説明

自動車の車体前部構造

【課題】 重量の増加を最小限に抑えながらフロントサイドフレームからサイドシルへの荷重伝達を効率的に行えるようにする。
【解決手段】 フロントサイドフレーム11とサイドシル15の前端とを接続するアウトリガー20が第1、第2中空フレーム18,19とで構成されるので、衝突荷重を第1、第2中空フレーム18,19が軸力でサイドシル15に伝達することが可能となり、重量を軽減しながら荷重伝達効率を高めることができる。衝突荷重によってフロントサイドフレーム11が後下方に傾斜する傾斜部11cおよび第2水平部11bの境界の屈曲部aで上向きに折れ曲がるとき、第1中空フレーム18は屈曲部aよりも前の傾斜部11cに接続され、第2中空フレーム19は屈曲部aよりも後方の第2水平部11bに接続されるので、屈曲部aにおけるフロントサイドフレーム11の折れ曲がりに伴って第1、第2中空フレーム18,19の相対位置が変化することで、衝突エネルギーの吸収を行わせることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、前後方向に配置されたフロントサイドフレームが、前側の第1水平部と、後側の第2水平部と、前記第1水平部の後端から後下方に傾斜して前記第2水平部の前端に連なる傾斜部とを備え、前記フロントサイドフレームとその車幅方向外側に前後方向に配置されたサイドシルの前端とがアウトリガーにより接続される自動車の車体前部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のフロントサイドフレームの後部を車幅方向に二股に分岐させ、その一方の分岐部をサイドシルの前端近傍に接続するとともに、その他方の分岐部をフロアトンネルの前端に接続し、更に前記一方の分岐部とサイドシルの前端とを車幅方向に延びるクロスメンバで三角形を構成するように接続したものが、下記特許文献1により公知である。
【0003】
またフロントサイドフレームが後下方に傾斜する傾斜部の車幅方向外側面を、板金プレス製のアウトリガーを介してサイドシルの前部の車幅方向内側面に接続する構造も従来周知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許公開2010/78976号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、自動車のフロントサイドフレームの前端に前面衝突の衝突荷重が入力すると、フロントサイドフレームが後下方に傾斜する傾斜部の後端の屈曲部を中心とし、フロントサイドフレームを上向きに折り曲げようと曲げモーメントが作用する。上記特許文献1に記載された発明は、フロントサイドフレームの二股の分岐部で前記曲げモーメントを支持する必要があるため、フロントサイドフレームを補強する必要が生じて重量が増加する問題がある。このとき、曲げモーメントによってフロントサイドフレームの一方の分岐部とサイドシルの前部とクロスメンバとで構成される三角形部分が変形すれば、曲げモーメントに対抗する反力を発生させることができる。しかしながら、前記三角形部分はフロントサイドフレームの傾斜部だけに接続されているため、フロントサイドフレームが傾斜部の後端の屈曲部を中心として折れ曲がっても前記三角形部分は変形せず、よって曲げモーメントに対抗する反力を発生させることができないという問題がある。
【0006】
またフロントサイドフレームの傾斜部の車幅方向外側面を板金プレス製のアウトリガーを介してサイドシルの前部の車幅方向内側面に接続するものでは、自動車の前面衝突時に前後方向の荷重をアウトリガーの剪断力でサイドシルに伝達し、曲げモーメントをアウトリガーの捩じりでサイドシルに伝達する必要があるが、そのためにアウトリガーを大断面の部材で構成することが必要になって重量が増加する問題がある。
【0007】
本発明は前述の事情に鑑みてなされたもので、重量の増加を最小限に抑えながらフロントサイドフレームからサイドシルへの荷重伝達を効率的に行えるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、請求項1に記載された発明によれば、前後方向に配置されたフロントサイドフレームが、前側の第1水平部と、後側の第2水平部と、前記第1水平部の後端から後下方に傾斜して前記第2水平部の前端に連なる傾斜部とを備え、前記フロントサイドフレームとその車幅方向外側に前後方向に配置されたサイドシルの前端とがアウトリガーにより接続される自動車の車体前部構造において、前記アウトリガーは、前記サイドシルの前端および前記フロントサイドフレームの前記傾斜部を連結する第1中空フレームと、前記サイドシルの前端および前記フロントサイドフレームの前記第2水平部を連結する第2中空フレームとで構成されることを特徴とする自動車の車体前部構造が提案される。
【0009】
また請求項2に記載された発明によれば、請求項1の構成に加えて、前記第1中空フレームおよび前記第2中空フレームはダッシュボードロアパネルあるいはフロアパネルに結合されることを特徴とする自動車の車体前部構造が提案される。
【0010】
また請求項3に記載された発明によれば、請求項1または請求項2の構成に加えて、前記第1中空フレームの車幅方向内端に、フロントサブフレームの後部を支持する取付ブラケットを設けたことを特徴とする自動車の車体前部構造が提案される。
【0011】
また請求項4に記載された発明によれば、請求項3の構成に加えて、前記取付ブラケットは、前記第1中空フレームの車幅方向内端の下面および前記フロントサイドフレームの下面に結合されることを特徴とする自動車の車体前部構造が提案される。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の構成によれば、前後方向に配置されたフロントサイドフレームと、その車幅方向外側に前後方向に配置されたサイドシルの前端とを接続するアウトリガーが、サイドシルの前端およびフロントサイドフレームの傾斜部を連結する第1中空フレームと、サイドシルの前端およびフロントサイドフレームの第2水平部を連結する第2中空フレームとで構成されるので、自動車の前面衝突による衝突荷重がフロントサイドフレームの前端に入力されたとき、第1、第2中空フレームがフロントサイドフレームからの衝突荷重を軸力でサイドシルに伝達することが可能となり、開断面の板金プレス材でアウトリガーを構成する場合に比べて、アウトリガーの重量を軽減しながら荷重伝達効率を高めることができる。
【0013】
また衝突荷重によってフロントサイドフレームが傾斜部および第2水平部の境界の屈曲部で上向きに折れ曲がるとき、第1中空フレームは屈曲部よりも前方の傾斜部に接続され、第2中空フレームは屈曲部よりも後方の第2水平部に接続されるので、前記屈曲部におけるフロントサイドフレームの折れ曲がりに伴って第1、第2中空フレームの相対位置が変化することで、衝突エネルギーの吸収を行わせることができる。
【0014】
また請求項2の構成によれば、第1中空フレームおよび第2中空フレームはダッシュボードロアパネルあるいはフロアパネルに結合されるので、それらが相互に補強し合って強度が更に高められる。
【0015】
また請求項3の構成によれば、第1中空フレームの車幅方向内端にフロントサブフレームの後部を支持する取付ブラケットを設けたので、自動車の前面衝突時にフロントサブフレームに入力された衝突荷重を取付ブラケットを介して第1中空フレームに伝達し、かつフロントサイドフレームを経て第2中空フレームに伝達することができる。
【0016】
また請求項4の構成によれば、取付ブラケットは第1中空フレームの車幅方向内端の下面およびフロントサイドフレームの下面に結合されるので、取付ブラケットを利用して第1中空フレームおよびフロントサブフレームの結合部を補強することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】自動車の車体前部のフレーム構造を示す斜視図。(実施の形態)
【図2】図1の2部拡大図。(実施の形態)
【図3】図1の3方向矢視図。(実施の形態)
【図4】図3の4−4線断面図。(実施の形態)
【図5】自動車の前面衝突時の作用説明図。(実施の形態および比較例)
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図1〜図5に基づいて本発明の実施の形態を説明する。本明細書における前後方向、左右方向(車幅方向)および上下方向は、運転席に着座した乗員を基準として定義される。
【0019】
図1は自動車の車体前部の骨格を左前方の下側から見上げたものである。左右一対のフロントサイドフレーム11,11が車体前部に前後方向に配置されており、各フロントサイドフレーム11は、概ね水平に配置される前側の第1水平部11aと、概ね水平に配置される後側の第2水平部11bと、第1、第2水平部11a,11bに挟まれた傾斜部11cとを備える。傾斜部11cは第1水平部11aの後端から下向き、かつ車幅方向内向きに屈曲して第2水平部11bの前端に連なっている。
【0020】
左右のフロントサイドフレーム11,11の車幅方向外側に配置される左右一対のホイールハウスアッパメンバ12,12は、後上方から前下方に傾斜して配置されており、その後部に左右一対のフロントピラーアッパ13,13の前部が接続されるとともに、フロントピラーアッパ13,13の下部から下方に延びる左右一対のフロントピラーロア14,14の下端が前後方向に配置された左右一対のサイドシル15,15の前端に接続される。左右のフロントサイドフレーム11,11の前端と左右のホイールハウスアッパーメンバ12,12の前端とが、車幅方向に延びる左右一対のサイドフレームガセット16,16で接続される。前面視で矩形枠状のフロントバルクヘッド17が、左右のフロントサイドフレーム11,11の前端間に支持される。
【0021】
図1〜図4に示すように、フロントサイドフレーム11とサイドシル15の前端とが、車幅方向に延びる第1中空フレーム18および第2中空フレーム19よりなるアウトリガー20で接続される。
【0022】
第1中空フレーム18は台形状の閉断面を有するパイプ材、あるいは板金プレス材を閉断面となるように溶接した部材で構成されており、その車幅方向内側の端部に設けた接合フランジ18a…がフロントサイドフレーム11の車幅方向外面および下面に溶接され、その車幅方向外側の端部に設けた接合フランジ18b…がサイドシル15の車幅方向内面および下面に溶接される。すなわち、第1中空フレーム18は、車幅方向内端をフロントサイドフレーム11の傾斜部11cに接続され、そこから車幅方向外側に下方かつ後方に傾斜しながら延びてサイドシル15の前端に接続される。
【0023】
第2中空フレーム19は矩形状の閉断面を有するパイプ材、あるいは板金プレス材を閉断面となるように溶接した部材で構成されており、その車幅方向内側の端部に設けた接合フランジ19a…がフロントサイドフレーム11の車幅方向外面および下面に溶接され、その車幅方向外側の端部に設けた接合フランジ19b…がサイドシル15の車幅方向内面および下面に溶接される。すなわち、第2中空フレーム19は、車幅方向内端をフロントサイドフレーム11の第2水平部11bの前部、つまり傾斜部11cの後端の屈曲部aの僅かに後方位置に接続され、そこから車幅方向外側に延びてサイドシル15の前端に接続される。
【0024】
第1中空フレーム18およびフロントサイドフレーム11を結合する第1結合部Aと、第2中空フレーム19およびフロントサイドフレーム11を結合する第2結合部Bと、第1、第2中空フレーム18,19およびサイドシル15を結合する第3結合部Cとは、平面視で三角形を構成する(図3参照)。
【0025】
第1中空フレーム18およびフロントサイドフレーム11の第1結合部Aには、外周の一部にフランジ21aを有する板金プレス製の取付ブラケット21が固定される。取付ブラケット21は第1中空フレーム18の下面およびフロントサイドフレーム11の下面に跨がるように溶接され、その下面から下向きに突出するボス部21bが形成される。
【0026】
エンジンおよびトランスミッションを結合した図示せぬパワープラントを支持するフロントサブフレーム22は、一対の縦部材23,23および一対の横部材24,24を枠状に結合したもので、その後部の左右一対の角部がマウント部材25,25(図4参照)を介して取付ブラケット21,21に取り付けられる。
【0027】
左右のフロントサイドフレーム11,11の第2水平部11bの上面および左右のサイドシル15,15の上面にフロアパネル26が結合され、左右のフロントサイドフレーム11,11の傾斜部11cの上面にダッシュボードロアパネル27が結合される。
【0028】
次に、上記構成を備えた本発明の実施の形態の作用を説明する。
【0029】
自動車が前面衝突して左右のフロントサイドフレーム11,11の前端に後向きの衝突荷重が入力すると、その衝突荷重の一部は各フロントサイドフレーム11からアウトリガー20を介してサイドシル15に伝達されて分散される。このとき、アウトリガー20は閉断面の第1中空フレーム18および第2中空フレーム19で構成されており、第1中空フレーム18、第2中空フレーム19およびフロントサイドフレーム11は第1結合部A、第2結合部Bおよび第3結合部Cを頂点とする三角形を構成するので、板金プレス製のアウトリガーに比べて剛性が高くなる。しかも第1中空フレーム18、第2中空フレーム19およびフロントサイドフレーム11よりなる三角形はダッシュボードロアパネル27に接続されて補強されるので、それらが相互に補強し合って剛性が更に高くなる。
【0030】
その結果、フロントサイドフレーム11からアウトリガー20に入力される衝突荷重は第1、第2中空フレーム18,19の軸力でサイドシル15に伝達されるので、板金プレス製のアウトリガーに比べて荷重の伝達効率が向上する。このとき、前記三角形に囲まれたダッシュボードロアパネル27も変形せずに形状が維持されるため、ダッシュボードロアパネル27も荷重の伝達に寄与することができる。
【0031】
また図5に示すように、フロントサイドフレーム11に衝突荷重が入力すると、傾斜部11cの後端と第2水平部11bの前端との境界の屈曲部aを中心としてフロントサイドフレーム11の前部が上向きに折れ曲がろうとする。
【0032】
このとき、図5(B)に比較例として示すように、仮に第1中空フレーム18の車幅方向内端の第1結合部Aおよび第2中空フレーム19の車幅方向内端の第2結合部Bが共にフロントサイドフレーム11の傾斜部11cに配置されていると仮定すると、フロントサイドフレーム11が屈曲部aにおいて折れ曲がっても第1結合部Aおよび第2結合部B間の距離Lは変化しないため、第1中空フレーム18、第2中空フレーム19およびフロントサイドフレーム11よりなる三角形は変形せず、よってアウトリガー20において衝突エネルギーの吸収が行われることがない。
【0033】
一方、図5(A)に示す本実施の形態では、第1中空フレーム18の車幅方向内端の第1結合部Aがフロントサイドフレーム11の傾斜部11cに設けられ、第2中空フレーム19の車幅方向内端の第2結合部Bがフロントサイドフレーム11の第2水平部11bに設けられるので、フロントサイドフレーム11が屈曲部aにおいて折れ曲がると第1結合部Aおよび第2結合部B間の距離はL1からL2に減少する。その結果、第1中空フレーム18、第2中空フレーム19およびフロントサイドフレーム11よりなる三角形が変形するため、アウトリガー20において衝突エネルギーの吸収が行われる。
【0034】
また自動車の前面衝突によってフロントサブフレーム22にも衝突荷重が入力されるが、その衝突荷重はフロントサブフレーム22の左右後端のマウント部材25から取付ブラケット21を経て第1中空フレーム18の車幅方向内端に伝達されるとともに、そこからフロントサイドフレーム11を経て第2中空フレーム19の車幅方向内端に伝達されるため、上述したフロントサイドフレーム11に直接入力された衝突荷重と同様にアウトリガー20により吸収され、かつアウトリガー20を介してサイドシル15に伝達される。このとき、前記取付ブラケット21は第1結合部Aにおいてフロントサイドフレーム11の下面および第1中空フレーム18の下面に結合されるので、その第1結合部Aの強度向上に寄与することができる。
【0035】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。
【0036】
例えば、実施の形態では第1中空フレーム18および第2中空フレーム19をダッシュボードロアパネル27に溶接しているが、それをフロアパネルに溶接しても良く、溶接の代わりに接着しても良い。
【符号の説明】
【0037】
11 フロントサイドフレーム
11a 第1水平部
11b 第2水平部
11c 傾斜部
15 サイドシル
18 第1中空フレーム
19 第2中空フレーム
20 アウトリガー
21 取付ブラケット
22 フロントサブフレーム
26 フロアパネル
27 ダッシュボードロアパネル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前後方向に配置されたフロントサイドフレーム(11)が、前側の第1水平部(11a)と、後側の第2水平部(11b)と、前記第1水平部(11a)の後端から後下方に傾斜して前記第2水平部(11b)の前端に連なる傾斜部(11c)とを備え、前記フロントサイドフレーム(11)とその車幅方向外側に前後方向に配置されたサイドシル(15)の前端とがアウトリガー(20)により接続される自動車の車体前部構造において、
前記アウトリガー(20)は、前記サイドシル(15)の前端および前記フロントサイドフレーム(11)の前記傾斜部(11c)を連結する第1中空フレーム(18)と、前記サイドシル(15)の前端および前記フロントサイドフレーム(11)の前記第2水平部(11b)を連結する第2中空フレーム(19)とで構成されることを特徴とする自動車の車体前部構造。
【請求項2】
前記第1中空フレーム(18)および前記第2中空フレーム(19)はダッシュボードロアパネル(27)あるいはフロアパネル(26)に結合されることを特徴とする、請求項1に記載の自動車の車体前部構造。
【請求項3】
前記第1中空フレーム(18)の車幅方向内端に、フロントサブフレーム(22)の後部を支持する取付ブラケット(21)を設けたことを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の自動車の車体前部構造。
【請求項4】
前記取付ブラケット(21)は、前記第1中空フレーム(18)の車幅方向内端の下面および前記フロントサイドフレーム(11)の下面に結合されることを特徴とする、請求項3に記載の自動車の車体前部構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−180023(P2012−180023A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−44764(P2011−44764)
【出願日】平成23年3月2日(2011.3.2)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】