説明

自動車の車体構造

【課題】フロアパネルに固着された一対のロッカパネルと、フロアパネルの上面に固着されて、前後に配置された第1及び第2のフロアクロスメンバと、フロアパネルの上面に固着され、かつ第1のフロアクロスメンバよりも前方の位置から後方に延びる一対のキックリインホースメントを有する車体構造において、前面衝突時に車体が永久変形することを抑え、しかもロッカパネルの高さサイズを低くすることができるようにする。
【解決手段】各キックリインホースメント26の後端部41を第1のフロアクロスメンバ9に固着すると共に、エアコンユニットから流出したエアが各キックリインホースメント26の上面の上方を通って後部座席の側に流れるように、各キックリインホースメント26を配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フロアパネルの上面に固着された一対のキックリインホースメントを有する自動車の車体構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車が前面衝突した際に、乗員の生存空間が車室内に確保されるように、衝撃を受けた車体が大きく永久変形することを阻止できる車体構造は従来より多数提案され、かつ実用化されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
図8は、従来の車体構造の一例を示す斜視図であって、車体の下部のみを示した図である。また、図9は図8に示した車体の構成部材を簡略化して示し、しかもバンパリインホースメント等を追加して示した平面図である。これらの図及び他の図における矢印Frは自動車の前進方向を示し、矢印Wはその前進方向Frに対して直交する車幅方向を示している。また符号CLを付した一点鎖線は、自動車の車幅方向Wにおける中心線を示す。本明細書及び特許請求の範囲における「前」又は「後」なる文言は、自動車の前進方向Frを基準とした前後を意味する。
【0004】
図8及び図9に示した車体1は、車幅方向Wの中心線CLを境とした右側の部分RHと左側の部分LHが対称に構成されていて、その中心の領域に前後方向に延びるトンネル部材2が配置されている。かかるトンネル部材2の下部にフロアパネル3がスポット溶接によって固着されている。また、フロアパネル3の車幅方向各端部4には、ロッカパネル5がそれぞれ固着され、その各ロッカパネル5は車体1の前後方向に延びている。フロアパネル3の前端部には、車室とエンジンルームとを仕切るダッシュパネル6がスポット溶接により固着されている。
【0005】
図8のX−X線に沿う拡大断面図である図10に示すように、ロッカパネル5は、ロッカインナパネル7と、ロッカアウタパネル8とを有し、その上下のフランジ部がスポット溶接によって一体に固着されている。もう一方のロッカパネルも、図10に示したロッカパネルと対称の構造に形成されている。フロアパネル3は、その車幅方向各端部4が各ロッカパネル5のロッカインナパネル7にそれぞれスポット溶接によって固着されている。
【0006】
図8及び図9に示したように、フロアパネル3の上面には、車幅方向Wに延びるフロアクロスメンバ9,10が固着されている。図示した例では、前後方向に間隔をあけて配置された2つのフロアクロスメンバ9,10が設けられているので、以下の説明では、必要に応じて、前方に位置するフロアクロスメンバ9を第1のフロアクロスメンバと称し、その第1のフロアクロスメンバ9の後方に配置されたフロアクロスメンバ10を第2のフロアクロスメンバと称することにする。両フロアクロスメンバ9,10の車幅方向Wの各端部は、左右のロッカパネル5のロッカインナパネル7にそれぞれスポット溶接によって固着されている。第1及び第2のフロアクロスメンバ9,10の上に図示していない運転席と助手席がそれぞれ配置されている。フロアクロスメンバの数は、1又は3以上であってもよい。
【0007】
図8のXI−XI線拡大断面図である図11に示すように、第1のフロアクロスメンバ9は、上壁11と、その上壁11の幅方向各端部から下方に垂下する一対の側壁12,13と、その各側壁12,13の下端からそれぞれ外方に向けて突出した下部フランジ14,15とから構成され、その下部フランジ14,15がフロアパネル3にスポット溶接によって固着されている。また、図8から判るように、第2のフロアクロスメンバ10も、上壁16と、一対の側壁18,19と、一対の下部フランジ20(一方のみを示す)とから構成され、その各下部フランジ20がフロアパネル3にスポット溶接によって固着されている。図8及び図9に示した第1のフロアクロスメンバ9は、トンネル部材2を境にして、右側のクロス部材22と左側のクロス部材23とに分割され、同じく第2のフロアクロスメンバ10も右側のクロス部材24と左側のクロス部材25とに分割されている。各クロス部材22,23,24,25の車幅方向中心側の各端部は、それぞれトンネル部材2に固着されている。
【0008】
また、図8及び図9に示すように、フロアパネル3の上面には、車幅方向Wに離間して配置された一対のキックリインホースメント26が固着されていて、これらのキックリインホースメント26は、フロアクロスメンバ9,10よりも前方の位置17から後方に向けて車体1の前後方向に延びている。両キックリインホースメント26は、左右対称に形成されていて、その一方を示す図10から判るように、上壁27と、その上壁27の幅方向各端部から下方に垂下する一対の側壁28,29と、その各側壁28,29の下端からそれぞれ外方に向けて突出した下部フランジ30,31とから構成され、その各下部フランジ30,31がフロアパネル3にスポット溶接によって固着されている。
【0009】
図9に示すように、ダッシュパネル6よりも前方に位置するフロントバンパのバンパリインホースメント32には、閉断面構造の一対のフロントサイドメンバ33の前端部がボルト締結によって固定されている。これらのフロントサイドメンバ33は、ダッシュパネル6まで延び、その後端部45には、アンダーリインホースメント34の前端部がそれぞれ溶接によって一体に固着されている。これらのアンダーリインホースメント34は、図10及び図11に示したように、上部が開放したハット断面形状を有し、その上部フランジが、フロアパネル3の下面にスポット溶接によって固着されている。
【0010】
以上説明した車体構造を構成する各部材は、剛性と強度の大なる材料、例えば鋼板により構成されている。
【0011】
また、図示していないエアコンユニットのエア吐出口には、図8及び図9に示した左右一対のエアダクト35がそれぞれ接続され、これらのエアダクト35は、第1のフロアクロスメンバ9に形成された孔36を貫通して延び、次いで第2のフロアクロスメンバ10を貫通して後方に延びている。エアダクト35は、例えば樹脂により構成されている。
【0012】
エアコンユニットが作動すると、その吐出口から流出したエア(温風又は冷風)は、図8に矢印Qで示したように各エアダクト35中を流れ、図示していない後部座席の領域においてそのエアダクト35の出口から排出される。これにより、後部座席に着座した乗員が快く乗車することができる。
【0013】
ここで、図9は自動車が前面衝突を起こし、そのフロントバンパのバンパリインホースメント32が、前方の衝突体37から衝撃的な荷重Fを受けたときの様子を示している。このようにバンパリインホースメント32に加えられた荷重Fは、図9に矢印F1で示したように、一方のフロントサイドメンバ33を介して一方のアンダーリインホースメント34、一方のキックリインホースメント26及びフロアパネル3に伝えられると共に、矢印F2で示したようにダッシュパネル6を介してトンネル部材2に伝えられ、しかも矢印F3で示したように、ダッシュパネル6を介して一方のロッカパネル5に伝えられる。このように、荷重Fが効果的に分散され、しかもフロントサイドメンバ33、ロッカパネル5、キックリインホースメント26、アンダーリインホースメント34及びトンネル部材2は、衝撃的な荷重を受けても永久変形し難い形状と大きさを有しているので、車体1が潰れた状態に大きく永久変形することはなく、車室内に乗員の生存空間が確保される。なお、以下の説明では、車体に大きな荷重が加えられたとき、その車体の構成部材の永久変形に対する抵抗の大きさ、すなわち永久変形し難さを、必要に応じて、耐変形性と言うことにする。
【0014】
上述のように、従来の車体構造も、自動車の正面衝突時に、その車体1が大きく永久変形しないように、車体1の構成部材の耐変形性が高く設定されていた。ところが、図8、図9及び図11に示したように、第1のフロアクロスメンバ9には、エアダクト35が貫通しているので、第1のフロアクロスメンバ9の前方の領域Aにキックリインホースメント26を配置することができず、この領域Aにはキックリインホースメントは存在しない。従って、この前方の領域Aにおける耐変形性は低いものとならざるを得ない。このため、仮に特別に対策を講じないとすると、前面衝突時に、図11に仮想線で示すように、領域Aの車体部位が大きく折れ曲がった状態に永久変形し、乗員の足元の生存空間が減少するおそれがある。これは、車体1の車幅方向中央部に衝撃的な荷重が加えられた場合よりも、図9に示したように車幅方向Wの片側に片寄った位置に荷重Fが加えられるオフセット衝突時の方が、領域Aに大きな荷重が加えられるので、この領域Aが大きく折れ曲がった状態に永久変形しやすくなる。
【0015】
そこで、従来は、図10に示すようにロッカパネル5の高さサイズHを大きく設定し、その横断面積を大きくして、ロッカパネル5の耐変形性を高めていた。このように、ロッカパネル5を永久変形し難い横断面形状にすることによって、前面衝突時にロッカパネル5が大きな荷重を受け止めることができる。従って領域Aに伝えられる荷重が小さくなって、その領域Aが大きく折れ曲がった状態に永久変形することを阻止できる。このようにして、乗員の足元の生存空間が大きく減少することを回避することができるのである。
【0016】
ところが、図10に示したように、ロッカパネル5の高さサイズHを大きく設定すれば、その重量が増大し、車体1のコストが上昇するだけでなく、地面からロッカパネル5の頂部までの高さHAが高くなり、乗員が車室から外に出たり、車室内に入るときの乗降性が低下する。また、図10に二点鎖線で示したように、フロアパネル3の上に、例えば樹脂製の発砲体より成る隙詰め部材39を敷き詰めて、その上面40とロッカパネル5の頂部の全体のフラット性を高めた場合、隙詰め部材39の上面40の高さが高くなるため、一層車室内への乗降性が低下する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開2004−338570号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明の目的は、上述した従来の欠点を除去し、正面衝突時の車体の永久変形を抑え、しかも車体重量の増大とコストの上昇を抑えると共に、ロッカパネルの高さサイズを低くすることのできる車体構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、上記目的を達成するため、フロアパネルと、該フロアパネルの車幅方向各端部に固着されていて車体の前後方向に延びる一対のロッカパネルと、車幅方向に延びていて、前記フロアパネルの上面に固着され、かつ車幅方向各端部が前記各ロッカパネルにそれぞれ固着されているフロアクロスメンバと、前記フロアパネルの上面に固着され、かつ前記フロアクロスメンバよりも前方の位置から後方に向けて延びている一対のキックリインホースメントとを有し、該一対のキックリインホースメントは、車幅方向に離間して配置されている車体構造において、前記各キックリインホースメントの後端部は、前記フロアクロスメンバにそれぞれ固着され、エアコンユニットから流出したエアが前記各キックリインホースメントの上面の上方を通って後部座席の側に流れるように各キックリインホースメントが配置されていることを特徴とする車体構造を提案する(請求項1)。
【0020】
また、上記請求項1に記載の車体構造において、前記キックリインホースメントの後端部が、前記フロアクロスメンバの上面と前面とに固着されていると有利である(請求項2)。
【0021】
さらに、上記請求項2に記載の車体構造において、前記各キックリインホースメントは、上壁と、該上壁の幅方向各端部から垂下する一対の側壁と、該各側壁の下端からそれぞれ外方に向けて突出した下部フランジとから構成され、前記フロアクロスメンバも、上壁と、該上壁の幅方向各端部から垂下する一対の側壁と、該各側壁の下端からそれぞれ外方に向けて突出した下部フランジとから構成されていて、前記各キックリインホースメントの各下部フランジと、前記フロアクロスメンバの各下部フランジが、それぞれ前記フロアパネルの上面に固着されていると共に、前記キックリインホースメントの上壁の後部の上壁後端部が前記フロアクロスメンバの上壁の上面に重なった状態で固着され、かつ各キックリインホースメントの各側壁の後端に一体に形成された後端部フランジが前記フロアクロスメンバの前側の側壁の前面に固着されていると有利である(請求項3)。
【0022】
また、上記請求項1乃至3のいずれかに記載の車体構造において、前記各キックリインホースメントは、上壁と、該上壁の幅方向各端部から垂下する一対の側壁と、該各側壁の下端からそれぞれ外方に向けて突出した下部フランジとから構成され、前記フロアクロスメンバも、上壁と、該上壁の幅方向各端部から垂下する一対の側壁と、該各側壁の下端からそれぞれ外方に向けて突出した下部フランジとから構成されていて、前記各キックリインホースメントの各下部フランジと、前記フロアクロスメンバの各下部フランジが、それぞれ前記フロアパネルの上面に固着されていると共に、前記各キックリインホースメントの上壁と該上壁の幅方向端部から垂下する各側壁との間の各角部が、前記フロアクロスメンバの上壁と該上壁の幅方向端部から垂下する前側の側壁との間の角部に突き合わせた状態に位置していると有利である(請求項4)。
【0023】
さらに、上記請求項1乃至4のいずれかに記載の車体構造において、前後方向に間隔をあけて配置された複数のフロアクロスメンバを有し、前記各キックリインホースメントの後端部は、最も前方に位置するフロアクロスメンバに固着されていると有利である(請求項5)。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係る車体構造によれば、自動車の正面衝突時の車体の永久変形を抑え、しかも車体重量の増大とコストの上昇を抑えることができると共に、ロッカパネルの高さサイズを低くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係る車体構造の一例を示す斜視図であって、その車体構造の下部を示した斜視図である。
【図2】図1に示した車体の構成部材を簡略化して示し、かつバンパリインホースメントなどを追加して示した平面図である。
【図3】図1のIII−III線拡大断面図である。
【図4】図1のIV−IV線拡大断面図である。
【図5】第1のフロアクロスメンバとキックリインホースメントとの結合部の拡大斜視図である。
【図6】第1のフロアクロスメンバとキックリインホースメントを分離して示した斜視図である。
【図7】キックリインホースメントの後端部を第2のフロアクロスメンバに固着した例を示す、図2と同様な平面図である。
【図8】従来の車体構造の一例を示した、図1と同様な斜視図である。
【図9】従来の車体構造を示した、図2と同様な平面図である。
【図10】図8のX−X線拡大断面図である。
【図11】図8のXI−XI線拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態を図面に従って説明する。
【0027】
図1乃至図4は、本例の車体構造を示しているが、これらの図における従来の車体構造と同一ないしは対応する部分には、図8乃至図11に付した符号と同じ符号を付してある。
【0028】
図1乃至図4に示した本例の車体構造の基本構成は、図8乃至図11を参照して先に説明した従来の車体構造と変わりはない。すなわち、本例の車体構造も、フロアパネル3と、そのフロアパネル3の車幅方向Wにおける各端部4に固着されていて車体1の前後方向に延びる一対のロッカパネル5と、車幅方向Wに延びていて、フロアパネル3の上面に固着され、かつ車幅方向Wにおける各端部が各ロッカパネル5にそれぞれ固着されているフロアクロスメンバ9,10と、フロアパネル3の上面に固着され、かつフロアクロスメンバ9,10よりも前方の位置17から後方に向けて延びている一対のキックリインホースメント26とを有していて、その一対のキックリインホースメント26は、車幅方向Wに離間して配置されている。
【0029】
また、本例の車体構造においても、前後方向に間隔をあけて配置された2つのフロアクロスメンバ9,10が設けられているので、必要に応じて、前方に位置するフロアクロスメンバ9を第1のフロアクロスメンバと称し、その第1のフロアクロスメンバ9の後方に位置するフロアクロスメンバ10を第2のフロアクロスメンバと称することにする。フロアクロスメンバの数は1又は3以上であってもよい。
【0030】
また、本例の車体構造においても、図1及び図3に示すように、各キックリインホースメント26は、上壁27と、その上壁27の幅方向各端部から垂下する一対の側壁28,29と、該各側壁28,29の下端からそれぞれ外方に向けて突出した下部フランジ30,31とから構成されている。さらに、図1及び図4に示すように、第1のフロアクロスメンバ9も、上壁11と、該上壁11の幅方向各端部から垂下する一対の側壁12,13と、その各側壁12,13の下端からそれぞれ外方に向けて突出した下部フランジ14,15とから構成されていて、各キックリインホースメント26の各下部フランジ30,31と、第1のフロアクロスメンバ9の各下部フランジ14,15が、それぞれフロアパネル3の上面にスポット溶接によって固着されている。第2のフロアクロスメンバ10も、第1のフロアクロスメンバ9と実質的に同じ形状に形成され、その下部フランジ20がフロアパネル3にスポット溶接によって固着されている。
【0031】
また、本例の車体構造を構成する部材も、剛性と強度の大なる材料、例えば鋼板により構成されている。
【0032】
上述のように、本例の車体構造の基本構成は、従来の車体構造と変わりはない。よって、従来と同一の部分についてのこれ以上の重複した説明は省略し、主として、従来とは異なる部分のみを明らかにする。
【0033】
従来の車体構造と異なる第1の点は、図1、図2及び図4に示したように、各キックリインホースメント26の後端部41が、第1のフロアクロスメンバ9に、それぞれ例えばスポット溶接によって固着されている点である。また従来の車体構造と異なる第2の点は、図示していないエアコンユニットから流出したエアが、図1及び図4に矢印Pで示すように、各キックリインホースメント26の上面の上方を通って、図示していない後部座席の側に流れるように各キックリインホースメント26が配置されている点である。従来の自動車には必ず必要とされたエアダクトが省かれているのである。
【0034】
図示した例では、図4乃至図6に示すように、各キックリインホースメント26の上壁27の後部の上壁後端部48が、そのキックリインホースメント26の両側壁28,29よりも後方に舌状に突出し、その突出した上壁後端部48が、第1のフロアクロスメンバ9の上壁11の上面に重なった状態で、その上面に例えばスポット溶接によって固着されている。しかも、図6に示したように、各キックリインホースメント26の各側壁28,29の後端にそれぞれ一体に形成された後端部フランジ46,47が、第1のフロアクロスメンバ9の前側の側壁12の前面に、例えばスポット溶接によって固着されている。このように、本例のキックリインホースメント26は、その上壁後端部48と後端部フランジ46,47より成る後端部41が、第1のフロアクロスメンバ9の上壁11の上面と側壁12の前面とに固着されているのである。
【0035】
上述のように、各キックリインホースメント26の後端部41を第1のフロアクロスメンバ9に固着することによって、その第1のフロアクロスメンバ9の前方の領域A(図1、図2及び図4)にも、キックリインホースメント26が存在することになる。
【0036】
ここで、図2に示したように、フロントバンパが衝突体37に衝突して、該バンパのバンパリインホースメント32が衝突体37から衝撃的な荷重Fを受け、その荷重Fが、図2に矢印F1で示したように、フロントサイドメンバ33を介して、一方のキックリインホースメント26と一方のアンダーリインホースメント34に伝えられ、しかも当該荷重Fが、矢印F2,F3で示したように、フロントサイドメンバ33とダッシュパネル6を介して、それぞれトンネル部材2と一方のロッカパネル5に伝えられたとする。このとき、第1のフロアクロスメンバ9よりも前方の領域Aには、アンダーリインホースメント34だけでなく、キックリインホースメント26が存在するので、この領域Aの耐変形性は高く保たれ、キックリインホースメント26に分散された荷重F1は、やはり耐変形性の高い第1のフロアクロスメンバ9に受け止められる。このため、領域Aの部位が大きく折れ曲がった状態に永久変形することはなく、乗員の足元の生存空間が確保される。
【0037】
特に本例のキックリインホースメント26は、その後端部41の上壁後端部48が第1のフロアクロスメンバ9の上壁11の上面に固着されているだけでなく、キックリインホースメント26の後端部41の後端部フランジ46,47が第1のフロアクロスメンバ9の前側の側壁12の前面に固着されているので、キックリインホースメント26に分散された荷重F1は、確実に第1のフロアクロスメンバ9に受け止められて、そのフロアクロスメンバ9に分散される。
【0038】
上述のように、荷重F1を、キックリインホースメント26を介して第1のフロアクロスメンバ9によって受け止めることができるので、ロッカパネル5に伝えられる荷重F3は小さなものとなる。このため、図3に示したように、ロッカパネル5の高さサイズHが従来よりも小さく設定され、その横断面積が小さくなっているが、分散された荷重F3によってロッカパネル5が大きく永久変形することはなく、乗員の生存空間を確実に確保することができる。このように、ロッカパネル5の高さサイズHを低くすることができるので、地面からロッカパネル5の頂部までの高さHAを低くすることができる。このため、乗員の車室内への乗降性を高めることができる。しかもロッカパネル5の重量とコスト、ひいては車体1の重量とコストを低減でき、しかも正面衝突時の車体1の永久変形を効果的に抑えることができる。
【0039】
前述のように、第1及び第2のフロアクロスメンバ9,10には、エアダクトが貫通することなく、従ってこれらのメンバ9,10にはエアダクトが通る孔を形成する必要はない。このため、第1及び第2のフロアクロスメンバ9,10の高さも従来よりも低くすることができる。従って、図1及び図3に矢印Pで示したように各キックリインホースメント26の上面を流れたエアは、図1に矢印Rで示すように、引き続き第1及び第2フロアクロスメンバ9,10の上面の上方を流通し、図示していない後部座席の領域に支障なく流れることができる。また、エアダクトを省くことができるので、その分のコストの低減も達成できる。
【0040】
ところで、前述のように、各キックリインホースメント26の上壁27の上壁後端部48は、図4及び図5に示したように第1のフロアクロスメンバ9の上壁11の上面に重なった状態で固着されているが、このとき、図4に示したように、上壁後端部48の上面は、これよりも前方の上壁27の部分の上面よりも、tで示したように、キックリインホースメント26を構成する板金の板厚分だけ高くなっていて、上壁後端部48よりも前方の上壁27の部分の高さと、第1のフロアクロスメンバ9の上壁11の上面の高さが等しくなっている。このため、図5及び図6に示したように、各キックリインホースメント26の上壁27と該上壁27の幅方向端部から垂下する各側壁28,29との間の各角部42,43が、第1のフロアクロスメンバ9の上壁11とその上壁11の幅方向端部から垂下する前側の側壁12との間の角部44に突き合わせた状態に位置している。前述のように、第1のフロアクロスメンバ9の高さが、従来よりも低く設定されているので、キックリインホースメント26の上壁27のフランジ状の上壁後端部48を第1のフロアクロスメンバ9の上壁11の上面に重ねて両者を固着でき、しかもキックリインホースメント26の上壁後端部48よりも前方の上壁27の部分の高さと、第1のフロアクロスメンバ9の上壁11の上面の高さを等しくすることによって、キックリインホースメント26の各角部42,43を、第1のフロアクロスメンバ9の角部44に突き合わせた状態に交わらせることができるのである。
【0041】
一般に、上述したキックリインホースメント26の角部42,43と、第1のフロアクロスメンバ9の角部44は、これに外力が加えられたときに永久変形し難く、その耐変形性が高い。かかるキックリインホースメント26の角部42,43を第1のフロアクロスメンバ9の角部44に突き当てた状態に配置することによって、キックリインホースメント26に分散された荷重F1を、主として、キックリインホースメント26の特に耐変形性の高い角部42,43を介して伝え、その荷重F1を、やはり耐変形性の高い第1のフロアクロスメンバ9の角部44によって受け止めることができる。このため、荷重F1が大きなものであるときも、キックリインホースメント26と第1のフロアクロスメンバ9が永久変形することを阻止することができる。
【0042】
前述の如く、本例の車体構造によると、図3に示したようにロッカパネル5の高さサイズHを従来より低くすることができるので、地面からロッカパネル5の頂部までの高さHAも低くすることができる。これによって、前述のように、乗員が車室内に楽に入り、しかも楽に車室内から出ることができるのである。その際、図3に二点鎖線で示したように、フロアパネル3の上に、隙詰め部材39を敷き詰めて、その上面40とロッカパネル5の頂部の段差が少なくなるように、その全体のフラット性を高めた場合、ロッカパネル5の高さサイズHが低いので、隙詰め部材39の上面40も低くすることができる。これにより、より一層車室内への乗降性を高めることができる。隙詰め部材39の上面40を低くし、かつその隙詰め部材39とロッカパネル5の全体のフラット性を高めることができるのである。
【0043】
前述のように、フロアクロスメンバの数は1つであってもよいし、前後方向に間隔をあけて配置された複数のフロアクロスメンバを設けてもよい。フロアクロスメンバが1つ設けられている場合には、キックリインホースメントの後端部をその1つのフロアクロスメンバに固着する。また、複数のフロアクロスメンバが設けられている場合には、キックリインホースメントの後端部を、図1乃至図6に示した例のように、最前方のフロアクロスメンバ9に固着するほか、最前方のフロアクロスメンバ以外のフロアクロスメンバに固着してもよい。図7は、各キックリインホースメント26の後端部41が、第2のフロアクロスメンバ10に、前述したところと同様の形態で固着されている例を示す。また、図7に示した例においては、各キックリインホースメント26は、第1のフロアクロスメンバ9にも、例えばスポット溶接によって固着されている。このように構成すると、荷重F1が、第1及び第2のフロアクロスメンバ9,10にそれぞれ受け止められるので、荷重Fをより一層確実に分散することができ、ロッカパネル5の高さをより一層低くすることが可能である。
【0044】
キックリインホースメント26の後端部41を最前方のフロアクロスメンバ以外のフロアクロスメンバに固着すると上述の利点が得られるが、その反面、キックリインホースメント26の長さが長くなるため、その重量が増大し、車体構造のコストが上昇するおそれがある。このような不具合を回避するには、前後方向に間隔をあけて配置された複数のフロアクロスメンバを有している車体構造の場合には、図1乃至図7に示した例のように、各キックリインホースメントの後端部を、最も前方に位置するフロアクロスメンバに固着することが好ましい。
【0045】
以上、本発明の好ましい実施形態を説明したが、本発明は、この実施形態の構成に限定されず、各種改変して構成できるものである。
【符号の説明】
【0046】
1 車体
3 フロアパネル
4 端部
5 ロッカパネル
9,10 フロアクロスメンバ
11,27 上壁
12,13,28,29 側壁
14,15,30,31 下部フランジ
17 前方の位置
26 キックリインホースメント
41 後端部
42,43,44 角部
46,47 後端部フランジ
48 上壁後端部
W 車幅方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フロアパネルと、該フロアパネルの車幅方向各端部に固着されていて車体の前後方向に延びる一対のロッカパネルと、車幅方向に延びていて、前記フロアパネルの上面に固着され、かつ車幅方向各端部が前記各ロッカパネルにそれぞれ固着されているフロアクロスメンバと、前記フロアパネルの上面に固着され、かつ前記フロアクロスメンバよりも前方の位置から後方に向けて延びている一対のキックリインホースメントとを有し、該一対のキックリインホースメントは、車幅方向に離間して配置されている車体構造において、前記各キックリインホースメントの後端部は、前記フロアクロスメンバにそれぞれ固着され、エアコンユニットから流出したエアが前記各キックリインホースメントの上面の上方を通って後部座席の側に流れるように各キックリインホースメントが配置されていることを特徴とする車体構造。
【請求項2】
前記キックリインホースメントの後端部が、前記フロアクロスメンバの上面と前面とに固着されている請求項1に記載の車体構造。
【請求項3】
前記各キックリインホースメントは、上壁と、該上壁の幅方向各端部から垂下する一対の側壁と、該各側壁の下端からそれぞれ外方に向けて突出した下部フランジとから構成され、前記フロアクロスメンバも、上壁と、該上壁の幅方向各端部から垂下する一対の側壁と、該各側壁の下端からそれぞれ外方に向けて突出した下部フランジとから構成されていて、前記各キックリインホースメントの各下部フランジと、前記フロアクロスメンバの各下部フランジが、それぞれ前記フロアパネルの上面に固着されていると共に、前記キックリインホースメントの上壁の後部の上壁後端部が前記フロアクロスメンバの上壁の上面に重なった状態で固着され、かつ各キックリインホースメントの各側壁の後端に一体に形成された後端部フランジが前記フロアクロスメンバの前側の側壁の前面に固着されている請求項2に記載の車体構造。
【請求項4】
前記各キックリインホースメントは、上壁と、該上壁の幅方向各端部から垂下する一対の側壁と、該各側壁の下端からそれぞれ外方に向けて突出した下部フランジとから構成され、前記フロアクロスメンバも、上壁と、該上壁の幅方向各端部から垂下する一対の側壁と、該各側壁の下端からそれぞれ外方に向けて突出した下部フランジとから構成されていて、前記各キックリインホースメントの各下部フランジと、前記フロアクロスメンバの各下部フランジが、それぞれ前記フロアパネルの上面に固着されていると共に、前記各キックリインホースメントの上壁と該上壁の幅方向端部から垂下する各側壁との間の各角部が、前記フロアクロスメンバの上壁と該上壁の幅方向端部から垂下する前側の側壁との間の角部に突き合わせた状態に位置している請求項1乃至3のいずれかに記載の車体構造。
【請求項5】
前後方向に間隔をあけて配置された複数のフロアクロスメンバを有し、前記各キックリインホースメントの後端部は、最も前方に位置するフロアクロスメンバに固着されている請求項1乃至4のいずれかに記載の車体構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−18370(P2013−18370A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−153327(P2011−153327)
【出願日】平成23年7月11日(2011.7.11)
【出願人】(000157083)トヨタ自動車東日本株式会社 (1,164)
【Fターム(参考)】