説明

自動車の車体側部構造

【課題】ドアビーム部材によってセンタピラーに伝達された前突荷重によってセンタピラーが変形することを、センタピラーの最小限の補強によって適切に回避すること。
【解決手段】車体前後方向で見て、閉断面形状のセンタピラー14が、フロントドア20のインナパネルに取り付けられて車体前後方向に延在するドアビーム部材48の少なくとも一部とオーバラップする位置に、車体前後方向に延在する板部を含むセンタピラー用バルクへッド部材46を固定配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の車体側部構造に関し、特に、センタピラーの補強構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の車体側部構造として、フロントドアのインナパネルに、車体前後方向に延在するドアビーム部材が取り付けられ、前部衝突時の衝突荷重(前突荷重)がドアビーム部材によって車体後方へ伝達されることにより、車体側部のフロントドア開口部の変形を抑制回避するものが知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−269591号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
フロントドアにドアビーム部材が設置されることにより、前突荷重が車体後方へ伝達され、フロントドア開口部の変形が抑制回避される効果が得られるが、4ドアセダン車の場合、前突荷重はドアビーム部材によってセンタピラーに伝達されることになる。センタピラーが伝達された前突荷重によって変形すると、センタピラーより車体後方の室内空間の変形に繋がる虞があるから、センタピラーは前突荷重に耐える強度を備えている必要がある。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、ドアビーム部材によってセンタピラーに伝達された前突荷重によってセンタピラーが変形することを、センタピラーの最小限の補強によって適切に回避することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明による自動車の車体側部構造は、閉断面形状のセンタピラー(14)と、前記センタピラー(14)の車体前方に位置するフロントドア(20)と、前記フロントドア(20)のインナパネル(20A)に取り付けられて車体前後方向に延在するドアビーム部材(48)とを有し、車体前後方向で見て前記センタピラー(14)が前記ドアビーム部材(48)の少なくとも一部とオーバラップする位置の前記センタピラー(14)内に、車体前後方向に延在する板部(46A)を含むセンタピラー用バルクへッド部材(46)が固定されている。
【0007】
この構成によれば、センタピラー用バルクへッド部材(46)によって当該センタピラー用バルクへッド部材(46)の設置部分のセンタピラー(14)の車体前後方向の圧縮荷重に対する剛性が向上し、ドアビーム部材(48)よりセンタピラー(14)への前突荷重の伝達は、センタピラー用バルクへッド部材(46)によって剛性を高められた部分に行われる。これにより、ドアビーム部材(48)によってセンタピラー(14)に伝達された前突荷重によってセンタピラー(14)が変形することが、センタピラー用バルクへッド部材(46)によるセンタピラー(14)の最小限の補強によって適切に回避される。
【0008】
本発明による自動車の車体側部構造は、好ましくは、前記ドアビーム部材(48)の後端部は、前記インナパネル(20A)の上方に設けられるドアサッシュ部材(21)の下端部を挿入される切欠き部(48C)と、前記切欠き部(48C)の下方にあって当該切欠き部(48C)より車体後方に延出した非切欠き部(48D)とを有し、当該非切欠き部(48D)の少なくとも一部が車体前後方向で見て前記センタピラー用バルクへッド部材(46)とオーバラップしている。
【0009】
この構成によれば、非切欠き部(48D)によってドアビーム部材(48)よりセンタピラー(14)へ前突荷重の伝達が行われるから、脆弱なドアサッシュ(21)を避けてドアビーム部材(48)よりセンタピラー(14)へ前突荷重が確実に伝達される。
【0010】
本発明による自動車の車体側部構造は、好ましくは、前記センタピラー(14)は、互いに接合されて閉断面形状を形成するアウタパネル(15)とセンタピラーインナ(17)と、前記アウタパネル(15)の内側に接合されたセンタピラースチフナ(19)とを有し、前記センタピラースチフナ(19)の内側に前記センタピラー用バルクへッド部材(46)が接合されている。
【0011】
この構成によれば、センタピラースチフナ(19)の設置によって、前突荷重伝達部位のセンタピラー(14)の前突荷重入力部位の車体前後方向の圧縮荷重に対する剛性が更に向上し、伝達された前突荷重によるセンタピラー(14)の変形回避が、より確実に行われる。
【0012】
本発明による自動車の車体側部構造は、好ましくは、前記センタピラー(14)は、互いに接合されて閉断面形状を形成するアウタパネル(15)とセンタピラーインナ(17)と、前記アウタパネル(15)の内側に接合されたセンタピラースチフナ(19)とを有し、前記センタピラースチフナ(19)の内側に前記センタピラー用バルクへッド部材(46)が接合され、前記アウタパネル(15)と前記センタピラースチフナ(19)は、前記ドアビーム部材(48)の後端部と車体前後方向に向かい合う前端壁部(15A、19A)を含み、前記アウタパネル(15)と前記センタピラースチフナ(19)の前記前端壁部(15A、19A)は、前記ドアビーム部材(48)の前記非切欠き部(48D)の後端部に向かい合う部分において他の部分より車体前方に膨出し、前記非切欠き部(48D)が前記前端壁部15A、19A)に近接している。
【0013】
この構成によれば、センタピラースチフナ(19)の設置によって、前突荷重伝達部位のセンタピラー(14)の前突荷重入力部位の車体前後方向の圧縮荷重に対する剛性が更に向上し、ドアビーム部材(48)の非切欠き部(48D)がアウタパネル(15)、センタピラースチフナ(19)の前記前端壁部に近接しているので、当該部分においてドアビーム部材(48)よりセンタピラー(14)への前突荷重の伝達が的確に行われる。これにより、ドアビーム部材(48)によって伝達された前突荷重によるセンタピラー(14)の変形回避が、より確実に行われる。
【0014】
本発明による自動車の車体側部構造は、好ましくは、前記センタピラースチフナ(19)はコ字形の断面形状を有し、前記センタピラー用バルクへッド部材(46)は、前記センタピラースチフナ(19)の内側3面にフランジ接合している。
【0015】
この構成によれば、センタピラースチフナ(19)に対するセンタピラー用バルクへッド部材(46)の固定が強固に行われ、センタピラー用バルクへッド部材(46)によるセンタピラースチフナ(19)を介してのセンタピラー(14)の車体前後方向の圧縮荷重に対する剛性向上が効果的に行われる。
【0016】
本発明による自動車の車体側部構造は、好ましくは、前記センタピラー用バルクへッド部材(46)は、前記板部(46A)の前後縁部に各々形成された溶接用フランジ片(46B、46C)と、前記板部(46A)の側縁部に形成されて前記前後の溶接用フランジ片(46B、46C)を互いに接続するもう一つの溶接用フランジ片(46D)とを有する。
【0017】
この構成によれば、溶接用フランジ片(46D)によってセンタピラー用バルクへッド部材(46)自体の車体前後方向の曲げ剛性が向上し、センタピラー用バルクへッド部材(46)によるセンタピラー(14)の補強が高度に行われるようになる。
【0018】
本発明による自動車の車体側部構造は、好ましくは、更に、前記フロントドアの車体前方に配置された閉断面形状のフロントピラーと、前記フロントピラーより車体前方に延びる閉断面形状のアッパメンバと、前記フロントピラーに取り付けられたフロントピラー補強部材と、前記アッパメンバに取り付けられて車体前後方向に延在するアッパメンバ用スチフナととを有し、前記アッパメンバ用スチフナと前記フロントピラー補強部材と前記ドアビーム部材と前記センタピラー用バルクへッド部材は、車体前後方向で見て、互いにオーバラップする部分を含んでいる。
【0019】
この構成によれば、アッパメンバ用スチフナ(30)とフロントピラー補強部材(32、38)とドアビーム部材(48)とセンタピラー用バルクへッド部材(46)とが、車体前後方向で見て、互いにオーバラップする部分を含んでいることにより、これらを前突荷重の車体後部への伝達経路(ロードパス)として、アッパメンバ(22)とフロントピラー(10)との間の前突荷重伝達と、フロントピラー(10)とドアビーム部材(48)との間の前突荷重伝達とが、車体前後方向に連続した直線状に行われるようになり、アッパメンバ(22)に入力された前突荷重のフロントピラー(10)、ドアビーム部材(48)を経由してのセンタピラー(14)への伝達が良好に行われるようになる。
【発明の効果】
【0020】
本発明による自動車の車体側部構造によれば、センタピラー用バルクへッド部材によって当該センタピラー用バルクへッド部材の設置部分のセンタピラーの車体前後方向の圧縮荷重に対する剛性が向上し、ドアビーム部材よりセンタピラーへの前突荷重の伝達は、センタピラー用バルクへッド部材によって剛性を高められた部分に行われる。
【0021】
これにより、ドアビーム部材によってセンタピラーに伝達された前突荷重によってセンタピラーが変形することが、センタピラー用バルクへッド部材によるセンタピラーの最小限の補強によって適切に回避される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明による自動車の車体側部構造の一つの実施例を示す斜視図。
【図2】本実施例による自動車の車体側部構造の側面図。
【図3】本実施例による自動車の車体側部構造のフロントピラー部分の斜視図。
【図4】本実施例による自動車の車体側部構造のフロントピラー部分の側面図。
【図5】図4の線V−Vに沿った断面図。
【図6】本実施例による自動車の車体側部構造のセンタピラー部分の側面図。
【図7】図4の線VII−VIIに沿った断面図。
【図8】図4の線VIII−VIIIに沿った断面図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明による自動車の車体側部構造の一つの実施例を、図1〜図5を参照して説明する。なお、車体側部構造は左右対称であるから、ここでは、車体正面から見て左側の構成について説明する。
【0024】
図1、図2に示されているように、自動車は、車体側部構造として、フロントピラー10とルーフレール12とセンタピラー14とサイドシル16とを有し、これらによりフロントドア20のためのドア開口18を画定されている。
【0025】
フロントピラー10の前面部にはフロントピラー10より車体前方に延びる閉断面形状のアッパメンバ(ホイールハウスアッパメンバ)22の基端部が溶接等によって接合されている。アッパメンバ22の先端部には車体前後方向に延在する閉断面形状のロアメンバ(ホイールハウスロアメンバ)24が接合されている。車体前部には車体前後方向に延在する閉断面形状のフロントサイドフレーム26が設けられている。ロアメンバ24の車体前側の先端部とフロントサイドフレーム26の車体前側の先端部とは連結板28によって互いに連結されている。
【0026】
アッパメンバ22のフロントピラー10との接合端近傍の内面には、車体前後方向に延在する複数個の折曲稜線A、B、C、D(図1、図2参照)を有するハット形の横断面形状のアッパメンバ用スチフナ30が接合されている。アッパメンバ用スチフナ30は、フロントピラー10より車体前方にあって、上下の溶接片30A、30Bをもってアッパメンバ22のアウタパネルの内側面に溶接され、車体前後方向に略水平に延在している。アッパメンバ用スチフナ30のフロントピラー10側の端部はフロントピラー10の前面、特に、後述するバルクヘッド片38を含むヒンジパッチ32の車体前方に極く接近した位置にある。アッパメンバ用スチフナ30は、車体前後方向に延在する複数個の折曲稜線A、B、C、Dを有していることにより、曲げ剛性が高いスチフナ部材になる。
【0027】
フロントピラー10は、図4、図5に示されているように、ハット形横断面形状をしたアウタピラーパネル11とインナピラーパネル13との接合体により構成されて閉断面形状をなしている。アウタピラーパネル11には、図1〜図3に示されているように、フロントドア用の上部ドアヒンジ42と下部ドアヒンジ44とが取り付けられている。以下に、上部ドアヒンジ42、下部ドアヒンジ44の取付構造の詳細を説明する。
【0028】
上部ドアヒンジ42、下部ドアヒンジ44は、各々、ピラー側部材42A、44Aと、ヒンジ軸42B、44Bと、ヒンジ軸42B、44Bによってピラー側部材42A、44Aに回動可能に取り付けられたドア側部材42C、44Cとを有する。上部ドアヒンジ42、下部ドアヒンジ44は、各々、ピラー側部材42A、44Aをアウタピラーパネル11の外側面11Aに取り付けられ、ドア側部材42C、44Cをフロントドア20に取り付けられる。
【0029】
アウタピラーパネル11の内側には、当該アウタピラーパネル11を板厚方向に挟んで上部ドアヒンジ42のドア側部材42Cに対応する位置に、ヒンジパッチ32が取り付けられている。ヒンジパッチ32は、上部ドアヒンジ42のピラー側部材42Aの裏当て板であり、四角形状をしており、中央部に絞り加工による四角形状の凸部32Aを有し、凸部32Aの突出外面32Bをもって、アウタピラーパネル11の内側面11Aに面接触している。ヒンジパッチ32はその面接触部分の複数箇所を溶接点×により示されているように、アウタピラーパネル11の内側面11Aにスポット溶接されている。これにより、ヒンジパッチ32は鉛直なアウタピラーパネル11の内側面11Aに沿って鉛直に延在する。
【0030】
ヒンジパッチ32の車体前後方向の前縁と後縁には、溶接用フランジ片32D、32Eが各々90度の折曲角をもって折曲形成されている。前側の溶接用フランジ片32Dはアウタピラーパネル11の内側において当該アウタピラーパネル11の前端面11Bに面接触し、後側の溶接用フランジ片32Eはアウタピラーパネル11の内側において当該アウタピラーパネル11の後端面11Cに面接触している。溶接用フランジ片32D、32Eは、各々の面接触部分の複数箇所を溶接点×により示されているように、アウタピラーパネル11の前端面11Bと後端面11Cにスポット溶接されている。
【0031】
アウタピラーパネル11とヒンジパッチ32の凸部32Aには、これらを貫通する貫通孔33が形成されている。凸部32Aの突出内面32Cには貫通孔33と整合する位置にナット34が溶接によって固定されている。上部ドアヒンジ42のピラー側部材42Aは、当該ピラー側部材42Aのベース部に貫通形成された貫通孔42D、前述の貫通孔33を貫通してナット34にねじ係合したボルト36によってアウタピラーパネル11の外側に固定されている。
【0032】
ヒンジパッチ32の上縁にはバルクヘッド片38が90度の折曲角を折曲形成されている。バルクヘッド片38は、アウタピラーパネル11の内側において当該アウタピラーパネル11の前端面11Bとの間に水平に延在している。これにより、ヒンジパッチ32は、バルクヘッド片38を含んで車体前後方向で見てL字断面形状をなす。
【0033】
バルクヘッド片38の車体前後方向の前縁と後縁には、溶接用フランジ片38A、38Bが各々90度の折曲角をもって上方に折曲形成されている。前側の溶接用フランジ片38Aはアウタピラーパネル11の内側において当該アウタピラーパネル11の前端面11Bに面接触し、後側の溶接用フランジ片38Bはアウタピラーパネル11の内側において当該アウタピラーパネル11の後端面11Cに面接触している。溶接用フランジ片38A、38Bは、各々の面接触部分の複数箇所を溶接点×により示されているように、アウタピラーパネル11の前端面11Bと後端面11Cにスポット溶接されている。
【0034】
バルクヘッド片38が前後の溶接用フランジ片38A、38Bの間において車体前後方向に延在する先端縁には、90度の折曲角をもって上方に折曲されて溶接用フランジ片38A、38Bに繋がる接続フランジ片38Cが形成されている。なお、バルクヘッド片38には、水抜き開口38Dが形成されている。
【0035】
上述したように、ヒンジパッチ32にバルクヘッド片38が折曲形成されていると、ヒンジパッチ32とバルクヘッド片38とがフロントピラ補強部材として単一部品になり、ヒンジパッチ32とバルクヘッド片38との折曲部に折曲稜線E(図3、図4参照)が存在することになり、これらが個別部品である場合に比して、自ずと高剛性の部品になり、上部ドアヒンジ42の取付部分の補強とフロントピラー10の車体前後方向の圧縮荷重に対する剛性(横断面剛性)の向上とが互助し合って高められる。
【0036】
これにより、前部衝突によるフロントピラー10の変形抑制が良好に行われ、前部衝突によるフロントピラー10の変形抑制、フロントピラー10における前突荷重の車体後方へ伝達が良好に行われるようになる。
【0037】
このことは、ヒンジパッチ32が鉛直に延在する部分を含み、バルクヘッド片38が水平に延在する部分を含み、ヒンジパッチ32とバルクヘッド片38とでL字断面形状をすることにより、ヒンジパッチ32とバルクヘッド片38との折曲稜線Eが90度の折曲角のものになることによって、顕著なものになる。
【0038】
また、ヒンジパッチ32は、溶接用フランジ片32D、32Eをもってフロントピラー10の内部前端面、内部後端面であるアウタピラーパネル11の前端面11B、後端面11Cに面接合していることにより、フロントドアヒンジ取付点の捩じれモーメントに対する強度が増加すると共に、ヒンジパッチ32自体もフロントピラー10内設置のバルクヘッドとしても作用する。これにより、ヒンジパッチ32もフロントピラー10の車体前後方向の圧縮荷重に対する剛性の向上に寄与することになり、前部衝突によるフロントピラー10の変形抑制、前突荷重の車体後方へ伝達が高度に行われるようになる。
【0039】
更に、バルクヘッド片38が溶接用フランジ片38A、38Bをもってフロントピラー10の内部前端面と内部後端面であるアウタピラーパネル11の前端面11B、後端面11Cに面接合していることにより、フロントピラー10の車体前後方向の圧縮荷重に対する剛性が更に向上し、このことによっても前部衝突によるフロントピラーの変形抑制、前突荷重の車体後方へ伝達が高度に行われるようになる。
【0040】
また、バルクヘッド片38に接続フランジ片38Cが折曲形成されていることにより、バルクヘッド片38自体の車体前後方向の曲げ剛性が向上し、このことによっても、前部衝突によるフロントピラーの変形抑制、前突荷重の車体後方へ伝達が高度に行われるようになる。
【0041】
また、ヒンジパッチ32に凸部32Aがプレス形成されていることにより、これが単純な平板状である場合に比して、ヒンジパッチ32の面剛性が向上し、フロントドアヒンジ取付点の捩じれモーメントに対する強度が更に増加する。
【0042】
フロントドア20は、図示されていないが、インナドアパネル20Aとアウタドアパネル(図示省略)との接合体により構成されている。インナドアパネル20Aには、図1、図2に示されているように、当該インナドアパネル20Aの上縁に沿って車体前後方向に延在するドアビーム部材48が取り付けられている。
【0043】
ドアビーム部材48は、車体前後方向に延在する複数個の折曲稜線F、G、H、I、J(図1、図3参照)を有する矩形波形の横断面形状をしており、下片48Bをインナドアパネル20Aの上縁に溶接されてインナドアパネル20Aの車体前後方向の全域に亘って略水平に延在している。なお、ドアビーム部材48の上片48Aは、フロントドア20の窓開口の下縁を画定している。
【0044】
ドアビーム部材48の車体前側の端部は、フロントドア20が閉扉された状態においてフロントピラー10の後面、詳細にはバルクヘッド片38を含むヒンジパッチ32の車体後方に極く接近した位置にある。ドアビーム部材48は、車体前後方向に延在する複数個の折曲稜線F、G、H、I、Jを有していることにより、曲げ剛性が高いビーム部材になる。
【0045】
ドアビーム部材48の車体後側の端部(後端部)は、インナパネル20Aの上方に設けられるドアサッシュ部材21(図2参照)の下端部を挿入される切欠き部48Cと、切欠き部48Cの下方にあって切欠き部48Cより車体後方に延出した非切欠き部48Dとを有する。非切欠き部48Dは車幅方向に折曲した折曲片48Eを含む。ドアビーム部材48の下側の折曲稜線Jは非切欠き部48Dまで延長されている。
【0046】
なお、フロントドア20のアウタドアパネルの内面には、側部衝突対策用のドアビーム部材50、52が取り付けられている(図1、図2参照)。
【0047】
センタピラー14は、図6〜図8に示されているように、ハット形横断面形状をしたアウタパネル15とセンタピラーインナ(インナピラーパネル)17との接合体により構成されて閉断面形状をなしている。アウタパネル15の内側には、コ字形断面形状の高張力鋼板製のセンタピラースチフナ19が接合されている。本実施例では、センタピラースチフナ19は、接合片を含むハット形横断面形状をしており、アウタパネル15とセンタピラーインナ17との接合部に挟まれてこれらに固定されている。
【0048】
センタピラースチフナ19の内側にはセンタピラー用バルクへッド部材46が接合されている。センタピラー用バルクへッド部材46は、車体前後方向に延在する板部46Aと、板部46)の前後縁部に各々折曲形成された溶接用フランジ片46B、46Cと、板部46Aの側縁部に折曲形成されたもう一つの溶接用フランジ片46Dと、溶接用フランジ片46Dと前後の溶接用フランジ片46B、46Cとを各々接続すべく板部46Aの側縁部に折曲形成された接続フランジ片46Eとを一体に有するプレス成形品である。
【0049】
センタピラー用バルクへッド部材46は、板部46Aが車体前後方向で見てドアビーム部材48、特に切欠き部48Cの少なくとも一部にオーバラップする位置に配置されて溶接用フランジ片46B、46Cをセンタピラースチフナ19の内側の前端面19B、後端面19Cに各々フランジ接合(溶接)され、更に、フランジ片46Dをセンタピラースチフナ19の内側の側面19Dにフランジ接合(溶接)されている。
【0050】
センタピラー用バルクへッド部材46は、センタピラースチフナ19の前端面19Bと側面19Dとの角部と、センタピラースチフナ19の後端面19Cと側面19Dとの角部に、各々、閉じ断面部45を形成している。
【0051】
なお、フランジ片46Dには、センタピラースチフナ19、アウタパネル15に貫通形成されている位置合わせ孔(図示省略)との整合によってセンタピラー用バルクへッド部材46を上述した所要の位置にセットすめための位置合わせ孔46Gが形成されている。また、板部46Aには水抜き孔46Fが貫通形成されている。
【0052】
センタピラー用バルクへッド部材46の板部46Aがセンタピラースチフナ19と前端面19Bと後端面19Cとの間に橋渡しされているから、センタピラー用バルクへッド部材46が設置された部分のセンタピラー14の車体前後方向の圧縮荷重に対する剛性が向上する。
【0053】
センタピラー用バルクへッド部材46の板部46Aは、車体前後方向で見てドアビーム部材48、特に切欠き部48Cの少なくとも一部にオーバラップする位置に配置されていることにより、ドアビーム部材48よりセンタピラー14への前突荷重の伝達は、センタピラー用バルクへッド部材46によって剛性を高められた部分に行われる。これにより、ドアビーム部材48によってセンタピラー14に伝達された前突荷重によってセンタピラー14が変形することが、センタピラー用バルクへッド部材46によるセンタピラー14の最小限の補強によって適切に回避される。
【0054】
また、特に、非切欠き部48Dによってドアビーム部材48よりセンタピラー14へ前突荷重の伝達が行われるから、脆弱なドアサッシュ21を避けてドアビーム部材48よりセンタピラー14へ前突荷重が確実に伝達されることになる。また、ドアビーム部材48の非切欠き部48Dがアウタパネル15、センタピラースチフナ19の前端壁部15A、19Aに近接する方向に延出しているので、当該部分においてドアビーム部材48よりセンタピラー14への前突荷重の伝達が的確に行われる。このことによっても、ドアビーム部材48によって伝達された前突荷重によるセンタピラー14の変形回避が、より確実に行われる。
【0055】
また、センタピラー用バルクへッド部材46は、センタピラースチフナ19の内側3面にフランジ接合しているから、センタピラースチフナ19に対するセンタピラー用バルクへッド部材46の固定が強固に行われ、センタピラー用バルクへッド部材46によるセンタピラースチフナ19を介してのセンタピラー14の車体前後方向の圧縮荷重に対する剛性向上が効果的に行われる。
【0056】
また、前後の溶接用フランジ片46C、46Dに繋がった溶接用フランジ片46Dおよび接続フランジ片46Eによってセンタピラー用バルクへッド部材46自体の車体前後方向の曲げ剛性が向上し、センタピラー用バルクへッド部材46によるセンタピラー14の補強が高度に行われるようになる。
【0057】
しかも、センタピラー用バルクへッド部材46は、センタピラースチフナ19の前端面19Bと側面19Dとの角部と、センタピラースチフナ19の後端面19Cと側面19Dとの角部に、各々、閉じ断面部45を形成しているので、センタピラー14の車体前後方向の曲げ剛性が向上する。
【0058】
更には、センタピラースチフナ19が設置されていることにより、前突荷重伝達部位のセンタピラー14の前突荷重入力部位の車体前後方向の圧縮荷重に対する剛性が更に向上し、伝達された前突荷重によるセンタピラー14の変形回避が、より確実に行われる。
【0059】
本実施例による車体側部構造では、ヒンジパッチ32とバルクベッド片38の少なくとも何れか一方と、アッパメンバ用スチフナ30とドアビーム部材48とセンタピラー用バルクへッド部材46とが、車体前後方向で見て、互いにオーバラップする部分を含んでおり、更には、この4者がオーバラップする部分は、略水平に一直線上に存在している。
【0060】
このオーバラップ部分によって、アッパメンバ22とフロントピラー10との間の前突荷重の伝達(ロードパス)と、フロントピラー10とドアビーム部材48との間の前突荷重の伝達(ロードパス)と、ドアビーム部材48とセンタピラー用バルクへッド部材46とが、連続直線状の荷重伝達経路をもって行われるようになる。これにより、アッパメンバ22に入力された前突荷重のフロントピラー10、ドアビーム部材48を経由してのセンタピラー14のセンタピラー用バルクへッド部材46配置部への伝達が良好に行われるようになる。
【0061】
特に、このオーバラップする部分が、略水平に一直線上に存在していることにより、アッパメンバ22に入力された前突荷重のフロントピラー10、ドアビーム部材48を経由しての車体後部への伝達が、曲げモーメントを生じることなく、効率よく良好に行われるようになる。
【0062】
また、ドアビーム部材48の下側の折曲稜線Jは非切欠き部48Dまで延長されているので、ドアビーム部材48よりセンタピラー用バルクへッド部材46への前突荷重の伝達(ロードパス)が効率よく良好ら行われる。
【符号の説明】
【0063】
10 フロントピラー
11 アウタピラーパネル
20 フロントドア
22 アッパメンバ
30 アッパメンバ用スチフナ
32 ヒンジパッチ
32A 凸部
32D、32E 溶接用フランジ片
38 バルクヘッド片
38A、38B 溶接用フランジ片
38C 接続フランジ片
42 上部ドアヒンジ
46 センタピラー用バルクへッド部材
48 ドアビーム部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
閉断面形状のセンタピラーと、
前記センタピラーの車体前方に位置するフロントドアと、
前記フロントドアのインナパネルに取り付けられて車体前後方向に延在するドアビーム部材とを有し、
車体前後方向で見て前記センタピラーが前記ドアビーム部材の少なくとも一部とオーバラップする位置の前記センタピラー内に、車体前後方向に延在する板部を含むセンタピラー用バルクへッド部材が固定されている車体側部構造。
【請求項2】
前記ドアビーム部材の後端部は、前記インナパネルの上方に設けられるドアサッシュ部材の下端部を挿入される切欠き部と、前記切欠き部の下方にあって当該切欠き部より車体後方に延出した非切欠き部とを有し、当該非切欠き部の少なくとも一部が車体前後方向で見て前記センタピラー用バルクへッド部材とオーバラップしている請求項1に記載の車体側部構造。
【請求項3】
前記センタピラーは、互いに接合されて閉断面形状を形成するアウタパネルとセンタピラーインナと、前記アウタパネルの内側に接合されたセンタピラースチフナとを有し、前記センタピラースチフナの内側に前記センタピラー用バルクへッド部材が接合されている請求項1または2に記載の車体側部構造。
【請求項4】
前記センタピラーは、互いに接合されて閉断面形状を形成するアウタパネルとセンタピラーインナと、前記アウタパネルの内側に接合されたセンタピラースチフナとを有し、前記センタピラースチフナの内側に前記センタピラー用バルクへッド部材が接合され、
前記アウタパネルと前記センタピラースチフナは、前記ドアビーム部材の後端部と車体前後方向に向かい合う前端壁部を含み、前記アウタパネルと前記センタピラースチフナの前記前端壁部は、前記ドアビーム部材の前記非切欠き部の後端部に向かい合う部分において他の部分より車体前方に膨出し、前記非切欠き部が前記前端壁部に近接している請求項2に記載の車体側部構造。
【請求項5】
前記センタピラースチフナはコ字形の断面形状を有し、
前記センタピラー用バルクへッド部材は、前記センタピラースチフナの内側3面にフランジ接合している請求項3または4に記載の車体側部構造。
【請求項6】
前記センタピラー用バルクへッド部材は、前記板部の前後縁部に各々形成された溶接用フランジ片と、前記板部の側縁部に形成されて前記前後の溶接用フランジ片を互いに接続するもう一つの溶接用フランジ片とを有する請求項5に記載の車体側部構造。
【請求項7】
前記フロントドアの車体前方に配置された閉断面形状のフロントピラーと、
前記フロントピラーより車体前方に延びる閉断面形状のアッパメンバと、
前記フロントピラーに取り付けられたフロントピラー補強部材と、
前記アッパメンバに取り付けられて車体前後方向に延在するアッパメンバ用スチフナととを有し、
前記アッパメンバ用スチフナと前記フロントピラー補強部材と前記ドアビーム部材と前記センタピラー用バルクへッド部材は、車体前後方向で見て、互いにオーバラップする部分を含んでいる請求項1から6の何れか一項に記載の自動車の車体側部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−35740(P2012−35740A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−177342(P2010−177342)
【出願日】平成22年8月6日(2010.8.6)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】