説明

自動車の車体側部構造

【課題】フロントドアヒンジ取付部の補強とフロントピラーの車体前後方向の圧縮荷重に対する剛性とを互助して高め合う構造とし、前突荷重の車体後方への伝達が良好に行われるようにすること。
【解決手段】フロントピラー内部側面に取り付けられたフロントドア用ヒンジのヒンジパッチ32の車体前後方向の前縁と後縁に、フロントピラー10の内部前端面と内部後端面とに面接合する溶接用フランジ片32D、32Eを折曲形成し、ヒンジパッチ32の上縁に、フロントピラー10の内部前端面と内部後端面との間に延在するバルクヘッド片38を折曲形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の車体側部構造に関し、特に、フロントピラーの補強構造に関する。
【背景技術】
【0002】
フロントピラーの補強構造として、閉断面形状のフロントピラーの内面にドアヒンジスチフナ(ヒンジパッチ)が取り付けられ、ドアヒンジスチフナによってフロントピラーに対するフロントドアヒンジの取付部の補強を行い、前部衝突時の衝突荷重がフロントドアヒンジ部分よりフロントドアへ伝達されるようにし、更に、フロントドアヒンジとは別に、フロントピラー内にバルクヘッドを設け、フロントピラーの曲げ剛性を高めたものが知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−56138号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の如き従来のフロントピラーの補強構造は、フロントピラーにおけるフロントドアヒンジ取付部の補強はドアヒンジスチフナによって、フロントピラーの曲げ剛性の向上はバルクヘッドによって、各々個別の部品により協働することなく個々に行われている。
【0005】
このため、上述の如き従来のものでは、ドアヒンジスチフナがフロントドアヒンジ取付部の補強に併せてフロントピラーの曲げ剛性を向上する作用をしたり、バルクヘッドがフロントピラーの剛性向上に併せてフロントドアヒンジ取付部を補強する作用をしたりすることがなく、双方の作用の高め合うことを期待できない。
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、フロントドアヒンジ取付部の補強とフロントピラーの剛性向上、特に、車体前後方向の圧縮荷重に対する剛性とを互助して高め合う構造とし、前部衝突荷重(前突荷重)の車体後方への伝達が良好に行われるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による自動車の車体側部構造は、閉断面形状のフロントピラー(10)と、前記フロントピラー(10)の内部側面に取り付けられたフロントドア用ヒンジ(42)のヒンジパッチ(32)とを有し、前記ヒンジパッチ(32)の車体前後方向の前縁と後縁には、前記フロントピラー(10)の内部前端面(11B)と内部後端面(11C)とに面接合する溶接用フランジ片(32D、32E)が各々折曲形成され、前記ヒンジパッチ(32)の上縁と下縁の少なくとも何れか一方には、前記フロントピラー(10)の内部前端面(11B)と内部後端面(11C)との間に延在するバルクヘッド片(38)が折曲形成されている。
【0008】
この構成によれば、ヒンジパッチ(32)とバルクヘッド片(38)とが一体形成され、ヒンジパッチ(32)とバルクヘッド片(38)とが単一部品で、ヒンジパッチ(32)の上縁と下縁の少なくとも何れか一方に、バルクヘッド片(38)の折曲稜線(E)が存在することにより、これらが個別部品である場合に比して、自ずと高剛性の部品になり、フロントドアヒンジ取付部の補強とフロントピラー(10)の車体前後方向の圧縮荷重に対する剛性の向上とが互助し合って高められる。これにより、前部衝突によるフロントピラー(10)の変形抑制、前突荷重の車体後方へ伝達が良好に行われるようになる。
【0009】
このことは、前記ヒンジパッチ(10)は鉛直に延在する部分を含み、前記バルクヘッド片(38)は水平に延在する部分を含み、前記ヒンジパッチ(32)と前記バルクヘッド片(38)とでL字断面形状あるいはコ字断面形状をしていることにより、顕著なものになる。
【0010】
また、ヒンジパッチ(10)は、車体前後方向の前縁と後縁に折曲形成された溶接用フランジ片(32D、32E)をもってフロントピラー(10)の内部前端面(11B)と内部後端面(11C)とに面接合していることにより、フロントドアヒンジ取付点の捩じれモーメントに対する強度が増加すると共に、ヒンジパッチ(32)自体もフロントピラー内設置のバルクヘッドとしても作用し、フロントピラー(10)の車体前後方向の圧縮荷重に対する剛性の向上に寄与することになる。これにより、前部衝突によるフロントピラー(10)の変形抑制、前突荷重の車体後方へ伝達が更に良好に行われるようになる。
【0011】
本発明による自動車の車体側部構造は、好ましくは、更に、前記バルクヘッド片(38)の車体前後方向の前縁と後縁には、前記フロントピラー(10)の内部前端面(11B)と内部後端面(11C)とに面接合する溶接用フランジ片(38A、38B)が各々折曲形成されている。
【0012】
この構成によれば、バルクヘッド片(38)によるフロントピラー(10)の車体前後方向の圧縮荷重に対する剛性が更に向上し、前部衝突によるフロントピラー(10)の変形抑制、前突荷重の車体後方へ伝達がより高度に行われるようになる。
【0013】
本発明による自動車の車体側部構造は、好ましくは、更に、前記バルクヘッド片(38)は、車体前後方向に延在する先端縁を有し、当該先端縁には前記溶接用フランジ片(38A、38B)に繋がる接続フランジ片(38C)が折曲形成されている。
【0014】
この構成によれば、バルクヘッド片(38)自体の車体前後方向の曲げ剛性が向上し、前部衝突によるフロントピラー(10)の変形抑制、前突荷重の車体後方への伝達がより高度に行われるようになる。
【0015】
本発明による自動車の車体側部構造は、好ましくは、更に、前記ヒンジパッチ(32)は、絞り加工による凸部(32A)を有し、前記凸部(32A)の突出外面(32B)がフロントピラー(10)の内部側面(11A)に接合し、当該接合部分を前記フロントドア用ヒンジ(42)の締結部材(36)が貫通している。
【0016】
この構成によれば、凸部(32A)によってヒンジパッチ(32)の面剛性が向上し、フロントドアヒンジ取付点の捩じれモーメントに対する強度が更に増加する。また、ヒンジパッチ(32)に凸部(32A)が設けられることにより、ヒンジパッチ(32)はフロントピラー(10)の内部側面(11A)と内部前端面(11B)との角部に閉断面部(12)を形成することになり、このことによっても、フロントドアヒンジ取付点の捩じれモーメントに対する強度が増加する。
【0017】
本発明による自動車の車体側部構造は、好ましくは、更に、前記フロントピラー(10)より車体前方に延びる閉断面形状のアッパメンバ(22)と、前記フロントピラー(10)の車体後方に位置するフロントドア(20)と、前記アッパメンバ(22)に取り付けられて車体前後方向に延在するアッパメンバ用スチフナ(30)と、前記フロントドア(20)のインナパネル(20A)に取り付けられて車体前後方向に延在するドアビーム部材(48)とを有し、前記ヒンジパッチ(32)と前記バルクベッド片(38)の少なくとも何れか一方と前記アッパメンバ用スチフナ(30)と前記ドアビーム部材(48)とは、車体前後方向で見て、互いにオーバラップする部分を含んでいる。
【0018】
この構成によれば、ヒンジパッチ(32)とバルクベッド片(38)の少なくとも何れか一方とアッパメンバ用スチフナ(30)とドアビーム部材(48)とが、車体前後方向で見て、互いにオーバラップする部分を含んでいることにより、これらを前突荷重の車体後部への伝達経路として、アッパメンバ(22)とフロントピラー(10)との間の前突荷重伝達と、フロントピラー(10)とドアビーム部材(48)との間の前突荷重伝達とが、車体前後方向に連続した直線状に行われるようになり、アッパメンバ(22)に入力された前突荷重のフロントピラー(10)、ドアビーム部材(48)を経由しての車体後部への伝達が良好に行われるようになる。
【発明の効果】
【0019】
本発明による自動車の車体側部構造によれば、ヒンジパッチの上縁と下縁の少なくとも何れか一方に、バルクヘッド片の折曲稜線が存在することにより、ヒンジパッチとバルクヘッドとが個別部品である場合に比して、ヒンジパッチが高剛性の部品になり、ヒンジパッチとバルクヘッド片とでフロントドアヒンジ取付部の補強とフロントピラーの車体前後方向の圧縮荷重に対する剛性の向上とが互助し合って高められる。
【0020】
しかも、ヒンジパッチは、車体前後方向の前縁と後縁に折曲形成された溶接用フランジ片をもってフロントピラーの内部前端面と内部後端面とに面接合していることにより、フロントドアヒンジ取付点の捩じれモーメントに対する強度が増加すると共に、ヒンジパッチ自体もフロントピラー内設置のバルクヘッドとしても作用し、フロントピラーの車体前後方向の圧縮荷重に対する剛性の向上に寄与することになる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明による自動車の車体側部構造の一つの実施例を示す斜視図。
【図2】本実施例による自動車の車体側部構造の側面図。
【図3】本実施例による自動車の車体側部構造の要部の斜視図。
【図4】本実施例による自動車の車体側部構造の要部の側面図。
【図5】図4の線V−Vに沿った断面図。
【図6】他の実施例による自動車の車体側部構造の要部の側面図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明による自動車の車体側部構造の一つの実施例を、図1〜図5を参照して説明する。なお、車体側部構造は左右対称であるから、ここでは、車体正面から見て左側の構成について説明する。
【0023】
図1、図2に示されているように、自動車は、車体側部構造として、フロントピラー10とルーフレール12とセンタピラー14とサイドシル16とを有し、これらによりフロントドア20のためのドア開口18を画定されている。
【0024】
フロントピラー10の前面部にはフロントピラー10より車体前方に延びる閉断面形状のアッパメンバ(ホイールハウスアッパメンバ)22の基端部が溶接等によって接合されている。アッパメンバ22の先端部には車体前後方向に延在する閉断面形状のロアメンバ(ホイールハウスロアメンバ)24が接合されている。車体前部には車体前後方向に延在する閉断面形状のフロントサイドフレーム26が設けられている。ロアメンバ24の車体前側の先端部とフロントサイドフレーム26の車体前側の先端部とは連結板28によって互いに連結されている。
【0025】
アッパメンバ22のフロントピラー10との接合端近傍の内面には、車体前後方向に延在する複数個の折曲稜線A、B、C、D(図1、図2参照)を有するハット形の横断面形状のアッパメンバ用スチフナ30が接合されている。アッパメンバ用スチフナ30は、フロントピラー10より車体前方にあって、上下の溶接片30A、30Bをもってアッパメンバ22のアウタパネルの内側面に溶接され、車体前後方向に略水平に延在している。アッパメンバ用スチフナ30のフロントピラー10側の端部はフロントピラー10の前面、特に、後述するバルクヘッド片38を含むヒンジパッチ32の車体前方に極く接近した位置にある。アッパメンバ用スチフナ30は、車体前後方向に延在する複数個の折曲稜線A、B、C、Dを有していることにより、曲げ剛性が高いスチフナ部材になる。
【0026】
フロントピラー10は、図4、図5に示されているように、ハット形横断面形状をしたアウタピラーパネル11とフロントピラーインナ13との接合体により構成されて閉断面形状をなしている。アウタピラーパネル11には、図1〜図3に示されているように、フロントドア用の上部ドアヒンジ42と下部ドアヒンジ44とが取り付けられている。以下に、上部ドアヒンジ42、下部ドアヒンジ44の取付構造の詳細を説明する。
【0027】
上部ドアヒンジ42、下部ドアヒンジ44は、各々、ピラー側部材42A、44Aと、ヒンジ軸42B、44Bと、ヒンジ軸42B、44Bによってピラー側部材42A、44Aに回動可能に取り付けられたドア側部材42C、44Cとを有する。上部ドアヒンジ42、下部ドアヒンジ44は、各々、ピラー側部材42A、44Aをアウタピラーパネル11の外側面11Aに取り付けられ、ドア側部材42C、44Cをフロントドア20に取り付けられる。
【0028】
アウタピラーパネル11の内側には、当該アウタピラーパネル11を板厚方向に挟んで上部ドアヒンジ42のドア側部材42Cに対応する位置に、ヒンジパッチ32が取り付けられている。ヒンジパッチ32は、上部ドアヒンジ42のピラー側部材42Aの裏当て板であり、四角形状をしており、中央部に絞り加工による四角形状の凸部32Aを有し、凸部32Aの突出外面32Bをもって、アウタピラーパネル11の内側面11Aに面接触している。ヒンジパッチ32はその面接触部分の複数箇所を溶接点×により示されているように、アウタピラーパネル11の内側面11Aにスポット溶接されている。これにより、ヒンジパッチ32は鉛直なアウタピラーパネル11の内側面11Aに沿って鉛直に延在する。
【0029】
ヒンジパッチ32は、凸部32Aが設けられることにより、凸部32Aの車体前後方向の両側に存在するフロントピラー10の内側面11Aと前端面11Bとの角部と、フロントピラー10の内側面11Aと後端面11Cとの角部に、各々、閉じ断面部12を形成している。
【0030】
ヒンジパッチ32の車体前後方向の前縁と後縁には、溶接用フランジ片32D、32Eが各々90度の折曲角をもって折曲形成されている。前側の溶接用フランジ片32Dはアウタピラーパネル11の内側において当該アウタピラーパネル11の前端面11Bに面接触し、後側の溶接用フランジ片32Eはアウタピラーパネル11の内側において当該アウタピラーパネル11の後端面11Cに面接触している。溶接用フランジ片32D、32Eは、各々の面接触部分の複数箇所を溶接点×により示されているように、アウタピラーパネル11の前端面11Bと後端面11Cにスポット溶接されている。
【0031】
アウタピラーパネル11とヒンジパッチ32の凸部32Aには、これらを貫通する貫通孔33が形成されている。凸部32Aの突出内面32Cには貫通孔33と整合する位置にナット34が溶接によって固定されている。上部ドアヒンジ42のピラー側部材42Aは、当該ピラー側部材42Aのベース部に貫通形成された貫通孔42D、前述の貫通孔33を貫通してナット34にねじ係合したボルト36によってアウタピラーパネル11の外側に固定されている。
【0032】
ヒンジパッチ32の上縁にはバルクヘッド片38が90度の折曲角を折曲形成されている。バルクヘッド片38は、アウタピラーパネル11の内側において当該アウタピラーパネル11の前端面11Bとの間に水平に延在している。これにより、ヒンジパッチ32は、バルクヘッド片38を含んで車体前後方向で見てL字断面形状をなす。
【0033】
バルクヘッド片38の車体前後方向の前縁と後縁には、溶接用フランジ片38A、38Bが各々90度の折曲角をもって上方に折曲形成されている。前側の溶接用フランジ片38Aはアウタピラーパネル11の内側において当該アウタピラーパネル11の前端面11Bに面接触し、後側の溶接用フランジ片38Bはアウタピラーパネル11の内側において当該アウタピラーパネル11の後端面11Cに面接触している。溶接用フランジ片38A、38Bは、各々の面接触部分の複数箇所を溶接点×により示されているように、アウタピラーパネル11の前端面11Bと後端面11Cにスポット溶接されている。
【0034】
バルクヘッド片38が前後の溶接用フランジ片38A、38Bの間において車体前後方向に延在する先端縁には、90度の折曲角をもって上方に折曲されて溶接用フランジ片38A、38Bに繋がる接続フランジ片38Cが形成されている。なお、バルクヘッド片38には、水抜き開口38Dが形成されている。
【0035】
上述したように、ヒンジパッチ32にバルクヘッド片38が折曲形成されていると、ヒンジパッチ32とバルクヘッド片38とが単一部品になり、ヒンジパッチ32とバルクヘッド片38との折曲部に折曲稜線E(図3、図4参照)が存在することになり、これらが個別部品である場合に比して、自ずと高剛性の部品になり、上部ドアヒンジ42の取付部分の補強とフロントピラー10の車体前後方向の圧縮荷重に対する剛性(横断面剛性)の向上とが互助し合って高められる。また、バルクヘッド片38に折曲形成された接続フランジ片38Cは、車体前後方向の圧縮荷重に対する剛性を高くする。
【0036】
これにより、これにより、バルクヘッド片38をフロントピラーインナ13に結合することができなくても、前部衝突によるフロントピラー10の変形抑制が良好に行われ、前部衝突によるフロントピラー10の変形抑制、フロントピラー10における前突荷重の車体後方へ伝達が良好に行われるようになる。
【0037】
このことは、ヒンジパッチ32が鉛直に延在する部分を含み、バルクヘッド片38が水平に延在する部分を含み、ヒンジパッチ32とバルクヘッド片38とでL字断面形状をすることにより、ヒンジパッチ32とバルクヘッド片38との折曲稜線Eが90度の折曲角のものになることによって、顕著なものになる。
【0038】
また、ヒンジパッチ32は、溶接用フランジ片32D、32Eをもってフロントピラー10の内部前端面、内部後端面であるアウタピラーパネル11の前端面11B、後端面11Cに面接合していることにより、フロントドアヒンジ取付点の捩じれモーメントに対する強度が増加すると共に、ヒンジパッチ32自体もフロントピラー10内設置のバルクヘッドとしても作用する。これにより、ヒンジパッチ32もフロントピラー10の車体前後方向の圧縮荷重に対する剛性の向上に寄与することになり、前部衝突によるフロントピラー10の変形抑制、前突荷重の車体後方へ伝達が高度に行われるようになる。
【0039】
更に、バルクヘッド片38が溶接用フランジ片38A、38Bをもってフロントピラー10の内部前端面と内部後端面であるアウタピラーパネル11の前端面11B、後端面11Cに面接合していることにより、フロントピラー10の車体前後方向の圧縮荷重に対する剛性が更に向上し、このことによっても前部衝突によるフロントピラーの変形抑制、前突荷重の車体後方へ伝達が高度に行われるようになる。
【0040】
また、バルクヘッド片38に接続フランジ片38Cが折曲形成されていることにより、バルクヘッド片38自体の車体前後方向の曲げ剛性が向上し、このことによっても、前部衝突によるフロントピラーの変形抑制、前突荷重の車体後方へ伝達が高度に行われるようになる。
【0041】
また、ヒンジパッチ32に凸部32Aがプレス形成されていることにより、これが単純な平板状である場合に比して、ヒンジパッチ32の面剛性が向上し、フロントドアヒンジ取付点の捩じれモーメントに対する強度が更に増加する。
【0042】
また、ヒンジパッチ32は、凸部32Aの車体前後方向の両側に存在するフロントピラー10の内側面11Aと前端面11Bとの角部に、フロントピラー10の内側面11Aと後端面11Cとの角部に、各々、閉じ断面部12を形成するから、このことによっても、フロントドアヒンジ取付点の捩じれモーメントに対する強度が増加する。
【0043】
フロントドア20は、図示されていないが、アウタドアパネルとインナドアパネルとの接合体により構成されている。インナドアパネルには、図1、図2に示されているように、当該ドアパネルの上縁に沿って車体前後方向に延在するドアビーム部材48が取り付けられている。
【0044】
ドアビーム部材48は、車体前後方向に延在する複数個の折曲稜線F、G、H、I、J(図1、図3参照)を有する矩形波形の横断面形状をしており、上下に設けられた溶接片48A、48Bをインナドアパネル(図示省略)の内面に溶接されてインナドアパネルの車体前後方向の幅一杯に略水平に延在している。ドアビーム部材48の車体前側の端部は、フロントドア20が閉扉された状態においてフロントピラー10の後面、詳細にはバルクヘッド片38を含むヒンジパッチ32の車体後方に極く接近した位置にある。ドアビーム部材48は、車体前後方向に延在する複数個の折曲稜線F、G、H、I、Jを有していることにより、曲げ剛性が高いビーム部材になる。
【0045】
なお、フロントドア20のアウタドアパネルの内面には、側部衝突対策用のドアビーム部材50、52が取り付けられている(図1、図2参照)。
【0046】
本実施例による車体側部構造では、ヒンジパッチ32とバルクベッド片38の少なくとも何れか一方と、アッパメンバ用スチフナ30とドアビーム部材48とが、車体前後方向で見て、互いにオーバラップする部分を含んでおり、更には、この3者がオーバラップする部分は、略水平に一直線上に存在している。
【0047】
このオーバラップ部分によって、アッパメンバ22とフロントピラー10との間の前突荷重の伝達ロードパス)と、フロントピラー10とドアビーム部材48との間の前突荷重の伝達(ロードパス)とが、連続直線状の荷重伝達経路をもって行われるようになる。これにより、アッパメンバ22に入力された前突荷重のフロントピラー10、ドアビーム部材48を経由しての車体後部への伝達が良好に行われるようになる。
【0048】
特に、このオーバラップする部分が、略水平に一直線上に存在していることにより、アッパメンバ22に入力された前突荷重のフロントピラー10、ドアビーム部材48を経由しての車体後部への伝達が、曲げモーメントを生じることなく、効率よく良好に行われるようになる。
【0049】
特に、フロントピラー10は、バルクヘッド片38を一体に有するヒンジパッチ32によって車体前後方向の圧縮荷重に対する剛性を高められているから、フロントピラー10を経由しての車体後部への伝達が良好に行われるようになる。
【0050】
なお、上述の実施例では、バルクヘッド片38は、ヒンジパッチ32の上縁に設けられているが、これはヒンジパッチ32の下縁に設けられてよく、また、図6に示されているように、ヒンジパッチ32の上縁と下縁の両方に設けられていもよい。
【0051】
ヒンジパッチ32の上縁と下縁の両方にバルクヘッド片38が設けられると、上下二箇所に折曲稜線Eが存在するコ字断面形状の更に高剛性な部材となる。これにより、前部衝突によるフロントピラー10の変形抑制、前突荷重の車体後方へ伝達が、より一層良好に行われるようになる。
【0052】
尚、フロントピラー10よりドアビーム部材48へのロードパスを更に向上させるために、ドアビーム部材48の車体前方に位置するフロントドアパネルに突起部材を設け、フロントピラー10の後面に孔を穿設し、前突時に突起部材が孔に進入する構成を追加してもよい。
【符号の説明】
【0053】
10 フロントピラー
11 アウタピラーパネル
20 フロントドア
22 アッパメンバ
30 アッパメンバ用スチフナ
32 ヒンジパッチ
32A 凸部
32D、32E 溶接用フランジ片
38 バルクヘッド片
38A、38B 溶接用フランジ片
38C 接続フランジ片
42 上部ドアヒンジ
48 ドアビーム部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
閉断面形状のフロントピラーと、
前記フロントピラーの内部側面に取り付けられたフロントドア用ヒンジのヒンジパッチとを有し、
前記ヒンジパッチの車体前後方向の前縁と後縁には、前記フロントピラーの内部前端面と内部後端面とに面接合する溶接用フランジ片が各々折曲形成され、
前記ヒンジパッチの上縁と下縁の少なくとも何れか一方には、前記フロントピラーの内部前端面と内部後端面との間に延在するバルクヘッド片が折曲形成されている自動車の車体側部構造。
【請求項2】
前記バルクヘッド片の車体前後方向の前縁と後縁には、前記フロントピラーの内部前端面と内部後端面とに面接合する溶接用フランジ片が各々折曲形成されている請求項1に記載の自動車の車体側部構造。
【請求項3】
前記バルクヘッド片は、車体前後方向に延在する先端縁を有し、当該先端縁には前記溶接用フランジ片に繋がる接続フランジ片が折曲形成されている請求項2に記載の自動車の車体側部構造。
【請求項4】
前記ヒンジパッチは、絞り加工による凸部を有し、前記凸部の突出外面がフロントピラーの内部側面に接合し、当該接合部分を前記フロントドア用ヒンジの締結部材が貫通している請求項1から3の何れか一項に記載の自動車の車体側部構造。
【請求項5】
前記ヒンジパッチは鉛直に延在する部分を含み、前記バルクヘッド片は水平に延在する部分を含み、前記ヒンジパッチと前記バルクヘッド片とでL字断面形状あるいはコ字断面形状をしている請求項1から4の何れか一項に記載の自動車の車体側部構造。
【請求項6】
前記フロントピラーより車体前方に延びる閉断面形状のアッパメンバと、
前記フロントピラーの車体後方に位置するフロントドアと、
前記アッパメンバに取り付けられて車体前後方向に延在するアッパメンバ用スチフナと、
前記フロントドアのインナパネルに取り付けられて車体前後方向に延在するドアビーム部材とを有し、
前記ヒンジパッチと前記バルクベッド片の少なくとも何れか一方と前記アッパメンバ用スチフナと前記ドアビーム部材とは、車体前後方向で見て、互いにオーバラップする部分を含んでいる請求項1から5の何れか一項に記載の自動車の車体側部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−35739(P2012−35739A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−177333(P2010−177333)
【出願日】平成22年8月6日(2010.8.6)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】