圧力を加えながら例えば130°C程度に加熱すると、熱硬化性樹脂が硬化してドライカーボン製品のようなオートクレーブ製品が得られる。熱可塑性樹脂の場合、予備加熱した複数枚のプリプレグを積層状態で金型内に挿入して加圧成形し、その後冷却すると製品が得られる。
【0051】
しかしながら、ロアメンバ14のような屈曲部を有する部材を金型成形すると、特に屈曲部の稜線の部分に引っ張り力が作用するため(図11の矢印参照)、その部分で連続繊維が破断して強度が大幅に低下する可能性がある。本実施の形態は、ロアメンバ14を金型でプレス成形する際に、連続繊維を含むプリプレグに不連続繊維を含むプリプレグを積層することで、連続繊維の繊維強化樹脂製の本体部14fの表面に不連続繊維の繊維強化樹脂製の補強部14g,14gを積層する。
【0052】
不連続繊維は、プリプレグを金型でプレス成形するときに引っ張り力が作用しても、繊維どうしが相互に相対移動して破断を免れるため、仮に本体部14fの連続繊維が破断しても、その部分を効果的に補強してロアメンバ14の強度を維持することができる。図12は本体部14fに補強部14g,14gを積層した部分の繊維の状態を示すもので、本体部14fの連続繊維が破断した部分を補強部14g,14gの不連続繊維が補強する様子が模式的に示されている。
【0053】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。
【0054】
例えば、着脱自在な結合手段22の構造は実施の形態に限定されるものではない。
【0055】
また衝撃吸収部材の断面形状も実施の形態に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0056】
11 フロントサイドフレーム
12 フロントピラー
13 アッパーメンバ
14 ロアメンバ
14d 上部フランジ(開口縁)
14e 下部フランジ(開口縁)
14f 本体部
14g 補強部
15 衝撃吸収部材
15g 開放部
16 バンパービーム
16d 上部フランジ(開口縁)
16e 下部フランジ(開口縁)
21 バンパーフェイス
22 着脱自在な結合手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体前後方向に延びる左右のフロントサイドフレーム(11)の前端と、左右のフロントピラー(12)の前端から前下方に延びる左右のアッパーメンバ(13)と、前記左右のフロントサイドフレーム(11)の車幅方向外側で前記左右のアッパーメンバ(13)の先端から前下方に延びる左右のロアメンバ(14)と、前記フロントサイドフレーム(11)の前端および前記ロアメンバ(14)の前端間を接続する左右の衝撃吸収部材(15)と、車幅方向に延びて前記左右のロアメンバ(14)の前端間を接続するとともに前記左右の衝撃吸収部材(15)の前面に接続されるバンパービーム(16)とを備えることを特徴とする自動車の車体前部構造。
【請求項2】
前記衝撃吸収部材(15)は前後方向視で角張った屈曲断面を有するとともに、前記ロアメンバ(14)は車幅方向内側に開放するハット状断面を有しており、前記ロアメンバ(14)は前記衝撃吸収部材(15)の車幅方向外側に開放する開放部(15g)を閉塞するように結合されることを特徴とする、請求項1に記載の自動車の車体前部構造。
【請求項3】
前記ロアメンバ(14)は、その上下の開口縁(14d,14e)のうちの一方の開口縁(14d)だけが前記衝撃吸収部材(15)の開放部(15g)に結合されることを特徴とする、請求項2に記載の自動車の車体前部構造。
【請求項4】
前記バンパービーム(16)は前方に開放するハット状断面を有しており、その開口縁(16d,16e)にバンパーフェイス(21)の後面が結合されることを特徴とする、請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の自動車の車体前部構造。
【請求項5】
少なくとも前記衝撃吸収部材(15)および前記ロアメンバ(14)は繊維強化樹脂製であって溶着により一体化されることを特徴とする、請求項1〜請求項4の何れか1項に記載の自動車の車体前部構造。
【請求項6】
前記衝撃吸収部材(15)は着脱自在な結合手段(22)により前記フロントサイドフレーム(11)に着脱自在に結合され、前記ロアメンバ(14)は着脱自在な結合手段(22)により前記アッパーメンバ(13)に着脱自在に結合されることを特徴とする、請求項1〜請求項5の何れか1項に記載の自動車の車体前部構造。
【請求項7】
前記バンパービーム(16)は繊維強化樹脂製であって前記左右の衝撃吸収部材(15)に結合され、前記バンパービーム(16)の前記左右の衝撃吸収部材(15)の前方部分から車幅方向外側部分の肉厚は、前記左右の衝撃吸収部材(15)よりも車幅方向内側部分の肉厚よりも小さいことを特徴とする、請求項1〜請求項6の何れか1項に記載の自動車の車体前部構造。
【請求項8】
前記バンパービーム(16)、前記衝撃吸収部材(15)および前記ロアメンバ(14)は繊維強化樹脂製であって溶着により一体化されることを特徴とする、請求項1〜請求項7の何れか1項に記載の自動車の車体前部構造。
【請求項9】
前記左右のロアメンバ(14)は、連続繊維の繊維強化樹脂製の本体部(14f)と、前記本体部(14f)の屈曲部に積層される不連続繊維の繊維強化樹脂製の補強部(14g)とから構成されることを特徴とする、請求項1に記載の自動車の車体前部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−52856(P2013−52856A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−267610(P2011−267610)
【出願日】平成23年12月7日(2011.12.7)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】