説明

自動車の後部車体構造

【課題】既存の後部車体構造を有効に利用して、スペアタイヤ支持構造を大型化、重量化することなく、車室スペースを減少することなく、後部座席の後方にスペアタイヤを垂直姿勢で適切に支持すること。
【解決手段】フロアパネル12に形成された荷物収納用凹部12Cの車体前方側傾斜12F面よりタイヤキャリア部材40を立設し、タイヤキャリア部材40の下部近傍にスペアタイヤ100を載置される上面を備えたタイヤ支持フランジ部42Eを設け、タイヤ支持フランジ部42Eより上方に垂直姿勢のスペアタイヤ100を着脱可能に固定するタイヤ固定部58を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の後部車体構造に関し、特に、後部座席の後方にスペアタイヤを垂直姿勢で支持するスペアタイヤ支持構造を含む自動車の後部車体構造に関する。
【背景技術】
【0002】
後部座席後方の荷室にスペアタイヤやパンクタイヤを垂直姿勢で支持するスペアタイヤ支持構造を含む自動車の後部車体構造として、後部座席後方のフロアパネルの平坦面上にねじ止めされたL形ブラケットを有し、L形ブラケットの垂直起立片の車体後方面にパンクタイヤを垂直姿勢で取り付けるもの(例えば、特許文献1)や、後部座席後方のフロアパネル上に配置されたクロスメンバの車体後方面にスペアタイヤを取り付けるもの(例えば、特許文献2)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−16354号公報
【特許文献2】特開2009−132169号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、フロアパネルの平坦面上に取り付けられたL形ブラケットの垂直起立片の車体後方面にパンクタイヤを垂直姿勢で取り付けるものは、L形ブラケットを大型化するなどしてL形ブラケットの車体に対する取付強度を高める必要があり、L形ブラケットによるスペアタイヤ(パンクタイヤ)支持構造が大型化、重量化する。
【0005】
クロスメンバの車体後方面にスペアタイヤを取り付けるものは、スペアタイヤのハブ部をクロスメンバの車体後方面に取り付けるためにクロスメンバの背丈を高くする必要が生じる。このため、クロスメンバが大型化すると共にクロスメンバの車室内に対する突出量が増え、車室スペースを減少することになる。
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、既存の(本来の)後部車体構造を有効に利用して、スペアタイヤ支持構造を大型化、重量化することなく、車室スペースを減少することなく、後部座席の後方にスペアタイヤを垂直姿勢で適切に支持することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による自動車の後部車体構造は、後部座席(17)の後方にスペアタイヤ(100
)を垂直姿勢で支持するスペアタイヤ支持構造を含む自動車の後部車体構造であって、車体後部側に荷物収納用凹部(12C)を形成されたフロアパネル(12)と、前記荷物収納用凹部(12C)の車体前方側傾斜面(12F)より立設されたタイヤキャリア部材(40)とを有し、前記タイヤキャリア部材(40)は、下部近傍に設けられてスペアタイヤを載置される上面を備えたタイヤ支持フランジ部(42E)と、前記タイヤ支持フランジ部(42E)より上方に設けられ前記タイヤ支持フランジ部(42E)上に載置されて垂直姿勢のスペアタイヤ(100)を着脱可能に固定するタイヤ固定部(58)とを有する。
【0008】
この構成によれば、タイヤキャリア部材(40)は、リアフロアパネル(12)の荷物収納用凹部(12C)の車体前方側傾斜面(12F)より垂直に立設されているので、タイヤキャリア部材が水平な平坦面に垂直に立設されているものに比して、同じ大きさの横断面面積でも、傾斜分だけ、リアフロアパネル(12)との接合面を大きく取ることができる。これにより、タイヤキャリア部材(40)を大型化、重量化することなく、タイヤキャリア部材(40)の車体に対する取付強度を十分に得ることができ、車室スペースを減少することなく、後部座席(17)の後方にスペアタイヤ(100)を垂直姿勢で適切に支持することができる。
【0009】
本発明による自動車の後部車体構造は、好ましくは、前記荷物収納用凹部(12C)より車体前方にあって両端を車体前後方向に延在する左右のリアサイドフレーム(10)に接合され車体幅方向に延在する第1のリアフロアクロスメンバ(18)と、前記荷物収納用凹部(12C)に沿って設けられて両端を前記左右のリアサイドフレーム(10)に接合され車体幅方向に延在する第2のリアフロアクロスメンバ(28)と、前記フロアパネル(12)に重合して設けられて前記第1のリアフロアクロスメンバ(18)に接合されたシートベルトアンカ補強メンバ(26)とを有し、前記タイヤキャリア部材(40)は取付ベース部材(42)と支柱部材(44)とにより構成され、取付ベース部材(42)は、前記荷物収納用凹部(12C)の車体前方側傾斜面(12F)に沿って傾斜した傾斜部分(42A)及び前記タイヤ支持フランジ部(42E)とを有し、車体前側にある傾斜上位側を前記フロアパネル(12)を挟んで前記シートベルトアンカ補強メンバ(26)に固定され且つ車体後側にある傾斜下位側を前記フロアパネル(12)を挟んで前記第2のリアフロアクロスメンバ(28)に固定され、支柱部材(44)は、下端を前記取付ベース部材(42)の前記傾斜部分(42A)に接合されて当該取付ベース部材(42)より上方に垂直に延在し、前記タイヤ固定部(58)を有する。
【0010】
この構成によれば、取付ベース部材(42)がシートベルトアンカ補強メンバ(26)を介して第1のリアフロアクロスメンバ(18)と連結されると共に第2のリアフロアクロスメンバ(28)にも連結されるので、既存の本来の後部車体構造を有効に利用して車体に対する取付ベース部材(42)の取付強度を強くすることができる。
【0011】
本発明による自動車の後部車体構造は、好ましくは、前記第2のリアフロアクロスメンバ(28)は、車体前側と車体後側とに前記フロアパネル(12)との接合用フランジ(c、d)を有するハット形横断面形状を有しており、前記取付ベース部材(42)の前記第2のリアフロアクロスメンバ(28)に対する固定部は、前記取付ベース部材(42)を前記第2のリアフロアクロスメンバ(28)の車体前側の前記接合用フランジ(c)に固定する左右2個の前側固定部(48)と、前記取付ベース部材(42)を前記第2のリアフロアクロスメンバ(28)の車体後側の前記接合用フランジ(d)に固定する左右2個の後側固定部(50)とを有し、前記左右2個の後側固定部(50)の車幅方向の離間距離(E)は、前記左右2個の前側固定部(48)の車幅方向の離間距離(B)より短く、前記左右2個の後側固定部(50)より上方位置で且つ車幅方向外側の左右2箇所に前記タイヤ支持フランジ部(42E)が形成されている。
【0012】
この構成によれば、左右のタイヤ支持フランジ部(42E)の左右方向の離間距離を、スペアタイヤ(100)の底部を安定して左右2点で支持するのに適切な離間距離に容易に設定することができる。
【0013】
本発明による自動車の後部車体構造は、好ましくは、更に、前記タイヤ固定部(58)より下方位置で且つ前記タイヤ支持フランジ部(42E)より上方位置に、車幅方向に延在するタイヤ前部当て部材(60)が前記支柱部材(44)に取り付けられている。
【0014】
この構成によれば、タイヤ支持フランジ部(42E)上に載せられたスペアタイヤ(100)をタイヤ前部当て部材(60)に押し付けることにより、スペアタイヤ(100)が垂直姿勢安定してタイヤキャリア部材(40)より支持されるようになる。
【0015】
本発明による自動車の後部車体構造は、好ましくは、更に、前記支柱部材(44)の側面部にジャッキを着脱可能に支持するジャッキ支持部(62)を有する。
【0016】
この構成によれば、支柱部材(44)の側面部をジャッキ(110)の支持部として有効に利用することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明による自動車の後部車体構造によれば、タイヤキャリア部材がリアフロアパネルの荷物収納用凹部の車体前方側傾斜面より垂直に立設されているので、タイヤキャリア部材が水平な平坦面に垂直に立設されているものに比して、同じ大きさの横断面面積でも、傾斜分だけ、リアフロアパネル(12)との接合面を大きく取ることができる。これにより、タイヤキャリア部材を大型化、重量化することなく、タイヤキャリア部材の車体に対する取付強度を十分に得ることができ、車室スペースを減少することなく、後部座席の後方にスペアタイヤを垂直姿勢で適切に支持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明による自動車の後部車体構造の一つの実施形態のスペアタイヤ取付状態での斜視図。
【図2】本実施形態による自動車の後部車体構造のスペアタイヤ取外状態での斜視図。
【図3】本実施形態による自動車の後部車体構造のリアフロアパネル取外状態での平面図。
【図4】本実施形態による自動車の後部車体構造の底面図。
【図5】図1の線V−Vに沿った断面図。
【図6】図1の線VI−VIに沿った断面図。
【図7】本実施形態による自動車の後部車体構造のタイヤキャリ部分のジャッキ取外状態での斜視図。
【図8】本実施形態による自動車の後部車体構造のタイヤキャリ部分のジャッキ取付状態での斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明による自動車の後部車体構造の一つの実施形態を、図1〜図8を参照して説明する。なお、後部車体を構成する部材は、特に断りがない限り鋼材である。また、部材同士の接合は、スポット溶接等によって行われている。
【0020】
図1〜図4に示されているように、後部車体を構成する一つの部材として車体前後方向に延在する左右のリアフロアフレーム(リアサイドフレーム)10が設けられている。リアフロアフレーム10は、ハット形断面形状をしていて、リアフロアパネル12の左右両側部分に接合され、リアフロアパネル12と協働して閉じ断面形状をなしている。
【0021】
左右のリアフロアフレーム10の前端部は、各々、車体前後方向に延在する左右のサイドシル14に接合されていると共に、車体幅方向(左右方向)に延在するミドルクロスメンバ16の左右端部を接合されている。ミドルクロスメンバ16は、リアフロアパネル12と接合されて当該リアフロアパネル12と協働して閉じ断面形状(図5参照)をなし、左右のリアフロアフレーム10の前端部を互いに連結している。左右のリアフロアフレーム10の後端部には、バンパエクステンションメンバ(図示省略)を介してリアバンパ(図示省略)が取り付けられる。
【0022】
リアフロアパネル12は、後部座席17のシート17Aを載置されるシート載置部分12Aと、シート載置部分12Aより車体後方、つまり後部座席17より車体後方にあって荷室の床部をなすスペアタイヤパン部分12Bとを車体前後方向に連続して有する。スペアタイヤパン部分12Bには、下方に大きく窪んだ荷物収納用凹部12Cが形成されている。荷物収納用凹部12Cは、本来は、スペアタイヤ100を水平置きで荷室内に収容するために設けられる凹部である。
【0023】
スペアタイヤパン部分12Bの車体前側には、シート載置部分12Aとの間に車幅方向に全域に亘って平坦な中間平坦部分12Dが存在する。中間平坦部分12Dの上面(車内面)には第1のリアフロアクロスメンバ18が設けられている。第1のリアフロアクロスメンバ18は、図3に示されているように、リアフロアパネル12に形成されている燃料タンクメンテナンス用開口12Eを車幅方向に横切って延在しているため、当該開口12Eへの車内側からのアクセス性を確保するために、左右のリアフロアフレーム10に接合され且つリアフロアパネル12の上面に接合された左右のサイド部材18A、18Bと、開口12Dの直上位置にあって左右端部サイド部材18A、18Bにボルト20によって取り外し可能に連結されたセンタ部材18Cとによって構成されている。
【0024】
サイド部材18A、18Bは、各々、車体前側と車体後側とに溶接フランジ片a、b(図3参照)を有するハット形断面形状をしていて、溶接フランジ片a、bをもってリアフロアパネル12の上面に接合され、リアフロアパネル12と協働して閉じ断面形状をなしている(図5参照)。
【0025】
サイド部材18A、18Bの前側の溶接フランジ片aには、チャイルドシート取付用のアンカ24がリアフロアパネル12と共に接合されている。左右の部材18A、18Bの溶接フランジ片a、bの双方には、開口12Eを取り囲むようにリアフロアパネル12の車幅方向中央部に重合して設けられた板状の一枚のシートベルトアンカ補強メンバ26がリアフロアパネル12を挟んで接合されている。シートベルトアンカ補強メンバ26は、リアフロアパネル12と共に第1のリアフロアクロスメンバ18の左右の部材18A、18Bに接合されることにより、アンカ24を取り付けられている左右の部材18A、18Bの強度を高める補強メンバである。
【0026】
スペアタイヤパン部分12Bの下底面(車外面)には荷物収納用凹部12Cの外側に沿って第2のリアフロアクロスメンバ28が設けられている。第2のリアフロアクロスメンバ28は、車体前側と車体後側とに溶接フランジ片c、d(図3参照)を有するハット形断面形状をしていて、荷物収納用凹部12Cの凹部形状に倣った形状して荷物収納用凹部12Cに沿って車体幅方向に延在し、溶接フランジ片c、dをもってリアフロアパネル12の下底面に接合され、リアフロアパネル12と協働して閉じ断面形状(図5参照)をなしている共に、左右端部を左右のリアサイドフレーム10に接合されている。
【0027】
第2のリアフロアクロスメンバ28のリアサイドフレーム10に対する接合部近傍には、第2のリアフロアクロスメンバ28の左右端部近傍と左右のリアサイドフレーム10とに接合されたアウトリガー30が設けられている。アウトリガー30を含む第2のリアフロアクロスメンバ28とリアサイドフレーム10との接合部と、リアサイドフレーム10の車体前側部分との間には、リアサスペンション機構の取付部が設置される。図4において、符号P1はリアサイドフレーム10の車体前側部分に設定されたリアサスペンションアームの前部取付点を、符号P2はアウトリガー30に設定されたリアサスペンションアームの後部取付点を、符号P3は第2のリアフロアクロスメンバ28とリアサイドフレーム10との接合部に設定されたリアサスペンション用スプリングの取付点を各々示している。
【0028】
スペアタイヤパン部分12Bの車幅方向中央部には荷物収納用凹部12Cの下底面(車外面)に沿ってリアセンタフレーム32が設けられている。リアセンタフレーム32は、ハット形断面形状をしていてリアフロアパネル12の下底面に接合され、リアフロアパネル12と協働して閉じ断面形状(図5参照)をなしている。リアセンタフレーム32の前端部は第2のリアフロアクロスメンバ28の背面(車体後方面)に接合されている。これにより、リアセンタフレーム32は、後突荷重を第2のリアフロアクロスメンバ28に伝達する衝突荷重伝達メンバとして作用する。リアセンタフレーム32の後端部には、牽引用フック34(図2参照)が取り付けられている。
【0029】
スペアタイヤパン部分12Bには、荷物収納用凹部12Cの車体前方側傾斜面12Fよりタイヤキャリア部材40が立設されている。タイヤキャリア部材40は、図2、図3に示されているように、車幅方向の中央部、つまり、車体前後方向で見てリアセンタフレーム32と重畳する位置にあり、リアフロアパネル12に対する取付部材である取付ベース部材42と、スペアタイヤ100の取付部材である支柱部材44とにより構成されている。
【0030】
取付ベース部材42は、図2、図5、図7、図8に示されているように、荷物収納用凹部12Cの車体前方側傾斜面12Fに沿って傾斜した傾斜部分42Aと、傾斜部分42Aの左右側縁に沿って設けられて車体前方側傾斜面(車内面)12Fに重合する側部フランジ片42Bと、傾斜部分42Aの傾斜上位側に連続し且つ車体前側に延在して中間平坦部分12Dの上面に重合する上位部分42Cと、傾斜部分42Aの傾斜下位側に連続し且つ車体後側に延在して荷物収納用凹部12Cの底部上面に重合する下位部分42Dとを有する。
【0031】
図7、図8に示されているように、上位部分42Cには車体前側の左右二箇所にボルト通し孔46が、下位部分42Dには車体前側の左右二箇所と車体後側の左右二箇所の各々にボルト通し孔48、50が貫通形成されている。
【0032】
上位部分42Cは、ボルト通し孔46に挿入されたボルト52によってリアフロアパネル12を挟んでシートベルトアンカ補強メンバ26に固定されている。下位部分42Dは、前側のボルト通し孔48に挿入されたボルト54によってリアフロアパネル12を挟んで第2のリアフロアクロスメンバ28の前側の接合フランジ片cに固定されていると共に、後側のボルト通し孔50に挿入されたボルト56によってリアフロアパネル12を挟んで第2のリアフロアクロスメンバ28の後側の接合フランジ片dに固定されている。このように取付ベース部材42は、6点のボルト締結によって、本来高い強度を有する第1のリアフロアクロスメンバ18のサイド部材18A、18Bと接合関係にあるシートベルトアンカ補強メンバ26と第2のリアフロアクロスメンバ28とによって強固に固定される。
【0033】
これにより、既存の本来の後部車体構造を有効に利用して車体に対する取付ベース部材42の取付強度を強くすることができる。
【0034】
また、リアフロアパネル12の車内面に固定された取付ベース部材42は、傾斜部分42Aにおいて、側部フランジ片42B、上位部分42C、下位部分42Dと共に車体前方側傾斜面12Fと協働して閉じ箱状をなし、高い剛性を有するものになる。
【0035】
取付ベース部材42は、上述の取付構造と、シートベルトアンカ補強メンバ26と車体幅方向の同じ位置、つまり車体前後方向で見てリアセンタフレーム32と重畳する位置にあることから、センタフレーム32に入力された後突荷重を、シートベルトアンカ補強メンバ26を介して第1のリアフロアクロスメンバ18のサイド部材18A、18Bに分散伝達する衝突荷重伝達メンバとしても作用する。
【0036】
図7に示されているように、最も車体前側にある左右2個のボルト52(ボルト通し孔46)による取付ベース部材42の左右方向の締結離間距離Aと、これより車体後側にある左右2個のボルト54(ボルト通し孔48)による取付ベース部材42の左右方向の締結離間距離(前側固定部の車幅方向の離間距離)Bと、これより更に車体後側にあるボルト56(ボルト通し孔50)による取付ベース部材42の左右方向の締結離間距離(後側固定部の車幅方向の離間距離)Cとを比較すると、A>B>Cの関係にある。つまり、左右2個のボルト56による下位部分42Dの後側固定部の車幅方向の離間距離(C)は、左右2個のボルト54による前側固定部の車幅方向の離間距離(B)より短い。
【0037】
このように、取付ベース部材42の車体に対する左右方向の締結離間距離が車体前側に進むほど大きくなっていることは、取付ベース部材42に伝達された後突荷重を、第2のリアフロアクロスメンバ28と第1のリアフロアクロスメンバ18のサイド部材18A、18Bとに車体幅方向外方へ左右に分散伝達することを高めることに寄与する。
【0038】
取付ベース部材42には、ボルト56による下位部分42Dの左右2個の後側固定部より上方位置で、且つ車幅方向外側の左右2箇所に、スペアタイヤ100を載置される略水平な上面を備えたタイヤ支持フランジ部42Eが折曲形成されている。このようにしてタイヤキャリア部材40の下部近傍にタイヤ支持フランジ部42Eが設けられる。タイヤ支持フランジ部42Eは、下位部分42Dより高さHだけ高い位置にあることにより、タイヤ支持フランジ部42E上に載置されるスペアタイヤ100と荷物収納用凹部12Cの底部とのクリアランスを確保してスペアタイヤ100とボルト56の頭部との干渉が回避される。
【0039】
左右のタイヤ支持フランジ部42Eの左右方向(車幅方向)の離間距離は、ボルト56(ボルト通し孔50)による取付ベース部材42の左右締結ピッチ離間距離Cより大きいが、ボルト54(ボルト通し孔48)による取付ベース部材42の左右締結ピッチ離間距離Bより小さく、スペアタイヤ100の底部を安定して左右2点で支持するのに適切な離間距離になっている。
【0040】
支柱部材44は、左右側片44Aと後面部44Bとによる溝形横断面形状をしており、下端は取付ベース部材42の傾斜部分42Aに整合する傾斜した形状になっている。支柱部材44の下端部の左右両側、つまり左右側片44Aの下端には、傾斜部分42Aにぴったり整合して傾斜部分42Aに接合された接合フランジ片eと、上位部分42Cに接合された接合フランジ片fとが設けられている。支柱部材44の後面部44Bの下端には下位部分42Dに接合された接合フランジ片gが設けられている。このようにして支柱部材44は、取付ベース部材42に剛固に接合され、傾斜部分42Aより上方に垂直(鉛直)に延在する支柱をなしている。
【0041】
左右側片44Aは、下端側においては、傾斜部分42Aを水平面に投影した車体前後方向の全長と上位部分42Cおよび下位部分42Dの車体前後方向の一部に亘る車体前後方向長を有しているが、下端より中間高さ位置までは車体後方に向けて傾斜した前縁をもって下端より上方に向かうに従って車体前後方向長が短くなっており、中間高さ位置より上端までの車体前後方向長は、下端側に比して十分に短いものになっている。
【0042】
支柱部材44の後面部44Bの中間高さ位置部分、タイヤ支持フランジ部42Eの上方には、当該後面部44Bより車体後方に突出した台形状(コーン形状)をしたタイヤ固定ブラケット(タイヤ固定部材)58が接合されている。タイヤ固定ブラケット58にはタイヤ支持フランジ部42E上に載置されて垂直姿勢にあるスペアタイヤ100のハブ中心部がタイヤ取付ボルト59によって着脱可能に固定される。
【0043】
支柱部材44の後面部44Bの上端、つまり、タイヤ固定ブラケット58より上方位置には車体後方に向けて突出したタイヤ前部当て面部44Cが形成されている。後面部44Bの下端近傍、つまり、タイヤ固定ブラケット58より下方位置には、車幅方向に延在するタイヤ前部当て部材60が接合されている。タイヤ前部当て部材60は、ボルト56による取付ベース部材42の左右締結ピッチ離間距離(後側固定部の車幅方向の離間距離)Cより長く、左右2個のボルト54による取付ベース部材42の左右方向の締結離間距離(前側固定部の車幅方向の離間距離)Bとほぼ同等の車幅方向長を有して上部タイヤ当て面部44Cと同等に後面部44Bより車体後方に向けて突出している。
【0044】
タイヤ支持フランジ部42E上に載置されてハブ中心部をタイヤ取付ボルト59によってタイヤ固定ブラケット58に固定されたスペアタイヤ100は、タイヤ上部をタイヤ前部当て面部44Cに、タイヤ下部をタイヤ前部当て部材60に各々当たられて垂直姿勢で、タイヤキャリア部材40に取り外し可能に取り付けられる。このように、タイヤ支持フランジ部42E上に載せられたスペアタイヤ100を、上方中央のタイヤ前部当て面部44Cと下方左右に亘るタイヤ前部当て部材60とに押し付けることにより、いわゆる3点支持構造となり、スペアタイヤ100が垂直姿勢安定してタイヤキャリア部材40より支持されるようになる。
【0045】
支柱部材44の左右側片44Aの一方の側には、図7、図8に示されているように、ジャッキ支持部材62が溶接部62Aによって固定されている。ジャッキ支持部材62は、鋼鉄製線材を折曲したものにより構成され、折りたたまれたジャッキ110を上下方向に出し入れ可能に抱きかかえるジャッキ囲み部分62Bと、ジャッキ110の基台部110Aの下縁に係合してジャッキ110の下方への抜け出しを阻止する下部係止部62Cとを一体に有する。
【0046】
ジャッキ支持部材62に対するジャッキ110の取り付けは、ジャッキねじ軸110Bをジャッキ縮小方向に回してジャッキ110を最大限折りたたんだ状態で、上方よりジャッキ囲み部分62B内に、基台部110Aの下縁が下部係止部62Cに当接するまで、差し込み、その後にジャッキねじ軸110Bをジャッキ拡張方向に回してジャッキ110を少し拡張させてジャッキ囲み部分62Bで突っ張るようにすればよく、がた付きがない状態で、ジャッキ110をジャッキ支持部材62に取り付けることができる。なお、ジャッキ110の取り出しは、上述の取り付けの逆の操作によって行うことができる。
【0047】
上述したように、タイヤキャリア部材40は、取付ベース部材42をもってリアフロアパネル12の荷物収納用凹部12Cの車体前方側傾斜面12Fより垂直に立設されているので、タイヤキャリア部材が中間平坦部分12D等の水平な平坦面に垂直に立設されているものに比して、同じ大きさの横断面面積でも、傾斜分だけ、リアフロアパネル12との接合面を大きく取ることができ、つまり、接合フランジ片eの長さを長く取ることができる。これにより、タイヤキャリア部材40を大型化、重量化することなく、タイヤキャリア部材40の車体に対する取付強度を十分に得ることができ、車室スペースを減少することなく、後部座席17の後方にスペアタイヤ100を垂直姿勢で適切に支持することができる。
【0048】
タイヤキャリア部材40は、第1のリアフロアクロスメンバ18等のクロスメンバの車体後方面に取り付けるものではないので、クロスメンバの背丈を高くする必要がない。このことにより、クロスメンバが大型化することや、クロスメンバの車室内に対する突出量が増えて車室スペースを減少することがない。
【0049】
これらのことにより、図1、図5に示されているように、後部座席17の背もたれ部17Bとタイヤキャリア部材40との間に、車幅方向一杯で車体前後方向に大きい空間を確保することができ、この空間を電気自動車やハイブリット車の充電池ユニット120の配置部等に有効に利用できるようになり、電気自動車やハイブリット車でない既存の自動車において、車体構成を大きく変更することなく充電池ユニット120の配置場所を確保できる。
【0050】
また、スペアタイヤ100を収容するために形成されていた荷物収納用凹部12Cは、他の荷物の収納部として利用でき、後部荷室の荷物収納容積が大きくなる。また、支柱部材44の側面部をジャッキ110の支持部として有効に利用していることによっても、後部荷室の荷物収納容積が大きくなる。
【0051】
本実施形態では、タイヤキャリア部材40が取付ベース部材42と支柱部材44の2部品で構成されているので、取付ベース部材42や支柱部材44の形状の自由度が高くなると共に、プレス成形性がよくなる。
【0052】
なお、図1において符号64は、充電池ユニット120の配置部の上方において後部座席17の背もたれ部17Bとタイヤキャリア部分との間に配置されるリアパーシェルパネルを示している。
【0053】
以上、本発明を、その好適形態実施例について説明したが、当業者であれば容易に理解できるように、本発明はこのような実施形態によって限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。たとえば、タイヤキャリア部材40は取付ベース部材42と支柱部材44とが一体構成であってもよい。また、上記実施形態に示した構成要素は必ずしも全てが必須なものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて適宜取捨選択することが可能である。
【符号の説明】
【0054】
10 リアフロアフレーム
12 リアフロアパネル
12B スペアタイヤパン部分
12C 荷物収納用凹部
12F 車体前方側傾斜面
14 サイドシル
16 ミドルクロスメンバ
17 後部座席
18 第1のリアフロアクロスメンバ
26 シートベルトアンカ補強メンバ
28 第2のリアフロアクロスメンバ
32 リアセンタフレーム
40 タイヤキャリア部材
42 取付ベース部材
42A 傾斜部分
42E タイヤ支持フランジ部
44 支柱部材
44C タイヤ前部当て面部
58 タイヤ固定ブラケット
62 ジャッキ支持部材
100 スペアタイヤ
110 ジャッキ
120 蓄電池ユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
後部座席の後方にスペアタイヤを垂直姿勢で支持するスペアタイヤ支持構造を含む自動車の後部車体構造であって、
車体後部側に荷物収納用凹部を形成されたフロアパネルと、前記荷物収納用凹部の車体前方側傾斜面より立設されたタイヤキャリア部材とを有し、
前記タイヤキャリア部材は、下部近傍に設けられてスペアタイヤを載置される上面を備えたタイヤ支持フランジ部と、前記タイヤ支持フランジ部より上方に設けられ前記タイヤ支持フランジ部上に載置されて垂直姿勢のスペアタイヤを着脱可能に固定するタイヤ固定部とを有する後部車体構造。
【請求項2】
前記荷物収納用凹部より車体前方にあって両端を車体前後方向に延在する左右のリアサイドフレームに接合され車体幅方向に延在する第1のリアフロアクロスメンバと、前記荷物収納用凹部に沿って設けられて両端を前記左右のリアサイドフレームに接合され車体幅方向に延在する第2のリアフロアクロスメンバと、前記フロアパネルに重合して設けられて前記第1のリアフロアクロスメンバに接合されたシートベルトアンカ補強メンバとを有し、
前記タイヤキャリア部材は取付ベース部材と支柱部材とにより構成され、取付ベース部材は、前記荷物収納用凹部の車体前方側傾斜面に沿って傾斜した傾斜部分及び前記タイヤ支持フランジ部とを有し、車体前側にある傾斜上位側を前記フロアパネルを挟んで前記シートベルトアンカ補強メンバに固定され且つ車体後側にある傾斜下位側を前記フロアパネルを挟んで前記第2のリアフロアクロスメンバに固定され、前記支柱部材は、下端を前記取付ベース部材の前記傾斜部分に接合されて当該取付ベース部材より上方に垂直に延在し、前記タイヤ固定部を有する請求項1に記載の後部車体構造。
【請求項3】
前記第2のリアフロアクロスメンバは、車体前側と車体後側とに前記フロアパネルとの接合用フランジを有するハット形横断面形状を有しており、
前記取付ベース部材の前記第2のリアフロアクロスメンバに対する固定部は、前記取付ベース部材を前記第2のリアフロアクロスメンバの車体前側の前記接合用フランジに固定する左右2個の前側固定部と、前記取付ベース部材を前記第2のリアフロアクロスメンバの車体後側の前記接合用フランジに固定する左右2個の後側固定部とを有し、
前記左右2個の後側固定部の車幅方向の離間距離は、前記左右2個の前側固定部の車幅方向の離間距離より短く、前記左右2個の後側固定部より上方位置で且つ車幅方向外側の左右2箇所に前記タイヤ支持フランジ部が形成されている請求項2に記載の後部車体構造。
【請求項4】
前記タイヤ固定部より下方位置で且つ前記タイヤ支持フランジ部より上方位置に、車幅方向に延在するタイヤ前部当て部材が前記支柱部材に取り付けられている請求項2または3に記載の後部車体構造。
【請求項5】
前記支柱部材の側面部にジャッキを着脱可能に支持するジャッキ支持部を有する請求項2から4の何れか一項に記載の後部車体構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−43567(P2013−43567A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−182995(P2011−182995)
【出願日】平成23年8月24日(2011.8.24)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】