説明

自動車の操作ペダル後退防止構造

【課題】ダッシュパネル後退時には結合部がサポートブラケットの揺動方向と略同じ後方に移動し、サポートブラケット後部の後方揺動を促進してペダル後退を防止する自動車の操作ペダル後退防止構造を提供する。
【解決手段】ダッシュパネル3に支持され、先端部に操作ペダル8のアーム上端部をペダル支持軸33に軸支するブラケット30と、ブラケットより上方にてダッシュパネル3に車幅方向軸中心に軸支されるレバー部材40と、レバー部材40の後方離間位置の車体剛性部材60とを備え、ブラケットには、その後端部を後方に揺動可能な揺動許容部36を設け、
レバー部材40の後部がダッシュパネル後退時に車体剛性部材60に衝突して回動する当接部46を有し、レバー部材40の下部が、ブラケットの揺動許容部36より後方の結合部39,33に揺動不能かつ車体剛性部材60からの衝突荷重にて離脱する強度で結合されたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両の前面衝突時にダッシュパネル後方に配設された操作ペダルの踏面が後方へ移動するのを抑制するような自動車の操作ペダル後退防止構造に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動車の前面衝突時にエンジンが後退して該エンジンがダッシュパネルに当接すると、ダッシュパネルおよび該ダッシュパネルの後方に配設された操作ペダルが後退し、乗員の足に衝突荷重が伝達される。
このような問題点を解決するために従来から各種の自動車の操作ペダル後退防止構造が既に発明されている(特許文献1、2参照)。
【0003】
特許文献1に開示された自動車の操作ペダル後退防止構造は、ダッシュパネル上部に該ダッシュパネルから車室側へ大きく延びるカウルパネル(カウル部)を備えた自動車において、前端をダッシュパネルに固定し、後端をカウルパネルに固定した取付けブラケットに対して離脱可能に締結した第1ブラケットと、前端下部を第1ブラケットに揺動自在に枢着すると共に、後端上部を取付けブラケットに離脱可能に締結し、操作ペダルを揺動可能に枢着する第2ブラケットと、一端を取付けブラケットに係止して他端を第1ブラケットの後端に設けたワイヤガイド部を経由して第2ブラケットに係止し、前面衝突時には、第1ブラケットの後方移動により第2ブラケットの後端を第1ブラケットとの枢着点を中心として後下方へ回動させ、操作ペダル上部を上下方向略中央に設けた支点を中心として後下方に回動させるワイヤ部材と、前面衝突時に第1ブラケットが取付けブラケットから離脱後、第1ブラケットのワイヤガイド部の車両上方への移動を規制する上方移動規制手段とを設けたものである。
【0004】
この従来構造によれば、前面衝突時に、第1ブラケットと第2ブラケットとは、共に取付けブラケットから離脱して車両後方側に移動する。この後方移動の際に、上方移動規制手段が、第1ブラケットのワイヤガイド部の上方移動を規制する。そして、後方移動が進行すると、取付けブラケットに一端を係止したワイヤ部材が、ワイヤガイド部を経由して、確実に他端に係止した第2ブラケットを、後方側に引き込んで後下方へ回動させ、操作ペダル上部をその略中央に設けた支点を中心として後下方に回動させ、該操作ペダルの踏面を車両後方に移動させるものである。
【0005】
しかし、この特許文献1に開示されたものは、ワイヤ部材が必要なうえ、ダッシュパネル上部に該ダッシュパネルから車室側へ大きく延びるカウルパネル(カウル部)を備えた車体構造に限定され、車室側への延び量が小さいカウルパネルを備えた車体構造には適用することができない難点があった。
【0006】
一方、特許文献2には、ダッシュパネル後面にブラケットを取付け、このブラケットに操作ペダルのアーム上端部を軸支すると共に、該軸支部には後方に略水平に延びるアームレバーを取付ける一方、インパネメンバには該メンバから下方に延びる当接部を設け、車両前面衝突によるダッシュパネルの後退時に、アームレバーが当接部に衝合し、このアームレバーで上記ブラケットを破断して、操作ペダルをフリーにする自動車の操作ペダル後退防止構造が開示されている。
【0007】
この特許文献2に開示された従来構造においては、ダッシュパネル上部から車室側への延び量が小さいカウルパネルをもった車体構造に対しても操作ペダル後退防止構造を適用することができる利点がある反面、上述のアームレバーの後部と当接部の下部との両者にはガイド面を設ける必要があり、また、これら両者の位置関係を厳正に設定する関係上、アームレバーと当接部との高い取付け精度、寸法精度が要求される難点があった。
【特許文献1】特開2006−139345号公報
【特許文献2】特開2001−30884号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、この発明は、ダッシュパネルに支持され、その先端部に操作ペダル上端を軸支するサポートブラケットと、該サポートブラケットより上方においてダッシュパネルに車幅方向軸中心に軸支されるレバー部材と、レバー部材から後方に離間して設けられた車体剛性部材とを備え、サポートブラケットにはその後端部を後方に揺動可能な揺動許容部を設け、レバー部材の後部にはダッシュパネル後退時に車体剛性部材に衝突して回動する方向に荷重を受ける当接部を備え、レバー部材の下部を、サポートブラケットの揺動許容部よりも後方に設けられた結合部に揺動不能かつ車体剛性部材からの衝突荷重にて離脱する強度で結合することにより、通常時にはレバー部材がペダル支持軸とダッシュパネル側の車幅方向軸とを連結する部材を兼ねて、このレバー部材がペダル支持剛性の向上に寄与し、これにより、該レバー部材を軽量化することができ、ダッシュパネル後退時には上記結合部がサポートブラケットの揺動方向と略同じ後方に移動するので、従来構造のガイド面やワイヤなどを設けることなく、サポートブラケット後部の後方揺動を促進してペダル後退を防止することができる自動車の操作ペダル後退防止構造の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明による自動車の操作ペダル後退防止構造は、ダッシュパネル後方に配設される操作ペダルの支持構造において、上記ダッシュパネルに支持されると共に、その先端部に操作ペダルのアーム上端部を車幅方向に延びるペダル支持軸に軸支するサポートブラケットと、該サポートブラケットよりも上方において上記ダッシュパネルに車幅方向軸中心に軸支されるレバー部材と、該レバー部材から後方に離間して位置する車体剛性部材とが設けられており、上記サポートブラケットは、その後端部を後方に揺動可能な揺動許容部が設けられ、上記レバー部材の前部が上記ダッシュパネルに軸支され、上記レバー部材の後部が上記ダッシュパネル後退時に上記車体剛性部材に衝突して回動する方向に衝突荷重を受ける位置に当接部を有するように形成され、上記レバー部材の下部が、上記サポートブラケットの揺動許容部よりも後方に設けられた結合部に揺動不能で、かつ上記車体剛性部材からの衝突荷重にて離脱する強度で結合されたものである。
上記構成によれば、通常時においては、レバー部材がペダル支持軸とダッシュパネル側の車幅方向軸とを連結する部材を兼ねるので、このレバー部材がペダル支持剛性の向上に寄与する。これにより、該レバー部材の軽量化を図ることができる。
【0010】
また、前面衝突によるダッシュパネル後退時においては、上記結合部がサポートブラケットの揺動方向と略同じ後方に移動するので、従来のようなガイド面やワイヤなどを設けることなく、サポートブラケット後部の後方揺動を促進して、ペダル後退を防止することができる。
さらに、レバー部材と車体剛性部材との間は離間しているので、次のような効果がある。
【0011】
すなわち、この離間構造によりレバー部材と車体剛性部材との間の組付け精度は何等要求されない。しかも、軽度の前面衝突時には、その後の2次衝突を回避するため、操作ペダルを乗員が操作する必要があり、この軽衝突時には操作ペダルは通常時の状態を維持することができるので、乗員による操作ペダルの操作が可能となる。
加えて、上記構成の操作ペダル後退防止構造は、ダッシュパネル上部に設けられるカウル部の有無にかかわらず、採用することができる。
【0012】
この発明の一実施態様においては、上記サポートブラケットの揺動許容部の揺動中心部と、上記サポートブラケットの上記レバー部材との結合部と、上記レバー部材と上記ダッシュパネルとの軸支部とが、側面視において後方に突出するトラス形状に連結されるように配設されたものである。
上記構成によれば、上記3点(揺動中心部、結合部、軸支部の3点)を上述の如き後方に突出するトラス形状に連結したので、このトラス構造により、ペダル支持剛性の向上と軽量化の両立を図ることができる。
【0013】
この発明の一実施態様においては、上記サポートブラケットの揺動許容部は、揺動中心部が上記サポートブラケットの上下方向の中央よりも下方部位に設けられたものである。
上記構成によれば、上記揺動中心部を下方部位に設けたので、トラス(truss、三角形の意)の大型化を図ることができると共に、サポートブラケット後部の後退量の拡大を図ることができる。
【0014】
この発明の一実施態様においては、上記サポートブラケットの揺動許容部は、伸縮方向よりも揺動方向に脆弱な形状の揺動脆弱部であることを特徴とする。
上記構成によれば、揺動脆弱部により、部品点数の増加を招くことなく、サポートブラケット後部の変位を許容することができる。
【0015】
この発明の一実施態様においては、上記サポートブラケットの揺動許容部は、回動軸であることを特徴とする。
上記構成によれば、サポートブラケット後部は回動軸を支点として変位するので、確実にサポートブラケット後部の変位を許容することができる。
【0016】
この発明の一実施態様においては、上記レバー部材は、上記結合部からペダル支持軸まで拡がる側壁部を有し、該側壁部に、揺動時に上記ペダル支持軸がスライドして後退可能な溝部が設けられたものである。
上記構成によれば、上記側壁部により通常時におけるレバー部材それ自体の剛性向上と、ペダル支持剛性の向上とを図ることができ、ダッシュパネル後退時には、溝部周辺の側壁部にてペダル支持軸を確実に押圧することができ、これにより、ペダル後退を確実に防止することができる。
【発明の効果】
【0017】
この発明によれば、ダッシュパネルに支持され、その先端部に操作ペダル上端を軸支するサポートブラケットと、該サポートブラケットより上方においてダッシュパネルに車幅方向軸中心に軸支されるレバー部材と、レバー部材から後方に離間して設けられた車体剛性部材とを備え、サポートブラケットにはその後端部を後方に揺動可能な揺動許容部を設け、レバー部材の後部にはダッシュパネル後退時に車体剛性部材に衝突して回動する方向に荷重を受ける当接部を備え、レバー部材の下部を、サポートブラケットの揺動許容部よりも後方に設けられた結合部に揺動不能かつ車体剛性部材からの衝突荷重にて離脱する強度で結合したので、通常時にはレバー部材がペダル支持軸とダッシュパネル側の車幅方向軸とを連結する部材を兼ねて、このレバー部材がペダル支持剛性の向上に寄与し、これにより、該レバー部材を軽量化することができ、ダッシュパネル後退時には上記結合部がサポートブラケットの揺動方向と略同じ後方に移動するので、従来構造のガイド面やワイヤなどを設けることなく、サポートブラケット後部の後方揺動を促進してペダル後退を防止することができる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
レバー部材の軽量化を図りつつ、サポートブラケット後部の後方揺動を促進して、ペダル後退を防止するという目的を、ダッシュパネル後方に配設される操作ペダルの支持構造において、上記ダッシュパネルに支持されると共に、その先端部に操作ペダルのアーム上端部を車幅方向に延びるペダル支持軸に軸支するサポートブラケットと、該サポートブラケットよりも上方において上記ダッシュパネルに車幅方向軸中心に軸支されるレバー部材と、該レバー部材から後方に離間して位置する車体剛性部材とが設けられており、上記サポートブラケットは、その後端部を後方に揺動可能な揺動許容部が設けられ、上記レバー部材の前部が上記ダッシュパネルに軸支され、上記レバー部材の後部が上記ダッシュパネル後退時に上記車体剛性部材に衝突して回動する方向に衝突荷重を受ける位置に当接部を有するように形成され、上記レバー部材の下部が、上記サポートブラケットの揺動許容部よりも後方に設けられた結合部に揺動不能で、かつ上記車体剛性部材からの衝突荷重にて離脱する強度で結合されるという構成にて実現した。
【実施例1】
【0019】
この発明の一実施例を以下図面に基づいて詳述する。
図1は自動車の操作ペダル後退防止構造を示す側面図、図2は図1の要部を車室内側から見た状態で示す正面図、図3は図2の斜視図、図4は図1の要部拡大側面図である。
【0020】
図1において、エンジンルーム1と車室2とを前後方向に仕切るダッシュパネルとしてのダッシュロアパネル3を設け、このダッシュロアパネル3の下部には、後方に向けて略水平に延びるフロアパネル4を接合固定して、このフロアパネル4で車室2の底面を形成している。
また、上述のダッシュロアパネル3の上部には、ダッシュアッパパネル5とカウルパネル6とを備えて、車幅方向に延びるカウル部7を設けるが、このカウル部7はダッシュロアパネル3の一般面に対して車室2側への突出量が僅少となるように形成されている。
【0021】
つまり、この実施例1の自動車の操作ペダル後退防止構造は、カウル部7の車室2内への突出量が僅少な車体に対しても充分に適用することができるように構成するものである。なお、この点に関しては後述する実施例2、実施例3についても同様である。
【0022】
ダッシュロアパネル3の後方に配設される操作ペダルとしてのブレーキペダル8は、ベースプレート10と、上側ブラケット20と、サポートブラケットとしての下側ブラケット30と、レバー部材としての後退防止レバー40とを備えたペダル支持ユニットU1に支持される。
ここで、上述のブレーキペダル8は、上下方向に延びるアーム部8Aと、踏面を形成するペダル部8Bとを備え、アーム部8Aの上下方向の中間部におけるプッシュロッド連結部8Cにはプッシュロッド9(詳しくは、ブレーキブースタ50側のプッシュロッド9の後端部)を連結し、ブレーキペダル8の踏込み時に該プッシュロッド9を介して、ダッシュロアパネル3のエンジンルーム1側の前面に取付けられたブレーキブースタ(制動倍力装置)50を作動させるように構成している。
【0023】
図2、図3に示すように、上述のベースプレート10は、プッシュロッド9を貫通させる円形の開口部11を有し、この開口部11の周辺4箇所が、ボルト12、ナット13等の複数の締結部材を用いて、ブレーキブースタ50の取付け片51と共に、ダッシュロアパネル3の車室内側面に対して共締め固定される。
【0024】
図1〜図4に示すように、上述のベースプレート10上部の車室側の面に固定された上側ブラケット20は、左右の側片21,22と、これら各側片21,22を車幅方向に連結する前片23とを備え、側片21,22および前片23を一体形成したコ字状断面構造のブラケットであって、この上側ブラケット20は、ボルト24、ナット25などの締結部材を用いて、ベースプレート10と共に、ダッシュロアパネル3の後面(車室側の面)に共締め固定されている。
【0025】
図2〜図4に示すように、サポートブラケットを構成する下側ブラケット30は、左右に分割された一対のブラケットであって、左右の各下側ブラケット30,30は左右対称に形成されている。
つまり、該下側ブラケット30は、前側に位置する取付け片31と、この取付け片31から後方かつ上方に延びるサポート片32とを一体に屈曲形成したもので、左右一対の下側ブラケット30は、その取付け片31が、上述のボルト12、ナット13を用いて、取付け片51、ベースプレート10と共に、ダッシュロアパネル3に対して、共締め固定されている。
【0026】
図4、図6(但し、図6は図2のB−B線矢視断面図)に示すように、一対の下側ブラケット30,30は、その先端部にブレーキペダル8のアーム部8Aの上端部を車幅方向に延びるペダル支持軸33(車幅方向軸)に軸支するサポートブラケットである。
詳しくは、図6に示すように、ペダル支持軸33の外周には、カラー34を介して筒部35を装着し、ブレーキペダル8のアーム部8Aの上端部は、上記筒部35に溶接固定されている。
【0027】
また、図4、図7(但し、図7は図1のC−C線に沿う部分矢視断面図)に示すように、一対の下側ブラケット30,30には、その後端部を後方に揺動可能な揺動許容部36が設けられている。これらの揺動許容部36は、伸縮方向よりも揺動方向に脆弱な形状の揺動脆弱部であって、この実施例では、図4、図7に示すように、左右の下側ブラケット30,30のサポート片32,32からそれぞれ対向接近する側に膨出し、かつ上側が広くなる側面視略三角形状の膨出部にて上記揺動許容部36が形成されている。
【0028】
さらに、図4に示すように、下側ブラケット30の揺動許容部36は、揺動中心部37が該下側ブラケット30の上下方向の中央よりも下方部位に設けられている。つまり、上下方向の全高、より好ましくは更にその上下幅に対してその中央より下側に揺動中心部37を設けることでトラス形状の大型化を図るように構成したものである。
【0029】
一方、図4に示すように、下側ブラケット30よりも上方において上述のダッシュロアパネル3に車幅方向軸41(以下、単に横軸41と略記する)中心に軸支されるレバー部材としての後退防止レバー40を設けている。
【0030】
図1〜図3に示すように、該後退防止レバー40は側面視三角形状の左右の側壁部42,43と、これら左右の各側壁部42,43を車幅方向に連結する上壁部44とを、一体的に連結したレバー部材である。
また、図1〜図3に示すように、上述の後退防止レバー40は上側ブラケット20の内側で、かつ左右の各下側ブラケット30,30の外側に位置するように配設されている。
【0031】
図5は図2のA−A線矢視断面図であって、上述の横軸41は上側ブラケット20の各側片21,22間に横架されており、後退防止レバー40の軸支部は上側ブラケット20の内側において該横軸41に軸支されている。なお、上記横軸41の外周にはカラー45が装着されている。つまり、後退防止レバー40は、その前部が横軸41を介してダッシュロアパネル3に軸支されたものである。
【0032】
さらに、図1、図4に示すように、後退防止レバー40の後方には、該後退防止レバー40から後方に離間して位置する車体剛性部材としてのインパネメンバ60が設けられている。このインパネメンバ60は車幅方向に延びる閉断面構造の車体側部材であって、図示しないインストルメントパネル等を支持する車体剛性部材である。
そして、上述の後退防止レバー40の後部には、車両衝突によるダッシュロアパネル3の後退時に、上記インパネメンバ60に衝突して該レバー40を回転させる方向(図1、図4の反時計方向に回転させる方向)に衝突荷重を受ける位置に当接部46が形成されている。
【0033】
図1、図4に示すように、上述の後退防止レバー40の側壁部42,43の下部には、溝部としての長孔47を形成し、図6に示すように、これらの各長孔47,47を下側ブラケット30の外側においてペダル支持軸33に装着している。該ペダル支持軸33は長尺のボルトで構成されており、このペダル支持軸33の先端ネジ部はナット38により所定の締結力で締結されている。
また、図1、図4に示すように、下側ブラケット30の揺動許容部36とペダル支持軸33との前後方向の中間部位において、後退防止レバー40の側壁部42,43と下側ブラケット30のサポート片32,32とは所定の結合(溶接力)でスポット溶接された溶接部39が形成されている。なお、この溶接部39は上述の揺動中心部37よりも上方に配されている方が、下側ブラケット30の揺動を促進する上で好ましい。
【0034】
これにより、レバー部材としての後退防止レバー40の下部が、下側ブラケット30の揺動許容部36よりも後方に設けられた結合部(溶接部39,ナット38で締め付けられたペダル支持軸33の双方のこと)に揺動不能で、かつインパネメンバ60からの衝突荷重にて離脱する強度で結合されたものである。
さらに、上述の後退防止レバー40は少なくとも溶接部39からペダル支持軸33まで拡がる側壁部42,43を有し、これら側壁部42,43には、揺動時に該ペダル支持軸33がスライドして後退可能な溝部としての長孔47,47が設けられている(図4参照)。
【0035】
しかも、図4に側面図で示すように、下側ブラケット30の揺動許容部36の揺動中心部37と、下側ブラケットの後退防止レバー40との結合部(ペダル支持軸33参照)と、後退防止レバー40とダッシュロアパネル3との軸支部(横軸41参照)とが、同図に示すように側面視において後方に突出するトラス形状に連結されるように配設されたものである。
さらに詳しくは、ペダル支持軸33は揺動中心部37および横軸41よりも後方で、かつ横軸41と揺動中心部37との上下方向の中間に位置するものである。
【0036】
このようなトラス構造を形成することにより、通常時におけるブレーキペダル8の支持剛性を高めている。また、通常時において、上記後退防止レバー40で上側ブラケット20と下側ブラケット30とを上下方向に連結しているので、この後退防止レバー40が両者20,30を連結する部材の作用を兼ねており、通常時に該後退防止レバー40がペダル支持剛性の向上に寄与するので、該レバー40の軽量化を図ることができる。
【0037】
さらに、図4に示す溶接部39で下側ブラケット30と後退防止レバー40とを溶接締結すると共に、ペダル支持軸33の位置において、下側ブラケット30と後退防止レバー40とを共締めしており、この共締めによる締結力と、上記溶接部39の溶接力とにより、通常時のペダル支持剛性を確保している。
なお、この実施例では、各要素が図2、図3に示す状態に予めサブアセンブリされたものが、ダッシュロアパネル3に対して組付けられるように構成している。
【0038】
このように構成した自動車の操作ペダル後退防止構造の作用を、以下に説明する。
軽度の衝突時には、その後の2次衝突を防止するために、乗員がブレーキペダル8を操作する必要がある。この実施例では、後退防止レバー40とインパネメンバ60との間に所定の間隔が設けられているので、後退防止レバー40がインパネメンバ60に衝合しない程度の軽度の衝突時においては、乗員はブレーキペダル8を操作して、その後の2次衝突を回避することができる。
【0039】
一方、後退防止レバー40がインパネメンバ60に衝合する車両の前面衝突時には、各要素は図8に実線で示す通常時の状態から同図に仮想線で示す衝突時の状態となる。
すなわち、車両衝突によりエンジンおよびダッシュロアパネル3が後退すると、後退防止レバー40の当接部46にインパネメンバ60が衝合し、後退防止レバー40はその前部の横軸41を支点として図8の反時計方向へ回動しようとする。
この場合、溶接部39およびペダル支持軸33は下側ブラケット30の揺動許容部36を後方へ引き伸ばす方向に動いた後に、溶接部39は破断され、下側ブラケット30はその揺動中心部37を支点として、該ブラケット30の後部が後方かつ下方へ確実に揺動する。
【0040】
また、ペダル支持軸33は、後退防止レバー40の回動によりその位置が変位する長孔47に沿って後方かつ下方へ強制移動(図8の矢印a参照)させられるので、ブレーキペダル8の踏面を形成するペダル部8Bは、プッシュロッド連結部8Cを支点として、図8の実線位置から同図の仮想線位置へ前方移動して、ブレーキペダル8の後退を防止することができる。
【0041】
ここで、車両前面衝突によるパニック時には、ブレーキペダル8に対して通常時のペダル踏力よりも極めて大きい踏力が作用する(いわゆるパニックブレーキ操作)。
上述のペダル支持軸33に付勢される力は前下方向または前方向となり、この付勢力に対抗するように、ペダル支持軸33、揺動中心部37および横軸41を結ぶトラス構造となっている。
【0042】
また、下側ブラケット30の後部は後ろ下に回動する構造となっており、この下側ブラケット30の動きがパニックブレーキ操作時の入力荷重に対して異なる方向になっている。この結果、パニックブレーキ時の大荷重がブレーキペダル8に加わっても、該ブレーキペダル8が下に移動することはない。
なお、図中、矢印Fは車両前方を示し、矢印Rは車両後方を示す。
【0043】
このように、図1〜図8で示した実施例の自動車の操作ペダル後退防止構造は、ダッシュロアパネル3後方に配設される操作ペダル(ブレーキペダル8参照)の支持構造において、上記ダッシュロアパネル3に支持されると共に、その先端部に操作ペダル(ブレーキペダル8)のアーム(アーム部8A参照)上端部を車幅方向に延びるペダル支持軸33に軸支する下側ブラケット30と、該下側ブラケット30よりも上方において上記ダッシュロアパネル3に車幅方向軸(横軸41参照)中心に軸支されるレバー部材(後退防止レバー40参照)と、該レバー部材(後退防止レバー40)から後方に離間して位置する車体剛性部材(インパネメンバ60参照)とが設けられており、上記下側ブラケット30は、その後端部を後方に揺動可能な揺動許容部36が設けられ、上記レバー部材(後退防止レバー40)の前部が上記ダッシュロアパネル3に軸支され、上記レバー部材(後退防止レバー40)の後部が上記ダッシュロアパネル3後退時に上記車体剛性部材(インパネメンバ60)に衝突して回動する方向に衝突荷重を受ける位置に当接部46を有するように形成され、上記レバー部材(後退防止レバー40)の下部が、上記下側ブラケット30の揺動許容部36よりも後方に設けられた結合部(溶接部39,ナット38で締め付けられたペダル支持軸33参照)に揺動不能で、かつ上記車体剛性部材(インパネメンバ60)からの衝突荷重にて離脱する強度で結合されたものである(図1、図4参照)。
【0044】
この構成によれば、通常時においては、レバー部材(後退防止レバー40)がペダル支持軸33とダッシュロアパネル3側の車幅方向軸(横軸41)とを連結する部材を兼ねるので、このレバー部材(後退防止レバー40)がペダル支持剛性の向上に寄与する。これにより、該レバー部材(後退防止レバー40)の軽量化を図ることができる。
【0045】
また、前面衝突によるダッシュロアパネル3後退時においては、上記結合部が下側ブラケット30の揺動方向と略同じ後方に移動するので、従来のようなガイド面やワイヤなどを設けることなく、下側ブラケット30後部の後方揺動を促進して、ペダル後退を防止することができる。
さらに、レバー部材(後退防止レバー40)と車体剛性部材(インパネメンバ60)との間は離間しているので、次のような効果がある。
【0046】
すなわち、この離間構造によりレバー部材(後退防止レバー40)と車体剛性部材(インパネメンバ60)との間の組付け精度は何等要求されない。しかも、軽度の前面衝突時には、その後の2次衝突を回避するため、操作ペダル(ブレーキペダル8参照)を乗員が操作する必要があり、この軽衝突時には操作ペダル(ブレーキペダル8)は通常時の状態を維持することができるので、乗員による操作ペダル(ブレーキペダル8)の操作が可能となる。
【0047】
また、上記下側ブラケット30の揺動許容部36の揺動中心部37と、上記下側ブラケット30の上記レバー部材(後退防止レバー40参照)との結合部(ペダル支持軸33参照)と、上記レバー部材(後退防止レバー40参照)と上記ダッシュロアパネル3との軸支部(横軸41参照)とが、側面視において後方に突出するトラス形状に連結されるように配設されたものである(図4参照)。
この構成によれば、上記3点(揺動中心部37、結合部、軸支部)をトラス形状に連結したので、このトラス構造により、ペダル支持剛性の向上と軽量化の両立を図ることができる。
【0048】
さらに、上記下側ブラケット30の揺動許容部36は、揺動中心部37が上記下側ブラケット30の上下方向の中央よりも下方部位に設けられたものである(図4参照)。
この構成によれば、上記揺動中心部37を下方部位に設けたので、トラス(truss、三角形の意)の大型化を図ることができると共に、下側ブラケット30後部の後退量の拡大を図ることができる。
【0049】
加えて、上記下側ブラケット30の揺動許容部36は、伸縮方向よりも揺動方向に脆弱な形状の揺動脆弱部であることを特徴とする(図4、図7参照)。
この構成によれば、揺動脆弱部により、部品点数の増加を招くことなく、下側ブラケット30後部の変位を許容することができる。
【0050】
さらに、上記レバー部材(後退防止レバー40参照)は、少なくとも結合部(溶接部39参照)からペダル支持軸33まで拡がる側壁部42,43を有し、該側壁部42,43に、揺動時に上記ペダル支持軸33がスライドして後退可能な溝部(長孔47参照)が設けられたものである(図1、図4参照)。
この構成によれば、上記側壁部42,43により通常時におけるレバー部材(後退防止レバー40参照)それ自体の剛性向上と、ペダル支持剛性の向上とを図ることができ、ダッシュロアパネル3後退時には、溝部(長孔47参照)周辺の側壁部42,43にてペダル支持軸33を確実に押圧することができ、これにより、ペダル後退を確実に防止することができる。
【0051】
さらにまた、上記構成の操作ペダル後退防止構造は、ダッシュロアパネル3の上部に設けられるカウル部7の有無や該カウル部7の車室内側への突出量の大小の如何にかかわらず、採用することができるので、汎用性の拡大を図ることができる。
【実施例2】
【0052】
図9〜図14は自動車の操作ペダル後退防止構造の他の実施例を示し、図9は同構造を示す側面図、図10は図9の要部を車室内側から見た状態で示す正面図、図11は図10の斜視図、図12は図10のD−D線矢視断面図、図13は図10のE−E線矢視断面図、図14はヒンジブラケットの斜視図である。なお、図9〜図14において前図と同一の部分には同一符号を付して、その詳しい説明を省略している。
【0053】
図9〜図14で示すこの実施例2においては、車体剛性部材としてのインパネメンバ60に、該メンバ60から下方に延びる当接延長部61(いわゆる当接ブラケット)を設け、車両衝突時には後退防止レバー40の当接部46を該当接延長部61に衝合すべく構成している。
【0054】
ここで、後退防止レバー40の当接部46と、当接延長部61との間には所定の間隔が形成されており、当接部46が当接延長部61と衝合しない程度の軽衝突時には、ブレーキペダル8の通常状態を維持して、2次衝突を回避するために、乗員がブレーキペダル8を操作できるようになっている。
【0055】
また、この実施例2では実施例1の溶接部39を廃止して、左右の下側ブラケット30,30を回動軸としての下側ブラケット支持軸62で軸支し、この下側ブラケット支持軸62を揺動許容部および揺動中心部に設定すると共に、ナット38で締め付けられたペダル支持軸33を結合部に設定している。
【0056】
左右一対の下側ブラケット30,30を下側ブラケット支持軸62で軸支する関係上、上述のベースプレート10には図13、図14に示すようなヒンジブラケット63を溶接固定している。
このヒンジブラケット63は、図14に斜視図で示すように、左右の側片63a,63bと、これら左右の側片63a,63b間を車幅方向に連結する前片63cとを一体に折曲げ形成したもので、該前片63cを上述のベースプレート10に固定したものである。
【0057】
図9、図10、図13に示すように、ヒンジブラケット63の各側片63a,63bの外側に、上述の下側ブラケット30,30を配置し、ボルトで構成された下側ブラケット支持軸62で該下側ブラケット30,30を枢支すると共に、ボルト製の下側ブラケット支持軸62の先端部には、図13に示すようにナット64を螺合し、またヒンジブラケット63の左右の側片63a,63b間において下側ブラケット支持軸62の外周にはカラー65を装着している。
【0058】
さらに、図9、図12、図13に示すように、下側ブラケット30の前部をベースプレート10に当接させている。つまり、下側ブラケット30をベースプレート10に当接させることで、通常時における該下側ブラケット30の回り止めを図るように構成している。
【0059】
ブレーキペダル8に付勢される前方向または前下方向の荷重は、トラス形状で確実に支持するように構成している。この実施例2のトラス形状は、横軸41と、ペダル支持軸33と、ヒンジピンとしての下側ブラケット支持軸62とを結ぶ三角形状となり、この実施例においてもペダル支持軸33が下側ブラケット支持軸62および横軸41よりも後方に位置し、かつ該ペダル支持軸33が横軸41と下側ブラケット支持軸62との上下方向中間に位置するように構成されている。
【0060】
また、通常時において下側ブラケット30に加わる荷重は、この下側ブラケット30がベースプレート10に当接しているので、該ベースプレート10で確実に受け止めることができる。さらに、通常時において、ペダル支持軸33から入力されるブレーキペダル踏み込み時の荷重は、長孔47上縁および後退防止レバー40を介して上側ブラケット20にも荷重伝達され、上下の各ブラケット20,30およびベースプレート10への荷重分散により、通常時の支持を強固と成し、安定してブレーキペダル8を支持すべく構成している。
【0061】
しかも、車両衝突時に、後退防止レバー40の当接部46がインパネメンバ60下部の当接延長部61に衝合すると、後退防止レバー40は横軸41を支点として図9の反時計方向へ回動し、下側ブラケット30はその支持軸62を中心としてその後方が下方に回動するので、ペダル支持軸33は長孔47の変位に従って斜め後方下方へ押し下げられて、ブレーキペダル8の後退を防止するものである。
このように、機械的に構成された下側ブラケット支持軸62を中心(揺動中心部)として下側ブラケット30が確実に回動するので、その作動信頼性の向上を図ることができる。
【0062】
上述の如く、図9〜図14で示した実施例2の自動車の操作ペダル後退防止構造は、ダッシュロアパネル3後方に配設される操作ペダル(ブレーキペダル8参照)の支持構造において、上記ダッシュロアパネル3に支持されると共に、その先端部に操作ペダル(ブレーキペダル8)のアーム(アーム部8A参照)上端部を車幅方向に延びるペダル支持軸33に軸支する下側ブラケット30と、該下側ブラケット30よりも上方において上記ダッシュロアパネル3に車幅方向軸(横軸41参照)中心に軸支されるレバー部材(後退防止レバー40参照)と、該レバー部材(後退防止レバー40)から後方に離間して位置する車体剛性部材(インパネメンバ60参照)とが設けられており、上記下側ブラケット30は、その後端部を後方に揺動可能な揺動許容部(下側ブラケット支持軸62参照)が設けられ、上記レバー部材(後退防止レバー40)の前部が上記ダッシュロアパネル3に軸支され、上記レバー部材(後退防止レバー40)の後部が上記ダッシュロアパネル3後退時に上記車体剛性部材(インパネメンバ60)に衝突して回動する方向に衝突荷重を受ける位置に当接部46を有するように形成され、上記レバー部材(後退防止レバー40)の下部が、上記下側ブラケット30の揺動許容部(下側ブラケット支持軸62)よりも後方に設けられた結合部(ナット38で締め付けられたペダル支持軸33参照)に揺動不能で、かつ上記車体剛性部材(インパネメンバ60)からの衝突荷重にて離脱する強度で結合されたものである(図9参照)。
【0063】
この構成によれば、通常時においては、レバー部材(後退防止レバー40)がペダル支持軸33とダッシュロアパネル3側の車幅方向軸(横軸41)とを連結する部材を兼ねるので、このレバー部材(後退防止レバー40)がペダル支持剛性の向上に寄与する。これにより、該レバー部材(後退防止レバー40)の軽量化を図ることができる。
【0064】
また、前面衝突によるダッシュロアパネル3後退時においては、上記結合部が下側ブラケット30の揺動方向と略同じ後方に移動するので、従来のようなガイド面やワイヤなどを設けることなく、下側ブラケット30後部の後方揺動を促進して、ブレーキペダル8の後退を防止することができる。
さらに、レバー部材(後退防止レバー40)と車体剛性部材(インパネメンバ60)との間は離間しているので、次のような効果がある。
【0065】
すなわち、この離間構造によりレバー部材(後退防止レバー40)と車体剛性部材(インパネメンバ60)との間の組付け精度は何等要求されない。しかも、軽度の前面衝突時には、その後の2次衝突を回避するため、ブレーキペダル8を乗員が操作する必要があり、この軽衝突時にはブレーキペダル8は通常時の状態を維持することができるので、乗員によるブレーキペダル8の操作が可能となる。
【0066】
しかも、上記下側ブラケット30の揺動許容部は、回動軸(下側ブラケット支持軸62参照)であることを特徴とする(図9参照)。
この構成によれば、下側ブラケット30後部は回動軸(下側ブラケット支持軸62)を支点として変位するので、確実に下側ブラケット30後部の変位を許容することができる。
図9〜図14で示した実施例2においても、その他の構成、作用、効果については、図1〜図8で示した実施例1とほぼ同様である。
【実施例3】
【0067】
図15〜図19は自動車の操作ペダル後退防止構造のさらに他の実施例(実施例1の変形例)を示し、図15は同構造を示す拡大側面図、図16は図15の要部を車室内側から見た状態で示す正面図、図17は図16のG−G線矢視断面図、図18は図15のH−H線に沿う要部の矢視断面図、図19は図15の要部の分解斜視図である。
【0068】
この実施例3においては、図15に側面図で示すように下側ブラケット30のサポート片32においてベースプレート10に近接する部位に、該サポート片32の上下方向の全高にわたって延びる揺動許容部70を形成している。
【0069】
図18に断面図で示すように、この揺動許容部70は、環状部70aの前後のネック部70b,70cが当接する構造に形成されており、この当接構造により通常時の荷重を受けるように構成しており、車両衝突時に下側ブラケット30の後部が後方に引っ張られると、揺動許容部70が開放するように後方に延びる構造となっている。
【0070】
また、この実施例では、図19に分解斜視図で示すように、左右一対の下側ブラケット30,30の後端相互間を連結片71で連結し、後退防止レバー40の後端辺が該連結片71と一致するように、該後退防止レバー40を実施例1のそれよりも後方に延長形成し、後方から該後退防止レバー40の側壁部42,43の外側に被せる平面視コの字状の回止め部材72を設け、ボルト73およびナット74等の締結部材を用いて、該回止め部材72と上記連結片71とを締結固定している(図17参照)。なお、連結片71のボルト孔71aには回止め部材72の離脱を容易にするスリットが設けられている。
【0071】
この締結構造により、通常時に確実にトラス形状(横軸41と、ペダル支持軸33と、ボルト12,ナット13による締結点の三点を結ぶ三角形状)を構成して、充分なペダル支持剛性を確保するように構成している。
また、車両衝突時には、上記ボルト73,ナット74による締結が外れるか、或は連結片71が破壊されるように構成している。
【0072】
このため、ダッシュロアパネル3が後退する車両衝突時には、後退防止レバー40の当接部46がインパネメンバ60に衝合し、該後退防止レバー40が横軸41を支点として、図15の反時計方向に回動し、長孔47の孔縁(つまり、側壁部42,43)でペダル支持軸33を後方に押圧するので、揺動許容部70(脆弱部)が後方に伸び、下側ブラケット30の後部が斜め後方下方に揺動するので、ペダル支持軸33は長孔47の変位にともなって後方かつ下方へ強制移動し、ブレーキペダル8の後退を防止することができる。
【0073】
車両衝突時の挙動として、ブレーキブースタ50(前図参照)およびプッシュロッド9を介してブレーキペダル8のアーム部8Aが後方に押され、ブレーキペダル8のアーム部8Aがペダル支持軸33を支点として図15の反時計方向に回動した際、アーム部8Aの後面が回止め部材72の下端に当接すると、この回止め部材72でアーム部8Aのそれ以上の回動を防止することができる。
【0074】
上述のアーム部8Aの回止め部材72に対する衝合力が強大な場合、連結片71の下端に対して回止め部材72の下端が、さらに下方に延びているので、強い力でブレーキペダル8のアーム部8Aが該回止め部材72に衝合すると、これら両者71,72の連結構造を破壊して、両者71,72をフリーと成し、後退防止レバー40と下側ブラケット30との回動を容易となして、上述同様にブレーキペダル8の後退を防止するものである。
【0075】
このように、図15〜図19で示した自動車の操作ペダル後退防止構造においても、ダッシュロアパネル3後方に配設される操作ペダル(ブレーキペダル8参照)の支持構造において、上記ダッシュロアパネル3に支持されると共に、その先端部に操作ペダル(ブレーキペダル8)のアーム(アーム部8A参照)上端部を車幅方向に延びるペダル支持軸33に軸支する下側ブラケット30と、該下側ブラケット30よりも上方において上記ダッシュロアパネル3に車幅方向軸(横軸41参照)中心に軸支されるレバー部材(後退防止レバー40参照)と、該レバー部材(後退防止レバー40)から後方に離間して位置する車体剛性部材(インパネメンバ60)とが設けられており、上記下側ブラケット30は、その後端部を後方に揺動可能な揺動許容部70が設けられ、上記レバー部材(後退防止レバー40)の前部が上記ダッシュロアパネル3に軸支され、上記レバー部材(後退防止レバー40)の後部が上記ダッシュロアパネル3後退時に上記車体剛性部材(インパネメンバ60)に衝突して回動する方向に衝突荷重を受ける位置に当接部46を有するように形成され、上記レバー部材(後退防止レバー40)の下部が、上記下側ブラケット30の揺動許容部70よりも後方に設けられた結合部(ナット38で締め付けられたペダル支持軸33、およびボルト73,ナット74による締結部参照)に揺動不能で、かつ上記車体剛性部材(インパネメンバ60)からの衝突荷重にて離脱する強度で結合されたものである(図15参照)。
【0076】
この構成によれば、通常時においては、レバー部材(後退防止レバー40)がペダル支持軸33とダッシュロアパネル3側の車幅方向軸(横軸41)とを連結する部材を兼ねるので、このレバー部材(後退防止レバー40)がペダル支持剛性の向上に寄与する。これにより、該レバー部材(後退防止レバー40)の軽量化を図ることができる。
また、前面衝突によるダッシュロアパネル3後退時においては、上記結合部が下側ブラケット30の揺動方向と略同じ後方に移動するので、従来のようなガイド面やワイヤなどを設けることなく、下側ブラケット30後部の後方揺動を促進して、ペダル後退を防止することができる。
【0077】
さらに、レバー部材(後退防止レバー40)と車体剛性部材(インパネメンバ60)との間は離間しているので、次のような効果がある。
すなわち、この離間構造によりレバー部材(後退防止レバー40)と車体剛性部材(インパネメンバ60)との間の組付け精度は何等要求されない。しかも、軽度の前面衝突時には、その後の2次衝突を回避するため、操作ペダル(ブレーキペダル8)を乗員が操作する必要があり、この軽衝突時には操作ペダル(ブレーキペダル8)は通常時の状態を維持することができるので、乗員による操作ペダル(ブレーキペダル8)の操作が可能となる。
【0078】
図15〜図19で示した実施例3においても、その他の構成、作用、効果については、図1〜図8で示した実施例1とほぼ同様であるから、図15〜図19において前図と同一の部分には、同一符号を付してその詳しい説明を省略する。
【0079】
この発明の構成と、上述の実施例との対応において、
この発明のダッシュパネルは、実施例のダッシュロアパネル3に対応し、
以下同様に、
操作ペダルは、ブレーキペダル8に対応し、
サポートブラケットは、下側ブラケット30に対応し、
車幅方向軸は、横軸41に対応し、
レバー部材は、後退防止レバー40に対応し、
車体剛性部材は、インパネメンバ60に対応し、
結合部は、溶接部39、ナット38で締め付けられたペダル支持軸33、ボルト73、ナット74による締結部に対応し、
溝部は、長孔47に対応し、
揺動許容部を構成する回動軸は、下側ブラケット支持軸62に対応するも、
この発明は、上述の実施例の構成のみに限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本発明の自動車の操作ペダル後退防止構造を示す側面図
【図2】図1の要部を車室内側から見た状態で示す正面図
【図3】図2の斜視図
【図4】図1の要部拡大側面図
【図5】図2のA−A線矢視断面図
【図6】図2のB−B線矢視断面図
【図7】図1のC−C線に沿う要部の矢視断面図
【図8】車両衝突時の挙動を示す説明図
【図9】自動車の操作ペダル後退防止構造の他の実施例を示す側面図
【図10】図9の要部を車室内側から見た状態で示す正面図
【図11】図10の斜視図
【図12】図10のD−D線矢視断面図
【図13】図10のE−E線矢視断面図
【図14】ヒンジブラケットの斜視図
【図15】自動車の操作ペダル後退防止構造のさらに他の実施例を示す側面図
【図16】図15の要部を車室内側から見た状態で示す正面図
【図17】図16のG−G線矢視断面図
【図18】図15のH−H線に沿う要部の矢視断面図
【図19】ペダル支持ユニットの要部の分解斜視図
【符号の説明】
【0081】
3…ダッシュロアパネル(ダッシュパネル)
8…ブレーキペダル(操作ペダル)
30…下側ブラケット(サポートブラケット)
33…ペダル支持軸
36,70…揺動許容部
37…揺動中心部
39…溶接部(結合部)
40…後退防止レバー(レバー部材)
41…横軸(車幅方向軸)
42,43…側壁部
46…当接部
47…長孔(溝部)
60…インパネメンバ(車体剛性部材)
62…下側ブラケット支持軸(揺動許容部、回動軸)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダッシュパネル後方に配設される操作ペダルの支持構造において、
上記ダッシュパネルに支持されると共に、その先端部に操作ペダルのアーム上端部を車幅方向に延びるペダル支持軸に軸支するサポートブラケットと、
該サポートブラケットよりも上方において上記ダッシュパネルに車幅方向軸中心に軸支されるレバー部材と、
該レバー部材から後方に離間して位置する車体剛性部材とが設けられており、
上記サポートブラケットは、その後端部を後方に揺動可能な揺動許容部が設けられ、
上記レバー部材の前部が上記ダッシュパネルに軸支され、
上記レバー部材の後部が上記ダッシュパネル後退時に上記車体剛性部材に衝突して回動する方向に衝突荷重を受ける位置に当接部を有するように形成され、
上記レバー部材の下部が、上記サポートブラケットの揺動許容部よりも後方に設けられた結合部に揺動不能で、かつ上記車体剛性部材からの衝突荷重にて離脱する強度で結合されたことを特徴とする
自動車の操作ペダル後退防止構造。
【請求項2】
上記サポートブラケットの揺動許容部の揺動中心部と、上記サポートブラケットの上記レバー部材との結合部と、上記レバー部材と上記ダッシュパネルとの軸支部とが、側面視において後方に突出するトラス形状に連結されるように配設された
請求項1記載の自動車の操作ペダル後退防止構造。
【請求項3】
上記サポートブラケットの揺動許容部は、揺動中心部が上記サポートブラケットの上下方向の中央よりも下方部位に設けられた
請求項1または2記載の自動車の操作ペダル後退防止構造。
【請求項4】
上記サポートブラケットの揺動許容部は、伸縮方向よりも揺動方向に脆弱な形状の揺動脆弱部である
請求項1〜3の何れか1に記載の自動車の操作ペダル後退防止構造。
【請求項5】
上記サポートブラケットの揺動許容部は、回動軸である
請求項1〜3の何れか1に記載の自動車の操作ペダル後退防止構造。
【請求項6】
上記レバー部材は、上記結合部からペダル支持軸まで拡がる側壁部を有し、
該側壁部に、揺動時に上記ペダル支持軸がスライドして後退可能な溝部が設けられた
請求項1〜5の何れか1に記載の自動車の操作ペダル後退防止構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2010−67138(P2010−67138A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−234572(P2008−234572)
【出願日】平成20年9月12日(2008.9.12)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】