説明

自動車の車体前部構造

【課題】フロントサイドメンバの剛性を強化することなく、前面衝突時にフロントサイドメンバの曲げ変形を防ぐ自動車の車体前部構造を提供すること。
【解決手段】エンジンルームEの左右両側のフロントサイドメンバ1の前端でフロントバンパ6を支持せしめ、両フロントサイドメンバの前後中間の下面でフロントタイヤ3を支持するフロントサスペンションクロスメンバ2が固定された自動車の車体前部構造において、両フロントサイドメンバ1の前端に、上方へ起立する高剛性の起立部材4を立設して、車両の前面衝突時にフロントサイドメンバ1が相手部体に突っ込んだときに相手部体に衝突したフロントタイヤ3側からフロントサイドメンバ1に作用する曲げモーメントと起立部材4からフロントサイドメンバ1に作用する曲げモーメントを相殺にさせるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動車の車体前部構造、特に左右のフロントサイドメンバの前端付近の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
図6に示すように、自動車の車体前部においては、エンジンルームEの左右両側で前後方向に延びる左右一対のフロントサイドメンバ1は、前後中間位置の下方に複数のブラケット20,20を介して車幅方向にフロントサスペンションメンバ2が設置され、フロントサスペンションメンバ2に左右のフロントタイヤ3が組付けられている。
【0003】
また両フロントサイドメンバ1は前端で車幅方向に延びるバンパリィンフォースメント5を支持し、これにフロントバンパ6が組付けられ、車両の前面衝突にフロントバンパ6およびバンパリィンフォースメント5を介してフロントサイドメンバ1で衝突荷重を受け止め、エンジンルームEの後方への変形を抑える構造とされている。一般にフロントサイドメンバ1は図5に示すように閉断面構造をなし、底面から左右の側面にかけて補強板10を設けて2重構造とし、衝突荷重に対する剛性が強化されている。
【0004】
セダン等の乗用車では、下記特許文献1に記載されたように、フロントサイドメンバの前端部上面を前下がりの傾斜面とし、該傾斜面にバンパステイを固定し、バンパリィンフォースメント(バンパアーマチュア)およびフロントバンパ(バンパフィニッシャ)を組付けて、前面衝突時にフロントサイドメンバ前端部が上方へ浮き上がるように曲げ変形するのを抑えることが提案されている。また特許文献2では、フロントタイヤの前方位置でフロントサイドメンバの前端部の外側に、前面を前下がりの傾斜面としたブロック状の荷重伝達手段を設け、前面衝突時に衝突荷重をフロントサイドメンバと平行に上記荷重伝達手段、フロントタイヤおよびフロントタイヤ後方のロッカーへと伝達せしめてフロントサイドメンバの負担を軽減するとともに、荷重伝達手段に前下がり傾斜前面を設けたことで車体前部の浮き上がりを抑えてフロントサイドメンバ前部の上方への曲げ変形を抑えることが提案されている。
【特許文献1】実公平7−19918号公報
【特許文献2】特開2005−67347号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで図6に示すようなセミボンネットタイプのワゴン車では、セダン等の乗用車に比べてエンジンルームEの前後長が短い分、フロントサイドメンバ1の剛性が特に要求される。
そこで車両同士のオフセット前面衝突を想定してワゴン車を所定の速度でバリヤ(ハニカム構造体)9に衝突させる衝突実験を行なった結果、図6に示すように剛性の高いフロントサイドメンバ1がバリヤ9の上下中間位置を大きく潰してバリヤ9内に突っ込み、フロントサイドメンバ1の上方位置ではバリヤ9が車両前面内へ突っ込んで潰れ残り、またフロントサイドメンバ1の下方位置でもバリヤ9は潰れ残った。
更に潰れ残ったバリヤ9の下部がフロントタイヤ3に当り、この時フロントサイドメンバ1にはその前後中間位置にこれを上方へ凸状に押し曲げようとする上凸曲げモーメント(図示白矢印)M1が発生することが判った。これは、フロントタイヤ3はその支軸30がフロントサイドメンバ1よりも低い位置で支持されているので、フロントタイヤ3からサスペンションメンバ2を介してフロントサイドメンバ1に上記上凸曲げモーメントM1が作用するものと認めた。
【0006】
そこで本発明は、上記の知見に基き、車両の前面衝突時にフロントサイドメンバの前後中間位置に発生する上向きの曲げモーメント(上凸曲げモーメント)を低下させることで、フロントサイドメンバ自体に補強を加えることなく、衝突に対するフロントサイドメンバの剛性が確保し得る車体前部構造を提供することを課題としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明はエンジンルームの左右両側に前後方向に延びる左右一対のフロントサイドメンバを備え、両フロントサイドメンバの前端で車幅方向に延びるフロントバンパを支持せしめ、両フロントサイドメンバの前後中間の下面でフロントタイヤを支持するフロントサスペンションクロスメンバが固定された自動車の車体前部構造において、上記両フロントサイドメンバの前端に、上方へ起立する高剛性の起立部材を立設する(請求項1)。
車両の前面衝突時、フロントサイドメンバとともにその前端に立設した起立部材にも衝突荷重が作用する。この時、フロントサイドメンバにはフロントタイヤ側から上方へ凸向きの曲げモーメントが作用するが、フロントサイドメンバの上側では起立部材が衝突相手側からの反力を受けることでフロントサイドメンバにはその中間部を下方へ押し下げようとする下凸向きの曲げモーメントが作用し、上記上凸向きの曲げモーメントがキャンセルされて減少しフロントサイドメンバの変形が防止される。
【0008】
上記起立部材を閉断面の柱状に形成した(請求項2)。
【0009】
上記起立部材はその下端を上記フロントサイドメンバの前端上面に結合するとともに、上端を、上記フロントサイドメンバの前端の上方位置で車幅方向に設置されたラジエータサポートアッパに結合せしめる(請求項3)。
起立部材を安定に設置できる。
【0010】
上記起立部材を、セミボンネットタイプのワゴン車の、前後方向に直線状に設置されたフロントサイドメンバの前端に立設した(請求項4)。
本発明はセミボンネットタイプのワゴン車に特に好適に適用され得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1は本発明を適用したセミボンネットタイプのワゴン車の車体前部の要部側面図を示し、図2は上記ワゴン車の要部前面図を示す。エンジンルームEにはその左右両側に、骨格部材として前後方向に延びる一対のフロントサイドメンバ1が設けてある。各フロントサイドメンバ1は、上方に向けて開口する断面ほぼコ字形のロアパネルと、該ロアパネルの上部開口を塞ぐアッパパネルとで閉断面構造をなす。またフロントサイドメンバ1はその内部の底面から左右の側面に沿って補強板10を重ねて2重構造として補強してある(図5参照)。
【0012】
図1、図2に示すように、左右の両フロントサイドメンバ1にはそれぞれ、前後中間の下面に下方へ突出する複数のブラケット20,20が設けてあり、ブラケット20,20には車幅方向にフロントサスペンションメンバ(以下、「サスペンションメンバ」と言う)2が支持せしめてある。
そして、サスペンションメンバ2には左右の両側に、フロントサイドメンバ1よりも低い位置に車軸30を配して左右のフロントタイヤ3を支持せしめてある。
【0013】
両フロントサイドメンバ1の前端には車幅方向にのびるバンパリィンフォースメント5の左右両側が結合してあり、バンパリィンフォースメント5にはこれを覆うように合成樹脂製のフロントバンパ6が取付けてある。
【0014】
両フロントサイドメンバ1の前端上面には、これらから上方へ起立する高剛性の起立部材4が設けてある。図3に示すように、各起立部材4は、断面ほぼハット形の前面パネル41と、その後方に向けた開口を塞ぐ平板状の後面パネル42とで閉断面を構造をなす。起立部材4の横幅はフロントサイドメンバ1の上面の横幅に合わせてある。
そして起立部材4はほぼ垂直の起立姿勢で下端がフロントサイドメンバ1の前端上面に溶接結合してある。
【0015】
またエンジンルームEには他の骨格部材として、エンジンルームEの側壁上縁に沿って前後方向に上下に幅広の閉断面をなすエプロンアッパメンバ7が設けてある。エプロンアッパメンバ7は後端がエンジンルームEの側壁後縁に沿うフロントピラーPの上下中間位置に結合してあり、これから前方へ延設してある。
【0016】
またエプロンアッパメンバ7の前方にはエプロンアッパメンバ7の上面を前方へ延長するようにラジエータサポートサイド80が連結してある。そしてエンジンルームEの前面部の上縁には、左右のラジエータサポートサイド80の前端間を車幅方向に架けわたしてラジエータRの上縁を支持するラジエータサポートアッパ8が設けてある。なお、ラジエータサポートアッパ8およびラジエータサポートサイド80は断面ハット形の金属板で構成してある。
【0017】
このように構成した車体前部構造のワゴン車により、先の述べた衝突実験におけると同じバリヤ9で衝突実験を行なった。
結果は、図4に示すようにフロントサイドメンバ1のバリヤ9への突っ込み量は減少し、バリヤ9の上部の潰れ量は増加し、その分、エンジンルームの前面部の後方への変形量は減少した。起立部材4は若干後方へ傾斜した。
衝突時におけるフロントサイドメンバ1に発生する曲げモーメントを上記測定した結果、上凸曲げモーメントは起立部材4を設けない車両に比べると各3分の1に減少したことがわかった。これは起立部材4に作用するバリヤ9の反力によりフロントサイドメンバ1に上記上凸曲げモーメントM1とは逆の下凸向きの下凸曲げモーメントM2が作用し、これにより上凸曲げモーメントM1がキャンセルされたことによるものと認められる。
【0018】
以上の結果から明らかなように、本発明によればセミボンネットタイプのワゴン車において車両の前面衝突時、フロントサイドメンバ1に発生する曲げモーメント(上凸曲げモーメントM1)が減少するから、フロントサイドメンバ1を更に大型にしたり、また補強部材を加えることなく、前面衝突時におけるフロントサイドメンバ1の変形を防止し得ることは勿論、フロントサイドメンバ1として従来構造よりも引張強度が低い鋼板を用いることも可能となり、コストを低減することができる。
そして、フロントサイドメンバ1の変形を防止するとともに、起立部材4により前面衝突時におけるエンジンルームEの潰れ変形を軽減し、キャビンの変形を少なくして乗員の安全性向上に貢献する。
また起立部材4はその上端がラジエータサポートアッパ8に結合され、車両衝突時にラジエータサポートアッパ8が変形することで若干後傾姿勢となり、これにより車体前部の衝撃を緩和することができる。
【0019】
上述の実施形態では、起立部材4を閉断面の中空の柱状に形成したが、これに限らず、中実の柱状部材で構成してもよい。しかしながら重量の面で中空閉断面構造の起立部材4のほうが都合がよい。なお、起立部材4はフロントサイドメンバ1と同一部材で形成することが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明を適用したワゴン車等の車体前部構造を示す要部側面図である。
【図2】上記車体前部構造の要部正面図である。
【図3】本発明に用いる起立部材の横断面図である。
【図4】本発明を適用した車両の衝突試験の結果を示すフロントサイドメンバまわりの要部側面図である。
【図5】車両のフロントサイドメンバの縦断面図である。
【図6】従来のワゴン車等の車体前部構造を示す要部側面図である。
【図7】従来の車両の衝突試験の結果を示すフロントサイドメンバまわりの要部側面図である。
【符号の説明】
【0021】
1 フロントサイドメンバ
2 フロントサスペンションメンバ
3 フロントタイヤ
30 車軸
4 起立部材
5 バンパリィンフォースメント
6 フロントバンパ
8 ラジエータサポートアッパ
9 バリヤ
E エンジンルーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンルームの左右両側に前後方向に延びる左右一対のフロントサイドメンバを備え、両フロントサイドメンバの前端で車幅方向に延びるフロントバンパを支持せしめ、両フロントサイドメンバの前後中間の下面でフロントタイヤを支持するフロントサスペンションクロスメンバが固定された自動車の車体前部構造において、
上記両フロントサイドメンバの前端に、上方へ起立する高剛性の起立部材を立設して、車両の前面衝突時にその衝突荷重をフロントサイドメンバとともに上記起立部材で受けるようになした自動車の車体前部構造。
【請求項2】
上記起立部材を閉断面の柱状に形成した請求項1に記載の自動車の車体前部構造。
【請求項3】
上記起立部材はその下端を上記フロントサイドメンバの前端上面に結合するとともに、上端を、上記フロントサイドメンバの前端の上方位置で車幅方向に設置されたラジエータサポートアッパに結合せしめた請求項1に記載の自動車の車体前部構造。
【請求項4】
上記起立部材を、セミボンネットタイプのワゴン車の、前後方向に直線状に設置されたフロントサイドメンバの前端に立設した請求項1または2に記載の自動車の車体前部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−107590(P2009−107590A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−284709(P2007−284709)
【出願日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【出願人】(000110321)トヨタ車体株式会社 (1,272)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】