説明

自動車の車体前部構造

【課題】左,右のサイドメンバの前端部が外側に拡開した場合にも、ラジエータサポートの組み付け作業及び建付精度を高めることができる自動車の車体前部構造を提供する。
【解決手段】ラジエータサポート3の左,右縦枠部材12は、左,右のサイドメンバ2の前端面より後方に偏位し、かつ該左,右のサイドメンバ2の車幅方向内側に位置するように配置され、左,右のサイドメンバ2の上面又は下面の少なくとも一方に、左,右縦枠部材12に対向するよう取付けブラケット17が固定され、該各取付けブラケット17は、車幅方向外方から挿入されたボルト(締結部材)20により左,右縦枠部材12に締結固定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両前後方向に延びる左,右のサイドメンバと、該左,右のサイドメンバの前端部に配設されたラジエータサポートとを備えた自動車の車体前部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の車体前部構造として、例えば、特許文献1には、車両衝突時のエネルギー吸収特性を高める観点から、左,右のサイドメンバの前端部にラジエータサポートを介在させてクラッシュボックスを配設したものが提案されている。
【0003】
また前記特許文献1では、ラジエータサポートの左,右のラジエータサポートサイド(縦枠部材)を、車両前方から挿入したボルトによりクラッシュボックスと共にサイドメンバの前フランジ部に取り付けている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−219869号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、前記従来構造では、車両前方から挿入したボルトにより、ラジエータサポートを左,右のサイドメンバの前壁に取り付けている。このためラジエータサポートを組み付ける前の状態で左,右のサイドメンバの前端部分に車幅方向の変形が生じた場合には、ラジエータサポートとサイドメンバとの取付部にずれが生じ、組み付けに手間がかかり、作業性及び建付精度が低下するという問題が生じる。
【0006】
車体前部構造においては、組み付け作業性を高める観点から、ラジエータサポートを外した状態で車両前方から左,右のサイドメンバにエンジンユニットを搭載し、さらに該エンジンユニット回りの配管やハーネスを配索するという作業手順がとられる場合がある。このような作業手順の場合、エンジンユニット等の重量により左,右のサイドメンバの前端間寸法が僅かであるが拡開する傾向がある。特に軽量化,低コスト化が望まれる小型車の場合には、サイドメンバを必要最小限の板厚にして軽量化,低コスト化を図るようにしており、左,右のサイドメンバの開きが大きくなる傾向がある。このようにサイドメンバが開いた状態でラジエータサポートを車両前方から取り付けようとすると、ボルト孔のずれにより組み付け作業性,及び建付精度が低下する問題が懸念される。
【0007】
本発明は、前記従来の状況に鑑みてなされたもので、左,右のサイドメンバの前端部が外側に拡開した場合にも、ラジエータサポートの組み付け作業性及び建付精度を高めることができる自動車の車体前部構造を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、車両前後方向に延びる左,右一対のサイドメンバと、該左,右のサイドメンバの前端部に配設され、車両上下方向に延びる左,右縦枠部材と該左,右縦枠部材の少なくとも上端部間に架け渡して接続された車幅方向に延びる横枠部材とを有するラジエータサポートとを備えた自動車の車体前部構造であって、前記ラジエータサポートの左,右縦枠部材は、前記左,右のサイドメンバの前端面より後方に偏位し、かつ該左,右のサイドメンバの車幅方向内側に位置するように配置され、前記左,右のサイドメンバの上面又は下面の少なくとも一方に、前記左,右縦枠部材に対向するように取付けブラケットが固定され、該各取付けブラケットは、車幅方向外方から挿入された締結部材により前記左,右縦枠部材に締結固定されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る車体前部構造よれば、ラジエータサポートの左,右縦枠部材を左,右のサイドメンバの車幅方向内側に配置し、左,右のサイドメンバに固定した取付けブラケットを車幅方向外方から挿入した締結部材により左,右縦枠部材に締結固定したので、左,右のサイドメンバに開きがあった場合でも、この開きを、各取付けブラケットを車幅方向外側から左,右縦枠部材に締め付けることにより吸収でき、ラジエータサポートの組み付け作業性を向上できるとともに、建付精度を向上できる。
【0010】
また本発明では、左,右縦枠部材を左,右のサイドメンバの前端面より後方に偏位させたので、この偏位分がクラッシュストロークとして機能し、サイドメンバの軽量化,低コスト化を図りつつ、車両衝突時の衝突荷重の吸収量を増大でき、衝突安全性能を向上できる。
【0011】
さらにまた、サイドメンバにブラケットを固定し、該ブラケットを縦枠部材に締結固定したので、ラジエータサポートの剛性を利用してサイドメンバの剛性を向上でき、この点からも衝突安全性能を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施例1による自動車の車体前部の正面図である。
【図2】前記車体前部の側面図である。
【図3】前記車体前部の平面図である。
【図4】前記車体前部のラジエータサポートの取付け状態を示す斜視図である。
【図5】前記ラジエータサポート取付部の断面図(図4のV-V線断面図)である。
【図6】前記ラジエータサポート取付部の断面図(図5のVI-VI線断面図)である。
【図7】本発明の実施例2による車体前部のラジエータサポートの取付け状態を示す斜視図である。
【図8】前記ラジエータサポート取付部の断面図(図7のVIII-VIII線断面図)である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0014】
図1ないし図6は、本発明の実施例1による自動車の車体前部構造を説明するための図である。なお、本実施例の説明のなかで前後,左右という場合は、特記なき限り、フロアに搭載されたシートに着座した状態で車両進行方向に向かって見た場合の前後,左右を意味する。
【0015】
図において、1は自動車の車体前部を示している。この車体前部1は、車両前後方向に延びる左,右一対のサイドメンバ2,2と、該左,右のサイドメンバ2の前端部に配設されたラジエータサポート3とを備えている。
【0016】
また車体前部1は、前記左,右のサイドメンバ2のラジエータサポート3の後方に配設されたフロアパネル4と、該フロアパネル4の前フランジ部4aに結合されて上方に延び、エンジン室Eと車室Rとを画成するダッシュパネル5とを備えている。このダッシュパネル5の前側の左,右のサイドメンバ2の車外側にはサスペンションタワー6,6が結合されている。
【0017】
前記左,右のサイドメンバ2は、車両側方から見ると、略水平に直線状に延びるフロント部2aと、該フロント部2aの後端から斜め下方に傾斜して延びるキック部2bと、該キック部2bの下端から車両後方に略直線状に延びるリヤ部2cとを有する。
【0018】
前記左,右のフロント部2a間にエンジンユニット(不図示)が搭載されている。また前記キック部2bにダッシュパネル5が配置され、前記リヤ部2cにフロアパネル4が配置されている。
【0019】
前記フロント部2aは、車幅方向外側に開口する断面ハット形状のメンバ本体8と、該メンバ本体8の外側開口を閉塞するよう溶接により結合された板部材9とで閉断面を形成した構造を有する。前記キック部2b及びリヤ部2cは、上向きに開口する断面ハット形状を有する。
【0020】
前記左,右のサイドメンバ2は、これの前端面2′に前方に突出するよう結合されたクラッシュ部材10を備えている。このクラッシュ部材10は、車両衝突時に軸方向に圧縮変形することにより衝突荷重を吸収するものである。前記左,右のクラッシュ部材10の前面には車幅方向に延びるバンパリインホース11が取り付けられている。
【0021】
前記ラジエータサポート3は、車両上下方向に延びる左,右縦枠部材12,12と、該左,右縦枠部材12の上端部間,下端部間に架け渡して結合された車幅方向に延びる上横枠部材13,下横枠部材14とを略矩形状をなすよう組み付けた構造を有する。このラジエータサポート3内にラジエータ(不図示)が取り付けられている。
【0022】
前記下横枠部材14は、下向きに開口する断面コ字形状のものであり、これの左,右端部14a,14aが前記左,右縦枠部材12の下端部12aにボルト締め固定されている。
【0023】
前記上横枠部材13は、下向きに開口する断面コ字形状のものであり、これの左,右端部13a,13aが前記左,右縦枠部材12の上端部12bにボルト締め固定されている。この上横枠部材13の車幅方向中央部には、前記バンパリインホース11の車幅方向中央部を支持する支持部材15が取り付けられている。
【0024】
また前記左,右縦枠部材12は、前記左,右のサイドメンバ2の前端面2′より後方に偏位させて、かつ該左,右のサイドメンバ2の車幅方向内側に位置するように配置されている。
【0025】
そして前記左,右縦枠部材12は、車幅方向外側に開口する横断面ハット形状をなしており、詳細には、横断面コ字形状の枠本体12cの前,後縁に前,後フランジ部12d,12dを設けた構造を有する。この前,後フランジ部12dの後述するサイドメンバ取付け部12d′は他の部分より前,後に幅広に形成されている(図2参照)。また前,後フランジ部12dのメンバ本体8に対向する部分には内側に凹む凹部12eが形成されている(図1,図5参照)。
【0026】
前記左,右のサイドメンバ2のメンバ本体8の上面及び下面には、それぞれL字形状の上,下取付けブラケット17,17が固定されている。
【0027】
前記左,右の上,下取付けブラケット17は、前記左,右のメンバ本体8の上面及び下面に溶接により固定された固定部17aと、該固定部17aの車幅方向の内縁から屈曲して前記左,右縦枠部材12に沿って延びる締結部17bとを有する。この締結部17bは、前記前,後フランジ部12dに対向しており、前,後一対のボルト孔17c,17cが形成されている(図4参照)。
【0028】
また前記左,右縦枠部材12のサイドメンバ取付け部12d′の内側面には、前記各ボルト孔17cに対応するようにナット19が溶接により固定されている。
【0029】
そして前記左,右の上,下取付けブラケット17は、車幅方向左,右外方から挿入されたボルト(締結部材)20をナット19にねじ込むことにより、前記左,右縦枠部材12の上下方向中央部に締結固定されている。
【0030】
このようにして前記左,右縦枠部材12は、上,下取付けブラケット17を介してサイドメンバ2に固定されており、該左,右縦枠部材12とメンバ本体8の底壁部8aとで閉断面Aが形成され、前記左,右縦枠部材12と上,下取付ブラケット17とで閉断面Bが形成されている。なお、各ボルト20を取り外すことにより、ラジエータサポート3は左,右のサイドメンバ2に対して着脱可能となっている。
【0031】
本実施例によれば、ラジエータサポート3の左,右縦枠部材12を左,右のサイドメンバ2の車幅方向内側に配置し、該左,右のサイドメンバ2の上面及び下面に上,下取付けブラケット17を固定し、車幅方向外方から挿入したボルト20により各取付けブラケット17を左,右縦枠部材12に締結固定したので、各取付けブラケット17を車幅方向外側から左,右縦枠部材12に締め付けることにより、左,右のサイドメンバ2の車幅方向外側への開きが吸収されることとなり、該左,右のサイドメンバ2の前端部が拡開している場合にもラジエータサポート3を容易に取り付けることができ、作業性を向上できるとともに、建付精度を向上できる。
【0032】
これにより、ラジエータサポート3を取り外した状態で車両前方から左,右のサイドメンバ2にエンジンユニットを搭載したり、搭載後にラジエータサポート3をサイドメンバ2に取り付けたりする際の作業性を高めることができ、ひいては生産性を向上できる。
【0033】
本実施例では、左,右縦枠部材12を左,右のサイドメンバ2のクラッシュ部材10が取り付けられた前端面2′より後方に偏位させて配置したので、前記クラッシュ部材10及びサイドメンバ2の前記偏位分がクラッシュストロークとして機能し、サイドメンバ2の軽量化,低コスト化を図りつつ、車両衝突時の衝突荷重の吸収量を増大でき、衝突安全性能を向上できる。
【0034】
本実施例では、外側に開口する断面ハット形状の左,右縦枠部材12に上,下取付けブラケット17を介してサイドメンバ2を締結固定したので、縦枠部材12とサイドメンバ2により閉断面Aが形成されるとともに、縦枠部材12と上,下取付けブラケット17とで閉断面Bが形成され、ラジエータサポート3の剛性によりサイドメンバ2の剛性が向上し、この点からも車両衝突時の衝突荷重の吸収量を増大でき、衝突安全性能を向上できる。
【0035】
前記左,右縦枠部材12のサイドメンバ結合部の剛性を高めることができる分だけ、左,右縦枠部材12と上横枠部材13との接続部の剛性を相対的に低くすることができ、ひいては歩行者保護性能の向上に寄与することができる。
【実施例2】
【0036】
図7及び図8は、本発明の実施例2による自動車の車体前部構造を説明するための図である。図中、図1ないし図6と同一符号は同一又は相当部分を示す。
【0037】
本実施例2においても前記実施例1と同様に、前記左,右のサイドメンバ2のメンバ本体8の上面及び下面に、L字形状の上,下取付ブラケット21,21が配置されており、該上,下取付ブラケット21,21の横辺21a,21aは、前記左,右のメンバ本体8の上面,下面に溶接固定されている。
【0038】
本実施例2ではさらに、矩形の平板プレート22が前記左,右縦枠部材12のサイドメンバ取付部12d′と、前記上,下取付ブラケット21の縦辺21b及び前記メンバ本体8との間に介在されている。
【0039】
そして、前記平板プレート22の上下方向中央部は、前記メンバ本体8の車幅方向内側面8bに溶接固定され、前記平板プレート22の上部22a,下部22cには、前記上,下取付ブラケット21の縦辺21b,21bが溶接固定されている。
【0040】
また前記平板プレート22は、これの上部22a,下部22cに形成されたボルト孔22b,22bに、ボルト(締結部材)20を車幅方向左,右外方から挿入し、前記左,右縦枠部材12のサイドメンバ取付部12d′の内側面に固定されたナット19にねじ込むことにより、前記左,右縦枠部材12の上下方向中央部に締結固定されている。
【0041】
また、前記平板プレート22の上部22aには、車両衝突時における衝撃の入力を感知して、エアバッグを作動させるためのサテライトセンサ23が取り付けられている。
【0042】
本実施例2によれば、平板プレート22をメンバ本体8に溶接固定し、さらに上,下取付ブラケット21,21に溶接固定するとともに、該平板プレート22をラジエータサポート3の縦枠部材12にボルト締め固定したので、前方衝突時における入力を前記溶接部がせん断方向で受け持つこととなり、それだけ結合剛性を向上でき、ラジエータサポート3の前記左,右縦枠部材12がサイドメンバ2から離脱するのを防ぐことができ、衝突性能を向上できる。
【0043】
また、前記平板プレート22を追加したことにより前記ラジエータサポート3の結合剛性が向上するので、前記ラジエータサポート3の寸法誤差を吸収でき、前記ラジエータサポート3廻りの建付精度を向上できる。
【0044】
本実施例2では、前記平板プレート22の上部22aにサテライトセンサ23を取り付けたので、前方衝突時における前記サテライトセンサ23の変形を、該サテライトセンサ23を上取付ブラケット21に取り付けた場合に比較して低減することができ、該センサが早期に反応することによるエアバッグの作動性能の低下を防止できる。
【符号の説明】
【0045】
1 前部車体
2 サイドメンバ
3 ラジエータサポート
12 左,右縦枠部材
13 上横枠部材
17,21 取付けブラケット
20 ボルト(締結部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両前後方向に延びる左,右一対のサイドメンバと、
該左,右のサイドメンバの前端部に配設され、車両上下方向に延びる左,右縦枠部材と該左,右縦枠部材の少なくとも上端部間に架け渡して接続された車幅方向に延びる横枠部材とを有するラジエータサポートと
を備えた自動車の車体前部構造であって、
前記ラジエータサポートの左,右縦枠部材は、前記左,右のサイドメンバの前端面より後方に偏位し、かつ該左,右のサイドメンバの車幅方向内側に位置するように配置され、
前記左,右のサイドメンバの上面又は下面の少なくとも一方に、前記左,右縦枠部材に対向するように取付けブラケットが固定され、
該各取付けブラケットは、車幅方向外方から挿入された締結部材により前記左,右縦枠部材に締結固定されている
ことを特徴とする自動車の車体前部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−46166(P2012−46166A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−6615(P2011−6615)
【出願日】平成23年1月17日(2011.1.17)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】